鬼:西村寿行の連作中編ハードロマン

謹賀新年
 
 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

麗しの筑波嶺

 去年は戦国ランス実況中継、一昨年は畠中恵の「まんまこと」と、例年1月1日から営業(?)しておりました筑波嶺夜想曲ですが、今年は4日からと遅いスタートとなりました。札幌に飛ばされたので、筑波嶺に帰ると更新ができないというジレンマ。

きかぬのだ

 しかし、雪のない路面は実にいいですね。寒いっていったって札幌を経験しているとトキの攻撃を受けたラオウみたいなもんですよ。まあ屋内の寒さという点では札幌は実に暖かいので筑波嶺の薄ら寒さというのは懐かしくも辛いですけどね。

仕事始めに着たいシャツ

 さて明日から全国の大方のリーマン諸君と共に仕事始めということになるのですが、九連休もいいけど、あまり休むと仕事に復帰するのが大変ですよね。しかも月曜からスタートだもんなあ。その点学生さんは8日あたりからだから楽勝ですね。ウラヤマシイ… 

角川文庫版の鬼

 という訳で、本日は札幌に戻ったばかりで疲れているので、前に書いておいたストックを使わせて貰いましょう。本日は西村寿行の「鬼」です。西村寿行の作品を取り上げるのは今回が初めてですね。

ノベルシリーズの鬼

 かつて文壇には“三村”という言葉がありました。1980年代の人気作家であった西村寿行・森村誠一・半村良の三人に「村」の字があったことから生まれた言葉ですが、今じゃ「西村」といったら京太郎でしょうね。

西村寿行

 西村寿行(1930年11月3日-2007年8月23日)は香川県出身で、実兄も作家の西村望です。旧制中学を卒業後、新聞記者、タクシー運転手、小料理屋など20近い職種を経験した後に1969年に作家デビューしました。以後、動物小説、社会派ミステリ、アクション小説(バイオレンス小説)、パニック小説など幅広い作品でベストセラー作家となりました。

鬼が哭く谷

 ハードロマンと呼ばれる作風で、文体は断定調の短いセンテンスの多用に特徴があり、格調高く、重厚、叙事詩的と評され、登場人物の決断力を際立たせる効果とともに、ストーリー展開にスピード感をもたらしていると評されています。

鬼狂い

 極度の酒好きで、全盛期は毎晩バーボン1本を飲み切り、毎月原稿800枚を書いていたそうです。週末ごとに「寿行番」編集者たちとの大宴会で大騒ぎをしても、締め切りには決して遅れなかったというところはプロですね。ただ、非常に酒癖が悪かったそうです。出版業界というところも現在では古色蒼然としているようですが、きっと30年以上昔のこういう作家達との交流の遺風が残っているのでしょう。

峠に棲む鬼

 直木賞候補には何度もなりましたが、大きな賞には縁の無い作家人生でした。売れまくったから文学賞を受賞する必要は特段感じなかったでしょうが、あまりの売れっぷりに他の作家の嫉妬もあったりして。

鬼の都

 西村寿行の作品には「鬼」が入るものが多いです。例えば「鬼が哭く谷」(「鬼が哭く街」ならカサンドラなんですが)「鬼狂い」(「鬼」と書いて「もの」と読みます)「峠に棲む鬼」(これは色んな意味で大作)「鬼の都」「鬼の跫」「執鬼」など。そのものずばり「鬼」である本作は1983年に、出版された連作中編集です。

鬼の跫

 例によって文庫本表紙裏の内容紹介です。

執鬼

 平安時代、文徳天皇の女御・藤原明子(あきらけいこ)が鬼の気(もののけ)に憑かれた。悪霊退散の手を尽くしたが、大修法も効果がなく、遂に鬼の手で女御は陵辱されてしまった……。
 約十世紀が経った京都洛北で、女の変死体が発見された。さらに比叡山でも観光にきた女子大生が行方不明となり、同様に無残な姿で発見された。刑事である御門興宣は紀州犬をつれた屋形重介の協力を得て、捜査に乗りだした。しかし、そこには意外な犯人と魔性・荒吐鬼(あらはばき)との壮絶な闘いが待っていた……。
 情念の“鬼”に挑んだ著者渾身の伝奇長編小説!

