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君の名は。:新海誠をメジャーに押し上げた傑作

大寒

 昨日は大寒で、まさに寒中真っ盛りな訳ですが、来週は“過去数年で類を見ない最大級の寒気”が日本を襲うようです。温暖な高松でも最低気温は氷点下以下最高気温も一桁前半台になるようです。寒いだけならともかく、大雪に見舞われる予報の地方は要警戒です。雪は降ってる時は綺麗だけどその後が問題なんですよね。アイスバーンの恐怖は2年の札幌生活で身に沁みました。

君の名は。

 さて本日は正月休みに見た新海誠監督の「君の名は。」の感想です。2016年公開で、新海誠6作目の劇場用アニメーション映画です。当ブログも当初は「秒速5センチメートル」一辺倒だった時期があるように、私は長らく「秒速」を始めとするマイナー時代の新海作品のファンだったのですが、メジャー化した新海作品は今回初めて見ました。もっと詳しく言うと1作目「ほしのこえ」、2作目「雲のむこう、約束の場所」、3作目「秒速5センチメートル」、5作目「言の葉の庭」を見ていて、あまり評判が良くなかった4作目「星を追う子ども」は見ていませんでした。この休みには7作目「天気の子」と共に「星を追う子ども」も見ましたので、後日感想を綴りたいと思います。

瀧版

 さて以前から知る人ぞ知るというマイナー界の巨匠だった新海誠ですが、「君の名は。」以降は一気にメジャーなアニメ監督になりました。今やレジェンド級の宮崎駿に続く存在となったと言えるでしょう。二人の間には庵野秀明という人もいるのですが、この人は実写映画もヒットさせてるのでアニメ監督の枠でくくりきれないところがあります。メジャー界ではもっと早くから期待されていた細田守がもう一つ伸び悩む中、後進の新海誠が軽やかに差し切ったという感じでしょうか(あくまで個人の感想です)。

三葉版

 どうしてこの作品を今まで見なかったのかと言うと、私の「秒速」好きを知る友人達から「見ない方がいいよ」と言われていたということもありますが、メインはあれです。マイナーなアイドルを応援していて、メジャーになれるといいねと本気で願っていたのに、いざブレイクしたら遠くに行ってしまったような寂しさを感じるというやつ。マイナーなままだったらお前の側にいるのかとツッコまれれば、別にそんなことはないんですが、あくまで心情的な問題ですね。

三葉と瀧

 しかし新海誠作品は本作以降も「天気の子」「すずめの戸締まり」と興行収入100億円以上のビッグヒットを続けており、もはやメジャーとしての地位は確立したと言って良いでしょう。全て見た上で「俺はマイナーな頃の新海作品が好きでね」とか言うのはマニアックでいいっちゃいいのですが、もはやメジャー作品を見もしないでマイナーの頃はなんて言うわけには行きません。ということで「君の名は。」を見たんですが、率直な感想を一言で言うと…「ええやん」(なぜに関西弁)でした。

転校生

 男女の高校生の心が入れ替わるという話は以前から知っていて、大林宣彦監督の有名な尾道三部作の第一弾「転校生」みたいだとは思っていたのですが、本作は①原因が不明、②継続的ではなく断続的な入れ替わり、③場所的にも時間的にも離れている二人だった、という点で「転校生」とは大きく異なっていました。

混乱する二人

 東京の男子高校生・立花瀧と飛騨地方の糸守町の女子高校生・宮水三葉。見ず知らずの二人の心がある朝いきなり入れ替わることから巻き起こるドタバタ劇。一度ならず繰り返し起きることから次第に互いの生活や境遇を知ることになり、興味を引き合います。

入れ替わって遊ぶ

 しかし唐突に入れ替わりは起きなくなり、瀧は飛騨を訪問することに。すると判明した衝撃の事実。糸守町は、3年前に彗星から分裂した核の破片の直撃を受けて消滅しており、三葉は家族、友人ら住民500人以上と共に死亡していたのでした。

