同級生:認めたくないものだな、自分自身の“若さ故の過ち”というものを…

5月の雨の土曜日

 本日は一日雨のようです。土曜日の本格的な雨って久々な気がします。土曜日はウォーキングをするので、アツゥイ!のも困りますが雨も嫌なものです。でも自然の摂理の前にはどうしようもないですね。五月の雨だから五月雨と言いたいところですが…陰暦だから実際には梅雨時の長雨が五月雨ですね。

文庫版同級生 

 本日は当ブログではもはやレギュラーの東野圭吾の「同級生」を紹介しましょう。この人がベストセラー作家になったのはよくわかります。読みやすいし面白い。それはミステリーとしてですが、純粋に物語としてもです。むしろ「秘密」まで泣かず飛ばずだったことが奇々怪々。

名探偵の掟 

 「同級生」はやはり人気低迷時代の1993年2月10日に祥伝社から刊行され、絶版になった後に講談社文庫から1996年8月15日に刊行されました。1996年というのは、「名探偵の掟」が「このミステリーがすごい!1997」の3位になるなど、にわかに注目を浴び始めた時期です。その後1998年の「秘密」の大ヒットでブレイクして不動の人気作家となるわけですが、講談社が本作を刊行したのもこの流れを感知してのことではないかと思われます。私が借りた本は2014年8月1日付で第59刷となっており、「重版出来」どころではありません。

新書版同級生 

 実は本作、東野圭吾作品としては地味な部類で、各種ミステリーランキングにも選ばれておらず、Wikipediaに単独記事も立てられていません。舞台となっているのは県立高校で、高校を舞台とした本格推理は1985年刊行のデビュー作「放課後」以来ということになります。珍しく「あとがき」があり、執筆に非常な苦労があったと記されています。あんまり苦労したので異例の「あとがき」を書いたとも。そういえば東野圭吾の「あとがき」というのは初めて見たような。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

妊娠した女子校生 

 修文館高校3年の宮前由希子が交通事故死した。彼女は同級生・西原荘一の子を身ごもっていた。それを知った荘一は自分が父親だと周囲に告白し、疑問が残る事故の真相を探る。事故当時、現場にいた女教師が浮上するが、彼女は教室で絞殺されてしまう。著者のターニングポイントとなった傑作青春ミステリー。

小学生の妹のイメージ 

 主人公は県立修文館高校野球部主将の西原荘一。彼には先天的な心臓疾患を持つ春美という小学生の妹がおり、この妹を溺愛しています。野球も、春美が観戦を喜ぶからやっているようなものです。3年生になった5月の半ば、野球部のマネージャーである宮前由紀子が交通事故死します。突然のことで部員ともども驚く荘一ですが、さらに驚くべき噂が流れ始めます。由紀子は妊娠しており、産婦人科に向かう途中で事故にあったのだと。

高校野球のイメージ 

 荘一には身に覚えがありました。3月に由紀子と関係を持っていたのです。由紀子が以前から荘一に好意を持っていたことは気づいていましたが、そういう関係になったのはその日が初めてでした。なぜか荘一は当時自暴自棄になっており、つい「据え膳」を喰ってしまったということのようです。両者とも“やればできる子(性的な意味で)”だった訳ですが、処女と童貞だろうと、高3にもなっていたら避妊を心がけるのは当然だと思うのですが…

野球部マネージャーのイメージ 

 由紀子の相手は自分であることを周囲に告げ、由紀子の両親に謝罪に行ったりと潔い態度を取る荘一ですが、そうこうしているうちに、由紀子が死んだのは、生徒指導部の教師に追いかけられたからだということが判明します。その教師は古文担当のハイミス御崎藤江でした。荘一は授業中に同級生の前で御崎を糾弾しますが、御崎は自らの過ちを認めようとしませんでした。

アンサイクロペディアの生徒指導部 

 生徒指導部長は灰藤というベテランの地学担当教師で、生徒指導なんてまっとうな神経を持っていたら進んでやりたいないような役目を積極的に買って出て、執念深く生徒の非行を摘発することで有名な教師でした。御崎は灰藤に傾倒して同じ道を進んできた人で、荘一はこの灰藤に目を付けられることになります。

生徒指導の在り方 

 そして一週間後、なんと御崎が荘一のクラスで死んでいるのが発見されます。動機を持った人物として当然浮上してくる荘一は事情聴取を受けますが、現場にはいくつかの謎が。

天文部の活動 

 続いて起きる天文部部長水村緋絽子の殺人未遂事件。睡眠薬入りのコーヒーで眠らせてストーブ用のガスの元栓を開くというものでしたが、守衛が発見したため大事には至りませんでした。二つの事件は関連があるのか?

左が緋絽子、右が由紀子のイメージ 

 実は荘一、作中でこの水村緋絽子と何度か出会って会話をするのですが、その雰囲気がなんともただならない関係です。敵意とも憎悪とも言い難い、不思議な緊張感が張り詰めるのですが、その理由について読者に対して荘一は終盤まで口を割りません。冒頭、“春美の心臓疾患は単なる偶然ではなかった”とのくだりがあり、水原緋絽子は大企業の重役の娘でいわゆるお嬢様なので、それと何らかのつながりがあるのだろうとは思えましたが。

娘の妊娠に苦悩 

 本作は、一連の事件の犯人捜しの他、読者に荘一と水村緋絽子の関係を推理させる作品となっています。由紀子を孕ませておきながら(まあ彼女の死まで気づかなかった訳ですが)、実は一時の感情の暴走の結果に過ぎなかったという負い目。荘一としては、荘一の愛が本物だったと信じたまま事故死した由紀子に対する償いは、本気の関係だったと皆に告白することと事故の真相を暴くことだけだと確信し、その通りに行動するのですが、そうすればするほど不自然さが目立ち、別の意味で警察からも注目されたりします。

 ○八先生

 正直一連の事件より水村緋絽子との関係の謎の方が目を引いてしまいます。途中で「こうじゃないのか」と思ったことがほぼ的中しましたので、その点は満足なんですが、一連の事件の真相については全く的中しませんでした。その辺りが流石東野圭吾というところなんでしょう。荘一視点なので警察は敵対者とまでは言わないものの、結構印象が良くない感じに描かれていますが、例によって無能ではありません。というかかなり有能です。

 クソ教師

 荘一は野球部の主将で部員からの人望もあるようですが、言動が結構粗野で、大人にタメ口をきいたりするなどあんまりいい印象がありません。可愛い妹がいて、美人マネージャーを孕ませるとかリア充爆発しろといいたくなりますが、本人はさほど自分の境遇をハッピーとは思っていません。その理由は…

クソ教師その2

 本作で注目されるのは教師の描き方。御崎と灰藤の生徒指導部コンビはもとより、担任の石部ほか他の教師も軒並みろくでもない感じで描かれています。唯一荘一が評価しているのは養護教諭くらい。東野圭吾は前述の「あとがき」で“小学生の時から教師が大嫌いだった。なぜ理由もなく、こんなおっさんやおばはんに威張られなきゃならないんだと、いつも不満だった。どう見ても尊敬できる部分など一つもないのに、「先生」などと呼ばされるのも面白くなかった。何より我慢ならなかったのは、連中が自分達のことを、立派な人間だと錯覚していることだった”と記していますが、教師嫌いの東野圭吾の面目躍如な作品とも言えますね。

 体育教師笑

 私個人はそこまで教師は嫌いではありませんでしたが、体育教師はおしなべて嫌いでしたね。正直小学校の頃はそこまで批判的精神がなく、中学校時代は比較的いい先生が多かったこともあり、教師がひどい生き物だと思ったのは高校に入ってからでした。まあ当時は素行が良かった(本当!)こともあり、盗んだバイクで走り出したり、夜の校舎窓ガラス壊して回ったりすることもなかったので(普通はない)、特に衝突とかはなかったですけど。

盗んだバイクで走り出す 

 東野圭吾は教師は嫌いだったようですが、学校そのものや学生生活は嫌いではなかったようです。そうでなければ学園ミステリーを書こうとは思わないでしょうが、私の高校時代は、教師にも学校にも同級生にも何の期待も抱いていなかったので、懐かしいとも振り返りたいとも思いません。いわば「黒歴史」。これが不本意な進学の結果というヤツか。でも一応卒業したので良しとしといて下さい。

夜の校舎窓ガラス壊してまわった 

 タイトルの「同級生」ですが、その理由はラストで明らかになります。色々とすっきりした感じで終わるのですが、ちょっとよく考えてみると、由紀子が死んだ件についてはそんなにすっきりしていいのかという気がします。直接的原因ではないとはいえ、そもそも由紀子は妊娠しなければ事故に遭うこともなかったはずなので、なぜちゃんと避妊しなかったし!と思いますし、大事な娘を亡くしたご両親の悲しみと怒りは消えることはないでしょう。身代わりで名乗り出たという訳でもないし、背負うべき十字架はしっかり背負おうぜ、と思ったりします。

柴門ふみ原作の同級生 

 なお、「同級生」というタイトルで何を連想するかですが、柴門ふみのマンガとか、それを原作としたテレビドラマという答えが多いのでしょうかね。あれは「同・級・生」との表記が正しいようですが。バブル期に放映され、安田成美と緒形直人が主演していました。

エルフの同級生 

 しかーし!個人的には「同級生」といえば連想するのはエルフのギャルゲーに決まっているだろうと断言します。バブルも終わった1992年12月17日にPC用18禁恋愛ADVとして発売されましたが、私がプレイしたのは1995年11月23日発売のPCエンジン版でした。なのでエロい描写はしごくマイルドになってました。本作と1994年5月発売の「ときめきメモリアル」のヒットにより、恋愛ゲーム市場は一気にブレイクしていったのでした。

