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なつのひかり:少女と大人の狭間のシュールなファンタジー

なつのひかり
 
 時雨というには結構な雨が降った関東地方でした。雲が高層マンションまで垂れ込めて街灯がおぼろに。あ、これって霧というべきでしょうかね。

 さて、今日も本の紹介です。連続になっちゃいますが、読み終わってしまったので仕方がありません。本日は江國香織の「なつのひかり」です。

 江國香織は小説家のほか、翻訳家や詩人としても顔を持っています。2004年に「号泣する準備はできていた」で第130回直木賞を受賞しているほか、10以上の文学賞を受賞しています。が、私はこの人の作品を読むのは今回が初めてです。知り合いのラピスさん(仮名:既にプリメ4の娘役として登場しています)がよく読む作家だということで図書館で探してみたのですが、文庫では「なつのひかり」しか見つかりませんでした。初めて読む江國香織の作品として適切なのかどうかわかりませんが……

夏の光(イメージ)

 Amazonによる内容紹介を三種類全部挙げると、

 全編にみなぎる眩くけだるい夏の光…。現実感と幻想、ノスタルジーが交錯する、「私」と兄をめぐる奇妙で「不思議な真実の物語」。シュールな切なさと失われた幸福感に満ちた物語。

 「私」は来週21歳。ウェイトレスとバーの歌手という、2つのアルバイトをしている。「年齢こそ三つちがうが双生児のような」兄がいて、兄には、美しい妻と幼い娘、そして50代の愛人がいる…。ある朝、逃げたやどかりを捜して隣の男の子がやって来たときから、奇妙な夏の日々が始まった―。私と兄をめぐって、現実と幻想が交錯、不思議な物語が紡がれて行く。シュールな切なさと、失われた幸福感に満ちた秀作。

 部屋に迷いこんできた「やどかり」を追って隣の少年が訪れてきた事から奇妙な物語の扉がひらいた。1993年の夏、私と兄をめぐる奇妙で愛しい人たちの話をしよう。ひと夏の不思議な追跡の物語。

ということです。幸福感に満ちているかなあ?一番最後のが短いですが一番しっくりくるような。

 主人公は栞(しおり)という、一週間後に21才になる身長161センチ、体重49キロの女の子です。自分の体重をいとも簡単にカミングアウトするあたり、只者ではありませんね。もっともBMI18.9というのは普通体重ですけど、もうちょっとで低体重というレベルなので、何も恥ずかしがる必要はなかったということか。

冬薔薇(ふゆそうび)

 この栞さん、3つ年上の兄幸裕と中学三年生の時に家出をし、50才過ぎの金持ちで、バー「冬薔薇」(ふゆそうび)のオーナーである順子に出会うまで街をさまよっていましたが、幸裕が順子の愛人となることで庇護を受け、今ではバーで歌を歌ったり深夜営業のレストランでウェイトレスをしたりして、昼夜逆転生活ながら収入的には結構恵まれた生活をしています。幸裕は3年前に順子が見つけてきた遙子(はるこ)と結婚し、陶子という娘もいます。栞もちゃんと高校は卒業しているようです。

ナポレオン(イメージ)

 それだけならちょっと変わった人々に囲まれているだけのことなのですが、その後、シュールな世界に迷い込んできます。なんだか判らない「それ」を探すために失踪する遙子、ストーカーのように跡をつけてくるヤドカリ「ナポレオン」、なぜか裕幸と名前をひっくり返した兄が連れてきた醜い年増のめぐみが栞のマンションに転がり込んできたり、兄まで失踪したり。

話をしよう。

 そしてストーリーの腰を折るようにしょっちゅう出てくる「○○の話をしよう。」という栞のモノローグ。お前は「エルシャダイ」のルシフェルか。はたまたジェットストリームの城達也か。さらには通話ができるキャラメルの空き箱、5時から時間が進まない街、廃園になった動物園の檻に閉じ込められていた幸裕、そしてフランスに繋がるラブホテルのホテル・モンパルナス……

ホテル・モンパルナス(イメージ)

 この作品の解釈はいかようにもできるでしょうが、個人的見解を。まず栞は20才です。もう大人ですが、なんとなく20才って大人になりたてで少女の面影を多分に残している年代なんじゃないかと思うんです。21才になって本当の大人になるというような。だから隣に住む小学生の薫平にため口をきかれたり、マンションの階段にいつもいる双子の少女にも無視されたりと、およそ大人らしからぬ状況にあっても違和感を感じていません。

 そんな少女と大人の狭間に立つ栞は、兄を非常に愛していますが、初恋を幼い頃に生き埋めにして以降はあまり恋愛に興味がないようです。後半に登場する大学生の洋一は、もうすぐ本当の大人になる栞の恋愛相手かも知れません。一緒にトイレに行った15分間の出来事って……やはりそうなの?そうなのかッ!

何をするだァーッ

 そして様々な怪異といってもいい現象は、全て順子に起因しているようです。パルレモアダムール(私を愛していると言って)は、順子の幸裕に対する魂の叫びです。愛人となっても、幸裕は決して真に順子を愛することはなく、幸裕のために仮初めの妻として与えた遙子を本当に愛するようになってします。遙子が探し続けた「それ」とは幸裕の「真の愛」。それは順子の部屋に幸裕自身として留められていました。

 そこへたどり着くまでの道のりの長いこと。ヤドカリのナポレオンに導かれた栞はホテル・モンパルナスからフランスの海岸にたどり着き、遙子と再会します。そしてパレルモアダムールの歌に導かれて順子の邸にたどり着きますま。邸の中を探検して、順子の部屋へと繋がる隠し扉を見つけた遙子と栞は、開いた扉から無数のヤドカリが逃げ出していくのを目撃します。それが「順子の過去、順子と幸裕の娘、そして幸裕の友達」だと順子も幸裕も認めます。遙子は幸裕を取り戻し、二人の家に帰ります。そして栞の日常は平常に復し、21才になったのでした。

 ヤドカリ「ナポレオン」はきっと「順子の過去、順子と幸裕の娘、そして幸裕の友達」の中のどれか一つだったのでしょう。遙子は幸裕を完全に自分のものとし、順子とめぐみは幸裕を失い(めぐみにとっては裕幸ですが)、栞はまだ兄を愛していますが、21才になったので兄離れを始めていくだろうというところで物語は幕を閉じています。

 栞もしょっちゅうぼんやりとして人の話をあまり聞かない子として描かれていますが、この人はまあいいです。兄の幸裕はかなり問題のある人で、なんでこんなに女性にもてるのか謎です。こういう男がいいのだとしたら、たいてい不幸になりますよ。順子みたいに金がある人はいいかも知れませんが、本当の愛はくれません。

 彼氏候補?の洋一も女性にはもてるようなので、仮に恋愛関係になっても栞もうかうかできないような気がします。JKのなつみというライバルがすぐそばにいるようですし。遙子は小柄ですごい美人のようなので、「美しいものが嫌いな人がいるかしら?」とララァに訊かれるまでもなく私も好きですが、娘の陶子への接し方がちょっと妙なのと、全然母親になついていない陶子が気になります。まあファンタジーなのでこれ以上詮索しても仕方ないですが。

 Amazonのレビューを見ると、

 どことなく「江國さんらしい」という感じはしなかった。この本だけを読んだ人が、「江國さんってこんな作品書くんだ~」と思ってしまったら、なんだか勿体ない気がする。

という感想が「最も参考になったカスタマーレビュー」になっていたので、本来の江國香織の作風とは違うのかもしれません。別の作品も読んでみたいです。

五時の海岸

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