JET STREAM:突然思い出した「音楽の定期便」

いやあ、夏が終わりませんね。日暮れの時間は刻々と早くなっているというのに。そう思って午後6時頃に黄昏の空を見ていたら、ふと浮かんできたフレーズが。
いつが夏の終わりか、知るよしもなく、
気がつけば、蹌踉と日暮れの秋風の道を……
こ、これは…ジェットストリーム!!
皆さんご存知ですか、ジェットストリームを?
ああ、黒い三連星のドム3機の攻撃フォーメーションでしょ。いくぞ!マッシュ!オルテガ!

……それはジェットストリームアタックでんがな。それを知っているあなたも中々……いやいや、それはまあさておき。
もちろん知ってますよ。書き味が実に滑らかですよね?水性ではあったけど、油性であの滑らかさは凄いよね。

……はい、確かにジェットストリームです。安い上に書き味も素晴らしいです。私も愛用してます。しかし違ーう!それは三菱鉛筆のボールペンシリーズです。
私が言いたかったのは、JET STREAM。TOKYO FMで今も放送されているイージーリスニングの音楽番組です。

JET STREAMが始まったのは1967年。以来45年間も続いている超長寿番組です。当時は放送局も当時はエフエム東京という名前でしたっけ。
私が聞き始めたのは中学生になってからですが、当時既に10年以上続いていた長寿番組でした。JALこと日本航空が一社で提供していて、番組のそこここで旅心(特に海外への)をくすぐるナレーションが入っていました。なにしろ番組は45年も続いているので、パーソナリティー(番組内では機長と呼んでいました)も変わっています。
初代が城達也。二代目が小野田英一。三代目が森田真奈美(この人だけ機長ではなくフライトアテンダントだったそうです番組のスタイルもだいぶ変わったようですが、あまり評判は良くなかったとか)。四代目が伊武雅刀(デ、デスラー総統!)。そして現在五代目として大沢たかおが機長を務めているようです。

45年間で5人。平均すると一人9年ということになりますが、二代目は5年強、三代目は2年半、四代目は6年半、五代目はここまでで3年半しか務めていません。そう、5人中4人は平均以下なのです。ではなぜたった5人かといえば、初代城達也の機長時代が、なんと1967年7月から1994年12月まで、27年以上続いたからなのです。
そういう訳で、私にとってJET STREAMといえば城達也、城達也といえばJET STREAMな訳ですが、実際に良く聞いていた期間というのはそんなに長いことはなく、70年代末から80年代初位でした。
中学生時代、私は放送部に所属していたので、放送で流すべき音楽をつねに探していたのですが、何しろ貧乏な子供時代だったので、おいそれとレコードや音楽テープを買うこともできず、図書館のレコードライブラリーで傷だらけのレコードを借りてカセットテープに録音したり(カセットテープ代もバカにならなかったのですが)、FM番組をエアチェックしたり(もはや「エアチェック」は死語ですか?)していた訳です。高圧電線の真下だったせいか、ノイズがやたら入って泣かされたものです。

そんな中、新聞のラジオ欄を隅から隅まで見ている時に目に入ったのが、深夜0時から始まる「音楽の定期便」、JET STREAMだったのです。
番組の中程に「私のレコード・アルバム」というコーナーがあって、ポール・モーリアとかレイモン・ルフェーブルとかカラベリとか、いわゆるイージーリスニングの大御所達の名曲を連続して流してくれていたのです。。最初は120分テープを使って(オートリバースとかはない時代でした)1時間まるまる録音していましたが、エアチェック箇所はここしかねえ!ということで、慣れてからはオーディオタイマーを0:20~0:50あたりでセットして60分テープで留守録したものです。

なぜタイマーを使うかと言えば、中学生に午前0時は超深夜だったからです。ソニーのオーディーオ・タイマー(PT-77。一週間予約可能とは言え、何と定価29,800円!しかもタイマーだけにしっかりソニータイマーが入っていました)を使っていましたね。それと120分テープは薄くて弱いのであまり使用したくなかったんです。
夜録音したテープを持って早朝に学校の放送室に行き、めぼしい曲があったら朝放送で流すということもしていました。アバとかカーペンターズとかのインストゥルメンタル曲が入っていると大喜びしたりして。
高校に入ると、放送部に入ろうと思ったのですが、どうも思ってたのと違うので早々に帰宅部所属になってしまい、ジェットストリームをエアチェックすることもなくなったのですが、試験勉強とかで深夜まで起きている時は、結構聞いていました。

城達也時代のオープニングは「ミスターロンリー」をBGMとして
遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休める時
遙か雲海の上を音もなく流れ去る気流は
たゆみない宇宙の営みを告げています。
満天の星をいただく、果てしない光の海を
ゆたかに流れゆく風に心を開けば
きらめく星座の物語も聞こえてくる
夜の静寂の、なんと饒舌なことでしょうか
光と影の境に消えていった
遙かな地平線も瞼に浮かんで参ります
日本航空があなたにお送りする
音楽の定期便ジェットストリーム
皆様の夜間飛行のお供をするパイロットは
私、城達也です
YouTubeでもどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=S45sZVbKm-g

