「這いよれ!ニャル子さん」:本当は怖いクトゥルー神話

いよいよ7月も終わり、明日から8月ですね。
「這いよれ!ニャル子さん」が終わってしばらく経ってしまいました。OPやEDの紹介をして、「まだ放映中だから」を言い訳に紹介を怠ってきましたが、8~10話あたりの盛り上がりに大いに期待したものの、その後若干尻すぼみというか、いい話に持って行こうという意図があったせいか、個人的にはやや残念な終わり方になったなという感じでした。そういいながら、2期やるなら絶対見ますけどね。まあニャル子さんの本体であるナイアーラトテップは千もの顕現を持つ無貌の邪神なので、ああいうキャラがいても不思議ではないんですけど。
「ニャル子さん」の画期的な点は、「萌えクトゥルー」という全世界の誰もが思うも寄らなかったコンセプトを導入したところでしょう。きっとクトゥルー神話の創始者であるハワード・フィリップス・ラヴクラフトも泉下で「その発想はなかったわ」と苦笑しているのではないでしょうか。従来はクトゥルー神話といえば「怖い」「不気味」という連想しかありませんでしたから。
ラヴクラフトが創始した「クトゥルー神話」は、「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」と呼ばれる、SF的なホラー小説です。これは、無機質で無限に広がる宇宙においては、人類の価値観や希望には何の価値もなく、ただ意志疎通も理解も拒まれる「絶対的存在」の恐怖に晒されているのだという不安と孤独感を描いたもので、妖怪や幽霊といった人間の情念に基づいた恐怖とは決定的に異なる、宇宙空間や異次元などの、20世紀的な外世界からの恐怖を取り上げています。
「クトゥルー神話」は、太古の昔に地球にやって来て支配していたが、現在は何らかの理由で地上から姿を消している、強大な力を持つ恐るべき異形のものども(旧支配者)が現代に蘇るというモチーフを主体としています。中でも、旧支配者の一柱であり、太平洋の底で眠っているという、タコやイカに似た頭部を持つというクトゥルフを描いた「クトゥルーの呼び声」が有名であるところから「クトゥルー神話」という名称になっていますが、クトゥルーはこの神話体系の中心という訳ではなく、最強の邪神という訳でもありません。…というか、肝心の「クトゥルーの呼び声」では、旧支配者ですらなく、あくまで旧支配者の姿をわずかに伺うことができる存在に過ぎないとされているんですが…
ラヴクラフトの作品は、全体として神話世界を構成するには至っていませんでしたが、ラヴクラフトの死後、彼の小説世界はオーガスト・ダーレスにより、独自の善悪二元論的解釈や四元素的分類とともに体系化され、クトゥルー神話として発表されました。そのため、「クトゥルー神話」はダーレスが独自の見解を加え体系化した後の呼称であり、ラヴクラフトの作品群やその世界観を指す「原神話」や「ラヴクラフト神話(Lovecraft Mythos)」と区別する意味で、「ダーレス神話(Derleth Mythos)」と呼ぶ向きもあるようです。特にダーレスが持ち込まれたとされる、「旧神」「旧支配者」という善悪二元論的な対立関係には否定的な読者も多いといわれています。
小難しい話はこれくらいにして、そろそろ「ニャル子さん」のキャラの本性について論ってみましょうか。

まず主人公のニャル子さんことニャルラトホテプです。この表記はもはやニャル子さんしか連想しないので、あえてナイアーラトテップと呼びましょう。クトゥルー神話の邪神達は、様々な読み方をされます。これは人類には発音できないものを無理矢理呼んでいることから致し方ないのですが、例えばクトゥルーの綴りはCthulhuであり、クトゥルフ、ク・リトル・リトル、クルウルウ、クスルー、トゥールー、チューリュー、九頭龍などさまざまな表記がある。ナイアーラトテップも綴りはNyarlathotepで、ナイアーラソテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトテップなどとも表記されます。

クトゥルー神話においては旧支配者の一柱にして、アザトースを筆頭とする旧支配者に使役される外なる神のメッセンジャーでありながら、旧支配者の最強のものと同等の力を有する土の精であり、人間はもとより他の旧支配者達をも冷笑し続けているとされています。
様々な別名を持っており、主なものは「這い寄る混沌 (Crawling Chaos)」の他、「無貌の神 (The Faceless God)」「夜(月)に吠ゆるもの (Howler in the Dark)」などです。
顔がない故に千もの異なる顕現を持ち、特定の眷属を持たず、狂気と混乱をもたらすために自ら暗躍します。天敵であり唯一恐れるものは火の精と位置づけられる旧支配者のクトゥグアのみで、またノーデンスとも対立しています。この辺はアニメでも表現されていましたね。旧支配者の中で唯一幽閉を免れている、他の旧支配者と違い自ら人間と接触するなど、クトゥルフ神話において特異な地位を占める神性であり、クトゥルー神話におけるトリックスターとも言えます。
次にニャル子ラブの百合邪神、クー子ことクトゥグアです。

クトゥグアは旧支配者に分類される神で、顕現の際は「生ける炎」の姿をとります。地球から25光年離れたフォーマルハウトを住処にしているとされます。ナイアーラトテップの天敵であるとされ、かつて地球上に召喚された際にはクトゥグアはナイアーラトテップの地球上の拠点であるンガイの森を焼き尽くしています。