鈴木美穂 

 「同級生」にはデビューして間もない丹下桜が参加していました。丹下さんが演じた鈴木美穂は18歳のわりに幼くて幼児体形な人でした。他にも國府田マリ子とか井上喜久子、古川登志夫、古谷徹、千葉繁なんかも出演しており、何気に豪華メンバーでしたね。國府田マリ子が演じた桜木舞の赤系のストレートロングな髪や才色兼備ぶりは、「ときめきメモリアル」の藤崎詩織に継承されたとされていますが、メインヒロインなのに人気がぱっとしないのには全米が泣きました。その反省を元に「下級生」の結城瑞穂や「同級生2」の鳴沢唯といった人気のあるメインヒロインが設定されたのではないかと思います。

桜木舞 

 「同級生」というタイトルのわりに、年上お姉さんキャラがやたら多かったのが特徴です。女教師キャラが2人もいる他、人妻までいたりして。ええ、もちろん全員攻略しましたとも。そういえば高校の上級生や下級生は一切出てきませんでしたな。今にして思えばなかり極端なヒロイン設定だったんですね。

真行寺麗子 

 きっこさん演じた芹沢よしこ先生が好きでしね。オンタイムのお堅い雰囲気と、オフタイムの艶めかしさのギャップが素敵でした。生徒思いで、主人公の将来を本気で心配してくれる人だったので、こういう先生に遭遇していれば東野圭吾の教師嫌いも変わっていたかも。いや、現実にはいませんけどね。

芹沢よしこ先生 
髪をおろしたよしこ先生 

 斎藤真子先生は…もはやファンタジーとしか言いようがない。そもそも日本人なんでしょうか(笑)。おっと、ゲームの「同級生」について以前に記事を書いている(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-65.html)ので今回はこの辺で。

日本人離れした真子先生 

王妃の帰還:女子校という名の箱庭で

5月はヤグルマギク

 長期休暇明けは心身ともに調子が今ひとつ上がりませんね。でも一週間未満、長くても10日未満程度の休暇を“長期”なんて呼んでいいのかどうか。フランスでは休暇は連続5週間まで取得可能となっておりそれをヴァカンスと呼ぶらしいです。これを世界基準と呼んでいいのか判りませんが、某モレシャンさんあたりには鼻で笑われて「ワータシの国では~」とドヤ顔で自慢されそう。

文庫版王妃の帰還 

 本日は柚木麻子の「王妃の帰還」を紹介します。柚木麻子の著作は初めて読みました。柚木麻子は1981年8月2日生まれで東京都出身。立教大学在学中からより脚本家を目指してシナリオセンターに通っていました。卒業後、塾講師や契約社員などの職のかたわらで小説の賞に応募し、2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」で第88回オール讀物新人賞を受賞して作家デビューを飾りました。

 柚木麻子

 同作を含む単行本「終点のあの子」は、「本の雑誌」2010年上半期エンターテインメントランキングで3位となるなど高評価を得ました。

終点のあの子
 
 2013年から15年にかけては3年連続で直木賞候補となっており、新進気鋭の若手小説家です。2013年には「嘆きの美女」、2015年には「ランチのアッコちゃん」がNHKでテレビドラマ化されています。

嘆きの美女
ランチのアッコちゃん 

 「王妃の帰還」は2013年1月26日に実業之日本社から単行本が刊行され、2015年4月15日に文庫版が実業之日本社文庫から刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

王妃の帰還POP 

 私立女子校中等部二年生の範子は、地味ながらも気の合う仲間と平和に過ごしていた。ところが、公開裁判の末にクラスのトップから陥落した滝沢さん(=王妃)を迎え入れると、グループの調和は崩壊!範子たちは穏やかな日常を取り戻すために、ある計画を企てるが……。傷つきやすくてわがままで―みんながプリンセスだった時代を鮮烈に描き出すガールズ小説! 

 スクールカーストという表現があります。これはWikipediaによると、“現代の日本の学校空間において生徒の間に自然発生する人気の度合いを表す序列を、カースト制度のような身分制度になぞらえた表現。もともとアメリカで同種の現象が発生しており、それが日本でも確認できるのではないかということからインターネット上で「スクールカースト」という名称が定着した”と説明されています。

アメリカのスクールカースト図 

 日本のスクールカーストは明確に模式図にできていないようですが、アメリカのものは上図のように序列化が明確になっています。物語の舞台となるミッション系お嬢様学校である聖鏡女学園中等部2年B組の28人(少なっ)も、5つの派閥に別れており、序列化がなされています。

 最上位が「姫グループ」の5人。これはアメリカのスクールカーストでいえば「クイーンビー」と「サイドキックス」に該当するでしょう。続いて「ギャルグループ」。これは7人と人数的には最大派閥ですが、「姫グループ」に入ることを夢見ている「姫グループ」の二軍のような存在です。アメリカのスクールカーストでいえばワナビーといったところでしょうか。

マリー・アントワネットその2 

 さらに「チームマリア」の5人。ミッションスクールである聖鏡女学園で聖歌隊やハンドベル部に所属している女の子の集まりで、最も学園らしいお淑やかな優等生で構成されています。これは…アメリカのスクールカーストで例えるのが難しいですが、強いて言えばプレップスといったところでしょうか。

 そして「ゴス軍団」の6人。アメリカのスクールカーストの下位にゴスが存在していますが、ビジュアル系バンドのファンで構成されており、「姫グループ」の野党的存在なので、ゴスよりは階層外の「不良」あたりが適当かも知れません。お嬢様学校なので不良といっても「強いて言えばそれっぽい」という程度ですが。

単行本王妃の帰還 

 最後に主人公前原範子が所属するグループ。これには名称がないので、勝手ながら「地味子グループ」と名付けてあげましょう。たった4人の最小派閥で、放課後に図書館に集まっているので、アメリカのスクールカーストでいえばやはり階層外の「不思議少女」に相当するでしょうが。階層外が5グループ中2グループもあってはカーストが成立しない気がしますが、本作ではアメリカほど序列化されていないのでまあいいでしょう。ただし、範子の認識では頂点は「姫グループ」で底辺は「地味子グループ」です。

 アンシャンレジーム

 派閥で別れているとはいえ、特に対立抗争しているわけでは無く、それなりに平和だったクラスに風雲が巻き起こったのは2学期のこと。「姫グループ」の頂点に君臨していた滝沢さん-範子はその美貌に憧れており、敬意を込めて密かに「王妃」と心の中で呼んでいました-が失脚したのです。

マリー・アントワネット 

 実は範子はフランス革命フリークなので、「王妃」とはマリー・アントワネットに他なりません。「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」の迷言で有名ですが、本義ではケーキではなくブリオッシュのことらしいです。ケーキというよりはパン菓子というニュアンスですね。さらに言えばマリー・アントワネットが言ったという実際の記録はなく、ルイ14世妃マリー・テレーズ説や、ルイ15世の娘であるマダム・ソフィーやマダム・ヴィクトワール説などがあるようです。

アニメ版ベルばらのマリー・アントワネット 

 いずれにせよ…肖像画のマリー・アントワネットよりは、池田理代子の「ベルサイユのばら」で描かれた愛らしいマリー・アントワネットの方が滝沢さんにはふさわしいでしょうね。史実のマリー・アントワネットは「首飾り事件」によってそのイメージを大きく損なった訳ですが、「王妃」の方は「腕時計事件」で失脚することになりました。

首飾り事件の首飾り 

 範子は今回の「王妃」の事件をやたらフランス革命に当てはめるわけですが、その場合いきなり王妃のギロチン処刑から始まることになってしまいます。実際第一章のタイトルは「ギロチン」ですし。これが若さか…。もちろん「王妃」は処刑される訳ではありませんが、それまでのクラスの頂点の座を追われ、仲間外れ、すなわちハブとなってしまいます。のみならず、地味子グループが引き受け先になってしまうという。

ギロチン 

 美貌の「王妃」を迎えられてさぞや光栄…と言いたいところですが、この「王妃」、美貌に比例した性格は持ち合わせておらず、わがままで自己中で高飛車で上から目線と、「王妃」の持つ負のイメージだけを集めて固めたような性格でした。こんなのに飛び込んでこられて地味子グループもぎくしゃくし始め、範子達は「王妃復権」を画策することになります。滝沢さんのイメージアップを図って元の「姫グループ」に復帰させようというのです。

三部会 

 派閥というのは共通の趣味とか嗜好、話題によって構成されたものだったので、それらが全く異なる地味子グループと「王妃」はまさに水と油。最初はまさに「文明の衝突」状態でしたが、やがて徐々に相互理解が深まると、「王妃」も素直になっていきます。そうなってくると範子としてはもっと仲良くなりたいという気持ちが高まってくるのですが、そうなるとこれまで親しかった親友との間に隙間風が吹いたりして。なにしろヱヴァンゲリオンがないただの14歳の少女ですから、みんな未熟だし傷つきやすいし自己中なんです。

ベルサイユ行進 

 そうやって學園生活がいろいろと大変な中、範子は別な問題も抱えます。クラス担任で生徒の人気も高い星崎先生(通称ホッシー)が、なんと範子のママンと交際中という。あ、範子ママンはシングルマザーにしてバリキャリの女性誌編集長なんで不倫とかではないのですが、クラスメイトに知れたらえらいことになりそうです。

バスティーユ監獄襲撃 

 そんなてんやわんやの中、親友の離反やいじめの標的化といった危機を迎える範子ですが、彼女はこれまでの事件の「黒幕」を突き止め、これを一気に失墜させようと「革命」を画策します。さて、その結末は…ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。ラストは非常に感動的かつ爽やかなので、これは映像化するべきだと思いますが。出来れば私も見たいのでアニメ化がいいな。

