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幻夜:名作「白夜行」の姉妹編

12月じゃ

 とうとうやって来ました12月。毎年思いますが、一年って本当に早いですね。数ヶ月前には暖冬という予報を聞いたような気もするのですが、あにはからんや今年の冬は寒いみたいです。今年は8月に涼しい日が続いたり、9月になってから暑くなったり、10月に雨ばかり降ったりと妙な気象が続いたので、冬らしい冬というのはある意味正常に戻ったともいえなくもないですが…今年は11月から寒かったんですよね。おかげで秋を満喫できなかった気がします。

幻夜文庫版 

 本日は久々に読書感想文です。東野圭吾の大作「幻夜」を読みました。「幻夜」は「週刊プレイボーイ」2001年No.19/20号から2003年No.16号に連載され、加筆訂正された後に2004年1月26日に集英社より単行本として刊行され、2007年3月25日には集英社文庫から文庫版が刊行されています。

 東野圭吾は私が最も好きな作家の一人です。有名な「ガリレオ」シリーズや「加賀恭一郎」シリーズも素晴らしいですが、単発作品で三大好きな作品を挙げるとするならば、これまでは「秘密」「白夜行」に「手紙」あたりかなと思っていましたが、「手紙」に代わって入ってくる勢いなのが「幻夜」かなという気がします。しかし本作、「白夜行」の姉妹編ともいえるので、「白夜行」シリーズになってしまうかも。

白夜行 

 本作は2004年に第131回直木三十五賞にノミネートされましたが、受賞は逸しています。「秘密」も「白夜行」も「手紙」も候補作になりましたが受賞せず、受賞は2006年、6回目のノミネートである「ガリレオ」シリーズの一作である「容疑者Xの献身」ででした。正直それ以前の候補作品で受賞させない審査員は頭おかしいんじゃないかと思います。もしくはこぞって海のリハク。南斗五車星が全員海のリハクだったらイヤすぎますね。

 「白夜行」こそは東野作品の白眉ではないかと思うのですが、それとの関連はひとまず置いて、例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

阪神淡路大震災 

 阪神淡路大震災の混乱の中で、衝動的に殺人を犯してしまった男。それを目撃していた女。二人は手を組み、東京に出る。女を愛しているがゆえに、彼女の指示のまま、悪事に手を染めていく男。やがて成功を極めた女の、思いもかけない真の姿が浮かびあがってくる。彼女はいったい何者なのか?!名作「白夜行」の興奮がよみがえる傑作長編。

 実は「白夜行」を読んだのはブログ開始前だったので、当ブログでは紹介していないという痛恨。一応内容紹介だけしておきますと…

白夜行映画版 

 1973年、大阪の廃墟ビルで質屋を経営する男が一人殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りしてしまう。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んでいくことになるのだが、二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪の形跡。しかし、何も「証拠」はない。そして十九年の歳月が流れ……。伏線が幾重にも張り巡らされた緻密なストーリー。壮大なスケールで描かれた、ミステリー史に燦然と輝く大人気作家の記念碑的傑作。
 
 もちろん「幻夜」は「白夜行」を知らずに読んでも面白いです。全く関係のない作品と割り切っても構いません。が、「白夜行」を読んだ人にはちらっちらっと見え隠れする影が気になってしまうところなんですね。

 美冬と雅也

 「白夜行」では美貌のヒロイン雪穂の成功を、滅私奉公のように影で支え続ける亮司という関係がありましたが、今回も似た構造となっています。つまり美貌の新海美冬を支える水原雅也という関係です。しかし、大きく違うのは、雪穂と亮司の関係が自然発生的であったのに対し、美冬と雅也の関係は人為的に築かれたかの感があることです。まるで雪穂と亮司の関係を知っていて、その再現を企図したかのような。

 そして、雪穂についてはその半生が明らかになっているのですが、美冬は震災以前の経歴がよくわかりません。というより、過去を知っている人を寄せ付けず、やむを得ない場合は雅也を使って消してしまうほど。しかし雅也にも計略を使っており、雅也の殺人を知っている人物だと思わせて“雅也のために殺す”という態を取っています。このあたり、実は読んでいてすぐには気付かないケースもあるでしょうが、ミステリーずれしてしまった私はすぐに気が付きました。

宮部みゆきの火車 

 というか、美冬についても「こいつは宮部みゆきの『火車』(これも直木賞を受賞していないのが不思議な大傑作)の新城喬子だ!」とわりと早くに気付きました。つまり本物の美冬は震災で死亡し、それに成り代わった何者かが今の美冬であると。では美冬の正体は?

 美冬に疑念を抱き始め、独自に調べる雅也とは別に、一匹狼の刑事・加藤も美冬に異様な執着を見せ、独自の捜査を行っています。本書では美冬の視点は一切なく、雅也か加藤の視点が主となっていて、もちろんお互いの知っている事実は知らないままなんですが、読者からはそれぞれが知り得た事実を総合できるので、美冬の正体がはっきりと暗示されていきます。でもそれをはっきり明示してこないのが東野流。

幻夜キャスト 

 “二人の幸せのため”と称して基本自分の幸福のために雅也を使い倒す美冬。薄々それを感じながら美冬の呪縛から逃れられない雅也。美冬は明らかに属性・悪なんですが、その美貌とともに悪の魅力というものもありますね。

 なお野望達成の道具として雅也を使い倒している感もある美冬ですが、ここ一番では自分もちゃんと動いています。自ら手を汚すことも厭わないその姿勢はまさに悪の美学。女版ディオ・ブランドーと呼びたくなります。きっと美冬が悪と判っていて、それでもついてくる支持者も出るんではないかと。

加藤刑事、美冬、雅也 

 「白夜行」はラスト、雪穂を守るために亮司が命を落としますが、本作はちょっと違います。美冬に使い捨てにされていることに気付いた雅也は復讐を考えます。豪華客船でミレニアムの年明けを迎えようというラストシーンは華やかというか何というか。

 美冬は属性・悪なので、美冬の正体を暴こうとする加藤刑事は属性・善と言いたいところなんですが、この刑事は今ひとつ好きになれないんですよね。どうして加賀恭一郎みたいな刑事を持ってこなかったんだろうかと思っていたのですが…ラストを読んで理解しました。これは加賀恭一郎を持ってきてはダメだ(笑)。

美しい美冬 

 例によって未見ですが、2010年11月21日より2011年1月16日まで、WOWOWの連続ドラマW枠でテレビドラマ化されています。美冬役は深田恭子。おお、これはナイスキャスティング。巻末の解説で作家の黒川博行言っていますが、もう一作執筆して「白夜行」三部作なんていいんじゃないかと思うのですが、「幻夜」出版から10数年も経過してしまうともうないんでしょうかね。

 一見幸せを掴んで万々歳な美冬。悪の勝利的なエンディングなんですが、美冬本人は本当に幸せなのかな。傍から見ると充分幸せなはずの美冬ですが、彼女は一生幸せを求め続け、そして実感としてそれを得られないまま幸せに飢え続ける人生を送っているような気がします。

幸せを掴みたい美冬 

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万能鑑定士Qの事件簿Ⅴ:凜田莉子、おフランスでも活躍す

希望の党ですってよ奥様

 ほとんど政治的な案件には触れないノンポリ野郎である当ブログですが、昨今の「希望の党」とやらをめぐる一連の騒動の展開ぶりには驚きますね。ジリ貧極まれりの民進党ですが、まさか解党して合流とは。20数年前の「日本新党」の騒ぎを思い出します。実現したら、それって名前が変わっただけで事実上ほぼ民進党なんじゃないかなんて思ってしまいますが、自分の議席を守るためには綺麗事は言ってられないということでしょうか。しかし、そうはいっても綺麗に見せないと…あんまり露骨なのはどうなんでしょうか。

万能鑑定士Qの事件簿Ⅴ 

 それはさておき、本日は松岡圭祐の「万能鑑定士Qの事件簿Ⅴ」を紹介しましょう。凜田莉子がヒロインを務める「Qシリーズ」は全12巻なんですが、なんと筑波嶺の図書館には本巻までしかない模様。何回書棚を見てもⅥ以降が見当たりません。なので好きなシリーズなんですが今回で紹介は終わりなのかも知れません。まずは例によって文庫版裏表紙の内容紹介をどうぞ。

パリですがな 

 お盆休みにパリ旅行を計画した凜田莉子を波照間島の両親が突然訪ねてきた。天然キャラで劣等生だった教え子を心配した高校時代の恩師・喜屋武先生が旅に同行するというのだ! さらにフランスで2人を出迎えたのは、かつて莉子がデートした同級生の楚辺だった。一流レストランに勤める彼は2人を招待するが、そこでは不可解な事件が起きていた。莉子は友のためにパリを駆け、真相を追う! 書き下ろし「Qシリーズ」第5弾!

