続・森崎書店の日々:記憶に生き続ける愛しき人・愛しき日々

GW後半なんて声も巷では聞かれますが…私のGWは今日からだッッ!!きっとロンバケ取れた人から見ると「君らがいる場所は、我々はすでに○日前に通過している」とか言われちゃうんでしょうけど。この頃の烈海王は嫌なヤツだったなあ。後にあんなにいい人になるとは。

本日は八木沢里志の「続・森崎書店の日々」を紹介しましょう。当ブログ本年3月18日付の記事で紹介した「森崎書店の日々」(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-1470.html)の続編です。
前作で失恋・退職の大ショックで影道・鳳閣拳を喰らったがごとくのされてしまった貴子は、叔父サトルの経営する森崎書店の二階で過ごすことで甦った訳ですが、それから2年が経過。貴子は28歳で堂々たるアラサーになりましたが、和田さんという恋人もでき、仕事も順調とまずまず順風満帆な日々です。相変わらず休日は森崎書店に入り浸っており、傍目から見ると若い女性がする事に見えないようですが。

本作は2011年12月1日に小学館文庫に書き下ろして刊行されました。映画化の後ということで、ヒットが予期されたんでしょうね。まずは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。
本の街・神保町で近代文学を扱う古書店「森崎書店」。叔父のサトルが経営するこの店は二年前失意に沈んでいた貴子の心を癒してくれた場所だ。いまでは一時期出奔していた妻の桃子も店を手伝うようになり、貴子も休みの日のたび顔を見せていた。店で知り合った和田との交際も順調に進んでいたが、ある日、貴子は彼が喫茶店で昔の恋人と会っているのを目撃してしまう。一方、病後の桃子を労う様子のない叔父を目にし、貴子は夫婦での温泉旅行を手配するが、戻って来てから叔父の様子はどこかおかしくて……。書店を舞台に、やさしく温かな日々を綴った希望の物語。

この内容紹介ではちょっと時系列がおかしくて、実際にはサトルと桃子を旅行に行かせる→和田が元カノと逢っているのを目撃するという流れです。それだけではなく、前作で親友となったトモちゃんの心の傷とか、桃子の病といった結構シビアな話が続いています。
前半、穏やかでのんびりとした時間が流れ、貴子が旧知の神保町の面々と憎まれ口をたたき合いながらの交流を楽しんでいてほんわかとしていたのですが、後半はかなりキツイ展開となります。そんな中で貴子が失恋の過去から心に壁を作っていること、トモちゃんが過去の事件により恋愛ができない精神状態でいること、などが判明していきます。なんとか乗り越えていく若き女性達ですが、その代わりに暖かく見守っていた桃子が逝ってしまうことに。

サトルの妻だった桃子が出奔し、5年ぶりに帰って来たのが前作でしたが、その時既に癌の手術をしたことが語られていました。あれから2年…怖れていた再発ということになり、しかももはや転移が進んで手遅れという事態。
貴子の窮地を暖かく包み込んでくれたサトルに訪れる精神的危機。桃子は貴子にサトルのことを託しますが、実はちゃんと自分自身でサトルを立ち直らせる手段を講じていたんですね。最後までスケール的に貴子やサトルが太刀打ちできない人でした。こういう人と一緒に暮らせたら、例えその時間は短くても生涯刻まれる記憶となるでしょうね。

ますます神保町の古本屋街に住んで見たくなりますね。かつて鬼の哭く街・A立区に住んでいた私は、中坊の頃に自転車(チャリと呼んでいた)で秋葉原まで遠征したりしていたので、足を伸ばせば神保町だって行けたのですが、当時は古書に興味はなく、神保町をうろつくのは大学生になるまで待たねばなりませんでした。高校生・浪人生までは書泉ブックマートとか書泉グランデの方に行ってました。いや大学生になっても行きましたけど(笑)。書泉ブックマートは“女子向け書店”とやらになった挙げ句に閉店してしまっとか。ああ、時の流れはかくも非情。

あの頃の秋葉原は電気の街で、オーディオの時代からビジュアル・パソコンの時代に移りつつありました。まだメイドさんなんか影も形もなかったんですが…まさかこんな街になるとは思いもしませんでしたよ。でも考えてみればオーディオマニアはオタクのプロトタイプだったのかも知れません。

登場人物を、いいところばかりではないけれど、丁寧に描くことで好感が持てる人物としてしまう八木沢マジック。貴子をひどい振り方をした前作の男・英明だけはフォローのしようもなかったのか外道なままでしたが。今回はやはり貴子に妙な接触をしてきた職場の先輩和田2号(姓が恋人と同じなため)が結構嫌な感じで登場していましたが、特にオチがなく終わっていたのが残念。和田1号と熱々な所でも見せつけて、ガツンと鼻っ柱でもへし折ってやれたら痛快なんですが、そういう作品じゃないということでしょう。

個人的に好きなのはトモちゃん。映画では田中麗奈が演じていましたが、清楚な容姿といい本好きなところといい、さらに抱えていた心の傷といい、個人的にストライクですね。高野にはもったいないのでぜひいただいてしまいたいところです。ああ、そんな器量があったなら。

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