つぎはぎプラネット:玄人向け?星新一最後のショートショート集

梅は咲いたか桜はまだかいな

 端唄の♪梅は咲いたか 桜はまだかいな♫といった季節ですね。花粉に加えて寒暖差が大きいので体調を崩しやすい頃です。送別会といったお酒を飲む機会も多いですし、お互い自愛しましょう。

つぎはぎプラネット 

 本日は星新一の「つぎはぎプラネット」を紹介しましょう。今年は1997年に亡くなった星新一の没後20年にあたるんですよ。え!もうそんなに経ったの!?と驚くばかりですね。だからもう新作ショートショートを読むことは決死出来ないことのはずだったのですが…

つぎはぎプラネットのコシマキ 

 「つぎはぎプラネット」は2013年9月1日に新潮文庫から刊行されました。星新一没後も2005年9月1日に単行本未収録作品を集めた「天国からの道」がやはり新潮文庫から刊行されていますが、さらに8年後に新刊が出るとは。未発表原稿が発見されたのか!?と思いきや、まずは文庫版裏表紙の内容紹介をご覧下さい。

天国からの道 

 同人誌、PR誌に書かれて以来、書籍に収録されないままとなっていた知られざる名ショートショート。日本人 火星へ行けば 火星人……「笑兎(ショート)」の雅号で作られた、奇想天外でシニカルなSF川柳・都々逸。子供のために書かれた、理系出身ならではのセンスが光る短編。入手困難な作品や書籍、文庫未収録の作品を集めた、ショートショートの神様のすべてが分かる、幻の作品集。

妖精配給会社 

 ということで未発表の新作はゼロですが、おそらく大半の人が知らなかった作品ばかりです。星新一の作家デビューは1949年。本格的に作品を発表し始めたのは1960年以降ですが、本作では作家駆け出し時代の60年代の作品が大半を占めています。

白い服の男 

 冒頭掲載のSF川柳・都々逸はそもそもショートショートではないのでまあ付録のようなものとして、なぜこれらの作品群が文庫未収録だったのかといえば、おそらくですが…

宇宙のあいさつ 

① 企業のPR用の作品は宣伝色が強すぎて単行本収録に適さなかった
② 児童雑誌用の作品は子供向けすぎて単行本収録に適さなかった
③ 日本SF大会用の作品はそもそも目的が違うので単行本収録に適さなかった
④ そもそも作品の出来が水準に達していなかった

ボッコちゃん 

などの理由があったのだろうと思いますが、1974年発表の「魅力的な噴霧器」なんかはなぜ単行本に収録されなかったのかが不思議なほどの完成度だと思います。色他にも々事情があったのでしょう。

腹立半分日記 

 筒井康隆の「腹立半分日記」を読んでも、駆け出し作家の頃は書きたいものを書けず、注文に応じてこなすのに忙殺される様子が窺われますが、星新一もおそらく60年代前半期というのは依頼が来れば何でも受けるという状況だったのでしょう。

盗賊会社 

 SFというのは本来シニカルさやペシミスティックさを多分に含んだもので、星新一作品にもほろ苦い結末の作品は沢山あるのですが、本書では児童向け学習雑誌に書かれたものや、企業のPR誌に広告を兼ねて書かれた作品が多いので、そういった作品は基本的にブラックさが全くありません。星新一のショートショートを読み慣れた身からすると、ラストのどんでん返しが身上とも思えるのに、それが全くない作品ばかりが並んでいます。

午後の恐竜 

 なのでいつもの星新一作品を期待して読むとがっかりするかも知れません。間違っても星新一作品を読んだことがないという人が最初に手に取るべき作品ではないでしょう。星新一作品はあらかた読んだぞという人間が「ほう、こういう作品も書いていたのか…」と感慨に耽る、そういった作品集であろうと思います。

安全のカード 

 興味深いのは、未来生活を描いた作品群。「未来都市」「2000年の優雅なお正月」「オリンピック2064」「宇宙をかける100年後の夢」などですが、いずれもほぼ薔薇色の未来。後者2作品は2060年代を描いていますが、前者2作品は2000年を描いています。2000年って、もう我々にとっては過去なんですが、子供向けとはいえ、これらを読むと50年前の人々が思い描いた未来が垣間見えて非常に興味深いです。

悪魔のいる天国 

 風邪は過去のものになっていたり、ヘリコプターがタクシーになっていたり、火星に有人ロケットが到達していたりと、我々の科学がまだ実現できていないもののありますが、逆にスマホなどIT関連技術は現在の方が進んでいるかも知れません。未来というものを予測するのはSF作家をしても難しいのですね。

マイ国家 

 自動で食品を提供するテーブルとか、自動で着がえさせてくれるタンスなどは、面白いけど原材料補充とかメンテが大変だろうとか余計な心配をしてしまいます。子供向けのでせいか戦争とか犯罪といった暗い話題は一切なく、環境汚染も過密もない平和な世界が描かれています。星新一が期待したほど現実の人間は賢明ではなかったということか。当時こういった未来が来ると信じていた子供達には申し訳ないことですが…その子供達が作った未来が現在のこの世界だ、ということも出来ますなあ。こんなところでむやみにシニカルにならんでもいいんですが。

ボンボンと悪夢
 
 「宇宙をかける100年後の夢」はロケットによる火星への新婚旅行を描いていますが、ハネムーナーのために球形の個室をロケットの外に放出し、ロケットが鎖で引っ張っていくという描写には失礼ながら失笑を禁じ得ませんでした。個室くらい船内に作れんのか(笑)。鎖一本が命綱と思うとむしろ怖いと思うのですが。

かぼちゃの馬車 

 ともあれ、私も子供時代からずいぶんと星新一のショートショートにはお世話になってきました。私にとってはSFの入門書であり、趣味としての読書の契機になった作品群の一つであることは疑いありません。文章の合間合間に挿入したショートショート作品は、全て読んできました。1001編書かれたというショートショートの7~8割位は読んでいると思います。 

妄想銀行 

 ショートショートのみならず、エッセイやノンフィクションも多数執筆した星新一ですが、賞には縁が薄く、「妄想銀行」が第21回日本推理作家協会賞を受賞したきりです。SFファンが選ぶ年間ベスト賞である星雲賞を一度も受賞していないというのも…。ショートショートが敷居を下げ、子供も含めた多くの人々に受け入れられた反面、文学的評価が伴わなくなっていったのかも知れません。正直私もSFに入門するならまず星新一のショートショートから、なんて思っていましたし。

おのぞみの結末 

 個人的には星新一のショートショートと平行して、筒井康隆、光瀬龍、眉村卓あたりのいわゆるSFジュブナイル作品を読み耽ったことでSFにどっぷりと浸かりました。そしてその後大人向けのSF作品を読んだら、唐突に出てくるエロ描写に驚いたり喜んだりして別の意味ではまり込んだりして。眉村卓意外は長編では必ずといっていいほど最低一回はそういう場面が出てくるのですが、編集者から読者サービスとして強要されていたんでしょうか。それとも自主的なサービス?

おせっかいな神々 

 そういえば星新一作品もエロい場面というのはお目に掛かった記憶がありません。眉村卓作品でさえ皆無という訳ではないので、もしかするとSF作家一“お堅い”のは星新一なのかも知れません。

本当はコワいSNS:ブログもSNSのうちだそうですが

凄い雛人形

 昨日は雛祭りでしたが、そのせいか春めいてきましたね。暖かくなるのは結構なんですが、花粉がヤバいですね。昔は花粉なんて話題になっていなかったのに。ちなみに本日はバウムクーヘンの日らしいです。

明里と貴樹2017 

 そうそう、「秒速病」患者として忘れてはならないのは、今日という日は「秒速5センチメートル」第一話「桜花抄」で、貴樹が明里に会いに岩舟に向かったまさにその日なんですよ。この日、図らずも“雪の一夜”を過ごしたことで二人は…。聖地巡礼にはいい日ですね。

3月4日は秒速病の日 

 本日は「本当はコワいSNS」を紹介しましょう。アスペクトの「本当はコワいSNS」です。アスペクトはアスキーの書籍出版部門として1985年12月に設立された出版社で、2000年にアスキーのグループ再編により総合出版社に転換しました。「本当はコワいSNS」は2012年10月24日にアスペクト文庫から刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

本当はコワいSNS 

 インターネットにまつわる本当に恐い話が満載。もうひとりの自分が存在する「なりすまし登録」の恐怖、ネットストーカーによる嫌がらせ、人間関係を壊す「つながり」依存症などなど、日常生活にひそむSNSのキケンな実態に迫った戦慄の一冊。

 激動の現代、特にIT系の話題だと、今から5年前の本ではあまりに内容が陳腐かとも思いましたが、状況はあまり変わっていないようで、普通に読めました。ネット界では相変わらず炎上ブログが出現したり、Twitterはバカ発見器(バカッター)として機能し続けています。SNSとはソーシャル・ネットワーキング・サービスの略で、Web上で社会的ネットワークを構築可能にするサービスのことです。

