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卒業:加賀恭一郎シリーズの原点

君の名は大ヒット

 進撃の新海監督とでも言うべきか。「君の名は。」は公開10日間で累計動員数290万人となり、累計興行収入は38億円を突破しているそうです。なんだこれは…たまげたなあ。「新海誠」は完全にメジャーブランドとして確立されることでしょう。「秒速病」患者としては、売れない頃から応援していたアイドルが一気にブレイクしたかのような思いを持ったりしますが…これを機にまた「秒速5センチメートル」が脚光を浴びるかも知れないですね。

東野圭吾の卒業 文庫版 

 本日は私の好きな作家・東野圭吾の「卒業」を紹介しましょう。この前紹介した「新参者」と同じく加賀恭一郎シリーズに属する作品ですが、第一作に当たります。つまり加賀恭一郎初登場の作品です。

東野圭吾の放課後 

 「卒業」は1986年5月20日に単行本が刊行されました。東野圭吾の作家デビューは1985年の第31回江戸川乱歩賞受賞作「放課後」ですが、1986年には仕事を辞めて上京しているので、専業作家としての第一作ということになるかと思われます。

 文庫版は1989年5月15日に刊行されています。初期の東野圭吾は、面白い作品を描きながらもなかなかヒットに恵まれず、不遇な時代を長く過ごしていましたが、私の読んだ文庫版「卒業」は2011年で81刷となっています。20年以上経過しているとはいえもの凄い重版出来です。2013年11月18日付のオリコン“本”ランキング文庫部門で累積売上100.1万部を記録しており、東野作品では6作目の文庫100万部突破となっています。加賀恭一郎シリーズはすっかり人気シリーズとなっているので、その原点といえる本作はファン的に見逃すことができないというものでしょう。

東野圭吾 旧版 卒業

 現在の文庫版は2009年以後の新装版ですが、それ以前は「卒業―雪月花殺人ゲーム」というタイトルでした。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 卒業を控えた大学四年の秋、一人の女子大生が死んだ。親友・相原沙都子は仲間とともに残された日記帳から真相を探っていく。鍵のかかった下宿先での死は自殺か、他殺か。彼女が抱えていた誰にも打ち明けられない秘密とは何だったのか。そして、第二の事件が起こる。刑事になる前の加賀恭一郎、初登場作。

男女七人夏物語 

 登場人物は、高校時代から一緒という男3人女4人の7人グループ。というと「男女7人夏物語」を思い出すのですが、そういえばこのテレビドラマも1986年作品だ。もっとも「卒業」の刊行の方が早いのでパクリではありませんよ。それに季節は秋から冬にかけてだから秋物語だし…って、そういえば続編に「男女七人秋物語」というのもありましたっけ。いかん、加賀恭一郎が明石家さんまになってしまう(笑)。

男女七人秋物語 

 良くシリーズものには、途中で若き日の主人公を描くエピソードが入ったりしますが、「卒業」はシリーズ第一作にして加賀恭一郎の大学生時代を描いています。そしてこの時は就職先を教師か警官かと悩んだ末に、教師を選択しています。

 社会学部の4年生ですが、むしろ剣道で名が知られており、国立T大学(地方の大学なのでモデルは東大ではない)剣道部の部長を務め、学生剣道個人選手権で連続優勝するほどの腕前です。刑事になってからは剣道6段ということですが、剣道は13歳にならないと初段を取得できず、その後も各段に最低修行年数があるので、加賀恭一郎にどんなに才能があっても学生時代は4段が関の山だったと思われます。その後の精進したんですね、きっと。

剣道の試合 

 そんな加賀には結婚したいと願うほど好きな女性が。それが本作でダブル主人公状態の相原沙都子です。文学部の4年生で高校時代から剣道をやっていて、加賀とも旧知の仲でした。ただ、剣道はさほど強くなかったようで、加賀はもちろん、剣道仲間の金井波香にも水を開けられています。

 男女七人グループは、剣道部員だったり、集中力を養うために掛け持ちした茶道部員だったり、高校時代の同級生だったりという形で形作られており、カップルも二組出来ています。加賀と沙都子がくっつけば三組目ということになるのですが…

