時計館の殺人:日本ミステリー史に残る新本格ミステリーの傑作

花散らしの雨

 せっかく満開の桜なのに無常な花散らしの雨。残念ですが「スローターハウス5」的に言えば「そういうものだ("So it goes")」ということか。カート・ヴォネガットは偉大ですねえ。

時計館の殺人一冊版 

 本日は綾辻行人の「時計館の殺人」を紹介しましょう。綾辻行人の作品を読んだのは初めてではないのですが、当ブログでの紹介は初めてなので、まずは作家のプロフィールから。

綾辻行人

 綾辻行人は1960年12月23日生まれで京都市出身。京都大学に進学して推理小説研究会に入会しましたが、そこには後に結婚する小野不由美や、ミステリー作家となる我孫子武丸や法月綸太郎も所属していました。まさに多士済々。

小野不由美先生 

 大学院在学中の1986年に小野不由美と結婚し、翌87年に「十角館の殺人」で作家デビューしました。「十角館の殺人」は新本格ミステリーの嚆矢とされています。では「新本格ミステリー」とはなんだという話になるんですが。

十角館の殺人 

 推理小説のジャンルの一つに、謎解き、トリック、頭脳派名探偵の活躍などを主眼とするものを「本格ミステリー」と呼びます。海外ではエドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人事件」で原型が確立され、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズの短編もの、そしてアガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、ディクスン・カーらの長編ものが本格ミステリーの黄金時代とされています。

モルグ街の殺人事件 

 日本では江戸川乱歩や横溝正史の長編が本格ミステリーとされますが、その後社会性のある題材を扱い、事件そのものに加え、事件の背景を丁寧に描く「社会派ミステリー」が台頭することで、本格ミステリーは古典的でリアリティに欠けるとされ、関心が薄れていってしまいました。欧米と日本ではミステリーそのものの歴史の長さが圧倒的に違うので仕方がないところかも知れませんが。

獄門島 

 それでも本格ミステリーは、ベテラン・中堅作家が書き続けていましたが、1980年代後半から90年代にかけて、新たなムーブメントが起きます。それが「新本格ミステリーで」、古典ともいえる「本格ミステリー」に倣った作風を志向しており、科学技術の発展などの時代背景を考慮に入れつつ、謎の不可解性や解決の論理性を重視しているのが特徴です。その先駆けが綾辻行人で、我孫子武丸や法月綸太郎など京都大学ミステリー研究会出身の作家が中心となっていました。他にも有栖川有栖、北村薫、二階堂黎人、京極夏彦なども新本格ミステリーの代表的作家と言えましょう(他にもたくさんいますが、取りあえず作品を読んだことのある作家を並べてみました)。

人形館の殺人 

 これまでに読んだ綾辻行人の作品としては、デビュー作の「十角館の殺人」の他、「人形館の殺人」、「緋色の囁き」を覚えていますが、いずれもブログ開始前に読了していたと思います。つまり結構前。「時計館の殺人」は、1991年9月に講談社ノベルスから刊行され、1993年5月には講談社文庫から文庫版が刊行されました。2012年6月には上下巻に分冊した新装改訂版が同文庫から刊行され、私が読んだのもこちらでした。「十角館の殺人」から始まる「館」シリーズの第五弾になります。

緋色の囁き 

 「館」シリーズは、素人探偵・島田潔(後に推理作家となりペンネームは鹿谷門実)が、今は亡き建築家・中村青司が建築に関わった建物に魅せられて尋ねていくもので、そこでは決まって凄惨な殺人事件が起こります。中村青司はもちろん架空の建築家ですが、奇妙な建物ばかり設計・施工しています。もちろんオーナーのオーダーに応えてのものなのですが、この人の関わる建物で必ず事件が起きるのは、オーナーのせいなのか建築家のせいなのか、それとも相乗効果なのか。

時計館の殺人上 

 「時計館の殺人」は第45回日本推理作家協会賞を受賞(同時受賞は宮部みゆきの「龍は眠る」)しており、「新本格ミステリー」を定着させた作品として評価されています。1991年の「週刊文春ミステリーベスト10」で第4位、1992年の「このミステリーがすごい!」の11位。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

変な懐中時計 

 (上巻):鎌倉の外れに建つ謎の館、時計館。角島・十角館の惨劇を知る江南孝明は、オカルト雑誌の“取材班”の一員としてこの館を訪れる。館に棲むという少女の亡霊と接触した交霊会の夜、忽然と姿を消す美貌の霊能者。閉ざされた館内ではそして、恐るべき殺人劇の幕が上がる! 不朽の名作、満を持しての新装改訂版。 

時計館の殺人下 

 (下巻):館に閉じ込められた江南たちを襲う、仮面の殺人者の恐怖。館内で惨劇が続く一方、館外では推理作家・鹿谷門実が、時計館主人の遺した「沈黙の女神」の詩の謎を追う。悪夢の三日間の後、生き残るのは誰か?凄絶な連続殺人の果てに待ち受ける、驚愕と感動の最終章!第45回日本推理作家協会賞に輝く名作。

交霊会 

 物語は時計館の中と外に別れて交互に進行していきます。時計館内部での主人公は江南。彼は「十角館の殺人」で次々と殺害された大分県K**大学・推理小説研究会の生き残りで、その事件は3年経った今もトラウマとなっています。それなのにまたしても遭遇してしまう猟奇殺人事件。

時計館平面図 

 そして「十角館の殺人」で探偵役となった島田潔は、推理作家鹿谷門実となっており、外部から時計館の謎に迫っていくことになります。今回参加するのはW**大学超常現象研究会。ミステリーといっても推理小説ではなく超常現象の方だったんですね。

フランス枕 

 主な登場人物が2ページにわたって紹介されており、あまりの多さに驚きますが、心配はいりません。その多くは故人となっているからです。そして生きている人も次々と殺されていきますので、むしろ何人生き残れるんだと心配するくらいです。

火かき棒 

 本書では犯人が誰かということもさることながら、殺す動機も謎となっています。一応10年前の出来事が発端になっているようだということが判明するのですが、それと全く関わりのない人まで殺されてしまいます。実は途中で何となく犯人は見当がつくのですが、アリバイが完璧にあるので、共犯者が存在するのかと思っていましたが、まさかの単独犯でした。

グランドファーザークロック 

 読み終わった後で思い返せば、かなりきわどいネタバレ的な描写がいろんな所にちりばめられていました。なのに鹿谷門実が真相を暴くまで気付かないのは、私が海のリハクの目の持ち主だからでしょうか。本書はとにかく熱中して読んでもらい(殺人が横行していますが)、終盤の謎解きにあっと驚くのが楽しいので、言いたいことはたくさんあるのですが、とにかく読んで下さいとだけ言っておきましょう。

ベネチアの仮面 

 アリバイのトリックは驚愕ものですが、それは実は犯人が用意したものではなく、もともと存在していたものを利用したに過ぎません。ではなぜそれが以前から存在していたのかということについても、その事情が破綻なく明らかにされていくので、構成の妙に唸らざるを得ません。

和時計 

 唯一謎なのは、犯人がなぜアリバイ工作に腐心していたのかということです。“復讐”さえ果たされれば、その後自分が警察の追及から逃げのびることへのモチベーションはそんなになさそうなんですが。

アンティーク調置時計 

 とりあえずどんなにお金持ちでも、中村青司が関わる建物には住みたくないですね。まあ所有者達はそれぞれわざわざ中村青司に依頼して建設しているのですが。

歪んだ王国 

 なお谷山浩子が1992年6月にリリースした19thアルバム「歪んだ王国」には、9曲目に「時計館の殺人」という楽曲が収録されています。もちろん作詞は綾辻行人。ちなみに8曲目の「気づかれてはいけない」の作詞もしています。

ゲームの名は誘拐:トリックにあっと驚く達人同士のゲームの行方

一気に桜満開

 一気に暖かくなってまさに陽春。桜の花も満開モードです。花が咲くのは結構なんですが、そろそろあいつらも元気に登場ですね。そう、MUSIの輩。虫といってもいろいろいますが、特に嫌なのはGですね。毒があるわけでも刺すわけでもないので、家にさえ入ってこなければ勘弁してやるんですが、なぜにお前らは家に入ってくるのか。火星に行け火星に。そしてタルシアン(by「ほしのこえ」)と殺し合え。

火星にいけ火星に 
タルシアン艦隊 

 本日はご存知東野圭吾の「ゲームの名は誘拐」を紹介しましょう。光文社の男性向け月刊ファッション誌「Gainer」に2000年10月号から2002年6月号まで連載され、2002年11月19日に光文社から単行本が刊行され、2005年6月14日に光文社文庫から文庫版が刊行されました。

ゲームの名は誘拐 

 「ゲームの名は誘拐」は、先日紹介した「殺人の門」や、だいぶ前に紹介した「レイクサイド」とほぼ同時期の作品ですが、「このミステリーがすごい!」では2004年版の11位(「殺人の門」は同年18位、「レイクサイド」は2002年版の28位)、「本格ミステリ・ベスト10」では2004年13位(「レイクサイド」は2003年の16位)で、ミステリーとしては両作を上回る評価を得ています。個人的にはもっと評価が高くてもいいのではと思いますが、内容が狂言誘拐だということが軽いものとみられる原因なのかも知れません。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 敏腕広告プランナー・佐久間は、クライアントの重役・葛城にプロジェクトを潰された。葛城邸に出向いた彼は、家出してきた葛城の娘と出会う。“ゲームの達人”を自称する葛城に、二人はプライドをかけた勝負を挑む。娘を人質にした狂言誘拐。携帯電話、インターネットを駆使し、身代金三億円の奪取を狙う。犯人側の視点のみで描く、鮮烈なノンストップ・ミステリー!