花畑よしこ 

 「アルジャーノンに花束を」で言えば手術後のチャーリー状態(しかも元に戻ることなし)の莉子ですが、波照間島に住んで石垣島の高校に通っていた時代は「アホガール」の花畑よしこに匹敵するお馬鹿な女子校生でした。いや、まあさすがによしこよりはましだったとは思いますが、体育・音楽・美術以外はオール1の万年最下位学生だったので…ってそれでよく卒業できたなオイ。

 あれから5年。上京してスーパーインテリとなった莉子はもはやフランス語をある程度話すほどになっていますが、両親からすればまだまだ子供。自分達の元を去った後の成長はなかなか実感が掴めないのはわからないでもありません。ましてや散々手を焼かされた担任教師においてはなおさら。

 ということで、莉子がパリ一人旅なんてとんでもない!と無理矢理同行することになった高校の恩師喜屋武先生。まだ卒業を認めていないとかなんとか牽強付会な理屈をこねてますが、そんなもん傍から見たら美女につきまとうストーカーだぜよ。

 莉子もややうんざり気味なんですが、そこは万能鑑定士。喜屋武の強引さの裏に潜む何かに感づいたようで、無理矢理振り切ったりはしません。感受性がとても豊かで美貌と比例するくらいに心が綺麗なのは今も昔も変わらない莉子なので、先生の立場を忖度するわけです(何か今では良くない言葉にされているきらいがありますが、本来は悪い意味ではありません)。

 しかしまあ喜屋武先生からすれば、体育・音楽・美術以外オール1の莉子を卒業させるにあたっては、校長先生に「自分が責任をとる」と申し出てなんとかしたといういきさつがあるので、既に成人したとはいっても莉子のことを他の卒業生以上に気に掛けるのは仕方ないかなとも思えます。

 先生が強引に決めた寄宿先は、やはり教え子で、パリで料理人の修行をしている楚辺のアパートでした。この人は莉子の同級生で、かつては清いデートをしたこともあるという仲。いわば莉子の淡い恋の相手です。別に「桜花抄」のようなことはなかったので、あれから5年、もう淡い恋心は思い出に変わっているようですが。

 楚辺は自分が勤める一流レストランに2人を招待しますが、そこで巻き起こる不可解な食中毒事件。店は営業停止となり、“犯人”と思われるフォアグラの製造業者まで徹底的に調べられることになります。失業の危機に直面した楚辺を救うべく、莉子はパリを、いなフランスを駆けて真相を追うことになります。 

フォアグラ 

 例によって意外な人物が意外な動機で犯行を行っていたということになるのですが、そこはまあお読みいただくとして、折々登場するいけすかないフォアグラ業者の社長が、「これを売れば大金が入る」と豪語するアンティークを、繰り返し一目で偽者と見破ってその根拠もきっぱりと述べる莉子が素敵すぎます。ここは笑いを取る場面なのですが、「なんでも鑑定団」は莉子一人で鑑定させれば人件費が浮くんじゃないかと思ったり。

強制給餌 

 ところでフォアグラ。世界三大珍味の一角として有名ですが、ガチョウやアヒルなどに沢山の餌を与えることにより、肝臓を肥大させて作ります。その給餌のやり方は強制というか無理矢理で、動物虐待じゃないかという声もあり、EUでは生産・販売を禁止する動きもありますが、生産地を抱えるフランスは生産者保護に動いています。確かに酷いなあとは思うのですが、食べればやっぱりうまいからなあ(笑)。もちろん普段はお目にかかりませんが、たまに食べるとやはり旨いと言わざるを得ません。

キャビア 

 トリュフとキャビアは稀少ではあってもフォアグラのような無理矢理感はないので特に文句はつけられないようですが、基本が魚卵は苦手な私が美味しく食べられるのがキャビアで、基本キノコ類が得意でない私がその香りを楽しめるのがトリュフです。そしてレバー系もなるべき敬遠したい私がお喜んで食べるのがフォアグラ。……みんな旨いのがいけんのじゃ。フォアグラ味のレバーを作ってくれたらいくらでも食べるんですけどね。

トリュフ各種 

 ところで万能鑑定士Qの経営なんですが、依頼客で賑わっているのは結構なんですが、大抵鑑定でお金を取らないのはいかがなものか。莉子的には一目で偽者とわかった場合はお金を取りづらいらしいのですが、事務所の家賃だって払わなければならない訳だし、一目見るだけであっても一鑑定千円とか決めておけばいいのになあと思ったりして。まあ欲のなさが莉子のいいところではあるんですが。

モナリザの瞳 

 ちなみに2014年公開の映画版「万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-」は本作が原作ではありませんが、やはりパリに飛んでいます。

映画版の莉子と小笠原 

 キャストは莉子が綾瀬はるかで相方的存在の「週刊角川」の小笠原が松坂桃李。それはまあいいのですが、喜屋武先生はなんとアンジャッシュの大島一哉(児島だよッ!!)。どうなんでしょうその配役は。本作では莉子がすごすぎるせいでポンコツ気味に描かれていますが、本来は莉子の探偵的技能の最初の師匠ともいえる人なんですよね。中島さんじゃ(児島だよッ!!)ポンコツ過ぎやしないでしょうかね。

児島だよッ 

北海道幸せ鉄道旅15路線:北海道へのラブレター

ドラゴンクエストⅪ

 「ドラゴンクエストⅪ」が発売され、やろうかどうしようか悩みつつ、ついついゲットしてしまいました。3DS版です。「ドラゴンクエストⅩ」がオンラインゲームになったことで、「私のドラクエはⅨで終わりました」と言いふらしていたこともあってちょっと恥ずかしいのですが、買ったからにはやるのみです。復ッ活ッドラクエ復活ッッ

ドラクエ復活 

 本日は矢野直美の「北海道幸せ鉄道旅15路線」を紹介しましょう。矢野直美の著作は初めて読みました。そういう訳でまずは著者紹介から。

北海道幸せ鉄道旅15路線 

 矢野直美は1967年生まれで札幌市出身。札幌市のタウン誌「さっぽろタウン情報」の編集者を経て、1990年よりフリーライターになりました。自ら写真を撮って紀行文を書くというスタイルで、「フォトライター」という肩書きを使用しています。鉄道についての執筆活動を中心としており、鉄道好き女子、通称「鉄子」のパイオニア的存在として知られています。

矢野直美 

 「北海道幸せ鉄道旅15路線」は、2005年7月に北海道新聞社から刊行された「北海道幸せ鉄道旅」を改題し、加筆、改筆し再編集したもので、講談社文庫から2009年7月20日に刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 ガイドブックにない風景との出合いを求めた、約3年にわたる各駅停車の旅。「鉄子ブーム」のパイオニア的存在として知られる著者が、出身地・北海道の鉄道の魅力を旅情あふれる写真と文章でていねいに綴ります。廃止された「ふるさと銀河線」の貴重な写真を含め、15路線を徹底網羅。北海道と鉄道旅がもっと好きになる、旅のおともに最適の一冊です。

雪の鉄道 

 JR北海道って、JR九州と並んで特急に力を入れていた会社だと思うんです。それは住民の利用以上に観光客を集めたいという思いもあってのことだと思うのですが、最近でも元気に豪華寝台列車「ななつ星in九州」が人気を博しているJR九州に対し、JR北海道は寂れ気味。廃線も相次いでいますし、事故や不祥事も頻発していますし。

 本書は、北海道出身で北海道をこよなく愛する著者の、北海道にちゃんと好きと言いたいという気持ちから書かれたラブレターですが、もちろん愛の対象には北の大地を走るJR北海道の鉄道も多分に含まれている訳です。そして私も北海道ラブ。札幌は第二の故郷と呼ばせて欲しいほど好きです。

ルピナスとローカル線 

 実は先週こっそり札幌にショートトリップしたんですが、その際に持っていったのがこの本。見かけは結構厚い本ですが、写真たっぷりなのでボリュームはそれほどではありません。私も乗った釧網本線、根室本線、宗谷本線、石勝線などのほか、学園都市線といった観光客はあまり乗りそうにないマニアックな路線も紹介しています。

 著者は北海道の鉄道旅のベストシーズンを6月と2月だと言っています。6月は梅雨のない北海道ではまさにベストシーズン。暑くもないし、ライラックやらルピナスといった綺麗な花々も咲きますし。2月の方は雪真っ盛りで、住んだ身としては生活するには色々苦労がある頃だぜと思ってしまうのですが、鉄道旅に限って見れば一面の雪景色の中を走るというのは確かに美しいし北海道ならではの光景といえるでしょう。

黄昏の鉄道 

 注目されるのは、新千歳空港から札幌に入る人の多くが乗るであろう千歳線(快速エアポートにはお世話になりました)も紹介されていること。見飽きて面白いものなんかないじゃんなんて思いましたが、北海道愛に溢れる作者にかかれば“ああ、こんなに素敵な路線だったのか”と再認識してしまいます

 今回札幌在住時代にお世話になっていた床屋のおばちゃんを訪ね、およそ1年半ぶりに散髪して貰ったのですが、おばちゃんはやたらに東京がスゴイスゴイと言い張り、それに比べて札幌は…という自虐的なセリフを吐くのですが、私は快速エアポートが札幌駅に到着する寸前の札幌中心部の街並みが好きだし、札幌は自然と人工物のバランスが実にいいし人口の適当だと思うと言うとまんざらでもない顔でうなずいていたりします。言うても札幌ラブなツンデレなんですね。

カーブするスーパー白鳥 

 最後にお知らせがあります。当ブログ、しばらくの間お休みになります。ドラクエに専念する…という訳ではなく、いわゆる「一身上の都合」です。ご愛顧いただいている方々には申し訳ありませんが、再開を気長に待っていただければ幸甚です。お暇があった時にでもたまに巡視に来ていただければ、もしかしたら復活しているかも知れません。

民王:池井戸潤による政界の「転校生」?

