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2016年アニメベスト10:本年視聴した作品から(本年放映とは言ってない)です

5-3マップ
大損害の末5-3攻略成功 
5-4への道が開く
 
 たまにやってる艦これ速報ですが、先日遂に難関だったマップ5-3を突破しました。クリア直後の艦隊の惨状を見て下さい。よくぞこれでボス艦隊を倒せたものです。というか、これくらいの犠牲を払わなければならない強敵だということなんですが、それを5回繰り返さないとならないんですよね。

5-4map.png 5-4攻略あっさり成功
 

 その後のマップ5-4は“天国”と呼ばれています。戦場に天国ってなんだよと思いましたが、プレイしてみたら確かに天国でした。5-3はいきなり夜戦の連続、でもボスとは昼戦、さらに空母を入れるとボスに辿り着けないというハンデキャップばかりでしたが、5-4はそういう制約が一切ないので我が精鋭艦隊を思う存分投入できました

中部海域への道が開ける

 そういう訳であっさり5-4は突破し、6面「中部海域」に突入しました。でもなあ…いきなりマップ6-1は潜水艦しか使用できず、またまた難関マップなんですよ。我が艦隊の潜水艦は4隻(戦力として期待できない「まるゆ」を除く)しかなく、をここを突破出来るのはいつの日か。

2016年冬アニメダイジェスト 

 本日の本題ですが、2016年視聴アニメのベスト10というのをやってみたいと思います。当ブログで大晦日を迎えるのは5回目なんですが、これまでなぜこの企画に気づかなかったし。それぞれの作品の感想などについては既に過去記事で書いておりますので、今回はあっさり紹介のみで。

クロムクロ20161231 

 ベスト10に入る前に次点から。その1は「クロムクロ」。P.A.WORKS初のロボットアニメにして2クールものでした。現地調達式というユニークな侵略方法を取る異星人との戦いを描いていました。効率的といえば効率的ですが、これって本星の異星人は既に滅んでいて、AIと機械だけがその意思を継いでいるのかな、なんて思ったりして。

クオリディアコード20161231 

 次点その2「クオリディアコード」。これも侵略ものですが、別世界(別次元?平行世界?)からの侵略者と戦う少年少女…しかしその実相は!というセンスオブワンダーな展開は良かったです。が、話が面白かっただけに作画が非常に残念でした。これがベスト10入りを逃した理由。

ふらいんぐうぃっち20161231 

 それではベスト10。10位は「ふらいんぐうぃっち」。青森を舞台にした魔女と親戚一家のお話。ひたすらのどかでゆったりとして、癒される展開が個人的に好きでした。青森に行ったら普通に魔女とか住んでそうな気になります。

亜人20161231
 
 9位「亜人」分割2クールでした。いわゆる正義の味方のようなキャラがおらず、クズや悪人ばかり出てくるという感じでした。善人はいるけどこの人も異様でとても共感は出来ないという。そんな中、吹っ切れた悪人ぶりを見せた佐藤さんには声援を送りたくなってしまいました。遊んでるだけなんですけどね。

GATE20161231.jpg 

 8位「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」。2016年に放映されたのはは分割2クールの後半(炎龍編)でしたが、2015年に放映された前半(接触編)も込みの評価です。原作はまだ続きがあるので、ぜひ新シリーズを制作して欲しいのですが、主要キャラの一人である亜神(亜人にあらず)ロゥリィ役の種田梨沙が病気療養中なので…。早く快癒するといいのですが。

魔法少女育成計画20161231 
 
 7位「魔法少女育成計画」。「魔法少女まどか☆マギカ」以来のパンチ力を持っていた魔法少女もの。完成度はまどマギの方が上ですが、こちらは幼女すら殺す凄惨な描写がインパクト大でした。今回のは言わば「魔法少女スノーホワイト誕生編」とでも言うべきエピソードで、これからが本格的活躍となりそうなので、続編を強く期待します。何もしなかった(できなかった)スノホワちゃんは、後には“魔法少女狩り”の異名を持つそうですが、そこまで強くなるのか。

ガーリッシュナンバー20161231 

 6位「ガーリッシュナンバー」。マジか!?と思われそうですが、通して見たらこれ結構面白いですよ。主人公烏丸千歳は確かにクズですが、それなりに一本筋の通ったクズになったし、他の声優さんは悩みはそれぞれ持ってはいても、クズどころかむしろいい人ばっかりだし。OPとFDも良かったです。

ネトゲの嫁20161231 

 5位「ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?」。オタク趣味+ハーレム展開の中二病まっしぐらな作品でしたが、これは面白かった。現実にはありえないでしょうが、いいなあ、こういう高校生活送りたかったなあと思いました。日高里菜のキンキン声が苦手だったんですが、亜子役はすごく嵌まっていて実に良かった。

ハルチカ20161231 

 4位「ハルチカ~ハルタとチカは青春する~」。何かと「響け!ユーフォニアム」と比較されがちな吹奏楽部ものですが、こちらはミステリー色が加わっています。私がミステリーが好きだということもありますが、ブリドカットセーラ恵美演じるチカちゃんこと穂村千夏の魅力に完全にやられました。私史上最高のヒロインの一人だと思います。続編を激しく期待しています。

のんのんびより20161231 

 3位「のんのんびより」。第2期の「のんのんびより りぴーと」も含めます。2013年と2015年放映ですが、視聴したのは今年なのです。田舎の女の子達の日常生活を描いていますが、どことなく懐かしい郷愁を感じさせる作品です。やたらハイテンションな声優という印象しかなった村川梨衣がちゃんとした声優(失礼)だということを初めて知った作品でもありました。

蒼き鋼のアルペジオ20161231 

 2位「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」。これも2013年作品ですが、視聴したのは今年なもんで。「艦これ」きっかけに視聴したのですが、以前「艦これ」ともコラボしていたのですね。それには間に合いませんでしたが(涙)。余勢を駆って「劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- DC」と「劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- Cadenza」も見ちゃいました。海戦ものは最高ですね。

SHIROBAKO20161231.png 

 1位「SHIROBAKO」。2014年から2015年にかけて放映された作品ですが、やはり視聴したのは今年。「それが声優!」とか「ガーリッシュナンバー」のようなアニメ業界ものであり、かつP.A.WORKSとしては「花咲くいろは」に続く働く女の子ものです。メインキャラ可愛すぎとか、業界にいい人ばかりといった演出上仕方が無い誇張はありますが、とにかく面白く見ることができました。

2016年アニメダイジェストその2 
 
 ということで、2016年アニメベスト10のベスト3は本年の作品ではなかったという結果になってしまいましたが、順位はさほど問題じゃないです。今年も面白いアニメを見させてくれて有難うございました。来年もよろしくお願いします。

沼倉愛美20161231

 余談ですが、今後「好きな声優さん第5期」で紹介していきたい声優さんが何人か浮上しましたので、近日公開ということで名前だけ挙げておきます。まずは沼倉愛美。最近まで「恋愛ラボ」の倉橋莉子しか知らなかったのですが、重巡洋艦タカオを始め遠藤サヤとかリップルなど、今年視聴した作品に登場していました。

速水奨20161231 

 続いて速水奨。80年代から活躍するベテランですが、今なお大活躍中という息の長声優さんです。「ホスト声」「声で孕む」などと称される美声で知られます。

杉田智和20161231 

 最後に杉田智和。売れっ子ながら、他の声優に変な仇名を付けるとか、はやみんが大好きだとかいう、妙なことで知られる声優ですが、最近聞き始めた「アニゲラ!ディドゥーーン!!!」が無茶苦茶面白いのでこれは取り上げるしかないなと。オタ知識が豊富で、やけに古いものに詳しいんですよね。あと物真似がやたら上手い。
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2016年秋季アニメの感想(その3):亜人 第2クール/ユーフォニアム2


 少し時期を逸した感がありますが、クリスマスを楽しむリアル明里ちゃん画像です。赤鼻のトナカイ帽子がよく似合いますが、“帽子”なんて通称が付いてしまうと亜人の佐藤さんになってしまうぞ(これで前振りOK)。

亜人最終話 

 それでは遅くなりましたが2016年秋季アニメの感想の最終回です。「響け!ユーフォニアム」が13回で、しかも年末まで引っ張ったせいなんですが、まずは「亜人」第2クールから。

佐藤さん無双 

 「佐藤さん、あんたのせいでメチャクチャだ」「佐藤さんは遊んでいるだけだ」など、全国の佐藤さんが風評被害を受けそうなセリフが連発されましたが、それだけ佐藤さんの無双ぶりと存在感が圧倒的な作品でした。一応主人公の永井とか戸崎(途中からフリスク食べなくなったな)の存在が霞むほどの強さと、明らかになった無目的ぶりが面白かったですね。

クズ主人公永井 

 基本善人と思える登場人物がおらず(厳密には一人いるけど後述するようにそいつも異常)、酷い目にあっても殺されてもあまり気にならないという、殺伐とした作品ながら視聴するにストレスがかからないという不思議な作品でもありました。

佐藤さんと相棒の田中さん 

 亜人を糾合して人間社会(というか日本)に対して超過激なテロ行為を継続し、亜人の権利を認めさせるのかと思いきや、実はひたすら戦いたかっただけの戦闘狂だったというオチに、従っていた亜人の多くは離脱してしまいましたが、非人道的な虐待実験を受けていたところを佐藤さんに助けられた田中さんだけは最後まで佐藤さんと行動を共にしていました。やはりこういう人が一人はいてくれないと。

中野のIBMなのか 

 逆に佐藤さんに助けて貰ったくせに刃向かい続ける永井の方が「人としてどうよ」(亜人だけど)という感じがしてしまったりして。まあこいつは性格がクズだから仕方ないか。佐藤さんい言わせると永井との差は、静かに暮らしたいか、遊んでいたいかというだけしかないそうですが。

永井のフラッド現象 

 麻酔銃で意識を失ってもIBM(黒い幽霊)を自律的に行動させ、自分を殺させてリセットするなど、本人もIBMも戦闘力が高くて手に負えない感があった佐藤さんですが、最後は永井の主人公属性が炸裂し、同時にIBMを多数出現させるという「フラッド現象」(前例はあるけど稀な現象)を発生させて佐藤さんと田中さんをKOし、米軍特殊部隊に引き渡しました。

拘束された佐藤さんと田中さん 

 佐藤さん達の与えたあまりのインパクトに、日本政府も亜人の権利を真剣に考え出し、これで永井に念願の平穏な生活が戻るのかと思いきや、佐藤さんたちはあっさり脱出し、再びゲームを始める構え。俺達の戦いはこれからだ!という打ち切れマンガ的なオチで終了してしまいました。これは続編とか劇場版への伏線なんでしょうかね。

輸送機爆破 

 殺したら復活してしまう亜人を無力化するには麻酔というのはまあいいんですが、強力な拘束衣を着せておけば目覚めても大丈夫だろうという米軍の措置はどういうことか?アメリカの方が研究が進んでいるはずなのに、なぜにIBM対策がないのでしょうか。最低IBMが出せないとかIBMの活動を阻害するといった措置を執らないと、亜人をいくら動けなくしてもあまり意味はないのでは。もっとも佐藤さんはIBMは使わず、体内に持っていた爆弾を爆発させたようですが、身体検査はちゃんとやろうよ米軍特殊部隊。

俺達の戦いはこれからだ 

 そもそもIBMは亜人が死から復活するための必須の物質のようですが、それをスタンドのように動かせる亜人と、出せない亜人がいるのはどういうことなんでしょうか。持って生まれたIBMの量の差なのか、技術的な問題なのか。オグラ博士は死んだ回数が多い方がいいという趣旨のことを言っていましたが。永井の相棒(永井的には勘弁してくれという表現でしょうが)の中野は最後の最後にようやくIBMを出したようですが、努力すれば亜人は全員IBMが出せるのかな?仮に亜人の天下となってもIBMを出せるか出せないかでまた差別が起きたりして。

異常な善人海斗 

 そうそう忘れてた。クズとか悪人ばかりに見える本作で唯一善人に見える永井の友人海斗ですが、この人の自己犠牲ぶりはむしろ不気味なほどで、何らかの精神疾患なんではないかと思えるレベルです。佐藤さんよりもむしろ海斗の心のありようの方が気味が悪かったですね。

まだやんのかよ 

 おまけ:こうだったら笑える① 佐藤さんの「殺すリスト」に掲載されていた要人全員、殺してみたら実は亜人

 こうだったら笑える② 植物状態の戸崎の婚約者、実は亜人で一度殺せば復活するのに誰も知らない

戸崎と下村 

 こうだったら笑える③ 亜人の復活回数には制限があり、頭の上に残り回数が表示される

 こうだったら笑える④ 事件事故では死なない亜人だが、老衰で死ぬ

 こうだったら笑える⑤ 亜人は不死だが不老ではなく、数十年後にはボケ亜人だらけの世界になる

響け!ユーフォニアム2 20161230 

 続いて最後の作品「響け!ユーフォニアム」です。原作の本編3巻に関し、第1期で1巻を、第2期で2巻と3巻をアニメ化しているようです。京都府大会で近称を取って関西大会進出を果たした北宇治高校吹奏楽部の関西大会、そして全国大会での活動が描かれています。

黄前久美子2期 

 が、関西大会での演奏についてはしっかり描かれた一方、全国大会では事前と事後の絵のみで演奏シーンは一切ありませんでした。これはあれか?所詮銅賞だったので描いてもあまり意味がなかったということなのか?でも関西大会より技術は向上していたという話だったので、聞かせてくれても良かったのに。

 本作は演奏シーンに高い評価がなされているようですが、むしろ描かれているのはそれ以外の部員の軋轢。第1期ではいい具合にドロドロしていて、この方向でドロドロしまくって欲しかったのですが、第2期のドロドロはあまり私にとってはまりいい具合ではありませんでした。

なぜ緑輝をもっと出さない 

 私は「好きなアニメキャラ」でも取り上げた川島緑輝(さふぁいあ)のほか、トランペットリーダーの中世古香織とか途中で退部した斉藤葵が好きなんですが、第2期では彼女らの登場シーンが非常に少なかった。これが不満のその1。緑輝はもっと活躍して欲しかったし、香織と葵は(色んな意味で)堕ちて欲しかったんですが…

久美子とあすか 

 中心となって描かれていたのは主人公黄前久美子と副部長田中あすか。鎧塚みぞれと傘木希美のエピソードもあったけど、それも結局はこの二人というより久美子とあすかを描くための狂言回しだったような気がします。そして二人とも家庭問題に振り回されると。

黄前麻美子 

 久美子の方は、親の言うがままに楽器を捨てて大学を受験した姉の麻美子が、やっぱり美容師になりたいと大学中退したいと言いだして親と揉める話に振り回されていました。これについては親が言うとおりとりあえず大学を卒業してからでもいいんじゃないかと思いましたが…。麻美子は今じゃなきゃダメだとはいうものの、なぜダメなのかを説明してなかったのでどうしても親の肩を持ちたくなりました。私の年もずっとそっちに近いせいですかね。

吠えろあすかママン 

 そしてあすかの方はちょっとキジルシ気味なママンが受験のために退部させたいと。十分成績はいいのになぜかと言えば、あすかが別れた夫(あすかのパパン)と同じユーフォニアムを演奏し続けることが不愉快だった様子。なぜ別れたのかとか詳細不明ですが、あすか的には離れ離れになったパパンへの思慕があったことは確実でしょう。

塚本にはこういう顔をする久美子 

 で、この二人がどうにも好きになれなくて。まず久美子ですが、学校で友人達といるとき(ソト)と、家で家族に接したり、幼馴染みの塚本秀一に接するとき(ウチ)のギャップが激しすぎです。というか、「ウチ」における態度が悪すぎて正直ドン引きしました。もっと普通の態度が取れないものか。それともこっちが素で、「ソト」での態度は演技なのか?とにかく久美子の「ウチ」における声とテンションの低さが嫌でした。

エゴだよそれは 

 そしてあすかの方は、誰に対しても自分は何でも知っているという感じの上から目線バリバリのわりに、自分のママンすら上手に御せないというギャップが。あすかの人を食ったような態度や、他人の事情を一切顧慮せずに演奏のことだけしか考えていないところは、結局のところ自分の演奏をパパンに認めて貰いたいという欲求に由来していたものだったという。

アムロもう一つのセリフ 

 ついでにこのアムロのセリフを贈りたくなりますな。これは「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」でシャアに対して放ったセリフですが、ついでにこのセリフをあすかに贈りたい。

鎧塚みぞれ 
傘木希美 
問題解決後の鎧塚みぞれ 

 鎧塚みぞれと傘木希美の一件もそうですが、何でも知っているような態度でいたあすかですが、本当の問題点がどこにあったのかは承知していませんでした。まあ一介のJKにそこまで洞察しろと言うのも無理な話ではあるのですが、あのまま二人の問題が解決しなかったとしたら、唯一のオーボエ奏者である鎧塚みぞれは本領を発揮できず、北宇治高校吹奏楽部は全国大会に出場できなかった可能性があります。とすれは結果論ですが、あすかの態度は「吹奏楽部のため」といいながら実は吹奏楽部のためにはなっていなかったという。これに関し、全てが解決した後、あすか自身はどのように考えたのかは一切描かれていませんが、正直ちょっと反省したくらいの描写があるべきだったと思います。

ドヤ顔のあすか 

 そしてママンとの一件。これも成績的には部活を辞める必然性がないのに、仕事で忙しい中わざわざ高校までやってきて学校側と直談判に及んだ理由は、あすかの態度にあったのではないかと。つまり、あすかがパパンを偲んでユーフォニアムを練習するのはいいとして、ママンの目の前とか、聞こえるところやりはしなかったのか。完全にママンの感知しないところで練習し、成績もキープしていたとしたら、あそこまでママンが感情的になることはなかったと思われます。

