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金鯱の夢:もしも名古屋に豊臣幕府が出来ていたら…

アチィねェ

 こんばんは。都心は真夏日だったそうですね。私も一緒にこう言いたいところなのですが、実は札幌肌寒くて。本日の最高気温は午前零時の13度。日中は10度程度でした。羨ましいとお思いの方もいらっしゃるでしょうが…はい、正直クソ暑いより肌寒い方がよっぽどマシです。

20150514ランキング

 本日のサブジャンルランキングも一桁キープ。なんか8ばかり並んでますな。ジャンルランキングで一桁になってからエバレよというツッコミもありかと思いますが、サブジャンルであるサラリーマン・OL部門の一位のブログもジャンルランキングでは30位にも入っていないという現実がありますので……。多分サブジャンル1位よりも困難な道ではないかと思います。 

金鯱の夢

 本日は久しぶりに本の紹介です。1月以来なので本当に久しぶりです。どんだけ本を読まなくなったんだ私。今日は清水義範の「金鯱の夢」です。清水義範は好きな作家で、かつてはずいぶん読んだのですが、意外にも当ブログで紹介するのは初めてだったりして。

清水義範

 清水義範は1947年10月28日生で愛知県名古屋市出身。中学時代からSFファンで、半村良の面識を得て、大学卒業後に上京し半村良に師事しました。それはもう師匠が黄金聖闘士みたいなものですね。1977(昭和52)年からソノラマ文庫を活動の場として多数のジュブナイル作品を発表しました。

蕎麦ときしめん

 その後、司馬遼太郎の文体を模倣した「蕎麦ときしめん」」、丸谷才一の文体を模倣した「猿蟹合戦とは何か」などといったパスティーシュ作品が注目を集めしました。パスティーシュ(作風模倣)は学生時代から行っていたそうですが、「こういったものは、きちんとした作品ではない」と自身で封印していたそうです。でもいざ発表してみると非常に好評だったため、以降この手法を用いた短編を書き続けました。

名古屋はええよ!やっとかめ

 また郷土(名古屋)愛に満ちている作家で、加藤清正と北政所が名古屋弁で会話するショートショート「決断」を書いて以来、名古屋弁など名古屋を前面に押し出した「名古屋もの」と呼ばれる作品を多数発表しています。この功績により、「名古屋弁を全国に広める会」の功労賞を受賞したり、名古屋名誉市民になったりしています。

国語入試問題必勝法

 人気作家ですが、受賞にはあまり縁がなく、1988(昭和63)年に「国語入試問題必勝法」(これは傑作です!)で第9回吉川英治文学新人賞を受賞したほか、3回直木賞候補になりながら全て落選しています。

西原理恵子のおちょくり

 このあたり、「お勉強シリーズ」などでコンビを組む西原理恵子からはこのようにおちょくられていたりして。手加減なしだな西原センセー。

西原理恵子が描いた清水義範

 実は70年代後半から書いていたらしい清水義範ジュブナイル作品は全然読んだことがなくて、80年代後半に発表された「蕎麦ときしめん」「国語入試問題必勝法」「永遠のジャック&ベティ」などの作品の面白さに大きな衝撃を受けたものでした。短編が多くて読みやすいというのもありますね。特に「国語入試問題必勝法」の○字以内にまとめなさい的問題へのオマージュである、ある女性の半生を描いた小説の内容を8字以内まとめなさい→回答「いろいろあった。」には大笑いしました。小説に限らずたいていの作品はこれでいけるじゃないか。

永遠のジャック&ベティ

 数十年ぶりに再会したらジャックとベティが中学一年生レベルの英語しかしゃべれなくなる「永遠のジャック&ベティ」も面白かったですが、残念ながら私が習った中一の教科書にはジャックもベティも出てこなかった気がします。確かリリーとかいたな。

笑説大名古屋語事典

 名古屋を愛してやまないということは、「笑説大名古屋語事典」を読んで知っていました。そういえば狂気の名作「金太の大冒険」などで知られる名古屋在住のシンガーソングライターつボイノリオには「名古屋はええよ!やっとかめ」というご当地ソングがありますが、政治・経済・歴史・スポーツ・風俗などすべての分野において、確固たる根拠もなく名古屋優位を声高に唱えるのでさすがの名古屋人さえも苦笑を洩らすと言われています。面白いのでぜひ聞いてみて下さい。清水義範とつボイノリオが対談したらどうでしょうか。



 こちらは新作。こいつ…動くぞ!