隅田川花火大会2017

 今日の筑波嶺は30度を切っていて比較的過ごしやすいです。湿気は高めなんで動くとアツゥイ!んですけどね。昨夜はテレビで隅田川花火大会を見ましたが、雨の中開催を強行しましたね。数年前は開始後豪雨になってさすがに中止してましたが、あれほどではなかったということでしょうか。

民王 

 本日は池井戸潤の「民王」を紹介します。ポプラ社のWebサイト「ポプラビーチ」で2009年8年から連載され、「鉄の骨」で第31回吉川英治文学新人賞受賞した直後の2010年5月にポプラ社から単行本が刊行され、2013年6月7日に文春文庫から文庫本が刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です

民王単行本 

 「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか。目をさましやがれ!」漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足取りのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは!?一気読み間違いなしの政治エンタメ!

国会議事堂 

 総理大臣が二代続けて1年で辞任して、民政党幹事長だった武藤泰山が新首相に就任します。ところがどうしたことか息子のバカ大学生武藤翔と人格が入れ替わってしまいます。「転校生」かよ!いや古いか。「君の名は。」かよ!の方がうけるでしょうかね。

 総選挙の機運が高まっており、サミットも間近という情勢下、なんとか秘密を保ちつつ乗り切ろうとする泰山。翔を国会に向かわせ、自身は就職活動に臨みますが、バカの極みの翔はろくに漢字も読めず、泰山も就職活動で面接官を偉そうに論破しては不採用になるなど、お互い不調です。

衆議院本会議場
 

 そんな中、経産大臣の鶴田もそのバカ息子と人格が入れ替わってしまいます。そればかりか、野党第一党である憲民党の蔵本も娘のエリカと人格が入れ替わりますが、エリカは政治家志望の優等生だったせいかさほど破綻せず代役をこなしています。しかし、こんなに立て続けに人格が入れ替わるということは偶然とは思えません。防衛大臣に調査をさせたところ、米CIAが研究していた技術が流出した模様。何者が、何のために仕掛けたのか?

 泰山は彼なりの理想があって政治家になりましたが、政界の因習やら派閥抗争などに明け暮れた結果、当初の志はすっかり忘れてしまっており、翔はヤンキーっぽい性格で、政治には全く興味がなく、二留するなど勉強も苦手です。

就職面接

 どっちもクソみたいだなあと思えますが、入れ替わったことでお互いの立場や思いを知ることになります。泰山は翔の純粋さや正義感に気付き、翔も政界の因習やマスコミの愚かさに曝される苦労を痛感します。

 警視庁からやってきて人格入れ替わりの調査にあたる公安部警視の新田がいい味出しています。公務員とは思えないヤクザのような強面ですが、絶大な諜報能力と格闘能力を持っています。人格入れ替わりの調査も、泰山のためとか民政党政権のためではなく、日本に対するテロ行為として当たっており、人間的にも信頼感があります。

サミット写真

 ところで2009年という時期、二代続けて短期政権が続いたというあたりで、実際の政界の状況をモデルにしたことは間違いありません。泰山は秋葉原で人気という設定もあり、明らかに自民党が下野する直前の首相、麻生太郎がモデルなんだろうと思われます。ということは蔵本はハトポッポか。

 ドタバタ劇の中、お互いマスコミや面接官相手に本音をぶちかました泰山と翔ですが、泰山は翔の第一志望の企業で最終面接にまで進み、翔はスキャンダル追及に終始するマスコミに、そんなことばかりやっているから国民がバカになるんだと啖呵を切ります。
主演者二人と池井戸潤 

 最終的には新田らの捜査によって事件のからくりが発覚し、二人の人格は元に戻ります。女子大生との合コンに浮かれてマイウェイを熱唱していた途中の泰山はアメリカ大統領の前で元の身体に戻りますが、大統領がマイウェイが大好きだったことで好評を得てしまい、翔も第一希望の企業から内定を取り付けます。

 そして法案成立と同時に衆議院を解散して総選挙に臨む泰山。結果はどうなったのかまでは書かれていませんが、現実世界では政権が交代し、新風に期待した国民を裏切りまくって暗黒の3年間が続くことになりました。せめてフィクションの中ではもうちょっと明るいといいですな。

民王テレビドラマ版 

 2015年7月から9月にかけ、テレビ朝日系でドラマ化されました。泰山は遠藤憲一、翔は菅田将暉が演じました。もちろん視聴していません(キリッ)が、ドラマ化されたから誰かが図書館にリクエストしたんだろうなと思います。筑波嶺の図書館の本、読後調べると映画化・ドラマ化というパターンが多いのですが、ミーハーなリクエストがされているんでしょう。嫌いじゃないですけどね。

続編とスピンオフ 

 テレビドラマ版は平均視聴率7.1%でしたが、ゴールデンタイムではなかったので苦戦という訳でもないでしょう。内容への評価は高く、オリコンの「コンフィデンス・ドラマアワード」で第1回作品賞・主演男優賞など4部門、放送批評懇談会ギャラクシー賞の9月月間賞、ザテレビジョンドラマアカデミー賞で最優秀作品賞など4部門などを受賞しました。その結果、2016年4月15日にその後を描いたスペシャルドラマ「民王スペシャル~新たなる陰謀~」、4月22日には泰山の秘書である貝原茂平が主役の「民王スピンオフ~恋する総裁選~」が放送されました。

選挙ポスター風メインキャスト 

万能鑑定士Qの事件簿Ⅳ:「催眠」シリーズ主人公・嵯峨敏也登場

大暑です

 本日大暑。曇天で暑さはやや控えめでしたが、これまでもう充分暑かったですからね。しかーし、これから立秋までが暑さのピークと言われます。しかし関東あたりでは処暑の頃までピークが続くような気がします。暦の上では秋とかいってもそんなの関係ねえ!というのが関東の夏のやり方。処暑を過ぎたら涼しいかといえば、別にそういう訳でもないのですが、日が徐々に短くなってくるのが救いですね。

大暑が来ると言うことは 

 本日はまたまた松岡圭祐の「万能鑑定士Qの事件簿Ⅳ」。ⅠとⅡの頃は春だった東京は、Ⅳでは初夏になっています。ということで、一連の事件はわりと短期間に起きているんですね。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

万能鑑定士Qの事件簿Ⅳ 

 希少な映画グッズのコレクターの家が火事になり、プレミア品の数々が灰になった。翌朝、やはりレア物のパンフレットやポスターを扱う店が不審火で全焼する。連続放火魔の狙いは、かつて全国規模でヒットを飛ばしながら存在を封印された1本の邦画だった。ミリオンセラー『催眠』の主人公、カウンセラー嵯峨敏也が登場、凜田莉子との初顔合わせを果たす。頭脳明晰な異色コンビが挑む謎とは? 書き下ろし「Qシリーズ」第4弾!