三葉を知らない瀧
髪を切る三葉

 実は三葉も東京を訪問しており、瀧にも遭遇したのですが、それは中学生の瀧であり、当然三葉の事を知るよしもありませんでした。三葉はショックのまま帰郷し、髪を切っていましたが、それが祭りの前日でした。そして祭りの当日がまさに彗星の核が分裂し、“天墜ちる日”。

三葉の組紐
瀧の組紐
組紐が結ぶ縁

 縁もゆかりもないはずの二人でしたが、中学生の瀧は三葉が落とした組紐をミサンガのように手に巻いており、それは高校生になっても変わらなかったので、二人を繋ぐ縁としてはそれがあるのかなと思います。それと三葉が神社の娘で、巫女をしているということも要因でしょうか。

糸守町ラフスケッチ

 実は糸守町には1200年前にも隕石が落ちて大きな湖が出来ており、作中では明言されていませんが、おそらく今回と同じ彗星の核だったのではないかと思います。三葉が巫女を務める宮水神社は1200年前の事件に由来するらしいので、ある意味彗星を祀っていると言ってもいいのですが、伝承は風化していて人々からはほぼ忘れ去られています。

御神体
御神体アップ

 三葉は口噛み酒を宮水神社の御神体へ奉納しており、それは自分の半身と同じという話を記憶していた瀧は、3年前に奉納された三葉の口噛み酒を飲み、三年前の彗星落下当日の朝の三葉の身体に転移。そこから三葉と人々を救うための瀧の奮闘が始まります。

三葉死亡後の世界の糸守

 二人の間には東京と飛騨という距離の差があるだけでなく、3年というタイムラグまであります。さらに三葉には死すべき定めまで。深海作品の中でも最も厳しい壁を乗り越えて二人は再会することができるのか。

大人っぽい三葉

 詳しい話は見ていない人に悪いのでここから先は詳しく語りませんが、三葉は生き残ります。さすがそうでないとオカルト世界にずっぽりになってしまうし(それならそれでもいいのですが、メジャー化は厳しいかな)。しかし、その代償のように二人は共に相手のことを名前まで忘れてしまいます。ただ漠然と誰かを探しているという、切実な思いだけを残して。

遂に遭遇

 さあラスト付近になって急に「秒速」の気配が漂ってきます。あれから5年後(彗星衝突から8年後)、大学生となった瀧は就職活動真っ最中。三葉も上京していますが、互いに出くわすことはなく。

新宿と千駄ヶ谷

 そして春のある日(さあ来たぞ!)、並走する電車の車窓からお互いを見つけた2人。それぞれ次の駅で下車しますが、瀧が降りたのは新宿駅で、三葉が降りたのは千駄ヶ谷駅。直線距離なら1キロ程度ですが、そこは大東京なので近くて遠い。

すれ違う二人

 ようやく住宅地の神社の階段で再会した二人。しかし二人とも相手の記憶がありません。言葉もなくすれ違う二人。私はここで深海誠は本当はこのままバッドエンドにしたかったんじゃないかと邪推してしまいました。そのまま離れて振り向く瀧。しかし三葉の姿はもうなかった、なんて。

貴樹と明里

 この場面、どうしても「秒速」のこのシーンを彷彿とさせます。新海誠は絶対狙っていると思います。昔からのファンに向けて「ほらほら、ああなっちゃいそうだよ」と煽ってたりして。

プリキュアがんばれー

 実は劇場版プリキュアみたいに上映館でミラクルライトを配ってて、この場面でオールドファン達が「瀧がんばれー」とか叫んで盛大に振ってたとか。

三葉と瀧その2

 しかし、プロデューサーから「メジャーになりたかったら絶対ハッピーエンドな」と釘を刺されていたのか(私の邪推)、深海誠がメジャーと寝たのか(私の妄想)、瀧と三葉は同時に振り向き、涙を流しながら互いに尋ねるのです。「君の名は?」と。「秒速」の呪縛が解けた瞬間。個人的には「雪の一夜」ぐらいでは世界線は超えられなかったが、本作では身体入れ替わりや変電所爆破事件まであって、ようやく世界線を超えられたのではないかと。

君の名は?