叩かれるあすか 

 つまりこの子は頭でっかちで、他者への配慮とか共感といった部分がかなり欠如しているように思います。まだまだ人間的に未完成な高校生だから当然と言ってもいいのですが、だったらその上から目線を何とかしろと思いたくなります。まあ同級生とか下級生から見たら凄い人に見えるのでしょうが、おっさん視点からは見てて恥ずかしくなるんですよねえ、この子。でもあすかのような態度で、年下の人々を煙に巻いたり魅了したりする人は世の中に結構居ます。そう、インテリとか権威筋とか言われる人々の中にです。この子もそういう胡散臭い大人になってしまうのかな。いっそ闇堕ちして欲しかったんですが。

闇を抱えるあすか 

 後は恒例(?)、久美子と麗奈の百合ップルですが、こちらは後半影を潜めてしまいましたね。もっと百合して欲しかったんですが、基本麗奈は滝先生一本槍だからなあ。麗奈はトランペットの技術は一流なんですが、それ以外は先輩の香織に全く敵わない子ですね。基本自分の事しか考えない自己中なので、2年生になって人望というものを身につけていけるかどうか。

百合というか同衾シーン 迫る麗奈

 批判みたいになっちゃいましたが、最後まで見ましたからダメな作品という訳ではないのです。単に私の望む方向に行かなかったというだけで。でもそれは原作がそうなっていたら仕方のないことなんでしょうね。世間一般的には吹奏楽部を題材とした「響け!ユーフォニアム」と「ハルチカ」を比べると、圧倒的に前者が支持されるのだと思いますが、私は「主人公の魅力」という観点だけでも圧倒的に「ハルチカ」が好きです。穂村千夏と黄前久美子では比較することすら烏滸がましいです。

アホ可愛いチカちゃん 
 
 あと、作品とは直接関係ないんですが、吹奏楽コンクールの表彰の仕方というのも素人目には違和感がありますね。金賞銀賞銅賞があるというのはいいとして、参加すれば必ず銅賞を貰い、金賞を受賞しても上位大会に出られない場合がある(いわゆる「ダメ金」)というあたりが特に。

ダメ金で泣く麗奈

 金賞=金メダル、銀賞=銀メダル、銅賞=銅メダルと解釈すれば、上位3校に金銀銅賞を与えて上位大会に行かせればいいのにとか、上位大会に行ける学校のみに金賞を与えればいいのにとか思うのですが点。吹奏楽の演奏というのはスポーツと違ってはっきり優劣とか勝敗を付けにくいものだとは思いますが、もっと判りやすい仕組みにすればいいのにと思ってしまいます。ま、素人考えなのでこんなところでぼやいていても何も変わらないでしょうけど、積極的に変えたいわけでもないので別にいいんです。

ダメ金久美子 

記憶に残る一言(その77):鍋島香介のセリフ(スーパーくいしん坊)

メリクリですな

 イブの後のスーパー賢者タイムというか事後感漂うクリスマスですが、ガチの信者の方々にとっては本日こそが本番。昔知り合いのオーソドキシー(正教徒)に聞いたところによれば、クリスマスは家族で静かに過ごす日だそうですよ。

できらあ! 

 さて先日「ガーリッシュナンバー」の感想を書いた際に、最終回で主人公のクズ声優・烏丸千歳が放った「出来らぁっ!」にかつての松田聖子並みにビビビッと来たので本日は記憶に残る一言です。もちろん千歳のセリフではなく、元ネタの方の紹介です。

スーパーくいしん坊1巻 

 元ネタは1982年から1987年にかけて講談社の「月刊少年マガジン」に連載された「スーパーくいしん坊」における主人公鍋島香介のセリフです。原作は牛次郎、作画はビッグ錠です。

包丁人味平1巻 

 このコンビの作品というと一番有名なのは1973年から1977年にかけて「週刊少年ジャンプ」に連載された「包丁人味平」でしょう。こちらは単行本全23巻という大ヒットで、史上初の料理漫画とされています。その後の料理漫画や「料理の鉄人」のようなテレビ番組に見られる「料理勝負」や「解説」の形態を確立させている一方、ストーリー展開は命がけの猛特訓や、次々に現れるライバルとの対決など、スポ根漫画そのものでした。

ノリが体育会系の味平 - コピー 

 「包丁人味平」の主人公塩見味平は中卒でコックの道に進んだ、駆け出しながらプロの料理人で、しかもパパンは日本料理で名人の域に達している五条流相伝者・塩見松造で、天才の資質を持っていました。

スーパーくいしん坊全9巻 

 一方「スーパーくいしん坊」の主人公鍋島香介は洋食屋「くいしん坊」を経営する鍋島料市の一人息子で、この辺りは味平にいていますが、まだ中学生です。作るのが好きな味平に対し、香介は食べることが何より大好きで、そのせいかかなりのおデブです。そのためあだ名は「スーパーくいしん坊」。

ヤバイほど太った彦麿呂 

 余談ですが、「お口の中が宝石箱や~!」「お肉と野菜とたれの騎馬戦や~!」「味のIT革命や~!」などの数々の名言で知られる彦麿呂さん、今やヤバイほど太っておられますが、かつてはアイドルグループの一員だったそうです。

若い頃の彦麿呂 

 ほらこれが若い頃の彦麿呂。もはや別人です。グルメリポートはこれほど身体を蝕む恐ろしい仕事なのか?それとも単に食いしん坊なだけなのか?
 
 覗いてたじゃないか

 閑話休題、香介は食べてるだけなら特に問題はないのですが、実はかなり喧嘩っ早い性格で、特に料理のことになると人が変わったようになってしまいます。そのため作中に登場する料理人と、売り言葉に買い言葉で喧嘩になって料理勝負にもつれ込むというエピソードが多くなっています。流れを「いけない!ルナ先生」でおなじみのチャート式で示すと

ルナ先生のチャート式 

①香介が料理人に難癖つけるなどする
②ならお前が作ってみろとプロに言われる(売り言葉)
③「この程度の○○くらい、俺だってつくれらー!!」(買い言葉)
④料理勝負!!
④香介の斬新なアイデアで勝負に勝つ

ルナ先生その2 

という展開が毎度のお約束です。こんなんでルナ先生使うのはもったいなかったかなあ。ともあれ、味平はプロの料理人だからまあ理解できなくもないですが、香介はただの食いしん坊で中坊の分際でプロに戦いを挑むというのは一体どういうことなんだ。プロも素人の挑戦なんか受けるなよ(笑)。しかーし、勉強も運動も人並み以下な香介ですが、こと料理に関してはプロ顔負けの才能を持っており、味平さながらに奇抜なアイディアを生み出して勝利を収めていくのです。これは中学卒業後は味平同様プロの道に進むのでしょうか。

生意気香介 

 で問題のセリフは、「美味ステーキ勝負の巻」という前後編のエピソードにありました。新装開店したステーキ屋の折り込みチラシに「ステーキ(200g)980円」とあったことから、香介は「こんな値段でうまいステーキが出せるはずがない」と驚き、パパンと味を確かめるために店に向かいます。980円ステーキを注文すると、しっかりやわらかくて美味しいステーキでした。一体どんな工夫を?と考えていると、香介親子が洋食屋であることが発覚し、店主から味を盗みに来たのかといいがかりを付けられてしまいます。

店主の反論 - コピー
 
 香介は盗まなくても「いい肉さえあれば誰だって焼けらあ」と言うが、ステーキ屋の店主に「この肉が980円で出せるか?」と返されてしまいます。そして例の画像へとつながり、ステーキの料理勝負をすることになるのです

出来らぁっ! - コピー

 ここでぐぬぬ…!のままならそれでおしまいだったのでしょうが、そこは喧嘩っ早い香介。頭に血が上って言ってしまったのが今回のセリフです。

父ちゃんは止めようとしたが 

 プロとして聞き捨てならないセリフだということで、聞き返した店主に対し、さらに追い打ち。

面白い小僧だ 

 パパンは必死に取りなそうとしますが、さすがにクソガキに二回も言われては立つ瀬がありませんな。

ステーキ勝負に突入 

 そういう訳でお約束の料理勝負に突入ということになります。しかしここでおかしいのは、香介が驚いていることです。

お前が言ったんだろうが 

 大事なセリフなので二回載せました(笑)。「同じ値段でもっとうまいステーキを食わせられる」と啖呵を切っておきながら「「え!!おなじ値段でステーキを!?」と驚く香介。頭の中までコレステロールで一杯になっているのでしょうか。お前が「できらぁっ!」つったんじゃんかよ。

スーパーくいしん坊その1 - コピー 

 この抱腹絶倒な流れ、さすがにおかしいと思う人が多くて「左右のページが逆なのではないか」などとと言われることもあるのですが、実際ページの流れはこれで合っているのです。それは座っていた香介が激昂して起ち上がって、そのまま立っているという様子からも窺えるかと思います。

スーパーくいしん坊その2 - コピー 

 いかにも悪そうなステーキ屋の店主ですが、実は安くて旨いステーキの秘密は、直営牧場から良質の肉を安く仕入れ、10年も工夫して作り上げた秘伝のソースを使っているという、ごくごく正統派の企業努力の成果でした。これに難癖つけるなんて香介の性格が悪いだけなんじゃないのか。

ステーキデリシャスマッチだ 

 これに対して香介は安い赤身の肉に脂肪を縫い付け、刻んだ野菜に肉を漬け込んで柔らかくし、余分な脂は半紙に吸い取らせせるという奇策で対抗。主人公属性により審査員(要するに客)は香介サイドの肩を持ちます。

キモイ肉完成
 

 ですが正統派のステーキ店だったせいか、話の判るオーナーが登場し、半紙で脂を吸い取るという方法を使わせて貰う代わりに直営牧場の肉を安く卸すということで平和に解決となりました。

オーナー登場 

 パパンはあきれていますが、香介は今後の洋食店経営に多大な貢献をしているといえ、むしろパパンの無能さが際立っているような。早いところ香介に店を譲った方がいいかも知れません。

平和なオチ

 なお、野菜に漬け込んで肉を柔らかくするという手法は、香介がステーキ屋の厨房を覗いてパクったものなので、ステーキ屋の店主の「厨房覗いて技術盗む気だったろ!」というセリフは言いがかりでもなんでもなく、正しい指摘だったと言わざるを得ません。今だったら赤身肉に脂肪を縫い込むという香介の牛肉魔改造は、偽装事件として立件されてしまったりして。まあ豚肉を牛肉に縫い付ける中国のレベルにはとても及びませんけどNE!!

中国の魔改造 
 

こんにちは刑事(デカ)ちゃん:史上最年少の探偵登場

サンタガールさんたち

 皆さんメリー・ユール!!本当は明日なんですが、日本ではなぜか前夜祭の本日がメインになっていて、本番の明日は事後感が漂ってますよね。信仰なしでイベントだけあやかるとこんなものなのか。

札幌は大雪 

 それはそれとして、北海道は大雪で大変みたいですね。札幌では積雪が90センチを超え、12月としては50年ぶりの大雪となっているとか。今は筑波嶺近辺住まいですが、3月まではお世話になっていたいわば第二の故郷。気にならないわけがありません。新千歳空港では6000人が足止めされて空港内で一夜を明かしたとか。私も飛行機が遅れてなぜかJRが止まって往生したことがありました。知らないリーマンと相乗りでタクシーに乗って札幌に辿り着きましたが、空港泊は大変でしょうねえ。北海道だから寒くはないと思いますが、中には空港内で2泊した観光客もいたとうことです。そ、それは実にツラい。

こんにちは刑事ちゃん 

 さてそういうことは全くさておいて今日の本題に。本日は藤崎翔の「こんにちは刑事(デカ)ちゃん」を紹介します。藤崎翔の作品は初めて読みました。

藤崎翔 

 藤崎翔は1985年生れで茨城県出身。茨城県の高校卒業後、上京して東京アナウンス学院に進学し、ここで三島祐一と出会って2004年にお笑いコンビ「セーフティ番頭」を結成しました。同期には柳原可奈子がいます。藤崎翔はネタ作りを担当し、NHKの「爆笑オンエアバトル」に5回挑戦、1回オンエアされました。

セーフティ番頭 

 2010年にコンビを解消(相方はピン芸人で活動)、その後アルバイトをしながら小説を執筆し、様々な文学賞に応募し、2014年に処女長編ミステリー「神様のもう一つの顔」(刊行時に「神様の裏の顔」に改題)で第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、小説家デビューしました。現役のお笑い芸人が小説を書くというのは、直木賞を受賞した又吉直樹を頂点として、ビートたけしとか島田洋七など結構いるのですが、この人の場合はお笑いからの転身組ということになりますね。

神様の裏の顔 

 それまで書いていたのはお笑いのネタのみでしたが、ネタ作りの参考に見聞を広げるために読書はしており、図書館で松本清張や筒井康隆の全集を読んでいたそうです。早朝のバイトを終えてから、家賃4万5000円のアパートにこもって夜9時ごろまで書き続けたそうで、夏場は冷房代がもったいないので浴槽に浅く水を張って裸でつかりながらチラシの裏に書いていたとか。

 「こんにちは刑事ちゃん」は文庫描き下ろしで、2016年4月25日に中公文庫から刊行されました。まんまダジャレなタイトルにちょっとひねた赤ちゃんのイラストの表紙で、結構とぼけた雰囲気ですが、結構本格ミステリー作品だったりします。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

刑事ちゃんPOP 

 ベテラン刑事・羽田隆信は後輩の鈴木慎平と殺人事件の捜査中、犯人に撃たれ殉職した――はずだった。目がさめると、なんと鈴木家の赤ちゃんに生まれ変わっていた!? 最高にカワイイ赤ちゃんの身体と、切れ味鋭いおっさんの推理力で、彼は周囲で巻き起こる難事件に挑む! 笑って泣ける衝撃のユーモア・ミステリー、誕生!

 主人公羽田隆信は50歳。優秀な刑事を自認し、鋭い推理から「鷹」の異名を取る…と自分では思っていましたが、実際には、禿頭と死肉でも食ったのかというほどひどい口臭から「ハゲタカ」の異名を取っていました。禿はどうしようもないけど、口臭は何とかしようよと思ったら、自覚がなかったらしいです。教えてくれたらブレスケアしたのにと死んでから思ったものの、まさに後の祭り。

ブレスケア

 その羽田刑事(階級不明)、落選した市長が殺されるという殺人事件の捜査に入り、部下の鈴木慎平が妻が出産ということで先に帰したことろでドヤ顔で犯人を当てたところ、なんと犯人は拳銃を持っており、まさかの殉職と相成りました。

 無念じゃ、死んでも死にきれない…という思いが誰か(或いは何か)に通じたのか、隆信の魂は転生し、なんと慎平の息子玲音(レノン)として生まれ変わったのでした。心はおっさんだけど身体は新生児。最初の数ヶ月はどうにもなりませんでしたが、徐々に身体がしっかりしてくるにつれ、刑事魂が甦ってきます。

授乳(プレイにあらず) 

 部下夫婦に全面的に世話になりつつ、部下の妻・明奈のおっぱいを飲むことに背徳感を感じたり(授乳プレイ?)、図らずも夫婦の営みを聞いてしまったりと、いろいろ戸惑うことがありつつも、明奈と外出する際などに聞いた事件について、さりげなく慎平に事件解決のヒントをスマホで提示したりしていましたが、ついに慎平にはばれてしまいます。

 色々と感情のしこりはありつつも、こっそりと隆信に捜査協力を頼み始める慎平。そしてさすが自称「鷹」だけあって、隆信の推理は冴えまくるのでした。しかしどうやら隆信のタイムリミットは1年間で、次第に本来の「玲音」になってしまう時間が増えていきます。果たして隆信は「今生の悔い」である元市長殺人(兼自分殺し)の犯人を捕らえることができるのか?