 ノストラダムスの大予言 ポスターその2

 ということで、狙われているのは1974年公開の東映のトンデモ特撮映画「ノストラダムスの大予言」のポスターでした。1974年の邦画部門の興行収入第2位で、まさかの文部省(当時)推薦映画でもありました。

ノストラダムスの大予言

 原作となっている五島勉の「ノストラダムスの大予言」は、1973年に祥伝社から発行されてベストセラーになり、、1999年7の月に人類が滅亡するという解釈を掲載したことにより、実質的に日本のノストラダムス現象の幕開けとなりました。「ちびまる子ちゃん」でもノストラダムスショックの話がありましたが、私も友人達とコワーイコワーイと騒いだ記憶がありますが、翌日から何事もなかったかのように日常生活を送ったような気がします。子供にとって20数年語というのはあまりに遠かったのかも知れません。

ノストラダムスの大予言 ポスター 

 前年の「日本沈没」の大ヒットを受けて東宝が製作したパニック映画の第二弾で、原作からはかなり離れたフィクション脚本による娯楽性の高い作品となっています。劇中、ニューギニアの原住民が被曝して食人鬼化して探検隊に襲いかかるシーンや、核戦争で滅亡後の世界に放射能で異形の姿となった新人類が描かれていますが、これが実際の原爆症による奇形をデフォルメしたものではないかと取り沙汰され、被爆者団体や反核団体から抗議を受けました。その影響でビデオ化やDVD化はされていませんが、完全ノーカット版の海賊版ビデオが出回った他、海外では"Last Days of Planet Earth" または "Catastrophe 1999" というタイトルで公開され、ビデオソフトやLD、DVDなどが発売されており、比較的容易に入手可能だったりします。

ルパン三世 念力珍作戦 

 ちなみに同時放映は「ルパン三世 念力珍作戦」。ルパン三世を目黒祐樹、次元大介が田中邦衛、峰不二子を江崎英子、銭形警部を伊東四朗が演じるという。「念力珍作戦」は、「何か時代性のあるタイトルにしろ」という東宝側の指示で、当時流行していた超能力ブームにかこつけてスタッフがつけたもので、内容とは特に関係ないようです。ルパンがワルサーP38ではなくワルサーPPKを使用しているなど、なかなか香ばしい作品のようです。

catastrophe1999.png 

 「ノストラダムスの大予言」のポスターは映画が封印状態になったこともあり、好事家の間ではかなりの高値になっているということですが、それを狙った連続放火事件が発生します。莉子は映画マニアが保険会社から保険金を受け取るためにポスターの価値の鑑定を依頼され、嵯峨は警察から犯人の心理状態などの分析を依頼されます。この二人が出会い、共に行動したら事件はたちどころに解決…と言いたいところですがそう簡単にはいきません。

ニューギニアの食人鬼 

 嵯峨と莉子、警察が見張って密室状態なのに燃やされるポスター。持ち主がちょっと目を離した隙に持ち出され、燃やされるポスター。そして持っていることを知られていないはずなのに燃やされるポスター。単独犯ではないことは明かですが、どうやってポスターの在処を探知しているのか。そして何のために焼いているのか。

新人類 

 そして莉子が辿り着いた結論。犯人は…まさか嵯峨なのか!?オチは読んでいただくとして、わかってみれば確かに色々と思い当たる節があります。どんなミステリーを読んでいてもそうなんですが、その時はスルーしてしまうのですよね。その辺りが探偵になれるかファンにとどまるかの瀬戸際なのかも知れませんが、莉子には探偵の才能がありますね。ここまで、犯人は莉子を恨むどころか、出逢えて良かったと思うばかりです。莉子が美人だからということもないわけではありませんが、なによりも莉子の心の清らかさが犯人を浄化しているようです。私も出逢いたいものですね、心が清らかな美人さんに。

莉子の浄化イラスト 

万能鑑定士Qの事件簿Ⅲ:凜田莉子歌手デビュー?

猛暑でぐったり

 梅雨が明けて猛暑襲来…というところなんでしょうが、とっくに来ていた猛暑。空梅雨でマイッチングな訳ですが、猛暑を防ぐ科学というのはないんでしょうかね。「こうすれば涼しい」といった対症療法ではなく、抜本的に猛暑を防ぐようなヤツ。SFには天候を操る気象兵器なんてのが登場しますが、その平和利用的なのが欲しいですね。

万能鑑定士Qの事件簿Ⅲ 

 本日は松岡圭祐の「万能鑑定士Qの事件簿Ⅲ」を紹介しましょう。「催眠」「千里眼」と彼のシリーズの第一作は読みましたが、続けて読みたくなったのは万能鑑定士シリーズのみ。モデルのように美人だけど天真爛漫で、まるで沖縄の海のように清らかな心の持ち主の凜田莉子は素敵ですよね。恋愛要素とかいらんのですけど、雑誌記者小笠原とくっついてしまうのでしょうかね。

 ⅠとⅡは凜田莉子の人となり、そしてかなりお馬鹿な波照間島の純真女子校生が万能鑑定士になるまでが描かれていましたが、ここからが本当の事件簿という感じでしょうか。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

お馬鹿だったJK時代の莉子 

 人気ファッションショップで、ある日突然、売り上げが落ちてしまう。いつも英語は赤点の女子高生が、東大入試レベルのヒアリング問題で満点を取る。この奇妙な事象をともに陰で操っていたのは、かつてミリオンセラーを連発した有名音楽プロデューサー・西園寺響だった。借金地獄に堕ちた彼は、音を利用した前代未聞の詐欺を繰り返していた。凜田莉子は鑑定眼と機知の限りを尽くして西園寺に挑む。書き下ろし「Qシリーズ」第3弾!

 西園寺響…あからさまにモデルは小○哲○ですね。90年代に一大ブームを築き上げ、数々のミリオンセラーやヒット曲を打ち立て、各メディアにおいて「小○ファミリー」「小○サウンド」「小○系」といった名称でカテゴライズされる社会現象を起こしたあの人です。

小○ファミリー 

 その小○とは別人のはずの西園寺ですが、独立やブーム消滅、離婚などで財産はなくなって借金地獄。ですが、もう一度スターダムに登るという夢(というか妄執)に囚われ、なお熱狂的ファンでいてくれる40代の男女(バブルを引き摺ったまま時代の変化を拒絶している)をも手駒&金づるにしています

 発端は、飯田橋のコンサバファッションのブティックで突如売り上げが急落し、売り上げの35%を振り込めば元に戻るという脅迫まがいの電話が来たことから。牛込警察署に相談したものの相手にされず、「週刊角川」が取り上げた、流行っていたはずの店が突如閉店するという「ストアシック症候群」の記事を見て記者の小笠原に接触します。実はその記事は海外記事の翻訳だったのですが、それなら頼りになる人がいるということで、凜田莉子が紹介されます。

高級ブティック 

 莉子はすぐに原因を突き止めます。JASRACに金を払いたくないために、著作権フリーのBGMを無料で配信しているサイトが、咳やくしゃみの音を送り込み、ハース効果で客が寄りつかなくなる、すぐに立ち去るという現状を自然に起こしていたのです。

 ハース効果とは、①同じ音が②複数の方向から③同音量で、音が発せられたときに、最も早く到達した音の音源の方向からすべてが聞こえているように感じてしまう現象のことです。左右同時に音を発した場合は、その中間点から音が聞こえたように感じます。店の中央付近にいた客は、自分のすぐそばに咳やくしゃみを聞くことになり、風邪やインフルエンザを忌避して思わず立ち退いていたというのが真相でした。

ハース効果 

 それとは別に、私立神楽坂学園高校では、出席日数が足りない美人JKを卒業させろというモンペチックな親に対し、担任の英語教師がテストで高得点を取ったら認めるということにします。教師だけが利用出来る、毎日ヒアリング問題を無料で提供するサイトからランダムに選択して作ったヒアリング問題を出題しますが、なんと満点を取るJK。東大レベルの問題も入っていたのになぜ?これも莉子が早稲田の氷室准教授の協力を得て、正解のセンテンスにモスキート音が入っていたことを突き止めます。

モスキート 

 モスキート音は、鬼の哭く街・A立区の公園に導入されたことで有名ですが、小型スピーカーから17キロヘルツという、非常に高周波数のブザー音を流すもので、20代後半以降の者には気にならない者が多いですが、聞こえる者にとっては、かなり耳障りであり、強く不快に感じる者も出ます。先生はおっさんなので聞こえませんでしたが、若いJKは聞き取って、モスキート音がした選択肢をチェックして満点をとっていたのです。

A立区の公園 

 この両方のサイトとも、巧妙に尻尾を出さないようになっていましたが、警察にも協力していた自称「サウンドコンシェルジェ」西園寺が浮上してきます。これら以外にも様々な詐欺まがいな手法を駆使して小金を集めては再起を期す西園寺。元歌手で妻の如月彩乃も心配する中、誰にも計画を知らせずに謎の行動を取る西園寺を莉子は止められるのか?

津波の被害に遭ったアチュ州 

 インドネシアまで飛んだり(ⅠとⅡの沖縄行きと同じで空振りですが、結果的には役に立つ)と、相変わらず人のためにとことん尽くす莉子。鑑定士の商売の方でちゃんとご飯食べていけるのか心配になりますが、単に美人なだけではなく、どこまでも心が綺麗なのが莉子の魅力。途中西園寺にスカウトされて自宅に連れて行かれたり、その後謎のリムジンに拉致まがいに連れ去られたりと、頭は切れるけど腕っ節の方はからっきしであろう莉子危うしな展開もありますが、幸い西村寿行流ハードロマンな展開はありません。というか、莉子には暴力沙汰は似合わないですけどね。莉子だけは勘弁してやってつかあさい。

リムジン 

 ことごとく計画を莉子に邪魔される西園寺は、最後には思いあまって莉子の毒殺を示唆します。二人は高級料亭で食事をしますが…。万能鑑定士の名に恥じない博覧強記ぶりで自分の安全保障まで確実にしている莉子に、西園寺もかたなし。一緒に花火を見て綺麗綺麗と素直に喜ぶ莉子にはきっと西園寺も毒気を抜かれたことでしょう。前作の犯人もそうですが、莉子にはそういう力があるんですね。 

高級料亭 

 ところで「催眠」も「千里眼」もそうでしたが、松岡圭祐は各章にサブタイトルをしっかり記載する人ですね。各章にサブタイトルを付ける作家は珍しいわけではありませんが、280ページくらいの本作にはなんと30章もあって、全部サブタイトルが付されています。これぐらい細かくサブタイトルを付ける作品とえば、昔読んだ、子供向けに改筆・圧縮されて翻案作品となったホームズシリーズややルパンシリーズを思い出しました。そのあたりのテイストを狙っているんでしょうかね?

