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奥右筆秘帖シリーズ:サラリーマンこそ読んで欲しい傑作時代小説

ポップ
 
 もう11月も下旬ですね。気の早い家はクリスマスのイルミネーションを始めたりしています。街が華やかになるので嫌いじゃないですが。

第1巻「密封」

 さてアニメの未完でも紹介するようになったので、本だって良かろうということで、本日ご紹介するのは上田秀人の奥右筆秘帖シリーズです。今日第9巻「召抱」を読み終わりました。最新刊は第10巻の「墨痕」ですが、図書館にはまだ見当たりません。

第2巻「国禁」
 
 上田秀人は1959年生まれの53歳。兼業作家で本業はなんと歯科医だそうです。昼間は歯医者として働き、作家業は夜にこなしているとか。昔「養老乃瀧」という居酒屋がチェーン店募集の広告で「♪も~しもし養老ファミリーいかがです~夜昼稼いで二毛作~♫」なんて歌ってましたが、個人としてはすごい二毛作ですね。よく体がもつなあ。

第3巻「侵蝕」

 小説家としてのデビューは1997年ということで、38歳の時と言うことになります。時代小説をシリーズ物として書くことが得意なようですが、奥右筆シリーズは2007年に開始されてなお続刊中です。2009年には宝島社出版の「この文庫書き下ろし時代小説がすごい! 時代小説愛好会が選ぶベストシリーズ20」で「奥右筆秘帳シリーズ」が第1位に選ばれています。

第4巻「継承」

 本シリーズは、奥右筆組頭立花併右衛門と隣に住む旗本の次男坊柊衛悟が主人公となっています。奥右筆というのはあまり聞き慣れない肩書きですが、江戸幕府の役職の一つです。右筆という役職は元からありましたが、奥右筆は五代将軍綱吉が新たに設けたもので、将軍自身が発給する文書の作成などを任せたのが始まりだそうです。老中達執政に幕政が牛耳られて人形のようなお飾りになりかけていた将軍が、自ら親政を行うために必要としたようです。

第5巻「簒奪」

 奥右筆は、幕府の機密文書の管理や作成なども行っており、その地位は大して高くありませんでしたが、実際には幕府でも特に重要な役職で、俊英しか就任することができませんでした。また諸大名が将軍をはじめとする幕府の各所に書状を差し出すときには、必ず事前に奥右筆によってその内容が確認されることが常となっていました。つまり、奥右筆の手加減次第で、その書状が将軍などに行き届くかどうかが決められるほどの権限のある役職だったのです。また、幕閣より将軍に上げられた政策上の問題に関して、将軍自身の命令によって調査・報告を行う職務も与えられていました。その報告次第では、幕府の政策が変更されたり、特定の大名が金銭的・人的な負担を求められる事態もありえました。さらには、幕閣(大老や老中)の会議で意見を述べることさえあったそうです。

第6巻「秘闘」

 8代目の暴れん坊将軍・将軍吉宗の治世である享保年間で、奥右筆組頭は役高400石、役料200俵でした。同時期の表右筆組頭が役高300石・役料150俵だったので、待遇面でも優遇されていたといえるでしょう。また奥右筆に便宜を図ってもらいたい用向きを持つ諸大名や旗本は奥右筆への接近し、しばしば付け届けを行ったようなので、激務ではありましたが内証はかなり裕福だったようです。

第7巻「隠密」

 立花併右衛門は200俵の小普請組(三千石以下の無役の旗本・御家人が属する)の貧乏旗本でしたが、筆が立ち頭も切れたので累進して奥右筆組頭にまで栄達しました。妻を早くに亡くしたので一人娘の瑞紀がもう24歳になろういうのに独身で家事を切り盛りしています(今はともかく、江戸時代では「行き遅れ」とか「行かず後家」と陰口をたたかれる年齢でした)。その瑞紀と幼馴染みで、お互いに好き合っている柊衛悟は隣家の次男坊で、兄がようやく評定所与力という職にありついたものの、本人は剣術にかまけて冷や飯喰らいとなっています。

第8巻「刃傷」

 併右衛門はふとしたことから幕府の闇に触れてしまい、命を狙われるようになりました。このため衛悟を護衛に雇ったことから、二人は様々な敵と対峙していくことになります。関わってくるのは、11大将軍家斉、寛政の改革で有名な松平定信、家斉の父である一橋治済(はるさだ)、朝廷の意を受けた上野寛永寺門跡の法親王といった貴顕から、刺客となって襲い来る浪人や忍者や僧兵まで多岐に亘ります。

8巻ポスター

 面白いのは、それぞれが各々の立場に不満を持っていることと、敵味方が定かではないということです。松平定信は幕府の危機を打開しようと、大老になって再び改革を進めることを夢想し、一橋治済は何もすることのない御三卿という立場に飽いて、自ら将軍になることを望みます。家斉は家斉で何一つ思い通りにならない将軍職に絶望していたりします。そして朝廷は王政復古を夢見て様々な工作を仕掛けます。

第9巻「召抱」
 
 併右衛門は能吏ですし、衛悟の剣はかなりのものなのですが、何しろこうした大権力の引き起こす嵐の中にあっては大海に浮かぶ小舟に等しく、様々な嵐に翻弄されながら、転覆しないように必死で策を講じていきます。奥右筆は将軍のための役職(まあそれを言えば本来旗本自体が将軍のために存在しているのですが)なので、家斉は味方であって欲しいところなのですが、家斉からすれば数多いる家来の一人に過ぎず、あまり積極的には守ってくれません。

第10巻「墨痕」

 衛悟は涼天覚心流というあまりはやらない小道場ながら、師範代を務めるほどの腕になっていますが、一巻からずっと登場している一橋治済が飼う元甲賀忍者で鬼神流を名乗る冥府防人の凄まじい腕前には一歩も二歩も及ばない状態です。「召抱」終了現在で松平定信は上野寛永寺との結託して将軍暗殺を試みましたがこれが失敗に終わり、定信は隠居を命じられ、今後は将軍家斉と一橋治済の父子対決かという様相を呈している(範馬刃牙と勇次郎か!)ところですが、まだまだストーリーはどう展開していくものか予断を許しません。
 
 また、この本の面白さは、宮仕えの辛さ、難しさが鮮やかに描かれているところです。処分を恐れ、加増を歓び、同僚に気を遣い、上役を恐れる併右衛門の姿は、サラリーマンとしては身につまされます。旗本って本当にサラリーマンに近いんですねえ。各大名の家臣も同じようなものなのでしょう。侍達のサラリーマン生活ぶりをこれほど的確に描いた作品は他にないんじゃないでしょうか。スーパーヒーロー大活劇もいいですが、こういう作品も身につまされるようでいいですよ。第10巻「墨痕」も早く読みたいなあ。

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