 三葉と瀧は互いに同学年と思っていましたが、実際には三年のタイムラグがありました。つまり三葉は瀧より3歳年上。今時3歳年上の姉さん女房なんて珍しくもないかもですが、三葉はよく一人でいたなあ。ラストシーンで三葉の左手薬指に指輪が光っていたなんてことになるとエラいことになるんですが、やはり二人の体験は未曾有なもので、余人の立ち入る余地はなかったのか。

STEINS;GATE
世界線ゲージ

 なにしろ三葉の死すべき運命を変えていますからね。「STEINS;GATE」で言えば世界線を変えるほどのビッグイベントを起こさなければ同じ結果に収束されてしまうのですが、今回二人はそれを成し遂げたということに。三葉のパパンが町長をしていたという事実が大きいですが。

宮水_二葉

 このパパン、当初はまるで悪人のように描かれていますが、宮水神社の巫女だった二葉(三葉と妹の四葉のママンでCV大原さやかというのが素敵)と出会って婿入りして神職になったほどの人なので、別に悪人でもなんでもありません。二葉が若くして亡くなったことで信仰を失ったという感じでしょうか。三葉は祖母で神社の跡取りである一葉の影響でパパンに良い感情を持っていませんでしたが、最愛の人をどうか救って下さいと心から願っても無駄だったのであれば信仰から離れたとしても仕方ないかなあと思います。

パパン町長

 その後やさぐれて悪の道に堕ちるというならともかく、町長となっているのだから、信仰の道から俗世に戻っても自分なりに世のため人のために尽くしていると言えるでしょう。もちろん政治の世界だから反対派もいるし、綺麗事だけではやっていけない部分もあるでしょうが。

邪龍ティアマト

 それにしても遙かに時間を超えて同じ場所に落下してくる彗星が恐怖であることよ。名前はティアマト。実在する彗星の名前をみるに、こんな物騒な名前を付けた例を私は知りません。女神転生シリーズなら高レベルの最上位邪龍(以前は妖獣だったり怪獣だったりしたこともありますが、やはり最上位でした)、FGOなら人類悪のビーストⅡですよ。

人類悪ティアマト

 ティアマトはメソポタミア神話における創世の女神で、ギリシャ神話のガイア、中国神話の盤古のような存在でしょうか。子供である神々を愛していましたが、神々は生みの母にまで刃を向けたので対決することに。激しい戦いの後、神々はティアマトの死体を二つに裂いて天と地を造り、これを人界創世の儀式としたそうです。

彗星落下

 実は1200年前に堕ちたティアマト彗星の分裂した核(の一部)が宮水神社のご神体になっていて、今回の二度目の核の分裂・落下もそれに惹かれたものではないかと妄想したりして。1200年周期で核の一部が落下してきて、遙かな未来に全ての核が糸守の地に揃い、何かが目覚める…!なんて。

怪彗星ツイフォン

 「ウルトラマン」第25話「怪彗星ツイフォン」に登場する彗星ツイフォンは強力な宇宙線を放っており、地球に接近した際には水爆を爆発させる可能性があるという物騒なものでした。幸い地球に衝突することはありませんでしたが…

彗星怪獣ドラコ

 代わりというわけではないでしょうが、ツイフォンからは彗星怪獣ドラコが来襲。地球の怪獣である冷凍怪獣ギガスとどくろ怪獣レッドキングと戦いました。ギガス戦は優勢だったものの、「ウルトラマン」に登場する地球怪獣の代表格であるレッドキングには敵わず、倒されてしまいました。

彗星戦神ツイフォン

 なおツイフォン彗星については、劇中岩本博士が3026年に再び地球に接近し、その際は地球と衝突する可能性が極めて高い述べていました。これに基づいて「ウルトラマン超闘士激伝(OVA版)」にてその正体(彗星戦神ツイフォン)を表すことに。ドラコはその眷属に過ぎなかったのです。このノリで行けば、ティアマト彗星の正体も実は何らかの生物だったりして。そして落下しているのは彗星の核ではなく卵のようなものだとか。