 ということは、コメントやトラックバックなどのコミュニケーション機能を有しているブログ(当ブログも一応そうです)や、電子掲示板も広い意味ではSNSに含まれるということに。が、狭い意味では人と人とのつながりを促進・サポートする「コミュニティ型の会員制のサービス」や、あるいはそういったサービスを提供するウェブサイトが該当するのだとか。

 TwitterもSNSの一種だと思っていましたが、Twitter社自身は「社会的な要素を備えたコミュニケーションネットワーク」(通信網)であると規定しており、SNSではないとしているようです。しかしながら本書ではブログもTwitterもSNSの一種と見なしており、一章を割いて思いっきり取り上げています。

 なりすまし、ネットストーカー、「いいね」ボタンをめぐる誤解曲解、詐欺・マルチ商売、SNS依存症…いわゆるSNSをめぐる様々な問題が第一章第二章「あなたの隣にSNSのワナが!」で取り上げられています。

バカッター投稿 

 第三章「バカ発見器?ツィッターでわが身を滅ぼす人達」は、まさにツィッターで醜態をさらしてしまった事例集です。ツィッターはやっていないのでなんでいちいち呟かなければいけないのかイマイチわからないのですが、ブログ更新と同じで一度はまってしまうと呟かずにはいられないのでしょうか。

ブログ炎上 

 第四章「SNSやブログが炎上する日 全世界が敵になる!」はまさに一応ブロガーである私が心しておかなければならない事例集ですね。そもそもプロフィールとかを全開にしたり、政治・宗教・思想といった刺激が強いネタに過激なコメントを書いたり、ファンが多いものを貶めたりしたらそりゃあ反発を呼ぶというものです。中にはあえて炎上することで耳目を集めて商売につなげるという高等(?)テクニックを駆使するブロガーもいるらしいですが。

 第五章「目をそらしてはいけない!ネットによる恐怖の社会影響」は、有名人の揚げ足取りに地道をあげる人々や、いわゆる「ネトウヨ」の差別コメント、根拠が乏しいが全くないデマの拡散などの事例が取り上げられています。2012年は民主党政権時代ということで、民主党(現民進党)も格好の攻撃目標になっていると書かれていますが、かの政党の場合は“ブーメラン政党”と呼ばれるほどに香ばしい言動を繰り返し続けているのが原因なんで、与党であるからとかはあまり関係ないような気もしますが。当時民主党は所属国会議員にツィッターやブログの自粛を求めたそうですが…

ブーメラン政党 

 昨日の報道では、民進党の長妻昭元厚生労働相が、ツイッターで「国会で追及してほしいことをお寄せください」と呼びかけたところ、ネットユーザーからは、民進党のあんな疑惑やこんな不祥事の“追及”を求める声が相次いで寄せられたという話が。やっぱり懲りてないんじゃ…。おっと、政治的な話題はそれ以上いけない。

 取材した市井の人々の声が主体なので、踏み込みは浅いですし、巷間言われてきた話ばかりなので新味はありませんので「本当はコワい」というタイトルがちょっと大袈裟なんですが、「知っているかも知れないけど誤った使い方をするとコワい」SNSをめぐる諸問題を改めて再認識するにはいい本ではないかと思います。

1922:ひたすら暗い破滅の物語と“黒い”ハッピーエンドの物語

堀北真希

 堀北真希が引退するそうです。美人女優を見られなくなるのは残念ですが、すぱっと辞めちゃうあたり、山口百恵を彷彿とさせますね。山口百恵も綺麗なだけでなく、陰のある感がするアイドルでしたが、堀北真希も思慮深さの中に陰を感じさせる美貌です。いや、何があるのか、何もないのか知りませんけど。離婚すりゃあ芸能界に復帰するだろうなんてダークな考え方をするのも一興でしょうが、私は彼女の幸せをお祈りしておきましょう。彼女の抜けた穴を埋めたい女優さんもたくさんいるでしょうし。

文庫版 1922 

 本日はスティーヴン・キングの「1922」を紹介しましょう。2010年に刊行された中編集「Full Dark,No Stars」をに収録された4本の中編を二分冊にしたもので、その片割れの「ビッグ・ドライバー」は以前(2016年12月10日)紹介(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-1427.html)しております。

牧場 

 本書も2本の中編で構成されていますが、表題作「1922」が4分の3ほどを占めて「Full Dark,No Stars」収録の4本中最大のボリュームを誇る反面、「公正な取引」は最短の作品となっています。原題からしてお先真っ暗、希望がなさそうなですが、特に「1922」の暗さはただ事ではありません。反面「公正な取引」はブラックだけど見方を変えれば…という作品です。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

Full dark No stars 原書 

 8年前、私は息子とともに妻を殺し、古井戸に捨てた。殺すことに迷いはなかった。しかし私と息子は、これをきっかけに底なしの破滅へと落下しはじめたのだ…罪悪のもたらす魂の地獄!恐怖の帝王がパワフルな筆致で圧倒する荒涼たる犯罪小説「1922」と、黒いユーモア満載の「公正な取引」を収録。巨匠の最新作品集。 

井戸のネズミ 

 まず「1922」です。真っ暗な作品ばかりの「Full Dark,No Stars」ですが、特に絶望的に暗くて救いのない作品。アメリカのほぼ中央にあるネブラスカ州の農夫である主人公ウィルフレッドは、妻と息子と3人でトウモロコシ畑や乳牛で生計を立てていましたが、妻が遺産として100エーカーの肥沃な農地を受け継いだことで状況が一変してしまいます。

T型フォード 

 棚ぼたで農夫の妻という単調な生活が嫌になった妻は、食肉加工工場を建てたい大企業に土地を売って都会に住みたいと考えます。ウィルフレッドはその農地もトウモロコシ畑にしたいし、そこに食肉加工工場が建っては迷惑この上ないので大反対しますが、妻は離婚や裁判をほのめかします。なにしろ妻の土地なので、裁判沙汰では勝ち目がないウィルフレッドは、息子のヘンリーを味方につけ(都会に言ったら隣家のガールフレンドともお別れだぞ)、妻殺害を計画します。

ネブラスカ州 

 妻を殺し、失踪したことにして殺人の疑いを回避したウィルフレッドですが、罪を犯して無事では済みませんでした。実は「ビッグ・ドライバー」と「素晴らしき結婚生活」も女性が殺人を犯す話でしたが、全編暗い展開ながらも女性は罪を逃れます。一方妻殺しの夫は破滅するというのは男女差別のようにも見えますが、「ビッグ・ドライバー」の場合はレイプされて殺されかかった女性の復讐譚、「素晴らしき結婚生活」は夫殺しですが、その夫は実は連続殺人鬼で10回位死刑になっても仕方ないような輩でした。

ネブラスカのトウモロコシ畑 

 一方「1922」の妻は下品だしいけ好かない感じはあるのですが、殺されるほどの悪行はしていません。でも頑固で家業に固執したウィルフレッドは息子を抱き込んで殺してしまう。1922年といえば90年以上前で日本でいえば大正11年。今とは価値観とか様々なものが違ったのかも知れませんが、さすがに夫に逆らう妻を殺してもオッケーとはなりません。

ネズミ 

 涸れ井戸に妻の遺体を投げ捨て、井戸を埋めてしまってやれやれと思ったのも束の間、妻の亡霊というか無残な死体につきまとわれるウィルフレッド。その使者は、遺体を食い荒らしていたネズミです。それとは別に、母殺しに精神を病んでいく息子は、中学生の身で隣家のガールフレンドを孕ませてしまいます。カンカンに怒る隣家の主人。娘を「過ちの子」を孕んだ女性を収容する施設(生まれた子供は養子に出す)に入れ、その費用の一部を請求してきます。やむなく払う気になるウィルフレッドですが、息子の愛は予想を超えていました。

ボニーとクライド 

 銃を手に入れ、行く先々で強盗をする二人は「恋する強盗」を名乗って逃避行。映画「俺たちに明日はない」のモデルになったボニーとクライドみたいですが、年代的にはそれより10年位前の話となります。でも生没年的には同世代。

俺たちに明日はない 

 ボニーとクライドの如く、この「恋する強盗」も遂には命運尽きて二人とも死んでしまいます。ウィルフレッドはネズミの噛み傷で左手首を失い、隣家も妻が去って家庭崩壊。ウィルフレッドもあれほど執着した農場を手放すことになってしまいます。それでもつきまとうネズミと妻の影。8年後の1930年、最期を迎えたウィルフレッドの遺体の惨状は、「CHAOS:HEAD」や「CHAOS;CHILD」で言うところの「ニュージェネレーションの狂気」のようでした。警察は自殺と判断しますが、そうでないことは読者には明かで…。妻殺しのシーンの残忍さといい、その後の展開といい、全く救いのない暗黒小説ですが、平明なキングの文体でどんどん読んでいってしまいます。