テニスコートの誓い 

 いろいろ揉めに揉める少女達ですが、私のようなおっさんから見ると、女子には女子の世界があるだろうし、その年齢なりに一生懸命やっているので、馬鹿にする気にはなりません。「マリア様がみてる」(こっちは高校生ですが)を見る時と同じような気持ちになりますね。微笑ましくも痛ましいとでもいうか。コップの中の嵐に翻弄される少女達を笑うことは出来ません。そこで経験を積んでおかなければ、やがて迎える外界への船出に耐えられないでしょうから。

早くアメリカに行けよ綾部 

 なお女子生徒の人気を集める星崎先生。文中でピースの綾部祐二に似ているという描写があります。本書が書かれた2013年頃の彼はイケメン芸人として知られ、また熟女好きとして知られていました(だから相当年上の範子のママンと交際するのか)が…今となっては相方の又吉直樹のお荷物というか、さっさとアメリカに行けよというか(行ったんですかね?)、まあイメージが暴落しましたね。そのせいかこの人が登場する旅に綾部の顔が思い浮かんで全然彼には共感できませんでした。

A藤M姫 

 さらに「王妃」こと滝沢さん、最終盤で範子がついに彼女を名前で呼ぶんですが、その名前がある有名人を思い切り連想させるんですよ。それがまた…。いや、本書が刊行された2013年1月当時なら決して悪い印象ではなかったはずなんですが、それ以降はどうかと言えば…まあ人によるんでしょうけど、言動などから“好感度ダダ下がり”なんて言われたりもしています。会ったことはもちろんありませんが、ナルシシストな印象が強くて私も正直好感は持ってませんね。14歳だったら許すんですけど。誰のことかわからないあなた、ぜひ本書を読んで下さい。

民衆を導く自由の女神 

 なお、作者は2年B組の派閥をフランス革命当時の階層になぞらえて、「姫グループ」=王家、「ギャルズ」=貴族、「チームマリア」=聖職者、「ゴス軍団」=商工業者、「地味子グループ」=農民のイメージだそうですが、それだと「姫グループ」「ギャルズ」「チームマリア」対「ゴス軍団」「地味子グループ」という図式になってしまうような。ただし「地味子グループ」=農民はぴったりかも。「七人の侍」でも指摘されていますが、一見弱そうに見えて実は一番したたかだという。

続・森崎書店の日々:記憶に生き続ける愛しき人・愛しき日々

自信満々烈海王

 GW後半なんて声も巷では聞かれますが…私のGWは今日からだッッ!!きっとロンバケ取れた人から見ると「君らがいる場所は、我々はすでに○日前に通過している」とか言われちゃうんでしょうけど。この頃の烈海王は嫌なヤツだったなあ。後にあんなにいい人になるとは。

続・森崎書店の日々 

 本日は八木沢里志の「続・森崎書店の日々」を紹介しましょう。当ブログ本年3月18日付の記事で紹介した「森崎書店の日々」(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-1470.html)の続編です。

 前作で失恋・退職の大ショックで影道・鳳閣拳を喰らったがごとくのされてしまった貴子は、叔父サトルの経営する森崎書店の二階で過ごすことで甦った訳ですが、それから2年が経過。貴子は28歳で堂々たるアラサーになりましたが、和田さんという恋人もでき、仕事も順調とまずまず順風満帆な日々です。相変わらず休日は森崎書店に入り浸っており、傍目から見ると若い女性がする事に見えないようですが。

古書店街 

 本作は2011年12月1日に小学館文庫に書き下ろして刊行されました。映画化の後ということで、ヒットが予期されたんでしょうね。まずは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。
 
 本の街・神保町で近代文学を扱う古書店「森崎書店」。叔父のサトルが経営するこの店は二年前失意に沈んでいた貴子の心を癒してくれた場所だ。いまでは一時期出奔していた妻の桃子も店を手伝うようになり、貴子も休みの日のたび顔を見せていた。店で知り合った和田との交際も順調に進んでいたが、ある日、貴子は彼が喫茶店で昔の恋人と会っているのを目撃してしまう。一方、病後の桃子を労う様子のない叔父を目にし、貴子は夫婦での温泉旅行を手配するが、戻って来てから叔父の様子はどこかおかしくて……。書店を舞台に、やさしく温かな日々を綴った希望の物語。

古書店街その2 

 この内容紹介ではちょっと時系列がおかしくて、実際にはサトルと桃子を旅行に行かせる→和田が元カノと逢っているのを目撃するという流れです。それだけではなく、前作で親友となったトモちゃんの心の傷とか、桃子の病といった結構シビアな話が続いています。 

 前半、穏やかでのんびりとした時間が流れ、貴子が旧知の神保町の面々と憎まれ口をたたき合いながらの交流を楽しんでいてほんわかとしていたのですが、後半はかなりキツイ展開となります。そんな中で貴子が失恋の過去から心に壁を作っていること、トモちゃんが過去の事件により恋愛ができない精神状態でいること、などが判明していきます。なんとか乗り越えていく若き女性達ですが、その代わりに暖かく見守っていた桃子が逝ってしまうことに。

神田古本まつり

 サトルの妻だった桃子が出奔し、5年ぶりに帰って来たのが前作でしたが、その時既に癌の手術をしたことが語られていました。あれから2年…怖れていた再発ということになり、しかももはや転移が進んで手遅れという事態。

 貴子の窮地を暖かく包み込んでくれたサトルに訪れる精神的危機。桃子は貴子にサトルのことを託しますが、実はちゃんと自分自身でサトルを立ち直らせる手段を講じていたんですね。最後までスケール的に貴子やサトルが太刀打ちできない人でした。こういう人と一緒に暮らせたら、例えその時間は短くても生涯刻まれる記憶となるでしょうね。

書泉ブックマート閉店 

 ますます神保町の古本屋街に住んで見たくなりますね。かつて鬼の哭く街・A立区に住んでいた私は、中坊の頃に自転車(チャリと呼んでいた)で秋葉原まで遠征したりしていたので、足を伸ばせば神保町だって行けたのですが、当時は古書に興味はなく、神保町をうろつくのは大学生になるまで待たねばなりませんでした。高校生・浪人生までは書泉ブックマートとか書泉グランデの方に行ってました。いや大学生になっても行きましたけど(笑)。書泉ブックマートは“女子向け書店”とやらになった挙げ句に閉店してしまっとか。ああ、時の流れはかくも非情。

昔の秋葉原電気街 

 あの頃の秋葉原は電気の街で、オーディオの時代からビジュアル・パソコンの時代に移りつつありました。まだメイドさんなんか影も形もなかったんですが…まさかこんな街になるとは思いもしませんでしたよ。でも考えてみればオーディオマニアはオタクのプロトタイプだったのかも知れません。

オタクの街秋葉原 

 登場人物を、いいところばかりではないけれど、丁寧に描くことで好感が持てる人物としてしまう八木沢マジック。貴子をひどい振り方をした前作の男・英明だけはフォローのしようもなかったのか外道なままでしたが。今回はやはり貴子に妙な接触をしてきた職場の先輩和田2号(姓が恋人と同じなため)が結構嫌な感じで登場していましたが、特にオチがなく終わっていたのが残念。和田1号と熱々な所でも見せつけて、ガツンと鼻っ柱でもへし折ってやれたら痛快なんですが、そういう作品じゃないということでしょう。

トモちゃん役の田中麗奈 

 個人的に好きなのはトモちゃん。映画では田中麗奈が演じていましたが、清楚な容姿といい本好きなところといい、さらに抱えていた心の傷といい、個人的にストライクですね。高野にはもったいないのでぜひいただいてしまいたいところです。ああ、そんな器量があったなら。

アキバのメイドさん 

白馬山荘殺人事件:東野圭吾版マザーグース・ミステリー

野性の藤

 筑波嶺でも野性の藤が咲き始めました。冬の間は枯れきった蔓のように思ってましたが、ちゃんと春になると芽吹いて花を咲かせるんだから自然というのはすごいものです。それにしても藤の花房を見るといつも「ああもう春も終わりだな~」と思いますね。

白馬山荘殺人事件 

 本日は東野圭吾の「白馬山荘殺人事件」を紹介しましょう。どうでもいい話ですが、白馬八方尾根は全然滑れなかった頃に、悪い仲間に「教えてやるから」と唆されて初めてスキーしに行った所です。行ってみればリフトで高いところまで上がったいいけれで連中は自分の滑りに夢中で、ほとんど転がるように降りた後は迷わずスキー教室に入りましたっけ。あいつらッッ…!!(いや、もう怒ってませんけどね)

白馬山 

 本年作は実は東野圭吾の最初期の作品で、1985年に第31回江戸川乱歩賞を受賞した「放課後」がデビュー作、翌1986年の“加賀恭一郎シリーズ”の一作目となる「卒業―雪月花殺人ゲーム」に続く三作目となります。

白馬山荘殺人事件 新書版 

 1986年に光文社からカッパ・ノベルス版で刊行され、1990年4月20日に光文社文庫版が刊行されました。「放課後」が女子校、「卒業―雪月花殺人ゲーム」が大学を舞台としていたのに対し、本作は初めて学校から離れて山荘に舞台を移しました。東野圭吾は雪山が好きらしくて何作も作品を描いていますが、本作はその先駆けとも行けますね。例によってよって文庫版裏表紙の内容紹介です。

リアル白馬山荘 

 一年前の冬、「マリア様はいつ帰るのか」という言葉を残して自殺した兄・公一。その死に疑問を抱いた女子大生・ナオコは、親友のマコトと、兄が死んだ信州・白馬のペンション『まざあぐうす』を訪ねた。常連の宿泊客たちは、奇しくも一年前と同じ。各室に飾られたマザー・グースの歌に秘められた謎、ペンションに隠された過去とは?暗号と密室のトリックの本格推理傑作。 