重版出来だ刑事ちゃん 

 自分で現場に行かずに推理する探偵のことを「安楽椅子探偵」といいますが、ベビーカー探偵というのは史上空前ではなかろうか。隆信は推理力はあるのですが、刑事だけに「現場百回」が信条。そのため現場に行きたがるのですが、堂々と事件現場に向かう訳にもいかず、なんとか理由をこじつけて慎平と一緒に向かったりします

 1歳未満だと普通はしゃべれないのでしょうが、なにしろ精神は50歳のおっさんなので、舌足らずながらしゃべることが可能な隆信。また理不尽なガン泣きとかも一切しませんが、あんまり手が掛からなくてもそれはそれで明奈を不安にさせてしまうので、赤ん坊の行動をスマホで見て勉強したりして。ママ友とのやりとりや保育園など、隆信が初めて経験することも多く、非常にユーモアが詰まっています。やはり元お笑い芸人的にはギャグをぶっこみたくなるんでしょうか。

藤崎翔の色紙 

 あと、ある事件に関して隆信の妻と娘に再会することになりますが、もちろん赤ちゃんなので全く気づかれません。なにしろ殉職なので年金とかはしっかりしているはずで、わりと元気にしているのに安心しつつ、そんなに悲しんでないのかとがっかりしたり。しかし、今まで気づかなかった妻や娘の本当の気持ちを初めて知ったりもするのでした。

 基本隆信が推理して確証を得るための方法を慎平に授ける…というのがパターンですが、一冊だけで終わってしまうのがもったいない設定です。一年という時間が変えられないまでも、その間他にもいろいろあったということでもう2~3冊はいけるんじゃないでしょうか。

ベビーカーに乗って 

 期限である1年が立つ直前、ついに自分を殺した犯人に遭遇するのですが、なんと人質に取られてしまったり。何しろ赤ちゃんだからろくな抵抗もできない絶体絶命の中、しかも時々玲音に入れ替わってしまうという状況で果たして隆信は血路を切り開かけるのか。

 わりと感動的なラストの後、やはりお笑いの誘惑に勝てなかったのか、かなり壮絶なオチがつくのですが、その裏に続編として「こんにちは警察犬(ワン)ちゃん」を刊行予定としているのですが…これはギャグですよね?21世紀中に刊行予定とかしているし。まあ出たら出たで読んじゃうと思いますが。こういうユーモアをぶっちぎったギャグミステリーというのも毛色が変わっていて面白いですね。

こんにちは警察犬ちゃん 

2016年秋季アニメの感想(その2):舟を編む/ガーリッシュナンバー

クリスマスイブイブでんがな

 クリスマスイブイブだというのになんだかとっても暖かくて。「クリスマス寒波」という話は聞きますが、暖かいのは何というのでしょうか。「熱波」はさすがにそこまでではないし、「暖波」という単語はないし。ああ、言葉の海で迷いそうです。

打ち切っちゃったよ、てへ 

 ということで、珍しく前振りも出来たことなので2016年秋季アニメの感想その2を行ってみましょう。その前に視聴打ち切りアニメについて。「SHOW BY ROCK!!#」については3話で視聴を打ち切ったといつか書いた覚えがあるのですが、実は「3月のライオン」も7話で視聴を打ち切っております(てへ)。

君嘘は哀しい 

 理由はですね…なんかどうしても「四月は君の嘘」がちらつくんですよね、この作品を見ていると。特殊な才能に恵まれた主人公が家族的には極めて不幸、でも支えてくれる人がいる…なんてところが。「全然ちげーよ!」とファンには怒られそうですけど。中二病的作品なら極端な設定は別に気にならないのですが、そうでない作品だと、面白いかどうは別に、もうこういう設定はお腹いっぱいだなあと思ってしまって。1クールならなんとか耐えられたと思いますが、2クールとなるとちょっと。

舟を編む感想 

 それではまず「舟を編む」から。三浦しをんの同名人気作が原作ということもあり、大変面白く見ることができました。ノイタミナ枠としては、「僕だけがいない町」「すべてがFになる」がなんというか…私のセンスと異なる作品だったので、視聴作品としては久々の傑作ではないかと思いました。

馬締と西岡 

 登場人物が全員大人で、おっさんおばさん率が高いのに、面白く視聴できるのというのは、自分もおっさんだから…ということもありますが、非常に現実世界に近い場所を描いていたからだと思います。奇跡もなく超能力も魔法もなくてもこれだけ面白い作品になるというのは、描いている「辞書作り」という仕事自体が面白いからなのでしょう。

真面目な馬締 

 主人公の馬締光也は当初玄武書房の営業部にいましたが、コミュ障気味で明らかに不向きでしたが、辞書編集部に引っ張られてからは浮き世離れした性格とは裏腹の言語感覚の鋭さや粘り強さ、集中力の高さがハマってまさにここに配属されるべく入社した人材という感じでした。

男も惚れる西岡 

 その馬締を引っ張ってきた西岡正志は、反対に辞書編集部には似つかわしくないチャラ男に見えましたが、この人が実に有能でした。社交的で対人折衝能力が非常に高く、「金食い虫」と呼ばれる辞書編集部の中型国語辞典「大渡海」刊行計画が中止させられそうになっていることにいち早く気付き、阻止のために奔走し、結果的に我が身を犠牲にして「大渡海」に日の目を見せることになりました。

西岡と麗美 

 馬締と西岡の関係はお互いにないものを補完しあうとても良い関係で、このままこの名コンビで辞書作りをやっていくのかと思いきや、「大渡海」刊行計画続行の代償として西岡は宣伝部に引っ張られてしまったのでした。それはとても残念でしたが、馬締が一目惚れした林香具矢(下宿の大家の孫)との仲を取り持ったり、13年後(!)に辞書編集部に配属される岸辺みどりのフォローを行ったりと八面六臂の活躍。私はチャラ男は基本大嫌いなんですが、西岡には影のMVPを差し上げたいです。

娘達にモテモテの西岡 

 社内恋愛なの?セフレなの?といった関係に見えた麗美ともちゃんと結婚して、娘二人にモテモテで、幸せそうな西岡ですが、まあ西岡ならいいかなと思ってしまいます。

月と香具矢 

 そうそうマドンナ香具矢は板前の道を突き進む一途な女性で、馬締と良く似ている生き方をする人でした。見た目きつそうですがそういうことはなかったぜ。13年後は自分の店を持つまでになっていましたが、結構BBA化が進んでいましたね。馬締や西岡は全然変わらないように見えるのに…。二人の間に子供はいないみたいですが、まあ二人が幸せなら別に問題ないですね。

老けた二人 

 そう、この作品は途中(8話)で一気に何の前触れもなく13年後に突入してしまうのです。別にタイムスリップとか超常現象ではなく、その間ずっと辞書編集が続いていたということなんですが、辞書作りってそんなに時間がかかるものなんですね。その間にも新語や流行語は沢山生まれるでしょうし、かといってあっさり消えて行く単語は入れるわけにも行かないでしょうし…第二版第三版と改訂がされることを考えると辞書作りに終わりはないですね。

松本先生 

 西岡と共に好きなのは松本先生。「大渡海」監修の国語学者で、定年前に大学の教授職を辞し、辞書の編纂に人生を捧げてきたという情熱家ですが、実に温厚かつ人格者で、原稿を依頼した他の先生が性格的にアレだったりしていたのとは対象的でした。

松本先生… 

 まさに誰もが自然に「先生」と呼びたくなる感じの人でしたが、13年の時の流れは残酷なもので、食道癌を患ってしまい「大渡海」の刊行寸前に亡くなってしまいました。人の生き死にはどうにもならないこの世の理ですが、泣きそうになってしまいました。

荒木さん 
佐々木さん

 その他、退職後も嘱託として編集に携わる荒木とか、契約社員として事務作業を一手に引き受けている佐々木さんとか、辞書編集部は実に消臭精鋭でした。新人である岸辺みどりは、ファッション雑誌を手掛けていたかったのに辞書編集部に異動となり、当初はギャップに戸惑っていましたが、やはり言語感覚に鋭さがあり、西岡らのフォローもあって次第に辞書に情熱を持ち始めていきました。出入りしていた製紙会社の営業社員とはどうなったんでしょうか?

岸辺みどり 
舟を編むエンドカード 

 もちろん子供も見られるのですが、久々に大人のための作品を見たなという気がしました。こういう「自分の一生の仕事だ」というものに巡り会えるのって、本当は実に幸せなことなんでしょうね。2013年公開の実写映画版も日本アカデミー章の最優秀作品賞のほか、数々の映画賞を受賞しており、傑作となるのは「約束された勝利」だったかも知れませんが、よくぞいいアニメを作った。全11話はちょっと短すぎな気もしますけどね。

ガーリッシュナンバー感想 

 続いて「ガーリッシュナンバー」。「舟を編む」が持っていた真摯さ、情熱といった方向とは真逆な作品でしたが、これも面白く見てしまいました。みんな違ってみんないい?

勝ったなガハハ 

 大した才能もなく、何の努力もしないのに若くて見てくれがそこそこいいというだけでメインヒロインに抜擢された新人声優烏丸千歳の世の中を舐めきった態度はもはやお見それしましたと言いたくなるレベルでした。

クソアニメクースレ 

 そのラノベを原作としたアニメ作品「九龍覇王と千年皇女(クーロンはおうとミレニアムスレイブ)」(通称「クースレ」)は、キャラデザインや脚本が勝手に変更されて原作側と対立するなど、「SHIROBAKO」でもあった展開の末、千歳が絶句するほどの作画崩壊状態で放映され、売り上げは大赤字に。

昔の写真 

 千歳のテンプレ演技やファンへの塩対応はネットで叩かれまくり、兄でマネージャーの悟浄(元声優)に「何もしていないのになぜ叩かれるの」と文句を言っていましたが、まさに「お前だけが何もしていないから叩かれるんだ」でした。

九頭P 

 その名も九頭のプロデューサーはまさに絵に描いたようなチャラ男で、西岡とは全く違う無能かつクズな男ですが、かつてはバリバリ働く事で有名だったらしいです。この人と声優事務所の難波社長の「勝ったなガハハ」に千歳が無思慮に乗っかる場面こそ、本作を象徴していると言えるでしょう。

シリアスな難波社長 

 それにしても九頭…。難波社長はなんだかんだ言っても経営者としての凄みを見せてくれましたが、アニメファンから「戦犯」呼ばわりされるとは。監督とか脚本が叩かれることは良くあることのようですが、プロデューサーまで叩かれるとはどんだけだ(笑)。

戦犯のクズ 

 肝っ玉だけは人一倍というか数十倍に太い千歳ですが、しかし、高校生の新人声優が脚光を浴びたり、共演した声優達が他作品でも役を取ってくる中、自分だけモブ程度しか仕事がない状態にさすがに焦り始め、兄の悟浄のように主役1本だけで消えるのかと苦悩するようになります。いいですねえ、闇堕ち。

闇堕ち千歳 

 調子に乗って天狗になっていた身の程知らずの若手声優がまさに自業自得なシビアな現実に直面し、どのようにして乗り越えていくのか…と行ってしまうとちょっと大袈裟ですかね。千歳の本質は最後まで変わりませんでしたが、その傍若無人ぶりが実は結構共演声優達にも(なぜかいい方向に)インパクトを与えていたりして。

苑生百花 
柴崎万葉 

 業界の大物を両親に持つ高校生アイドル声優苑生百花は、実は親の七光りありのキャスティングに複雑は思いを持っていたり、役者志望の意識高い系声優柴崎万葉は仕事はこなすものの、プロモーションやイベントに拒否感を持っていたりします。順調にキャリアアップしているかに見えるこの二人が密かに抱えていた悩みとか不満が、千歳の傍若無人な振る舞いによって表面化し、しかしそれによって図らずも問題解決に至るというのが面白かったですね。なのでど新人ながら妙な存在感を出す千歳を無視出来なくなるという。

久我山八重 

 千歳と同期の久我山八重は、小柄なのに巨乳で、かつ天然であざといとして一部(おそらく女性層)に嫌われていますが、野郎共には大人気。腹黒だとしばしば千歳から責められていますが、多分素でこういう人なんだと思います。私も野郎のはしくれだから好きですがな。でも演じていた本渡楓すらあざとすぎると感じていたほどなので、もの凄い天然なんでしょうが。この人好きだ!近日「好きなアニメキャラ」で改めて紹介しましょう。

片倉京 

 そして実は悟浄と同期だった先輩声優の片倉京。売れてないのでバイトを掛け持ちし(「それが声優!」や「SHIROBAKO」でも見た光景)、アラサーということでこの先仕事が取れなければ実家へ帰って婚活しようかと考えていたり。26歳なのでアラサーというには早すぎる気がしますが…。CV石川由依は27歳なので、京のセリフはいちいち自分の心に刺さったんじゃないかと(笑)。まあ石川由依は「進撃の巨人」のミカサ役でブレイクしているし女優業もこなしているから境遇は大分違いますが。京も好きなキャラなので、近日「好きなアニメキャラ」で改めて紹介する予定です。

桜ヶ丘七海 

 千歳は「私が売れないのはどう考えても業界がおかしい」的な考えをしばしば吐露しますが、本作で描かれる業界を見ると、それもあながち間違いではないかなあと思ったりして。番宣ラジオによればここまでひどいことはないとのことですが、デフォルメではあっても結構近いことはあったりするんじゃないの?

天使のななみん 

 ちなみに終盤に登場して千歳を無邪気に闇堕ちさせた桜ヶ丘七海はHPでただ「天使」と。この人こそ言動が八重以上にあざとい感じがするのですが、現役JKだと全て許されるのか?それともCV佐藤亜美菜が元AKBだからか?

AKB時代の佐藤亜美菜 

 “仕事が来る”のが当たり前だと思っていたけど、ぶっちゃけ、代わりなんていくらでもいる。ではなぜ選ばれたか?それは単に暇でイベントに使い易いから。皆「誰でも良い」はずだったのに、気付いたら八重や京と差がついてたのはなぜか。誰でも良い仕事を、八重や京が「君に任せたい」と言って貰えるのは、頑張っていたから。自分の代わりなんていくらでもいる中で、いかに頑張るか。私が売れる為に、全力で頑張る。これが千歳の出した結論でしたが、「仕事だから何でもやる」とか、自分なりの意欲を貫いて演技にぶつけるって考え方自体は、ずっと百花や万葉が言ってきた事でもあるんですよね。ようやく声優としての心構えが追いついたのか(クズなりに)。

がんばらなくていいからと言われて 

 七海には「がんばらなくていいから。そこで私の生き様を目に焼き付けなさい」と。要は追いついてくるんじゃねえ!ということか。
 ガーリッシュナンバーキャラ紹介その1ガーリッシュナンバーキャラ紹介その2

 大赤字アニメの始末として、「円盤」などの販売促進イベントに水準より安いギャラで複数回出て欲しいという無理筋なリクエストが来ましたが、なぜか結束が強まった声優陣、八重や京はもとより、売れっ子の百花や万葉まで参加することに。

できらあ! 

 「かなりキツいが、できるか?」との悟浄の問いかけに「出来らぁ!」と即答した千歳。それはアレか、「スーパー食いしん坊」かッ!「記憶に残る一言」で元ネタを取り上げろということかッッ!!。よし、ビビビッときたから近日やっちゃるわ。

出来らぁ! 

 兄の悟浄曰く、性格がクズで声優にしか向いていないという千歳。でもまあ図らずもグループの中心に来るというのは「持ってる」ということなんでしょうかね。どす黒い心の声をまき散らしつつ頑張って貰いたいものです。いやいや、対象的な二作品でしたが、どちらも面白くて良かったです。

ガーリッシュナンバーラスト 

聖女の救済:ガリレオが敗北を覚悟した執念の“完全犯罪”は崩せるか?

2016年冬至

 “冬至冬中冬はじめ”てなことを言いまして、冬はこれからが本番なんですが、今週は暖かくて助かっています。まるで秋が戻ってきたかのようですが、11月にやたら寒い日があったので、差し引きゼロというところでしょうか。

 本日は東野圭吾の「聖女の救済」を紹介しましょう。「ガリレオ」の異名を持つ物理学者で帝都大学准教授の湯川学を主人公とした「ガリレオシリーズ」の第五弾です。2008年10月24日に単行本が文藝春秋社から刊行され、2012年4月10日に文春文庫版が刊行されました。ガリレオシリーズは短編が多いのですが、本作は直木賞受賞作「容疑者Xの献身」に続く長編となっています。

聖女の救済文庫版

 資産家の男が自宅で毒殺された。毒物混入方法は不明、男から一方的に離婚を切り出されていた妻には鉄壁のアリバイがあった。難航する捜査のさなか、草薙刑事が美貌の妻に魅かれていることを察した内海刑事は、独断でガリレオこと湯川学に協力を依頼するが…。驚愕のトリックで世界を揺るがせた、東野ミステリー屈指の傑作 

 IT社長の真柴義孝はその孤独な出生故か、自分の子供を持つことに非常な執着を持っており、子供を持つことこそを最優先のライフプランにしていました。パッチワーク作家として高名な妻綾音との1年間の結婚生活で子供はできず、期限を間近に控え、義孝は結婚前の約束どおり離婚を言い渡します。

聖女の救済単行本

 実は綾音の助手である若山宏美と義孝は交際を開始しており、宏美は妊娠していたのでした。離婚を言い渡された綾音は北海道の実家に帰りますが、その間に義孝は亜ヒ酸で毒殺されてしまいました。

 容疑者としては極限られた人物しかいない中、義孝の子を妊娠していた宏美には殺害の動機がなく、動機がある綾音は殺害時に北海道にいたことが確定しており、実行は不可能。毒はいかにして使用されたのか?

聖女の救済POP

 湯川の友人で警視庁捜査一課の草薙刑事は綾音の美貌に魅了され、綾音以外の容疑者の発見を優先していきます。一方前作「ガリレオの苦悩」から登場した女刑事内海薫(柴咲コウが演じたテレビドラマシリーズオリジナルキャラが小説に逆輸入されたもの)は動機から綾音の犯行と睨みますが、犯行方法は皆目検討が付きません。 

 綾音が何らかの方法で離れた場所から義孝を毒殺したと考える薫は、そのトリックを解明するために単独で湯川に協力を要請します。当初は消極的だった湯川は、草薙が容疑者に恋をしていると聞いて俄然興味を持って捜査に協力しますが、ケトルにゼラチンで固めた亜ヒ酸を入れたのではないかという仮説は実験してもうまくいかず、トリック解明は大苦戦します。

聖女の救済POPその2 

 湯川が導き出した答えは「虚数解」。理論上はあり得ても、現実にはありえないという実に奇妙な答えでした。湯川をして「おそらく君たちは負ける。僕も勝てない。これは完全犯罪だ」と言わしめた驚愕のトリックは?

 一方、綾音以外の容疑者を求め続ける草薙は、義孝の過去の女性関係を徹底して洗い出します。そこに浮かんできた元カノの絵本作家の女性。しかし彼女は2年前に自殺していました。容疑者ではあり得ない彼女は、しかし亜ヒ酸を飲んで自殺していたのでした。同じ毒物が使われたのは果たして偶然なのか?