旅する胃袋:食を楽しめればどこでも楽園

言うまいと思えど今日のアツゥイかな

 言うまいと思えど今日の「アツゥイ!!」かな それにしても暑いですね。土曜日が暑かろうが寒かろうが雨が降ろうが雪が降ろうがウォーキングには行くのですが、暑さのダメージはことのほかです。今までは水をがぶ飲みしてから歩きに出て、中間地点あたりの自販機で水かスポーツドリンクを買うのですが、先週辺りはもう往路でバテ気味になったので、初めての試みとして最初からペットボトルを持って出てみました。

いろはす 塩とレモン 

 経口補水液にしようと思ったけどスーパーになかったので、「いろはす 塩レモン」を買ってみたのですが、なかなかよかったですね。最初から給水しながら歩くと、いつもよりバテなかったような気がします。 
 
旅する胃袋 

 本日は篠藤ゆりの「旅する胃袋」です。篠藤ゆりの作品は初めて読みましたので、例によって作者紹介からです。

篠藤ゆり 

 篠藤ゆりは1957年生まれで福岡県出身。国際基督教大学(ICU)卒業後、コピーライターとして広告代理店に勤務しましたが、5年後に退社。その後、世界各地を旅する生活を経て、1991年「ガンジーの空」で海燕新人文学賞を受賞しました。

海燕 

 海燕新人文学賞は、福武書店(現ベネッセコーポレーション)が発刊していた文芸雑誌「海燕」の新人文学賞で、1982年から1996年まで続きました。「海燕」は埋もれている才能の発掘に力をいれていた文芸雑誌でしたが、文芸雑誌全体の不振のなかで部数を減らし、末期には実売部数よりも新人賞の応募者数のほうが多いとさえ揶揄されるほどの不振に陥り、廃刊となりました。

吉本ばななのキッチン 

 海燕新人文学賞の受賞者には、私が知っているところでは、吉本ばなな(「キッチン」で1987年受賞)、小川洋子(「揚羽蝶が壊れるとき」で1988年受賞)、角田光代(「幸福な遊戯」で1990年受賞)らがいます。

単行本版旅する胃袋 

 以後、おもに旅と食のエッセイを雑誌等で執筆しています。「旅する胃袋」は2002年7月に単行本がアートンから刊行され、2012年7月5日に文庫版が幻冬舎文庫から刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

漢口 

 標高4000メートルの寺でバター茶に癒され、香港で禁断の食材を味わい、砂漠で人生最高のトマトエッグスープに出会う――。食に対してずば抜けた好奇心を持つ著者が、強靭 な胃袋を通して世界に触れた11の風味豊かな旅。「美味しいっ」と言う旅人に、土地の人はこんなにもあたたかな顔を見せてくれる。世界の美味が楽しめるレシピ付き。

パキスタン フンザ 

 紀行文学は気軽なのでいろいろ読んできましたが、食事に焦点を当て、さらに美味しい物ばかり食べているのは本作が白眉ではないでしょうか。まずい食事遭遇編なら「洗面器でヤギごはん」(石田ゆうすけ)なんて作品もありますが。

タイのアカ族 

 1979年、まだ大学生時代にタイ経由でインドに旅をしたのを皮切りに、2000年までに中国、パキスタン、タイ、香港、ブラジル、ミャンマー、モロッコを旅し、各地でおいしいものを食べまくっています。

サンパウロ 

 世界各国、どこに行ってもその地の民族の文化や歴史に根ざした料理があるのは当然ですが、旅行者がそれを美味しいと感じるかどうかはまた別問題です。ゲテモノにしか見えないものもありますし、当初は美味しく食べられても、次第に味に飽きたり、香辛料や油に辟易し始めたりするということはよくあることです。

インド レー 

 篠藤ゆりは、冒頭に“人並みはずれて丈夫な胃腸と、どんな過酷な旅にも耐えられる頑強な肉体を私に与えてくれた両親に、感謝の気持ちを込めて”と書いていますが、この人は世界のどこに行っても食あたりに合わず、美味しい美味しいと現地の食べ物を食べまくっています。

アトラス山脈 

 日本人だって、外国人が日本の食べ物を美味しい美味しいと食べているのを見れば悪い気はしないですが、それは外国人だってそう。異郷から来た日本人が日常食べているものを美味しい美味しいと称賛して貪り食い、そればかりかレシピを教わりたいと言ってくれば、よほど偏屈者でもない限り好意的に接してくるというものです。

なじむ 実になじむぞ 

 インドにはまった中谷美紀は、南インドでココナッツオイルにどうしてもなじめず苦労していましたが、篠藤ゆりにはそういう問題は全くなし。イスラム圏なのに酒を入手したり、ヘロインシンジケートの村に長逗留したり、どこへ行っても食や環境になじんでいきます。この適応力…もやは旅人になるために生まれてきたかのようです。

香港夜景 

 タイ料理やインド料理は、今となっては日本でも案外手軽に本格的なものを食べられるようになっていますが、篠藤ゆりが初めて海外旅行に行こうとした頃はまだまだそういう店はあまりありませんでした。でもそんな中にあってもインドやタイで暮らすなら、辛い料理に耐えられないとダメだとトライしまくったという冒頭の話が笑えますが、そういう意識の高さ(褒めてます)が、後年世界のどこに行っても当地の料理を愛し、それゆえに現地人に愛されるという好循環を作り上げることに寄与したのではないかと思います。

ラジャスタン 

 私の場合、篠藤ゆりのように辺境には行ったことは無く、まあまあメジャーな場所ばかり攻めていますが(この人も行っていないであろう超マイナーなエリアに行ったこともあることはありましたが)、まあまあ現地の食べ物には適応できていましたね。でもそれは短期間だったからかなあとも思います。

エーヤワディー川 

 紀行文を読むと旅はいいなあ、また行きたいなあと思ったりもしますが、しかし個人的大航海時代(海外旅行時代)はもう終わったなあという思いもあります。昔はあれほどワクワクした海外旅行が、今や面倒くさいなあという気持ちの方が先行するようになってしまい。国内旅行は面倒がないので、そっちの方が良くなったというのは、やはり年を取ったからなんでしょうかね。元気な人は年を取っても海外に出かけてますが。

砂漠の夜 

春期限定いちごタルト事件:“小市民”たらんと願う“狐”と“狼”

逃げ水出てくる

 オイオイオイ!これだけアツゥイ!!でまだ梅雨が明けてないの?てゆ~か~暑くなるのが早すぎるんですけど~。なんか口調がギャルというかオネエみたいになってますが、みんな暑さが悪いんじゃ。

RWBY アウト 

 それはそうと、夏季アニメ「RWBY Volume 1-3: The Beginning」は1話切りです。今季は視聴打ち切りがなければいいなあと思っていたんですが、カッとなって打ち切った。今も後悔していない。アメリカ製アニメで吹き替え声優陣は豪華なんですが…。声優はキャラに命を吹き込む存在。そういう認識は今も変わりませんが、アニメである以上絵もまた重要なんだということを再認識しました。見続ければ慣れるのかも知れないですが、アメリカンスタイルな会話もちょっと。

賭ケグルイ イン 

 代わって「賭ケグルイ」を追加。「RWBY」ははやみん枠でしたので、やはりはやみん主演の「賭ケグルイ」を見れば枠は埋まるということで。キャラの顔芸の凄さもさることながら、はやみんの狂気を滲ませた演技が実にいいですね。こういうはやみんを見たかった。ところで「シグルイ」とタイトルが似ているけど、関係あるんでしょうか。「ぬふぅ」「なまくらと申したか」「ごゆるりと」「む~ざんむざん」…なんか当てはまりそうで怖い(笑)。

春期限定いちごタルト事件 

 本日は米澤穂信の「春期限定いちごタルト事件」を紹介します。テレビアニメ「氷菓」を見てたせいか初めてとは思えないのですが、実は米澤穂信の作品は初めて読みました。よって例によって作者紹介から。

