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秒速5センチメートル one more side:愛故にちょっと辛口になってしまう“もう一つの「秒速」”

one more side
 
 サッカーのワールドカップ予選の真っ最中だというのにブログ記事を書く。これが筑波嶺クオリティー。それもそのはず、本日は加納新太「秒速5センチメートル one more side」だからです。加納新太の作品は今回初めて読みました。

左が加納新太。右は新海誠

 加納新太(あらた)は生年月日不詳。愛知県出身で愛知県立大学文学部卒業の作家・ライターです。代表作は本人によればに「ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる」「雲のむこう、約束の場所」「タウンメモリー」「シャイニング・ティアーズ 双竜の騎士」などだそうです。

 つまり新海誠の三部作を全て小説にしている訳ですね。他に漫画「アクエリアンエイジ Girls a War War」の脚本、ドラマCD「コードギアス 反逆のルルーシュ」の脚本などを手掛けています。

小説版 ほしのこえ

 「秒速5センチメートル one more side」は2011年5月20日にエンターブレインから刊行されています。私が初めて「秒速5センチメートル」を見た直後ということになります。

 例によってAmazonの内容紹介です。
小説版 雲のむこう、約束の場所

 どんなに遠くに行ってしまっても、あなたはきっとだいじょうぶ
 「来年も、一緒に桜、みれるといいね」魂のむすびつきを感じた幼いタカキとアカリの無邪気な願いも空しく、ふたりは引き離され──[第1話・桜花抄]
 「君は誰だ…」たびたび夢に現れる少女の影を追う貴樹は、同級生の花苗の好意に気づかぬふりを通していた──[第2話・コスモナウト]
 「今、ここにいる自分が、あの頃なりたくてたまらなかった自分だ」出会いと別れの中で疲弊していた貴樹の心の再生。そして──[第3話・秒速5センチメートル]
 新海監督が映画の準備稿に書いた「タカキの手紙」も初収録!もの悲しく美しい新海ワールドを映画とは異なる視点で描いたもうひとつの『秒速5センチメートル』

人気の無い通り

 本書の特徴は、“one more side”の名のとおり、映像版とは逆の視点から物語を描いていることです。つまり、映像版では貴樹の視点で描かれていた「桜花抄」は明里の視点から、同じく花苗の視点から描かれていた「コスモナウト」は貴樹の視点から。そして「秒速5センチメートル」は明里と貴樹双方の軌跡を描いています。

 この発想は非常にユニークで興味深いですね。同じ出来事を、もう一方はどのように思っていたのか。また、映像版や新海誠による小説版が描いていない部分を矛盾なく補完することが可能であるという利点があります。ただ、私を含めて映像版を見た人にはそれぞれの思い入れがあるので、そこから逸脱すると違和感あるいは反感が生じてしまうのも事実です。

自転車のカゴに捨てられたゴミ

 以前も書きましたが、映像版と新海誠の小説版は「秒速教」の正典であることは間違いないと思いますが、「one more side」が正典に入るかと言えば…。もちろん正典に入れると考える方はそれはそれでいいのですが、私自身は外典かなあと思ってしまうのです。各話を紹介しつつその点についても触れたいと思います。

 まずは「第一話 桜花抄」です。

図書館の二人

 明里視点なので、明里の転校から描かれています。明里は母の出身地である栃木県宇都宮市で生まれ、小学校に上がる前に秋田県に引っ越し、さらに静岡県と石川県を経て四年生になった春に東京に引っ越してきたそうです。まさに転勤族の面目躍如。しかし、静岡から越してきたという新海版の小説とは異なっています。一方貴樹は長野→三重→静岡→東京だそうです。こちらも長野から越してきたという新海版とは異なっていますね。行く先々で違和感を感じているという二人の様子からすれば、これくらい転居したほうが自然だと解釈したのかも知れませんが、貴樹の父は銀行員ということが新海版に明記されているので、そこまで頻繁に地方を回るのかはちょっと疑問ですね。都市銀行だと東京→地方→東京→地方くらいが適当だと思うし、地銀だとそんなに各地に支店はないでしょう。

 明里は転校する先々で学校になじめず、すっかり内向的で内気な少女になってしまっています。ようやく貴樹によって救われることになりますが。明里は貴樹と同じくらい、またはそれ以上に貴樹のことが好きだという描写がされていて、この辺りは嬉しい限りです。まあ貴樹によって救われたのならそうなりますよね。

貴樹の時刻表

 好きな教科は一緒で、国語と理科と社会だそうです。ワシもじゃ、ワシもじゃ二人とも!一方、世渡りというか、人付き合いが極端に苦手な明里に対し、貴樹は如才なくクラスメートと付き合っていて、それを明里が頼もしく思っていたようです。