これを聞いて、どれほど「夜間飛行」にロマンティックな幻想を抱いたことか。私は飛行機に乗ったのが27歳の時と非常に遅く、しかも初飛行が英国航空の成田-ロンドン便飛行時間12時間というハードなものだったのですが、実際に飛行機に乗って夜間飛行を経験するまでの10数年間、ずっと幻想を抱き続けていましたよ。
実際経験してみると、夜間飛行なんて皆寝ているだけだし、窓も閉めてしまうし(開けるとスッチーに怒られる)、エンジン音は相変わらずうるさいし、エコノミーの座席はやたら狭いしで全然いいものではありませんでした。何が「きらめく星座の物語も聞こえてくる、夜の静寂の、なんと饒舌なことでしょうか」だ!だいたい星なんか見えないよ!「光と影の境に消えていったはるかな地平線も瞼に浮かんでまいります」だあ?そんなもんいつ見えたよ!なんて八つ当たりしたりして。
あ、ビジネスクラスに乗るとぐっとJET STREAMな感じがしますよ。「ふかぶかとした夜の闇に心を休める時」って感じになりますから。そしてファーストクラスに乗ると、もう2,3日乗っててもいい気分になりましたっけ(一回しか経験してないですが)。
で、冒頭のポエムなんですが。番組内で城達也機長が、我々リスナーの海外への憧れを煽るべく、時折繰り出してくナレーション攻撃なのです。探したらフルがありました。
思い出話をしよう。
いつが夏の終わりか、知るよしもなく、
気がつけば、蹌踉と日暮れの秋風の道を……
そんなことがあって、私は用心深くなって、日毎、人が
コーヒーに入れる砂糖の数まで数えるようにしてきたが
その為に却って、恋人の心変わりを早めたかもしれない
ロダンの美術館の、秋の庭に木の葉を踏みながら
彫刻相手の独り言して
つまるところ恋は戻らない、灰色の空模様だというのだ
文章にするとよくわからないところもありますが、そこはポエムなので。その他にも

さる年のヨーロッパに
置いてきた夏があると思わないか
例えば南ドイツの古都で、雨
入口に可憐な鈴をつけたカフェで
紅茶々碗を手のひらに包み、指先を暖めた夏もあった
少し曇った窓ガラスごしに黒々と濡れた石畳が見え
塗り替えて間もない砂糖菓子色の家並みが、
見捨てられた絵本のように、青ざめていた。
こんなことがあってはならない、と思いながらも
カフェの客は私一人で、次の町へのバスを待つ間の時間
何をする気もなく坐っていたのだ。
白い前掛けが目にしみる女主人が、
降り込められた旅人を気の毒そうにレジの傍で見ていた
あの時、ババリアの空の下の晴れやかな夏も一つ
私はカフェの椅子に残してきたと思っているのだ
夏のプラタナスが、手をいっぱいに広げ、
カルチェの散歩道を飾る頃、とり残された思いの若者が
旅先の娘から、優しい手紙を受け取っている
あれはまだリュクサンブール公園の樹々が
灰色の空に黒々とこごえている頃だったが、
ローヌ川の谷を南へ、リヨン湾まで
オリーブが実り糸杉が緑の焔を上げる土地へ旅するのだと
娘が頬を染めて話したのだった
春風に誓った旅の途上に、今、娘はいて、
南仏のひなた臭い便りに、思いを託している
出払って、ひと気のないパリの学生下宿の
夏のプラタナスがそよぐ窓辺で、
若者は、カマルグの沼地に水しぶきを上げながら
白馬に乗って日が暮れる娘の事を考えている
夕映えの空には、熱いフラミンゴの群れも
舞っているのではないか……と

それは虹に飾られたスイスのと或る町のことだ。
湖畔の丘に、錆色の甍を積み重ねた、古い町並みがあって
曲がりくねった石畳の坂道に沿ってくすんだ建物の肌が
心に馴染む滞在であったに違いない
教会の鐘の音を聞きながら、散歩に出て
湖畔の四阿で、うつらうつらと時を過ごす間には
谷間の落ち葉が、湖の底に辿りつくように
山々の言葉が、心の底に届きそうに思えたのではないか
私は、旅人達の土産話を聞くたびに
切ない夢を見ているような気がするのだ
YouTubeで番組再現
http://www.youtube.com/watch?v=fhu11HExHQM&feature=related
うおードイツ行きてえ、フランス行ってみてえ、スイスたまんねーって感じがしませんか。私はこれで実際に行って、ついでに住み込みで仕事までするはめになりましたよ。いやドイツやフランスやスイスなら文句もないんですがね……

でもJET STREAMに逆恨みしている訳ではないですよ。なんだかんだと得がたい経験もさせていただきましたし。まあJALよりANAを贔屓にしていたりしましたけどね(笑)。
名機長城達也はもういませんが、ナレーションは永遠ですね。カテゴリにラジオがなかったので音楽にしちゃいました(テヘペロ)。最後にエンディングのナレーションを。
夜間飛行のジェット機の翼に点滅するランプは
遠ざかるにつれ次第に星のまたたきと区別がつかなくなります
お送りしております、この音楽も美しく、あなたの夢に、溶け込んでいきますように
日本航空がお送りした音楽の定期便、ジェットストリーム
夜間飛行のお供をいたしましたパイロットは私、城達也でした
また明日、午前0時にお会いしましょう

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