米沢穂信 

 米澤穂信は1978年生まれで岐阜県出身。物心ついた頃から漠然と作家を志望していたそうで、中学生のころから小説を書き始めました。金沢大学文学部の2年時から、ウェブサイトでネット小説サイト「汎夢殿」(はんむでん)を運営し、作品を発表し始めました。当初は各種エンターテイメント作品を書いていましたが、「六の宮の姫君」などの北村薫のミステリー作品に衝撃を受けたことから、ミステリーへの傾斜していきました

六の宮の姫君 

 大学卒業後、岐阜県高山市で書店員をしながら執筆を続け、2001年に「氷菓」で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞してプロ作家デビューしました。当初は「氷菓」をはじめとする「〈古典部〉シリーズ」や、「春期限定いちごタルト事件」をはじめとする「〈小市民〉シリーズ」といったラノベテイストの青春ミステリと呼ばれるジャンルにおいて、「日常の謎」を扱った作品を主に発表していました。

小説版氷菓 

 その後、2010年発表のファンタジーテイストを取り入れた本格推理小説「折れた竜骨」で日本推理作家協会賞を受賞し、2014年には短篇集「満願」で第27回山本周五郎賞を受賞しました。直木賞候補には2度なっていますが、まだ受賞は果たしていません。

折れた竜骨 

 「〈古典部〉シリーズ」は、2012年に「氷菓」というタイトルで京都アニメーション制作により2クールにわたってアニメ化され、人気を博しました。これによって米澤穂信の名は私などアニメファンにも知れ渡るようになりました。「氷菓」はぜひ続きも見たいんでよろしくお願いします。

満願 

 「春期限定いちごタルト事件」は、2004年12月24日に創元推理文庫から刊行されました。先述のとおり「〈小市民〉シリーズ」の第一弾です。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

アニメ版氷菓 

 小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。 

 高校合格

 そこそこの難関公立校である船戸高校に合格した小鳩常悟朗と小佐内ゆき。中学で知り合った二人はよく一緒にいますが、恋人同士という訳ではなく、共に小市民たらんとして相互互恵関係を結んでいます。

小市民 

 小鳩常悟朗は頭の回転が良くて問題事を推理したがる性格でしたが、中学時代にそのせいで苦い経験をし、もうしゃしゃり出ずに静かに暮らしたいと願うようになりました。小佐内ゆきは、恨みに対して執念深く復讐するという厄介なタイプだったようで、詳細は不明ながらやはり中学時代にそれを封印することを決意して小市民たらんと願うようになりました。そんな二人が小市民生活のために互いを利用し合い、庇い合うつもりでしたが、平凡かつ平和な高校生活を求めながらも日常の中で発生する事件の謎についつい挑んでしまう様子が描かれています。

狐と狼 

 本作は5編の短編(+プロローグとエピローグ)からなる連作短編で、高校合格直後から中間試験終了後まで、すなわち一年生の一学期半ばまでの出来事が綴られています。終始語り手は小鳩常悟朗で、小佐内ゆきの内心についてはブラックボックス状態となっています。

赤いポシェット 

 「羊の着ぐるみ」は女子生徒のポシェットを探す話。探偵はやめたんじゃないのかとツッコミたくなりますが、小鳩の小学校時代の同級生で、高校でまた一緒になった堂島健吾に頼まれたのでした。堂島は小生意気に事件に嘴を挟みまくっていた小鳩を知っており、嫌な奴だと思いながらもその推理力を認めていましたが、高校で再会した小鳩については、腹に一物を抱えて性質が悪くなったと否定的に見ています。小鳩の方は小市民でいたいだけなんですが、全く小市民とはかけ離れていた過去を知られているのは彼にとって困ったことですね。小鳩と小佐内ゆきは一緒に探していた男子生徒の奇妙な行動からあっさり真相を見抜きますが、小市民らしくそれは伏せておきました。

いちごタルト 

 「For your eyes only」は新聞部に入った堂島がもってきた奇妙な話でした。美術部の卒業生が2年前に書いた絵の謎を解くというものですが、絵のタイトルを聞いたらそれがなんなのかあっさり判明してしまいます。ただ、推理した結果が中学時代同様、感謝される形ではなかったことから、やはり小市民で行こうと決意を新たにするという。その傍らで、小佐内ゆきは、あまり偏差値が高くないらしい水上高校のサカガミという不良性とに、春期限定いちごタルトを籠に入れたままの自転車を盗まれてしまいます。

小佐内ゆきの自転車 

 「おいしいココアの作り方」は美術部の謎を解いた例と言うことで堂島の家に招かれた小鳩と小佐内ゆきが美味しいココアをご馳走になる話。それだけでは全然謎ではありませんが、堂島の姉・千里が乾いたままのシンクを見て、三つのカップだけでどうやってココアを作ったのか首を捻っているのを見て、その謎を解くことになります。堂島の作り方は、ココアの粉を少量のホットミルクで溶いてペースト状にしてから新たにホットミルクを注ぐことで粉っぽさを解消するというもので、カップの他にホットミルクの容器が必要なのですが…。謎が解けると非常にしょうもなかった(笑)。そもそも堂島は謎を仕掛けているわけでもなかったし。

バンホーテンココア 

 「はらふくるるわざ」。中間試験中、最後の科目「理科Ⅰ」のテスト中、小佐内ゆきのクラスでは突如栄養ドリンクの瓶が落下して割れるというハプニングがありました。そのせいで回答をど忘れしたとお冠のゆきは、暗に小鳩に謎を推理するよう迫りますが、小鳩は推理しつつも、それは小市民としての生き方に反するとしてわざとすっとぼけます。約束違反になるのではっきり推理を依頼できないゆきはケーキバイキングでウサをはらします。確かに言いたいことを言えないのははらふくるるわざですね。

ケーキバイキング 

 「孤狼の心」は、「For your eyes only」でサカガミに盗まれたゆきの自転車を発見する話ですが、なんとぞんざいに扱われた上に車に轢かれて無残な様に。何にも悪いことをしていないのにと怒り心頭のゆきは、過去の「狼」だった頃の自分に戻って復讐を企図します。なんとか止めようとする小鳩でしたが…。ちっちゃくて人見知りでおどおどした小動物系の女の子…のように見えるゆきでしたが、それは小市民たらんとして作られた仮初めの姿だったんですね。小鳩に言わせれば自分が狐ならゆきは狼なんだとか。おっかないなあゆき。そしてどうして狼をやめようと思ったのか知りたいですね。推理物としては一番本格的で、復讐を果たしつつ謎も解いて社会正義も守るという言うことなしの結果なのですが、結果やはり小市民たらんと改めて誓う小鳩とゆき。

やる気のかけらもない折木奉太郎 

 「氷菓」の主人公で探偵役の折木奉太郎も「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」をモットーとする省エネ主義者で、やる気をみせないキャラでしたが、彼もそうなるにあたっては過去に何かあったんでしょうね。アニメでは描かれていなかったけど。

氷平線:愛しの北海道の“暗黒面”

七夕といえば天の川

 昨日は七夕で、例年梅雨の真っ最中で天気が良くないのですが、今年はわりと良かったような。願うならば、九州の豪雨を半分なりと引き受けたいところなんですが。

氷平線 

 本日は桜木紫乃の「氷平線」を紹介しましょう。桜木紫乃の作品は今回初めて読みましたので、令によって著者紹介からです。

桜木紫乃 

 桜木紫乃は1965年4月19日生まれで北海道釧路市出身。現在は札幌市に隣接する江別市に在住です。中学生の頃に文学に目覚め、高校卒業後に裁判所でタイピストをしていましたが24歳で結婚退職し、専業主婦になりました。2児出産後に小説を書き始め、2002年に本書収録の「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞しました。

ラブレス 

 水平線ならぬ「氷平線」は2007年の短編集で、単行本デビュー作でもあります。2013年に「ラブレス」で第19回島清恋愛文学賞、そして「ホテルローヤル」で第149回直木三十五賞を受賞しました。ちなみにホテルローヤルは父の開業したラブホテルの名前だそうです。

ホテルローヤル 

 ゴールデンボンバーだそうで、直木賞受賞の記者会見ではメンバーの鬼龍院翔が愛用しているタミヤロゴ入りTシャツを着用したそうで、後にラジオ「鬼龍院翔のオールナイトニッポン」で鬼龍院翔と初対面も果たしたそうです。

鬼龍院翔と桜木紫乃 

 作品のほとんどが北海道、特に釧路市近辺を舞台としているということで、直木賞受賞を機に2013年9月25日、釧路市観光大使に任命されています。「新官能派」のキャッチコピーでデビューした、性愛文学の代表的な作家ですが、描写は過激ではなく、人間の本能的な行為としての悲哀に満ちた描き方をしています。

単行本氷平線 

 「氷平線」は2007年11月に文藝春秋から刊行され、2012年4月10日に文春文庫から文庫版が刊行されました。「雪虫が」が2002年の作品なのに単行本が5年も後になって刊行されているのは、文庫版解説によると寡作だった訳ではなく、書いても書いても雑誌に掲載されないという不遇の時代があったからだそうです。本書では冒頭の「雪虫」と「海に帰る」以外は描き下ろしとなっています。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