旧版白馬山荘殺人事件 

 英国人の別荘だったという過去を持つペンション『まざあぐうす』。現在は髭面のマスターと太っちょシェフがアルバイトを使って経営しています。各部屋にはそれぞれ違ったマザーグースの歌が入った壁掛けが飾られています。

マザーグース 

 菜穂子は一年前にこのペンションで死んで自殺と断定された兄公一の死に納得できず、宝塚の男役のような親友・真琴と共に兄が死んだ部屋に滞在して調査を開始します。どうやら公一はマザーグースの歌に秘められた謎を解こうとしていたようです。そしてさらにその一年前にも転落事故で人が死んでいたという事実が判明

ジャックとジル 

 そして滞在中にも発生する人死に。やってきた警察はこれも事故死と判断しますが、菜穂子と真琴は独自の調査で知り得た事実から、他殺であることを告げます。ということで、殺人事件は一件しか発生しませんが、今回の事件の犯人は誰か、自殺とされた公一も殺人なのか、もしそうであれば今回の事件と関係あるのか、さらに二年前の事故死も何らかの関わりがあるのかと、話はどんどん広がっていきます。

ハンプティ・ダンプティ 

 公一の死が自殺と断定された根拠としては、公一の部屋が完全密室であったことが挙げられています。なので菜穂子と真琴は、密室殺人のトリックも暴かなければなりません。さらには、公一が説こうとしていたマザー・グースの暗号も解読し、その意味も知らねばなりません。

ロンドンブリッジ 

 マザー・グースは、英米を中心に親しまれている英語の伝承童謡の総称で、600から1000以上の種類があるといわれています。庶民から貴族まで階級の隔てなく親しまれており、聖書やシェイクスピアと並んで英米人の教養の基礎となっているとも言われています。日本のオタクにとってもアニメやマンガの名言(迷言)のようなものでしょうか。

僧正殺人事件 

 残酷なものやナンセンスなものが多いマザー・グースはミステリーでも好んで使われています。有名どころとしては「誰が殺したクック・ロビン」をモチーフとした連続殺人事件であるヴァン・ダインの「僧正殺人事件」や、「10人のインディアン」の歌詞通りに殺されてゆくアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」なんかが知られていますね。どちらも読みましたが、ミステリー史に残る傑作ですね。

そして誰もいなくなった 

 「誰が殺したクック・ロビン」の方は、40年近く連載されている魔夜峰央の「パタリロ!」でも「クックロビン音頭」として登場しています。こっちの方で先に知ったという人も多いかも知れません。

クックロビン音頭 

 日本ではそれほど知られていないマザー・グースを日本で使うというのは色々と無理があるような気がしますが、そこを東野圭吾はなんとか辻褄をつけてやってみせたということで、クワトロ・バジーナ(シャア)なら「これが若さか…」と言うところですな。多分米英人はこんな風にマザー・グースを引用するんでしょう。

これが若さか… 

 警察からは村政警部がやってきます。菜穂子は公一の死を自殺と断定されたことで警察に強い反感を持っていますが、さすがは東野圭吾、探偵小説でおうおうにしてある「有能な探偵の噛ませ犬である無能な警察」にはしていません。菜穂子達とは違うアプローチで犯行に迫ります。

オールドマザーグース 

 で、犯人ですが…実は「こいつだろう」と思った人物は外れてしまいました。が、当たらずとも遠からずでした。テストなら△くらい貰えそう。どういうことだと思った人は読んでみて下さい。

マザーグースの世界 

 実はこの一連の事件の前に、そもそもどうして各部屋にマザー・グースの歌入り壁掛けがあるのかという根本的な謎があり、これが前所有者の趣味でもなんでもなく、実は過去の事件を紐解く鍵となっていたのでした。これは直接犯罪性があると言っていいのかはわかりませんが、一連の事件の発端となったもので、最後の最後に解明されるのでした。恐らく今後ペンション『まざあぐうす』は営業されることはないんでしょうねえ。

白馬八方尾根  

 菜穂子も当初公一の妹であるという正体を隠していましたが、登場人物の中にはその他にも正体を隠した人物が幾人かいて、その理由も解明されるのですが、様々な謎のちりばめ方が豪華そのものですが、それによって焦点がちょっとぶれてしまった感じもします。「これが(当時の東野圭吾の)若さか…」

ぶっ飛ばされるクワトロ 

東京最後の異界 鶯谷:タナトスとエロスの狹間に咲く奈落の花

青に染まる公園

 国営ひたち海浜公園のネモフィラが見頃になっています。約450万本のネモフィラが咲き誇る景色はまさに絶景。春はネモフィラで青く染まり、秋はコキアで赤く染まるというまことに結構なひたち海浜公園。日本で一番魅力のない県とか言ってるヤツは一度見に来いや!(高田延彦風)

東京最後の異界 鶯谷 

 本日は本橋信宏の「東京最後の異界 鶯谷」を紹介します。本橋信宏の著作は初めて読みましたので、まずは作者のプロフィールから。

本橋信宏 

 本橋信宏は1956年4月4日生まれで埼玉県所沢市出身。埼玉県立川越高校では辛坊治郎と同期だったそうです。早稲田大学政治経済学部卒業後、24歳でフリーライターとして文筆活動を始めました。その傍らで「ナイスですね~」で知られるAV監督村西とおると知り合って、AV作品制作に関り、数作品ではAV男優も務めたそうです。

村西とおる 

 1985年の「『全学連』研究─革命闘争史と今後の挑戦」以降、反体制運動評論家として注目を集めることとなり、またその一方でアンダーグラウンド文化に関する評論活動も本格化させていきました。政治思想からサブカルチャーまで、幅広い分野で文筆活動を行っています。

全学連研究 
 
 「東京最後の異界 鶯谷」は2013年12月13日に宝島社から単行本が刊行され、2015年2月19日に宝島SUGOI文庫から文庫版が刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

東京最後の異界 鶯谷 帯 

 JR山手線で最も乗降客が少ない駅、鶯谷。広大な寛永寺の墓地と駅を挟んだ反対側は都内有数のラブホテル街で、風俗産業の最先端スポットとなっている。入り組んだ路地には正岡子規の終の棲家や初代林家三平の生家、夏目漱石が通った料理屋が今でも残る。この特異な街はいかにして生まれたのか。その歴史と地理的背景、男女の肉声を採録。生と死が隣り合わせる鴬谷の不思議な魅力を描く。 

鶯谷駅周辺 

 鶯谷駅という駅はあるのですが、鶯谷という地名はないという不思議。駅の西側(上野桜木)は高台になっていて、土手の上に寛永寺の墓地が広がっています。そして駅の東側(根岸)はかつて正岡子規が暮らし、初代林家三平が生まれ育った下町…のはずなんですが、駅から見るとラブホテル街が続いていてある意味壮観。

鶯谷北口

 正直日暮里から上野にダイレクトに行ってくれと思ったりもするわけですが、何かの拍子に降りてみると駅前にはデリヘル嬢とホテルに行く、あるいは吉原に向かう変態紳士達が大勢たむろっているという。

 鶯谷南口

 本書では在りし日の鶯谷とか江戸時代からの歴史とかにも触れていますが、大半は鶯谷周辺で展開される風俗の話となっています。「韓デリ」「人妻の聖地」「吉原」etc…。著者は風俗で稼ぐ人妻にインタビューも行っていますが、韓デリでは著者曰く「行き過ぎた国際親善」を敢行しています。この手の風俗探訪インタビュー作品では、大抵作者はインタビューだけしましたよ、手は出してませんよ的ポーズを取ることが多いのですが、ある意味正直者ですね。

うぐいすだにミュージックホール

 個人的に鶯谷のイメージというと、1975年代にヒットした笑福亭鶴光の「うぐいすだにミュージックホール」。てっき実在するストリップ劇場なのだと思っていましたが、架空の劇場でした。ストリップ劇場の呼び込み兼司会の典型的な台詞や、劇場内における客や踊り子をリアルに描写しています。

 鶴光のサンスペ

 私は鶴光が大好きなんですが、さすがにこの歌を歌っていた頃はまだ鶴光の魅力に目覚めてませんでしたね。ヒットしたのはいいのですが、師匠である笑福亭松鶴から「落語の勉強をせずにストリップの歌を歌っている」と激怒され、3か月の破門を言い渡されたそうです。

ラブホテル街 

 既にこの曲の頃始まっていた「笑福亭鶴光のオールナイトニッポン」(サンスペ)で絶大な人気を博していたので、本業が落語家であることを忘れられていたりして。私の中ではほぼ完全にラジオパーソナリティでした。

信濃路 鶯谷店 

 正直風俗系の話は紹介しにくいのですが、興味を惹かれたのは駅前にあるという24時間営業の居酒屋「信濃路」。NHKの「ドキュメント72hours」でも2014年5月23日に「大都会・真夜中の大衆食堂」と題して取り上げられたそうです。

信濃路メニュー表 

 店内のメニューを見ると庶民派料理が格安で並んでいますね。私は高級フレンチよりもこういった店の方がなじむような気がします。風俗はともかく、この店は一度行ってみたいですね。

これでもかと豆腐料理 

 それから豆腐ならぬ豆富料理の名店「笹乃雪」。複数の愛人と交際する人妻が愛人に連れて行って貰ったという店ですが、なんと創業三百二十年で、古くは赤穂浪士や正岡子規にも供された当時の製法そのままににがりと湧き水のみを使用した豆富が賞味できるそうです。こういう粋な店に連れて行く甲斐性がなければ愛人も持てないということでしょうかね。

