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しゃぼん玉:ダメ男の心情描写は必見です

しゃぼん玉
 
 湿気が多くて鬱陶しいったらありゃしませんね。気温はさほどでもないのですが、むしむしするというか。しかし各所で6月の史上最高気温を塗り替えているという西日本に較べればはるかにましというもの。西日本の方にはお見舞い申し上げます。6月から35度を超えられたらやってられないですよね。

 さてそれでは本日の本題に。今日は乃南アサの「しゃぼん玉」です。なんと当ブログ400回目という記念すべき記事なのですが、いつもと何も変わらくて恐縮です。

 例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 女性や老人だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返し、自暴自棄な逃避行を続けていた伊豆見翔人は、宮崎県の山深い村で、老婆と出会った。翔人を彼女の孫と勘違いした村人たちは、あれこれと世話を焼き、山仕事や祭りの準備にもかり出すようになった。卑劣な狂犬、翔人の自堕落で猛り狂った心を村人たちは優しく包み込むのだが……。涙なくしては読めない心理サスペンス感動の傑作。

椎葉村

 乃南アサの本は結構良く読んでいて、先日NHKでドラマ化された「いつか陽のあたる場所で」も面白く読んでいるのですが、犯罪者が獄中で罪を償って更生した後の様々な苦労が「いつか陽のあたる場所で」だとすると、無頼な生活を送っていた犯罪者が更生を決意するまでを描いたのが「しゃぼん玉」ということになるでしょう。

 通り魔や強盗が強い人間を狙ったのなら褒められるということはありえませんが、女性や老人といった弱い相手を専門に狙いという奴の卑劣っぷりには反吐がでる気持ちになります。そして主人公はまさにそういう最低野郎です。だから最初は全く共感できないし、途中ヒッチハイクしたトラックから突き落とされるシーンなんか「いえぃ!」という気持ちになるのですが、乃南アサはそういう「チンピラクソ野郎」をして、読者が共感できるまでに持っていくという、本当にストーリーテリングが達者な作家だと思います。
  
 主人公がそういう最低野郎に堕ちていくについては、同情すべき理由はないわけではないのですが、当然のことながら同じ境遇なら誰もがそうなるという訳ではなく、やはり根本的原因は自身の心根の弱さというものにあるだろうと思います。身体的にはか弱い女性や老人でも、心根においては大抵主人公よりは強靱でしょう。

椎葉村その2

 解説の北上次郎(この人の解説はいつも的確なので好きです)も言っているように、こういうチンピラの心情が実に良く描けてるなあと思います。自身の置かれた状況の悪さの原因を全て社会を含めた他者に求め、自らを一切顧みることがないという、ある意味潔いともいうべき責任転嫁ぶり。それは自分自身を見つめることが怖くてできないが故なのでしょう。

 「この何年か、いつもそうなのだ。予備校も、学校も、アルバイトも、パチスロ通いでさえ。せっかく行き始めても次の日になると、何ともいえず嫌な気分になってしまう。どうしてなのか、自分でも分からなかった。本当に、最初は張り切っているのだ。今度こそ続けよう、続けられそうだと、心の底から思うのだ。それなのに翌朝になると、もう気分が変わっている。すべてが馬鹿馬鹿しくて、面倒くさくて、何をやってもうまくいかないような気がしてしまう。その結果、翔人(主人公の名前。名前からしてDQN臭いですね)は何もかも放り出してきた」

 北上次郎の挙げている主人公の心の弱さの描写、これは説得力がありますね。次の日は気分が変わる、これは誰にでもあることです。大半の人は我慢して、あるいは歯を食いしばって続けていくという日常的な行動が、彼にはできないのです。悪霊に取り憑かれているとか、何らかの疾患(精神系を含む)のせいにできたらいっそ楽なのでしょうが、おそらくはただひたすらに惰弱な根性ゆえなのです。おそらくは、ごく小さい頃から徐々に身につけていく「我慢」というものを全く知らずに成長してしまったからなのでしょう。

平家落人行動図

 そういう最低野郎(ボトムズ、と呼びたいですが、それじゃあまりに装甲騎兵に失礼だ)が、平家の落人伝説のある宮崎県の辺鄙な山村に紛れ込み、たまたま成り行きで助けた老婆の家に転がり込んで周囲からは孫だと思われて過ごすうちに、ささくれだった彼の心境も少しずつ変わっていくのです。

 この老婆、おスマさんとか、主人公を山仕事に誘うシゲ爺とかがいいキャラしています。彼に幼少の時にこういう祖父母との接触があったなら少しは変わっていたのでしょうが。そして祭りの準備を手伝ううちに、BBAとGGEばかりの村に帰ってきた黒木美知という主人公と同年代の美女を発見して、一丁前に恋心を抱いていきます。

 実は彼は通り魔をした際、もしかしたら殺してしまったのではないかという事件を起こして、死刑すらありうる厳罰怖さに逃げている部分もあるのですが、美知もまた通り魔の被害者で、心身に深い傷を負って帰ってきたことを知ります。幸い主人公が襲った相手ではないのですが、卑劣な犯人への怒りは、直接自分自身に返ってこざるを得ません。

椎葉村名物 菜豆腐

 さらに完璧なお婆さんかと思われたおスマさんにも思わぬ弱みが。3人の子供を育てたおスマさんですが、末っ子は50歳近くになってどうしようもない生活をしており、今だに金をせびりに来ているのです。その男を見たとき、主人公は、やはりどうしようもなかった自分の父の姿を彼に見いだします。しかし、それを糾弾できるほどご立派な人間なのか。

 主人公は最終的に歯を食いしばって罪を償う道を選びます。もっと早くこれができていればとは思うのですが、限りなく惰弱だった主人公がそうするに至る過程が非常に説得力をもって描かれているので、陳腐感はありません。ラストはなかなかに感動的です。

 しかし…刑罰はきちんと受けたとはいえ、彼自身はそれで全ての精算が終わったと思っているのでしょうか。証拠不十分で立件に至らなかった事件も相当あるようです。だからと言って被害者がいなかった訳ではなく、その人達の追った心身の傷はただ放置されているだけです。今後ただ全うに生きるというだけではなお足らざる所あり…と傍から見ている私は思ってしまうのですが。

しゃぼん玉単行本

 将来的には、過去の自分のような無頼な青年を、自らの経験を以て教導するような役割を担って欲しいと思います。それで被害者が許してくれるかどうかは別問題ですが、自分で自分を許すためには必要なのではないでしょうか。

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