第三の時効:警察小説の名手による三人の警部の物語

え~…昨日、ちょっとだけ嬉しいことがあったと書いたのですが……同じくらいがっかりしたことがあったのでその話はなかったということでお願いします。今は…昨日書かなくて良かったな、とだけ。
さあ早速本題にいきましょう。本日は横山秀夫の「第三の時効」です。

横山秀夫が得意とする連作の警察小説で、それまでは警務とか監察といった警察の裏側の話を主軸にした「D県警シリーズ」がメインでしたが、「第三の時効」は犯罪捜査を行うF県警の捜査一課を描いており、犯罪捜査に取り組む刑事達を真正面から捉えています。
本書は集英社の「小説すばる」に掲載され、2003年5月に単行本が刊行されており、加筆修正されて2006年3月に集英社文庫から文庫版が刊行されています。第16回山本周五郎賞候補作となったほか、週刊文春ミステリーベスト10の2003年第6位、「このミステリーがすごい!」の2004年第4位、「本格ミステリーベスト10」の2001年第12位となっています。
また、宝島社が2012年10月に刊行した「この警察小説がすごい!ALL THE BEST」では直木賞受賞作である「マークスの山」(高村薫)や人気シリーズ「新宿鮫」(大沢在昌)などを抑えて堂々の第一位に輝いています。

例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。
殺人事件の時効成立目前。現場の刑事にも知らされず、巧妙に仕組まれていた「第三の時効」とはいったい何か!?刑事たちの生々しい葛藤と、逮捕への執念を鋭くえぐる表題作ほか、全六篇の連作短篇集。本格ミステリにして警察小説の最高峰との呼び声も高い本作を貫くのは、硬質なエレガンス。圧倒的な破壊力で、あぶり出されるのは、男たちの矜持だ―。大人気、F県警強行犯シリーズ第一弾。
横山秀夫は警察小説の名手として知られ、一匹狼の検視官を描いた「臨場」、警察の人事や監察を描いて松本清張賞を受賞した「陰の季節」などは高い評価を受けており、私自身も非常に面白く読ませて貰いました。

今回はそいうった警察の裏とか脇ではなく、殺人や強盗と言った強行犯を相手にする捜査一課の強行班捜査に正面から光を当てています。6編の短編は毎回主人公が異なりますが、全員捜査一課のメンバーで、前回の主人公が今回は脇役として登場していたりします。
F県(モデルは福岡県でしょうか?)の捜査一課強行犯捜査には三つの係が従事しており、一係(通称一班)のリーダーが “青鬼”と呼ばれて怖れられる理詰め型の捜査手法の朽木警部。二係のリーダーが“冷血”と呼ばれる公安出身の楠見警部。公安スタイルというのか、搦め手型というか謀略型の捜査手法を得意とする異色の班長です。三係のリーダーが“天才”と呼ばれる村瀬警部で、閃き型の捜査手法を駆使します。
F県捜査一課はこうした三人の異能の班長を有し、史上最強の布陣と言われてその名声は他県の警察にまで轟いていますが、三人の警部が三本の矢の如く一致協力し、麾下の刑事達も犯罪許すまじの決意と熱意で団結して捜査にあたっている……そういう「太陽にほえろ!」とか「西部警察」(銃を撃ち過ぎですが)的な刑事ドラマを想像しては大きく期待を裏切ることになります。

三人の警部は捜査に関しては上司すら眼中に入れない“我が道を行く”人達ばかりで、三つの班は協力するどころか鋭く対立して戦果を競い合っています。じゃあせめて班内は団結しているのかといえば、刑事達は基本的に「俺が俺が」で、自分が出世するためなら同期を蹴落とすことも躊躇しません。一応事件解決を最優先にしているので噛み合いとか共食いとかは最低限度に抑えられていますが、そんな優秀だけど扱い難い部下達を掌握しようとする捜査一課長田端の苦労も描かれていて興味深いです。
強行犯捜査各班はだいたい10人構成で、事件が発生すると順ぐりに担当し、所轄署の刑事と協力して捜査に当たります。まあこの辺は他の警察小説でも描かれていますし、所轄署刑事が県警本部の刑事に憧れたり、そのエリート臭を嫌ったりといった話もありました。
本書は6編の短編で構成されており、“完落ち”(完全に自白して罪を認めたこと)の容疑者が公判で一転無罪を主張する「沈黙のアリバイ」、時効寸前の殺人事件の抜け道を描く「第三の時効」、「互いに協調する方が裏切り合うよりもよい結果になる事が分かっていても、皆が自身の利益を優先している状況下では、互いに裏切りあってしまう」という“囚人のジレンマ”に追い込まれる捜査一課長の苦労を描く「囚人のジレンマ」、暴力団対策課との共同作戦の中忽然と姿を消した容疑者を巡っての責任の押し付け合いを描く「密室の抜け穴」、子供の頃に図らずも犯罪に荷担させられた少年が刑事になってからを描く「ペルソナの微笑」、そして一家三人の殺人事件をめぐって一班と三班が鎬を削る「モノクロームの反転」はどれも傑作揃いです。

いつもより描写が控えめなのは、ぜひ皆さんに読んでいただきたいからです。こういう小説を読むと、昭和の警察ドラマがいかに綺麗事を描いていたかと思います。というか、横山作品のこの凄絶ともいえるリアルさこそが21世紀型なのでしょうか。といって、人情とか配慮といった気持ちが全くないというわけではなく、定年前の老刑事に花を持たせたという思いとか、警察幹部と記者との互いに暗黙の了解を踏まえた駆け引きなどもちゃんと描かれています。
ぜひ続編を出して欲しいということと、他人事ながら、F県の今後の捜査態勢について思いを馳せずにはいられません。田端課長が刑事部長に昇進するとして、優秀ながら仲が極端に悪い三人の班長の誰を捜査一課長に昇進させるのかとか、補充の班長はどうするのかとか、その後の人間関係は大丈夫なのかとか。まあ普通に考えればそのまま内部昇進するのではなく、所轄署に出したりとかするんでしょうけどね。

なお本書は、2002年から2004年にかけて、「横山秀夫サスペンス」としてTBS系列「月曜ミステリー劇場」でテレビドラマ化されています。テレビドラマでは山梨県警捜査一課が舞台となっています。朽木班長は渡辺謙、楠見班長は段田安則、村瀬班長は伊武雅刀、田端捜査一課長は橋爪功、刑事部長は寺田農という渋くも豪華なキャスティングです。もっとも「横山秀夫サスペンス」で検索すると2010年と2011年の別作品がヒットしてしまいますのでご注意を。

余談ですが、集英社文庫はナツイチ図書室という企画を実施しており、AKB48のメンバーが85作品を読んでの読書感想文を公開しています。「第三の時効」は阿部マリアという娘が読んでいます。凄い名前だけど阿部マリアって知らない娘だなあと思ってちょっと調べて見ましたら、AKB48チームKのメンバーで、神奈川県出身の17歳。ファッションモデル志望で、今年から女性ファッション誌のレギュラーモデルを務めているそうです。AKB48グループメンバーが女性ファッション誌のレギュラーモデルを務めるのは、篠田麻里子、小嶋陽菜に次いで3人目ということで、前者2人はAKB内でも突出したルックスで有名なので、それに続く美貌とプロポーションを持っていると言うことでしょうか。残念ながら感想文は公開が終了してしまっているのですが、どんな感想を持ったのか興味がありますね。

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