ウツボカズラの夢:孤独少女が都会で芽吹かせた怪しき食虫植物

今日は日中久々に気温が30度近くまであがって、「夏いいかげんにせいや!」と思いましたが、夕方から気温が下がってきましたね。さすがに10月なんだからもう熱帯夜は勘弁です。

この前ビキニ姿を掲載させてくれた知り合いの女性(言いにくいので今後は「まどか」さんと呼びます)が、なんとバニー姿を送ってくれましたので、掲載します。前回好評だと言ったらくれたので、何事も言ってみるものです。まどかバニーを鼻下で掲載させてと頼んだら、「それじゃ耳が入らないからバニーと判って貰えるか…」と言っていましたが、大丈夫。バニー以外の何者でもありません。目だけ隠すと「非行少女A」みたいになっちゃうし。

魔法の使者・キュゥべえに「僕と契約して魔法少女かコスプレイヤーになってよ!」と頼まれて後者を選らんだとか。それきっと正解です。

さて今日の本題です。本日は乃南アサの「ウツボカズラの夢」です。乃南アサ作品は多数読んでいますが、本作は2008年3月に双葉社から単行本が刊行され、2011年6月に双葉文庫から文庫版が刊行されたという比較的新しい作品です。ミステリー作家というイメージが強い乃南アサですが、本作はミステリーでもなくサスペンスでもなく、でもちょっと怖い“無邪気な悪意”とでもいうべきものを描いた不思議な作品です
例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

高校を卒業した未芙由は上京し、親戚の鹿島田家で暮らすようになるが、家族がどうも変なのだ。顔を合わせることもなく、皆、てんでんばらばら。しかし、お互いを嫌悪しているわけではない。ではこの妙な違和感は何なのか?やがて未芙由はその正体に気付く。それは、彼らの平穏な日常を変容させるものだった。―「幸せ」を望むのは罪なのか。物語の最後に残るのは「崩壊」か「誕生」か。直木賞作家が描く、人間の欲と真実。
斉藤未芙由は高校生時代の後半を末期ガンの母の介護に費やしますが、母が亡くなるや父は若い女ととっとと再婚(つまり母の生前から交際していた)し、居場所をなくしてしまいます。母の葬式に来てくれた母の従姉妹の鹿島田尚子の言葉を頼りに一人長野から上京してきます。尚子は未芙由から見て従叔母ということになるんでしょうかね。親戚と言っても5親等なのでかなり遠いです。
尚子の家は東京の一等地。もちろん鬼の哭く街・足立区とかじゃなくて世田谷とか渋谷とか山の手方面の(けっ!)いいところです。そこに二世帯の豪邸を構えていて、マイカーはベンツと非常に優雅な暮らしぶりです。一階には尚子の舅姑が住んでいて、二階には尚子と夫の雄太郎、そしてその子供の隆平(大学生)と美緒(高校生)がいます。そこに居候する未芙由は将来の展望もなく、行き場もなく、一ヶ月ほどひたすら眠り続ける日々を送りますが、それはこの家に根を張る下準備だったのかも知れません。

ウツボカズラとは有名な食虫植物です。つる植物で、他の植物に寄りかかって高くまで登り、壺型に変形した葉で虫を捕らえます。ウツボとは矢を入れる容器である靫のことで、壺方に変形した葉を靫に見立てた命名です。英名は 'Tropical Pitcher Plant' です。なるほど。ちなみに、ウツボの中には底のほう三割くらい、透明な液体が入っていて、ほとんど水ですが、消化液が含まれていて、ここに落ち込んだ昆虫は次第に消化され、袋の内側から吸収されていきます。この液体はなんと飲用に適するのだそうですが、蓋が開いて捕虫器として完成してしまうと虫が入ってしまって飲用に適さなくなるので、飲むなら蓋が開く前にしましょう。
内容紹介には鹿島田一家に漂う違和感に未芙由が気付くと記載されいますが、そんな場面はなかったような。ウツボカズラが誰を指しているのかといえばこれは未芙由であることは間違いなく、結果的に彼女は隆平と結婚して隆平の祖父母を味方に付け、大きな家を手に入れることに成功するのですが、そこには特に計算も策略もありません。未芙由はそもそも知性派ではなく、山出しの世慣れない田舎娘そのものです。
未芙由はまず尚子の夫である雄太郎と関係を持ち、さらには尚子の息子である隆平とも関係を持つようになりますが、それも向こうから来たものを受け入れたという形で、まさに食虫植物としても積極的に捕らえに行くハエジゴクとかは違っていて、蜜などで誘導することはあるとはいえ、虫の方から勝手に入ってくるの待つ受動的なウツボカズラだなあと思えます。