現代風藤原明子

 本作は中編5本で構成されています。「嬈亂(にょうらん)」は、「今昔物語集」に登場する平安時代の鬼の伝説の話です。藤原明子に物の怪が取り憑き、奈良の深山に住む無常という名の聖がこれを取り除きます。正体は古狐でしたが、この際父の良房から「美しく生まれすぎた」と評されるほどの明子の姿を垣間見てしまったことで、長年修行したはずの無常は色欲に取り憑かれ、食を断って死して後に鬼となって朝廷を揺るがします。

祇園

 第一章「醜心(おに)」は、京都の祇園で名の知れた苑生(そのう)という舞妓が無残に殺された話です。苑生はなぜか金に強く執着しており、何人もの旦那を持ち、破滅するまで金を使わせていました。明白に怨恨による犯行と思われましたが、捜査は難航します。警視庁の御門興宣は苑生の異母兄で、かつて苑生の旦那で大企業の社長だった屋形重介という年配の男に話を聞くと、屋形は最近、夜な夜な予言を告げる詩吟を耳にしていて、苑生の死も予感していたと言います。苑生と全く無関係な女子大生が同様の手口で殺害されたことから、犯人は皆目見当がつかなくなり、警察はやむなく美人婦警を使って囮捜査を開始しますが…

祇園の芸妓さん(イメージ)

 犯人は誰もが意表をつく人物なのですが、その原因については「嬈亂」と同じで、長年の厳しい修行を無に帰してしまったのがたまたま一瞬流れたAVというのが、男の情けなさというか色欲の深さ、恐ろしさというか。メソポタミア神話のギルガメシュのライバル(後に親友)のエンキドゥも、インド神話の荒行をする仙人も、だいたいそれを怖れて派遣された美女によって籠絡されてしまうことからも、女性の色香というものが男に顕す絶大な効果というもとが窺われますけど。

 苑生が何のために金に執着したのかは最後まで不明で、金を稼ぐこと自体が目的となっていたようですが、その浅ましさを「醜心」と呼ぶのはいいけれど、そこまで入れ込んで勝手に破滅していく男達の方が情けないという気がします。ところで身内は異母系の御門興宣しかいないので、残された金は全部彼のものになってしまうのでは…。4億円からあるらしいので、明日から刑事を辞めて悠々自適の生活だ(笑)!

 第二章「醜男(おに)」は長野県の飯綱村の話で、村は東谷と西谷に別れて、古くは田んぼの水をめぐって血で血を洗う抗争をしていました。しかし、飯綱村出身の屋形重介が、生まれ故郷のために採算度外視で工場を作ったことにより村人は裕福になり、対立は過去の話になったかに思われました。しかし、一世紀前の黒い芽は完全に立ち枯れたわけではなかったのです。

犬神の呪法

 村の繁栄から全く外れてしまった神社の神主が犬神の呪法を行い、その直後に村長の嫁が失踪したことで東谷と西谷は再び対立抗争を展開するようになります。援助を求められた屋形重介までが失踪するに至り、縁のある御門興宣が捜査に乗り出します。呪法は本当にあるのか?犬神の呪法というのは画像のような動物愛護団体が総突撃してきそうな残酷な方法のようですが、本当に恐ろしいのは呪いよりもそんなことを平然と行ってしまう人の心ですね。

坂上田村麻呂

 また平安時代に戻って「荒吐鬼(あらばき)」。蝦夷征伐の実態は歴史書とはかけ離れており、朝廷の遠征軍は蝦夷に惨敗を繰り返していました。蝦夷には五人の王がおりその上に荒吐鬼という鬼神がいるのです。坂上田村麻呂は立烏帽子という美しい妖術使いとともに蝦夷に赴きますが…。