ゲームの達人 

 自動車会社の大規模宣伝プロジェクトの中心にいた佐久間は、同社副社長の葛城にプランを「ちゃぶ台返し」されてプロジェクトから外されてしまいます。ここまで広告業界でエリート街道を突っ走り、連戦連勝だった佐久間は大ショック。やけ酒を飲んで酔ったまま勢いで葛城の豪邸を見に行ったところ、屋敷から塀を乗り越えて抜け出す女の姿を目撃します。

 追いかけていって接触したところ、女は葛城の長女・樹理でした。実は葛城の昔の愛人に産ませた娘で、愛人が死んだために引き取られたものの、現在の妻や異母妹には煙たがられ続け、針のむしろである家を早く抜け出したい願っていたところ、異母妹の千春と揉めて衝動的に抜け出してきたのだと言います。

単行本ゲームの名は誘拐 

 自慢のプロジェクトを自称「ゲームの達人」葛城に潰された恨みもあり、佐久間が考えついたのが狂言誘拐。樹理の独立生活資金の奪取と、葛城の鼻を明かすという一石二鳥の作戦ですが、やるからには勝たなければならないというのが佐久間のポリシー。警察の介入も計算に入れて、どうしたら葛城を出し抜けるのかを考え抜きます。

 “飛ばし”と呼ばれる他人や架空の名義で契約された携帯電話機、使い捨てメールアドレス、インターネットの掲示板と、15年以上前の作品ですがまだ色あせないテクニックを駆使する佐久間。作戦中に樹理ともわりない仲になったりして。

佐久間と樹理 

 念願の3億円を首尾良くゲットした佐久間は、一割の3千万円だけを受け取り、残りを樹理に渡します。あとは帰宅した樹理がさんざんシミュレートした警察の事情聴取対策を実行すれば完全犯罪成立だぜということなんですが、帰宅したはずの樹理はなぜか姿を隠したままで、それどころか葛城家は警察に捜索願いを出します。

 これは一体どうしたことか?しかしマスコミに報じられた樹理の写真を見て唖然とする佐久間。それは一緒に過ごした樹理とは全く違う顔なのでして。それでは、今まで一緒に狂言誘拐をやってきた樹理は何者なのか?

横須賀港 

 ということで、狂言誘拐事件を実行中よりも、実行後にあっと驚く展開が待っている作品です。佐久間は色んな女性と遊びますが、結婚をする気はさらさらなく、効率と時間節約をモットーとしているエリートで、物語が彼の視点で進行していなかったらかなり鼻持ちならない人間であるような気がします。

 そして被害者側になる葛城も、佐久間視点ということもあるでしょうが、エリートにして上流階級出身という思わず革命を企てたくなるブルジョワジー。いわば悪人対悪人といった様相です。じゃあ樹理だけは…と思いきや、「お前誰やねん!?」ということになってしまいます(笑)。

箱崎ジャンクション 

 ストーリー中にあったいろいろな出来事が、真相究明のための伏線となっており、ちゃんと全て回収されているのが凄いです。言ってみればエリートが行うゲームなので、深刻さはあまりないため、そのあたりが重厚さに欠けるとみなされてしまうのかも知れませんが、ゲームといっても全身全霊を傾けて行っているので、読んでいて非常に面白かったです。特に後半。でもこれは是非読んでそのどんでん返しを堪能して貰いたいです。

g@me.jpg 

 本作は「g@me.」(ゲーム)のタイトルで映画化され、2003年に公開されています。映画化に際しては、結末部分や登場人物の性格などが大幅に付け足されているそうです。例によって未見ですが。

 佐久間役は藤木直人、樹理役は仲間由紀恵、葛城役は石橋凌。仲間由紀恵では美人過ぎる気がします。あと当時仲間は24歳ですが、原作では樹理は20歳そこそこなのでちょっと老けすぎかも。なお東野圭吾も一場面だけ出演しているそうです。原作者が自身の映画に出演するのってよくありますが、東野圭吾は映画好きでかつては映画監督になりたかったのだとか。

東野圭吾も登場(右端) 

殺人の門:東野圭吾版クトゥルフ神話?

花冷えパート2

 いやいや、なんともう4月になってしまいましたよ。しかし天気は悪いしおまけに寒いですね。まさに花冷え。この前も言っていましたが、4月になった今日こそリアル花冷えです。エイプリルフールでもあるんですが、これは日本ではマンガやアニメのネタ程度で現実にはあんまり流行らないですね。嘘をつく主体となる学生達が春休み中だということも大きいのでしょうか。

エイプリルフール 

 本日は東野圭吾の「殺人の門」を紹介しましょう。「殺人の門」は2003年8月に単行本が角川書店から刊行され、2006年6月に角川文庫から文庫本が刊行されました。「秘密」でブレイクして人気作家になってからの作品ですが、「白夜行」に匹敵する大長編のわりに地味なせいか人気は今ひとつのような。「このミステリーがすごい!」では2004年に18位にランキングされています。同じ年に直木賞候補ともなった名作「手紙」が56位なんですが、そもそも「手紙」はミステリーではないような。

殺人の門 

 「手紙」と類似している部分といえば、主人公が本人の責任ではない形で不幸な人生に転落していくところですが、「殺人の門」の場合は、小中学生の頃は仕方ないのですけど、それ以降はどうしても“自己責任”という言葉がよぎってしまう部分があります(酷かな…)。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

東野圭吾の手紙 

 「倉持修を殺そう」と思ったのはいつからだろう。悪魔の如きあの男のせいで、私の人生はいつも狂わされてきた。そして数多くの人間が不幸になった。あいつだけは生かしておいてはならない。でも、私には殺すことができないのだ。殺人者になるために、私に欠けているものはいったい何なのだろうか?人が人を殺すという行為は如何なることか。直木賞作家が描く、「憎悪」と「殺意」の一大叙事詩。

歯医者さん 

 主人公田島和幸は歯医者の息子で、幼少期は結構裕福な暮らしをしてきました。しかし、祖母が70歳という比較的若い年齢で老衰で亡くなったとき、毒殺されたのだという噂が町に広がっていきます。しまいには刑事が尋ねてきたりして。表面上は黙殺の態度をとった和幸の両親ですが、水面下で不和となってやがて離婚に。和幸は父との同居を選択します。

お屋敷に住むお坊ちゃま 

 父子家庭でもちゃんとやっている家庭は沢山あるはずですが、和幸パパンは女にだらしなかったらしく、夜の店の女に入れ上げます。しまいにはその女の情夫に襲撃され、後遺症で手が動かなくなり、歯医者が続けられなくなります。屋敷など不動産を売ってアパート経営に乗り出しますが上手くいかず、再び女に入れ上げたりして借金がかさみ、和幸が高校生の頃に蒸発してしまいます。

 和幸の方はといえば、中学時代は激しいいじめに遭ったり、高校時代は好意を寄せた女の子が自殺したりと上手くいかない時代が続きます。パパンが蒸発したため、親戚の助力で高校卒業まではさせて貰いましたが、その後は就職一拓です。就職先で陰湿ないじめにあったりしているので、和幸自身に何らかの性格的問題があったのかも知れません。

旧版殺人の門 

 が、和幸の人生に黒々とした影を落とすのは倉持修という小学校時代からの知人。友人と書きたいところですが、ぼっち同士接近したという感じであって、趣味が同じとか馬が合うという感じではありませんでした。それどころか、和幸は倉持に何かと「食い物」にされている感を抱きます。

 実は和幸にも良き友人はいなかった訳ではありません。中学時代には木原という他の小学校から来た友人が出来て親しくしていましたし、就職先では、陰湿ないじめをする先輩社員もいましたが、寮で同室となった小杉は不良上がりっぽい風貌に似合わず、腹を割って話せばいい奴でした。ですがそういう人達との交流が長続きしないというのが彼の大きな不幸の一旦でもありました。

殺人の門POP 

 そして自分の世界、自分の人生を築こうとすると突然現れる倉持。木原との別れは直接倉持のせいではありませんが、高校時代は好意をもった女の子をかっさらわれ(NTRだNTR)、その女の子は妊娠した挙げ句自殺してしまいます。また就職後も怪しげなネズミ講のアルバイトを持ちかけられ、サクラ役をやらされた結果、陰湿ないじめの先輩に逆恨みされて殺されかかり、退職に追い込まれてしまいます。 

 だからもう倉持とは絶縁しろよと思うのですが、その後も倉持の紹介でインチキ会社で働いて老人を罠にかける片棒を担いでしまいます。倉持を批判糾弾する気持ちは常に持っているのですが、するのはいいのですが、自分の手も黒く染めてしまっては第三者に対する説得力に欠けます。

ねずみ講の仕組み 

 さすがに懲りた和幸、今度は家具屋に勤めてそれなりに平穏に暮らせるようになるのですが、またも金持ちになった倉持が登場。倉持の妻に紹介された女性と交際し、結婚したらこれがとんでもないタマでした。買い物依存症というのか浪費症というのか、とにかく借金してでも買い物をしないではいられないという。

買い物依存症 

 そんな中、家庭生活に疲れた和幸はついつい色っぽい客に誘惑されて浮気をしてしまいますが、すぐに妻にばれ、鬼の首を取った妻はさらに浪費を繰り広げます。離婚しても残された借金と月々の慰謝料を払わされる和幸。そんな中、同情の素振りを見せてぽんと200万円貸してくれたのはまたも倉持。

