記憶に残る一言(その77):鍋島香介のセリフ(スーパーくいしん坊)

イブの後のスーパー賢者タイムというか事後感漂うクリスマスですが、ガチの信者の方々にとっては本日こそが本番。昔知り合いのオーソドキシー(正教徒)に聞いたところによれば、クリスマスは家族で静かに過ごす日だそうですよ。

さて先日「ガーリッシュナンバー」の感想を書いた際に、最終回で主人公のクズ声優・烏丸千歳が放った「出来らぁっ!」にかつての松田聖子並みにビビビッと来たので本日は記憶に残る一言です。もちろん千歳のセリフではなく、元ネタの方の紹介です。

元ネタは1982年から1987年にかけて講談社の「月刊少年マガジン」に連載された「スーパーくいしん坊」における主人公鍋島香介のセリフです。原作は牛次郎、作画はビッグ錠です。

このコンビの作品というと一番有名なのは1973年から1977年にかけて「週刊少年ジャンプ」に連載された「包丁人味平」でしょう。こちらは単行本全23巻という大ヒットで、史上初の料理漫画とされています。その後の料理漫画や「料理の鉄人」のようなテレビ番組に見られる「料理勝負」や「解説」の形態を確立させている一方、ストーリー展開は命がけの猛特訓や、次々に現れるライバルとの対決など、スポ根漫画そのものでした。

「包丁人味平」の主人公塩見味平は中卒でコックの道に進んだ、駆け出しながらプロの料理人で、しかもパパンは日本料理で名人の域に達している五条流相伝者・塩見松造で、天才の資質を持っていました。

一方「スーパーくいしん坊」の主人公鍋島香介は洋食屋「くいしん坊」を経営する鍋島料市の一人息子で、この辺りは味平にいていますが、まだ中学生です。作るのが好きな味平に対し、香介は食べることが何より大好きで、そのせいかかなりのおデブです。そのためあだ名は「スーパーくいしん坊」。

余談ですが、「お口の中が宝石箱や~!」「お肉と野菜とたれの騎馬戦や~!」「味のIT革命や~!」などの数々の名言で知られる彦麿呂さん、今やヤバイほど太っておられますが、かつてはアイドルグループの一員だったそうです。

ほらこれが若い頃の彦麿呂。もはや別人です。グルメリポートはこれほど身体を蝕む恐ろしい仕事なのか?それとも単に食いしん坊なだけなのか?

閑話休題、香介は食べてるだけなら特に問題はないのですが、実はかなり喧嘩っ早い性格で、特に料理のことになると人が変わったようになってしまいます。そのため作中に登場する料理人と、売り言葉に買い言葉で喧嘩になって料理勝負にもつれ込むというエピソードが多くなっています。流れを「いけない!ルナ先生」でおなじみのチャート式で示すと…

①香介が料理人に難癖つけるなどする
↓
②ならお前が作ってみろとプロに言われる(売り言葉)
↓
③「この程度の○○くらい、俺だってつくれらー!!」(買い言葉)
↓
④料理勝負!!
↓
④香介の斬新なアイデアで勝負に勝つ

という展開が毎度のお約束です。こんなんでルナ先生使うのはもったいなかったかなあ。ともあれ、味平はプロの料理人だからまあ理解できなくもないですが、香介はただの食いしん坊で中坊の分際でプロに戦いを挑むというのは一体どういうことなんだ。プロも素人の挑戦なんか受けるなよ(笑)。しかーし、勉強も運動も人並み以下な香介ですが、こと料理に関してはプロ顔負けの才能を持っており、味平さながらに奇抜なアイディアを生み出して勝利を収めていくのです。これは中学卒業後は味平同様プロの道に進むのでしょうか。

で問題のセリフは、「美味ステーキ勝負の巻」という前後編のエピソードにありました。新装開店したステーキ屋の折り込みチラシに「ステーキ(200g)980円」とあったことから、香介は「こんな値段でうまいステーキが出せるはずがない」と驚き、パパンと味を確かめるために店に向かいます。980円ステーキを注文すると、しっかりやわらかくて美味しいステーキでした。一体どんな工夫を?と考えていると、香介親子が洋食屋であることが発覚し、店主から味を盗みに来たのかといいがかりを付けられてしまいます。

香介は盗まなくても「いい肉さえあれば誰だって焼けらあ」と言うが、ステーキ屋の店主に「この肉が980円で出せるか?」と返されてしまいます。そして例の画像へとつながり、ステーキの料理勝負をすることになるのです。

ここでぐぬぬ…!のままならそれでおしまいだったのでしょうが、そこは喧嘩っ早い香介。頭に血が上って言ってしまったのが今回のセリフです。

プロとして聞き捨てならないセリフだということで、聞き返した店主に対し、さらに追い打ち。

パパンは必死に取りなそうとしますが、さすがにクソガキに二回も言われては立つ瀬がありませんな。

そういう訳でお約束の料理勝負に突入ということになります。しかしここでおかしいのは、香介が驚いていることです。

大事なセリフなので二回載せました(笑)。「同じ値段でもっとうまいステーキを食わせられる」と啖呵を切っておきながら「「え!!おなじ値段でステーキを!?」と驚く香介。頭の中までコレステロールで一杯になっているのでしょうか。お前が「できらぁっ!」つったんじゃんかよ。

この抱腹絶倒な流れ、さすがにおかしいと思う人が多くて「左右のページが逆なのではないか」などとと言われることもあるのですが、実際ページの流れはこれで合っているのです。それは座っていた香介が激昂して起ち上がって、そのまま立っているという様子からも窺えるかと思います。

いかにも悪そうなステーキ屋の店主ですが、実は安くて旨いステーキの秘密は、直営牧場から良質の肉を安く仕入れ、10年も工夫して作り上げた秘伝のソースを使っているという、ごくごく正統派の企業努力の成果でした。これに難癖つけるなんて香介の性格が悪いだけなんじゃないのか。

これに対して香介は安い赤身の肉に脂肪を縫い付け、刻んだ野菜に肉を漬け込んで柔らかくし、余分な脂は半紙に吸い取らせせるという奇策で対抗。主人公属性により審査員(要するに客)は香介サイドの肩を持ちます。

ですが正統派のステーキ店だったせいか、話の判るオーナーが登場し、半紙で脂を吸い取るという方法を使わせて貰う代わりに直営牧場の肉を安く卸すということで平和に解決となりました。

パパンはあきれていますが、香介は今後の洋食店経営に多大な貢献をしているといえ、むしろパパンの無能さが際立っているような。早いところ香介に店を譲った方がいいかも知れません。

なお、野菜に漬け込んで肉を柔らかくするという手法は、香介がステーキ屋の厨房を覗いてパクったものなので、ステーキ屋の店主の「厨房覗いて技術盗む気だったろ!」というセリフは言いがかりでもなんでもなく、正しい指摘だったと言わざるを得ません。今だったら赤身肉に脂肪を縫い込むという香介の牛肉魔改造は、偽装事件として立件されてしまったりして。まあ豚肉を牛肉に縫い付ける中国のレベルにはとても及びませんけどNE!!

スポンサーサイト