茶道

 しかし7人組の一人、牧村祥子が女子専用アパート「白鷺荘」の自室で左手首を切り、洗面器につけた状態で亡くなっているのが自身の部屋で発見されます。状況から自殺と思われましたが、死亡前後の状況で矛盾する供述が出てきたことから、他殺の疑いが出てきます。他殺だとすれば誰が何のために?自殺だとするとその理由は?加賀と沙都子を含め残された6人は、様々な思いを錯綜させながら、祥子が残した日記を元に死の謎を解こうとしますが、難航します。
 
 そんな中、高校時代の茶道部の顧問で恩師である南沢雅子の家に事件の報告を兼ねて集まり、毎年恒例の「雪月花之式」で茶をたてている最中、今度は金井波香が亡くなってしまいます。死因は青酸カリでしたが、これも他殺か自殺かわからないという状況が。

女性剣士 

 元々あった「雪月化殺人ゲーム」というサブタイトルは、この第二の事件を指しています。茶道には七事式というものがあり、多人数が稽古する際に退屈せずに緊張感を持って行えるようにと制定されたもののようです。その一つに「花月」があり、通常五人で行い、花月札を用いて「花」に当たった人が茶を点て、「月」に当たった人が茶を喫するというくじ引きゲームのような稽古ですが、更に人数が増えた場合に「雪月花」となります。これは6人以上で行い、「花」と「月」はそのままで、「雪」に当たった人がお菓子を食べることになります。そうして雪月花全てが当たった人が出たところで終了します。

 第二の時代では沙都子が立てたお茶を飲んだ波香が死んだので、当然沙都子にも容疑が掛かってくるのですが、加賀は無条件で沙都子の無罪を信じ、それを前提に波香の死亡事件を追及していきます。

雪月花

 加賀もまだ若造なので、血気にはやって殴り合いをしてしまったりと未熟な面を見せます。また、中学生時代に母が失踪しており、加賀はこれを父の多忙が原因だと思っているので仲は良くなく、教師を選択したのも、沙都子と結婚した場合に彼女を不幸にしないためだそうですが、父への当てつけという側面もあったようです。しかし南沢先生は加賀は教師より警官(というか刑事)が向いていると看破しており、実際教師時代は短く終わり、改めて警察官になっていますが、それはまた別のお話です。

 第一の事件は他殺であれば密室殺人の様相も呈しており、そのトリックも解かねばなりませんが、この当たりは「ガリレオ」シリーズに近いテイストがあり、理系作家東野圭吾の面目躍如ですが、今となってはもはや陳腐なトリックかも知れません。トリックよりは動機の解明の方がキモですね。

折据

 第一の事件と第二の事件の関連性とか、次第に明らかになっていく状況は、仲良し7人組の実相のようなものを浮き彫りにしていき、もはや生き残った者達も昔同様の仲間付き合いは不可能ではないかというようになっていきます。それがタイトルでもある「卒業」ということなんでしょうか。

 なお、サブタイトルの「雪月花殺人ゲーム」ですが、これはゲームというより、確率二分の一、つまり起きるか起きないか五分五分だったものが不幸にして凶と出たことで殺人が発生してしまったことを指しており、遊び心で犯行に及んだというものではありません。

花月之式 

 なお、加賀は沙都子にプロポーズしたものの、沙都子は東京の出版社に務めるために単身上京していき、結局のところ結ばれることはなかったようです。ちょっと「秒速5センチメートル」風。でもその後別の女性に恋しているようなので、ま、いいか。

 加賀恭一郎シリーズはテレビや映画で映像化されていますが、「卒業」はまだ映像化されていません。加賀恭一郎=阿部寛のイメージが定着してしまったので、大学生の恭一郎をやらせられる人を見つけられないのか(阿部寛がやるにはもはや無理がありそうですし)。ぜひ若手俳優・女優で映像化して欲しいのですが、いっそアニメ化でもいいぞ!

大学の卒業式 
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