浮気のイメージ 

 二度と関わるまいと思いつつ、金を借りた引け目でまたも倉持の立ち上げた株売買の会社の役員に名を連ねてしまう和幸。しかしまたも顧客になんだかんだと金を返さないインチキ会社だったので、株式の暴落によって一気に破滅に向かうことになります。

 そして和幸は大きな陰謀に気付きます。そもそも和幸が結婚した相手は倉持の「昔の女」であり、浮気相手は実は妻の知り合いであった。つまり結婚→離婚→借金地獄というトリプルコンボは倉持の壮大なはめ手であったのです。ついに和幸は倉持殺害を決断します。

 実は和幸、これまでにも倉持を殺そうとしたことがありました。しかしできなかったのは、倉持の釈明がでまかせとは思えなかったことと、倉持があながち虚ばかりでもなく、実もある(ありそう)という複雑な人物だったということがあります。和幸は倉持を見極めようとしてなかなか見極められないうちに機を逃してきたという感じもあります。

 そして殺害を決断した夜も、一足先に別の被害者が倉持を刺してしまったことで決行はできませんでした。その時に事情聴取した刑事は「動機さえあれば殺人がおきるというわけではないんですよ。動機も必要ですが、環境、タイミング、その場の気分、それらが複雑に絡み合って人は人を殺すんです。(中略)あなたの場合、何らかの引き金が必要なのかも知れませんね。それがないかぎり、殺人者となる門をくぐることはできないというわけです」これがタイトル「殺人の門」の意味でもあります。

 倉持は一命をとりとめますが植物状態になります。すると色々な人が見舞いにやってきます。驚くべきことに、女達は一様に好意を持っており、被害に遭った男達も「ひどい目に遭ったけど面白かった」と嫌悪一色ではない様子。そんな中、見舞いに来た経営コンサルタントを名乗る紳士に、昔の知り合いの面影を見いだした和幸は、一気に真相に到達することになります。

それはひょっとしてギャグで言っているのか 

 物語は一貫して和幸の一人称で進むのですが、まあ読んでみてこの人の頭の悪さ、要領の悪さ、懲りなさには笑えてきてしまいます。恋愛から結婚のくだりは、こちらとしてはどうせ倉持の罠だろうと感づいているのでギャグというかコントのようにも感じました。最後の最後に、倉持が和幸に抱いていた複雑な気持ちを理解するに至り、和幸がとった行動は…これはもう実際に読んで確認していただきたいです。

ナイアーラトテップの化身の一つ 

 子供時代からこれだけ人の心を弄び、操り、騙してきた倉持は、もはや普通の人間とは思えないほどです。これだけ悪行を続けておきながら、自分の妻には騙されたという感を持たれていないというのも凄いです。実は倉持は、ナイアーラトテップ(或いはニャルラトホテプ)の化身ででもあるのではないでしょうか。

アザトースさん 

 クトゥルフ神話では、この宇宙の創造神ともいうべきアザトースがいますが、はとてつもなく巨大で絶対的な力をもった存在である反面、盲目で白痴なので、自らの分身として三つのものを生みました。つまり闇と無名の霧とナイアーラトテップです。闇からはシュブ=ニグラス、無名の霧からヨグ=ソトースが生まれており、それぞれクトゥルフ神話においては「外なる神」と呼ばれる、旧支配者以上の高い神格を持っています(特にヨグ=ソトースは最高級の神格とされます)が、いずれもアザトースから間接的に生じており、直接生まれた“這いよる混沌”ナイアーラトテップが、主人であり創造主であるアザトースや他の異形の神々に仕え、知性をもたない主人の代行者としてその意思を具現化するべくあらゆる時空に出没するとされています。

ニャルラトホテプのカード 

 このナイアーラトテップ、クトゥルフ神話の旧支配者、外なる神といった人知を超える存在の中でも最強クラスとされており、人間はもとより他の旧支配者達をも冷笑し続けていますが、自ら人間と接触したり、簡単にひねり潰せる人間をあえて騙して自滅に追いやろうとしたりするなど、しばしばトリックスター的な行動を取っています。人知を超える存在なのでその真意を推し量ることは不可能ですが、和幸という平凡な人間を生かさず殺さず的な状態に保持し続けようとする倉持の意図なんか、多分にナイアーラトテップ的であるような。

ナイアーラトテップのフィギュア 

 ナイアーラトテップの多数の化身は同時に地球上に存在可能で、中には普通に人間として暮らしている者も少なくないそうなので、倉持イコールナイアーラトテップの化身説というのも個人的にはあながち的外れではないような気がします。ニャル子さんとして和幸の前に登場していたのであれば、大分違う人生があったと思いますが。というか、ニャル子さんなら私の所にも来て欲しい。

ニャル子さんだと人生が変わる 

森崎書店の日々:古書店街を舞台とした女性の成長物語

オオイヌフグリ
ホトケノザ 

 梅は咲いたか桜はまだかいなと上の方ばかり見て足元がお留守だった間に、枯れ野でオオイヌフグリやらホトケノザやらが咲き乱れるようになっていました。ぼけっとしている間にも季節はどんどん移ろっていくものなんですね。

森崎書店の日々 

 本日は八木沢里志の「森崎書店の日々」を紹介しましょう。八木沢里志の作品は初めて読みました。

八木沢里志 

 八木沢里志は1977年生まれで千葉県出身。日本大学芸術学部卒業。2008年に「森崎書店の日々」で第3回「ちよだ文学賞」を受賞し、作家デビューしました。「ちよだ文学賞」は2006年から実施されている千代田区主催の文学賞で、読売新聞社が共催し、小学館が後援しています。テーマやジャンルは問われません、千代田区主催ということで、千代田区ゆかりの人物や千代田区の名所・旧跡、歴史などを題材にした作品が歓迎される傾向があります。

古書店街 

 「森崎書店の日々」は、千代田区の神田神保町が舞台となっているので、まさにこの文学賞に歓迎される作品だったといえるでしょう。2010年9月12日に小学館文庫から文庫版が刊行されています。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

三浦貴子 

 貴子は交際して一年の英明から、突然、他の女性と結婚すると告げられ、失意のどん底に陥る。職場恋愛であったために、会社も辞めることに。恋人と仕事を一遍に失った貴子のところに、本の街・神保町で、古書店を経営する叔父のサトルから電話が入る。飄々とした叔父を苦手としていた貴子だったが、「店に住み込んで、仕事を手伝って欲しい」という申し出に、自然、足は神保町に向いていた。古書店街を舞台に、一人の女性の成長をユーモラスかつペーソス溢れる筆致で描く。「第三回ちよだ文学賞」大賞受賞作品。書き下ろし続編小説「桃子さんの帰還」も収録。 

古本まつり 

 「森崎書店の日々」は100ページ足らずの中編で、受賞後第一作で続編でもある「桃子さんの帰還」と合わせて文庫本となっています。

貴子とサトル 

 貴子は九州出身の25歳。笑顔が素敵なスポーツマンである同僚の英明と1年間ラブラブ恋人ライフを送ってきましたが、いきなり「俺、結婚するんだ」とぶちかまされます。相手はやはり同僚である清楚美人の村野さんで、なんと2年半前から交際しているとか。つまり二股で、しかも貴子は浮気の相手ないし愛人の立場だったという。

サトル叔父 

 1年間ずっとデートとお食事だけの清い関係という訳もなく、肉体関係(生々しいな)もあったことでしょう。それなのにあんまりな告白。ぶち切れて酒をぶっかけるなりボトルでぶん殴りするなりすれば良かったのですが、唖然としたまま別れてしまう貴子。失恋のショックは影道・鳳閣拳のごとく後から押し寄せてきました。何事も無かったかのように接してくる英明。そして何にも知らずに微笑んでいる村野さんと毎日顔を合わせることに心が耐えられなくなり、辞職して泣き暮らす毎日に。

影道奥義中の秘拳 

 余談ですが鳳閣拳、車田正美の「リングにかけろ」に登場したおそよボクシングの概念を超越した秘拳です。というかボクシングのルールでは意味がない(汗)。日本ボクシング界の影の存在である影道(シャドウ)。その総帥はスーパースターである天才ボクサー剣崎順の双子の弟である影道殉。実力は剣崎と同等ですが、組織の長であるせいか、人格的にはかなり上。
影道殉 

 その影道殉の奥義中の秘拳が鳳閣拳。それは撃たれた直後は全くダメージを受けませんが、時間が経過すると相手の心臓を破裂させて殺してしまうというまさに必殺拳で、通常の試合では使うことができないという。なんのために開発されたのか不明で、原理も全く不明ですが、こんな妙なブローを開発していたから日本ボクシング界から追放されたんじゃなかろうか。

影道鳳閣拳 

 失恋したことは九州のママンにだけは伝えていた貴子。そのママンから連絡が行ったらしく、神保町で古本屋・森崎書店を経営する叔父のサトルからコンタクトが。古本屋を手伝って欲しいと言われ、かび臭い(実際には古本の匂いですが)に引っ越すことになりました。

サブさん 

 あまりに深い精神的ダメージより、当初はひたすら眠るばかりの貴子。彼女ほどのもの凄い失恋はしたことがありませんが、精神的疲労が深いととにかく寝たくなるというのはわかります。ずいぶん昔ですが、半年くらいろくな休みもなく残業漬けの生活を送ったことがあったのですが、休めるようになったら、とにかく寝まくりました。冬で寒かったということもありましたが、本当に他にやりたいこともなく、眠くてベッドから出られないという。軽く鬱も入っていたかも知れません。まあ私のことはどうでもいいです。

