エイジ:思わず再読してしまった重松清の少年小説

冷えますね最近。今日は自動車に霜が降りてました。初霜かな。白菊と霜とどれがどれやら迷ってしまう…訳がありません。百人一首に、
心あてに をらばやをらむ 初霜の おきまどはせる 白菊の花(凡河内躬恒)
という歌がありまして、なかなか幻想的でいいなあと思っていたのですが、正岡子規は「初霜が置いた位で白菊が見えなくなる気遣い無之候」などと徹底的に批判したそうです。現実にみると…確かに子規の言うとおり、間違えようもないのです。しかし…ここは一つ想像力を駆使して、霜と白菊が区別が付かないような幻想的な世界を空想してみてもいいような気がしますね。きっと正岡子規に中二病は無縁だったのでしょう。
さて話は変わって、今日は読み終わったばかりの重松清の「エイジ」です。「エイジ」は1999年2月に刊行されています。もう13年も前の作品ですね。
例によってAmazonの内容紹介です。
ぼくの名はエイジ。東京郊外・桜ヶ丘ニュータウンにある中学の二年生。その夏、町には連続通り魔事件が発生して、犯行は次第にエスカレートし、ついに捕まった犯人は、同級生だった―。その日から、何かがわからなくなった。ぼくもいつか「キレて」しまうんだろうか?…家族や友だち、好きになった女子への思いに揺られながら成長する少年のリアルな日常。山本周五郎賞受賞作。
主人公は中学2年生のエイジ。本当は栄司という名前です。平凡というよりはむしろかなり良い家族に囲まれ、成績も良くてスポーツも得意で人気もあって…そんなリア充爆発しろや的な生活を送ってきたエイジが、さあこれから部活のバスケットで大活躍するぜというタイミングでヒザを故障(成長期特有の病気で、成長が止まれば直るらしいですが)でバスケットをすることができなくなった二学期の10月から物語が始まります。
初めてと言って良い本格的な挫折と鬱屈、学年3位だった成績も降下し、バスケットの代わりにやりたいこともなく、ギターに手を出してみたもののすぐに飽きて、片思いの同級生には見向きもされない…という私のような非リア充が「おいでーおいでー」と呼ぶ声に誘われるが如くリア充のレールをはみ出し始めるエイジ(くっくっく…)。折しも近所で発生してた連続通り魔事件の犯人が同級生のタカやんだったことが判明し、周辺は一気に騒がしくなっていきます。
エイジは自問自答します。キレるってなんだろう?自分もキレてしまうのだろうか?そこからエイジの迷走が始まります。好きな子に紹介された下級生と付き合ってみたり、性夢を見たり、マスコミ記者の取材を受けたり、犯人の同級生の家を見に行ったり…。自慰をする際の「おかず」がヒロスエだという辺り、時代を感じます。今時の中学生には絶対ヒロスエはあるまい。AKBあたりなんですかね?

そう、時代・世代を表すエイジ(Age)も主人公の名前に掛けられています。今時の中学生は…みたいな台詞も周囲から聞こえてきます。しかし、エイジ達は昔の中学生と比較しても今の中学生と比較しても、さほどかけ離れた存在ではありません。だいたいいつもこんなもんなのではないでしょうか。エイジ達の中学校は比較的成績も素行もよく、近所にはどちらも悪い中学校がありますが、数年前は正反対で波のような周期があるのだとか、なかなかリアリティがあります。私が通っていた中学校も私のいたころはわりと評判が良かったのですが、その後は転落(卒業生的ならではの偏見かも知れませんが)していきましたっけ。
むしろ時代というよりは世代ですね。中学生という独特な時期特有の揺れ動く心身をもてあましているまだまだ幼い精神…。そういう、それこそ中二病罹患に最適な年代で巻き起こる諸々の出来事を、そして中学生男子独自の価値観・行動様式などをこの小説は丁寧に描いています。
通り魔事件は起きていますが、エイジ自身はそれほど大事件に遭遇する訳ではありません。しかし終盤、エイジは諸々の積み重ねに耐えられなくなって、敢えて「キレ(切れ)」てみせます。学校から切れて、家から切れて、地域から切れて…渋谷に出てみて同じくキレているらしい少年少女の群れを眺めたりして。
まあ結局特に悪いこともしないで帰ってきたら、おばさんに通り魔と間違えられて警察のご厄介(むしろ保護)になっていますが、彼の冒険は確かに一つの成長をもたらしたのでした。エイジは大丈夫。たぶんずっと。
そういえばこの本も2000年7月に天下のNHKが単発ドラマ化しています。例によって見ていませんが、お父さん役が中村雅俊、お母さん役が浅田美代子だったらしいです。すごい両親だ(笑)。
ところでこの本、大分前に読んでいました。今回気付かずに借りて、気付かないままに途中までよんで、中盤ようやく「あれ?」と思ったのですが、子供の頃に読んだというのならともかく、1999年以降、おそらく21世紀になってからですよ、前に読んだのは。どんだけ痴呆症に近づいたのかと、エイジとは別な意味で「世代」を痛感してしまいました。とほほ……

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