テレビの聖女の救済 

 確かにこのトリックは驚きです。殺害を計画するのではなく、命を救い続けるのを停めたという逆転の発想にも驚きますが、その状態をキープし続けた執念が怖いです。

 被害者の義孝は、「妻は子供を産んでこそその意味を持つ」という極めて偏った価値観の持ち主で、色々とこだわりの多い鬱陶しい人物に思えますが、なぜに次々と女にモテるのか。世の中か間違っている!殺されて当然だ!なんて思ってしまいますが、漁色家とはいえ二股はかけないというポリシーは持っていたそうで、子供が出来なければ別れて他の女性に行くということを繰り返していたようです。

テレビ版聖女の救済 

 世の中には望まないのにすぐにできちゃう人もいれば、必死に妊活しても妊娠しない人がいるという不条理。義孝の理想は子供最優先故に「できちゃった婚」だったそうです。だったら妾とか愛人とかたくさん持ってとにかく数打ちゃ当たったんじゃないかと思うんですがねえ。とにかく子供は欲しいくせに一夫一婦制は守ろうとするのが無理があるような。

 まあどんなに奇妙であってもポリシーはその人の自由なのでいいっちゃあいいのですが、二股はかけないとしながら、綾音と離婚する前に宏美とできちゃった(色んな意味で)というのはそのポリシーに反するのではないかいな。綾音にしてみれば目を掛けていた助手に夫をNTRされちゃったようなもので、激おこプンプン丸になっても当然かと思われます。

 福山演じる湯川学

 恋は盲目といいますが、綾音の無実を晴らそうとしつつも、事件の真相をつかむため、刑事としての立場を全うした草薙は立派でした。でも刑事として生きなければ愛に生きられたかもしれないのになあ。

 なお、東野圭吾は当初湯川学を佐野史郎をイメージして作ったそうですが、テレビシリーズでは福山雅治が演じ、しかもハマリ役だったため、途中からは福山雅治でイメージするようになったそうです。そのせいか、内海薫はiPodで福山雅治のアルバムを聞いたりしています。メタだメタだ。

 「聖女の救済」はフジテレビのテレビドラマ「ガリレオ」第2シーズン(2013年)の最終章として前後編で放映されました。当然私は見ていません(いばるな)が、美貌の綾音役は天海祐希が演じています。テレビドラマ版には内海薫のほかに吉高由里子演じる岸谷警部補というキャラがいて、入庁2年目で警部補に登り詰めたキャリア刑事ということになっていますが、本当のキャリアは入庁時に警部補ですぐに警部に昇進するらしいので、設定がちょっとおかしいような。濱嘉之に監修してもらえばいいのに。

天海祐希は確かに美人だが

 天海祐希は確かに美人ですが、宝塚では男役トップスターだったせいか、個人的には全然そそられません。同僚とか部下とか上司としては、さばさばしていて良さそうに思いますが、恋愛が考えられない。まああっちだってアウトオブ眼中だろうから、そもそも関わりすら持てないので考える必要もないのでしょうけど。

 しかしガリレオ湯川すら窮地に追い込む猛者としては適役なんじゃないかと思ったりします。こう書いてしまうとネタバレになってしまいますが、本作は犯人が誰かが問題なのではなく、トリックとか動機が問題なので構わないでしょう。そんなクズ男にどうしてそこまで執着するんだと言いたいのですが…蓼食う虫も好き好きという奴なんでしょうかねえ……。金か?結局は金なのか!?

2016年秋季アニメの感想(その1):ストレイドッグ/イゼッタ/まほいく

怒り顔のスノホワちゃん

 毎週日曜日はスノホワちゃんの曇り顔で始まっていましたが、最終回にして曇ってばかりなのにキレたのか怒りの表情を見せてくれました。その可愛い顔が怒りに染まるのを見るのも快感よ~って、また独眼鉄先輩になってしまいました。

良く似た二人 

 ということで、終わり始めている秋季アニメ。終わった作品から感想を書いていきたいと思います。まずは「文豪ストレイドッグス」第2クール。

俺達の戦いはこれからだ的な 

 第1クールでは武装探偵社対ポートマフィアの戦いが描かれていましたが、第2クールは“黒船”組合(ギルド)が登場して三つ巴の戦いになりましたが、最終的には組合の目的がヨコハマ壊滅ということ判明したことで、それぞれヨコハマを拠点とする武装探偵社とポートマフィアが一時的に共闘することになりました。

メガトンパンチだ 

 序盤の太宰がポートマフィアに居た頃と、決別して武装探偵社に入る契機を描いた「過去編」がとってもクールで面白かったので、本編に戻ってからのテンションダウンを不安視していたのですが、結果的には面白く見ることができました。

ラブクラフトさん 

 組合側の数々の驚異的な異能力を、結局は「うおおおーー!!」と怒りと根性で何とかしてしまっている感が強く、もっと戦略とか機知で打ち破って欲しいなと思いましたが、原作が少年マンガだから仕方ないのかも知れません(“ジョジョ”は偉大だなあ)。あと太宰治の何もかも計算してました感がちょっとやり過ぎな気が。個人的にはラブクラフトが本当に旧支配者かその化身らしいというところが良かったですが、よく契約できたなあ。クトゥルー系に関わるとろくな事がないのですが、その通りになってしまったフィッツジェラルド。

宿命の相手なのか 

 主人公の中島敦とポートマフィアの芥川龍之介は第1クールでは宿敵関係で、第2クールでもそれは変わっていませんが、圧倒的な強さを見せた組合の団長フィッツジェラルドを倒すために共闘することになりました。太宰によれば中島敦は前衛、芥川龍之介は後衛で真価を発揮するということで、コンビを組めば強力ですが、立場上そして性格的にもなかなか相容れないので「共通の敵」が出現しないと共闘しないんでしょうね。

ドヤ顔太宰さん 

 仲が悪いのに共闘といえば太宰治とマフィアの中原中也も一時的に共闘していましたが、そういう「ケンカするほど仲がいい」関係が多いのか、武装探偵社とポートマフィア。それぞれの首領である福沢諭吉と森鴎外の共闘も見てみたいです。 

ドストエフスキー登場 

 団長が倒れたことで混乱状態になった組合ですが、代わって最終盤に登場したドフトエフスキー率いる集団が第3クールに登場するものと思われます。今度は欧州の文豪が出てくるのでしょうが、組合の一部も吸収されるようです。今後は中国の文豪集団とかノーベル文学賞軍団とかも登場させてはどうでしょうかね。それだと村上春樹は残念ながら登場できませんが(笑)。

終末のイゼッタ最終回 

 続いて「終末のイゼッタ」。類似の歴史を辿っている別世界の欧州の戦乱を描いた作品でした。悲劇的な結末の予感がしていましたが、それほどバッドエンドではありませんでした。

ゲルマニア驚異のテクノロジー 

 伝説の「白き魔女」ゾフィーがゲルマニアの驚異のクローン技術(ゲルマニアの科学力は世界一ィィイイ!!)で仮初めに甦り、自分を裏切ったエイルシュタットへの復讐に走るのを阻止する最後の魔女イゼッタという展開になりましたが、魔女が核兵器のような最終兵器になりかねないという各国の懸念の警戒に対し、魔法のない世界になったことでさらに我々の世界に近い状況になったような。

緊縛のイゼッタ 

 この世界の魔女は魔力の地脈「レイライン」を利用して魔法を行使するので、かレイラインから外れると魔法が使えないという弱点がありますが、赤い魔石を使うと周辺のレイラインから魔力を吸い上げて使うことができますが、濫用するとレイラインを枯渇させてしまいます。イゼッタはそれを狙って莫大な魔力を集め、ゾフィーも対抗上魔力を集めたせいで世界中の魔力が消滅してしまったとか。石油や石炭のような地下資源的なものであれば、魔力は枯渇したまま消えてしまうのでしょうが、回復するタイプの資源だとしてら、しばらく時間が経ったら甦ったりして。

空飛ぶゾフィー
 
 イゼッタとエイルシュタット公女(後に大公)フィーネへの百合関係を愛でるという側面もありましたが、ゾフィーからしたらイゼッタの「姫様愛」はうざかっただろうなと思います。それにしてもゾフィー…エイルシュタットを憎むのは道理なんですが、クローンなのにオリジナルの記憶がちゃんとあったのはなぜなんでしょう。魔石に記憶でも刻まれていたのかな?

可哀想なゾフィー 

 ゾフィーと共に死んだと思われたイゼッタですが、ラストシーンで車椅子に乗った姿が描かれ、実は生きていたことが判明しました。ストーリー的には死んでも良かったと思いますが、フィーネの心に深い傷を付けて、その後の人生に影を差す可能性があるので、フィーネ的には当然生きていた方がいいでしょう。ただ戦闘の負傷により魔力なしには満足に身体を動かせなくなっていたので、今度は裏切らずに一生面倒を見てあげて欲しいですね。魔力が回復可能なものであればいずれ立てるかも。

我が魔女を見よ 

 それにしても魔女はなぜ絶滅してしまったのか。「純潔のマリア」ではキリスト教が流布すると共に徐々に消えゆく“異端”のように描かれていましたが、イゼッタの世界でも人々の信仰とかと関係あるんでしょうかね。レイラインが復活し、イゼッタが子を産めば「魔女の系譜」は続く可能性はありますが、男は魔力を使えないのかな?

生きていたイゼッタ 

 なお、本来のレイラインは、古代の遺跡には直線的に並ぶよう建造されたものがあるという仮説のなかで、その遺跡群が描く直線をさすものです。イギリスのアルフレッド・ワトキンスが提唱したもので、丘陵が連なる地で丘の頂上をつなぐ小道同士が一直線につながっているように見えることに気付いたことから端を発しています

白のイゼッタ 

 不思議なエネルギーに満ちた聖なる地というニューエイジ的な視点がある一方、直線なんか確率論的に引けてしまうという懐疑派の主張もあります。そもそも時代の違う遺跡を線で結んでも意味があるのかと。

近畿の五芒星 

 真偽はともかく、日本でもレイラインがあるという主張はあり、有名なものは近畿地方の相互に関連するという聖地を結ぶと現われる五芒星でしょう。さらに平安京、平城京、熊野本宮が一直線で並んでいるのでオカルト好きにはたまらんものがあるようです。

特番やります。 

 駆け足な感があったので、13話までやればいいのにと思ったら、来週特番「エイルシュタットのクリスマス」をやるらしいのでこ、れは見ねばなるまいて。

まほいく最終話エンドカード 

 最後に「魔法少女育成計画」。今季一番楽しみに見ていた作品なので最後に紹介したかったのですが、いち早く終わってしまったので仕方がありません。

正しい魔法少女の在り方 

 清く正しい魔法少女になりたいと願い、夢が叶って魔法少女として困っている人々を助けられることに喜びを感じていたスノーホワイト(姫河小雪)ですが、現実の魔法少女達は夢とは全く違う様相を見せ、互いに殺し合いを続ける中、何もできないままに相棒(ラ・ピュセル、ハードゴア・アリス)を犠牲にするような形で生き残ってしまいました。

泣き伏す小雪その1 泣き伏す小雪その2

 スピードスターの復讐のためにスイムスイムと戦うことを決意するリップルを止めることもできず、心が折れまくる小雪ちゃん。もう魔法少女には変身しないことを決意しますが…

その曇り顔を見るのが快感よ

 それでは困るポンといけしゃあしゃあと出てくるファブ。嬉しそうに新たなマスターになって欲しいと、「魔法少女育成計画」の全貌を語り出します。ファブは魔法の国から派遣された人材発掘部の使い魔で、最も成績の良かった一名が選ばれて魔法の国の一員になり、魔法少女として活躍するか、マスターとして選抜試験を行うかするのだと。

ぬけぬけとファブ 
愕然とする小雪ちゃん 
 

 今回のマスターはクラムベリーでしたが、まさかのたまに殺され、3人生き残っている内、スイムスイムとリップルが共倒れになれば労せずしてスノーホワイトが本当の魔法少女になれるというファブ。スイムスイムもリップルも能力はともかく性格的にマスター向きではないので、あえて殺し合いを唆したとドヤ声。まさに外道。

おだやかな選抜方法 

 今回凄惨な殺し合いで選抜が行われたのはクラムベリーとファブの意向で、本来なら善行数が最も多い(=マジカルキャンディーが一番多い)魔法少女を選抜すればいいところ、戦闘狂のクラムベリーがねじ曲げてファブがそれを隠蔽していたと。通常なら落選魔法少女は記憶を消してサヨナラらしいのですが、生温い試験はつまらないとバトルロワイヤルモードに。

曇り顔から怒り顔に

 穏やかに終わるはずの選抜試験がこんなになったのは全てファヴとクラムベリーの策略で、結局は最後の1人になるまで殺し合わせるつもりだったと知って初めて怒り顔になる小雪。それにしてもファブはやたら可愛い声で自分の都合ばかり押しつけてくるなあ。それで人が動くと思っているのか。マジカルファンを壊して二人の元に向かうスノーホワイトですが。

殺し合いの二人 

 そうこうしている間にもスイムスイムとリップルのバトルは激しく展開中。戦闘能力では圧倒的なリップルですが、全ての攻撃を透過してしまうスイムスイム。そして「元気になるクスリ」と薙刀ルーラで戦闘能力も上位補正しています。

ボロボロのリップル 

 リップルもカラミティメアリから奪った袋の武器を使いますが、地面に潜ったり神出鬼没なスイムスイムのトリッキーな攻撃に左目と左腕を失います。

スタングレネードが スイムちゃんの本体登場

 しかし音と光に弱いというファブのアドバイスを思い出し、カラミティメアリの遺産であるスタングレネードを使用。クラムベリー戦の時に衝撃波を喰らった時のように気絶して変身が解除されてしまいます。小学一年生の幼女(坂凪綾名)登場。

このリップル容赦せん 

 クラムベリーはさすがにその姿に一瞬驚き、それがためにたまに不覚を取ったのですが、このリップル容赦せん!とばかりに幼児に刀を何度も突き刺すリップル。妊婦殺しに続いて幼女殺しか。PTAが黙ってなさそうな作品ですなあ。チームでの共同撃破を含めて6人もの魔法少女(ルーラ、ヴェス・ウィンタープリズン、ハードゴア・アリス、トップスピード、クラムベリー、たま)を葬ってきた“エース”のスイムスイムも遂に堕つ。

腕はちゃんとあるリップルの本体 

 しかしリップルも負傷があまりにも重くばったりと。共倒れならまさにファブの計画通りなんですが…リップルの本体(細波華乃)は切断されたはずの左腕がありますね。変身中の負傷は本体に影響を及ぼさないのか。

ORZなスノホワちゃん 
マスター用端末からこんにちは 

 また何も出来なかったと嘆くスノーホワイトに、マスター用端末から出てくるファブ。スノーホワイト唯一の魔法である「困っている人の心の声が聞こえるよ」で、「マスターになってくれなきゃ困る」「マスター用端末を壊されると困る」というファヴの心の声を聞き、マスターになることを全力で拒否して端末を破壊しようとするスノーホワイト。

お怒りスノホワちゃん 

 端末を殴る蹴る岩で潰すスノーホワイト。鹿目まどか同様穏やか系かと思いきや、言葉責めを受けながらも最後までキュゥべえに直接的な暴力は振るわなかったまどかに対し、激情を見せるスノーホワイト。そう、そういう表情が見たかった。

端末を殴るスノホワちゃん 

 しかし魔法の国純正の端末なので全然壊れる様子を見せない端末。ファブは涼しい顔をしています。自分なら何でも無理を押し通せると思っちゃうのが魔法少女の悪い癖だとディスりながら、ついでにラ・ピュセルやハードゴアアリスまでディスり始めます。端末よりファブを殴りたいけど、実体がないから殴れないのがツライです

黙れやファブ 

 しかーし、余勢を駆ってトップスピードまでディスってしまったファブ。「黙れ!」と死んだと思っていたリップルが怒りの復活を見せます。ハードゴアアリスの遺品となった「うさぎの尻尾」がもたらした奇跡なのか。変身するとまた隻眼隻腕になってしまうのね。

ファブを睨み付けるスノホワちゃん 

 状況の変化に狼狽して全部クラムベリーが悪いとやたら言い訳し始めるファブ。薙刀ルーラは魔法の国の武器なので、端末の破壊も可能なようです。そんなファブの心の声がスノーホワイトにはだだ漏れです。

ルーラぐさーっ
ファブざまあ 
ファブ爆散 

 リップルが端末にルーラぐさーっ。するとあっさり壊れる端末。ファブも爆散。ざまぁ!と快哉を叫ばずにはいられない瞬間でしたね。この日をどんなにか待ったことか。

JKになった小雪の友達 
消えたまほいくのサイト 

 そして2年後…。小雪の友達(ぼっち回避のための一種の“ビジネス友達”だったらしいですが)は高校生になっていますが小雪の姿がありません。書き置きを残していきなり家出したとか、高校デビューしてからワイルドになったとか噂しています。

手合わせその1 

 どうやらスノーホワイト、海外で「正義」を執行していたようです。そして帰国してリップルに手合いをお願いするスノーホワイト。小さな親切じゃ世界は変えられないと、スノーホワイトの心は確実に変化したようです

手合わせその2 

 ラ・ピュセルやハードゴアアリスたちの思いを無駄にはしまいと、本当の強さを持つ魔法少女たらんとするスノーホワイト。強いだけが魔法少女じゃないと言いながら付き合うリップル。隻眼隻腕になってもリップルは強いなあ。三人目の相棒は死なないといいですね。

凜々しい表情のスノホワちゃん 

 殺戮劇の黒幕は本編に全く登場していない「魔法の国」かとも思ったのですが、どうやらファブとクラムベリーの趣味嗜好で行われたというのが真相のようです。とんでもねーなーこいつら。人間であるクラムベリーは快楽殺人者だったということで理解できますが、電子妖精とかいう使い魔のファブがどうしてここまで狂ったのか?バグなのか、はたまたエラーなのか。

ムジカマギカ 

 いずれにせよ原作はこれ以降も続いているので、ぜひ第二期希望。でも生き残った二人以外は全部新顔になっちゃうのか。ファブもマスター用端末を破壊されることを怖れていたところを見ると復活はないようだし。しかし可愛らしい容姿とは裏腹なデスゲームは楽しかったな。アニメを制作した Lerche(ラルケ)は「がっこうぐらし!」や「暗殺教室」を手掛けているので、可愛いキャラの死闘というものが得意なのかも知れません。

三人目の相棒 
 

暴走する正義 巨匠たちの想像力[管理社会]:SF短編アンソロジーの第三弾

冬の北方領土

 ロシアのプーチン大統領が来日しましたが、前評判とは裏腹にかなりショボい結果だと思ったのは私だけでしょうか。11月中旬までは北方領土返還、最低でも歯舞・色丹の2島返還という話が盛り上がっていましたが、日本の対ロシア経済協力計画に関する露側の統括役を務めていたウリュカエフ経済発展相が収賄容疑で逮捕されてからは完全に風向きが変わってしまいました。ロシア人は個人で付き合うといい人だけど組織となると…という話を聞きますが、一筋縄ではいかない相手ですね。というか、国際社会では一筋縄でいく相手の方が少数派なのかも知れませんね。

