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幻夜:名作「白夜行」の姉妹編

12月じゃ

 とうとうやって来ました12月。毎年思いますが、一年って本当に早いですね。数ヶ月前には暖冬という予報を聞いたような気もするのですが、あにはからんや今年の冬は寒いみたいです。今年は8月に涼しい日が続いたり、9月になってから暑くなったり、10月に雨ばかり降ったりと妙な気象が続いたので、冬らしい冬というのはある意味正常に戻ったともいえなくもないですが…今年は11月から寒かったんですよね。おかげで秋を満喫できなかった気がします。

幻夜文庫版 

 本日は久々に読書感想文です。東野圭吾の大作「幻夜」を読みました。「幻夜」は「週刊プレイボーイ」2001年No.19/20号から2003年No.16号に連載され、加筆訂正された後に2004年1月26日に集英社より単行本として刊行され、2007年3月25日には集英社文庫から文庫版が刊行されています。

 東野圭吾は私が最も好きな作家の一人です。有名な「ガリレオ」シリーズや「加賀恭一郎」シリーズも素晴らしいですが、単発作品で三大好きな作品を挙げるとするならば、これまでは「秘密」「白夜行」に「手紙」あたりかなと思っていましたが、「手紙」に代わって入ってくる勢いなのが「幻夜」かなという気がします。しかし本作、「白夜行」の姉妹編ともいえるので、「白夜行」シリーズになってしまうかも。

白夜行 

 本作は2004年に第131回直木三十五賞にノミネートされましたが、受賞は逸しています。「秘密」も「白夜行」も「手紙」も候補作になりましたが受賞せず、受賞は2006年、6回目のノミネートである「ガリレオ」シリーズの一作である「容疑者Xの献身」ででした。正直それ以前の候補作品で受賞させない審査員は頭おかしいんじゃないかと思います。もしくはこぞって海のリハク。南斗五車星が全員海のリハクだったらイヤすぎますね。

 「白夜行」こそは東野作品の白眉ではないかと思うのですが、それとの関連はひとまず置いて、例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

阪神淡路大震災 

 阪神淡路大震災の混乱の中で、衝動的に殺人を犯してしまった男。それを目撃していた女。二人は手を組み、東京に出る。女を愛しているがゆえに、彼女の指示のまま、悪事に手を染めていく男。やがて成功を極めた女の、思いもかけない真の姿が浮かびあがってくる。彼女はいったい何者なのか?!名作「白夜行」の興奮がよみがえる傑作長編。

 実は「白夜行」を読んだのはブログ開始前だったので、当ブログでは紹介していないという痛恨。一応内容紹介だけしておきますと…

白夜行映画版 

 1973年、大阪の廃墟ビルで質屋を経営する男が一人殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りしてしまう。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んでいくことになるのだが、二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪の形跡。しかし、何も「証拠」はない。そして十九年の歳月が流れ……。伏線が幾重にも張り巡らされた緻密なストーリー。壮大なスケールで描かれた、ミステリー史に燦然と輝く大人気作家の記念碑的傑作。
 
 もちろん「幻夜」は「白夜行」を知らずに読んでも面白いです。全く関係のない作品と割り切っても構いません。が、「白夜行」を読んだ人にはちらっちらっと見え隠れする影が気になってしまうところなんですね。

 美冬と雅也

 「白夜行」では美貌のヒロイン雪穂の成功を、滅私奉公のように影で支え続ける亮司という関係がありましたが、今回も似た構造となっています。つまり美貌の新海美冬を支える水原雅也という関係です。しかし、大きく違うのは、雪穂と亮司の関係が自然発生的であったのに対し、美冬と雅也の関係は人為的に築かれたかの感があることです。まるで雪穂と亮司の関係を知っていて、その再現を企図したかのような。

 そして、雪穂についてはその半生が明らかになっているのですが、美冬は震災以前の経歴がよくわかりません。というより、過去を知っている人を寄せ付けず、やむを得ない場合は雅也を使って消してしまうほど。しかし雅也にも計略を使っており、雅也の殺人を知っている人物だと思わせて“雅也のために殺す”という態を取っています。このあたり、実は読んでいてすぐには気付かないケースもあるでしょうが、ミステリーずれしてしまった私はすぐに気が付きました。

宮部みゆきの火車 

 というか、美冬についても「こいつは宮部みゆきの『火車』(これも直木賞を受賞していないのが不思議な大傑作)の新城喬子だ!」とわりと早くに気付きました。つまり本物の美冬は震災で死亡し、それに成り代わった何者かが今の美冬であると。では美冬の正体は?

 美冬に疑念を抱き始め、独自に調べる雅也とは別に、一匹狼の刑事・加藤も美冬に異様な執着を見せ、独自の捜査を行っています。本書では美冬の視点は一切なく、雅也か加藤の視点が主となっていて、もちろんお互いの知っている事実は知らないままなんですが、読者からはそれぞれが知り得た事実を総合できるので、美冬の正体がはっきりと暗示されていきます。でもそれをはっきり明示してこないのが東野流。

幻夜キャスト 

 “二人の幸せのため”と称して基本自分の幸福のために雅也を使い倒す美冬。薄々それを感じながら美冬の呪縛から逃れられない雅也。美冬は明らかに属性・悪なんですが、その美貌とともに悪の魅力というものもありますね。

 なお野望達成の道具として雅也を使い倒している感もある美冬ですが、ここ一番では自分もちゃんと動いています。自ら手を汚すことも厭わないその姿勢はまさに悪の美学。女版ディオ・ブランドーと呼びたくなります。きっと美冬が悪と判っていて、それでもついてくる支持者も出るんではないかと。

加藤刑事、美冬、雅也 

 「白夜行」はラスト、雪穂を守るために亮司が命を落としますが、本作はちょっと違います。美冬に使い捨てにされていることに気付いた雅也は復讐を考えます。豪華客船でミレニアムの年明けを迎えようというラストシーンは華やかというか何というか。

 美冬は属性・悪なので、美冬の正体を暴こうとする加藤刑事は属性・善と言いたいところなんですが、この刑事は今ひとつ好きになれないんですよね。どうして加賀恭一郎みたいな刑事を持ってこなかったんだろうかと思っていたのですが…ラストを読んで理解しました。これは加賀恭一郎を持ってきてはダメだ(笑)。

美しい美冬 

 例によって未見ですが、2010年11月21日より2011年1月16日まで、WOWOWの連続ドラマW枠でテレビドラマ化されています。美冬役は深田恭子。おお、これはナイスキャスティング。巻末の解説で作家の黒川博行言っていますが、もう一作執筆して「白夜行」三部作なんていいんじゃないかと思うのですが、「幻夜」出版から10数年も経過してしまうともうないんでしょうかね。

 一見幸せを掴んで万々歳な美冬。悪の勝利的なエンディングなんですが、美冬本人は本当に幸せなのかな。傍から見ると充分幸せなはずの美冬ですが、彼女は一生幸せを求め続け、そして実感としてそれを得られないまま幸せに飢え続ける人生を送っているような気がします。

幸せを掴みたい美冬 

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