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耳袋秘帖 赤鬼奉行根岸肥前:怪異と推理の捕物帖

暖房
 
 こんばんは。今日もさほど寒くはないのですが、会社では暖房の試運転が始まっていました。今日はまだいいっちゅーねん。ちなみに冷房の試運転の時は「今から冷房かけてやっからな。窓ちゃんとしめんといかんよいかんよ」と恩着せがましいアナウンスがあるのですが、暖房の時はダマテンでした。まあ窓開けてるヤツもいないからでしょうが。

 本日は風野真知雄の「耳袋秘帖 赤鬼奉行根岸肥前」です。風野真知雄の作品は初めて読みました。

風野真知雄

 風野真知雄は福島県須賀川市出身で1951年生。立教大学法学部を卒業後、20年近くフリーライターとして活動した後、1992円に「黒牛と妖怪」で歴史文学賞を受賞しデビューしました。2002年には北東文芸賞を受賞しています。

妻は、くノ一

 主として時代小説を書いており、シリーズものとしては本書を第一弾とする耳袋秘帖シリーズ、若さま同心徳川竜之助シリーズ、妻は、くノ一シリーズなどが人気を博しています。妻はくノ一はシリーズ累計発行部数が100万部を超えており、NHK BSプレミアム「BS時代劇」で2013年4月に市川染五郎主演でテレビドラマ化されました。NHK総合でも2013年6月20日から放送されています。

赤鬼奉行根岸肥前

 耳袋秘帖シリーズは、肩に若い無頼時代に彫った赤鬼の刺青をした南町奉行根岸肥前守を主人公とした物語です。根岸肥前守は本名鎮衛(やすもり)で、元文2(1737)、150俵取りの下級旗本安生家の三男として生まれ、宝暦8(1785)年に同じく150俵取りの下級旗本根岸家の末期養子として家督を相続しました。根岸家に入ると同時に勘定所の御勘定という中級幕吏となって頭角をあらわし、5年後の宝暦13(1763)年には評定所留役となり、更に5年後の明和5(1768)年には勘定組頭、10年後の安永5(1776)年には42歳にして勘定吟味役につき、布衣着用を許されました(官位六位相当)。

 河川改修、普請工事に才腕を振るい、日光東照宮の修復、浅間山噴火後の天明3(1783)年に浅間山復興工事の巡検役に任命され、その功績により翌4(1784)年に佐渡奉行に昇格し、50俵加増となりました。同6(1786)年、田沼意次が失脚し松平定信が老中首座となり、寛政の改革が開始されますが、この政変にも巻き込まれることはなく、定信により天明7(1787)年7月に勘定奉行に抜擢され、家禄も200俵の蔵米取りから500石取りとなりました。更に寛政10(1798)年には累進し南町奉行となり、文化12年(1815年)まで18年の長年にわたって在職し、死去直前にも加増され、最終的に1000石の旗本となりました。在職中の同年11月4日に死去ということで、殉職のような状態でしたが、町奉行は激職だったので、在職中の奉行死亡は珍しくなかったようです。

 ちなみに町奉行の帰順禄高は3000石ですが、八代将軍徳川吉宗が享保8(1723)年に導入した足高の制のおかげで、家柄が低いために要職に就けないといった旧来の不都合は解消され、500石取りの根岸も町奉行に就任することができたのですが、役職を退任すれば石高は旧来の額に戻のが筋なのですが、実際には家格以上の役職に就任した者が退任するにあたっては世襲家禄を加増される例が多かったということで、根岸も3000石とはいきませんでしたが1000石取りに出世しています。

 根岸鎮衛の著作としては「耳袋(耳嚢)」が有名です。これは根岸が佐渡奉行在任中の天明5(1785)年頃から、亡くなる直前まで30年以上に亘って書き溜めた世間話の随筆集です。同僚や古老から聞き取った珍談・奇談が記録され、全10巻1000編もの膨大な量に及んでいます。

 根岸は下級旗本出身のくだけた人物で、大岡忠相や遠山景元(遠山の金さん)とは違った意味で講談で注目を集め、平岩弓枝の「はやぶさ新八御用帳」シリーズをはじめ、小説・テレビ時代劇でよく題材とされています。南町奉行在任中に窃盗事件を担当した時、犯人は自白しなかったが証言者や証拠が揃っていたため、自白を決定的な証拠とする公事方御定書に拠らず犯人を死刑としたり、文化2(1805)年に町火消しの鳶職と相撲力士達が起こした乱闘事件(いわゆる「め組の喧嘩」)も裁き、張本人だけを厳罰に処して残りを軽罪・無罪とするなど、前例に頼らずに現実的な対処を重視する姿勢を取っていました。

二つのシリーズ

 本書は2007年2月に大和書房のだいわ文庫から書き下ろしで刊行され、以後「殺人事件シリーズ」と「妖談シリーズ」の二系統に別れ、本書を始めとする殺人事件シリーズは現在まで16巻、妖談シリーズは6巻が刊行されています。

 例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 62歳で町奉行に大抜擢された根岸肥前守鎮衛。肩には、無頼時代に彫った赤鬼の刺青が光る。綽名は「大耳」。さまざまな人脈からもたらされる裏情報が最大の武器なのだ。その大耳に入った奇談を集めた「耳袋」の著書でも知られる根岸だが、極秘版の「耳袋秘帖」をひそかに記していた。江戸に起きる怪事件の謎を次々解き明かす痛快お裁き帖。

耳袋秘帖シリーズ

 赤鬼奉行というと「鬼の平蔵」と呼ばれた火付け盗賊改の長谷川平蔵のような強面を連想しますが、根岸は無頼時代に刺青は堀田者の、高齢ということもあって、飄々としてくだけた話のわかるじいさまといった風情です。切った張ったは奉行就任前からの家臣である坂巻弥三郎と、臨時廻り同心から直属にした栗田次郎左右衛門という二人の剣の達人が担っています。

 では根岸はすっかり枯れているのかといえばそうでもなく、佐渡奉行の時に知った佐渡の名水をがぶ飲みし、深川一の芸者といわれる力丸を愛人にしています。妻のおたかは5年前に亡くなっていますが、なぜか時折姿を見せて根岸と会話をしています。つまり幽霊…。

 本書は5話構成で、それぞれしゃべる猫とか次々と人が怪死する古井戸、幽霊が出る橋などといった奇怪な噂を発端として、根岸が坂巻と栗田を使ってその背景にある事件を暴いていきます。

 気軽に読めて、字も大きく、行間も広いという本書は、年配者向けの文庫かもしれません。活躍するのも年配者ですし。怪異譚は全てウラがあって実際には怪異でも何でもないのですが、一番の怪異は取り折り現れる根岸の亡妻おたかではないかと思われます。長いシリーズで刊行中でもありますが、機会を捉えては読んでいきたいと思います。
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