 「公正な取引」は、ある意味「Full Dark,No Stars」の中で一番明るい物語かもしれません。癌で死期も遠くない銀行員のデヴィッドは、ある日不思議な占い師に出会います。ジョージ・エルヴィッドと名乗る占い師はデヴィッドに悪魔じみた印象を与えます(エルヴィッド=ELVID→DEVIL)。

喪黒福造 

 アメリカ版喪黒福造のようなエルヴィッドですが、喪黒福造なら、忠告するタブーを守ることを交換条件に客の願いを叶えるが、最終的には客が欲に溺れたり、自我に負けてタブーを破ってしまい、酷い目に遭うというオチになりますが、そこは資本主義の権化であるアメリカ。しっかり金を要求してきます。

悪魔との契約 

 エルヴィッドが言うには、彼は延長屋なんだそうです、何を延長させるかは依頼者の望み次第ですが、代償に魂などは望まず、替わりに年収の15%を毎年口座に振り込むことを要求します。ではと寿命の延長を望むデヴィッドですが、エルヴィッドが言うには金だけではなく、生贄が必要なんだそうです。つまり依頼者の「負」を消すことはできないので、代わりにその「負」を背負い込む者が必要だと。そこでエルヴィッドはデヴィッドに誰か憎む者はいないかと問います。デヴィッドが挙げたのは意外にも学生時代からの親友・トムの名でした。

 その親友トムは学生時代から二枚目でスポーツのヒーローで、デヴィッドは勉強を手伝わされたり彼女をNTRされたりさんざんな目に遭っていました。銀行員になってから、デヴィッドはトムの無謀ともいえる事業に融資するため奔走しますが、それは実はトムを破滅させたいという黒い願望故でした。ですがトムは賭けに勝ち、今や大金持ち。息子娘も美男美女で成功への道まっしぐら。デヴィッドも別の女性と結婚して子供達がいますが、旗色は明らかにトムに優勢。

 しかし、エルヴィッドと契約してから、一気に大逆転が起きます。あちことに転移していた癌は消え去り、娘も息子も成功への道を進み始めます。反面、知らない間にデヴィッドの「負」を背負い込まされたトムは、妻が癌で死に、子供達も相次ぐ不幸に見舞われ、事業まで破綻していきます。そばにいて、親友の不幸に同情し、励まし続けるデヴィッドですが、その不幸の元凶は自分であることは百も承知。

 銀行員だけあって、毎年律儀に年収の15%を払い続けるデヴィッド。そのままデヴィッドにとってハッピーなままに物語は終わります。でもイマイチ読者を割り切れない気分にさせるのは、やはり罪を背負った幸せだからでしょうか。ま、デヴィッドにとっては復讐という暗い愉悦を含んだ幸せというだけかも知れませんが。

 エルヴィッドによれば、寿命の延長と生贄の不幸は契約によるものですが、デヴィッドの家族が幸せになるかどうかはあくまで彼らの問題であって契約とは無関係だそうです。ということはデヴィッドの娘・息子の成功はあくまで彼らの努力の賜ということになります。でもデヴィッドが死んでいたら果たしてもたらされたかどうか判らないので、デヴィッドの生存と成功は大きな影響を与えていることでしょう。自分一人の力で成功したなんて思ったら大間違いで、何かが一つ狂っただけで全然違う人生が待っている…そんなことを思わせる作品でした。

旅のラゴス:人生は旅、旅は人生

プレミアムフライデー

 昨日のプレミアムフライデー、いかがお過ごしでしょうか。てっきりお国の指示で3時で終業なのかと思ったら、自主的に有給休暇(時間休)を取れというショボい話で…。それなら自分の都合で休むっての。いっそ金曜日を半ドンにしてくれると嬉しいんですけど、自分の有給休暇使えって話だったらノーサンキューですね。

旅のラゴス 文庫版 

 本日は筒井康隆の「旅のラゴス」を紹介します。筒井康隆というと、若い頃は貪るように読んだものですが、そのせいかドタバタ、エログロナンセンスといった黒い笑いのSF作品という印象が強いのですが、本作は全く違っていました。

虚構船団 

 そもそもそういった作品は作家としての経歴の初期の60~70年代のものが多く、80年代以降は前衛的な作品を発表しているんですよね。「虚構船団」とか「ロートレック荘事件」なんかを読んでいるので知らない訳でもなかったのですが。

断筆をめぐる大論争 

 そして断筆宣言(1993年)を経て断筆を解除した1996年以後はジュブナイル小説も復活させています。「愛のひだりがわ」はブログ記事にもしています(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-71.html)。それでもドタバタ・ナンセンスというイメージを持ち続けているのですから、若い頃に持ったイメージの影響力というのはそれはそれは凄まじいものがありますね。

愛のひがりがわ 

 「旅のラゴス」は1986年9月に単行本が徳間書店から刊行され、1989年7月に徳間文庫から文庫版が刊行されています。また1994年3月には新潮文庫からも刊行されています。新潮文庫版が刊行されて以来、息の長いロングセラーとして読まれ続けてきた作品ですが、2014年初め頃から1年ほどで10万部を超える大増刷となったそうです。テレビで有名人が紹介したわけでも、新聞に大きな書評が掲載されたわけでもないですが、ネットで「面白かった小説」といったテーマの「まとめサイト」でよく見かけるようになったということで、ネットでの口コミということなのかも知れません。

謎のベストセラー 

 私が手に取った図書館の文庫版も2015年8月発行の29刷なので、多分ネットで本書の存在を知った誰かがリクエストしたのでしょう。私もこれまで読んでいませんでしたし、特に注目もしていなかった作品なのですが、なるほど口コミどおりこれは当たりの作品ですね。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

旅のラゴス 新書版

 北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。

 まるで職業“旅人”なラゴスは、筒井作品の主人公として非常に理性的で真面目で、女性からモテまくるのですが、それも女たらしとかいうのではなく、好人物であるこということが周囲の人々にそこはかとなく感知されるが故のようです。だから男からも大体好意を持たれます。そんなラゴスが生まれ育った先進的な北部の都市から野蛮かつ治安の悪い南部に旅を続けていきます。

 その過程で、ラゴスが旅するのがグループ全員がテレポートする「集団転移」、家畜と心を通わせる「同化」、その他予知能力、読心術などが当たり前の技術として存在する世界であることが明らかになっていきます。内容紹介に登場する「壁抜け」は、大道芸人ただ一人にしかできない技とされていますが、ラゴスも試しにやって成功しているので、しっかり体系化されれば誰でも出来るのかも知れません。

 そういった超能力が存在する反面、文明レベルは現代以下、というか16、17世紀レベルなこの世界。途中で奴隷にされて7年もの間、銀鉱山で働かされたりしながら、なおも南へと向かうことを止めないラゴスの旅の目的は一体何か? 以後ネタバレになります。未読の方はご注意を。

旅のラゴスを描く 









 ラゴスが目指したのは海を渡ってさらに南方の別の大陸にある「着地点」。そこは2000年以上前に宇宙を旅してきた先祖の宇宙船が着陸した場所でした。1000人いた乗組員は全員高度な技術の専門家でしたが、コンピューターやロボットの支援が必要な技術ばかりだったので、未開の地では継承することができず、その子孫達は遥かに後退した文明で拡散していくほかありませんでした。

宇宙船廃墟のイメージ 

 ただし、宇宙船が運んできた各種の書物はポロという森の中の村の一隅の宇宙船の一部を使ったと見られるドームの中に集められ、散逸の処置を執られて保管されていました。学者達は誰でもここに来れば好きなだけ書物を読むことができますが、持ち出すことは禁じられているほか、危険極まりない旅をしなければならないので、知識の継承より書物の風化が先でないかと憂慮されているのでした。

 ラゴスはここで15年以上を過ごして、書物を読み続けますが、その間にコーヒーの木が野生化して繁殖しているのを知ってコーヒーの作り方をポロの村に伝授し、村はそれを交易品とすることで繁栄していきます。ラゴスがドームに籠もっている間にポロは豊かになり、商人が大挙して訪れるほか、周辺からその繁栄ぶりを狙われるようになっていきます。

王様 

 ラゴスの教示により大砲を備えて襲撃者を撃退するポロは遂に王国となり、ラゴスは王に据えられます。二人の妃に2人の王子、1人の王女を持ったラゴスは奴隷から王様までという、ドラゴンクエストⅤの主人公のような流転を経験しますが、ラゴスにとっては身分などどうでもいいものでした。

 ラゴスは旧文明のエッセンスを羊皮紙に書き込み、王国を密かに出てそれを生まれ故郷である北部に伝えようとします。しかしその途中でまた奴隷に商人に捕らえられて奴隷にされ、せっかくの羊皮紙は愚かな奴隷商人によって散逸させられてしまいます。

奴隷 

 しかし、奴隷売買のために連れて行かれたのはラゴスの一族が市長を務める北部の都市でした。しかも既に北部では奴隷制は廃止されていたという。時代錯誤な奴隷商人は哀れお縄となり、ラゴスは解放されて両親の元に戻ることができました。