高台と低地 

 本書に登場する「韓デリ」で働く韓国人の女の子は、若くて独身で仕送りのために働いていますが、デリヘルとか吉原で働いたり、愛人となっている日本人の人妻達は基本的にお金のため、ということのようです。夫に不満があったり離婚寸前というケースもありますが、家庭はごく円満で夫は好きだけどお金が必要だからというケースもあったり。夫を愛したままでも出来るんですね、こういう仕事。バレたらただでは済まない気がしますが、身バレしないようにわざわざ鶯谷に来るんだとか。

寝取られた清楚妻 

 もっとも、夫が実は寝取られスキーだった場合はむしろ「我々の業界ではご褒美です」ということになるのかも。「一盗二婢三妾四妓五妻」という言葉が昔からありますが、男から見て、一番楽しいのは人妻を盗むこと(寝取り)、二番目に楽しいのは妻の目を盗みながら家の女中や下女を抱くこと(「良いではないか良いではないか」というヤツか)、三番目は妾を囲うこと、四番目は娼婦・娼妓を買うこと、最後の五番目が妻を抱くこと、という意味です。

よいではないかよいではないか 

 ちなみに三番目の妾と四番目の妓は入れ替わり、「一盗二婢三妓四妾五妻」となる場合もあるそうで、このあたりの順位は伯仲しているというか、人によるのかも知れません。「一盗二婢」と「五妻」は鉄板。つまり自分の妻はつまらないけど他人の妻は魅力的というがなんとも闇の深さを感じさせますね。日本男児の業は深いと言わざるを得ませんな。でもなんとなく気持ちはわかる(爆)。征服感とか背徳感がいい味出すんですかね。いや、やったことはないですよ。刃牙の無茶苦茶イメトレ的なアレですよ。「思い込みの力だ!!」

無茶苦茶イメトレ 

黒猫館の殺人:「館」シリーズ第6弾はクイーン風。でも違う作品を思い出してしまいました

ひよっこのキャスト

 NHKの朝ドラの「ひよっこ」、筑波嶺ではありませんが茨城県が舞台となっています。ロケ地は高萩のようですが、イメージ的には袋田の滝がある大子の方という気が。筑波嶺からは東京よりも遠いですが、同じ茨城なのでヒットして欲しいものです。そのうちヒロインは東京に行ってしまうんでしょうけどね。出演者をディスりまくっていたニュース(番組内番組)には笑いました。

新装改訂版黒猫館の殺人 

 本日は綾辻行人の「黒猫館の殺人」を紹介しましょう。先日読んだ「時計館の殺人」の直後の作品であり、時系列的にも1年後の話となっています。

 「黒猫館の殺人」は1992年4月に講談社ノベルスから刊行され、1996年6月に講談社文庫から文庫版が刊行されました。そして2014年1月に講談社文庫から新装改訂版が出版されており、今回読んだのは新装改訂版です。

新書版黒猫館の殺人
 

 前作「時計館の殺人」からおよそ6か月後に刊行されており、30代前半だった作者の若さと体力を感じさせますが、「あとがき」によるとやはりかなりの強行軍だったらしく、終盤はホテルに缶詰になり、完成直後は高熱でダウンしたそうです。学生時代から慢性扁桃炎を患っていたそうで、これを機に扁桃摘出手術を受けることを決意したそうです。

暗黒館の殺人 

 前作にして大作の「時計館の殺人」で第45回日本推理作家協会賞(長編部門)受賞しており、次作にしてやはり大作の「暗黒館の殺人」が「週刊文春ミステリーベスト10」で2004年の3位、「このミステリーがすごい!」で2005年の7位、「本格ミステリ・ベスト10」で2005年の2位に入っているという華々しさに挟まれて、本作は全然そういったエントリーがなくて寂しい限りです。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 大いなる謎を秘めた館、黒猫館。火災で重傷を負い、記憶を失った老人・鮎田冬馬の奇妙な依頼を受け、推理作家・鹿谷門実と江南孝明は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。深い森の中に建つその館で待ち受ける、“世界”が揺らぐような真実とは!? シリーズ屈指の大仕掛けを、読者(あなた)は見破ることができるか?

旧版黒猫館の殺人 

 例によって推理作家・鹿谷門実(島田潔)と編集者・江南孝明のコンビが、奇怪な建造物をいくつも建造している中村青司の手掛けた作品である黒猫館で起きた殺人事件の謎に挑みます。前回はまさに進行中の殺人事件に遭遇し、江南は自らも窮地に陥りましたが、今回は1年前に起きた事件の謎を解明するというものなので、生命の危険はありません。また、時計館での大量殺人がど派手なだけに、黒猫館の殺人はとてもこじんまりした感を受けるので、そのあたりが“地味”な印象を与えているのかも知れません。

 鮎田老人は、黒猫館の管理人をやっていたらしい…のですが、半年前に東京で発生したホテル火災に巻き込まれて重傷を負い、おまけに記憶まで失ってしまいました。ではなぜ黒猫館の管理人だったことが判明したのかといえば、火災遭遇時に財布や通帳の代わりにしっかりと抱きしめていた「手記」があったからです。

黒猫館 間取り 

 その手記は、10年後の自分に宛てた推理小説のようなものだと前書きされており、1年前、つまり1989年8月に黒猫館で起きた奇怪な事件が克明に綴られていました。「時計館の殺人」が時計館の中と外の出来事を交互に描いていたのに対し、本作は一年前の手記と現在の鹿谷らの行動が交互に描かれています。

 黒猫館はおそらく北大と目される大学の助教授だった天羽辰也が中村青司に依頼して1970年に建築した洋館です。作中の時間的には20年前の話になります。天羽は姪(死んだ妹の娘)と共にここに住んでいたそうですが、零落して破産し、館は人手に渡ってしまい、本人と姪は行方不明になっています。

ルイス・キャロル 

 現在の持ち主の馬鹿息子と、馬鹿息子が所属するロックバンドの一行が解散旅行にやってきたことで、事件の幕が開きます。密室での死亡事件が2件と、謎の地下室の奥にあった白骨死体。人死には3件だけなのですが、死亡事件は殺人なのか?だとしたら犯人は誰か?そして白骨死体は誰のものでなぜ地下に隠されていたのかなど、謎は豊富です。もっといえば黒猫館が阿寒にあることを突き止めるのにも苦労していたりします。

 本作はあんまり突っ込んで紹介するとネタバレになってしまうのですが、「館」シリーズ第一弾である「十角館の殺人」がクリスティの「そして誰もいなくなった」をモチーフにしているのに対し、本作はエラリー・クイーンの「神の灯」をモチーフにしています。

神の灯 

 「神の灯」は1940年発表の「エラリー・クイーンの新冒険」に入っている中編ですが、名作として、そしてあまりにも大仕掛けのトリックが有名なので日本では表題作となって刊行されていたりします。読んだことがある人は、黒猫館到着後の描写と巻頭の黒猫館の見取り図を比較することで、「あ、これは『神の灯』!」とすぐ判ると思います。そう、実はそこは黒猫館ではなかったという。

 では本当の黒猫館はどこにあるか?ですが、そこで綾辻行人はあっと驚く大仕掛けをしています。とんでもないところにあったんですね。そしてそれは、鮎田老人の手記を克明に読めば色々なところにヒントとして登場しているのですが、なかなか気づかないんですよねこれが。

 なお、天羽博士は「自分は鏡の世界の住人」だという趣旨のことを度々述べていたそうで、これも「神の灯」トリックであることのヒントとなっているのですが、実際、内臓の配置が、鏡に映したようにすべて左右反対になる内臓逆位であったそうです。

北斗神拳はきかぬ 

 内臓逆位のキャラというと真っ先に浮かぶのが「北斗の拳」に登場した聖帝サウザー。南斗六聖拳「将星」の男にして、108派ある南斗聖拳でも最強とされる南斗鳳凰拳の継承者です。しかも内臓逆位のため、経絡秘孔の位置も通常と逆であることから、その秘密を見破れない限り、正確な秘孔を突くことができない=北斗神拳が通じないということで、拳王ラオウですら戦闘を回避しており、ケンシロウは初戦で惨敗を喫しました。

サウザーの大名言 

 …まあ医学に精通していたトキがサウザーの秘密を察知したことで再戦では破れてしまうのですが。しかし「北斗の拳 イチゴ味」のせいで今やすっかりギャグキャラになってしまっていますなあ。アニメ化した際には正味たった2分のショートさに全米と共に聖帝十字凌も泣きましたが、銀河万丈のバカ笑いとか怪演ぶりが実に素晴らしかったです。おまけにユリアが皆口裕子ですよ。ショートアニメでもいい、第二期カモン。

イチゴ味のサウザー
 
 いや話が脇にそれてしまいましたが、本作にはクイーンの他に影響を与えている作品があるような気がします。それは80年代に出現した伝説のアダルトアニメ「くりいむレモン」。

くりいむレモン 

 「くりいむレモン」といえば何と言っても亜美ちゃんが有名なんですが、シリーズ11弾に「黒猫館」という作品があるんです。

くりいむレモンの黒猫館 

 1986年1月25日に発売され、太平洋戦争開戦直前という時代の山奥にある「黒猫館」を舞台とした作品で、人気作となり、1993年には「続 黒猫館」が、そして2006年には実写映画化もされています。AV女優が出演していますが、R-15指定の一般作品です。

続黒猫館 

 内容はともかく、黒猫館という名称はこちらが先行しているので、屋敷の名前はここから取ったのかなと思うのですが、どうなんでしょう。黒猫館の主である鮎川家というのも鮎田に近い感じですし。こっちの黒猫館は女性ばかりで実に気色がいいのですが。みんな魅力的ですが、特にメイドのあやさんが好きですな。

メイドのあやさん 

 報酬3000円に惹かれた主人公の大学生・村上ですが、当時の3000円が現在だといくらに相当するかは諸説ありますが、仮に1000倍だとすると300万円で、一冬の報酬としては充分ではないかと。3000万円だと高すぎて希望者殺到になってしまいますが、多数の応募者から選ばれた的な描写は一切なかったので300万円くらいが適当だと思います。まあ3000万円でもいいんですよ。なにしろ女主人の鮎川冴子には本当に支払う気はなかったようなので。でも無料だったとしても私は滞在したいな(笑)。己の心に従うと書いて“忌まわしい”と読むのです……

実写版黒猫館 

洗面器でヤギごはん 世界9万5000㎞自転車ひとり旅Ⅲ:7年半かけて世界一周

アツゥイ!