暴走する正義 
 
 本日は筑摩書房のSF短編アンソロジーの第三弾「暴走する正義 巨匠たちの想像力[管理社会]」を紹介しましょう。2016年2月9日刊行で、単行本なのに1000円を超えるというある意味桁違いの文庫です。戦時体制、文明崩壊ときて管理社会をテーマにしています。

電波の押し売り 

 筒井康隆「公共伏魔殿」(1967年)。空耳で「犬あっち行け」と聞こえる某公共放送を痛烈に茶化した、いかにも筒井テイストのドタバタ劇。作品発表から50年近く経過していますが本質が変わっていないように見えるのが恐ろしいです。受信料徴収をめぐる対立から物語が進んでいきますが、受信料を徴収する公共放送というのは、イギリスのBBCに倣ったシステムなんでしょうけど、新聞報道では(誰も頼んでないのに勝手に)インターネットにも進出して、そっちからも金を取ろうとしているとか。スクランブルをかけるとか、料金を払った人だけ見られるようにすればいいのに。

 星新一「処刑」(1959年)。裁判や判決が完全自動化され、まさしく鋼鉄の正義が執行されるようになった未来。この時代、人を殺したら火星に流刑になります。かつては植民もなされましたが、今や資源を取り尽くしてゴーストタウンがあるばかり。水気のない星に放り出された受刑者には銀色の球が一つ与えられます。ボタンを押すと水が出るのですが、ある確率で超小型核爆弾が爆発して受刑者を跡形もなく消し飛ばすことになります。いつ爆発するのかは全く不明で、受刑者は常に死の恐怖と渇きの狹間で苦悩することになります。星新一にしてはかなりハードで救いのない作品。

戦争はなかった 

 小松左京「戦争はなかった」(1968年)。日本SF御三家そろい踏みですね。旧制中学の同期会に出席する途中で壁を頭にぶつけてしまった主人公。酔った勢いで軍歌を歌いますが、同級生はみんなきょとん顔。それどころか戦争があったことを誰も知らないと言います。悪酔いによる悪夢かと思いきや、二日酔いの翌日も事態は変わらず、それどころか世の中の誰も戦争があったことを否定します。書店に行っても戦記物は日露戦争までしかありませんが、近世の歴史を見ると「2.26事件」以後がさっぱり要領を得ず理解できないようになっています。フィリップ・K・ディックの超有名人が一夜にして誰も知らない無名の人物になるという「流れよ我が涙、と警官は言った」を彷彿とさせますが、本作の方が先に発表されています。

こどもの国 

 水木しげる「こどもの国」(1965年)。本書唯一の漫画作品。戦国時代、うち捨てられた子供達が人気のない山奥で自分達の国を作りますが…まるでどこかの国の政治を風刺した作品となっています。それなりに順調に食料増産に励んでいたところ、ねずみ男が演じる「フランスのコシマキデザイナー」カルダンという胡散臭い人物がやってきます。私利私欲に走りがちな大統領ニキビとその腰巾着である書記のゴマ、そして正義派の平民三太が、カルダンに翻弄されるがままにクーデターを起こしたり革命を起こしたり、国を半分に分けたり狸の軍勢を引き入れたりと大騒ぎ。多分全部当時の日本政治の風刺なんでしょうけど、トリックスターのカルダンがいいように遊んでいるようにしか見えません。こいつさえ押さえておけばなんとかなりそう。

ヤドカリ一家

 安部公房「闖入者-手記とエピローグ-」(1951年)。アパートに一人暮らしのしがない若きサラリーマンの部屋に突如やってきた総勢9人の大家族。たちまち彼の部屋に居座り、多数決を振りかざして若きリーマンを奴隷状態にします。追い払おうにも腕っ節も大家族の方が上。給料は搾取され、恋人は寝取られ、さんざんな目に遭いますが、大家も警察も知らん顔。弁護士に相談しますが、なんとこの弁護士も13人家族に寄生されて青息吐息でした。

 不気味な侵略者

 藤子不二雄Ⓐのホラーマンガ「魔太郎が来る!!」に「不気味な侵略者」という回があって、酔っ払った魔太郎のパパが連れてきた見ず知らずのおっさんが、ずうずうしく居座るばかりか家族を呼び寄せるという話ですが、まさにこの作品とそっくりです。魔太郎は魔族なので、「うらみ念法 まねきネコ」でおっさんをおびき寄せ、「うらみ念法 肩がわり」で金持ちそうな酔っ払いに押しつけるという手で回避しましたが、全然制裁になってねえ(笑)。金持ちそうなおっさんも別に悪いことをしている訳でもないのに。

恐怖のヤドカリ一家
 

 それはさておき、しがない若いリーマンには魔太郎のような力がある訳もなく…こちらは悲劇的な結末を迎えます。

カンタン刑 

 式貴士「カンタン刑」(1977年)。これは懐かしい!式貴士、昔はずいぶんと読んだものです。昔のSFというのは不意にエッチな場面がでてきて驚きつつ喜んだりしたものですが、式貴士の作品の官能描写はことのとか濃厚でした。

蘭光生の作品 

 それもそのはず、蘭光生という別の名義で官能小説を書いていたのです。ジャンルによって様々な筆名を使い分けていて、式貴士でSF、間 羊太郎で推理小説評論や子供向きの生活雑学やクイズ本、蘭光生で官能小説、小早川博で雑学、ウラヌス星風で占星術と、多くの分野で活躍していました。蘭光生は団鬼六、千草忠夫と共に「官能御三家」と評されていたそうで、そりゃあ描写が濃厚になるのもむべなるかな。

 ただし「カンタン刑」には官能描写は一切無く、凶悪な連続殺人鬼に下された死刑よりもおそろしい「カンタン刑」の様子が描写されます。内容は…非常に気持ち悪いので詳しく書きませんが、「肝胆を寒からしめる」から「カンタン刑」と説明されますが、実は「邯鄲の夢」に由来していて、客観的にはたった一時間程度の刑罰なのに、当人には極めて長い間苦しみ、すっかり容貌も変わってしまいます。ラスト1分で発狂させるので何があったのか語ることも出来ないという徹底ぶり。でもこれ、凶悪犯に導入したらいいのにと思ってしまうのは私だけ?

半村良 

 半村良「錯覚屋繁盛記」(1974年)。全く冴えない青年がなぜか持った特殊能力。それは妄想のままに相手を錯覚させるという一種の超能力でした。友人とコンビを組んで「錯覚屋」を始め、錯覚を利用して釣り銭を多く貰ったり、銀行からお金を貰ってきたりしているうちに、JCIAの目を付けるところとなり、日本政府のため(というかJCIAのため)に働き始めるのですが、腐敗した政府の打倒の片棒まで担がされていきます。世のため人のために働く錯覚屋。しかし、最後の最後に、大きな錯覚に気づくのですが、時既に遅し…。こちらも「闖入者-手記とエピローグ-」同様バッドエンドですが、さほど悲劇的ではないのは途中でそれなりにリア充人生を送っているからでしょうか。

諸君革命だ 

 山野浩一「革命狂詩曲」(1973年)。大国の狹間に生まれた無国家の地「フリーランド」。ただしそのままではすぐに併呑されてしまうので、近隣国家の侵略に対抗しつつ、周辺を“解放”するためのゲリラ戦が続いています。主人公の女性はフリーランド提唱者の娘で、欧州でフリーランドのために戦うために育てられ、大人になってフリーランドの隣国に向かいます。そこで軍の有力者と結婚し、様々な情報をフリーランドに向けて流していましたが、どうしても一目フリーランドを見たくて向かった先にあったものは…。結局のところフリーランドは信奉者それぞれの心の投影で、誰かのフリーランドが実現すると、それは他のフリーランドではありえないという。終わり無く革命の連鎖が虚しいです。

合本版宇宙年代記 

 光瀬龍「市(シティ)2220年」(1969年)。「宇宙年代記」の一編で、光瀬龍の作品によく登場する火星の東キャナル市(藤沢周平の海坂藩みたいですな)が舞台となっています。宇宙に進出して火星その他の惑星・衛星を開拓していった人類。しかしその過程で悲惨な事故が相次いで発生し、多くの人が犠牲になりました。かろうじて生き残った人はサイボーグとなりましたが、「宇宙功労者」という呼び名とは裏腹に東キャナル市で厄介者的な扱いを受けています。そんな中、地球で第二次統合戦争が勃発します。全アフリカ連合とアジア同盟の対立により、地球からの助成金がなくなって窮地に追い込まれる東キャナル市ほかの植民都市。宇宙を隔ててこちら側でも地球の対立の余波を受けて戦闘が始まります。そんな中、サイボーグ達のリーダー格は、将来のサイボーグ達の権利確保のために、自己犠牲的行動を呼びかけますが…。実は宇宙年代記は西暦1942年から5320年までを扱っているのですが、中でも2180年から2291年までの100年ちょっとの間に8編もの短編が書かれており、この時代の激動ぶりと第二次統合戦争の激しさを感じさせます。

宇宙救助隊2180年 

 ただ、「暴走する正義」というテーマであれば、「シティ0年」の方が良かったのではないかとも思ってしまいます。「宇宙年代記」最初の作品ですが、西暦ではなく、「辺境5320年」よりさらに未来の話に思えるのですが、遥かなる宇宙に旅だった人類の結末がこれか、という無常感に包まれる傑作だと思います。

墓碑銘2007年 

ヒトイチ 内部告発 警視庁人事一課監察係:警察内部の“闇”を暴くシリーズ第三弾

長門改参入

 いよいよ年末という雰囲気が高まっていく中、なぜか「俺得」でしかない「艦これ」情報。いや、マップは進展しないし冬イベントもE2までしか参加しないという体たらくなんですがね。まず連合艦隊旗艦・長門が来ました。既に改に改良済み。これで長門・陸奥と第一戦隊が完成しました。

明石改 

 それから工作艦明石も遂に来ました。これも改にしてあります。なかなか出てこないレアな艦娘ですが、1-5のボスを倒したらドロップしました。確率は0.5%とか。久々に種田梨沙の声を聞いて、改めて症状が快癒して復帰してくれることを強く願いました。もう休業から3か月以上ですよ。それにしても前線に出しちゃいけない艦をレベルアップさせるのは大変です

ビス子改 

 さらにドイツ駆逐艦Z1を旗艦にして、“資源の浪費”とも言われる大型艦建造をしてみたら、Bismarckが登場しました。金剛型四姉妹以外の高速戦艦は我が艦隊初登場です。初これも改にしてありますが、改二どころか改三まであるという優遇ぶりの反面、勲章を4つも消費する改装設計図が必要という。勲章はなかなか手に入らないし、他にも改装設計図を必要としている艦があるしで、いつ改造できるかわかりません。 

ヒトイチ 内部告発 

 それでは本題です。本日は圧倒的なリアリティの警察小説でおなじみ、濱嘉之の「ヒトイチ 内部告発 警視庁人事一課監察係」を紹介します。シリーズ第三弾ですね。文庫版書き下ろしで、本年5月13日に刊行ということで、流行廃りを全く考慮しない当ブログの読書感想文としては異様なほどの新刊紹介になります。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 人身事故を起こしたと出頭してきた女。どこか他人事のような供述を繰り返す間に、事故車は修理に出され、痕跡を残すタイヤは転売されようとしていた。女の自宅からは大金が。事故は事件となり、エリート警察官や芸能界との関係が炙り出される中、意外すぎる真犯人像が浮上。警察が警察を追う、迫真のリアリティ!

ケバいキャバ嬢のイメージ 

 「第一章 身代わり出頭」。ひき逃げ事件が発生し、その車両は警視庁交通部長の息子の警部補のものであることが判明。警官のひき逃げとは許せない、と思いきや出頭してきたのはケバいお水の女性。しかも事故車は別に物損事故を起こしたとして修理に出し、タイヤまで交換するという用意周到ぶり。

 さすが現役警察官、証拠隠滅のテクはプロだなと思いましたが、捜査側もさるもので、監視カメラの映像やらから様々な事実を浮き彫りにしていきます。今回、轢かれた被害者は極左系、通報者も極左系ということで全く協力的でなく、身代わり出頭の女性に面会しに来た弁護士まで極左系。これは警察に浸透した極左の策動なのかと思いきや、事実は意外な方向に動いていきます。

警官の皆さん 

 またまた公安部の山下警部が活躍。純粋に内部の問題だと監察だけで何とかなるのですが、外部勢力の介入となるとどうしても公安部が出てこざるを得ません。そしてただのケバいキャバ嬢だと思われていた女性の意外すぎる正体。そうか、そっちか~!と唸ってしまいました。

 「第二話 公安の裏金」。ヒトイチシリーズで主人公の榎本以上に活躍している感がある山下警部の上司である警視庁公安部公安総務課長が人事異動で変わり、まともだった前任者に代わってやってきたのは問題キャリア。年次によって当たり外れがあるとかで、外れ組の中でかろうじて生き残ってるものの、クズだともっぱらの噂と言うことです。そんな奴をなぜ重職に充てるんだ警視庁。

裏金ネタ

 公安部に詳しいわけでもなく、やたら金の流れに関心を示す新課長。やたらに情報源を持ち、多額の工作資金を使う山下警部に目を付け、なんと監察に動向監視を命じます。榎本は旧知の間柄だしお互い一目置いているにも関わらず、命令とあらば拒むこともできず、部下に山下警部の監視をさせますが、返す刀で新課長の動向監視も行います。
 
 一方、定年を目前に控えてもう出世の芽もなくなった管理官は、監視アジトが巻き込まれた火事をきっかけに公金横領の味を覚えてしまい、新課長を籠絡しつつ、弱点を探ろうと監視も付けます。さらには山下警部も部下に新課長の監視を行わせたことで、なんと新課長を三組が監視するという珍妙な事態に。

裏金疑惑 

 どうも新課長にはさんざん悪いことをしながら処分されずに逃げ切った悪い先輩がいて、これを見習おうとしたようですが、妻用のベンツを公安部の金で買ったことも発覚して、悪い管理官ともども一網打尽(結託していたわけではないですが)となってしまいます。天網恢々…と言いたいところですが、榎本に言わせれば公安部の活動費のような不可解な資金は本来警察にはそぐわず、専用の情報機関が必要なんだそうです。CIAとかの業務を警察がやっていればそりゃあ変なことになるでしょうね。

 「第三話 内部告発」。このままでは青山望シリーズに続く公安部ものになってしまいそうな勢いのヒトイチでしたが、ここに来て純然たる監察ネタに。舞台はなんと小笠原諸島の父島。伊豆と小笠原は東京都なんですよね。つまり都庁に勤めると伊豆とか小笠原勤務もあり得ると言うことに。

遙か南の父島 

 のどかそうな小笠原の警察署でまさかのパワハラ事案発生。何と署長が巡査部長をいじめまくっているという。見かねた係長の警部補がヒトイチにある「職員相談110番」に相談しますが、なんと担当がクズであっという間に署長にばれ、いじめのターゲットにされてしまうことに。

 自分のみならず上司にまで迷惑を掛けてしまった自責の念から、巡査部長は自殺を図り、監察の出番と相成ります。「職員相談110番」はヒトイチでも制度調査係で、榎本の所属する監察係とは別ですが、不味い対応により監察の対象になってしまいます。ヒトイチ同士の内ゲバな様相。そっちは上司の監察官に任せ榎本は署長の相手をする首席監察官と共に父島に飛びます。

小笠原の入江 

 監察なんてどこにいっても「招かざる客」状態ですが、そこは榎本のへりくだった態度と公明正大な姿勢(それと島民との連夜の飲み会)が受け入れられ、必要な情報はどんどん集積することができました。結局署長や中間管理職の署の課長、「職員相談110番」担当の制度調査係の職員など6人が処分を受けることに。榎本の処分案は上司であるヒトイチ課長(兼参事官で警視長)も唸る厳しさでしたが、その理由を上司も怖れずにきっちり説明できるのが榎本の強さです。やはり人事は公明正大かつ厳粛でないといけませんね。

警察学校 

記憶に残る一言(その76):小笠原綸子のセリフ(SHIROBAKO)

まさかの大金星
クラムベリーの無残な遺体 

 ますます暗黒面にのめり込んでいる「魔法少女育成計画」、11話でも2名死亡してもはや3人しか残っていません。ラスボスと思われたクラムベリーが、ドジ過ぎて戦闘系の能力を一切持たないスノーホワイト以下のゴミクズ魔法少女かと思われた「たま」にまさかの敗北とは。それにしてもクラムベリー…ラ・ピュセルを惨殺したりと所行的には死んで当然なんですが、まさかラスボスになれなかったとは。それどころか「まほいく」史上最も無残な遺体となってしまいました。下半身だけ…

うわあ… 

 しかし、その後の惨劇はさらに後味が悪いもので…。魔法少女を4人に減らすというファブの目標は達成されたので、もう殺し合う必要はなくなったんですが、相棒のスピードスターを目の前でスイムスイムに殺されたリップルの怒りは消えず。二人の激突は必至です。

小雪でも曇り顔 相変わらず曇ってるスノホワちゃん

 小雪でもスノーホワイトでも表情が曇りっぱなしの主人公。彼女が心から笑える日はもう来ないんじゃないでしょうか。なにしろ次回最終回だし。しかし、戦闘に参加しないが故に生き残っているのだからある意味スゴい人かも。

shirobakoお色気シーン? 