喫茶店すぼうるのマスター 

 しかしある日、サトル叔父に誘われて雰囲気のいい喫茶店で美味しい珈琲を飲んだことで彼女の惰眠の日々は終わり、山ほどある本を読んだり、神保町界隈を散策したりするようになります。古本まつりに参加したり、喫茶店のキッチン担当の青年の片想いを応援したりしているうちに徐々に心の傷が癒えていく貴子。しかし、英明から連絡がきたことで再び沈んでいきます。

人は見た目が9割 

 この英明の罪悪感のなさぶりは気持ち悪いほどです。サイコパスとかなんじゃないか。二股かけて一方を振る。ここまではかろうじて判るのですが、その後も遊ぼう(おそらく性的な意味で)と誘ってくるという。「人は見た目が9割」なんて本もありますし、一見イケメンの英明に惹かれるのは仕方が無いのですが、付き合っているうちにその本性がわからないものなのか。

トモコと貴子 

 貴子の苦悩に気付いたサトル叔父は、英明と対決するべきだと貴子をけしかけ、夜更けに雨の中一緒に英明のマンションに行き、対決します。といっても大立ち回りとかはないのですが、お人好しが故に別れ際に言えなかった決別の言葉を浴びせることに成功する貴子。

本を読む貴子 

 実はこの時、部屋の中には村野さんがいたのでした。直後に英明を問い詰め、二股をかけていたことを知り、結婚を白紙にすることになりました。英明ざまあ!というか女の子が二人も引っかかってるんじゃない。まあ結婚前に気づけて良かったですよ。結婚してから判明したらいろいろ大変ですからね。

森崎書店 

 こうして人生の休暇を終え、貴子は新たな自分の人生を生きるため、森崎書店を旅立つことになります。初夏から早春までという1年足らずの日々でしたが、神保町に住んで読書三昧の日々を送るなんて、昔の私なら羨ましすぎる生活ですよ。今ではPCがないとダメになっちゃいましたけどNE!

貴子とトモコその2 

 そして「桃子さんの帰還」は1年半あとの物語。貴子も27歳ですよ。もはやアラサー。桃子というのはサトル叔父の嫁さんでしたが、5年前に「探さないでください」という書き置きだけ残して失踪してしまったのでした。それがいきなり戻ってきたという。

本を物色する貴子 

 貴子のことでは雄々しいところも見せたサトル叔父ですが、自分自身のことについてはてんでダメダメ。貴子に桃子の真意を探って欲しいとお願いします。自分の妻なんだから自分で聞けよと思いつつ、「森崎書店の日々」の恩もあり、渋々引き受ける貴子。

 しかし桃子の海千山千ぶりに翻弄され、ろくに話も聞けない貴子。逆においしい手料理の数々に胃袋をつかまれて籠絡されたりして。ある日、桃子から二人で奥多摩に旅行に行こうと誘われた貴子は、その旅行の中で桃子の真意を知ることになります。

象は忘れない 

 アガサ・クリスティは「過去の罪は長い影を引く」というモチーフをその作品の中でしばしば使いましたが、まさに桃子の過去が様々な影響を及ぼしていたのでした。「認めたくないものだな…自分自身の、若さ故の過ちというものを」(byシャア・アズナブル)。ですが、過ちを犯さない人間というのもいません。皆、過ちの中から教訓を導き出して今後に生かそうとするんだ。

電話する貴子 

 旅行後、桃子は再び失踪しますが、今度は貴子がサトル叔父を叱咤し、桃子が行ったはずの「心当たり」に行かせます。桃子が本当に戻ってくるのはさらに1年後ということになりますが、貴子にも新たの恋の予感があり、サトルも恋女房を取り戻し、まずはハッピーエンドで終了です。

映画版森崎書店の日々 

 本作は映画化され、2010年10月23日に公開されています。貴子役はファッションモデルでもある菊池亜希子が演じました。サトル叔父は内藤剛志。個人的には貴子はイメージより背が高すぎるし美人過ぎ、サトルはイメージより強そうな気がしますが、まあ悪くはないでしょう。「桃子さんの帰還」は入っていないので桃子は登場しませんが、喫茶店「すぼうる」でアルバイトする大学院生トモちゃんは田中麗奈。これもちょっと美人すぐる(笑)。

菊池亜希子のメッセージ 

 古書店街の古本屋が舞台となっていますが、本がテーマという訳ではないので本の“推し”はあんまり強くありません。貴子は本漬けになるが今回が初めてという状態だし、サトル叔父とか周囲の人は本好きだけどそんなにゴリゴリではないし。だから本にあまり興味のない人でもさくさく読めると思います。貴子が年齢のわりに幼い感じがするのは読書量が足りないせいだったのか、なんて思ったりもしますが、“耳年増”というのも可愛いものではないし、見聞と実体験はやはり別物ですからね。読後感も爽やかでいいです。

あの森崎と違う 

 ちなみに“森崎”というと某ざるキーパーを思い出しますが、スポーツ色は一切なし。クズ野郎・英明はラガーマンだったようですが、どのスポーツでもクズがいない、或いはクズばかりということはないでしょうから、英明がサッカーをやってたら大丈夫だったということはないでしょうな。それにしても“SGGK(スーパーグレートゴールキーパー”から“SGGK(スーパー頑張りゴールキーパー)”って呼ばれるのはディスっているとしか思えませんね。ピコ太郎のPPAPは実はSGGKにヒントを得たとかね。そんな馬鹿な(笑)。

SGGK森崎 

銀行総務特命:「花咲舞が黙ってない」の原作でもある連作短編

カエサル暗殺

 今日は冬が戻ってきたかのように寒い一日でした。雪との予報もあったので、なごり雪になるかと思いましたが、冷たい雨でした。紀元前44年の今日、ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)が腹心だったブルトゥス(ブルータス)らに暗殺されたそうです。「ブルータス、お前もか!」ですね。きっと飼い犬のゴールデン・レトリバーが赤ちゃんをかみ殺した時、周りの人達は同じような気持ちになったことでしょうね。

銀行総務特命 

 本日は池井戸潤の「銀行総務特命」を紹介しましょう。今や人気作家の池井戸潤ですが、「銀行総務特命」が講談社から刊行されたのは2002年8月。1998年のデビューから4年という初期の作品にあたります。講談社文庫版の刊行は2005年8月。

特命係長只野仁 

 “特命”なんて聞くと、窓際族の役目(つまり特に何の仕事もない)という場合と、本当に重要な任務に衝く場合と両極端な印象があります。言うなれば「特命係長只野仁」の昼の顔と夜の顔ぐらい違うという。しかし本書の銀行の特命は後者、つまり重要任務を任されているようです。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

旧版銀行総務特命 

 帝都銀行で唯一、行内の不祥事処理を任された指宿修平。顧客名簿流出、現役行員のAV出演疑惑、幹部の裏金づくり…スキャンダルに事欠かない伏魔殿を指宿は奔走する。腐敗した組織が、ある罠を用意しているとも知らずに―「総務特命担当者」の運命はいかに!?意外な仕掛けに唸らされる傑作ミステリー。 

銀行総務特命新版 

 「銀行特命総務」は、講談社の「週刊現代」に2001年11月17日号から2002年6月15日号まで連載されたもので、池井戸潤にとっては初の週刊誌連載だったようです。帝都銀行で副頭取直々に任命されて不祥事処理を任された総務部調査役の指宿(いぶすき)修平。

調査役のポジション 

 調査役とはなんじゃらほいと思いますが、銀行では各行である程度相違はあるようですが、だいたい本店で係長から課長の間あたりに位置する中堅の役職のようです。支店では支店長代理(或いは課長代理)あたりに相当でしょうか。支店長代理って、副支店長と混同しそうですが、課長より下なんですね。

 本書には8編の短編が収録されており、顧客名簿流出、現役行員のAV出演疑惑、幹部の裏金づくりといったスキャンダルが次々発生します。銀行は伏魔殿か!そして解決に向け奔走する指宿。一編50ページくらいなんですが、誘拐、殺人未遂といった凶悪な事件まで発生しており、いくら特命でも単独では手に余りますが、そういう場合はさすがに警察が登場して協力して解決というはこびになっています。

銀行員AVその1 

 印象に残るのは第三話「官能銀行」。これは現役女子銀行員がAVに出演するというスキャンダルを描いたものですが、「官能銀行」というのはそのAVのタイトルです。指宿はモザイクに隠された彼女の正体を探るということの他に、何が彼女にそうさせたのかということを暴くという二つのミッションを同時にこなしていくことになります。さすが大銀行、美人女子行員多数なのですぐ容疑者が判明ということはありません。うらやましい執務環境ですなあ(笑)。

枕営業 

 美人OLとオフィスラブ、なんてベタベタですが、なんとそのベタベタ展開ありです。一般職から総合職への転換を希望する女子行員を、便宜を図ってやるふりをして貪る人事部幹部…それで総合職になれせてくれたんならともかく、ならせてくれないのだから救われません。枕営業だってちゃんと見返りはないと。それにしてもそんな「食い逃げ」で何もないと思っていたのでしょうか。浅はかすぎますね。銀行員なら、いや社会人ならギブアンドテイクは常識でしょうに。