 そこで穏やかな暮らしができるかと思われましたが、ラゴスが伝える旧文明の知識は周辺のインテリ達の評判を呼び、あちこちにひっぱりだこになります。そしてあまりうだつがあがらず、「兄よりすぐれた弟など存在死しねえ!!」的な(ジャギ兄さんほどひどくはないですが)兄との不和や、幼馴染みでもある兄嫁が寄せる密かな愛情(プラトニックですが)などにより、故郷にして生家にも居づらくなっていくラゴス。

ジャギ兄さん 

 そんな時、世界中を旅したという画家が残した放浪記を読んだラゴスは、北にいるという「氷の女王」の挿絵に驚愕します。それは旅の初期、恋に落ちた遊牧民族の少女が成長した姿に他なりませんでした。その少女はラゴスを待っていましたが、強い読心力を持つが故に傷つきやすく、何かというと暴れて厄介者扱いされていた青年を見かねて結婚し、二人で集落を去ったという話でした。盗賊の頭になったという噂もありましたが、その後の消息は不明となっていました。

 ラゴスは、「氷の女王」に会おうとして、今度は北へ北へと向かいます。既に70歳を超えたラゴス。少女もとっくにBBAを通り過ぎているはずですが、ラゴスのイメージは可憐な少女のまま。といって耄碌したとか痴呆症だとかいう訳ではありません。

氷の女王 

 「わたしは、そもそもがひとつ処にとどまっていられる人間ではなかった。だから旅を続けた。それ故にこそいろんな経験を重ねた。旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。たとえ死であってもだ。人生とおなじようにね」というラゴス。吹雪の中に踏み出すラゴスのシーンで物語は終わり、ラゴスは果たして氷の女王に会えたのかどうかわかりませんが、きっと会えたんじゃないかと思います。そこは天国かも知れませんが。

映画版パプリカ
 
 これは「パプリカ」のように、劇場アニメ化とかありじゃないでしょうかね。というか是非制作して貰いたいです。世界各地の奇妙な光景、奇妙な人々。そしてラゴスが出会ういろいろな美女達……きっと絵になると思うんですよね。
 

かばん屋の相続:銀行を舞台とした池井戸潤の短編集

けものフレンズ

 今日は猫の日ですね。だからという訳ではないですが…やあ!キミはどんなフレンズなの!?僕はねえ…猫好きなフレンズなんだよ!すっごーい!わーい!たーのしー!!

ゲーム版は終わっちまったけものフレンズ 

 ……え~、ということで、杉田智和の「アニゲラ!ディドゥーン!!!」でめっちゃ推していたので「けものフレンズ」を見たら…すっかりハマってIQが10くらい減少しました。ネットではとっくに大人気だったらしいですが、なにしろ情弱なもので。

2話のフレンズ達 

 誰でも楽しめる…というタイプの作品ではないと思いますし、私自身1話だけだと「おいおい」的感想になってしまっていましたが。とりあえず3話まで見ましょう。3話で登場するトキとアルパカはインパクト大です。アルパカはバリバリの栃木弁だし、トキは金朋地獄ですよ。

トキ…病んでさえいなければ 

 ト…トキ……病んでさえいなければ…(笑)。それでダメなら打ち切りましょう。

金朋のトキ 

 棒読み独特な演技が光るサーバルちゃんですが、だんだんハマってきてしまいます。相手を否定せずに基本全肯定、わかりやすいワンフレーズの連呼、オウム返しと感嘆の嵐というサーバルちゃんは、コミュ力の高い人気キャバ嬢のようだという声も。ちなみに「たーのしー!」は2話でコツメカワウソが言っていましたが、いつの間にかパクったなサーバルちゃん(笑)。

サーバルちゃん 

 フレンズが女の子だけなのはなぜ?正体不明の敵・セルリアンって何者?食物連鎖が消えて代わりにどこからともなく出てくる共通食料「ジャパリまん」は何の味?EDの廃墟の遊園地は何を意味しているの?など謎もたくさん。

かばん屋の相続 

 さて本題ですが、本日は池井戸潤の「かばん屋の相続」を紹介しましょう。2011年4月10日に文庫オリジナルとして文春文庫から刊行されました。2005年から2008年にかけて文藝春秋社の「オール讀物」で掲載された短編6編が収録されています。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 池上信用金庫に勤める小倉太郎。その取引先「松田かばん」の社長が急逝した。残された二人の兄弟。会社を手伝っていた次男に生前、「相続を放棄しろ」と語り、遺言には会社の株全てを大手銀行に勤めていた長男に譲ると書かれていた。乗り込んできた長男と対峙する小倉太郎。父の想いはどこに?表題作他五編収録。

地方銀行 

 いずれも元銀行員だった池井戸潤が得意な銀行ものですが、大銀行ではなく地方銀行や信用金庫など、中小企業を相手にする地元密着型の金融機関を舞台にしたものが中心となっています。完全無欠なハッピーエンドという作品はなくて、ほろ苦い終わり方をするものが多いです。

 「十年目のクリスマス」。10年前に火災事故で倒産した中小企業の経営者を見掛けた銀行員。当時融資を求められたのに応えられず、見殺しにせざるを得ない状況の中、必死に金策をしていたはずなのに、今はすっかり裕福そうです。この10年の間に一体何があったのか?

中小企業 

 「セールストーク」。零細印刷会社の融資申し込みを断る銀行。担当者は何とかしてやりたいと思っていましたが、支店長が頑として首を振りませんでした。それを聞いた印刷会社社長は激怒。何やら社長と支店長の間には秘密がある様子です。窮鼠猫を噛むで、社長が取った手段は…。本作で唯一スカッとする話ですが、そのために支店長を悪人にしすぎたきらいもあります。

約束手形 

 「手形のゆくえ」。ちょいワルを気取ってロックな生き方をしながらもそれなりに成果も挙げてきた若手銀行員が、受け取った1000万円の手形を紛失してしまいました。銀行内をくまなく探しても出てこない手形。手形の振り出し先や受け取り先を駆け回りますが、「銀行が悪い」でけんもほろろ。日頃いかに銀行が恨みを買っているかが判ります。そして遂に判明した手形の在処は…。内部処分待ったなしですが、恋は身を滅ぼしてしまうものなのか。身を滅ぼしても惜しくないだけの恋愛をしたい、なんてことも思ったりもしますが、その後がねえ…

 「芥のごとく」。女手一つで20年間鉄商会社を続けてきた大阪のパワフルおばちゃん。経営は火の車ですが、その生き様に感銘を受けて、共に頑張りたいと思う新人銀行員。毎月25日は金策に駆け回ってギリギリ入金ということを繰り返えすおばちゃん社長を支えるべく、熱い稟議書を書いて応える銀行員。綱渡りながら、いい関係が築けるかと思った矢先、おばちゃん社長痛恨のミス。なんとかするべく取った手は、破滅への第一歩…。悪人が出てこないだけに、一番悲しくやりきれない話です。

メガバンク 

 「妻の元カレ」。学生時代は地味だったけど、就職氷河期の中、銀行に就職を決めて一気に「勝ち組」となった夫。妻は大学のテニスサークルの花で、イケメンと付き合っていましたが、なぜか別れて自分と一緒になってくれました。そのイケメン、就職活動に失敗してフリーター生活を送っていたということで、いわば「負け組」。ところが「負け組」イケメン、一転攻勢で会社を立ち上げて社長となりました。そして密かにイケメンと逢瀬を重ねる妻。「勝ち組」だった夫はあまりうだつが上がらない課長補佐で支店を転々。子供のいない夫婦の間に秋風が吹き始めて…。NTRか?NTRなのか!?と興奮したいところですが、そういう話ではありません。はっきり描かれていない妻の心理に視点を合わせるとまた興味深いストーリーになりそうです、長編にリメイクしても面白いのではないかな。

 表題作「かばん屋の相続」。これは現実にモデルとなった事件があって、21世紀早々に京都にある布製かばんのメーカーである「一澤帆布工業」で起きた相続トラブルだ下敷きとなっています。こちらは「第2の遺言書」の登場とか長男と三男の訴訟合戦など、様々な話題を呼びました。

一澤帆布のかばん 

 「かばん屋の相続」はもう少しシンプルで、親の遺言で銀行員だった長男がかばん屋を継承することになり、それまで専務としてかばん屋を実質的に経営していた次男は新会社を興します。すると職人全員が次男について退職することに。退職金を支払うために取引先だった信用金庫に融資を求める長男ですが、先行き不安ということで信用金庫はいい顔をしません。大銀行に勤めていた長男は居丈高な態度をとり続けますが、やがてなぜ次男に「相続を放棄しろ」と言っていたのかが判明する日が来ます。問題解決に10年もかかった一澤帆布工業に比べると短期で、しかもスッキリと解決しています。