現代風鈴鹿御前

 立烏帽子というのは鈴鹿御前とも呼ばれる、室町時代の御伽草子などに登場する伝説上の女性で、本作では天竺より鈴鹿山に降臨した第四天魔王の娘だと自称しています。第六天魔王なら織田信長が自称していたとされることなどで有名で、仏典でも第六天(他化自在天)には天子魔(略称天魔)がいる云々という記載がありますが、第四天魔王とはこれにいかに。第四天は兜率天で、将来の仏である弥勒菩薩が説法をしているそうですが、そんな環境でも魔王がいるんでしょうかね。
 
 それはさておきこの立烏帽子、日本を支配しようとして来たものの、京都と東北に強力な鬼神がいて手が出せないのだそうです。拮抗状態を打破すべく、蝦夷の五王で最も魔力の高い大嶽丸に求婚したものの、大嶽丸は荒吐鬼をはばかって応じなかったので、田村麻呂となって奥州制圧を目指しますが……。

 第三章「醜類(おに)」は、屋形重介とその愛人である樹美が北上山地に旅行に出かけたところ、マヨイガ(迷い家)に行き会います。遠野物語に登場するマヨイガは訪れた者に富貴を授ける不思議な家で、訪れた者はその家から何か物品を持ち出してよいことになっていますが、屋形重介は逆に樹美を失ってしまいます。

 屋形重助が財界の大物であることから、警視庁は休暇という名目で御門を差し向けます。御門と屋形、そして紀州犬の麻呂が遭遇する東北の怪奇とは?
 
 本作は金に執着する美人の心の裡の醜い鬼、女の色香に迷う男の欲望という名の鬼、嫉妬心の鬼など、人の心の中の鬼を登場させてきましたが、平安編に登場する鬼・荒吐鬼は人知を超えた力を持ち、対抗し得るのは京都に花背峠にいるらしい「朗詠の人」のみ。遙かな古代に人の心の善悪が別れたものだという仮説が登場しますが、正しいかどうか。とりあえず、東北で圧倒的な力を示した荒吐鬼がなぜ京都に来なかったのかは、京都にも強力な鬼神がいたせいで、「荒吐鬼」の章で禁を破って遂に京都にやってきた荒吐鬼は、もう一歩のところで「朗詠の人」に撃退されてしまいます。

合体後(笑)

 強力な鬼神・荒吐鬼を奉じる東北の邪教集団を相手に戦う二人と一匹ですが、ラストは意外にあっけないです。心が善悪に別れたなんていうと、ドラゴンボールに出てきた地球の神とピッコロ大魔王を思い出しますが、本来は誰の心だったんでしょうか。個人ではなく集団とかのものなのかなあ。

東日流外三郡誌

 荒吐鬼の説明中で、今ではほぼ完全に偽書とされる「東日流外(つがるそと)三群誌」が登場してくるのはご愛敬。あれだけ読むと結構面白いのですが、冥王星とか出てくるのはやはりヤバいですよね。「東日流外三群誌」をはじめとする和田家文書とか竹内文書とかは、かつて「ムー」とか「トワイライトゾーン」といったオカルト雑誌で取り上げられていましたね。昔は大好きだったんですよ、オカルトが。あまりにも好きだった少年時代を経てどうなったかというと、極めてスケプティックになりました。まさに作用反作用の法則。

竹内文書
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ユースフ

Author:ユースフ
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
カテゴリ
リンク
ブロとも一覧

秒速5センチメートル・・・桜花抄の軌跡を追ってみた

心理兵器:秒速5センチメートル
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
FC2カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
日記
34位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
会社員・OL
8位
アクセスランキングを見る>>
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

最新トラックバック
検索フォーム
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