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十二人の手紙:手紙が示すそれぞれの人生の行方

12月ですってよ奥様

 あれよあれよという間に大好きな11月が過ぎ去り、いよいよ12月ですってよ奥様!!静かで穏やかだから好きな11月ですが、今年ややたら寒かったり雪が積もったりと大騒ぎだった印象です。12月も華やかで嫌いではないのですが、せわしなくて落ち着かないんですよね。

十二人の手紙 

 本日は井上ひさしの「12人の手紙」を紹介します。井上ひさしと言えばビッグネームですが、実は当ブログで紹介するのは初めてという体たらくです。

井上ひさし 

 井上ひさし(1934年11月17日~2010年4月9日)は山形県東置賜郡川西町出身。本名は廈(ひさし)で、中国の厦門(アモイ)に由来するそうです。父が幼少期に亡くなったり、母が再婚した義父に虐待を受けたあげく有り金を持ち逃げされたり、生活苦からカトリック修道会の孤児院に預けられたりと色々あったようです。

浅草フランス座 

 上智大学仏語学科在学中から浅草のフランス座(ストリップ劇場:現在は浅草フランス座演芸場東洋館)で劇場座付き作者となり、照明係などの雑用をこなしながらコントの台本を書いていました。当時のストリップは1回2時間程度のショーに先駆け、1時間程度の小喜劇を出し物としていて、フランス座では渥美清、谷幹一、関敬六、長門勇と言った日本を代表する喜劇役者の若き日の活躍の場でした。さらに言えばフランス座では若き日の萩本欽一やビートたけしもコントをやっていました。

フランス座出身者 

 大学卒業後は放送作家として活躍し、「ひょっこりひょうたん島」などを手掛け、その後戯曲の執筆を始め、小説・随筆等にも活動範囲を広げていきました。1972年の「手鎖心中」で直木賞、1981年の「吉里吉里人」で日本SF大賞、星雲賞日本長編部門、読売文学賞などを受賞しています。

ひょっこりひょうたん島 

 私が読んだことがあるのは映画化された「ドン松五郞の生活」(1975年)くらいで…もしかすると他にも「モッキンポット師の後始末」あたりは読んだことがあるかも知れませんが、覚えてません。なぜ敬遠気味にしていたかというと、政治的に左派だから…ではなく(作家に左派的な言動をする人は腐るほどいますから)、最初の奥さんとの離婚を巡って、今で言うドメスティック・バイオレンスが大々的に報道されからなんですね。

ドン松五郞の生活 

 井上ひさしは遅筆で有名で、自ら「遅筆堂」を名乗っていたほどですが、自ら劇団を立ち上げておきながら、書き下ろし戯曲が公演に間に合わず休演させるということが度々ありました。完成した戯曲の評価は極めて高いので、クオリティーがスピードを犠牲にしていたと言えるかも知れません。それはそれとして、いただけないのが、筆が進まなくなったりすると奥さんに暴力を振ったことで、しかも編集者も「あと二、三発殴られてください」などと暴力を煽るようなことを言ったそうです。

DV作家井上ひさし 

 井上ひさしは写真で見るととぼけた感じの善人風なんで、そのギャップが怖いなあと感じたものでした。奥さん(西舘好子)はDVついて「「肋骨と左の鎖骨にひびが入り、鼓膜は破れ、全身打撲。顔はぶよぶよのゴムまりのよう。耳と鼻から血が吹き出て…」と克明に記しており、井上ひさしもエッセイでユーモア混じりにDVについて触れています。しかし人気作家だったせいかマスコミ側が擁護の立場を取り、井上ひさしがDVについて一切黙殺する姿勢を取ったこともあり、公職や公的活動も一切控えることもなく、特に追及する声も起こらずに収束していきました。現在なら絶対アウトですけどね。作品と作家の人間性は分けて考えるべきという考え方もあり、それはそれで正しいのでしょうが、作家の人間性が好きになれないと、どうしても作品を手に取る気にならなくなるんですよね。

吉里吉里人 

 まあ作家の人間性についてはこれくらいにして本題に入りましょう。「十二人の手紙」は1978年6月に中央公論社から単行本が刊行され、1980年に中公文庫から文庫本が刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して主人の毒牙にかかった家出少女が弟に送る手紙など、手紙だけが物語る笑いと哀しみがいっぱいの人生ドラマ。 

 タイトル通り、十二人の人生が、十二編の短編で描かれていますが、それが手紙文のみで記されています。作品によっては手紙ではなく出生届けとか婚姻届とった公的書類ばかりで構成されているものもありますが、それでもなんとなく状況が読み取れてしまうというところが作者の腕なんでしょうね。

 12編はそれぞれ独立した作品なのかと思いきや、エピローグで思いも描けぬ関係者の集合が行われます。そこで一部登場人物の重複も発見されたりして。作者が書いていてくれたので判明しましたが、見落としていました。重複はエピローグに登場する人物ばかりでなく、2話に登場した作家が11話で殺害されていたりもします。

 各短編ともどんでん返しあり、悲しみあり笑いありで趣向を凝らしており、これほど凝った作品を描くならばそれは遅筆にもなるよなと思わせます。40年近く昔の作品なので、今ならメールとかLINEでやりとるするようなところが全部手紙になっていますが、手紙(それも肉筆)の情緒はそれらに圧倒的に勝ると思います。ま、私は悪筆なのでメールなら出しても手紙だったら滅多に出さないでしょうけどNE!あと、当時だって電話くらいはあっただろうという無粋なツッコミはとりあえずなしにしておきましょう。

 で、第一話にしてプロローグの「悪魔」において、最後の手紙の内容が消化不良だと思っていたら、これがエピローグの伏線になっていました。そこはなかなかに見事なんですが、最後の殺人トリックについてはミステリー好きとしてはやや?ですね。いや、死への誘導までは見事なんですが、警察にはあっさり謀殺だとバレるのではないかと。古き良き時代のミステリーなら、名探偵の登場しない警察は右往左往するばかりでひたすら無能なのかも知れませんが、素人が気づくようなトリックならさすがに警察だって気づくでしょう。なにより現場が他の場所と全然違う状況になっていたらねえ。

 読者に対する「騙し」のテクニックは存分に発揮しており、第7話「鍵」なんかはかなりミステリー寄りなんですが、ミステリー小説として読むのはどうかと。ミステリー風味のある普通の小説として読めば一級品だと思いますが。

 第9話「シンデレラの死」は、悲惨な境遇を這い上がって花開こうとしていた女優の卵の悲劇的な死…と思いきや、全部妄想の産物だったというオチですが、この人の手紙の内容は全て虚構なのかという点で首をかしげる部分があります。最初の手紙の内容なんかは相当真実に近いのではないかと思えるし、全部嘘なら自殺する必然性もないのですが、どこからが嘘でどこまでが本当かわからないのが悩ましいです(だがそればいい、なのかも知れませんが)。

 ハッピーエンドの予感がするもの、救いのないもの、その後どうなるのか心配になるもの、色々な人生が詰まっていますが、傑作だと思いますのでぜひご一読をお勧めします。
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