 まだ4月だというのにアツゥイ!ですね。今日も暑かったけど昨日はもっと暑かった。明日からは平年並みに戻るそうで一安心ですが、早くも今年の夏が思いやられますね。くわばらくわばら。

 本日は石田ゆうすけの「洗面器でヤギごはん 世界9万5000㎞自転車ひとり旅Ⅲ」を紹介しましょう。石田ゆうすけの著作を読んだのは初めてです。

洗面器でヤギごはん 

 石田ゆうすけは和歌山県白浜町出身。生年月日は明示されていないのですが、1996年頃の旅の記事に28歳になったと書かれているので、1968年生まれではないかと。高校時代から自転車旅行を始め、20歳の時に日本一周を達成しました。雪印乳業に入社して、3年3ヶ月勤めて資金を貯めたあと、自転車世界一周旅行を開始し、7年半かけて、9万5000㎞、87か国を走り、2002年末に帰国しました。

 なにしろ7年半の旅ですから、この旅については「行かずに死ねるか! 世界9万5000km自転車ひとり旅」「いちばん危険なトイレといちばんの星空 世界9万5000km自転車ひとり旅Ⅱ」と本作と三冊も書いています。例によって三部作の三冊目である「洗面器でヤギごはん 世界9万5000㎞自転車ひとり旅Ⅲ」を手に取った迂闊さはさすがはリハクの目の持ち主よと自分で自分を褒めたいところですが、図書館にはこれしか見当たらなかった気が。

石田ゆうすけ 

 「世界9万5000キロ自転車ひとり旅」シリーズ3部作は韓国、台湾、中国でも発売され、累計30万部を超えるヒット作になりました。現在は旅関係以外にインタビュー記事やグルメ記事も執筆しており、各誌で取材・執筆のかたわら、「夢」「国際理解」「モチベーション」「食」をテーマに、全国の学校や企業で講演も行っているそうで、講演公演回数は300回を超えており、アメリカや台湾でも講演を行っているようです。

 「行かずに死ねるか!」では、旅の間のノンストップで繰り広げられるハプニングを紹介し、「いちばん危険なトイレといちばんの星空」では、訪れた87カ国で「ここがいちばん!」と感じたの“マイ世界一”の数々を紹介しており、本作では世界中で出会った食べ物と人々の記憶が綴られています。

行かずに死ねるか! 

 2005年元旦から日本農業新聞で「世界食紀行」と題して連載したものをベースにし、単行本は2006年11月に実業之日本社から刊行され、大幅に加筆訂正された文庫版は2012年7月に幻冬舎文庫から刊行されました。私が読んだのは文庫版ですが、2話削って20話復活させたということで、文庫版が決定版といっていいでしょう。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

  世界にはどんな人がいて、どんな食べ物があり、どんなにおいがするのか―。パタゴニアの荒野でご馳走になったランチ、フィヨルドの海で釣ったサバのうしお汁、一見生ゴミなセネガルのぶっかけメシ、思わず落涙したアジアの懐かしい味。自転車旅行だから出会えた“食と人”の思い出。単行本に入りきらなかった20話を大幅加筆した文庫改訂版。

いちばん危険なトイレといちばんの星空 

 旅はアラスカから始まり、南北アメリカを縦断してヨーロッパに飛び、北欧からアフリカ喜望峰まで縦断した後で今度はユーラシア大陸を横断して日本に戻るという果てしなく長い旅です。それにしても7年半はかかりすぎだと思いますが、急ぐ旅ではないので気に入ると一箇所に長く滞在したりと気ままな旅をしているのでそうもなるでしょう。あるいは旅が終わるのを怖れていたり。

 読んで思うのは、世界中どこにでも親切な人はいるんだなあということ。自転車に乗った小汚いヒッピーのような謎のガイジンなんか、私なら絶対家に上げませんけどね。もちろん危ない目にも遭って、ペルーでは強盗に襲われて全財産を失っていますが、それでも旅を止めないのが凄いです。パスポートを再発行してもらい、必需品を購入したり日本から送って貰ったりしてなおも旅は続きます。しかもヒッチハイクではなく自転車だからなあ。

サイクル野郎 

 3年半働いて約500万円貯めたそうですが、よほど遊びとかしないで貯めたんでしょうね。私の場合、入社して3年半ではせいぜい300万程度しか貯金できてなかった気がします。元々サイクル野郎(古い!本人は“チャリダー”と呼称しています)だからあんまり趣味に金がかからなかったのか。でも自転車だって凝ればかなり金がかかりそうな気がします。

 世界は広いので、思わず美味しい物にであうことがあれば、身体が拒否するようなシロモノにも出くわします。基本自転車旅でいつもハングリーなのですが、それでも食べられないというのはよっぽどなんでしょうね。

ギニアのリソース 

 表題の「洗面器でヤギごはん」は、アフリカ・ギニアのある村で遭遇したリソースです。リソースというのはごはんに魚・豆・野菜などがごった煮になった汁をかけるという、要するにぶっかけメシです。店によって様々なバリエーションがありますが、その村で出たのはヤギ肉二、三きれに溶けたタマネギ少々という貧弱貧弱ゥなリソースでしたが、食器が洗面器でかなり不味かったようです。でも本書にはさらにまずそうな料理も出てきますので、やはり“洗面器”にインパクトを感じたのでしょう。

 「サイクル野郎」を読むと、日本一周を目指す人は結構いるみたいですが、さすがに自転車で世界旅行をしようという酔狂な野郎はそうそういないだろうと思ったら、結構旅先で酔狂な日本人に遭遇して一緒に旅をしたりしているんですね。留学を志望する学生が減少しているとか聞きますが、やる人はやるということか。

フィンランドの森 

 世界を旅することは年を取ってもできないことはなさそうですが、自転車となると若い頃じゃないと無理でしょうね。30台も半ばになって日本に戻った作者の胸に去来したのは“青春の終わり”だったでしょうか。それだけ長く“職業=旅人”をやってしまうと、日常に戻って働けるんだろうかなんて野暮な心配をしてしまいますが、作者に限っては何冊も著作を出しており、講演も行っているということで、旅の経験はその後の人生にしっかり生きているようです。

 それにしても87カ国って凄いですね。私は20カ国は突破したけど30カ国には全然届かない程度です。やはりアフリカや南米をこなさないといけんですかね。なお作者はオセアニアには全然足を踏み入れていませんから、オーストラリア人とかニュージーランド人は“世界一周”に異議を唱えるかも知れませんな。私も温存していたら、いつの間にか海外に行くモチベーションがなくなってしまったので、すっかり行き損ねたような気がします。

ラグマン 

マスカレード・イブ:先に読んでしまった「マスカレード」シリーズ第2弾

花散る朝

 花散らし 染まり駆けゆく 朝の風(冬空)
 ということで、桜の花が散ると一気に草木が芽吹いていく感じがしますね。今日もやたら暖かいけど、明日はもはや「アツゥイ!」と言いたくなる夏日予報。おいおい4月から勘弁してくれよって感じですな。

マスカレード・イブ 

 本日は東野圭吾の「マスカレード・イブ」を紹介しましょう。「マスカレード・イブ」は2014年8月21日に単行本を経ずに集英社文庫からいきなり文庫版が刊行されました。何故「イブ」なのかといえば、第一弾「マスカレード・ホテル」の前日譚だからです。だったらそっちから読めよという話ですが、例によって海のリハクの目が発動しまして。というか「マスカレード・ホテル」が見当たらなかったという。

 まあ第2弾が前日譚なので、時系列的にはこっちから読んだ方が正しいのではないかという気もします。気を取り直して続けるぞ(笑)。まずは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

マスカレード・ホテル 

 ホテル・コルテシア大阪で働く山岸尚美は、ある客たちの仮面に気づく。一方、東京で発生した殺人事件の捜査に当たる新田浩介は、一人の男に目をつけた。事件の夜、男は大阪にいたと主張するが、なぜかホテル名を言わない。殺人の疑いをかけられてでも守りたい秘密とは何なのか。お客さまの仮面を守り抜くのが彼女の仕事なら、犯人の仮面を暴くのが彼の職務。二人が出会う前の、それぞれの物語。「マスカレード」シリーズ第2弾。

 舞台となるホテル・コルテシアは一流ホテルで、 ホテルサイドの主人公山岸尚美は「ホテル・コルテシア東京」勤務ですが、大阪に新装オープンした「コルテシア大阪」に教育係として一時期派遣されました。取材協力として東京都中央区日本橋にある「ロイヤルパークホテル」がクレジットされており、「ホテル・コルテシア東京」のモデルとなっています。