預金通帳  

 しがないリーマンである私にとっては銀行というのは乏しい月給の預け先程度の認識しかないのですが、日々の生き残りに必死な中小企業にとっては喜怒哀楽の舞台なんですね。社長なんてカッケーっと思っていましたが、なればなったで苦労が絶えないようです。

ナースコール:男心を惑わせる「ナース」という単語

春一番

 昨日は関東地方で春一番ということで、強い南風が吹きました。気温もぐっと上がって20度超えとか。思わず「アツゥイ!」と言いたくなりましたが、これはヤツがやって来ますね。そう、スギ花粉です。でも一転して今日は花粉が飛びそうにない寒い曇天。三寒四温という時候なんでしょうか。

ナースコール 

 本日は宮子あずさの「ナースコール」を紹介しましょう。宮子あずさの本は初めて読みました。

宮子あずさ 

 宮子あずさは1963年6月30日生まれで東京都出身の看護師・エッセイストです。母は作家・評論家の吉武輝子。この人は慶應義塾大学卒業後に東映宣伝部で活躍し、日本で初めての女性宣伝プロデューサーとなった人で、フリーになってからは女性問題中心に評論活動を行い、参議院選挙に出馬したりしています(落選)。

吉武輝子 
 
 宮子あずさはママンである吉武輝子の強い勧めで明治大学に入学したものの、学歴だけを手に入れるということを疑問に感じて中退し、看護専門学校に入り直して1987年から看護婦として勤務しました。文中看護婦と書いたり看護師と書いたりややこしいですが、今女性の「看護師」と呼ばれる人々をかつては「看護婦」と呼んだのでした。男は「看護士」と呼ばれていましたが、2001年に「保健婦助産婦看護婦法」が「保健師助産師看護師法」に改定されたことにより、2002年3月から男女ともに「看護師」という名称に統一されることになりました。しかし、「看護婦」という名称に差別とか蔑視といったニュアンスは感じられず、むしろそこはかとなく素敵な雰囲気を感じるのは私だけでしょうか。可能であれば「看護婦」という名称は残して欲しかったな。ま、ままならぬのが人生です。

 

 2009年3月に勤務先を退職し、現在は精神科病院のパート訪問看護師として勤務するかたわら、大学非常勤講師やコラムニストを務めています。看護師として勤務中も通信教育で短大や大学を卒業し、教育学修士や看護学博士の称号も所有しています。看護師の仕事も夜勤とかあって不規則そうですし、激務そうですが、よく学問への興味を持ち続けたものですね。母からの遺伝なんでしょうか。

単行本ナースコール

 看護婦となる前から著作があった作者ですが、本書は「ナースコール : だから看護婦はやめられない」と題して1997年7月に講談社ニューハードカバーとして刊行されました。内容は科学雑誌Quarkと東京新聞に連載されたエッセイをまとめたもので、1993年から1996年の頃の作品がテーマ別に並び替えられています。

 文庫版は2010年12月15日に講談社文庫から刊行されました。例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

白衣の天使達 

 看護師の仕事は魅力的!? 「○○さん、頑張ってね」と患者さんを励ますうちに、不思議なことに自分までが元気になってくる。ときに、やりきれなさや限界を感じつつも、「“辞めたい辞めたい”も“仕事が好き”のうち」と続けてこられた理由を、病院内の人間ドラマや身近な出来事で綴った、看護師の本音エッセイ。

 夜勤、不定休、ミスの許されない仕事、死との直面…私の看護師に関するイメージはひたすらハードそうだな、というものなんですが、宮子あずさに言わせれば精神的に追い詰められたりしたことはあっても、辞めようと思ったことはないのだそうです。内科と神経科(精神科)で勤めたからなんでしょうか。というのは外科手術に立ち会って失神した経験があるそうなので。

夜のナースステーション - コピー 

 どんな病院でも色んな患者がいていろんな医者・看護師がいる。そんな中で一所懸命に務めても評価されず心が折れそうになったりもする。それでも続けていけるのは、性格的な向き不向きもあるんでしょうが、やはり心の持ちようなんでしょうね。同じ職場に長く勤務する人が少ないそうですが、それは看護師という仕事を辞めたということではなく、別の病院などでやはり看護師として勤務していることが多いようです。そういう意味ではつぶしがきいて羨ましい職業でもありますね。

 「○○さん、頑張ってね」と患者さんを励ますうちに、不思議なことに自分までが元気になってきたり、時としてやりきれなさや限界を感じつつも、「“辞めたい辞めたい”も“仕事が好き”のうち」と続けて行く看護師達。心を折るような態度を取るのが患者なら、ほっこりさせるのも患者。あるだろうとは思っていましたが、病院内の人間ドラマはそれはそれは色々あるようですね。

ナースのお仕事劇場版 - コピー 

 病院に行ったことがない、という人は日本ではほぼいないでしょうけど、実は私、入院体験がありません。それは幸せなことには違いないんですが、ちょっと美人ナースに甲斐甲斐しく看護してもらうなんて憧れがあったりします。まあ実際入院したらそんな心に余裕はないのかも知れませんし、ナースは忙しいから四六時中付き添ったりしてくれないのでしょうけど。

透けない白衣 

 ちょっと前に「透けない白衣」が開発されたというニュースがありましたが、制作会社には「こんなもの作るな」と怒鳴る電話や、無言電話がかかってきたとか。まったく男ってヤツはつくづくバカですねえ…

ナースキャップ 

 かつては白衣と共に看護婦を象徴するものとして、ナースキャップがありました。看護学生が病棟実習に出る前に看護師としての意識を高めるため、初めてナースキャップをかぶる「戴帽式」というセレモニーがあったりして、たとえオールヌードだったとしてもナースキャップさえ付けていれば看護婦さんだとわかるという、象徴的アイテムでしたが、ナースキャップの形を整えるノリが細菌増殖の温床になっていることが判明したり、ベッドサイドで処置をする際にナースキャップが点滴セットに触れて外れそうになったり、精密な医療機器のボタンに触れて誤作動をさせたりなどの事故がしばしば起きたことから、現在ではほぼ廃止されているようです。

戴帽式 

 ただし、戴帽式はやっと一人前の看護師になれるんだという喜びと自覚を新たにする伝統の行事なので、現場においてはナースキャップが廃止されても、式典においてはナースキャップを頭に載せてもらうということを継続している所もまだまだあるようです。

 ところで…看護婦とかナースという単語がどれだけオノコに影響を及ぼすかについてですが、本書のタイトル「ナースコール」。これ自体に決して性的なニュアンスはないはずなのに、ググってみると出てくるのは…

風俗のナースコール 

 例えばこれ。痴女M性感だそうですが…ナースコールとどういう関連があるんでしょうか。

ナースコールガール - コピー 

 さらにこんなのも。ナースコールガールって、駄洒落かYO!美乳解放病棟だそうですってよ、奥様!!
ゲーム版ナースコール - コピー ナースコールパケ裏 - コピー

 当然(?)エロゲーにもあったナースコール。どうやら1998年頃のゲームのようですね。セックスをしても最後までイケないという深刻な悩みを抱えた主人公が訪れたのは、可愛い美少女達の待つ病院だった…という設定ですが、本当にそこは病院なのか?上にあった痴女M性感なんじゃ…

映画版ナースコール 
 映画もありました薬師丸ひろ子主演の「ナースコール」。1993年の作品ですが、ということは本書が原作ということは無いわけですね。ナースの日常を静かに描いたドラマだそうです。

天使大学 - コピー 

 ナースといえば「白衣の天使」ですが、北海道・札幌にはずばり「天使大学」があります。カトリック系で全国的にも珍しい看護栄養学部(看護学科・栄養学科)を有し、多数の看護師、保健師、管理栄養士を輩出しているそうです。まさに天使養成学校ですね。白衣の天使が集う天国みたいな所…というイメージしか湧いてきませんね。

ウルトラセブンと戦うナース - コピー 

 完全な余談ですが、ウルトラセブンにナースという怪獣が出てきました。「宇宙竜」という別名を持ち、金色の竜型ロボットだけど頭部を中心に渦を巻くことで円盤状に変形が可能という。それはともかく、なんでナースという名前なんでしょう。竜ということで「ナーガ」とかだベタですが理解できるんですが。ナースの綴りはNURSEで、まんまナースなんです。

円盤形ナース 

 すっかり本書の内容から脱線してしまいましたが、それだけ「ナース」という言葉が魔力を持っているということで。今後お世話になることもあるでしょうが、せめてなるべく迷惑をかけない患者になりたいと思います。

S先生の言葉:大脚本家・山田太一のエッセイ・コレクション

正男さん

 有望若手女優は出家するは、半島一家の正男さんは毒殺されるはで世間はたいそう騒がしいですね。いやあ、暗殺ってまだまだ過去の遺物じゃないんですね。ゴルゴ13の連載が続く訳です。

某若手女優 

 女優の出家の方はそれに比べればまだしも平和ですが…やはりいきなりだと各方面に大きな影響を及ぼすでしょうね。とりあえずあそこの教祖様は近日中に「正男です。」的な霊界からのメッセージ本を出版しそうな気がします。