氷平線の彼方 

 真っ白に海が凍るオホーツク沿岸の町で、静かに再会した男と女の凄冽な愛を描いた表題作、酪農の地を継ぐ者たちの悲しみと希望を牧草匂う交歓の裏に映し出した、オール讀物新人賞受賞作「雪虫」ほか、珠玉の全六編を収録。北の大地に生きる人々の哀歓を圧倒的な迫力で描き出した、著者渾身のデビュー作品集。

札幌大通公園周辺 

 北海道といえば私も2年ほど暮らしまして、すっかり北海道ラブで、札幌ロスに今も尚苦しんでいるところなんですが、桜木紫乃の描いた北海道は、私が見てきたライトサイドとは全く異なるダークサイドです。まあ札幌の集合住宅に短期間住んだリーマン風情には判らない深層を、北海道が秘めているのは当然でしょう。

十勝平野 

 「雪虫」。日高山脈の東の十勝平野の牧場から札幌に出てきて不動産会社を始めた達郎は、高校のクラスメイトだった四季子と深い仲になっていましたが、弟の死により実家を継ぐために四季子が十勝に戻って結婚し、その二年後、達郎もバブルが弾けた影響で破産し、すごすごと実家に戻ったのでした。婿を迎えて人妻となり子供を産んだ四季子ですが、戻ってきた達郎とはまた関係が再会され、要するに不倫関係を続けていましたが、いつまでも結婚しない達郎に業を煮やしたパパンは、女衒と契約してフィリピンからじゃぱゆきさんを迎えます。

根室明治公園のサイロ 

 まるで中学生のようなマリーはろくに日本語も話せず、コミュニケーション不全のままの達郎は再び四季子との不倫関係を再開しますが…。そもそも勝手に嫁取りを進めるなとはねつければいいようなものですが、尾羽打ち枯らしてすごすごと実家に戻った達郎にでかい態度が取れるはずも無く。しかし平成の世になっても女衒とかいるんですね。300万円で買われたマリーが可哀想ですが、まあなんとか関係が深まりそうな希望が生まれたところで終了します。それにしても入り婿とはいえ、四季子の夫がよく黙っているなあと思います。そのうち包丁持ってやって来そう。エッチ描写もありますが、牧草の匂うに満ちていて、不倫なのに官能的というより健康的です。

釧路の霧 

 「霧繭」。釧路の和裁師真紀は、38歳にして師匠である千代野の後継者となります。病に倒れた千代野は、最後の弟子であるやよいを真紀に託します。自分がそうして貰ったように、やよいを一人前にしなければと思う真紀ですが、感情表現が下手同士でぎくしゃくしがちな日々。真紀は釧路の呉服屋「かのこ屋」専属となりましたが、実はかのこ屋の顧客部長山本と関係を持っています。しかし山本はかのこ屋の女将ともつきあっていた過去があり、なおも切れていない様子。仕事と恋と、どっちを選ぶのか?

和裁士 

 仕事をする女性は素敵だなあと思います。特に一流の腕を持っていて充分に自活できる人であればなおさら。あなたに男なんていりませんよと言ってしまっては失礼になるでしょうか。でも和裁にひたむきな真紀は本書で一番素敵に見えます。

牧草を刈る 

 「夏の稜線」。東京から十勝平野の牧場農業実習にやってきた京子は、そのまま牧場に嫁ぎましたが、楽しく過ごしたのは最初の一年だけ。あとは姑のタキやそのいいなりの夫に悩まされる日々を送っています。テンプレな嫁姑問題ではありますが、東京から来た京子は近隣の集落の人々ともうまく打ち解けられていません。いつも「東京者は…」という目で見られ、プライバシーもなにもない生活です。

牧場はのどかだが 

 最初の子が女児だったこともあり、男を産め産めという農家特有の攻撃を受け続ける京子。しかしある日ふと気付きます。東京には実家があることを。本作では京子だけが生粋の北海道人ではない主人公ですが、娘と逃げるのも無理はないかなあと思います。別に北海道の姑がタキみたいなのばかりではないのでしょうけど、一見広大で清々しさすら感じる牧場生活も、一皮剥けばいろいろあるんですねえ。イメージだけで憧れるとえらい目に遭うかも。

釧路市 

 「海に帰る」。師匠の後を継いで釧路で理髪店を始めた圭介。出だしは「霧繭」の真紀みたいですが、圭介はまだ25歳。趣味はコーヒーを入れることと商売物の剃刀や鋏を研ぐことという、極めてエコノミーな若者です。独立開業後、初めての客は水商売の絹子でした。圭介の腕と若さに惹かれたか、頻繁にやってくる絹子と圭介はすぐにわりない仲になりますが…

理容師 

 圭介は若いだけに7歳も年上の絹子の身体に溺れていき、絹子が来ない夜は悶々とするようになっていきますが、絹子も「夜の女」としての生活があり、さらにはどうやら夫がいるようでもあります。美しい年上の女性に翻弄されるというのはある意味男の一つの夢ではありますが…一言だけ言わせて貰えばなぜ避妊しないのだ圭介(笑)。なおラブホテルを開業する前、桜木紫乃の実家は理容室だったそうです。だから理容室の描写はお手の物なのか。

女性歯科医 

 「水の棺」。釧路の歯科医院に勤める良子は35歳。30歳の時に院長の西出にスカウトされ、あれよあれよという間に抱かれて愛人のような関係に。同僚というか部下の形の衛生士達は良子のことをすっかり院長の情婦だと思っています。5年経っても結婚という動きもないまま、閉塞状態の良子は、オホーツクの町で歯医者を募集していることを知り、これまでの関係を清算しようとこれに応募して独立していきます。

冬の摩周湖 

 西出医院は保健のきかない高額治療をしきりに勧める歯医者でしたが、オホーツクでは可能な限り保険診療に努める良子。その良心的な姿勢のせいで人気も上々、患者も良く来て魚介類を差し入れられたりします。そんなある日、連絡もなくやって来た西出は、不健康に痩せていましたが、関係を再燃させることもなく去って行きました。直後、西出が脳梗塞で倒れたという知らせが。高額診療が攻撃され、悪評から火の車になった西出医院は廃業を余儀なくされますが、良子は西出を伴ってオホーツクに向かいます。歯科医院経営にギラギラしていた西出ですが、元愛人にして部下だった女性に養われることをよしとするんでしょうかね?

岩見沢駅 

 「氷平線」。海は通常水平線が見えるわけですが、冬のオホーツク海は流氷が押し寄せるので、水平成ではなく氷平線が見えるのです。貧しい上に人望がない飲んだくれの漁師の息子だった誠一郎は、独学で東大に合格し、卒業後は財務省勤務に。無論キャリア官僚でしょう。数年後、岩見沢の税務署長となった誠一郎は、故郷に錦を飾るわけですが、彼には高校生時代、関係を持った友江という年上を女性がいました。友江は中学生時代に祖父に引き取られてやって来ましたが、そのまま客を取らされるようになり、ずっと売春をやっていると噂をされていました。

さいはての凍土 

 その噂は真実でしたが、再び友江と関係を持った誠一郎は、友江を伴って岩見沢に帰ります。友江と結婚しようと考える誠一郎ですが、愚かな父親は息子が税務署長なのを悪用して脱税指南するとか行って詐欺行為を行っていることが判明。このままでは誠一郎の将来が危ういというところで、姿を消す友江。そして故郷では実家が焼失して遺体が二つ出たという知らせが。うーん、せっかく努力をして出世したのだからここまで悲しい話にしなくてもという気になるのですが…どうも北海道はハッピーエンドよりバッドエンドが似合ってしまうような。一番救いのない話になっています。

釧路ロイヤルイン 

 なお直木賞受賞作「ホテルローヤル」で思い出しましたが、私は釧路に行くたびに泊まっていたのは駅前の「釧路ロイヤルイン」。もちろんラブホテルではなくビジネスホテルですが、とにかく朝食が豪華でした。ついついお腹いっぱいになるまで食べてしまうのでした。

釧路ロイヤルインの朝食 

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう:女性版「大江戸神仙伝」

福岡で豪雨

 7月に入ったばかりだというのにもう台風の洗礼。空梅雨気味だったところに一気に雨が降りましたが、何事もほどほどというのがいいんですけどね。今日になっても豪雨の福岡や大分では大雨特別警報が出ています。はげしかれとはいのらぬもの。

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう

 本日は山本巧次の「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」を紹介しましょう。山本巧次の作品は初めて読みましたので、例によって作者紹介から。

 第13回このミス大賞

 山本巧次は1960年生まれで和歌山県出身。中央大学法学部出身で、鉄道会社に勤務。2014年、宝島社の第13回「このミステリーがすごい!」大賞に応募した「八丁堀ミストレス」が最終候補作に残り、大賞は逃したものの、編集部が「賞をとれなくても作品にしたい」という原稿に与える「隠し玉」という宝島社賞(編集部推薦賞)に選ばれました。

チーム・バチスタの栄光 

 「このミステリーがすごい!」大賞は、2002年に宝島社、NEC、メモリーテックの3社が創設したノベルス・コンテストで、大賞に1200万円が、優秀賞に200万円が贈呈されるという金額ではかなり高額な新人文学賞です。「エンターテイメントを第一義の目的とした広義のミステリー」を大賞としており、私が読んだ作品としては海棠尊「チーム・バチスタの栄光」(第4回大賞)、七尾与史「死亡フラグが立ちました」(第8回隠し玉)があります。また「組織犯罪対策課 八神瑛子」シリーズを読んだ深町秋生も「果てしなき渇き」で第3回大賞を受賞しています。なお第13回の大賞は降田天の「女王はかえらない」でした。

死亡フラグが立ちました! 