 そして一緒に私立中学に進学しようとして、合格までしたのに明里の不意の引っ越し。これは明里の父が栃木の本社に戻りたいという要望が通ってのことだったそうです。栃木に本社で全国展開している会社ってどんなのでしょうか?岩舟の家は父の実家みたいです。まあ岩舟に本社で全国展開している会社はそうそうないでしょうね。

雪原を走る両毛線

 栃木に引っ越してからの明里の心境は……もう可哀想で見てられません。明里が嫌がらないなら抱きしめて上げたい。引っ越しを貴樹への裏切り行為と考えて自分を責めて…。ところで映像版第三話でご承知のとおり、結婚を控えた明里は正月を実家で過ごすことなく東京に戻りますよね。独身最後なら正月くらい両親と過ごしたらいいのにと思っていましたが、「one more side」では明里の両親はかなり手前勝手な印象を受けます。中学受験をさせておいて引っ越したり、協調性をつけるためとバスケット部に入ることを強いたり。両親なりに明里のことを思ってのことかも知れませんが、明里は心のどこかにこうした仕打ちを根に持っていて、それがとっとと実家を離れるという行動に反映されているのかも知れません。

 岩舟駅に持ってきたお弁当も、自分一人で作ったそうです。女の子用の小さなお弁当箱に詰めて。映像ではかなり大きなおにぎりを食べていたので、ボリュームが減ってますね。空腹の貴樹が満足できないで、明里も食べちゃうぞ(笑)。

貴樹の後ろ姿

 そして雪の一夜。口づけの瞬間の「理想の恋」の顕現を明里もちゃんと感じていました。あの体験に較べては言葉はあまりにも無力。それが明里が手紙を渡さなかった理由でした。「タカキくんは、きっと、この先もだいじょうぶだと思う、ぜったい!」これは、明里が誰かに言って欲しかった言葉。はるばる明里に逢いに来てくれた貴樹は明里を祝福しに来てくれた、それに報いたいという思いが口に出たのでした。明里はこれを言ったことで、今後一人で生きていける力を得たと言って良いでしょう。

 続いて第二話「コスモナウト」です。

種子島の空と海

 相変わらず周囲となじんで上手くやっているように見えた貴樹ですが、貴樹自身によるといつも違和感に包まれていたようです。中学時代は自転車で島のあちこちを回ったりしてなかなかアクティブです。サッカーは転校後はもう続けなかったようです。

 明里との文通は数年で途絶え、高校で貴樹は花苗を再発見します。中学当時から存在には気付いていましたが、高校に入ってから子犬のようにやたら懐いてくるので自然と好意をもったようです。それにしても貴樹、ちょいワル高校生です。タバコなんか隠れて吸っています。大人になった貴樹が喫煙しているのは映像版でも確認できますが、何も不良みたいに高校時代から吸わなくても。貴樹にはチンピラじみた背伸びとかは無縁な気がするので、このあたりもちょっと違和感です。

一目惚れした花苗

 さらに言うと、花苗を口説いて寝てみようかなんて考えています。もちろん思っただけで実行はしていませんが…私が思う貴樹と違うんですよね。そして映像版で全く接触が描かれていなかった花苗のお姉さんである澄田先生(名前は美穂だそうです)との接触。何か緊張感があるんですよね、この二人のコンタクトは。先生は可愛い妹が好きになるにはちょっと危険な男だと感じている節があり、貴樹によっては花苗に対する気持ちの抑止力となっているような気がします。

 例の花苗が告白しようするシーンですが、貴樹はあからさまに拒否しています。その気持ちは知っているけど言葉にするなと。

花苗ランチタイム

「好き」と言葉にすれば花苗への興味が死ぬと。しかし言わなければ付き合うという訳でもなし、それならいっそ告白を受けて振った方が両者すっきりしていいと思うのですが。何となく「俺を好きでいろ。でも告るな」というわがままを言っているように感じます。

 それから例の貴樹の夢ですが、あれは頻繁に見ていたようです。最後に彼女にも光が当たって顔が見れる訳ですが、それでも貴樹は彼女が誰だか判らないようで、「君は誰だ…」と言っています。映像版では微笑み合って見つめ合っていたのに。

コーヒーとヨーグルッペ

 最後に第三話「秒速5センチメートル」。ここは新海版もそうですが、新事実てんこ盛りです。特に明里に関して。

誰もいない教室

 ① 明里は現役で大学に合格。上京して一人暮らしです。一人暮らしはぜひともしてみたかったとか、母も折れざるをえなかったという語りぶりに、なんとなく母との不和を感じます。

 ② 大学は「いわゆるマンモス私大の日本文学科」だそうです。これは日大ということでいいのでしょうか?マンモス大学というと真っ先に思い浮かぶのですが。次に学生数が多いのは我が母校・早稲田ですが、文学科に日本文学専修はあっても、日本文学科というのはありません。また貴樹は立教なので早稲田だと地理的に結構近くてニアミスする可能性が。日大文理学部だと国文学科というのがあって、場所も世田谷区桜上水なので池袋からちょっと離れていて良い感じかな、と。