S先生の言葉 

 で話はがらりと変わって、本日は山田太一の「S先生の言葉」を紹介しましょう。脚本家として有名な人ですが、山田太一の本を読んだのは初めてです。

山田太一 

 山田太一は1934年6月6日生まれで東京都台東区浅草出身。小学3年生の時に戦争による強制疎開で神奈川県湯河原町に家族で転居しました。神奈川県立小田原高等学校を経て、1958年に早稲田大学教育学部国文学科を卒業しました。

木下恵介 

 在学中から小説を書いていましたが、当初は教師になって休みの間に小説を書きたいと思っていたようです。しかし就職難で教師の口がなかったため、松竹に入社し、助監督として木下惠介監督に師事しました。木下恵介といえば黒澤明と並ぶ巨匠で、「二十四の瞳」とか「喜びも悲しみも幾歳月」「楢山節考」などの代表作があります。

岸辺のアルバム 

 1965年に松竹を退社して、フリーの脚本家となり、主としてテレビドラマの脚本を手掛けました。代表作は「岸辺のアルバム」「早春スケッチブック」をはじめ、「男たちの旅路」「ふぞろいの林檎たち」などなど。倉本聰、向田邦子と並んで「シナリオライター御三家」と呼ばれました。

異人たちとの夏 

 脚本:シナリオだけでなく、小説やエッセイも多数手掛けており、小説「異人たちとの夏」では山本周五郎賞と日本文芸大賞、エッセイ「月日の残像」では小林秀雄賞を受賞しています。「S先生の言葉」は、多数執筆されたエッセイの傑作編の第一弾として2015年10月10日に河出文庫から刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

早春スケッチブック 

 「岸辺のアルバム」「早春スケッチブック」「ふぞろいの林檎たち」…名作テレビドラマの数々を送り続けた脚本家は、折にふれ、思いや記憶を書き留めてきた。忘れえぬ人、心に残る言葉、家族、戦後日本。頁をめくれば哀愁を帯び色気を放ち、大切な何かがよみがえる。山田太一エッセイ・コレクション第1弾。

月日の残像 

 本書には70年代中盤頃から2000年代初頭のエッセイが収録されています。身辺雑記から青春時代の回想、松竹の助監督時代の思い出、他著の解説など雑多に亘っていますが、特に面白いと思ったのは青春時代の回想でしょうかね。

ヒロポンを扱った漫画 

 表題作の「S先生の言葉」は中学校で出会ったヒロポン中毒のS先生を描いた作品です。ヒロポンとは要するに覚醒剤のことで、現代だったら問答無用で逮捕なんですが、戦後の一時期までは合法だったようで、「サザエさん」で有名な長谷川町子のマンガにも原作にもヒロポンを扱った作品があります。

ヒロポン 

 ちなみに使用すると、頭にあったモヤモヤが一気に消え去り、爽快な気分になって、体に力がみなぎるような錯覚をして、途轍もない集中力を発揮するそうです。代わりに効果が切れるとこの世の終わりと思わんばかりの苦痛が待っているそうなので、君子危うきに近寄らずがよろしいようで…

パスカルのパンセ 

 その戦争体験故の悪癖を持ったS先生ですが、授業は実に真面目だったようで、パスカルの「パンセ」の一節を引用して「宇宙は、なにも知らない。だから、人間の尊厳の全ては、考えることのなかにある」の「だから」の部分を「そうだとすれば」に変えたときの相違を縷々述べたのだそうです。「宇宙はなにも知らない」と断定できるのであれば「だから」でもいいのですが、できないのであれば(普通できませんね)「そうだとすれば」と言う方が適切であると。そして山田太一は自分には「そうだとすれば」という姿勢が足りないのであとつくづく思い知らされたのだそうです。

ふぞろいの林檎たち 

 青春時代は多感ですから、色んな人のセリフや書物の一節が大きな影響力を与えますが、S先生に傾倒するあまり、中学教師こそが教職のなかで一番重職だという思いが今でもあるとか。私も先生というものに尊敬の念を持てたのは中学生まででしたね。高校教師というのものにはどうしても批判的な見方をしてしまったような。それだけ精神的に成長して、盲信とかいうものから脱却して批判精神が涵養されたともいえるのでしょうけど。

マリリン・モンロー 

 「モンローの魅力がわからなかったころ」では、高校時代は奥手な友人の恋路を応援するために色々とバカやっています。エッセイなどで青春時代を取り上げたものは大抵バカをやっているのですが、山田太一も例外ではなかったということですね。もっとも真面目一筋で勉強ばかりしていたというのではエッセイの題材になりませんが。男子高校生なんてものは多かれ少なかれ昔も今もバカやったり余計なことやったりしているものなんですね。男の“性”なんでしょうか……

ポケットジョーク ブラックユーモア 

 「抜き書きのすすめ」では、学生時代から読んだ本の抜き書きを行っていたという話で、読み返すと当時何に感銘を受けたのかがわかって日記のような効果があるとか。また今読んでも感銘を受けたり、逆にさほど感銘しなかったりするのが、年齢を重ねても変わらない感性とか変わってしまった感性を象徴するのかもしれません。私は抜き書きはしないのですが、角川文庫の「ポケットジョーク⑤ブラックユーモア」では面白かったものに赤線が引いてあって、これを読むと感性の変化がわかって結構面白いです。一部は2012年5月20日付のブログ記事に掲載しております(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-10.html)。

性悪猫 

 やまだ紫の「しんきらり」と河合隼雄の「とりかえばや、男と女」の解説文も収録されていますが、残念ながらどっちも読んでいませんでした。やまだ紫といえば「性悪猫」ならずんぶん昔に読んで大いに感銘を受けましたね。  

頂上決戦:警視庁公安部・青山望シリーズ第7弾

全部インスタイル

 最近テレビで見たんですが、シャツなどのトップスをパンツやスカートにインしてもオシャレだという「全部イン」とか「前だけイン」なんて着こなしが女子の間に流行っているそうじゃないですか。私は大抵全部イン状態で生きてきたので、「遂に時代が私に追いついてきたか」「かぁ~つらいわ~!追いつかれてしまったか~!オレのファッションセンスが遂に世間に追いつかれてしまったか~!かぁ~!」(地獄のミサワ風)なんて思っているのですが…(笑)。どうせイケメンはいいけどそうじゃないのなダメか言うんでしょうな。

あ~はいはいはいはい 
 
 さて話は変わって本日は濱嘉之の「頂上決戦 警視庁公安部・青山望」を紹介しましょう。単行本描き下ろしで2016年1月10日発刊ということで1年以上前の作品なんですが、私にとってはほぼ最新刊。既に第9弾まで発刊されているようですが、私が読めるのは図書館がいつ置いてくれるかによりますね。ここまで置いたんだからいずれは置いてくれるんでしょうが。

警視庁公安部・青山望 頂上決戦 

 前巻「巨悪利権」では青山望をはじめとする警視四人組の中から、刑事部捜査二課の龍一彦が暴力団に襲撃されて病院送りにされましたが、今度は青山本人に刺客が迫ります。例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

フグの肝 

 初冬の温泉郷で発生したフグ毒殺人は、公安vs巨悪「頂上対決」の幕開けだった―。上海と香港の中国マフィア勢力争い、新旧日本ヤクザの利権争い、そして警視庁に巣食う派閥争い。それぞれの大分裂が絡み合う中、青山ら同期カルテットが対峙する新たな敵の正体とは。公安警察を知りつくした著者による人気シリーズ第7弾! 

