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夜のピクニック:映画化もされた恩田陸の本屋大賞受賞作

旭山記念公園
 
 今日も肌寒い札幌。夏物ですが、思わず上着を着てしまいましたよ。明日からは暖かくなるようですが、このプチ寒の戻り(立夏過ぎて使う表現じゃありませんが)のせいで風邪をひいている人も多いようです。体調管理には気をつけましょう。

20150521ランキング

 今日のサブジャンルのランキングは11位で、ベストテン記録は連続15日で途絶えました。さらば列強時代。

夜のピクニック

 さて本日は恩田陸の「夜のピクニック」を紹介します。「夜のピクニック」は「小説新潮」で2002年11月号から2004年5月号まで連載後、2004年7月30日に新潮社から単行本が刊行されました。2006年9月に新潮文庫から文庫版が刊行され、私が読んだのも文庫版です。

本屋大賞

 第2回本屋大賞、第26回吉川英治文学新人賞を受賞したほか、2004年度「本の雑誌」が選ぶノンジャンルベスト10で1位に選ばれています。

東京タワー

 本屋大賞は、「新刊を扱う書店(オンライン書店を含む)の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定されるという異色の文学賞で、作家や文学者は選考に加わりません。「全国書店員が選んだいちばん! 売りたい本」をキャッチコピーとして掲げており、「根回し」や「すりあわせ」がない反面、突出した異彩を放つような作品は受賞せず、ラインナップも含め平均化されているという声もあります。

告白

 映画化・コミック化などのメディアミックスがなされることが多く、第3回大賞の「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」(リリー・フランキー)や第6回大賞の「告白」(湊かなえ)などの大ヒット作品も多く、芥川賞や直木賞より“稼げる”文学賞とも言われています。これについては書店員が売りたい本を選ぶ賞であることから、読者に近い感覚で親しみやすい作品が選ばれるため娯楽性が保証されているからだの説があります。賞品はトロフィーと図書券10万円分となかりしょぼいですが、後々の影響を考えると作家にとって受賞の意義は相当大きいと思います。

吉川英治文学新人賞

 吉川英治文学新人賞は、1980年に創設された講談社が後援する文学賞で、副賞100万円と堂々たるものですが、新人賞いいながら、実質的には中堅作家が候補者・受賞者の多くを占めています。恩田陸の作品は当ブログでも取り上げている「ライオンハート」が第22回(2001年)、「茶と黒の幻想」が第23回(2002年)に候補作となっていますが受賞を逃し、本書で三度目の正直となる受賞を果たしました。大人気作家東野圭吾は4回候補となりながら遂に受賞していません(もはや大作家なので受賞対象とならないでしょう)。まさか「秘密」でも受賞しなかったとは…。あの超絶名作「白夜行」も無冠だし、選考委員は頭がどうかしていると思います。

新書版夜のピクニック

 まあ話がズレるので気を取り直し、「夜のピクニック」に戻りましょう。例によって文庫本裏表紙の内容紹介から。

夜のピクニックPOP

 「高校生活最後を飾るイベント『歩行祭』。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。」

夜のピクニックPOPその2

 本書が取り上げる学校行事、「夜のピクニック」こと歩行祭は、恩田陸の母校である茨城県立水戸第一高等学校の名物行事「歩く会」がモデルになっているそうです。歩行祭は80kmを歩くものですが、「歩く会」での距離は70kmだそうです。

人物相関図

 主人公は3年生の同級生の甲田貴子と西脇融で、歩行祭の状況が両者の視点で交互に描かれています。この二人、恋心とは違う理由で意識し合っているのですが、一緒のクラスなのに一度も話をしたことがありません。もちろん異母兄妹であることは誰もにも打ち明けてはいませんが、友人達は二人の不自然な様子から、互いに恋愛感情を持っているのではないかと誤解しています。何となく雰囲気が似ているということもあるのでしょうが、そこはまあ異母兄妹ですからそれなりには、ね。

映画版夜のピクニックその2

 が、実は二人は異母兄妹で、融の父の浮気相手が貴子の母と言うことになります。しかし貴子ママンは切れ者で、シングルマザーでありながら会社を経営して裕福であり、一方融の方はさほどではないので早く子供をくぐり抜けて大人になって自活したいと強く願っています。この関係を作った罪作りの父は既に故人となっていますが(もう死ぬしかないじゃない)、葬式の際に出会った二人は会話をすることもなく没交渉のままでいました。情報交換がなかったことで同じ高校に進学することになり、遂には同じクラスになってしまいました。