 それでは本日の本題です。「SHIROBAKO」から記憶に残る一言を行ってみましょう。13話にして「第三飛行少女隊」編第1話での小笠原綸子のセリフ二つです。

ゴスロリ綸子はん 

 小笠原綸子は物語の舞台となる武蔵野アニメーション(略称ムサニ)の看板アニメーターで、1クール目の「えくそだすっ!」編では「えくそだすっ!」のキャラクターデザインと総作画監督を担当していました。名実ともにムサニのエースであり、業界だけでなく一般のアニメファンにも知名度は高く、そのゴスロリファションから「ゴスロリ様」の異名も持っています。

年齢不詳の綸子はん 
第三飛行少女隊の原作マンガ 

 「第三飛行少女隊」のスタッフは基本的に「えくそだすっ!」と同じ布陣で当たるということになったので、当然のようにゴスロリ様にキャラデの依頼が来たのですが、まさかの拒否。「えくそだすっ!」で自分の課題が見えてきたので、もう一度アニメーターとしてのスキルを磨きたいと言います。

あーしが!? 

 そして代わりに推薦したのが井口祐未。原画は6年目で、仕事が早く、小笠原綸子と並んでムサニの看板アニメーターされる人です。しかしキャラデはやったことがなく、ムサニの社運をかける「第三飛行少女隊」は重すぎると固辞する姿勢でした。しかし井口さんは小笠原を「綸子はん」と呼んで駆け出しの頃から尊敬していました。その綸子はんが井口を落としたセリフが一つ目の「記憶に残るセリフ」であるこれです。 

井口さんを説得する綸子はん 
頑張ります

 「誰にも、どんなことにも初めてはあるものです。」そして宮森も熱くラブコールをしたことで、「チャンス貰えるなら…ありがたいです!頑張ります」と受諾することになった井口さん。

 キャラデが決まらない井口祐未

 しかーし、そう簡単には問屋が卸さないわけでして。頑張ってキャラデしてみたものの、原作からは全くOKが出ません。しかも要領を得ないぼんやりしたコメントのみ。キャラデが決まらないと原画が描けないということで、作業ストップという事態に。タダでさえタイトなスケジュールが…

心配そうに見守る綸子はん 
闇堕ち寸前井口さん 

 苦悩しつつもキャラデに取り組み井口さん。この人、「具体的に言えや!」とキレたり八つ当たりもおかしくない状況で、本当に頑張っているのですが、原作者からのダメ出しはひどくなる一方。闇堕ち寸前ということになってしまいます。

綸子はんの説教 
お怒り綸子はん

 井口さんを推薦したこともあって、見かねた綸子はん、監督の木下、ラインプロデューサーの渡辺、制作デスクの宮森を呼びつけてお説教をします。

お怒り綸子はんその2
 
 「サポートが足りないと思うのです。あなた方は井口さんをずっと放りっぱなしではありませんか。原作者が何も言ってくれないからと言って、その全てを井口さんに丸投げするのは仕事を放棄しているのと同じです。井口さんを抜擢したのなら、最後まで井口さんを支えて差しあげてください。」

井口さん拉致事件 バッティングセンターにて

 この場面を見て、「推薦したのはあなたじゃないですか」と思ったら、聞こえたのか自ら井口さんのフォローを行います。宮森の運転する車に乗せて井口さんを拉致する綸子はん。なぜか絵麻も一緒です。オアシスだというバッティングセンターで投打に汗を流します。皆格好だけは一流プロなんですが、実力が伴っていたのは小笠原道大のフォームの綸子はんだけでした。

ピッチングは水原勇気の綸子はん 
ゴスロリ甲子園 

 ピッチングでは水原勇気のドリームボールを投げる綸子はん。若い人は知らんでしょうなあ、これは。思わず「ゴスロリ甲子園」という訳の判らないアニメを妄想する宮森あおい。


若き日の綸子はん 

 そして爽やかに汗を流した後で自分語りを始める綸子はん。駆け出し時代はTシャツにジーパンだったという綸子はんは、キャラデに抜擢された時、井口さん同様にプロデューサーや監督にぼんやりしたダメ出しを受け続け、心が折れそうになった経験があるのだと。

闇堕ちしそうな綸子はん 闇堕ち綸子はん
鎧装着綸子はん 

 「その時理解したのです。批評、ダメ出し、注文。全てにハイハイと頷いていてはいけないのだと。だから自分を守るために、私は鎧をまとったのです」そうか、ゴスロリファッションは武装だったのか(笑)。そして二つ目の記憶に残るセリフを発します。

ツラい時期のない職業なんてない 

 「ツラい時期のない職業なんてありません。屈辱をバネに、どれだけ自分が頑張れるかです。」大先輩である綸子はんにも苦しい時代があったと知った井口さん、「女の子っぽくする方向ではないのかもしれません。中性的な可愛さなのではないでしょうか」という具体的なアドバイスも貰って復活します。

コスプレ武装する井口さん 

 綸子はんのように服装で「武装」する井口さん。「第三飛行少女隊」の主人公、アリアのコスプレだそうですが、宮森が驚いています。プロデューサー達も根性出して、作中最大のクズ野郎、原作担当編集者の「変な話」茶沢を捕獲して原作者にキャラデを見せたところ、ようやくOKが出たのでした。

殴りたくなる茶沢 茶沢捕獲

 たろーも平岡もむかつくキャラでしたが、最後までクズを貫き通したのは茶沢でしょう。原作者とムサニの間を取り持つ立場でありながら、報告・連絡・相談を怠ったり、握り潰したりと滅茶苦茶やっていたので、製作スケジュールを極めて逼迫させる元凶となっていました。こいつがまともな人だったらそこまでの苦労はなかったと思いますが、そうすると作品が盛り上がらないのでこういう「悪役」も必要だったんでしょう。本当にいるのかこういう人?

記念写真のカメラマンになった茶沢 

 最終話での打ち上げパーティーでは記念写真カメラマンになっていたのには笑いましたが。ちゃんと反省したのならいいんですけどね。同じ事やらかして放逐される未来が見えそうです。

例の年収図 

 余談ですが、例の“SHIROBAKO年収図”だと、小笠原綸子の年収は513万円で木下監督を上回っています。メーカープロデューサーには及びませんが、業界ではかなりの高収入。これくらい貰えればもはやワーキングプアとは言えず、十分暮らしていけると思いますが、ここに至るまでが大変そう。監督より左は完全にワーキングプアですよね。夢で腹は膨れるかい?

JK時代の綸子はん 
JK時代の絵麻
 
 さらに余談を続けると、あれだけのピッチング・バッティングフォームを見せたわりに、高校生時代は囲碁部だったという綸子はん。なぜにアニメ業界に入ったのか。JK時代の綸子はんは、雰囲気的にはJK時代の絵麻に似ているような。純情可憐なJKがアニメーターになるんでしょうか。

赤バージョンの綸子はん 

ビッグ・ドライバー:いずれも映画化されたスティーヴン・キングの中編集

ボーナスシーズンです

 12月はボーナスシーズン!ということで、カードを使ってつい買ってしまいました。新たな腕時計を。スマホがあれば腕時計なんかいらないという人もいますが、いちいち取り出してボタンを押すよりも、パッと見て時刻が判る腕時計はやはり便利に思います。ファッションにはほとんど興味のない私が唯一関心を示すのが腕時計かも知れません。

エクシード CC9055-50F 

 ということで購入したのがシチズンのエクシード。ライバルはセイコーのドルチェあたりでしょう。昔、セダン車に明確なヒエラルキーが感じられた時代に例えれば、トヨタのマークⅡとか日産のローレルクラスといったところでしょうか。

これまで使っていたオシアナスマンタOCW2400-1AJF 

 当ブログでも記事にしましたが、2013年3月にオシアナス マンタOCW2400-1AJFを購入しておよそ3年半使ってきました。デザインとか性能に不足はなかったのですが、問題がないわけでもありませんでした。
① 意外に傷つきやすい…いやあ、チタンって結構柔らかいんですね。自分的には結構高い買い物したので、早いうちから傷ができたのには凹みました。ま、それも個性といえば個性なんですが。
② 札幌では電波を拾いにくい…これは深刻でした。夜にベランダに出して福島方向に向けても何度もチャレンジしないと電波を拾ってくれませんでした。これはカシオだからというより、地理的な問題なんでしょうけど。

アテッサ CC9017-59L  

 そこで世界中で電波を受信できるというGPS衛星電波時計が欲しいなと思いまして。知り合いがセイコーアストロンを購入してドヤ顔していたこともあって、向こうがセイコーならこっちはシチズンしかあるまいと。当初はオシアナスに近い色あいのアテッサのこのモデルを考えていたのですが、店で見た瞬間エクシードに一目惚れしてしまいました。

これ持ってました 
VEGAのアナデジ FORMA.png

 実はこれまでの腕時計人生(?)において、私とセイコーってあんまり接点がありませんでした。アルバのデジタル時計くらいでしょうかね。一方シチズンは、大学入学時にVEGAのアナデジを買い、就職時にFORMAを買ったのを覚えています。どちらも普通はお祝いに貰いそうなものですが、誰もくれないから自分で買うしかなかったという(涙)。

アテッサ スポーツ エコ・ドライブ 

 そして20世紀最後に買ったのがアテッサのエコドライブモデル。これが動かなくなって、それ以降カシオのオシアナスに寵愛が移って10年間が経過したというところで再びシチズンに回帰することになりました。シチズンの時計に感じることは、とにかく丈夫で傷つきにくいということでしょうか。エクシードというと上品かつシンプルなデザインと思っていたのですが、今回購入したのはアテッサのそっくりさんです。それもそのはず、ムーブメントのキャリバー(F900)は同じなんです。子供時代に松本零士のメーターに脳をやられているせいで、もう年なんだからシンプルなのにしようよと思っても、どうしても多針式を選んでしまいます。限定500本モデルということで、幾久しく共に。

ビッグ・ドライバー 

 それでは本題です。本日はスティーヴン・キングの「ビッグ・ドライバー」を紹介しましょう。本書は2010年に刊行された中編集「Full Dark,No Stars」に収録された4本の中編中の2本が収録されたものです。残り2本は「1922」という名で分冊されています。このあたり、短編集の「Just After Sunset」が「夕暮れをすぎて」と「夜がはじまるとき」の二冊に分冊されているのと同様、日本市場では一冊にするにはボリュームが大きすぎるのでしょう。

FULL DARK,NO STARS
 
 「モダン・ホラー」の開拓者にして第一人者とされるキングは作家生活40年を超えている訳ですが、まだ70歳前ということで精力的に書き続けているのですね。もうお金は十分に稼いだだろうと思いますが、金のために物語を紡いできたわけではないそうなので、金持ちになったとかいうことは「そんなの関係ねぇ!」なんでしょうね。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 映画版ビッグ・ドライバー

 小さな町での講演会に出た帰り、テスは山道で暴漢に拉致された。暴行の末に殺害されかかるも、何とか生還を果たしたテスは、この傷を癒すには復讐しかないと決意し…表題作と、夫が殺人鬼であったと知った女の恐怖の日々を濃密に描く「素晴らしき結婚生活」を収録。圧倒的筆力で容赦ない恐怖を描き切った最新作品集。

ビッグ・ドライバー映画版よりその1
 
 本書には「ビッグ・ドライバー」と「素晴らしき結婚生活」の2本が収録されています。「ビッグ・ドライバー」は2014年に同名で映画化されており、「素晴らしき結婚生活」は2015年に「ファミリー・シークレット」というタイトルで映画化されています。どちらも女性が主人公で、超常現象などは起きないという共通点があります。
ビッグ・ドライバー映画版よりその2 

 「ビッグ・ドライバー」はそこそこ名の知れたアラフォーの女性小説家が、依頼された講演会に出席しての帰途、恐ろしい目に遭うという話です。トラック運転手にレイプされ、殺され掛かったテスは、死んだふりをして窮地を脱しますが、他にも同様の目に遭って殺された女性達がいることを知り、また予め仕組まれた計画的な犯罪だったことに思い至り、復讐を開始します。

フォード・エクスペディション 

 こういうとき、とりあえずは警察に任せるのが一番とは思うし、ポリティカリー・コレクトでもあるんでしょうが、トランプが大統領に当選する昨今、ポリティカリー・コレクトなんかクソ食らえという状況もあるわけで、テスの場合はまさにそれでしょう。そしてアメリカにおいては弱者でも復讐をしやすい環境があります。そう、銃の入手が容易なのです。

ボロトラックに乗っていたのは 

 しかし、本作品の場合、復讐劇よりも九死に一生を得たテスがレイプされたという事実を伏せたまま何とか家に帰り着くまでの描写が恐ろしくも哀しいです。エロ小説とかエロ同人誌とかだと「悔しい…でも感じちゃう!」ビクンビクン的展開になりますが、実際のレイプなんてこういう恐ろしいばかりの蛮行なんでしょうね。レイプはいかん、レイプはやめましょう。それにしても…私なら絶対無理なこういうシチュエーションでもやれちゃう男がいるというのがなんともなあ。これが“業”なんでしょうか。

ビッグ・ドライバー映画版よりその3  

 テスの復讐は完全犯罪を企図したものでした。しかし、ある誤解により無関係な人物までも殺害してしまったテスは、復讐完遂後、遺書を残して自殺しようとします。が…その寸前、攻殻機動隊的に言えば彼女にゴーストが囁きかけたのでした。

レモンスクィーザー

 テスも酷い目に遭いましたが、テスにとって力になってくれるある女性の過去の体験も非常に恐ろしいです。「やったねたえちゃん!」すら超えるかも知れません。ホント、いくらモテなくても女性には優しくしたいし大切にしたいですね。

ファミリー・シークレット 

 続いて「素晴らしき結婚生活」。税理士と結婚して一男一女に恵まれて銀婚式も過ぎたダーシー。夫と始めたサイドビジネスのコインやトレーディングカードなどの流通も上手くいき、子供達も独立し、悠々自適な後半生が待っていると思いきや、ふとしたことから未来予想図は崩壊してしまいます。

ダーシー 

 なんとビルは税理士として出張した際に、コイン蒐集などをする傍らで猟奇殺人事件を引き起こしていたのでした。「ビーディー」と名乗るシリアルキラーは、被害者の身分証や免許証などを警察に送りつけては挑発するたちの悪い殺人鬼(たちの良い殺人鬼というのはいないでしょうが)として世に知られていましたが、まさか夫がそれだったなんて。

シボレーサバーバン 

 しかもダーシーがその事実に気づいたことをあっさりと看破するビル。次の犠牲者はダーシーか!と思いきや、そうはならないのでした。こちらもポリティカリー・コレクトは、夫が殺人鬼だと判明した時点ですぐに通報することでしょう。しかし、それは子供達(事業を始めた息子と結婚を控えた娘)の人生を無茶苦茶にするばかりでなく、ダーシーの生活も破壊してしまうでしょう。

小麦1セント硬貨 

 そしてそれを自ら指摘するボブ。そしてもうやらないから黙っていてくれと妻に頼むのです。知らぬが仏とは言いますが、知ってしまったらシリアルキラーと寝室を共にするなんてなかなかできないですよね。ですが、確かにボブには16年間犯行を行わなかった時期がありました。ダーシーと結婚して子供が生まれ、育っていた時代はボブは良き夫、良き父、良き社会人として振る舞っていたのです。

映画版ア・グッド・マリッジのシーンその1 

 ボブによれば、少年時代の親友で事故で死んだブライアン・デラハンティが心の中に棲み着き、ボブに犯行を唆すのだそうです。その「ビーディー」という名前もそのイニシャルから取られているのですね。その夫の主張が正しいのかでまかせなのかは判りませんが、とりあえずもう二度としないという誓いを受け入れてそれまで通りの生活を続けようとするダーシーでしたが…

ビルとダーシー 

 こちらも、夫が連続殺人鬼であると知ってからの妻の懊悩がリアルできついですね。女性を酷い目に遭わせるのが好きなのか、キングは?が、どちらの作品も「苦い勝利」といった終わり方をしており、読後感は必ずしも悪くはありません。というか、暗黒のトンネルを抜けた先には明かりがあるようです。

ビルの脅迫? 

 この夫が殺人鬼であることに気づかなかった妻という設定にはモデルがあり、2005年に逮捕されたデニス・レイダーが31年前にマスコミに“BTK”として犯行声明を送りつけていたた連続殺人犯だったという実話に着想を得たものです。

デニス・レイダー 

 BTKとは、「縛る(bind)」「拷問する(torture)」「殺す(kill)」の頭文字で、レイダーは1974年から91人にかけて合計10件の殺人を犯しましたが、妻と成人した子ども2人を持ち、大学で司法行政の学位を修め、市職員(法令順守監督)として野犬収容や市民の迷惑対策などを担当し、ルター派教会の信者会長を務めたこともあるという、社会的にはごくまっとうな人物として生活していました。

テレビに出演するレイダー 

 逮捕後、レイダーは法廷では一切争わず、全ての容疑を認めた上で、175年の禁固刑となりました。カンザス州では1994年に死刑制度が復活されましたが、BTKの犯行は全てそれ以前のことだったので、死刑は免れましたが、事実上終身刑で生きている間にシャバに出ることは不可能でしょう。

ジョン・ゲイシー 

 シリアルキラーというのはどの国、どんな民族・人種にも出現するものなんだとは思いますが、殊の外アメリカでのそれは目立つというか多いような気がするのは私だけでしょうか。別に全世界での統計を調べたとかではなく、あくまで直感的なものなんですが、アメリカという国にはそういう怪物が出現しやすい土壌というか歴史的背景みたいなものがあるのではないかな~なんて思ってしまいます。

テッド・バンディ 

 レイダーが捕まった時、家族(特に妻)が、夫の裏の顔に全く気づかないと言うことがあろうかと話題になったそうです。全く判らなかったという妻の発言を多くの人は信じなかったそうですが、キングは信じたと言っています。そしてそこから生まれた本作はキングなりの回答なんでしょう。

BTKキラー 

 なおレイダーBTK事件に関してはキングとは別に、「BTKキラー」とか「監禁拷問殺人者」という映画も作られています。「BTKキラー」では“K”が被ってますが…。「監禁拷問殺人者」はBTKを直訳していますね。

監禁拷問殺人者 

ヒトイチ 画像解析 警視庁人事一課監察係:“公安”色が強まったシリーズ第2弾

萌系の和服少女

 電車の中吊り広告をボケーっと見ていたら妙に萌系の広告が。何と名門百貨店高○屋の広告ではありませんか。こういう子がお歳暮を持ってきてくれたら手ぬぐい一本でも大喜びです。というよりこの子をお歳暮に下さい(爆)。思い返してみればお中元シーズンにも似たような広告を見た記憶が。

萌系の和服少女その2 

 そうそうこれこれ。やはり高○屋の広告でした。お中元の子とお歳暮の子は別人みたいですが、お中元の子はやはりお中元として贈られてしまったのでしょうか。

涎小豆 

 それはさておき、「美事」という当て字…これを見ると岩本虎眼先生の「涎小豆」の秘技が炸裂したのかと思ってしまいます。

お美事にございまする 

 本日は警察小説の流れを一変させてしまった元警視庁警視・濱嘉之の「ヒトイチ 画像解析 警視庁人事一課監察係」です。本年4月26日の記事(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-1292.html)で紹介した「ヒトイチ 警視庁人事一課監察係」の続編です。2015年11月13日に文庫版書き下ろしとして講談社文庫から刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

ヒトイチ 画像解析 

 「蒲田署内で拳銃自殺だ」。遺体は強姦痴漢事件の犯人を追いつめていた腕利きの巡査部長。警視庁人事一課監察係、通称ヒトイチのエリート榎本博史が真相究明に乗り出すと、警察のデータサーバーには防犯カメラから転送された驚きの画像が――「警察が警察を追う」シリーズ、絶好調第二弾!