銀行員AVその2 

 ちなみに銀行員系のAVは結構あるみたいですが、顔見せばかりですね。銀行員のていをしているだけでAV嬢がやっているだけなんでしょうかね。

 指宿には鏑木という部下がいるのですが、三話で鏑木は栄転となり、四話以降は三話から登場した人事部調査役の唐木怜という女性とコンビを組むことになります。指宿の所属する総務部と人事部は犬猿の仲のようで、総務部に異動して指宿と組むようになっても唐木と指宿はなかなかしっくりいきませんでしたが、やがては指宿の仕事に理解を示すようになっていきます。

 第六話「特命対特命」は、人事課にも特命担当の調査役が登場し、指宿の失脚を試みます。三話で人事部次長が沈められた(自業自得なんですが)こともあり、人事部の指宿に対する敵意は相当なものです。債券部の花形トレーダーが20億円の穴を開けたことを、指宿の稚拙な調査により焦ったために発生した大損害だというシナリオで追い込んでいこうとします。人事部特命の星川は、唐木怜と恋仲だったらしく、元の関係に戻ろうと怜を誘います。またオフィスラブかよ!なんて銀行だ。怜がヒロインらくしく、指宿と仕事をしながら敵側の男に抱かれたくないという潔癖な仕事観を持っていて良かったです。

狼男だよ 

 どの短編もミステリー要素があり、謎解きや犯人当てがあるのですが、カタルシスを感じる前に修了してしまうもどかしさを感じます。例えて言えば…平井和正の「ウルフガイ」シリーズの前半だけというか。つまり散々酷い目にあって、ようやく満月がやってきてさあ反撃だぜベイビーというとことで終わらせてしまうのです。その反撃部分をもって描いてくれればスカッとするんですが。

花咲舞が黙ってない 

 2014年に日本テレビ系で「花咲舞が黙ってない」というテレビドラマが放映されました。原作は花咲舞が登場する「不祥事」ですが、「銀行総務特命」も原作として使用されています。テレビドラマ第6話「支店長が女子行員にセクハラ!? 同期の絆と舞の涙」は「官能銀行」が原作となっており、テレビドラマ第8話「銀行が経営破たん!? おばあちゃんの預金を守れ!!」は「銀行特命総務」第八話「「ペイオフの罠」が原作になっています。

不祥事 

 「不祥事」はエンターテインメント性を強く出し、現実にはできないことをキャラクターがやり、読者に漫画のように面白がってもらえる作品を目指して執筆されたそうで、おそらく「銀行特命総務」に足りなかった部分を補充したのではないかと思われます。そして唐木怜の発展型が花咲舞なのではないかと。じゃあ唐木怜は杏みたいな女性を連想すればいいのか。もうちょっと暗くて理知的な気もしますけどね。

花咲舞役の杏 

働く女性の24時 女と仕事のステキな関係:10年以上前の話ですが、状況は今も変わっていないような

東日本大震災から6年

 東日本大震災から6年…。あっという間のような気もするし、ずいぶん経ったような気もします。当時の小学1年生が中学1年生になるだけの時間です。親とか親戚からするとあっという間だけど、本人的には永遠に続くかと思われた小学生時代が終わったなあとことで、その間はずいぶん長かったと感じることでしょう。ホント、時間の経過って年齢と共に加速度的に早くなっていきますね。

働く女性の24時間 

 本日は野村浩子の「働く女性の24時 女と仕事のステキな関係」を紹介しましょう。日経ビジネス人文庫から2005年10月1日に刊行されています。野村浩子の著書は初めて読みました。日経ビジネス人文庫には裏表紙に内容紹介がないので、代わりにAmazonの内容紹介です。

CAさんたち 

 稼ぎはソコソコでも、仕事と私生活のバランスを優先。彼や夫がいても、自分を癒す「ひとり時間」は譲れない――。「日経ウーマン」編集長が、働く女性の等身大の姿や本音を軽やかに描いた、初の書き下ろしエッセイ。 

野村浩子 

 野村浩子は1962年生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒業後、就職情報会社ユー・ピー・ユーを経て、日経ホーム出版社発行のビジネスマン向け月刊誌「日経アントロポス」の創刊チームに加わります。「日経WOMAN」編集部に移って、副編集長を経て編集長に。その後、日本初の女性リーダー向け雑誌「日経EW」編集長、日本経済新聞社編集委員、「日経マネー」副編集長を歴任しています。その他、淑徳大学人文学部表現学科長・教授、財政制度等審議会委員、日本ユネスコ国内委員会委員など各種委員も務めており、著書に本書のほか「女性に伝えたい 未来が変わる働き方」、「定年が見えてきた女性たちへ」などがあります。

女性に伝えたい 未来が変わる働き方 

 「日経WOMANリアル白書」と銘打っているとおり、外国人を含む様々な働く女性達に取材して、著者の感想を交えずに客観的に取り扱っています。元は「日経MJ」に2003年10月から2005年9月まで連載されたコラム「日経ウーマン編集長野村浩子の女性真理学」で、大幅な加筆をして文庫版描き下ろしとしています。

定年が見えてきた女性たちへ 

 ビジネスマンとサラリーマンという似て非なるカテゴリーの中、私はどうみてもしがないリーマンなんで、「日経ビジネス人文庫」という名前だけで、十字架を突きつけられたドラキュラのごとく、はたまた聖水をかけられた悪魔というか、それはまあ大袈裟だけど太陽をまともに見てしまったような眩しさを感じてしまうのですが、気の迷いで手にとってしまいました。特に女性問題とかに関心が高いわけでもないのに。

看護師さんたち 

 内容は実例集みたいなものなので、読みやすいです。むしろ驚くべきことは、十年一昔といって、10年経ったら当時の常識は非常識に化すると思われるところ、ほぼ状況が変わっていないように感じることです。

スウェーデン 

 年収300万円で収入は低いかわりに残業や休日出勤は逃れて“そこそこの幸せ”堪能する女性。一人の時間を大切にして様々な“お一人様”を楽しむ女性。結婚相手としての男に対する条件が高く、妥協してまで結婚したいと思わない女性や子供の産まない選択をした女性。様々な女性に取材してその本音を聞き出す作者。男女の役割の平等性という点で先進的な北欧スウェーデンでも取材していて、男も産休育休を取って当然だったり、女性が一生仕事を続けるのも当然な社会では、家事育児も等分に負担している様子が示されていますが、そんなスウェーデンでも男は隙あらば家事を避けようとする傾向があるという(そしてそれは離婚の大きな原因となっているという)。男ってヤツは…と嘆くのは容易いですが、完全に男女平等を追及するというのも無理があるんではないかとも考えてしまいます。

働く女性のイメージ 

 注目すべきは第4章。本書の主たるテーマではないかも知れませんが、実年齢より若く見られると主張する女性は多いけど、実際に会ってみると「年齢相応」だったというケースが多いというエピソードに笑いました。すっぴんだと大学生に間違われるという女性、10歳年下の男が恋い焦がれてくるという女性…どちらも36歳なんです。作者は「外見に関する自己申告は、少々あてにならない」とごく控えめに突っ込んでいますが……

嘘を言うなっ! 

 個人的にはこの人達に「装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ」第三話「分隊」の予告における名優銀河万丈さんの名セリフを贈りたい。すなわち「嘘を言うなっ!」(これはいずれ「記憶に残る一言」で詳しく紹介したいと思っています)

嘘だッ 

 あるいは「ひぐらしのなく頃に 鬼隠し編」における竜宮レナ(中原麻衣大熱演)の名セリフをプレゼントします。すなわち「嘘だッ!!!」

働く女性のイメージその2 

 あと「日経ウーマン」でのアンケート調査によると、年収300万円でそこそこやりがいのある仕事をして、土日やアフターファイブはしっかり休むというのが、女性に一番支持された働き方だそうですが、これってシングルでもそれでいいってことですか?夫がいて同等以上に稼いでいるということが前提なような気がしますが。駆け出しの青二才の頃はまあ年収300万円も仕方ないと思いますが、いい年になっても300万円のままだとキッツいなあ。食べていけるかどうかといえばそりゃあ食べていけるとは思いますが、何をするにしても人生を楽しむにはおあしが足りないような。ソシャゲの課金もできやしない(してませんが)。

女性の職場のイメージ 

 もちろんお金のかからない趣味もあるでしょうし、それで楽しければ他人がとやかく言うことではないのですが、お金がないがためにそういう趣味しか選択できないということだとしたら、それは本当に幸せなんでしょうかね。幸せなんだと自分に言い聞かせて偽っているような気も。

2016年の平均年収データ 

 2016年の世代別平均年収はこのようになっています。できれば平均を上回りたいと思うのは人の性ではないでしょうかね。貧乏家庭出身の私はことさらにそう思ってしまうのですが。

女性の職場のイメージその2 

 人によっては専業主婦志望という人もいるでしょうし、人の生き方はひとそれぞれなんですが…“一億総括役社会”ってのは、きっと「専業主婦がんばってね」という意味ではなく、生産年齢人口(年齢別人口のうち労働力の中核をなす15歳以上65歳未満の人口層)は男も女も全員働け、出来れば65歳超えても働けやというニュアンスを多分に含んでいるような気がします。少子化進行のせいで失業率は減少し、求人倍率はアップ傾向ですからね、我が日本では。

つぎはぎプラネット:玄人向け?星新一最後のショートショート集

梅は咲いたか桜はまだかいな

 端唄の♪梅は咲いたか 桜はまだかいな♫といった季節ですね。花粉に加えて寒暖差が大きいので体調を崩しやすい頃です。送別会といったお酒を飲む機会も多いですし、お互い自愛しましょう。