実はクトゥグアはラヴクラフトと関わりがなく、オーガスト・ダーレスの生み出した神性です。ダーレスはクトゥルフ神話の神性を四大元素に分類しましたが、火の属性が欠けていることを指摘されたことから作り出されたのがクトゥグアなのです。このため、火の属性の邪神は一番数が少なくなっています。
その次はせっかく釘宮理恵を起用しながら実は男だという「残念キャラ」、ハス太です。

クトゥルー神話において、ハスターは旧支配者の一員で、四大元素の「風(大気)」属性の首領とされます。別名としては「名状しがたきもの(The Unspeakable One)」「名づけざられしもの(Him Who is not to be Named)」「邪悪の皇太子(Prince of Evil)」などがあります。他にハストゥールという表記もあります。

四大元素の「水」の首領とされるクトゥルーとは対立しているといわれています。アニメではルーヒーとハス太の登場時のいざこざがこれを表現したものと思われます。ハスターの姿はなにしろ「名状しがたきもの」なので詳細は不明ですが、化身としては「黄衣の王」が有名です。黄衣の王は、ボロ布のような黄色い衣をまとい、蒼白い仮面を被った人物です。黄色い衣は布ではなく皮膚に類するものであるともいわれています。ハス太が黄色い髪で黄色い服を着ているのはここに由来しています。

次に國府田マリ子姉が起用されたルーヒー・ジストーンです。アニメではルーヒーはクトゥルヒ、つまりクトゥルーの女性形だということです。

クトゥルー神話においては旧支配者の一柱で、四大元素の「水」の首領とされま、「風」の首領であるハスターと対立するものとされています。

一般には、タコに似た頭部、イカのような触腕を無数に生やした顔、巨大な鉤爪のある手足、ぬらぬらした鱗に覆われた山のように大きなゴム状の身体、背にはコウモリのような細い翼を持った姿をしているとされています。海底に沈んだ古代の石造都市ルルイエに封印されています。アニメにも登場したこのルルイエは、星辰が適切な位置に近づいたごくわずかの期間や地殻変動によって、海面に浮上し、ルルイエ(とそこに眠るクトゥルー)が浮上する時期には、クトゥルーの夢が外界へ漏れ、精神的なショックを世界的に及ぼすとされています。
なお余談ですが、「水」属性の首領(ドン)とされている割に、ルルイエが水没したためにその活動を制限されているとも考えられ、水棲種族の「深きものども」から信奉されているとはいえ、クトゥルー自体に水や水棲の者を統べるといった要素は見られないのではないかという指摘もあります。
この他のキャラですが、初期エピソードの敵キャラ・ノーデンスは、人間に対して比較的好意的な存在と解釈され、クトゥルー神話では旧支配者と対立し、彼らを封印した「旧神」(Elder Gods)の一柱とされることが多い存在です。白髪と灰色の髭をもつ老人の姿で現れ、貝殻の形をした戦車を操る、海の神のような性格を持っています。

また、幻夢境(ドリームランド)の地下に広がる暗黒世界「偉大なる深淵」を治めており、「偉大なる深淵の主」(Lord of the Great Abyss)とも、「大帝」とも呼ばれており、黒く痩せこけた顔のない魔物、夜鬼(ナイトゴーント)を召喚して使役するとされています。アニメでも使役していましたね。

ニャル子さんのペットのシャンタッ君は、シャンタク鳥です。

このあたり、造形はオリジナルに近いことが窺えますね。

それから八坂真尋を度々脅かしたナイトゴーントです。

こちらもオリジナルにそっくり。

最後に暮井珠緒に憑依していたイス香です。これは「イースの偉大なる種族」と呼ばれる種族です。ニャル子さんの設定では旧支配者はみんな異星人ということになっていますが、実際には単体の存在であるのに対し、「イースの偉大なる種族」は原典でも異星人といっていい存在です。

彼らはイースという滅亡しつつある銀河の彼方から、6億年前の地球に到来した実体を持たない精神生命体です。時間の秘密を極めた唯一の種族であるため、畏敬の念を込めて、大いなる種族と呼ばれています。別の生命体と精神を交換する能力をもち、種族の生命保存と知識の収集に活用している。精神を投影できる範囲は非常に広範で、時空を超えて別の銀河系や何億年もの未来や過去へ投影することもできます。

彼らの姿はこのようなものですが、精神生命体故にこれが彼らの本体というわけではなく、あくまで仮の姿といっていいでしょう。これは6億年前にオーストラリア大陸に生息していた巨大な円錘体生物と精神交換を行って地球に来訪した際の姿になります。この際、先住種族「盲目のもの」(flying polyp)を駆逐し、地下へ封じ込めて地球の支配者になりましたが、やがて未来から得た知識により、「盲目のもの」が再び地上へ侵攻することを知った彼らは、そのときが訪れる直前、現人類の次に栄えることになる「強壮な甲虫類」の肉体に転移し、逃亡します。その後、地球の終焉が近づくとさらに、水星の球根状植物に宿ることになるといいます。この辺り、時間の秘密を極めている種族らしい振る舞いといっていいでしょう。
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