博多湾 

 前巻で「悪のカリスマ」とされた半グレ団体「東京狂騒会」出身の神宮司武人を逮捕した青山ですが、その背景には日本一の巨大暴力団岡広組、チャイニーズ・マフィア、極左団体、宗教団体、さらには政治家と様々な勢力の思惑が隠されていました。特に岡広組は、旧来の下部組織からの上納金収奪型の総本部と、経済活動に特化した反総本部に二分され、抗争状態に入ることになってしまいました。このあたり、現実の巨大暴力団の分裂抗争を思わせますね。
 
爆買い 

 博多には巨大客船で大陸国家から大挙して観光客が押し寄せるということで、大きなビジネスチャンスが潜在しました。それに早くから目を付けていた反総本部側と、それを奪わんとする総本部側の戦いは、鉄砲玉の派遣という段階に。それを阻止線とする青山率いる警視庁公安部の精鋭部隊は、福岡県警もぶっ飛ぶハイテク捜査により次々と犯罪計画を解明していきます。

異形鉄筋 

 しかし、岡広組もバカばかりではありません。戦争におけるセオリーどおり、敵の指揮官を狙うという作戦を取ってくることになります。前回は龍を狙いましたが、今回はずばり青山がターゲットになりました。今まで作中では暴力的修羅場に遭遇してこなかった青山ですが、今回ばかりは危機一髪となりました。

博多の屋台

 ですが、九死に一生を得たような形ですが、襲撃が失敗してみればどこから情報が漏れたのかなど反撃の機会が生まれることになります。公安警察内部にも敵の手が伸びていることを知り、青山の弔い合戦(死んでないけど)に燃える部下達の働きにより、今回は関東のチャイニーズマフィアのトップである袁偉仁のタマを取ることになります。

青山のレストラン 

 博多に東京にと多忙を極める青山ですが、忙中閑ありといいますがその諺とおりに博多の屋台や有楽町のガード下で料理に舌鼓を打ちつつ酒を飲む青山。出来る男は仕事と遊びを両立するんでしょうかね。そして私のような出来ない男はどっちも中途半端で何のための人生かわからないと。

有楽町のガード下

 前巻でカルテットの一人藤中の親戚とお見合いをした青山ですが、相手の銀行総合職の武末文子との交際は続いています。デートはちゃんと青山のレストランとかでやってるんですね。グルメで酒飲みの青山ですが、文子もウワバミ級。酒癖の悪い人は困りますが、いい酔い方をするなら飲める人の方が楽しいですね。

 仁義なき戦い

 今回命が助かったのも一緒にいた藤中のおかげですから、これはもう結婚するしかないでしょう。銀行の総合職で給料も青山より高いらしい文子と一緒なら、グルメ道も酒道も楽しく進めそうです。結婚も時間の問題かな

新宿黒社会 

 このシリーズは現実の世界の動きともかなり連動しているので、この団体のモデルはあれだなと想像するのも楽しいです。例えば岡広組→岡山・広島→その先の県は…と考えるとモデルは一目稜線ですね。その他も大体見当がついたりします。楽しみながら世相がわかるという学習漫画的な要素もあるようです。

後藤田正晴 

 濱嘉之は警察出身の作家ですが、作中で警察出身の政治家については青山の口から毒舌をかましています。唯一偉かったと評価している政治家は後藤田正晴のようです。後藤田さんの評価が高いのは世間的な共通認識のようですが、弟子格の佐々淳行あたりももし政治家になっていたら評価されたんでしょうか。

佐々淳行 

 余談ですが、後藤田さんが「絶対に総理にしてはいかん。あれは(市民)運動家(出身の政治家)だから統治ということはわからない。あれを総理にしたら日本は滅びるで」と発言したその人、現実に総理になってしまったんですよね。その結果えらいことになったのは周知の事実ですが…やはり慧眼!え?誰のこと、ですか?それはWikipediaあたりで後藤田さんの記事を読んでいただければ自ずと…

KN人 

赤い指:“家族の闇”を暴く加賀恭一郎シリーズ第7作

メイトーのなめらかプリン

 最近メイトーの「なめらかプリン」にはまっています。プリン系はそもそも好きなんですが、コンビニで色々試してみた結果、コストパフォーマンスが一番優れているのはこれではないかと。公式HPでの宣伝文句は“風味豊かな牛乳と卵をたっぷり使い、卵の力だけでじっくり丁寧に蒸しあげました。クリーム感が引き立つ、上品な味わいです”ということです。一見量は少なめなんですが、密度が高くて満足感があります。

とろける杏仁豆腐 

 後は雪印メグミルクの「アジア茶房 杏仁豆腐」。パッケージには「濃厚とろける杏仁豆腐」と書いてあります。公式HPの宣伝文句は“とろけるような食感の、本格的で濃厚な味わいの杏仁豆腐です。「杏仁霜(あんにんそう)」にこだわった杏仁豆腐を、手軽にたっぷりとお楽しみいただけます。”ということです。トロトロ感があって名前どおり濃厚です。杏仁霜てなんやねんと思ったら、杏子の種を粉末に加工して砂糖、コーンスターチ、全粉乳などを添加したものだそうです。コンビニには色んなスイーツが売られていますが、現時点ではこの二つだけをを交互に食べてやっていけます。

赤い指 文庫版

 さて本日は東野圭吾の「赤い指」を紹介しましょう。最近はまっている加賀恭一郎シリーズの一作で第7弾になり、以前読んだ「新参者」の直前の話となります。シリーズ第2弾「眠りの森」では警視庁捜査一課の刑事だった加賀恭一郎は、所轄刑事となって練馬署で勤めています。優秀な刑事として名を馳せている加賀恭一郎が本庁から所轄に異動したのは、「眠りの森」で恋に落ちた浅岡未緒の裁判で、弁護側の情状証人として出廷したせいのようです。そしてこの後「新参者」でさらに日本橋署に異動する訳ですね。

 「赤い指」は2006年7月25日に単行本が講談社から刊行され、2009年8月12日に文庫版が講談社文庫から刊行されました。東野圭吾が「容疑者Xの献身」でで直木賞を受賞した直後に発表された、受賞語第一作の書き下ろし長編小説です。

単行本 赤い指

 本作から加賀の従弟で捜査一課刑事の松宮脩平や看護師の金森登紀子など、以降のシリーズ作品にも登場するシリーズキャラクターが登場します。一方、当初から確執があった父隆正は本作中で亡くなります。加賀父子の確執の詳細が判明するのも本作です。それでは例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。 

修平と恭一郎 

 元々短編として発表したものを、長編向きに書き直した作品で、その間に6年間が経過しています。作者曰く「構想6年、執筆2か月」だそうです。「このミステリーがすごい!」 2007年版では9位、2006年の「週刊文春ミステリーベスト10」では4位になっています。文庫本は2009年8月24日付のオリコン“本”ランキングの文庫部門で首位での初登場以来、7週連続首位を獲得し、累計部数は135万部を超えています。

 本作は犯罪を推理するものではなく、犯人サイドから犯行の模様が描かれた後、恭一郎達の捜査により真相が暴かれるという「刑事コロンボ」のような倒叙物と呼ばれる形式になっています。なので読者は真相を予め知っており、恭一郎がそこにどのようにして到達するかを見守るという形になるのですが、本作の場合は読者も知らなかった真相の一端を加賀が暴くことになり、驚かされます。

赤い指ポスター 

 認知症の老人を抱える家庭の物語で、高齢化社会の断面図的な状況の中、普通のサラリーマン家庭だと自分達が思っていた家庭が、実はそれぞれの深刻な問題を抱えていることに見て見ぬふりをしていたものが、遂に臨界点を超えてしまった時に何が起きたか、そしてどのように対処しようとしたかという物語です。

 息子が犯した少女殺人事件を隠蔽しようとする家族。しかし警察の追及にどうにも逃れられぬと悟った時にとった、愚かにして非道な手段とは。まあ読んでいて一番腹が立つのは殺人犯である息子・直巳なんですが、中3にして引きこもり気味でペドフィリアの傾向が強く、自らの犯した犯行について罪悪感が乏しく、あらゆる責任は両親など自分以外に押しつけようとするどうしようもない奴です。

真相を暴く加賀恭一郎 

 そのバカ息子を溺愛する妻八重子が二番目に腹が立つ人物で、我が強くて、自分と息子の直巳のことしか頭になく、姑とは折り合いが悪い。まあ嫁姑問題については一方的にどっちが悪いとは言い難いですが、直巳を溺愛し、罪を償わせようともせず、彼の将来を守ることを第一にし続けます。こんなバカ息子にはろくな未来がないと思うんですけどね。

 じゃあ主人公格の夫昭夫に罪がないのかといえばそういう訳でもなく、嫁姑問題や息子の問題に関し、仕事を口実ににはその場しのぎな言動を繰り返して目を背け続けていました。そして冷え切った関係の家族に安らぎを見出せず、水商売の女性と浮気をしていたりもしました。

赤い指 

 で昭夫の母にして八重子の姑である政恵は、認知症になった夫を看取った後、掃除中に足を骨折したことで、息子一家と実家で同居することになりましたが、今度は自身が認知症となってしまいました。

 唯一の救いは昭夫の妹の田島春美が近所に住んでいて、認知症になった政恵を思い出の詰まった実家から出すべきではないと考え、施設に入れたがる八重子に対し、自分が政恵の世話をすると説得して、毎日のように前原家に通って政恵の面倒を見てくれたことでした。家族に関する問題を何一つ素人もせず、八重子にも強く物を言えない兄の昭夫には呆れかえっています。

惚けたお祖母ちゃん 

 愛するムチュコたんが犯罪者になることを回避するために取った外道の手段…それは認知症の政恵が少女を殺したことにしようとするものでした。認知症だから自分が置かれた状況もわからず、故に罪も問われない公算が高く、愛する孫を救うことにもなる…一石二鳥どころか三鳥を狙った虫のいい作戦ですが、それに対して恭一郎がどのように対処するかが本書のキモです。

 家族の問題の物語ですが、それは加害者一家のみならず、恭一郎の側にもあります。癌で余命僅かな父の隆正を見舞おうともしない恭一郎。従弟で警視庁捜査一課刑事となった松宮修平は、隆正の妹の子にあたり、母子家庭で苦しい家計だった松宮家に救いの手を差し伸べ、援助してくれたのが伯父の隆正なので、実の父のように敬愛しています。刑事を志したのも、隆正が就いていた仕事だということが大きいようです。

