赤ちゃんがいっぱい:「助産師シリーズ」第二弾は長編です

天気が崩れる、雨が降るなんて予報でしたが、帰宅まで保ってくれました。三連休は実に行楽日和だった訳ですが、いつものとおり、サーバー空間以外どこにも行きませんでした。この空間は天気はほとんど関係ないんですがね…。出勤してきましたが、電車はいつもより少しは空いてたかなという感じ。通勤者は皆なんとなくだれた感じでした。ワシもじゃみんな!!
さて気を取り直して今日の記事です。本日は青井夏海の「赤ちゃんがいっぱい」です。4月3日の当ブログ記事で同じ作者の「赤ちゃんをさがせ」を取り上げましたが、タイトルから一目稜線、同じ「助産婦(師)探偵シリーズ」の作品で、「赤ちゃんをさがせ」が第一弾、本書が第二弾となります。
「赤ちゃんがいっぱい」は、2003年4月に創元推理文庫から刊行されています。同文庫では同年1月に「赤ちゃんをさがせ」が刊行されているので、ハイペースだなあと思ったら、「赤ちゃんをさがせ」の単行本刊行は2001年10月なのでした。前作が3編の短編から構成されていたのに対し、本書は長編となっています。
それでは例によって文庫本裏表紙の内容紹介を。
アルバイト先の助産院を解雇された陽奈は、急場を凌ぐために“ハローベイビー研究所”に就職するが、そこでは価値のないものばかりが消え失せる目的不明の盗難が続き、さらには十八年前を再現したかのような赤ちゃん置き去り騒ぎが起きた。いったい研究所内で何が進行しているのか?「伝説の助産婦」にして安楽椅子探偵・明楽先生の推理が冴える!助産婦探偵シリーズ初長編。
今回も、赤ちゃんにまつわる推理譚で、いわゆる「日常の謎」系なのですが、助産師という職業自体が私のような男にとってはあまり日常的ではなく、しかも舞台は妊婦とかお産といったさらに男にとっては非日常に満ちているので、「非日常の謎」だよなあと感じてしまいます。ただし、陰惨で血なまぐさい事件は一切起きないので、心静にというか気楽に読み進めることはできます。
前作「赤ちゃんをさがせ」でコンビを組んでいた聡子は再婚(しかも前夫と)し、第二子出産直後なので、あまり登場してきません。今回は亀山陽奈が一人でストーリーを回していきます。舞台となるその名も胡散臭い“ハローベイビー研究所”は、妊婦と胎児の健やかさを促進維持するための機関で、妊婦さんはここで運動したり産科医の講演を聴いたり、おしゃべりをしたり趣味を覚えてみたりと、気楽に過ごすのですが、不測の事態(急な出産ということですね)に備えて助産師を配置しておきたいのだということになっています。
着任早々、陽奈は赤ちゃん置き去り事件に遭遇するのですが、実は18年前にも同様の事件が起きていました。なぜかひどく動揺する首脳陣。なにやら怪しげな気配を感じた陽奈は、とりあえず預かることになった赤ちゃんを、生まれて間もない自分の赤ちゃんの世話に追われる聡子に預けて調査を続けますが、誘拐未遂事件が二度も発生するなど不穏な気配はますます濃厚。
そんな陽奈に絡んでくるのは、研究所設立の原動力ともなったかつての広告塔「元天才少年」奥園時夫。天才少年少女だった彼とその妹の話は父親が本にしており、30年ほど前にベストセラーになっていたということです。彼は今は研究所のスーパーバイザーと言う名の昼行灯として、仕事もせずに給料を貰っている結構な身分なのですが、次第に明らかになっていく時夫の真意。彼に強力することになった陽奈ですが、しかし時夫にも奇妙な言動がつきまといます。
正直、陽奈な推理小説ファンに較べてもおつむの具合は特別よろしくないので、すこはスルーしろよというところでもたついたりしますが、結局は明楽先生に事件を(そして赤ちゃんも)持ち込んで、円満な解決をお願いすることになります。明楽先生は70歳を過ぎていますが伝説的な助産師で、ミス・マープル並の推理力を持っているのです。
明楽先生の推理によって、全ての謎はばっさばっさと快刀乱麻に解明されていく…確かにそうなのですが、今回については、「なぜ明楽先生はそう思ったのか」という推理の根拠が弱く、傍目には山勘が当たっているだけなんじゃないかという気もしてしまいます。あと陽奈のもたつきぶりもちょっといらっとする場面があるので、改めてアガサクリスティの筆致というのは凄いなあと思わずにはいられませんでした。
まあ陽奈は一介のかけだし助産師に過ぎないのであって、助産師探偵というのは明楽先生のことなのですが、日本のミス・マープルにするためには、もっと明楽先生自身が直接事件にタッチしないといけないなあという気がします。いや、作者がそうしたいと思っているのかどうかは知りませんが(笑)。もっとも明楽先生は既に助産婦を引退しているので、「元助産婦探偵」というべきなのかも知れませんが。
基本的には悪人が登場しなかった前作に比べ、本作は明らかに胡散臭い連中がいて、予想通り胡散臭い事実が発覚するのですが、三巨頭のうち一人が逮捕されるのは必然なのですが、残りの二人はどうなったんでしょうか。従犯になって逮捕されたのか逃走しているのか、その辺が最後まで明らかになっていないのがちょっと残念です。
劇中、置き去りにされた赤ちゃんは一人だけなので、なぜに「赤ちゃんがいっぱい」なのかと思ったら、その謎(?)はラストで解明されたのでした。なるほど、いっぱいだ。なお、個人的には子猫がいっぱいだったりすると私は悩殺されます。

出産にまつわる話なので、明るく終わるのは大変結構です。しかし多分次作以降も登場するであろう聡子の夫は、男からみても非常にいけ好かない男なので、ベテランにして腕利きの助産師聡子であっても、男の趣味の悪さはどうにもならないということなのでしょうか。陽奈にはその点だけは見習わないようにして貰いたいものです。
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