 「八丁堀ミストレス」は加筆修正後、2015年8月20日に「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」と改題して宝島社文庫より刊行されました。選考委員からは面白さを前選考委員から評価されながらも、話の展開がシリーズ化にふさわしいから、隠し玉として売れ線を狙った方がよいと判断され、“全会一致で隠し玉に決定された”たということですが…別にシリーズ化にふさわしくったって大賞貰ってもいいんじゃないですかね?

女王はかえらない 

 ただしシリーズ化にふさわしいという選考委員の評価は間違いではなく、既に「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」シリーズは「両国橋の御落胤」「千両富くじ根津の夢」と既に3作が刊行されています。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

薬種問屋 

 江戸の両国橋近くに住むおゆうは、老舗の薬種問屋から殺された息子の汚名をそそいでほしいと依頼を受け、同心の伝三郎とともに調査に乗り出す…が彼女の正体はアラサー元OL・関口優佳。家の扉をくぐって江戸と現代で二重生活を送っていたのだ―。優佳は現代科学を駆使し謎を解いていくが、いかにして江戸の人間に真実を伝えるのか…。ふたつの時代を行き来しながら事件の真相に迫る! 

化政文化その1

 ミステリー好きで、そのせか友人達からは女子力が低いと評されてきた関口優佳は、祖母の死に際して秘密を打ち明けられます。何と馬喰町にある祖母の家は、およそ200年前の江戸に繋がっているというのです。祖母はちょくちょく江戸に出かけていたそうです。ぱっとしないOLにも倦んでいた優佳は祖母の家を相続し、OL生活に別れを告げて東京と江戸の二重生活に入ります。

 化政期の文化人

 江戸ではちょうど文政年間。1818~30年というところです。その前の文化年間(1804~18)と合わせて文化文政時代と呼ばれます。江戸を中心に町人文化が発展(化政文化)し、一般に現代に知られる江戸期の町人文化の全盛期にあたります。

大江戸神仙伝 

 私が好きな石川英輔の「大江戸神仙伝」シリーズも、文政5年にタイムスリップする男の話でした。この時代が選ばれるというのも、寛政の改革(1787年)と天保の改革(1841年)の狹間にあって町人文化の最盛期であり、現代に通じる江戸時代のイメージがこの頃に確立したからだろうと思われます。ペリーの来航(1853年)以降は幕末となって騒がしくなりますが、ロシアのレザノフが来たりフェートン号事件が起きたり、無二念打払令が出されたりしているものの、化政期は全般的に平和な時代だったと思われます。第11代将軍家斉が隠居後も大御所として実権を握り、幕府自体は構造疲労が本格化していますが、まだまだ権威は充分でした。

定廻り同心 

 江戸の方から見ると、ちょっと前まで年配の女性が住んでいた気がする仕舞屋に若い女が住みだしたけど、顔が似ているから娘なんだろうという認識で、謎の女には違いないのですが特に悪さをするでも騒ぐでもないので放任されているという。このあたり、「大江戸神仙伝」の受け売りによると江戸は人別帳(宗門人別帳)がかなりしっかりしているはずなので、身請け人がいないと色々厳しいんじゃないかという気もしますが…。

銭形平次は岡っ引き 

 で江戸で「おゆう」になった優佳、元来ミステリー好きなもので八丁堀の定廻り同心・鵜飼伝三郎の捜査に首を突っ込み、なんやかやと役に立ったことで知遇を得ています。今回は鵜飼伝三郎の方から紹介されたということで、薬種問屋藤屋が殺された息子・久之助の汚名をそそいで欲しいと依頼してきました。

南町奉行所跡 

 ちょうどその頃、江戸では薬効がほとんどない偽薬が安く出回っており、南町奉行所の見立てでは久之助が家の薬を横流ししていたのではないかということになっていました。鵜飼伝三郎はこの見立てに反対でしたが、何しろ上司の見立てなのであからさまに反対できず、おゆうに調べさせようという魂胆でした。

ピル 

 いいように使われておかんむりのおゆうですが、実は男前で妻を亡くしている伝三郎には惹かれていて、いつ男女の関係になってもいいと思っていたりしています。避妊のため予めピルも飲んでいる用意周到さ。ということで伝三郎を助け、同時にポイントも稼ごうと捜査に加わります。

両国橋 

 で、このおゆう、完全に江戸暮らしをしている訳ではなく、折々東京にも戻って優佳になっています。東京には高校時代の同級生で理系の分析オタク宇田川がいて、優佳は江戸時代から持ち帰った様々な証拠物件を宇田川に分析・鑑定させて(しかも只で)、その結果を聞いています。現代科学で事件の詳細をつかんでいく訳ですが、それをそのまま江戸の人間に伝えても理解して貰えません。ではどうやって伝三郎達同心や岡っ引き達に捜査の方向性を示唆していくかが、おゆうの腕の見せ所ということにもなります。

スタンガン 

 宇田川をこき使う(ただし宇田川も面白い素材を持ち込んでくる優佳を心待ちにしている模様)一方、おゆうも現代の物品をこっそり持ち込んで捜査に役立てています。スタンガン、双眼鏡、盗聴器、ルミノール試薬…もちろん見つからないように注意を払わなければなりませんし、「床下に潜り込んだ」とか「ちょっとした手妻(手品)だ」とやや苦しい言い訳もするので、くのいちばりに身体を張った捜査をしているのかと伝三郎を不安にさせたりもしています。

ルミノール試薬 

 当初は久之助殺害犯の究明でしたが、容疑者と思われるならず者達が一気に毒殺されたり、事件は二転三転していきます。その結果、事件の全貌は某藩や幕閣中枢にも及びそうな気配が出てきます。事件の解決を目指す傍ら、伝三郎の誘惑にも余念が無いおゆう。江戸では周囲から22、3歳とみられていますが、実際はアラサー。しかも結構性欲が強いらしく、張り込みしながら自慰をしかける始末(おいおい)。なので伝三郎を押し倒しかねない勢いなのですが、いつもいいところで邪魔が入ったり伝三郎が気を変えてしまいます。

懐中電灯 

 実は伝三郎にも秘密があって、なんとこの人も時間遡行者で、実は終戦時に見習い士官だったのが、なぜか江戸時代にタイムスリップしていたという。「大江戸神仙伝」でも現代と江戸時代を意識的に往復することができる転時能力者が他にもいましたっけ。でもおゆうの場合は祖母の自宅がタイムトンネル状態なので、誰でもそこを通れば江戸と東京を自由に行き来出来てしまいます。留守中に誰から迷い込んだりしないものか。

盗聴器 

 「大江戸神仙伝」シリーズを書いた石川英輔は、リアルな江戸社会の描写のために江戸時代を研究し、それが嵩じて江戸時代の生活事情を研究したノンフィクションも刊行するまでになり、堂々たる江戸文化研究者になっていますが、本作の作者の時代考証とかはかなりいい加減です。ま、ラノベと思えば許せますけど。

日本橋 

 いいように便利使いしていたはずの宇田川には江戸時代に行っていることがばれ、伝三郎には自分のように未来から来た女なのではないかと疑惑を持たれているおゆうですが、自分が何かをすることで歴史を変えてしまうのではないかと恐れていたところ、宇田川にお前が江戸に行って色々した結果が現代に繋がっているのではないかと言われ、俄然やる気になってきています。というところでシリーズ化するんですね。江戸の伝三郎、東京の宇田川とそれぞれの時代でラブロマンスを展開ということでもいいんじゃないかと思いますが…それじゃあますます「大江戸神仙伝」だ。

深川万年橋 

 ところでおゆう=優佳、仕事を辞めてどうやって生活しているんでしょうか。祖母の家を継承しても金目のものはなかったろうに。今回謝礼として80両からゲットしたので江戸での暮らしは心配ないですが、東京にも持っていって換金するんでしょうかね。

小判ざくざく 
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