監督の主要キャスト

 浮気にしても不倫にしても、二人には全く責任のない話なのですが、貴子は罪悪感を感じずにはいられず、融は責任がないと判っている貴子を加害者の位置に置いている自分自身に憤っています。貴子の誓いは、歩行祭の間に一言だけでも融と会話を交わすという非常にささやかなものですが、中盤までの状況からするとそれは絶望的にも思えます。さらにその誓いが達成されたら、貴子にはさらなる願望があるのですが……

多部未華子

 若いというか、非常に青臭い話ではあるのですが、それがノスタルジックで心地よいですね。貴子も融も「ちゃんと高校生をしていない」と自己評価していますが、苦悩を抱きつつあがきながら何処とも知れない未来への出口を探す、それこそが「青春してる」ってもんじゃないかと今になってはそう思います。リア充は青春の一形態かも知れないけど、それが青春というものではないぞ。

手前から貴子、杏奈、美和子

 それにしても青春していないと卑下する二人が羨ましいのは、良い友人に恵まれていることです。融には戸田忍という自身よりも他者への心配りを優先しがちな親友がおり、貴子には美和子という才色兼備の親友がおり、梨香と千秋という個性的なクラスメイトもいます。そして親友でしたがアメリカに行ってしまった杏奈。劇中一切登場しない彼女が残したメッセージがどのように実現するのかが一つの見せ場です。

映画夜のピクニック チラシ

 実は融と忍はかなりモテモテのイケメンらしく、融は杏奈、美和子、それからヒール役の内堀亮子(忍の元カノでもある)から好意を持たれており、忍は千秋に(映画版でも梨香にも)好意を持たれています。その忍は貴子が好きなのですが、てっきり融と相思相愛だと誤解しているので、全くノータッチで来たようです。全てが判明した歩行会後に交際を始めればいいんですけどね。

貴子と美和子

 私は脇役が好きになる傾向があるのですが、美和子は実にいいですね。北高男子の憧れの的というのも判ります。ただし、劇中登場しない杏奈も登場人物の語る内容から言ってかなり素敵な女性なので、どっちでもいいかなという。亮子は美人らしいですが、忍を始めとして校内で付き合った男子は数知れずというビッチです。忍からは「超打算的女」と呼ばれており、この人だけはヒールに徹しさせられるのかな、女流作家は女性キャラに厳しいなと思っていましたが、最終的には一応の救済が図られていたのでまあ良かったです。

映画版夜のピクニック

 私は見ていないのですが、2006年9月30日に映画が公開されています。撮影は恩田陸の母校である水戸一高が実際に使用され、出演者も恩田陸の「アイドルっぽくない俳優を使ってほしい」という要望に添ったキャスティングがなされています。キャッチコピーは「みんなで夜歩く。ただそれだけなのに、どうしてこんなに特別なんだろう」。これは昨年(つまり2年生の時の)の杏奈のセリフですね。アイドルではありませんが、多部未華子(貴子)、貫地谷しほり(梨香)、加藤ローサ(杏奈)など、有名女優が入っていますね。美和子役の西原亜紀はイマイチ伸び悩んだような。東原亜紀ならデスブログで有名ですが(笑)。

死のロングウォーク

 本書を読んで、スティーヴン・キングの「死のロングウォーク」を思い出しました。もちろん歩行祭では誰も死なないし、最後の一人になるまで歩かされる訳でもありませんが、長い長い歩行中の出来事が描かれているところが。

融と貴子

 正直、序盤はさほど集中できませんでした。恩田陸にしてはあんまり面白くないなとか、これで本屋大賞?とか思ってしまいましたが、中盤、昨年見知らぬ少年が写真に写っていたことが話題になり、その少年が今年も現れたというところから一気にミステリーというかホラーテイストになって面白くなりました。いや別にホラーじゃないんですけどね。終盤伏線がどんどん回収されるので、また最初から読み返したくなる作品です。

融と忍

 貴子と融は交流が生まれて実に良かったです。二人の未来には何が待っているか判りませんが、少なくとも罪のない二人がいがみ合ったり疎遠なままでいるよりは交流があった方がずっといいです。他に兄弟姉妹はいないみたいだし(いないんだろうな、パパン?)。でもママン同士の交流とか和解は…まあ無理でしょうね。強いるのも違うと思うし。

歩行祭
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