三葉の口噛み酒

 三葉と四葉が神事として行っていて口噛み酒、そういうものがあるという話は知っていましたが、実際劇中で見たのは今回が初。ですが、似たものはずいぶん昔に見たことがあります。「はじめ人間ギャートルズ」で。主人公ゴンの父ちゃんの好物、猿酒です。

ギャートルズ
猿酒

 猿酒はサルに果実を食わせて吐き戻させる作り方のため、口噛み酒に近い酒だと思われます。個人的にはどちらも敬遠したいけど、どうしても飲めと言われたら美人の口噛み酒の方がいいでしょうかね。猿のはさすがに…。かつてラオス南部からカンボジア東部に位置した真臘という国では、女性が醸すことから「美人酒」と呼ばれていたとか。

葡萄踏み

 口噛み酒とは違いますが、ワインを醸造する一過程で葡萄の実を潰すというのがありますね。現代では機械で圧搾していますが、昔は大きな桶に入れた葡萄の実を素足で踏んで潰していました。きちんと潰れさえすれば男が踏もうが女が踏もうが関係ないようなものですが、絵面的には若い女性が踏んでいる方がいいですね。民族印象とか着ているとさらに良し。

ワインのラベル
葡萄踏みイレィナ

 「魔女の旅々」では“絶世の美少女”(自称)イレィナが葡萄踏みするエピソードがありました。ワインのラベルに葡萄踏みする女性を使ったら売れ行きが変わったとか。まったく男ってヤツは…(笑)。しかし、「美少女の踏んだのとおっさんが踏んだのがありますが、どっちにしますか?」と言われたらそりゃあ、ね。So it goes.

売れるか?

 作中、妹の四葉が生写真付きでJK仕込み口噛み酒を売るという提案をしていましたが、酒税法云々と言う話は抜きにしても売れるかなあ。あれか、写真目当てに買って酒は捨てるというヤツ(笑)。

四葉の口噛み酒

 その筋の方々向けに四葉が作ったロリ仕込み口噛み酒も一緒に売るといいぞ。私はどっちもいらないけど。その点、猿が醸した酒でも美味けりゃいいと達観してがぶ飲みしているゴンの父ちゃんは大物なのかも知れないですね。

ユキちゃん先生

 なお、三葉が通う高校での古文の授業のシーンで、ユキちゃん先生が「かたわれ時」について説明しています。これは終盤の重要なキーワードなのですが、この先生、明らかに前作「言の葉の庭」のヒロイン、雪野百香里ですよね。CVも花澤さんだし。あなたは確かあの後四国の高校に転任したはずでは。なにゆえ飛騨に?
仮説①世界線が違うのでこちらの世界では四国ではなく飛騨に転任した
仮説②四国から飛騨に再転任した
仮説③最初が飛騨で、ティアマト彗星のせいで東京に転任して「言の葉の庭」の後、四国に転任した

ユキちゃん先生その2

 「言の葉の庭」は具体的年代が明示されていないので、仮説③もありかと思います。なんかちょっと若く見えるし。仮説②の場合、四国でも妙な事件に巻き込まれてた、なんてことがなければいいですが。事件後、ユキちゃん先生も当然助かってますよね。というか、瀧と三葉の活躍がなかった場合、三年前の死亡者リストに載ってたりして。ともあれ、伊藤宗一郎みたいな変な同僚にはもう引っかからないでね(私は事件の黒幕だと今でも確信しています)。

小説君の名は。

 新海誠は例によって小説版を書いていますが、私は読んでいないので、小説を読むといろいろ判明するのかも知れませんね。とりあえず「秒速」感を色濃く出しながら最後はハッピーエンドにした本作、「秒速病」患者には良い薬だったのではないでしょうか。
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