コルテシア東京 

 「マスカレード・イブ」は短編4編を収録。末尾にして表題作である「マスカレード・イブ」は描き下ろしで、残る三編は集英社の「小説すばる」に掲載されました。

 「それぞれの仮面」は山岸尚美の元カレが登場します。コルテシア東京に就職して4年目となった尚美は、当初からの希望だったフロントクラークに配属され、新たな業務に戸惑いながらもなんとか慣れていきつつあるというところ。そこに尚美の大学時代の元カレが客としてやってきます。

マスカレード・イブPOP 

 元カレは大学の先輩で、2年ほど交際しましたが、元カレの就職先が倒産して失業し、コネで地元である艦載の企業に就職することとなったことを契機に別れたという経緯がありました。なのでドロドロの愛憎劇というのはなく、遠距離恋愛でもいいところ、仕事に専念したいという元カレからの別れを尚美が受け入れたのでした。

 元カレはいつの間にか元野球のスーパースターのマネージャーをやっており、スーパースターの海外渡航の前泊ということでコルテシア東京に宿泊したのでした。ところが業務を終えて帰ろうとした尚美に元カレから電話がかかってきて、ホテルで逢っていた交際相手が失踪したので力を貸して欲しいと言われます。

ロイヤルパークホテル 

 彼女には自殺癖があるので万が一の際にはホテルの評判にも傷が付くと言うことで内密に捜索をする尚美ですが、他の部屋での予約状況ならルームサービスの注文状況から真相に辿り着きます。これは「日常の謎」に近い話ですが、からくりは結構ほろ苦い。マネージャーの仕事って大変ですね。

 「ルーキー登場」は刑事サイドの主人公新田浩介の初登場エピソード。両親と妹は米シアトル在住で、父は日系企業の顧問弁護士。高校に入るまで2年間をロサンゼルスで過ごした帰国子女でもあり、英語を流暢にこなします。大学は法学部出身ですが、法曹の道へという父のアドバイスに背いて警察官になりました。

高級ホテルその1 

 この時はまだトッぽい兄ちゃんという感じで、お姉ちゃんと遊んでいるところに召集が掛かったりしています。事件はホワイトデーに発生した実業家殺害事件でした。先輩でヤクザ的な風貌の本宮とコンビを組んで捜査に当たる新田は、持ち前の推理力で犯人確保に貢献します。


 しかし、その背後には真犯人の影が。したたかな真犯人=女性の意図とからくりを見抜きながら、具体的証拠を挙げられず、その仮面を暴くことはできませんでした。認めたくないものだな…自分自身の、若さ故の過ちというものを…。が、辛酸を嘗めて人は成長するのです。

高級ホテルその2 

 「仮面と覆面」はまた尚美のお話。教育係として新規開業した「コルテシア大阪」に助っ人としてやってきた尚美は、ロビーにたむろするオタッキー達と遭遇します。どうやら人気覆面作家タチバナサクラに会おうとしているようです。

 タチバナサクラは27歳の女性作家という触れ込みで、ぼかして掲載するつもりの写真が手違いでぼかしがはいらないままにネットに流れてしまったせいで熱狂的なファンがいるようです。が、担当編集者によると正体は中年のおっさんで、実際フロントにやってきたのはおっさんでした。

高級ホテルフロント 

 しかしこのおっさん、缶詰になっているはずが長時間外出している様子。ですが編集者の電話にはちゃんと出て仕事をしていると言っている。これは一体どうしたことかといぶかしむ尚美ですが、客なので干渉する訳にもいきません。そうこうしているうちに、熱狂的オタッキー達はあっと驚く手段に出てタチバナサクラと電話で会話しますが…。こちらも尚美が真相を究明しますが、客のことなので誰にも言う訳にもいかず。やはり「日常の謎」系です。

 表題作「マスカレード・イブ」は新田と尚美が交錯するエピソードですが、二人は直接出会いません。大学教授殺害事件が発生し、八王子南署生活安全課の女性警官・穂積理沙とコンビを組むことになった新田。「ルーキー登場」では先輩の本宮に大丈夫かコイツと思われていた新田ですが、今度は穂積に大丈夫かコイツと思うようになっています。

島津ゆたかのホテル 

 容疑者として共同研究者の准教授が浮上しますが、事件当時彼は「コルテシア大阪」で人妻と密会していたと主張します。しかし人妻の名前は頑として明らかにしません。あまり成算がないということで単独で大阪に出張させられた穂積の懸命さに心打たれた尚美は、「証言として採用しないこと」を条件にギリギリの範囲でヒントを与えます。これによって准教授が密会していた人妻が判明しますが、それは准教授のアリバイを証明することになってしまいます。 

 完全に行き詰まるかと思われた捜査ですが、穂積の何気ない一言でアルキメデスの如く“Eureka!!”と叫んだ新田は、驚きのトリックを暴きます。穂積もお手柄だった訳ですが、最後に返す刀で新田は穂積の欺瞞を暴き、入れ知恵されたことを白状させますが、尚美の名前を出さなかったところは偉いぞ穂積。というか、この人は面白いキャラなので、シリーズに再登場させたらいいのに。

ユリイカのアルキメデス

 シリーズといってもまだ二作だけですが、「マスカレード」シリーズは既に発行部数は216万部以上というベストセラーシリーズとなっています。「マスカレード・イブ」は一ヶ月半で100万部を突破したとか。

 犯人仮面を暴くの刑事と、客の仮面を守り抜くホテルのフロントクラーク。対照的な仕事の二人がどう絡み合って活躍するのか、それは「マスカレード・ホテル」を読むまでのお楽しみになってしまいました。置いてあるんだろうね、筑波嶺の図書館!!

封印された日本の村:オカルトにあらず、かつて存在した風景の記録

浅田真央引退

 浅田真央の引退記者会見がありました。26歳で引退なんて、スポーツ選手としても早すぎる気がしますが、フィギュアスケートは殊の外選手寿命が短いので、業界では大ベテランなんでしょうね。あれだけの才能を持ち、あれほど各種大会で勝利しながら、オリンピックでは遂に金メダルに手が届かなかったというのも運命なんでしょうか。とにかくお疲れ様でした。「曲り角」の先の人生が幸せに満ちていることを。

封印された日本の村 

 本日は歴史ミステリー研究会編「封印された日本の村」を紹介しましょう。彩図社から2016年3月7日刊行されており、私としては異様に新しい本を読んだことになります。図書館、よく購入した。

封印された日本の秘境 

 本書は「封印された」シリーズの一冊で、他には「封印された日本の秘境」「封印された日本の離島」があります。それらも読んでみたいですが。裏表紙には「廃村となった村、存在し続ける村…どの村からも人々の息づかいが聞こえてくる」とだけしか書いてありませんので、Amazonの内容紹介です。

封印された日本の離島 

 昔から人々は日本のあらゆる場所で村を作り生活してきた。しかしすでに消えてしまった村は多い。かつて人々はどんな場所で生き、どんな事情で消えていったのか。また、現存する村々がどのような文化を継承しているのか…「村」を通して人間の生きざまが見えてくる。

杉沢村伝説 

 “封印された”なんて仰々しいタイトルをつけられると、ネットで噂される都市伝説の「杉沢村」とか「鮫島事件」なんかを連想するんですが、本書にはオカルト色は一切なし。まあ“キリストの墓”がある村とか“八つ墓村”のモデルとなった事件が起きた村なんかも紹介されているので、超常現象系のミステリーが取り上げる内容がないでもありませんが。

鮫島事件 

 第一章「人々が追われた村」は、噴火や土石流などの自然災害や、ダム建設計画のために消えて行った村を取り上げています。中でも印象的なのは、奈良県十津川村が大水害に遭い、被災した村人が北海道に移住したという話。北海道にいたとき、空知地方に「新十津川町」があったのを覚えていますが、あれがその移住先だったんですね。北海道には他にも広島県出身者が移住した「北広島市」や仙台藩の分家が集団移住をした「伊達市」なんかがあります。探せば他にもあるかも。

十津川大水害 
軍艦島

 第二章「繁栄のなごりが残る地」は、今も残る有名な廃墟が取り上げられています。有名な軍艦島(端島)、鰊御殿や旧大社駅など、今は使われていないけど観光資源としてはなお働いている施設、そしてアパート群や竪坑櫓などが出てきます。印象的なのは六甲山中にひっそりと立つ摩耶観光ホテルの廃墟。道路もない山中にあって解体もままならず、今なお鎮座していますが、美しい廃墟として有名だそうです。

 旧大社駅
摩耶観光ホテル 

 旧大社駅も駅としての使命は終わっているのですが、廃止後もホームや駅の掲示などがすべて当時のまま残されており、2004年に国の重要文化財に指定されており、2009年には近代化産業遺産に認定されているせいで、全く廃墟感がないですね。

大久野島 

 第三章「人の姿が消えた地」は、近代化とか行動成長によって人々が流出してしまった結果消えた集落や村を紹介しています。印象的なのは大久野島。瀬戸内海の島ですが、かつて地図から消えていた時代があったという。

ウサギの楽園となった大久野島 

 今ではウサギの島として有名ですが、戦時中は毒ガス製造の拠点とされ、その事実が極秘事項だった(化学兵器製造はジュネーブ条約違反だったし)ため、島の存在そのものを軍によって抹消されていたそうです。ウサギも毒ガス検知のために飼われていたのが始まりだとか。

大久野島の軍事遺構

 毒ガス製造施設ほか、様々な軍事遺構が多数残っており、ウサギを愛でる他、廃墟マニアもウハウハな島かも。しかし適切に処理されないままに廃棄された毒ガスの影響か、環境基準を大きく超えるヒ素による土壌汚染が確認されており、水は島外から船で運ばれているそうです。

