SHIROBAKO:見ると元気になるP.A.WORKSの「働く女の子」シリーズ第二弾


相変わらず飛ばしまくっている「魔法少女育成計画」。6話以降主人公のスノーホワイト/姫河小雪の表情からすっかり笑顔が消えてしまいました。今後笑顔が見られる時が来るのでしょうか。


「魔法少女まどか☆マギカ」の鹿目まどかもそうだったけど、可愛い女の子の悲しみや脅えの表情はなんだかゾクゾクしますね。心の奥底に眠っていたドS魂が目覚めるというか。「その可愛い顔が曇るのを見るのは快感よぉ~」と、思わず独眼鉄先輩になってしまいます。もう6人も魔法少女が死んでいます。だが…まだ…足りませぬか?足りませぬな!

「まほいく」の今後も気になりますが、それはさておき本日はようやく見終わった「SHIROBAKO」を紹介したいと思います。いや~いい作品でした。


「SHIROBAKO」はP.A.WORKS制作で監督は水島努。2014年10月から2015年3月まで2クール24話が放映されました。定評あるアニメ制作会社とアニメ監督だから鉄板じゃないかと言いたいのですが、P.Aの前作はあの歴史的怪作「グラスリップ」であり、水島監督も今年「迷家-マヨイガ-」というまさしく迷作を作っているので、決して油断してはいけないのです。

が、「SHIROBAKO」は良かった。2011年の「花咲くいろは」(これも名作)に続く2クールの「働く女の子」シリーズで、「花咲くいろは」では女子校生達がアルバイトで仲居や板前見習をしていましたが、「SHIROBAKO」では20歳過ぎのアニメ業界で働く女の子達を中心に、アニメーション業界を描いています。

第20回アニメーション神戸賞で作品賞を受賞し、第19回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門ではテレビアニメとして唯一審査委員会特別推薦作品に選ばれ、東京アニメアワードフェスティバル2016の「アニメ オブ ザ イヤー」部門ではテレビ部門でグランプリを受賞、読売新聞が主催した世界に紹介したい日本の作品を選ぶ、ポップカルチャーアワード「SUGOI JAPAN Award 2016」ではアニメ部門で「四月は君の嘘」に続く第2位になるなど、高い評価を受けています。

キャッチコピーは「アニメーション業界の今が、ここにある。」で、題名の「SHIROBAKO」は、制作会社が納品する白い箱に入ったビデオテープ(現在ではCDとかDVDといった光学ディスク)を指す業界用語「白箱」に由来しています。作品が完成した時に関係者が最初に手にする成果物のことで、販売時には綺麗なビジュアル等で美麗に仕上げることになるので、我々素人が目にすることはないシロモノです。

作品全体から感じられるのは、困難や逆境にくじけない「若さ」でしょうか。あおいたち主役の女の子達が若いのは当然として、おっさんもおばさんもおじいさんもスタッフに大勢いるにも関わらず、「若さ」を感じるというのは、全員の精神年齢が若いからなのかな、と思います。いっそ「幼い」と言いたくなる人達もいますが。

そして何かを作り上げる喜び。苦労は当然あって、それも生半可ではないのですが、苦労が大きければ大きいほど、やり遂げた後の喜びはひとしおという。そして打ち上げの時にドーパミンが大量に出るせいで、再び苦労多い作品制作に向かっていくことになるようです。「舟を編む」で辞書作りは業だと言っていましたが、アニメ制作もきっと業なんでしょう。そこに夢があり、やり甲斐があれば困難も貧乏も耐えていけると。

ただ…作品を批判する気は全くないのですが、若干綺麗すぎるきらいも。巷間言われるアニメ業界の悲惨さというのは、いくら夢があっても限度があるような気がします。昨年10月~12月に放映された「ハッカドール THEあにめ~しょん」第7話の「KUROBAKO」は文字通り「SHIROBAKO」のパロディでした(ドーナツも登場した)が、業界の闇を描いていて、実はこっちの方が真相に近いんじゃないか、なんて思ったり。