 
 それはさておき「金鯱の夢」ですが、もうおわかりの通り名古屋リスペクトシリーズの一冊なのです。とりあえず例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 天正10年。山崎の戦いの直後、羽柴秀吉に嫡子・秀正誕生。慶長5年、秀正・徳川家康連合軍、石田三成を関ヶ原に破り、大坂城の異母弟・秀頼を倒す。時に慶長8年。秀正は将軍となって名古屋に幕府を開く。そして日本の公用語は名古屋弁となった。江戸ならぬ名古屋で花ひらく文化は、政治は、経済は…。泰平と狂乱の「名古屋時代」260年。日本史を縦横無尽にパスティッシュした長編歴史小説。

単行本版金鯱の夢

 「金鯱の夢」は1989年7月に刊行され、92年7月に集英社から文庫版が刊行されています。1989年下半期の第102回直木賞の候補作になりましたが、残念ながら落選しました。この回は5作品がエントリーされて2作品が受賞しているので、受賞率40パーセントだったのですが…残念でした。

 ということで、秀吉晩年の子・秀頼の前に正妻・寧々との間に息子が生まれていたらという「if」設定で、名古屋に豊臣幕府が誕生して名古屋時代が始まります。豊臣家が滅亡する大阪夏の陣の代わりに、徳川家が滅亡する江戸夏の陣が起きています。そして豊臣御三家は紀州、加賀、江戸に置かれ、水戸黄門の代わりに江戸黄門が出てきたり。

 豊臣幕府が名古屋に登場するという画期的展開のわりに、その後の歴史の推移が江戸時代とあまい変わらないというのがどういうものかとは思います。御三家の設置とか、徳川家と全然変わらないし。秀吉なら絶対やらなかったであろうことを、息子の秀正にさせているのですが、この人が事実上豊臣版家康になってしまっています。

 登場人物が名古屋弁でしゃべっていたり、江戸弁は田舎弁だとバカにしたりしていますが、江戸時代の枠を超えている部分が非常に少ないですね。秀正は秀吉の狂気の朝鮮侵攻(文禄・慶長の役)こそ未然に防ぎますが、結局豊臣幕府も鎖国しちゃうんですね。せっかく徳川家じゃないんだからもっと羽目を外しても良かったのではないかと思います。

名古屋城天守閣

 多分警戒するほどキリスト教は日本に普及しない(完全自由化されている現状を見よ)ので、豊臣幕府はキリスト教を容認するばかりでなく、鎖国もせずに開国しまくるというのでも良かったような。

 なお直木賞選考委員の評価は結構辛辣で
① 黒岩重吾「すべてを尾張に結びつけているせいか、これまでの面白味が稀薄になった。尾張弁を褒める選考委員は多かったが、方言は作品の彩りに過ぎない。」
② 山口瞳「名古屋を礼讃するのはいいが、あの押しの強さ、田舎臭さが全面に広がってこないと味の薄い作品になってしまう。」
③ 平岩弓枝「第三章の江戸夏の陣までは圧倒されて読んでしまったが、それから先は強引なこじつけが目立って、折角の才気の御馳走が飽和状態になって御辞退したくなった。」
④ 藤沢周平「第一章の名古屋弁のやりとりがじつに秀逸。(中略)ところが惜しいことに、中盤は単なる名古屋弁への転訳に終った印象が強く、豊臣の天下がつづいていたらという肝心のこしらえが十分に働いていない。」
⑤ 五木寛之「この長篇は、はじめが最高で中ほどが凡庸、終りに近づくほど退屈になるという致命的な構造をもっている。」
⑥ 井上ひさしが「前半部は、ムチャクチャにおもしろい。だが、中盤から突然、その膂力を失う。ひっくり返しの手法がいつも同じなので、読者はもう驚かないのである。」
⑦ 渡辺淳一「織田の武将が軍議まで尾張弁で論じ、それに馴染めなかった光秀の違和感が、のちの叛乱の遠因になったという発想は秀逸である。だがその他のパロディはいささか凡庸」
と評しています。

 渡辺淳一が選考委員だったんですね。官能作家だと思ってた(笑)。個人的には作品への評価は別として、この人の人間性には重大な疑義を持っています。直木賞を取れなかったのが絶対間違っていると思う宮部みゆきの「火車」へのこの人の評言を読むと「あんたバカァ!?」と思ってしまいますよ。多分鑑定眼が海のリハク並みなのでしょう。ファンの人には悪いですが、人格に致命的なほど「品」がない作家だと思います。そもそも作家に人格を求める方が間違っているのかも知れませんが。

名古屋城の金鯱

 評価するものとしては
① 陳舜臣「これまでこの種のif小説をいくつか読んだことがある。それにくらべると、この作品は水準に達しているようにおもう。」
② 田辺聖子「私は方言が好きである上、縦横無尽のギャグにしたたか笑わされたので、ナンセンス文学に敬意を表して一票を献じたが(中略)期待したほど票が集まらず残念であった。」
などの意見もあります。

開国ニッポン

 なお江戸時代に鎖国がなされていなかったらというifストーリーについては、清水義範は2002年に「開国ニッポン」という長編を書いています。こちらでは開国という決断を下すのが徳川家光ということになっていますが、もし「金鯱の夢」と「開国ニッポン」が旨い具合に融合して一つの作品になっていたら、直木賞がゲットできていたのではないかと妄想するのは私だけでしょうか。
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