キリストの墓とされるもの 

 第四章「逸話や伝説が残る村」は、今も存続している村ばかりが登場。全然封印されていません。「キリストの墓」がある青森県新郷村には、なんとピラミッドもあるそうです。MMR風に言えば「ここは古代の東武ワールドスクエアだったんだよ!!」「な、なんだってー!!」という感じ。

ピラミッドもある 

 昔は戸来(へらい)村という名前で、盆踊りでは「ナニャドヤラ」という奇妙なはやし歌がヘブライ語から来ているという説があったりして、イスラエルの「失われた十氏族」との関わりも指摘されていたりして。まあ確かに面白いけどキワモノの限りだと思いますけど。ちなみにキリストの墓は一般にはエルサレムの聖墳墓教会と言われていますが、その他インド・カシミール説、南フランス説、イギリス説があるそうです。しかし、聖書によれば死後復活して昇天したということなので、遺骸は存在しないということに。

おんだ祭 

 あと面白かったのは奈良県明日香村の「おんだ祭」。厳粛な神事…なんですが、飛鳥坐神社の舞台で、衆人環視の中で天狗とお多福が性行為を繰り広げるそうです。外人大喜びでこれを目当てに来日する人もいるとか。見るぶんにはいいですが、やれと言われたら困惑しますね。

かなまら祭 
魔王マーラ 

 祭事には性的なものって案外あって、川崎市の金山神社の「かなまら祭」なんか特に有名ですよね。メガテンシリーズに登場する魔王マーラのような男根御輿が練り歩くという。こっちは担ぐだけならやってやれないことはなさそう。

八つ墓村 

 第五章「事件の舞台になった村」は近現代史に登場する事件の現場が紹介されています。秩父困民党が明治政府に対して武装蜂起した「秩父事件」の旧粟野村とか、横溝正史の「八つ墓村」のモデルになった、一晩で30人もの人を殺害した「津山事件」(今なお日本犯罪史上最大の大量殺人事件とされます)の舞台となった旧西加茂村などが登場。

秩父事件 

 各記事は短いので物足りないところもありますが、自身で調べてみる端緒として非常に面白い本だと思います。

時計館の殺人:日本ミステリー史に残る新本格ミステリーの傑作

花散らしの雨

 せっかく満開の桜なのに無常な花散らしの雨。残念ですが「スローターハウス5」的に言えば「そういうものだ("So it goes")」ということか。カート・ヴォネガットは偉大ですねえ。

時計館の殺人一冊版 

 本日は綾辻行人の「時計館の殺人」を紹介しましょう。綾辻行人の作品を読んだのは初めてではないのですが、当ブログでの紹介は初めてなので、まずは作家のプロフィールから。

綾辻行人

 綾辻行人は1960年12月23日生まれで京都市出身。京都大学に進学して推理小説研究会に入会しましたが、そこには後に結婚する小野不由美や、ミステリー作家となる我孫子武丸や法月綸太郎も所属していました。まさに多士済々。

小野不由美先生 

 大学院在学中の1986年に小野不由美と結婚し、翌87年に「十角館の殺人」で作家デビューしました。「十角館の殺人」は新本格ミステリーの嚆矢とされています。では「新本格ミステリー」とはなんだという話になるんですが。

十角館の殺人 

 推理小説のジャンルの一つに、謎解き、トリック、頭脳派名探偵の活躍などを主眼とするものを「本格ミステリー」と呼びます。海外ではエドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人事件」で原型が確立され、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズの短編もの、そしてアガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、ディクスン・カーらの長編ものが本格ミステリーの黄金時代とされています。

モルグ街の殺人事件 

 日本では江戸川乱歩や横溝正史の長編が本格ミステリーとされますが、その後社会性のある題材を扱い、事件そのものに加え、事件の背景を丁寧に描く「社会派ミステリー」が台頭することで、本格ミステリーは古典的でリアリティに欠けるとされ、関心が薄れていってしまいました。欧米と日本ではミステリーそのものの歴史の長さが圧倒的に違うので仕方がないところかも知れませんが。

獄門島 

 それでも本格ミステリーは、ベテラン・中堅作家が書き続けていましたが、1980年代後半から90年代にかけて、新たなムーブメントが起きます。それが「新本格ミステリーで」、古典ともいえる「本格ミステリー」に倣った作風を志向しており、科学技術の発展などの時代背景を考慮に入れつつ、謎の不可解性や解決の論理性を重視しているのが特徴です。その先駆けが綾辻行人で、我孫子武丸や法月綸太郎など京都大学ミステリー研究会出身の作家が中心となっていました。他にも有栖川有栖、北村薫、二階堂黎人、京極夏彦なども新本格ミステリーの代表的作家と言えましょう(他にもたくさんいますが、取りあえず作品を読んだことのある作家を並べてみました)。

人形館の殺人 

 これまでに読んだ綾辻行人の作品としては、デビュー作の「十角館の殺人」の他、「人形館の殺人」、「緋色の囁き」を覚えていますが、いずれもブログ開始前に読了していたと思います。つまり結構前。「時計館の殺人」は、1991年9月に講談社ノベルスから刊行され、1993年5月には講談社文庫から文庫版が刊行されました。2012年6月には上下巻に分冊した新装改訂版が同文庫から刊行され、私が読んだのもこちらでした。「十角館の殺人」から始まる「館」シリーズの第五弾になります。

緋色の囁き 

 「館」シリーズは、素人探偵・島田潔(後に推理作家となりペンネームは鹿谷門実)が、今は亡き建築家・中村青司が建築に関わった建物に魅せられて尋ねていくもので、そこでは決まって凄惨な殺人事件が起こります。中村青司はもちろん架空の建築家ですが、奇妙な建物ばかり設計・施工しています。もちろんオーナーのオーダーに応えてのものなのですが、この人の関わる建物で必ず事件が起きるのは、オーナーのせいなのか建築家のせいなのか、それとも相乗効果なのか。

時計館の殺人上 

 「時計館の殺人」は第45回日本推理作家協会賞を受賞(同時受賞は宮部みゆきの「龍は眠る」)しており、「新本格ミステリー」を定着させた作品として評価されています。1991年の「週刊文春ミステリーベスト10」で第4位、1992年の「このミステリーがすごい!」の11位。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

変な懐中時計 

 (上巻):鎌倉の外れに建つ謎の館、時計館。角島・十角館の惨劇を知る江南孝明は、オカルト雑誌の“取材班”の一員としてこの館を訪れる。館に棲むという少女の亡霊と接触した交霊会の夜、忽然と姿を消す美貌の霊能者。閉ざされた館内ではそして、恐るべき殺人劇の幕が上がる! 不朽の名作、満を持しての新装改訂版。 

時計館の殺人下 

 (下巻):館に閉じ込められた江南たちを襲う、仮面の殺人者の恐怖。館内で惨劇が続く一方、館外では推理作家・鹿谷門実が、時計館主人の遺した「沈黙の女神」の詩の謎を追う。悪夢の三日間の後、生き残るのは誰か?凄絶な連続殺人の果てに待ち受ける、驚愕と感動の最終章!第45回日本推理作家協会賞に輝く名作。

交霊会 

 物語は時計館の中と外に別れて交互に進行していきます。時計館内部での主人公は江南。彼は「十角館の殺人」で次々と殺害された大分県K**大学・推理小説研究会の生き残りで、その事件は3年経った今もトラウマとなっています。それなのにまたしても遭遇してしまう猟奇殺人事件。

時計館平面図 

 そして「十角館の殺人」で探偵役となった島田潔は、推理作家鹿谷門実となっており、外部から時計館の謎に迫っていくことになります。今回参加するのはW**大学超常現象研究会。ミステリーといっても推理小説ではなく超常現象の方だったんですね。

フランス枕 

 主な登場人物が2ページにわたって紹介されており、あまりの多さに驚きますが、心配はいりません。その多くは故人となっているからです。そして生きている人も次々と殺されていきますので、むしろ何人生き残れるんだと心配するくらいです。

火かき棒 

 本書では犯人が誰かということもさることながら、殺す動機も謎となっています。一応10年前の出来事が発端になっているようだということが判明するのですが、それと全く関わりのない人まで殺されてしまいます。実は途中で何となく犯人は見当がつくのですが、アリバイが完璧にあるので、共犯者が存在するのかと思っていましたが、まさかの単独犯でした。

グランドファーザークロック 

 読み終わった後で思い返せば、かなりきわどいネタバレ的な描写がいろんな所にちりばめられていました。なのに鹿谷門実が真相を暴くまで気付かないのは、私が海のリハクの目の持ち主だからでしょうか。本書はとにかく熱中して読んでもらい(殺人が横行していますが)、終盤の謎解きにあっと驚くのが楽しいので、言いたいことはたくさんあるのですが、とにかく読んで下さいとだけ言っておきましょう。

ベネチアの仮面 

 アリバイのトリックは驚愕ものですが、それは実は犯人が用意したものではなく、もともと存在していたものを利用したに過ぎません。ではなぜそれが以前から存在していたのかということについても、その事情が破綻なく明らかにされていくので、構成の妙に唸らざるを得ません。

和時計 

 唯一謎なのは、犯人がなぜアリバイ工作に腐心していたのかということです。“復讐”さえ果たされれば、その後自分が警察の追及から逃げのびることへのモチベーションはそんなになさそうなんですが。

アンティーク調置時計 

 とりあえずどんなにお金持ちでも、中村青司が関わる建物には住みたくないですね。まあ所有者達はそれぞれわざわざ中村青司に依頼して建設しているのですが。

歪んだ王国 

 なお谷山浩子が1992年6月にリリースした19thアルバム「歪んだ王国」には、9曲目に「時計館の殺人」という楽曲が収録されています。もちろん作詞は綾辻行人。ちなみに8曲目の「気づかれてはいけない」の作詞もしています。
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