 「第一章 拳銃自殺」は内容紹介通り、警視庁捜査一課の腕利き巡査部長が署内で拳銃自殺をするという事件が発端になっています。拳銃自殺は犯罪者扱いとなり、懲戒免職扱いで退職金も出ないそうで、警察官のみなさんは自殺するはめになっても拳銃自殺だけはやめておいた方がいいですよ(当然知っているでしょうが)。

拳銃自殺のイメージ 

 しかし、拳銃にはもう一発撃った痕跡が。いつ、何に向けて撃ったのか。「警察の警察」である人事一課(ヒトイチ)監察係が動き出します。そして浮かび上がる悲惨な事件の背景。この巡査部長の行動については当然議論があるところですが、心情的には理解できますね。犯罪者には法の裁きをという建前がしっかり機能していれば、「仕掛け人」とか「ブラックエンジェルズ」なんて物語は生まれてこない訳で。

 なお本シリーズの主人公である榎本警部には菜々子という恋人がいて、そろそろ結婚を考えているというところですが、この榎本警部を「警視庁公安部・青山望」シリーズの主人公青山望と混同していたかも知れません。それにしても警部に昇進するには結婚しているか結婚を前提に交際している恋人の存在が必要だとは、警察も相当アナクロなことです。

 「第二章 痴漢警部補の沈黙」は、警察官が破廉恥にも痴漢を行って一般人に逮捕されるという話。当然重い不祥事ですが、警察官にも犯罪多発世代(言い換えれば不祥事多発世代)というのがあるそうです。30歳手前と定年前数年間ということで、前者は性犯罪やそれに伴う窃盗(要するに下着泥とか)が多く、後者は横領・詐欺など金銭関係の犯罪が多いそうです。

痴漢のイメージ 

 そして続けざまに痴漢犯罪発生。しかし今度の容疑者は組織犯罪対策部の警部補で、何故か完全黙秘を貫いています。この警部補をかつて暴力団の大物を情報源としていましたが、抗争によってその大物は死亡していました。榎本達が捜査を進めると、痴漢の被害者はどうやら警部補がかねて知っていたはずの大物の娘であることが判明。

 というところで、巷間よく言われる痴漢冤罪とかいう話になっていくのですが、それなら否認すればいいのになぜ警部補は黙秘なのか?榎本は監察ですが、警察部外へ捜査が及ぶとなると人出が足りず、警視庁公安部の山下警部に助力を依頼することになります。この山下警部が青山望のそっくりさん的な活躍を見せます。そして浮かび上がる極左団体の影。公安部の捜査活動は作者の十八番ですが、これがあんまり活躍するとヒトイチの影が薄くなってしまいますね。

 「第三章 マタハラの黒幕」も引き続き極左団体絡みの話です。妊娠・出産・育児休暇と数年間仕事を休業中の女性警官(本書では「女警」と呼ばれます)がいて、勤務成績も態度も不良で署内の問題児と化しています。当然上司の受けも最悪なんですが、その女警が流産したことで、上司をマタハラ(マタニティハラスメント)で訴えることになります。

マタハラ 

 そしてそれを支援する極左団体。榎本たちヒトイチは、マタハラの有無から女警と極左団体のつながりまで調べることになり、またも公安部の山下警部の手を借りることになります。というか、外部の団体、ましてや極左団体が介入しているとなると公安部が動かないわけもないのですが。

 女警の言い分は、マタハラに悩んでインターネットでたまたま接触したということでしたが、公安部の捜査により、かなり以前からずぶずぶな関係だったことが判明します。左翼系弁護士や市民団体(いわゆる「プロ市民」ですな)を伴って大々的に記者会見を行った女警側に対し、警察側も即座に記者会見を行い、「関係団体」への捜索差押を行ったことを発表します。

女性警察官達 

 今回は男女雇用機会均等法の理念と、男の警官とは同じようには使えない女性警察官という現場での現実とのジレンマや、出世を諦めてしまった警官の“再生”の困難さなど、かなりシビアな話が登場してきます。青山望シリーズでは優秀な警官が多く登場していますが、ヒトイチでは問題警官が多数登場してきて、従来の警察小説作家が取り上げてきたものに近い感じになっています。まあ問題警官がいなければヒトイチは開店休業ですからシリーズが続く限りは不祥事が発生しなければなりませんが。

 ただ、純粋な腐敗・悪徳警官というよりは、警察や自衛隊など権力機構の弱体化を狙っている極左団体などの介入という事例が多く、そのせいで公安部が登場してくるのでヒトイチが食われ気味になっています。このままでは青山望シリーズに近くなってしまいそうなので、もっと監察に焦点を当てた物語になるといいような気がしますが。

好きなアニメキャラ(その84):宮森あおい(SHIROBAKO)

アリスまでも死亡

 あまりのダーク展開で毎週楽しみ「魔法少女育成計画」、10話でも2人が死亡して残りは5人になってしまいました。どうやったら倒せるんだ?と思われた不死身のハードゴアアリス、まさかの変身前の素性判明→変身前に殺害。殺したのはナチュラル・ボーン・キラーのスイムスイムでしたが、殊勲賞は妹が死んでから人が変わったように攻撃的なミナエルの機転でしょう。

ミナエルも死亡 

 そのミナエルはあっさり擬態がばれてクラムベリーに瞬殺されてしまいました。妹のユナエルもヴェス・ウィンタープリズンに瞬殺でしたが、良い仕事をした後にあっさり殺される宿命だったのか。

救いのない展開のアリス 
無表情に人を殺すスイムちゃん 

 それにしてもアリスちゃんの境遇は悲惨すぎました。リップルといい、そういう子をあえて選んだりしているんだろうかファブは。魔法少女にならなかったら自殺してたかも知れないけど、なったらなったで殺害されるなんて、本当に救いがないアニメです(だがそれがいい)。

殺し屋ですのよ 

 スイムちゃんはルーラ、ウィンタープリズン、トップスピード、アリスと4人もの魔法少女を倒しており、あと1人撃墜でエースなんですが…。ここに来てクラムベリーとリップルから目を付けられてしまったので生き残るのは難しいかな。

曇りまくるスノーホワイト 

 ラ・ピュセル、アリスとスノーホワイトの相棒になると必ず死ぬというのは仕様でしょうか。ますます曇っていくその表情がいいですね。あとスイムちゃんは何かと回想でルーラを呼び出すので、中の人・ひよっち(日笠陽子)はギャラが稼げてウハウハですが、スノーホワイトはラ・ピュセル(CV佐倉綾音)を全然回想してくれないという。困った人の心の声は聴けても死者の声は聞こえないのか。あやねるが泣いているぞ(笑)。

宮森あおい全身図 

 それでは本日の本題です。先週に引き続いてSHIROBAKOの好きなアニメキャラ、主人公の宮森あおいを紹介しましょう。主人公が好きなキャラになるのは個人的には結構珍しい部類だと思います。「花咲くいろは」も松前緒花以来か知れませんが、そういえばあれもP.A.WORKS作品ですな

元気なおいちゃん 

 山形県立上山高校アニメーション研究会のリーダーで、短大卒業後、アニメ制作会社の武蔵野アニメーション(ムサニ)に入社しています。本編開始時点で一年目で21歳。制作進行を担当しており、第2クールの「第三飛行少女隊」編では制作進行のリーダーである制作デスクに抜擢されました。

あおいと絵麻 

 ムサニには同好会メンバーだった安原絵麻が先にアニメーターとして入社していましたが、後を追っかけてきたという訳ではなく、就職にかなり苦戦して、ようやく拾ってくれたのがムサニだったようです。業界の就職事情は詳しく分かりませんが、少なくともムサニに限っては太郎とか平岡みたいな「問題職員」でもホイホイ採用してしまう会社なので、希望すればだいたい誰でも入れるような。問題は続くかどうかなんでしょうけど。

驚くおいちゃん 

 アニメ同好会の元メンバーからは「おいちゃん」「おいちゃん先輩」と呼ばれ、先輩の矢野エリカからは「みゃーもり」と呼ばれています。アニメは人並以上に好きですが、オタクとかマニアといったレベルではなく、好きなアニメであっても制作スタッフについてはさほど関心がなかったようです。

山ねずみロッキーチャック 

 子供の頃に「山はりねずみアンデスチャッキー」を見てアニメに関心を持ちました。「アンデスチャッキー」の元ネタである「山ねずみロッキーチャック」は1973年放映なので、本放送を見たわけもなく、再放送で知ったのでしょう。私は本放送を見ましたが、内容はほとんど覚えてません。

どんどんドーナツどーんといこう! 

 大好物はドーナツで、「どんどんドーナツ、どーんといこう!」の掛け声は同好会メンバーの決め台詞となっています。他のメンバーは必ずしも好物ではないらしいですが、付き合いがいいというか結束が固いというか。

どんどんドーナツどーんと行こう!その2 

 あおい自身は「ドーナツは完全食」と強弁しており、会話の途中で不意にドーナツの話題を出したりもします。どうでもいい話ですが、私はあんドーナツが好きですな。

おいちゃん百面相その1 
おいちゃん百面相その2

 いつも明るく前向きで、仕事に対しては真剣に取り組み、若手進行らしくいつも奔走しています。現場の上京が逼迫すると、焦りなどから新人相応のミスをすることもありますが、あおい本人が原因で大失敗をやらかすということはありません。

素敵な表情のおいちゃん 
 
 タローのミスや平岡の態度などや、それに伴うトラブルに巻き込まれてしまうことは多々あり、苦労はそれなりにしていますが、様々な失敗や経験から成長していきます。こういうポジティブな女の子は職場が明るくなりそうなので、うちにも一人は欲しいところです。

おいちゃん百面相その3 
へろへろおんちゃん

 声優やアニメーターなどと違って、制作進行は直接アニメを作る立場ではないせいか、本当に自分のやりたいことや将来の方向性が見えておらず、人知れず悩んでいたりします。ただし先輩達からは「アメとムチを持っている」「制作に向いている」等と言われており、停滞した会議で助け船を出して上手く話を進ませたり、険悪な人間関係の和解に寄与するなど、周囲の評価はかなり高く、信頼も得ています。 

車を運転するおいちゃん 

 制作進行は原画の回収や白箱のお届けなどで運転免許は必須のようですが、あおいの運転技術は非常に高く、社用車でドライビングテクニックを駆使しており、他者の制作進行を出し抜いています。

ミムジーとロロ 
ミムジーとおいちゃん
ロロとおいちゃん

 眼帯のファッションドールの「ミムジー」と白熊のぬいぐるみ「ロロ」を常に連れており、あおいが悩んだり追い詰められたりすると、心の代弁をしてくれますが、実際はあおいが一人芝居で操って代弁させています。ミムジーが問題について辛辣な不満や疑問を投げかけ、ロロがそれをなだめるて諭すというのがお約束になっています。そういう意味ではあおいは黒い面も持っているということになるのですが、それを感じさせないキャラとなっています。

 パジャマのみゃーもり

 ただしミムジーとロロの場面は、他者が見ると単にあおいがぶつぶつと独り言を呟いているだけなので、明るく元気な普段の姿とのギャップにギョッとしたりして。

切羽詰まったおいちゃん 

 泣いたり笑ったりテンパったりと、コロコロと変わる豊かな表情が魅力的ですが、その一方業界の大御所にも物怖じせずに意見を述べたりするなど、度胸のある一面も見せています。もっとも相手の巨匠ぶりを理解していないからなのかも知れませんが。

あおいとかおり 

 家族は両親と信用金庫に務める姉・かおり。両親はあおいを応援しており、姉とも仲がいいようですが、堅実な仕事を選んだかおりからすると、貧乏でも夢を追いかけているあおいには羨ましい部分もあるようです。

ずかちゃんが選ばれた  

 制作進行出身のP.A.WORKS社長によると、入社1年目のあおいの活躍ぶりは、制作サイドの理想が入っていることもあってかなり優秀だそうです。むしろこんな使える子を採用しなかった他社の人事の節穴っぷりが…

感極まるあおい 

 あおいの一番好きなシーンは、同期の「ずかちゃん」こと坂木しずかが声優としてなかなか芽が出ないのを影ながら心配していたところ、苦労の末に「第三飛行少女隊」最終話をめぐる“ちゃぶ台返し”の副産物で役を得ることができ、その演技を見て号泣するところです。

闇堕ち寸前のずかちゃん 

 結果的にアニメーション同好会の5人全員が同じ仕事に関わることができたのですが、直前ではずかちゃんは闇堕ちしかかっていたので、これがなかったらもしかすると夢を断念していたのかも。もちろん前途は予断を許さないでしょうが、とりあえず役を取って演技して人に聞いて貰わなきゃ話になりませんからね。

木村珠莉 

 CVは木村珠莉。福岡県出身で生年は未公表。6月7日生まれ…って私と同じ日だ。養成所を経て2011年から東京俳優生活協同組合に所属。医療機器の取扱説明ビデオや株の商品説明ビデオなど、企業内向けビデオを中心にナレーションを務めてきて、本作の宮森あおい役がアニメでの初主役となっています。

木村珠莉その1 

 学生時代は放送部に入っており(ワシもじゃ、ワシもじゃみんな!)、元々ナレーター志望で声優業界に入ってきたそうですが、「SHIROBAKO」での主役抜擢に際しては「私なんかがアニメに出演していいのだろうか」と思っていたそうですが、「SHIROBAKO」で多くの作り手や視聴者の想いに触れたことで、アニメで芝居をするということへの意欲を強くしたそうです。あおい役での好演の影響か、2015年以降アニメ作品への出演が急増しています。

木村珠莉その2 

 日本漢字能力検定準2級、実用英語検定準2級、色彩検定3級などの資格を持ち、趣味は仏像鑑賞、音楽鑑賞、読書でインドア派だそうです。宮森あおい役は揺るぎない代表作と言っていいと思いますが、キャライメージが固まり過ぎると他作品で使いづらくなったりすることもあるようです。ぜひ芸域を広げていただきたいと思います。

木村珠莉その2 

娘は娘:一卵性母娘の“愛と憎悪”を描いたクリスティの名作

神戸ルミナリエ2016

 まるで11月のような穏やかな一日でした。12月はもうちょっと寒くてもええんやで…と言いたくなりますが、11月が結構寒かったのでこれもまたありでしょう。12月は恒例のライトアップ画像になりますが、早いところでは11月から始めてますね。クリスマスと直接関係ないといえばそうなんですが、でもネタはクリスマスであることが多いようです。

娘は娘 

 本日はアガサ・クリスティの「娘は娘」を紹介します。これは傑作でしょう。クリスティを取り上げるのはもしや今回が初めて?図書館にあったクリスティものはブログ開始前にガンガン読んでしまってましたからね。

アガサ・クリスティ 

 アガサ・クリスティはフルネームがアガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティ(Dame Agatha Mary Clarissa Christie)。生没は1890年9月15日~1976年1月12日で、イギリス生まれの推理作家です。名探偵エルキュール・ポワロ、ミス・マープルを中心とする推理小説の多くは世界的にベストセラーとなっており、「ミステリーの女王」と呼ばれています。

少女時代のアガサ

 いわゆる欧米で言うところの中産階級出身で、三人兄弟の末っ子でしたが年齢が離れていたので幼少期に共に過ごす機会は少なかったようです。父フレデリックは事業家でしたが商才に乏しく、祖父の残した遺産を投資家に預けて、働かずに暮らしていたそうです。節子それ事業家と違う、高等遊民や!でも羨ましい。。母クララは父の従妹で、少々変わった価値観を持つ「変わり者」として知られていたそうですが、夫には生涯愛され続け、アガサも母を尊敬し続けたそうです。

エルキュール・ポアロ 

 「7歳になるまでは字が書けない方が良い」として字を教わらなかったり、同年代の子供がパブリックスクールで教育を受ける間、学校に入ることを許されなかったりと、クララはかなり奇妙な信念を持っていましたが、アガサは父の書斎で様々な書籍を読みふけって過ごして幅広い知識を得て、教養を養うことが出来たほか、一家が短期間フランスに移住した時、礼儀作法を教える学校に入って演劇や音楽を学んだりしたそうで、正規の教育を受ける機会はなかったものの、アガサ自身は自らが受けた教育について誇りを持っていたそうです。