制作進行になったハッカドール1号の悲惨さといったら。こりゃあ宮森あおいも一週間で平岡になっちまうぜという勢いでした。絵麻ちゃんらしき子がセクハラされてたりもしたし。まあどちらもある意味極端な気がするので、真実はその間にあるんでしょうが…「SHIROBAKO」寄りであることを祈るばかりです。


「SHIROBAKO」は群像劇なので、アニメーション制作に関わる多数の人々が登場しますが、主要人物は山形県の女子校である県立上山高校でアニメーション同好会を作っていた誤認です。文化祭で「神仏混淆 七福陣」という妙なアニメを上映しており、同じメンバーで一緒にアニメーション作品を作ることを目指して上京してきました。

主人公はアニメ同好会の会長だった宮森あおい。愛称は「おいちゃん」。短大卒業に就職した「武蔵野アニメーション」(略称ムサニ)で制作進行を担当しています。ムサニでは1クール目にオリジナル作品「えくそだすっ!」を、2クール目に漫画が原作の「第三飛行少女隊」を制作します。1クール目は入社1年目らしく制作進行の下っ端としてコマネズミのように走り回っていましたが、2クール目に入るとベテランスタッフの離脱などにより、まとめ役である制作デスクに抜擢されます。

私は主役キャラより脇役キャラが好きになる傾向が強いのですが、おいちゃんについては主役だけで非常に好きなので、いずれ「好きなアニメキャラ」で取り上げたいと思います。

アニメーターの安原絵麻。宮森あおいと同学年で、動画担当から原画担当に、そして作画監督補佐へと抜擢されていきます。真面目ですが内向的で、独り相撲をとりがちて前半の“闇堕ち”候補一号でした。

アニメ業界は薄給かつハードワークと言われますが、それを一番体現しているのが絵麻。なぜか愛称もなく、「絵麻」とだけ呼ばれています。最初から二文字しかないから?実は一番好きなキャラなので、当然「好きなアニメキャラ」で取り上げます。

なのでここではごく簡単にしか触れませんが、貧乏が蔓延しているらしい業界においても最も貧しい暮らしをしている様子が描かれていました。風呂なし、トイレ共同風の四畳半一間のボロアパートには全米が泣いた。ゆえにエロ同人誌でも貧乏をネタする援助交際といった展開が多いです。性的なのはさておき、薄幸そうなので面倒見たくなるキャラではあります。

声優の坂木しずか。愛称は「ずかちゃん」。あおいと同学年で、養成所を経て赤鬼プロダクションに所属していますが、声優業だけでは生活できず、居酒屋でアルバイトをしています。それでも絵麻よりはましな暮らしをしているとことがなんとも。声優達には一番身につまされるキャラだったようです。


「第三飛行少女隊」のオーディション時には一定の評価を受け、木下監督から起用の声も上がりましたが、役を獲得するには至りませんでした。後半はメインキャラがそれぞれ活躍する展開の中、一人置き去り状態となって“闇堕ち”候補二号となりましたが、最終盤にムサニを恐慌状態に追い込んだ“ちゃぶだい返し”のおかげで端役ながら役を得ることができました。


突然の役にもかかわらずしっかり演技したしずかを見て思わず貰い泣きするあおいに、やっぱりいい子だなあと改めて思いました。

「第三飛行少女隊」では結果的にアニメ同好会の5人が結集することになり、5人でアニメを作ろうという誓いを新たにするのですが、一人だけ仲間外れだったら“闇堕ち”したかも知れませんね。チッ残念(笑)。

3GCDクリエイターの藤堂美沙。上記3人の1年後輩で、愛称は「みーちゃん」。この人も名前は二文字なのにちゃんと愛称を付けているのに、どうして絵麻には愛称を付けないんだあおい!?