 ③ 2年生になったころ、同級生に熱心に口説かれて初めてちゃんと付き合ったそうです。ということは映像版で確認できる高校時代に明里の横にいた男はやはり彼氏ではなかったのか。まさか遊びでつきあっていたとか…いやいや、明里はビッチじゃない!でも半年くらいでダメになったそうです。理由は明確にされていません。「好きだって言われると、すごく弱いなあ…」と言っています。押しに弱いタイプでしょうか。あの人は何回好きって言ってもなびいてくれなかったぜ畜生め!……いやいや、こっちの話です。

明里の幻影

 ④ 3年生の冬、英文学の講師に熱烈な片思いをして、あっさり袖にされています。明里を振るとは何と怖いもの知らずの男よ。でも「一口かじってポイッ」みたいなことはしていないようなので許す。首の皮一枚で助かったぞ。

 ⑤ 一方貴樹。新海版で語られていない部分はといえば、水野理紗関連でしょうか。理紗には兄がいましたが、理紗が中学生の頃に理由は不明ですが自殺してしまったそうです。それは理紗の大きなトラウマになっていて、人付き合いができなくなったそうです。そんな理紗が自分から貴樹に声をかけたと言うことは兄の面影を見たのかも知れませんね。自分より深くて大きな心の傷をもった理紗を扱いかねる貴樹のへたれっぷりが情けないです。

 ⑥ 貴樹が就職活動に出遅れながら案外あっさりと内定を勝ち取った(さすが理系)のに対し、明里は早々に就活にいそしみ、苦労を重ねて大手書店チェーンに内定しました。本好きだからちょうどいいじゃないと感じるのは私だけでしょうか。大学以降の明里は、積極的に友達を作ったり、かつての内気ぶりがウソみたいです。あの日を境に変わったのか。

本を読む明里

 ⑦ 就職して4年目、出版社の営業の男と出会います。これがおそらく「祐一さん」でしょう。貴樹に較べると恋愛遍歴少ないなあ。ビッチはいかんけど、おぼこすぎるのもどうかと。夫となる「祐一さん」に処女まで捧げるのはもったいないので、大学時代でロストバージンしてて欲しいですが、その講師はいかん。じゃあ2年生の時の同級生か…。明里の方から振ったと言うことなら許そう(笑)。

 ⑧ “あなたの中になにか大事な、重大なものの、においだけが残っている。そこにあったものを誰かが持ち去ってしまった。だから私はからっぽの宝箱に響く自分のため息を聞くだけなんだわ。”これは理紗のセリフですが、これが正しいとすれば、持ち去った誰かとはもちろん明里。持ち去ったものとは「カリオストロの城」ではないけど「貴樹の心」の一部なのでしょうか。ひとりぼっちだった明里は、貴樹の心を手に入れたことでその後の人生に立ち向かう力を手に入れ、方や貴樹は何かを探して彷徨うことになったのか。逆だと許せないけど、好きな女のための犠牲というか、礎になるのなら、それは男の本望というものなので、これはこれでいいかなと思います。理紗や花苗には申し訳ないですけどね。

 ⑨ 踏切のシーン。すれ違った二人は小田急線に阻まれ、電車が通過した後に明里はいません。しかし、明里がいないことで貴樹は心から満ち足りた気持ちになって微笑むのでした。貴樹は彼女が明里とは認識していませんが、何かを彼女がくれたと感じます。幸せになった明里が、貴樹に長い間預かっていた心の一部を返してくれたのでしょう。おそらく幸福感という熨斗を付けて。ラストシーン、貴樹はやたら元気になっています。

二人の足跡

 ⑩ 余談ですが、気になったのは、「タカキ」「アカリ」「リサ」としばしばカタカナ表記が登場することです。これって何か意味があるんでしょうか?理紗なんかずっと「リサ」でしたよ。ステッグマイヤーかい。

 コミック版ほどではないですが、+αを描くとどうしても貴樹がちょいワルになっていく傾向があります。それを我慢できたなら、なかなかに興味深い野心作だと思います。「雪の一夜」の奇跡をなんとか言葉で表現しようとする試みは賞賛に値すると思います。しかしその一方で「言葉ではとても表現できない」と貴樹や明里に言わせているところが何ともはや(笑)。

ポストと明里

 映像版や新海版との矛盾点が気になるので私個人は正典とは扱いませんが、外典としてならとても良く出来た一冊だと思います。

 ……ああ、サッカーはワールドカップ出場が決まったようですね。引き分けだけど良かったですね。

誰がどう見ても明里なんですが
 
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