未芙由の登場により崩壊していく鹿島田家ですが、じゃあ未芙由は破壊者なのかといえばそういうわけでもなく、すでに鹿島だけは家庭として崩壊していたと言わざるを得ません。団体職員で課長代理というさほどの地位にいるわけでもないのに愛人を作ってかなりの金を自由にしている雄太郎、あまり家にはおらずジムとか習い事とかに精を出す尚子、年上の女性の家に半同棲状態でほとんど家に寄りつかない隆平、そして不特定の相手と性交渉を持って妊娠してしまう美緒。どれも未芙由がやってくる前に行われていたことなので、未芙由の登場は朽ちた巨木にとどめの一押しをしただけといえるかも知れません。
未芙由が家政婦の代わりを果たすようになると、尚子は一層外出するようになり、年下の男との浮気に熱を上げていきます。未芙由に手を出していた雄太郎は突如鹿児島に転勤することになり、美緒はニュージーランドへの留学を熱望します。半同棲関係が終わって家に戻ってきた隆平は今まで知らなかったおぼこいタイプの未芙由に惹かれ、関係を持ち、そのまま結婚へとなだれ込みます。その頃には雄太郎も鹿児島に女ができていたようで、もはや何も言う気はなくなっているようですが、逆親子丼というのか父子で穴兄弟というのか…この部分だけは未芙由すげえと言わざるを得ませんね。
未芙由あるのは、とにかくこの家を自分の居場所にするんだという保身の意識だけのような気がします。特に遊んで暮らしたいとかセレブな生活がしたいというほどの野望があるわけでもありません。その辺りが肉食系でなく、食虫植物系というべき存在なのかも知れません。おそらく一族一番の権力者である隆平の祖母が倒れたことをきっかけに献身的な介護で心をつかんだ未芙由は、出奔した尚子、海外に出て行った美緒など、姑小姑を排除することに成功し、関係を持っていた雄太郎も鹿児島に転勤中ということで、巨大な家に4人で住めるという絶好の環境を手に入れます。しかも謀略でそれを手に入れたのではなく、自然に手に入れたという。

未芙由は悪女なのか?というとこれは評価が難しいです。悪女だとしても、悪女たらんとして悪女になった人ではなく、昔からの変わらないままなので、天然の悪女とでも言うべきなのでしょうか。むしろ、未芙由がやってくる前にすでに形骸化して朽ちていた鹿島田家は、いかにしてそうなったのかをもっと描写して欲しかったです。悪いのは雄太郎の浮気なのか、尚子と舅姑との確執なのか、それとも同時並行的に起きていたのか。
雄太郎の愛人とその恋人(だめんず)、美緒の妊娠した胎児の父親役を演じさせられた元同級生とか、かなりのページを割いて描写した脇役達が、その後全然ストーリーに絡んでこないところはもったいないと言わざるを得ず、かなりの長編なのに物語に厚みが足りないように感じるのはそのせいなのではないかと思われます。
欲しい物を手に入れて一人幸せ一杯という感じの未芙由ですが、その幸せがいつまでも続くのかはちょっと疑問で、今後本格化するであろう隆平の祖母の介護や、いずれ戻ってくる雄太郎とか美緒とかとの関係などに思いを馳せれば、今後も色々と苦難が続くような気がします。だいたい隆平にしても女たらしの気配があるので、いつまで未芙由を大事にしてくれるものか。しかし、苦難の苦難と思わずに乗り越えていくしたたかさが未芙由という人の本質なのかも知れません。

それにしても特に幹部でもない団体職員の雄太郎も専業主婦の尚子も、そして高校生の美緒すらもどうしてあんなに金回りがいいのでしょうか。雄太郎や美緒はお祖母さんからお小遣いでも貰っている可能性がありますが、尚子は謎ですね。姑との関係辛いってお金を貰えるはずもないでしょうに。
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