高校時代はアニメーター志望でしたが、絵麻の絵を見て彼女のほうが上手だと感じ、3DCGの世界を目指すようになりました。給与も福利厚生も良い会社に入りましたが、自動車のホイールのモデリングばかりを任され、将来的にも仕事は自動車関係のみという状況と、自分が作りたいもののギャップに悩み、退職してしまいます。あおいに紹介された会社に移籍後は、「第三飛行少女隊」の制作に関わることになります。主要キャラ5人の中では一番影が薄いキャラだったような。

大学生の今井みどり。藤堂美沙の1年後輩で、愛称は「みーちゃん」が既に取られていたせいで「りーちゃん」。脚本家志望で、まだ学生で他の4人と違ってアニメに全くタッチしていないことに負い目とか焦りのようなものを感じていました。

「えくそだすっ!」終盤であおいの調べ物を手伝ったことを契機にムサニスタッフに気に入られ、「第三飛行少女隊」では設定制作としてアルバイト採用されました。脚本家を目指しており、脚本家の舞茸の押しかけ弟子状態となっています。

全員同じ女子校出身ということで、他のスタッフからは女子校幻想を持たれますが、ファンタジー性はないと全否定のあおいでした。しかし、これだけ可愛い子ばかりだったら幻想を持つなと言う方が無理でしょう。先輩後輩はありますが、全員仲良しで和気藹々としているし(裏ではいろいろあったとあおいは示唆していますが)。

ムサニスタッフで私のお気に入りはあおいの先輩矢野エリカ。良き先輩としてあおいを導いていましたが、途中でパパンの入院により戦線離脱。その間にあおいは制作デスクとなり、窮地に追い込まれますが、ここぞという時に復帰して再びあおいを支えました。

お気に入りその2は井口祐未。美人ではありませんが実力派アニメーターで絵麻にとっても矢野えりか的存在です。「第三飛行少女隊」ではキャラクターデザインに抜擢され、原作サイドのクレームに試行錯誤を余儀なくされましたが、キレたり八つ当たりすることもなく仕事に専念して人間力の高さを見せてくれました。この人は将来大成しそうです。

あおい達の悪戦苦闘ぶりを強調するためか、端的にクズキャラが登場しているのも「SHIROBAKO」の特徴で、「えくそだすっ!」編では先輩(といっても1か月早く入社しただけ)の高梨太郎(愛称タロー)でした。根拠のない自信と責任感の欠如が特徴で、無自覚に周囲に迷惑をかけるタイプです。札付きのトラブルメーカーでしたが、「第三飛行少女隊」編では新たなトラブルメーカーとして平岡が登場したため若干落ち着いた印象になりました。といっても新人制作進行からは全く信頼されず、突っ込まれまくっていましたが、もはやそれも愛嬌という感じで。

クズキャラ2号平岡大輔。ベテランが抜けて戦力不足となったため、「第三飛行少女隊」編から補充された中途採用者です。矢野エリカとは専門学校で同期で、当時は真面目なリーダータイプでしたが、これまで就職した会社で上司や同僚に全く恵まれず、情熱を失ってやる気のない冷めた態度に終始する仕事ぶりとなりました。

過去の経緯は終盤にならないと判明せず、単に嫌なヤツという感じで他のセクションとトラブルを起こしたりしていましたが、あおいが見捨てなかったことと、タローが妙に懐いてきてつい吐露した夢が認められて以降、前向きな姿勢を取り戻しつつあるようです。

そして何のフォローもなく終始ひたすらにただのクズだったのが茶沢信輔。「第三飛行少女隊」の原作版元である夜鷹書房の編集者で、原作者の野亀武蔵の担当者ですが、なぜうか「第三飛行少女隊」のアニメ化については非協力的で、自分のプライベートばかりを優先していました。それだけならともかく、原作者の野亀とムサニの間に立つ身でありながら、報告・連絡・相談を「面倒臭いから」と怠ったり握り潰して適当に流していたため、双方の要望・意向がまるでかみ合わず、製作スケジュールは非常に逼迫する事態となりました。

「変な話」を冒頭につけるのが口癖ですが、マンガ業界を描いた「バクマン。」では、編集者というのはマンガ家と二人三脚状態で作品を作っていく重要な存在として描かれていたのに、まさかこんな奴はいないだろうと思いましたが…実は類似の事案があったようです。