ミス・マープル 

 第一次世界大戦中は薬剤師の助手として奉仕活動に従事し、終戦後の1920年に「スタイルズ荘の怪事件」で推理作家としてデビューしました。85歳で亡くなるまで長編小説66作、中短編を156作、戯曲15作、他名義の作品6作などを執筆しました。「アクロイド殺し」(1926年)、「オリエント急行の殺人」(1934年)、「ABC殺人事件」(1936年)、「そして誰もいなくなった」(1939年)等は特に名高く、世紀をまたいで版を重ねています。いや~、それらは全部読みましたね。

 アクロイド殺し

 ファンが作る「アガサ・クリスティ協会」によると、彼女の作品は全世界で10億部以上出版されており、聖書とシェイクスピアの次によく読まれているという説もあるとか。ユネスコの文化統計年鑑(1993年)では「最高頻度で翻訳された著者」のトップに位置しているほか、ギネスブックでは「史上最高のベストセラー作家」に認定されています。

 オリエント急行の殺人

 他名義の作品があると書きましたが、メアリ・ウェストマコット (Mary Westmacott) 名義の小説が6作品あります。クリスティと言えばミステリーという定評が確立した中、殺人事件の起きない小説をクリスティ名義で刊行しては読者が混乱するだろうという配慮によるもので、「愛の小説シリーズ」というロマンス小説をこの名義で発表していますが、日本では最初からアガサ・クリスティー名義で翻訳されています。

ABC殺人事件 

 今日紹介する「娘は娘」は1952年発表のシリーズ第5作です。シリーズ第3作「春にして君を離れ」(1944年)と最終作「愛の重さ」(1956年)と共に三部作を成すとも言われています。殺人とか大事件は一切起きませんが、心理の動きと真相に迫る様子は、サスペンスといっていいほどだと思います。

そして誰もいなくなった

 「春にして君を離れ」は、良妻賢母を自認する中年女性が、鉄道の事故で砂漠にしばらく滞在するはめになり、何もすることがないままに自省考察モードに入り、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめるという作品です。

愛の重さ 

 「愛の重さ」は未読ですが、姉妹の愛憎を描いた作品だそうです。図書館で見つけたらぜひ読みたいですね。そして「娘は娘」は、タイトルどおり母と娘の愛憎劇ということになりましょう。まずは文庫本裏表紙の内容紹介です。

ロンドン2016その1 

 若くして夫と死別したアンは愛情を注いで一人娘セアラを育ててきた。だが再婚問題を機に二人の関係に亀裂が。貞淑だった母は享楽的な生活を送るようになり、誤った結婚を選択した娘は麻薬と官能に溺れていく。深い愛情で結ばれていた母娘に何が起きたのか? 微妙な女性心理を繊細に描く。

春にして君を離れ 

 「春にして君を離れ」もそうでしたが、メアリ・ウェストマコット名義の作品は非常に繊細に女性心理を描いています。元の文章が平易なのか、翻訳した中村妙子が達者なのか、その微妙な表現がとっても判りやすく綴られており、翻訳ものにしてはとても読みやすいです。読みやすいから深みがないかといえば、決してそんなことはないし。
 
秒速のDVDパッケージ 

 ちょうど新海誠の(今では「君の名は。」で知られていますが)「秒速5センチメートル」が、特に大きな事件もなく、誰も死んだりする訳でもないのに、一部の視聴者の記憶の底に眠っていた心の傷を疼かせるように、「春にして君を離れ」や「娘は娘」は、自分でも、ある行動の背後にある、自分でも意識していない「心の襞」に潜んだ感情を、何気ない会話や行動からあぶり出してくるのです。

ロンドン2016その2
 
 夫が若くして死に、その後16年間を娘のセアラと過ごしてきたアン。まだ40歳を超えたばかりで瑞々しさを失っていませんが、セアラの成長を楽しみに生きてきました。セアラは亡夫に似たのか非常に活発で自己中心的なところがありますが、もちろんアンを深く愛していました。

ロンドンナイトライフその1

 そのセアラが3週間の予定でスイスにスキーに行き、久しぶりに自分だけの生活を取り戻した時、アンはリチャードという男性と出会って恋に落ちます。ビビビと来たという奴ですね。リチャードも若い頃妻を亡くしていてやもめ暮らしで、英国を出てビルマに行っていたのが帰国したばかりだそうです。

ロンドンのパブ 

 短期間で結婚の約束まで行ってしまう二人。セアラがいない間に何もかも決めてしまっていいのかと懸念するアンですが、婚約を知らせる手紙にスイスのホテルの住所をちゃんと書かずに投函したことで、セアラの帰国まで知らせることはできませんでした。

ロンドンの公園 

 帰国したセアラはアンの再婚話にびっくり仰天。しかし再婚自体は反対ではなく、これまでの知り合いの誰かかと思いきや、全く知らなかったリチャードだということで二度びっくり。しかも二人の相性は最悪でした。女性の扱いを知らないリチャードと男性の上に君臨したいタイプのセアラはなにかにつけ激突することになります。

ロンドンの公園その2 

 二人きりのラブラブな雰囲気はどこへやら、愛する二人の抗争におろおろするばかりのアン。リチャードは優柔不断なアンの態度にも腹を立てるようになり、三人一緒ではとても暮らせないということで、セアラを自立させようとします。セアラももう19歳だから、先立つものさえ保証してやれば大丈夫だろうと。

ロンドン中産階級のイメージその1 

 しかし、セアラからすれば母を奪い取られるようなものに感じ、リチャードは母に似つかわしくないと確信しているので、子供のように泣きじゃくってアンに家から出さないでと懇願します。進退窮まったアンは泣き叫ぶセアラを見捨てることができず、ついにリチャードが去ることになります。

ロンドン社交界のイメージその2 

 そして2年後、人が変わったように毎夜遊び歩くようになったアン。髪型も服も化粧も派手になり、調度品もすっかり派手になってしまいます。そんなアンの変わりように懸念を持ちながらも、若いセアラは大金持ちのロレンソと出会います。バツ3で、悪い噂が絶えないロレンスですが、悪魔的な魅力に惹かれていくセアラ。アンに相談しますが、自分自身で決めることだと優しく、でも突き放すアン。

ウエストミンスター寺院 

 実はアンにはジェリーという昔からのボーイフレンドがいるのですが、彼は英国に見切りをつけて一旗上げるためにアフリカに旅立ったのです。ジェリーについてはアンは以前から良く思っておらず、アフリカに行ったことで縁が切れたと喜んでいました。ロレンスとの結婚を思い悩んでいたところに届いたジェリーの手紙は、アフリカでの事業失敗の知らせでした。そしてそのショックもあってついにセアラはロレンスと…

バッキンガム宮殿 

 次第にはっきりしてくるのは、アンとセアラの互いに対する愛と憎しみ。アンはリチャードとの再婚をセアラがぶちこわしたことで、セアラのために自分の幸せを犠牲にしたと思っています。そしてロレンスと結婚することは不幸になるばかりだと判っていて、あえてセアラの行動を放置するアン。セアラはなぜ止めてくれなかったと怒るのですが、それは自分がリチャードとの再婚話を壊した報復だったと知って愕然とします。もっともお互いに自分の真意というものに気づくのは、本当に激突して怒りに任せて本音をぶちまけ合った時なのですが。

ロンドンのアフタヌーンティー 

 本作には二人、印象的な人物が登場します。まずはアンの娘時代からいたメイドであるイーディス。メイドらしからぬ小言を言い放ち、諺や、たくさんいる自分の親戚に起きた出来事を引用してはアンとセアラにしばしば警告をするのですが、基本的に使用人という分をわきまえているので、二人を心配しながらも差し出たマネはしません。なんとなくあまり頭の良くない(失礼)ミス・マープルという印象を受けます。

ロンドン塔 

 もう一人はローラ。ずいぶんと年上のアンの友人で、セアラの名付け親(ゴッドマザー)でもあります。著述家にして講演家で、海外にも出かけ、その社会的貢献からナイト(勲爵士)に叙せられて、男性で言う「サー(Sir)」の称号に等しい「デーム(Dame)」の称号を持っています。この人も人の人生に干渉することを好まず、アンやセアラを冷静な目で見て警句は発するのですが、二人ともそれに気づかない(あるいは気づかないふり)をしてしまいます。

ロンドン国会議事堂 

 結局のところ、カナダでもう一旗あげようとするジェリーがセアラを目覚めさせ、二人でカナダに向かうことになります。その前に大衝突をしてそれぞれの気持ちを理解し合ったアンとセアラは、どちらも相手に合わせる顔がないと思っていますが、最後の最後に使用人の分を超えたイーディスからの懇願により、ローラがポリシーを破ってアンに干渉します。これによりようやくお互いを許し合うアンとセアラ。大団円という感じではあるのですが…

大英博物館 

 おっさんの視点からすると、アンがのぼせたリチャードも、セアラが選んだジェリーも「なんだかなあ…」という男です。リチャードは常に上から目線で小娘一人手なずけられない不器用者です。ジェリーはいつも不平不満の塊で、仕事が長続きしません。叔父の会社で働いていたのにあっさりやめて、やったこともないオレンジ栽培をアフリカでやってみようとする、なんというか…意識高い系なんですよね。

ロンドン近衛兵 

 アンはリチャードと結婚したら幸せだったかも知れない。セアラはジェリーとカナダで幸せになるかもしれない。ですが…確かにアンとリチャードはうまくいったかも知れませんが、もはやそれは過去の話で二度と叶わぬこと。そしてジェリーとセアラの幸せは未来のことですが、本当にうまくいくのかなあ?ジェリーは何をやっても上手くいかない人で、傍らにセアラがいればと思っていますが、金持ちの暮らしに慣れたセアラはいつまで貧乏暮らしに耐えられるのか。愛があれば…なんて言いますが、本当の貧乏を知っているのかなあ?

テートギャラリー 

 それにしても思うのは、欧州の中産階級というか中流というのはお金持ちなんだなあということです。アンは働いている様子がないし、セアラはアルバイト程度のようですが、一人とはいえメイドを置いて優雅に暮らせるんですから。アンの亡夫がそれなりのものを残したのかもと思いましたが、ごく若い頃に死んでいるのでそれはなさそうです。つまりアンが両親から受け継いだ遺産がかなりのものだということなんでしょうね。いいなあ、優雅に暮らせて。

終わりなき夜に生まれつく 

 クリスティの作品は傑作揃いですが、個人的にこれまで読んだクリスティ作品のベスト3は「春にし君を離れ」「終わりなき夜に生まれつく」そして「娘は娘」です。「終わりなき夜に生まれつく」は、ミステリーとしては評価が高くなのですが、これはむしろサスペンスとかホラーとして読むべきなんではないかと。クリスティ自選のベスト10に入っていますし。

ロンドンの公園のリス 

 ミステリー作家として超一級なだけでなく、人間とか人生、運命とか業といったものに深い洞察と示唆を含んだ作品を描いているところがクリスティの凄いところだと思います。しかも平易で読みやすいときていて、世界でベストセラーになっているのもむべなるかなです。

十二人の手紙:手紙が示すそれぞれの人生の行方

12月ですってよ奥様

 あれよあれよという間に大好きな11月が過ぎ去り、いよいよ12月ですってよ奥様!!静かで穏やかだから好きな11月ですが、今年ややたら寒かったり雪が積もったりと大騒ぎだった印象です。12月も華やかで嫌いではないのですが、せわしなくて落ち着かないんですよね。

十二人の手紙 

 本日は井上ひさしの「12人の手紙」を紹介します。井上ひさしと言えばビッグネームですが、実は当ブログで紹介するのは初めてという体たらくです。

井上ひさし 

 井上ひさし(1934年11月17日~2010年4月9日)は山形県東置賜郡川西町出身。本名は廈(ひさし)で、中国の厦門(アモイ)に由来するそうです。父が幼少期に亡くなったり、母が再婚した義父に虐待を受けたあげく有り金を持ち逃げされたり、生活苦からカトリック修道会の孤児院に預けられたりと色々あったようです。

浅草フランス座 

 上智大学仏語学科在学中から浅草のフランス座(ストリップ劇場:現在は浅草フランス座演芸場東洋館)で劇場座付き作者となり、照明係などの雑用をこなしながらコントの台本を書いていました。当時のストリップは1回2時間程度のショーに先駆け、1時間程度の小喜劇を出し物としていて、フランス座では渥美清、谷幹一、関敬六、長門勇と言った日本を代表する喜劇役者の若き日の活躍の場でした。さらに言えばフランス座では若き日の萩本欽一やビートたけしもコントをやっていました。

フランス座出身者 

 大学卒業後は放送作家として活躍し、「ひょっこりひょうたん島」などを手掛け、その後戯曲の執筆を始め、小説・随筆等にも活動範囲を広げていきました。1972年の「手鎖心中」で直木賞、1981年の「吉里吉里人」で日本SF大賞、星雲賞日本長編部門、読売文学賞などを受賞しています。

ひょっこりひょうたん島 

 私が読んだことがあるのは映画化された「ドン松五郞の生活」(1975年)くらいで…もしかすると他にも「モッキンポット師の後始末」あたりは読んだことがあるかも知れませんが、覚えてません。なぜ敬遠気味にしていたかというと、政治的に左派だから…ではなく(作家に左派的な言動をする人は腐るほどいますから)、最初の奥さんとの離婚を巡って、今で言うドメスティック・バイオレンスが大々的に報道されからなんですね。

ドン松五郞の生活 

 井上ひさしは遅筆で有名で、自ら「遅筆堂」を名乗っていたほどですが、自ら劇団を立ち上げておきながら、書き下ろし戯曲が公演に間に合わず休演させるということが度々ありました。完成した戯曲の評価は極めて高いので、クオリティーがスピードを犠牲にしていたと言えるかも知れません。それはそれとして、いただけないのが、筆が進まなくなったりすると奥さんに暴力を振ったことで、しかも編集者も「あと二、三発殴られてください」などと暴力を煽るようなことを言ったそうです。

DV作家井上ひさし 

 井上ひさしは写真で見るととぼけた感じの善人風なんで、そのギャップが怖いなあと感じたものでした。奥さん(西舘好子)はDVついて「「肋骨と左の鎖骨にひびが入り、鼓膜は破れ、全身打撲。顔はぶよぶよのゴムまりのよう。耳と鼻から血が吹き出て…」と克明に記しており、井上ひさしもエッセイでユーモア混じりにDVについて触れています。しかし人気作家だったせいかマスコミ側が擁護の立場を取り、井上ひさしがDVについて一切黙殺する姿勢を取ったこともあり、公職や公的活動も一切控えることもなく、特に追及する声も起こらずに収束していきました。現在なら絶対アウトですけどね。作品と作家の人間性は分けて考えるべきという考え方もあり、それはそれで正しいのでしょうが、作家の人間性が好きになれないと、どうしても作品を手に取る気にならなくなるんですよね。

吉里吉里人 

 まあ作家の人間性についてはこれくらいにして本題に入りましょう。「十二人の手紙」は1978年6月に中央公論社から単行本が刊行され、1980年に中公文庫から文庫本が刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して主人の毒牙にかかった家出少女が弟に送る手紙など、手紙だけが物語る笑いと哀しみがいっぱいの人生ドラマ。 

 タイトル通り、十二人の人生が、十二編の短編で描かれていますが、それが手紙文のみで記されています。作品によっては手紙ではなく出生届けとか婚姻届とった公的書類ばかりで構成されているものもありますが、それでもなんとなく状況が読み取れてしまうというところが作者の腕なんでしょうね。

 12編はそれぞれ独立した作品なのかと思いきや、エピローグで思いも描けぬ関係者の集合が行われます。そこで一部登場人物の重複も発見されたりして。作者が書いていてくれたので判明しましたが、見落としていました。重複はエピローグに登場する人物ばかりでなく、2話に登場した作家が11話で殺害されていたりもします。

 各短編ともどんでん返しあり、悲しみあり笑いありで趣向を凝らしており、これほど凝った作品を描くならばそれは遅筆にもなるよなと思わせます。40年近く昔の作品なので、今ならメールとかLINEでやりとるするようなところが全部手紙になっていますが、手紙(それも肉筆)の情緒はそれらに圧倒的に勝ると思います。ま、私は悪筆なのでメールなら出しても手紙だったら滅多に出さないでしょうけどNE!あと、当時だって電話くらいはあっただろうという無粋なツッコミはとりあえずなしにしておきましょう。

 で、第一話にしてプロローグの「悪魔」において、最後の手紙の内容が消化不良だと思っていたら、これがエピローグの伏線になっていました。そこはなかなかに見事なんですが、最後の殺人トリックについてはミステリー好きとしてはやや?ですね。いや、死への誘導までは見事なんですが、警察にはあっさり謀殺だとバレるのではないかと。古き良き時代のミステリーなら、名探偵の登場しない警察は右往左往するばかりでひたすら無能なのかも知れませんが、素人が気づくようなトリックならさすがに警察だって気づくでしょう。なにより現場が他の場所と全然違う状況になっていたらねえ。

 読者に対する「騙し」のテクニックは存分に発揮しており、第7話「鍵」なんかはかなりミステリー寄りなんですが、ミステリー小説として読むのはどうかと。ミステリー風味のある普通の小説として読めば一級品だと思いますが。

 第9話「シンデレラの死」は、悲惨な境遇を這い上がって花開こうとしていた女優の卵の悲劇的な死…と思いきや、全部妄想の産物だったというオチですが、この人の手紙の内容は全て虚構なのかという点で首をかしげる部分があります。最初の手紙の内容なんかは相当真実に近いのではないかと思えるし、全部嘘なら自殺する必然性もないのですが、どこからが嘘でどこまでが本当かわからないのが悩ましいです(だがそればいい、なのかも知れませんが)。

 ハッピーエンドの予感がするもの、救いのないもの、その後どうなるのか心配になるもの、色々な人生が詰まっていますが、傑作だと思いますのでぜひご一読をお勧めします。
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