つぎはぎプラネット 

 本日は星新一の「つぎはぎプラネット」を紹介しましょう。今年は1997年に亡くなった星新一の没後20年にあたるんですよ。え!もうそんなに経ったの!?と驚くばかりですね。だからもう新作ショートショートを読むことは決死出来ないことのはずだったのですが…

つぎはぎプラネットのコシマキ 

 「つぎはぎプラネット」は2013年9月1日に新潮文庫から刊行されました。星新一没後も2005年9月1日に単行本未収録作品を集めた「天国からの道」がやはり新潮文庫から刊行されていますが、さらに8年後に新刊が出るとは。未発表原稿が発見されたのか!?と思いきや、まずは文庫版裏表紙の内容紹介をご覧下さい。

天国からの道 

 同人誌、PR誌に書かれて以来、書籍に収録されないままとなっていた知られざる名ショートショート。日本人 火星へ行けば 火星人……「笑兎(ショート)」の雅号で作られた、奇想天外でシニカルなSF川柳・都々逸。子供のために書かれた、理系出身ならではのセンスが光る短編。入手困難な作品や書籍、文庫未収録の作品を集めた、ショートショートの神様のすべてが分かる、幻の作品集。

妖精配給会社 

 ということで未発表の新作はゼロですが、おそらく大半の人が知らなかった作品ばかりです。星新一の作家デビューは1949年。本格的に作品を発表し始めたのは1960年以降ですが、本作では作家駆け出し時代の60年代の作品が大半を占めています。

白い服の男 

 冒頭掲載のSF川柳・都々逸はそもそもショートショートではないのでまあ付録のようなものとして、なぜこれらの作品群が文庫未収録だったのかといえば、おそらくですが…

宇宙のあいさつ 

① 企業のPR用の作品は宣伝色が強すぎて単行本収録に適さなかった
② 児童雑誌用の作品は子供向けすぎて単行本収録に適さなかった
③ 日本SF大会用の作品はそもそも目的が違うので単行本収録に適さなかった
④ そもそも作品の出来が水準に達していなかった

ボッコちゃん 

などの理由があったのだろうと思いますが、1974年発表の「魅力的な噴霧器」なんかはなぜ単行本に収録されなかったのかが不思議なほどの完成度だと思います。色他にも々事情があったのでしょう。

腹立半分日記 

 筒井康隆の「腹立半分日記」を読んでも、駆け出し作家の頃は書きたいものを書けず、注文に応じてこなすのに忙殺される様子が窺われますが、星新一もおそらく60年代前半期というのは依頼が来れば何でも受けるという状況だったのでしょう。

盗賊会社 

 SFというのは本来シニカルさやペシミスティックさを多分に含んだもので、星新一作品にもほろ苦い結末の作品は沢山あるのですが、本書では児童向け学習雑誌に書かれたものや、企業のPR誌に広告を兼ねて書かれた作品が多いので、そういった作品は基本的にブラックさが全くありません。星新一のショートショートを読み慣れた身からすると、ラストのどんでん返しが身上とも思えるのに、それが全くない作品ばかりが並んでいます。

午後の恐竜 

 なのでいつもの星新一作品を期待して読むとがっかりするかも知れません。間違っても星新一作品を読んだことがないという人が最初に手に取るべき作品ではないでしょう。星新一作品はあらかた読んだぞという人間が「ほう、こういう作品も書いていたのか…」と感慨に耽る、そういった作品集であろうと思います。

安全のカード 

 興味深いのは、未来生活を描いた作品群。「未来都市」「2000年の優雅なお正月」「オリンピック2064」「宇宙をかける100年後の夢」などですが、いずれもほぼ薔薇色の未来。後者2作品は2060年代を描いていますが、前者2作品は2000年を描いています。2000年って、もう我々にとっては過去なんですが、子供向けとはいえ、これらを読むと50年前の人々が思い描いた未来が垣間見えて非常に興味深いです。

悪魔のいる天国 

 風邪は過去のものになっていたり、ヘリコプターがタクシーになっていたり、火星に有人ロケットが到達していたりと、我々の科学がまだ実現できていないもののありますが、逆にスマホなどIT関連技術は現在の方が進んでいるかも知れません。未来というものを予測するのはSF作家をしても難しいのですね。

マイ国家 

 自動で食品を提供するテーブルとか、自動で着がえさせてくれるタンスなどは、面白いけど原材料補充とかメンテが大変だろうとか余計な心配をしてしまいます。子供向けのでせいか戦争とか犯罪といった暗い話題は一切なく、環境汚染も過密もない平和な世界が描かれています。星新一が期待したほど現実の人間は賢明ではなかったということか。当時こういった未来が来ると信じていた子供達には申し訳ないことですが…その子供達が作った未来が現在のこの世界だ、ということも出来ますなあ。こんなところでむやみにシニカルにならんでもいいんですが。

ボンボンと悪夢
 
 「宇宙をかける100年後の夢」はロケットによる火星への新婚旅行を描いていますが、ハネムーナーのために球形の個室をロケットの外に放出し、ロケットが鎖で引っ張っていくという描写には失礼ながら失笑を禁じ得ませんでした。個室くらい船内に作れんのか(笑)。鎖一本が命綱と思うとむしろ怖いと思うのですが。

かぼちゃの馬車 

 ともあれ、私も子供時代からずいぶんと星新一のショートショートにはお世話になってきました。私にとってはSFの入門書であり、趣味としての読書の契機になった作品群の一つであることは疑いありません。文章の合間合間に挿入したショートショート作品は、全て読んできました。1001編書かれたというショートショートの7~8割位は読んでいると思います。 

妄想銀行 

 ショートショートのみならず、エッセイやノンフィクションも多数執筆した星新一ですが、賞には縁が薄く、「妄想銀行」が第21回日本推理作家協会賞を受賞したきりです。SFファンが選ぶ年間ベスト賞である星雲賞を一度も受賞していないというのも…。ショートショートが敷居を下げ、子供も含めた多くの人々に受け入れられた反面、文学的評価が伴わなくなっていったのかも知れません。正直私もSFに入門するならまず星新一のショートショートから、なんて思っていましたし。

おのぞみの結末 

 個人的には星新一のショートショートと平行して、筒井康隆、光瀬龍、眉村卓あたりのいわゆるSFジュブナイル作品を読み耽ったことでSFにどっぷりと浸かりました。そしてその後大人向けのSF作品を読んだら、唐突に出てくるエロ描写に驚いたり喜んだりして別の意味ではまり込んだりして。眉村卓意外は長編では必ずといっていいほど最低一回はそういう場面が出てくるのですが、編集者から読者サービスとして強要されていたんでしょうか。それとも自主的なサービス?

おせっかいな神々 

 そういえば星新一作品もエロい場面というのはお目に掛かった記憶がありません。眉村卓作品でさえ皆無という訳ではないので、もしかするとSF作家一“お堅い”のは星新一なのかも知れません。

本当はコワいSNS:ブログもSNSのうちだそうですが

凄い雛人形

 昨日は雛祭りでしたが、そのせいか春めいてきましたね。暖かくなるのは結構なんですが、花粉がヤバいですね。昔は花粉なんて話題になっていなかったのに。ちなみに本日はバウムクーヘンの日らしいです。

明里と貴樹2017 

 そうそう、「秒速病」患者として忘れてはならないのは、今日という日は「秒速5センチメートル」第一話「桜花抄」で、貴樹が明里に会いに岩舟に向かったまさにその日なんですよ。この日、図らずも“雪の一夜”を過ごしたことで二人は…。聖地巡礼にはいい日ですね。

3月4日は秒速病の日 

 本日は「本当はコワいSNS」を紹介しましょう。アスペクトの「本当はコワいSNS」です。アスペクトはアスキーの書籍出版部門として1985年12月に設立された出版社で、2000年にアスキーのグループ再編により総合出版社に転換しました。「本当はコワいSNS」は2012年10月24日にアスペクト文庫から刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

本当はコワいSNS 

 インターネットにまつわる本当に恐い話が満載。もうひとりの自分が存在する「なりすまし登録」の恐怖、ネットストーカーによる嫌がらせ、人間関係を壊す「つながり」依存症などなど、日常生活にひそむSNSのキケンな実態に迫った戦慄の一冊。

 激動の現代、特にIT系の話題だと、今から5年前の本ではあまりに内容が陳腐かとも思いましたが、状況はあまり変わっていないようで、普通に読めました。ネット界では相変わらず炎上ブログが出現したり、Twitterはバカ発見器(バカッター)として機能し続けています。SNSとはソーシャル・ネットワーキング・サービスの略で、Web上で社会的ネットワークを構築可能にするサービスのことです。

 ということは、コメントやトラックバックなどのコミュニケーション機能を有しているブログ(当ブログも一応そうです)や、電子掲示板も広い意味ではSNSに含まれるということに。が、狭い意味では人と人とのつながりを促進・サポートする「コミュニティ型の会員制のサービス」や、あるいはそういったサービスを提供するウェブサイトが該当するのだとか。

 TwitterもSNSの一種だと思っていましたが、Twitter社自身は「社会的な要素を備えたコミュニケーションネットワーク」(通信網)であると規定しており、SNSではないとしているようです。しかしながら本書ではブログもTwitterもSNSの一種と見なしており、一章を割いて思いっきり取り上げています。

 なりすまし、ネットストーカー、「いいね」ボタンをめぐる誤解曲解、詐欺・マルチ商売、SNS依存症…いわゆるSNSをめぐる様々な問題が第一章第二章「あなたの隣にSNSのワナが!」で取り上げられています。