ヒガアロハの「しろくまカフェ」というマンガは、2012年から2013年にかけてアニメ化されましたが、原作者がアニメ化に全く意見を言うことができず、それどころか原作者と制作側との間で正式な契約のないまま企画がスタートして、原作者に1円も入ってこないのにアニメ関連グッズのデザイン修正依頼が届き、〆切前で多忙なのに対応しなければならなかったりしたとか。後に編集部側が全面的に非を認め謝罪し、アニメ制作会社との間に入っていた編集が原作者の確認なしに進めていたことを明らかにしたそうです。……あるんですね、そういうことって。


「第三飛行少女隊」の原作者である野亀武蔵も、以
前「セーラー服とF3」という作品をアニメ化された際に、設定やストーリーをアニメ製作者に大幅に改変された上に、アニメの質も低かったために野亀自身もバッシングされたという過去があったそうで、今回のアニメ化に際して色々物を言いたくなる背景というものがありましたが、仲介者の性格とか能力って本当に大事ですね。タローも平沢もそれでトラブル起こしていたけど、茶沢だけは何のフォローもなく完全な悪役になっていました。野亀に一喝されて編集長や編成局長にバレた時は実にスカッとしました。

作中、過去の作品がちょっと名前を変えてたくさん登場しました。私の心にヒットしたものだけをさらっと紹介します。まずあおいがアニメ制作を意識する契機となった「山はりねずみアンデスチャック」。若い子がよくそんな古い作品知っているなと思ったら、再放送で見たそうです。元ネタは「山ねずみロッキーチャック」。

私も見ていましたが、もう良く覚えていません。かけすのサミーの「ニュースだよ!ニュースだよ!」は印象的だったけど。

「伝説巨大ロボット イデポン」。無限のエネルギーを巡って、凄惨な戦争が繰り広げられる物語ということで、これは完全に「伝説巨神イデオン」ですね。劇中「発動編」とか言っているのは劇場版の方です。楽しく観ていました(人が死にまくるのでこの表現はちょっとという気もします)が、最終回がヱヴァンゲリオンもびっくりのぶっとび展開だったのが印象的。これがあったからエヴァもあんな最終回をやったんじゃないかと思えるほどです。

「超飛空要艦マジダス」。「北野サーカス」なる表現手法を用いたSFロボットアニメということで、これは元ネタは「超時空要塞マクロス」。飛び交う機動兵器やミサイルの軌道がメカニック作画監督として参加した板野一郎のおかげで「板野サーカス」と呼ばれました。確か「伝説巨神イデオン」でも「板野サーカス」は見られたが…と思ったら、やはり作画で入っていましたね。

「新世代アヴァンギャルドン(AVA)」。これは誰がどう見ても「新世紀エヴァンゲリオン」が元ネタですね。劇中、監督を務めた菅野光明(元ネタは当然庵野秀明)に、切羽詰まったあおいがこれほどのビッグネームとは全然気づかないままに原画を依頼に行きました。依頼は断ったものの、この人のアドバイスにより窮地を脱したのでした。

「朝立宇宙軍」。“あさだち”と読んではいけません。これはエヴァ以前のガイナックスが制作したアニメ映画「王立宇宙軍 オネアミスの翼」が元ネタでしょう。それなりに評価はされましたが興行的には大失敗で、赤字を抱えたガイナックスは「トップをねらえ!」を赤字補填のために制作することになりました。私は実はこの作品面白くなくて好きじゃないんですが、「トップをねらえ!」制作の契機となったという意味ではその存在には意味があると言わざるを得ない(笑)。

その他、いろんなアニメ作品とか声優、関係者のパロディが横溢している本作ですが、元ネタが全部分かったら相当なアニメ通でしょうね。私なんぞはまだまだで。

そういえば「えくそだすっ!」も「第三飛行少女隊」も1話だけ見ることができるんですよね。どっちかというとSF作品の「第三少女飛行隊」の方が好みですが、「えくそだすっ!」も豪華声優を起用していて捨てがたいかも。29歳のアイドルとか笑えますね。


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