記憶に残る一言(その119):イラストの煽り文句(「なぜなに学習図鑑」第9巻「なぜなにからだのふしぎ」)

5月もいよいよ終わって明日から6月。もうすぐ梅雨のシーズンですね。新型コロナウイルスは太陽光線に弱いとか湿気に弱いとか、まるで吸血鬼のように弱点が一杯あるかのような報道がありましたが、実際のところはどうなんでしょう。様々な弱点の存在が指摘されながら、それでも凶悪かつ強力な不死者の王とされることが多いのが吸血鬼なので、新型コロナウイルスもそういうことなんでしょうか?

本日も「記憶に残る一言」です。バース・掛布・岡田以来の三連発(笑)。もう今回は出オチのようにいきなり登場して貰いましょう。

皆さん一度はネットで見たことがあるんじゃないでしょうか。「イルカがせめてきたぞっ」。小学館の「なぜなに学習図鑑」の第9巻「なぜなにからだのふしぎ」に収録されています。

「なぜなに学習図鑑」は子供からの質問に対しての回答・解説とイラストという体裁になっていて、このページの質問は「人間より、イルカのほうが頭がよいのですか。」というものでした。これに対し、回答はイルカがとても頭が良いことを説明した上で、「もし、いるかが人間と同じようにりくの上でくらすとすると、知えのほうで、きっと人間をまかしてしまうだろうという人もいます。」と締めくくっています。

この回答に関するイラストがページの大部分を占めているのですが、どこがどうして“ボンベを背負ったイルカ兵士が光線銃と巻貝型戦車で人間世界に侵攻する”という侵略パニック映画じみたイラストに発展してしまったのか。

衝撃的イラストの作者は小松崎茂。空想科学イラスト・戦記物・プラモデルの箱絵など、挿絵の第一人者として幅広く活躍した巨匠です。戦前から戦争物や空想科学を題材にした絵を描いて評判になり、戦中には少国民向け雑誌に戦記小説の挿絵や、軍艦、戦車、飛行機などの戦争イラストを数多く発表して注目されました。戦後も自分の絵で子供達を励ます事を考え、より精力的に作品作りを行い、未知なるものへの想像力をかき立てる空想科学イラストは当時の少年達に大人気を博しました。



40年代後半~50年代半ばに起きた絵物語ブームでは「少年ケニヤ」の山川惣治と人気を二分し、寝る間もない多忙な日々を送ったそうです。これが後の漫画界に大きな影響を与えることになります。この頃に小松崎茂の絵物語を愛読して影響を受けた漫画家には、石ノ森章太郎、ちばてつや、川崎のぼる、松本零士といった錚々たる顔ぶれで、藤子不二雄Ⓐに至ってはペンネームを「小松原滋」にしてサインも真似した程だったそうです。


一般的に可愛らしいイメージが強いイルカが無慈悲に人間を殺戮しているというギャップのある光景と、直立してボンベを背負う(イルカは肺呼吸なのに)イルカというシュールな絵面にも関わらず、小松崎茂の圧倒的な画力によって躍動的な印象を保ったこのイラストは、「イルカがせめてきたぞっ」というインパクトのあるフレーズと相まって、当時の少年少女に強烈な印象を残しました。現代でもなお「面白画像」としてインターネットで盛んに流布されています。

実は同じ小学館の月刊学習雑誌「小学四年生」の1970年3月号には、「ショッキング画報 もしもこうなったら」という特集記事内において、「もしもイルカがせめてきたら」というイラストが掲載されていました。こちらは人間に一方的に殺され、海を荒らされたことに怒りを爆発させて復讐するために攻めて来たそうで、いきなり攻めてきた感のある「なぜなにからだのふしぎ」と違って侵攻の動機が書かれています。イラストは伊藤展安となっていて、小松崎茂とは別人ですが、ボンベを背負って直立するイルカや巻貝型戦車などのモチーフには類似性が強く、小学館の編集者がこの絵を元に小松崎茂にイラストを依頼したといった事があったのかも知れません。


「なぜなに学習図鑑」シリーズは、1970年代に人気を博しましたが、学習図鑑という体裁を取りながらも怪しげなネタが満載なので、今よりも娯楽の少なかった当時の少年少女のエンターテイメントだったのでしょう。「原し人が今いたら、どんなしごとにつけますか。」の質問には「プロ野球のせん手」と回答していたり。身体能力が凄いということならプロレスラーとかでもいいはずですが…バッターも原始人なら守備も原始人。助っ人外人のような扱いになっていますね。これはダブルプレーになってしまうような(笑)。

「空とぶ円ばんは、ほんとうにあるのですか。」という質問(本当に子供が質問してるの?)に対しては、なぜか「日本にもきたうちゅう人」というイラストが。「はっきりしたことはわかりません」と言いながら、土偶が宇宙人のようだということで、「大和時代に宇宙人が来たのではないかという説」を紹介しています。大和時代って弥生時代末期から古墳時代で、飛鳥時代の前の3世紀~7世紀頃を指しますが、土偶はもっと前の縄文時代じゃなかったけ?



親に買って貰うほかに、当時は児童館に「なぜなに学習図鑑」のシリーズが置かれていた記憶があります。金のない貧乏な子供は児童館に入り浸ってたりして。その他、学習図鑑という体裁もかなぐり捨てた児童向けのサブカルチャー叢書としては、学研の「ジュニアチャンピオンコース」、講談社の「ドラゴンブックス」(「悪魔全書」が欲しかった)、立風書房の「ジャガーバックス」(「いちばんくわしい」と銘打つものが多く、他社との差別化を図っていた模様)などがあり、子供達に人気を博していました。これらに加えて「ノストラダムスの大予言」「エクソシスト」「恐怖新聞」等など…こうしてオカルト少年が誕生していったのです(笑)。

どれもこれもインパクトが大きかったのですが、特に印象に残っているのは「ジュニアチャンピオンコース」の「もしもの世界」でしょうかね。「もしも太陽が燃え尽きたら」「もしも地球の自転が止まったら」なんて突飛な質問(しかし子供は飛びついてしまう)を掲げ、その回答を綴っているのですが、なにしろ衝撃的なイラストが満載で。「もしも酸素がなくなったら」の女性なんかトラウマものですよ。

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