バカッター投稿 

 第三章「バカ発見器?ツィッターでわが身を滅ぼす人達」は、まさにツィッターで醜態をさらしてしまった事例集です。ツィッターはやっていないのでなんでいちいち呟かなければいけないのかイマイチわからないのですが、ブログ更新と同じで一度はまってしまうと呟かずにはいられないのでしょうか。

ブログ炎上 

 第四章「SNSやブログが炎上する日 全世界が敵になる!」はまさに一応ブロガーである私が心しておかなければならない事例集ですね。そもそもプロフィールとかを全開にしたり、政治・宗教・思想といった刺激が強いネタに過激なコメントを書いたり、ファンが多いものを貶めたりしたらそりゃあ反発を呼ぶというものです。中にはあえて炎上することで耳目を集めて商売につなげるという高等(?)テクニックを駆使するブロガーもいるらしいですが。

 第五章「目をそらしてはいけない!ネットによる恐怖の社会影響」は、有名人の揚げ足取りに地道をあげる人々や、いわゆる「ネトウヨ」の差別コメント、根拠が乏しいが全くないデマの拡散などの事例が取り上げられています。2012年は民主党政権時代ということで、民主党(現民進党)も格好の攻撃目標になっていると書かれていますが、かの政党の場合は“ブーメラン政党”と呼ばれるほどに香ばしい言動を繰り返し続けているのが原因なんで、与党であるからとかはあまり関係ないような気もしますが。当時民主党は所属国会議員にツィッターやブログの自粛を求めたそうですが…

ブーメラン政党 

 昨日の報道では、民進党の長妻昭元厚生労働相が、ツイッターで「国会で追及してほしいことをお寄せください」と呼びかけたところ、ネットユーザーからは、民進党のあんな疑惑やこんな不祥事の“追及”を求める声が相次いで寄せられたという話が。やっぱり懲りてないんじゃ…。おっと、政治的な話題はそれ以上いけない。

 取材した市井の人々の声が主体なので、踏み込みは浅いですし、巷間言われてきた話ばかりなので新味はありませんので「本当はコワい」というタイトルがちょっと大袈裟なんですが、「知っているかも知れないけど誤った使い方をするとコワい」SNSをめぐる諸問題を改めて再認識するにはいい本ではないかと思います。

1922:ひたすら暗い破滅の物語と“黒い”ハッピーエンドの物語

堀北真希

 堀北真希が引退するそうです。美人女優を見られなくなるのは残念ですが、すぱっと辞めちゃうあたり、山口百恵を彷彿とさせますね。山口百恵も綺麗なだけでなく、陰のある感がするアイドルでしたが、堀北真希も思慮深さの中に陰を感じさせる美貌です。いや、何があるのか、何もないのか知りませんけど。離婚すりゃあ芸能界に復帰するだろうなんてダークな考え方をするのも一興でしょうが、私は彼女の幸せをお祈りしておきましょう。彼女の抜けた穴を埋めたい女優さんもたくさんいるでしょうし。

文庫版 1922 

 本日はスティーヴン・キングの「1922」を紹介しましょう。2010年に刊行された中編集「Full Dark,No Stars」をに収録された4本の中編を二分冊にしたもので、その片割れの「ビッグ・ドライバー」は以前(2016年12月10日)紹介(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-1427.html)しております。

牧場 

 本書も2本の中編で構成されていますが、表題作「1922」が4分の3ほどを占めて「Full Dark,No Stars」収録の4本中最大のボリュームを誇る反面、「公正な取引」は最短の作品となっています。原題からしてお先真っ暗、希望がなさそうなですが、特に「1922」の暗さはただ事ではありません。反面「公正な取引」はブラックだけど見方を変えれば…という作品です。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

Full dark No stars 原書 

 8年前、私は息子とともに妻を殺し、古井戸に捨てた。殺すことに迷いはなかった。しかし私と息子は、これをきっかけに底なしの破滅へと落下しはじめたのだ…罪悪のもたらす魂の地獄!恐怖の帝王がパワフルな筆致で圧倒する荒涼たる犯罪小説「1922」と、黒いユーモア満載の「公正な取引」を収録。巨匠の最新作品集。 

井戸のネズミ 

 まず「1922」です。真っ暗な作品ばかりの「Full Dark,No Stars」ですが、特に絶望的に暗くて救いのない作品。アメリカのほぼ中央にあるネブラスカ州の農夫である主人公ウィルフレッドは、妻と息子と3人でトウモロコシ畑や乳牛で生計を立てていましたが、妻が遺産として100エーカーの肥沃な農地を受け継いだことで状況が一変してしまいます。

T型フォード 

 棚ぼたで農夫の妻という単調な生活が嫌になった妻は、食肉加工工場を建てたい大企業に土地を売って都会に住みたいと考えます。ウィルフレッドはその農地もトウモロコシ畑にしたいし、そこに食肉加工工場が建っては迷惑この上ないので大反対しますが、妻は離婚や裁判をほのめかします。なにしろ妻の土地なので、裁判沙汰では勝ち目がないウィルフレッドは、息子のヘンリーを味方につけ(都会に言ったら隣家のガールフレンドともお別れだぞ)、妻殺害を計画します。

ネブラスカ州 

 妻を殺し、失踪したことにして殺人の疑いを回避したウィルフレッドですが、罪を犯して無事では済みませんでした。実は「ビッグ・ドライバー」と「素晴らしき結婚生活」も女性が殺人を犯す話でしたが、全編暗い展開ながらも女性は罪を逃れます。一方妻殺しの夫は破滅するというのは男女差別のようにも見えますが、「ビッグ・ドライバー」の場合はレイプされて殺されかかった女性の復讐譚、「素晴らしき結婚生活」は夫殺しですが、その夫は実は連続殺人鬼で10回位死刑になっても仕方ないような輩でした。

ネブラスカのトウモロコシ畑 

 一方「1922」の妻は下品だしいけ好かない感じはあるのですが、殺されるほどの悪行はしていません。でも頑固で家業に固執したウィルフレッドは息子を抱き込んで殺してしまう。1922年といえば90年以上前で日本でいえば大正11年。今とは価値観とか様々なものが違ったのかも知れませんが、さすがに夫に逆らう妻を殺してもオッケーとはなりません。

ネズミ 

 涸れ井戸に妻の遺体を投げ捨て、井戸を埋めてしまってやれやれと思ったのも束の間、妻の亡霊というか無残な死体につきまとわれるウィルフレッド。その使者は、遺体を食い荒らしていたネズミです。それとは別に、母殺しに精神を病んでいく息子は、中学生の身で隣家のガールフレンドを孕ませてしまいます。カンカンに怒る隣家の主人。娘を「過ちの子」を孕んだ女性を収容する施設(生まれた子供は養子に出す)に入れ、その費用の一部を請求してきます。やむなく払う気になるウィルフレッドですが、息子の愛は予想を超えていました。

ボニーとクライド 

 銃を手に入れ、行く先々で強盗をする二人は「恋する強盗」を名乗って逃避行。映画「俺たちに明日はない」のモデルになったボニーとクライドみたいですが、年代的にはそれより10年位前の話となります。でも生没年的には同世代。

俺たちに明日はない 

 ボニーとクライドの如く、この「恋する強盗」も遂には命運尽きて二人とも死んでしまいます。ウィルフレッドはネズミの噛み傷で左手首を失い、隣家も妻が去って家庭崩壊。ウィルフレッドもあれほど執着した農場を手放すことになってしまいます。それでもつきまとうネズミと妻の影。8年後の1930年、最期を迎えたウィルフレッドの遺体の惨状は、「CHAOS:HEAD」や「CHAOS;CHILD」で言うところの「ニュージェネレーションの狂気」のようでした。警察は自殺と判断しますが、そうでないことは読者には明かで…。妻殺しのシーンの残忍さといい、その後の展開といい、全く救いのない暗黒小説ですが、平明なキングの文体でどんどん読んでいってしまいます。

 「公正な取引」は、ある意味「Full Dark,No Stars」の中で一番明るい物語かもしれません。癌で死期も遠くない銀行員のデヴィッドは、ある日不思議な占い師に出会います。ジョージ・エルヴィッドと名乗る占い師はデヴィッドに悪魔じみた印象を与えます(エルヴィッド=ELVID→DEVIL)。

喪黒福造 

 アメリカ版喪黒福造のようなエルヴィッドですが、喪黒福造なら、忠告するタブーを守ることを交換条件に客の願いを叶えるが、最終的には客が欲に溺れたり、自我に負けてタブーを破ってしまい、酷い目に遭うというオチになりますが、そこは資本主義の権化であるアメリカ。しっかり金を要求してきます。

悪魔との契約 

 エルヴィッドが言うには、彼は延長屋なんだそうです、何を延長させるかは依頼者の望み次第ですが、代償に魂などは望まず、替わりに年収の15%を毎年口座に振り込むことを要求します。ではと寿命の延長を望むデヴィッドですが、エルヴィッドが言うには金だけではなく、生贄が必要なんだそうです。つまり依頼者の「負」を消すことはできないので、代わりにその「負」を背負い込む者が必要だと。そこでエルヴィッドはデヴィッドに誰か憎む者はいないかと問います。デヴィッドが挙げたのは意外にも学生時代からの親友・トムの名でした。