恭一郎のパパン 

 そんな修平は、病に伏した隆正の元を訪ねようとしない恭一郎に大きな不満を抱いていましたが、隆正が息を引き取った後に恭一郎と隆正の深い絆を知ることになります。隆正は、担当する看護婦の金森登紀子と将棋を指しているのですが、実は恭一郎が指示した手を打っているだけでした。つまり隆正は恭一郎と将棋を指していたことになります。恭一郎のママンは20年前に失踪し、5年前に孤独死しているのが発見されました。修平はだから恭一郎が隆正に辛く当たっているのかと思っていましたが、実は孤独に死ぬことを望んで恭一郎に見舞いに来るなと命じたのは隆正の方だったのです。修平にも来るなと常々言っていましたが、何も知らない修平は恭一郎が来ないことに反発し、却って頻繁に顔を出していたのでした。

テレビドラマ版 赤い指 

 2011年1月3日ににTBS系「日曜劇場」枠で「東野圭吾ミステリー 新春ドラマ特別企画 赤い指〜「新参者」加賀恭一郎再び!」と題してテレビドラマ化されています。恭一郎を演じる阿部寛は、本作を加賀恭一郎シリーズの中で一番好きな作品と公言しており、原作に近づけて演じたそうです。

ワセダ三畳青春記:青春の終わりっていつなんだろう?

立春ですよ

 立春ですね。暖かいこともあってか、そこここで梅の花がほころび始めています。冬至から節分までの間、大学のそばにあった穴八幡宮では「一陽来復」のお守りを出していましたっけ。そんなことを思い出したのは、今回読んだ本のせいかもしれません。

穴八幡の一陽来復 

 本日は高野秀行の「ワセダ三畳青春記」を紹介します。高野秀行の本を読んだのは今回が初めてです。高野秀行は1966年10月21日生れで東京都八王子市出身。早稲田大学第一文学部在学中に探検部に所属し、国内はもとよりアフリカ・南米・東南アジアなどを探検しました。在学中にコンゴ探検をまとめた「幻の怪獣・ムベンベを追え」で作家デビューということになりますが、各地を探検している関係上、紀行・冒険もののテレビ番組関係などのライターしたりしてアルバイト料を稼いでいたようです。

ワセダ三畳青春記 

 ちなみにムベンベは、正式にはモケーレ・ムベンベという名前で、コンゴ・カメルーン・ガボンなどのアフリカ中央部の熱帯雨林の湖沼地帯に棲息しているのではないかといわれるUMAです。体の大きさはカバとゾウの間ぐらいで、ヘビのように長い首と尾を持ち、4本脚で、直径30cm以上の丸い足跡には3本の爪跡があるとされています。このとこからネッシーのように恐竜の生き残りではないかとも言われていますが、明確な証拠はまだ挙がっていません。

幻獣ムベンベを追え 

 「獣の列島」という漫画作品では、全長3~4メートルの環形動物に似た生物“獣(ワーム)”とされ、米軍が兵器化を試みて生体実験を行った結果恐るべき怪物となって人類を破滅に追い込んでいきます。知性を得るために女性は犯して子を産ませ、男は食料にするというとんでもない設定なのでごく一部にカルト的人気があるとかないとか。

獣の列島 

 「ワセダ三畳青春記」は、2003年10月22日に集英社文庫から刊行され、2005年に第1回酒飲み書店員大賞を受賞しています。なんだそのけったいな名称の賞はと思ったら、千葉県近辺の本と酒が好きな書店員と出版社営業が集まり、最も売り出したい本をコンペティションで決定する賞だそうです。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

モケーレ・ムベンベ 

 三畳一間、家賃月1万2千円。ワセダのぼろアパート野々村荘に入居した私はケッタイ極まる住人たちと、アイドル性豊かな大家のおばちゃんに翻弄される。一方、私も探検部の仲間と幻覚植物の人体実験をしたり、三味線屋台でひと儲けを企んだり。金と欲のバブル時代も、不況と失望の九〇年代にも気づかず、能天気な日々を過ごしたバカ者たちのおかしくて、ちょっと切ない青春物語。 

早稲田大学のそば 

 卒業出来る気がしないというほど大学の授業には出ず、探検部の活動に地道をあげていたので、当然ながらさっさと卒業→就職を期待する両親との折り合いが悪くなり、エスケープの意味も込めて入り込んだのが、早稲田大学正門から徒歩5分のところにある野々村荘の三畳間でした。立地の良さと月額1万2千円という格安の家賃で即決して入居した髙野秀行ですが、時に平成がまさに始まった1989年。三畳一間というと「神田川」を連想するのですが、あっちは70年代、こっちはバブル絶頂期で隔世の感があります。というかバルブ時代によくそんなアパートに住む気になったものです。

三畳一間 

 松本零士の代表作の一つである「男おいどん」でさえ、大山昇太は老朽下宿で極貧生活を送っているとはいえ、間取りは四畳半。私も自分の部屋が四畳半だった頃がありますが、正直これ以上狭い部屋には住めないと思いましたよ。「神田川」のカップルが三畳に同棲というシチュエーションは、私的にはマジかよスゲーなという印象でしたが、バブル期でなお三畳暮らしをする猛者が居たとは、上には上がいるものですね。

 しかも、大学の傍でアパート暮らしなんていうと、18歳から22歳頃までという人が大半じゃないかと思うのですが、この人の場合は大学4年生になった22歳の初夏から、大学をとっくに卒業した33歳の初夏の頃までというまる11年間住み続けたのでした。そのうち8年間が3畳間で、残り3年間がグレードアップして4畳半住まいでした。

髙野秀行 

 そういう過酷ともいえる居住環境に適応できたのは、各地の秘境を回るということであらゆる環境に適応できるようになっていたということもあるでしょうが、やはり探検部なんてイロモノで活動するようないつまでも子供のような好奇心とか遊び心のなせるわざなんではないでしょうか。

 大学のそばにそういう面白い人が住んでいれば、当然探検部の先輩後輩も訪れるわけで、野々村荘で一緒に住む部員まで出ます。仲間達が四六時中にぎにぎしく出入りして、酒飲んだりドラッグ実験をしたりとバカやっているのだからそりゃあ楽しいでしょう。

哀愁の街に霧が降るのだ 

 仲のいい連中との共同生活というと、椎名誠の「哀愁の街に霧が降るのだ」を思い出すのですが、あっちは昭和時代に同居生活、こっちは平成時代に入り乱れてはいるものの個室生活とやや様相を異にします。うーん、どちらかと言えば、狭くても個室がある方がいいかなと思ってしまう私は昭和生まれだけで平成スタイルなのか。

あの頃のまま 

 どんなことにも終わりはあるもので、学生時代とか青春時代というのもにも終わりはあるのです。探検部の仲間達も卒業・就職で去って行く中、高野秀行はブレッド&バターの「あの頃のまま」の主人公の如く、一人気ままに街を彷徨しているのでした。青春に別れを告げた人々は、そんな彼を見て羨ましそうにしますが、高野秀行のほうは、気ままな暮らしの中で行き詰まりを感じていくようになります。

 行き詰まっているけど、何に行き詰まっているのかわからない。そんな状況を「暗闇の一人歩き」と表現していますが、やはり人間楽してのんびりしているだけではいかんということでしょうが。何らかの「生まれてきた甲斐」のようなものを求め出すのか。

 そして作者の場合、野々村荘時代=長かった青春時代との別れを決意させたものは、本気の「恋」でした。離れたくない、ずっと一緒にいたいという思いが自然に生まれ、恋人の住む街に引っ越すことに。ちなみに同年配だというその恋人、現在の妻でライターの片野ゆかだと思われるのですが、そうなんでしょうね?

片野ゆか 

 片野ゆかは「昭和犬奇人 平岩米吉伝」で2005年に第12回小学館ノンフィクション大賞を受賞しています。犬が大好きみたいで、犬関連の著作が多いです。元カノのハーフの女性の話もその直前に出てますが、奥さん的にはノープロブレムだったんでしょうか。

日本の特別地域 

 私も同じ大学出身なんですが、鬼の哭く街・A立区の貧乏家庭出身だったもので、何年も大学で留年するとか、探検部のようなサークルで遊びにうつつを抜かすとかは全然考えられなかったです。大学生時代自体はのんびりしていて今でも嫌いじゃないですが、当時は当然4年で卒業して就職して給料を貰うということに何の迷いもありませんでした。

働きたくないでござる 

 そうは言っても就職前の春休みには「働きたくないよ~」と転げ回ってましたけどね。高野秀行から見たらきっと“異邦人”だったことでしょう。でも、ま、私には三畳一間は無理だから仕方がありませんな。こうして本で覗き見る位がちょうどいいあたりです。
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