 その親友トムは学生時代から二枚目でスポーツのヒーローで、デヴィッドは勉強を手伝わされたり彼女をNTRされたりさんざんな目に遭っていました。銀行員になってから、デヴィッドはトムの無謀ともいえる事業に融資するため奔走しますが、それは実はトムを破滅させたいという黒い願望故でした。ですがトムは賭けに勝ち、今や大金持ち。息子娘も美男美女で成功への道まっしぐら。デヴィッドも別の女性と結婚して子供達がいますが、旗色は明らかにトムに優勢。

 しかし、エルヴィッドと契約してから、一気に大逆転が起きます。あちことに転移していた癌は消え去り、娘も息子も成功への道を進み始めます。反面、知らない間にデヴィッドの「負」を背負い込まされたトムは、妻が癌で死に、子供達も相次ぐ不幸に見舞われ、事業まで破綻していきます。そばにいて、親友の不幸に同情し、励まし続けるデヴィッドですが、その不幸の元凶は自分であることは百も承知。

 銀行員だけあって、毎年律儀に年収の15%を払い続けるデヴィッド。そのままデヴィッドにとってハッピーなままに物語は終わります。でもイマイチ読者を割り切れない気分にさせるのは、やはり罪を背負った幸せだからでしょうか。ま、デヴィッドにとっては復讐という暗い愉悦を含んだ幸せというだけかも知れませんが。

 エルヴィッドによれば、寿命の延長と生贄の不幸は契約によるものですが、デヴィッドの家族が幸せになるかどうかはあくまで彼らの問題であって契約とは無関係だそうです。ということはデヴィッドの娘・息子の成功はあくまで彼らの努力の賜ということになります。でもデヴィッドが死んでいたら果たしてもたらされたかどうか判らないので、デヴィッドの生存と成功は大きな影響を与えていることでしょう。自分一人の力で成功したなんて思ったら大間違いで、何かが一つ狂っただけで全然違う人生が待っている…そんなことを思わせる作品でした。

旅のラゴス:人生は旅、旅は人生

プレミアムフライデー

 昨日のプレミアムフライデー、いかがお過ごしでしょうか。てっきりお国の指示で3時で終業なのかと思ったら、自主的に有給休暇(時間休)を取れというショボい話で…。それなら自分の都合で休むっての。いっそ金曜日を半ドンにしてくれると嬉しいんですけど、自分の有給休暇使えって話だったらノーサンキューですね。

旅のラゴス 文庫版 

 本日は筒井康隆の「旅のラゴス」を紹介します。筒井康隆というと、若い頃は貪るように読んだものですが、そのせいかドタバタ、エログロナンセンスといった黒い笑いのSF作品という印象が強いのですが、本作は全く違っていました。

虚構船団 

 そもそもそういった作品は作家としての経歴の初期の60~70年代のものが多く、80年代以降は前衛的な作品を発表しているんですよね。「虚構船団」とか「ロートレック荘事件」なんかを読んでいるので知らない訳でもなかったのですが。

断筆をめぐる大論争 

 そして断筆宣言(1993年)を経て断筆を解除した1996年以後はジュブナイル小説も復活させています。「愛のひだりがわ」はブログ記事にもしています(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-71.html)。それでもドタバタ・ナンセンスというイメージを持ち続けているのですから、若い頃に持ったイメージの影響力というのはそれはそれは凄まじいものがありますね。

愛のひがりがわ 

 「旅のラゴス」は1986年9月に単行本が徳間書店から刊行され、1989年7月に徳間文庫から文庫版が刊行されています。また1994年3月には新潮文庫からも刊行されています。新潮文庫版が刊行されて以来、息の長いロングセラーとして読まれ続けてきた作品ですが、2014年初め頃から1年ほどで10万部を超える大増刷となったそうです。テレビで有名人が紹介したわけでも、新聞に大きな書評が掲載されたわけでもないですが、ネットで「面白かった小説」といったテーマの「まとめサイト」でよく見かけるようになったということで、ネットでの口コミということなのかも知れません。

謎のベストセラー 

 私が手に取った図書館の文庫版も2015年8月発行の29刷なので、多分ネットで本書の存在を知った誰かがリクエストしたのでしょう。私もこれまで読んでいませんでしたし、特に注目もしていなかった作品なのですが、なるほど口コミどおりこれは当たりの作品ですね。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

旅のラゴス 新書版

 北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。

 まるで職業“旅人”なラゴスは、筒井作品の主人公として非常に理性的で真面目で、女性からモテまくるのですが、それも女たらしとかいうのではなく、好人物であるこということが周囲の人々にそこはかとなく感知されるが故のようです。だから男からも大体好意を持たれます。そんなラゴスが生まれ育った先進的な北部の都市から野蛮かつ治安の悪い南部に旅を続けていきます。

 その過程で、ラゴスが旅するのがグループ全員がテレポートする「集団転移」、家畜と心を通わせる「同化」、その他予知能力、読心術などが当たり前の技術として存在する世界であることが明らかになっていきます。内容紹介に登場する「壁抜け」は、大道芸人ただ一人にしかできない技とされていますが、ラゴスも試しにやって成功しているので、しっかり体系化されれば誰でも出来るのかも知れません。

 そういった超能力が存在する反面、文明レベルは現代以下、というか16、17世紀レベルなこの世界。途中で奴隷にされて7年もの間、銀鉱山で働かされたりしながら、なおも南へと向かうことを止めないラゴスの旅の目的は一体何か? 以後ネタバレになります。未読の方はご注意を。

旅のラゴスを描く 









 ラゴスが目指したのは海を渡ってさらに南方の別の大陸にある「着地点」。そこは2000年以上前に宇宙を旅してきた先祖の宇宙船が着陸した場所でした。1000人いた乗組員は全員高度な技術の専門家でしたが、コンピューターやロボットの支援が必要な技術ばかりだったので、未開の地では継承することができず、その子孫達は遥かに後退した文明で拡散していくほかありませんでした。

宇宙船廃墟のイメージ 

 ただし、宇宙船が運んできた各種の書物はポロという森の中の村の一隅の宇宙船の一部を使ったと見られるドームの中に集められ、散逸の処置を執られて保管されていました。学者達は誰でもここに来れば好きなだけ書物を読むことができますが、持ち出すことは禁じられているほか、危険極まりない旅をしなければならないので、知識の継承より書物の風化が先でないかと憂慮されているのでした。

 ラゴスはここで15年以上を過ごして、書物を読み続けますが、その間にコーヒーの木が野生化して繁殖しているのを知ってコーヒーの作り方をポロの村に伝授し、村はそれを交易品とすることで繁栄していきます。ラゴスがドームに籠もっている間にポロは豊かになり、商人が大挙して訪れるほか、周辺からその繁栄ぶりを狙われるようになっていきます。

王様 

 ラゴスの教示により大砲を備えて襲撃者を撃退するポロは遂に王国となり、ラゴスは王に据えられます。二人の妃に2人の王子、1人の王女を持ったラゴスは奴隷から王様までという、ドラゴンクエストⅤの主人公のような流転を経験しますが、ラゴスにとっては身分などどうでもいいものでした。

 ラゴスは旧文明のエッセンスを羊皮紙に書き込み、王国を密かに出てそれを生まれ故郷である北部に伝えようとします。しかしその途中でまた奴隷に商人に捕らえられて奴隷にされ、せっかくの羊皮紙は愚かな奴隷商人によって散逸させられてしまいます。

奴隷 

 しかし、奴隷売買のために連れて行かれたのはラゴスの一族が市長を務める北部の都市でした。しかも既に北部では奴隷制は廃止されていたという。時代錯誤な奴隷商人は哀れお縄となり、ラゴスは解放されて両親の元に戻ることができました。

 そこで穏やかな暮らしができるかと思われましたが、ラゴスが伝える旧文明の知識は周辺のインテリ達の評判を呼び、あちこちにひっぱりだこになります。そしてあまりうだつがあがらず、「兄よりすぐれた弟など存在死しねえ!!」的な(ジャギ兄さんほどひどくはないですが)兄との不和や、幼馴染みでもある兄嫁が寄せる密かな愛情(プラトニックですが)などにより、故郷にして生家にも居づらくなっていくラゴス。

ジャギ兄さん 

 そんな時、世界中を旅したという画家が残した放浪記を読んだラゴスは、北にいるという「氷の女王」の挿絵に驚愕します。それは旅の初期、恋に落ちた遊牧民族の少女が成長した姿に他なりませんでした。その少女はラゴスを待っていましたが、強い読心力を持つが故に傷つきやすく、何かというと暴れて厄介者扱いされていた青年を見かねて結婚し、二人で集落を去ったという話でした。盗賊の頭になったという噂もありましたが、その後の消息は不明となっていました。

 ラゴスは、「氷の女王」に会おうとして、今度は北へ北へと向かいます。既に70歳を超えたラゴス。少女もとっくにBBAを通り過ぎているはずですが、ラゴスのイメージは可憐な少女のまま。といって耄碌したとか痴呆症だとかいう訳ではありません。

氷の女王 

 「わたしは、そもそもがひとつ処にとどまっていられる人間ではなかった。だから旅を続けた。それ故にこそいろんな経験を重ねた。旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。たとえ死であってもだ。人生とおなじようにね」というラゴス。吹雪の中に踏み出すラゴスのシーンで物語は終わり、ラゴスは果たして氷の女王に会えたのかどうかわかりませんが、きっと会えたんじゃないかと思います。そこは天国かも知れませんが。

映画版パプリカ
 
 これは「パプリカ」のように、劇場アニメ化とかありじゃないでしょうかね。というか是非制作して貰いたいです。世界各地の奇妙な光景、奇妙な人々。そしてラゴスが出会ういろいろな美女達……きっと絵になると思うんですよね。
 
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