マルドゥック・スクランブル:少女が本当の「人生」を獲得するまでの物語

マルドゥック・スクランブル1巻

 今日も暑かったですね。東京では今年最初の猛暑日でした。しかし夕方から涼しくなってきた気配が。快適に寝られたらいいのですが。

 さて、「魔法少女まどか☆マギカ」の考察も一段落つきました。好き勝手なこと書いておいてなんですが、さすがにずっと考察してるのはちょっと疲れました。これからはもうちょっと気楽にやりたいなーと思います。あれで気楽じゃなかったのか?と思われてしまいそうですが。

 今日は、先日読んでびっくりした「マルドゥック・スクランブル」をご紹介しましょう。作者は冲方丁(うぶかた とう)で1977年生まれで現在35歳。本作で2003年に第24回日本SF大賞を受賞しています。ということは、本作執筆時は25,6歳ということですか。天才とはこういう人を言うのでしょうか。
マルドゥック・スクランブル2巻

 まあ、それはさておき作品について語りましょう。

 あらすじは、
「少女娼婦バロットはショーギャンブラーにしてオクトーバー社の汚れ仕事を引き受けるシェルの計画により命を落としかけるが、シェルの犯罪を捜査する委任事件担当捜査官のイースターとウフコックに救出され、マルドゥック・スクランブル09法に基づく禁じられた科学技術の特別使用によって一命を取り留めた。そしてバロットはスクランブル09により高度な電子干渉(スナーク)能力を手に入れ、イースター、ウフコックと共にシェルの犯罪を追う。だがシェルも委任事件担当捜査官ボイルドを雇いバロットを追い詰めようとしていた……」
マルドゥック・スクランブル3巻

 というもので、堂々3巻(1.The First Compression 圧縮、2.The Second Combustion 燃焼、3.The Third Exhaust 排気)の大長編にもかかわらず、主要登場人物が少ないのが特徴です。あと、主要登場人物などの名前は卵がモチーフとなっています。例えば「バロット」は孵化直前に茹でられたアヒルの雛、「シェル」は卵殻、「イースター」はイースターエッグ(復活祭を祝うカラフルな卵)、「ウフコック」は煮え切らない卵、「ボイルド」はゆで卵、という具合です。

 主人公のルーン=バロットはまだ15歳で、名前も娼婦としての源氏名です。もちろん好きで娼婦をやっている訳ではなく、悲惨な家庭環境の中で転落していった「奈落の花」です。シェルに引き取られて専属娼婦となることで、一見幸せになりましたが、絶対に現在の自分の経歴を覗いてはいけないという約束を破ったことで、車の中に閉じ込められて焼き殺される(まさしくバロット!)ところでしたが、ドクター・イースターとウフコック・ペンティーノという「事件屋」(正式には委任事件担当捜査官)に救われて九死に一生を得ます。
ルーン=バロット

 物語は、バロットの「どうして私なの?」という疑問の答えを探す旅でもあります。バロットが命を救われたのは、「マルドゥック・スクランブル-09」という法令のおかげですが、これはマルドゥック市における人命保護を目的とした緊急法令「マルドゥック・スクランブル」の一つで、保護証人の人命保護のために委任事件担当捜査官および保護証人に禁じられた科学技術の使用を認める法律です。これによりバロットは全身に金属繊維による人工皮膚を移植され、それにより常人より遥かに優れた身体能力と体感覚、あらゆる電子機器を触れずに操作する能力を得ることになります。
シェル
 こちらは加害者のシェル。彼にも悲惨な過去はあるのですが…

 また、実の父親にレイプされるという悲惨な過去から、全ての感情を「殻」の中にに閉じ込めて「人形」になる術を学んでおり、娼婦としての仕事をする時にそうなる(そしてそういう「人形」が好きな男達がたくさんいるらしい)ことから、「殻の中の雛」=バロットという源氏名がつけられたようです

 ただし「マルドゥック・スクランブル-09」により禁じられた科学技術を使用する者は、常に自身の有用性を証明し続ける必要があり、社会から危険と認識されればいつでも廃棄処分を受ける可能性がある不安定で危険な立場でもあります。それが事件屋-委任事件担当捜査官です。委任事件担当捜査官は人間でないものであっても就任することが可能で、担当する事件に関係する場所、物品に関して非常に強大な権限を有しています。

 登場する事件屋は3人。2人がバロットの仲間で、1人が敵となります。
ウフコック

 まずウフコック・ペンティーノは禁じられた科学技術によって生まれた、人語を解する金色のネズミ型万能兵器です。体を複数の次元に分割しており、また亜空間に貯蔵してある物質を使って様々な兵器や道具に変化(ターン)することができます。匂いを元に人間の感情を読み取る能力を持っており、かつてはボイルドと組んで仕事をしていましたが、ある事件を契機に袂を分かちました。誠実で思慮深い性格の一方、生真面目に考え過ぎて悩む癖があり、名前と引っ掛けて「煮え切らない」と周囲から揶揄されることもあります。

ドクター・イースター
 ドクター・イースターはかつて宇宙戦略研究所(現在は"楽園"と呼ばれます)の研究者でしたが、戦争終結による研究所の廃棄が決定された際、ウフコック、ボイルド等と共に研究所を出てました。ちなみにバロットの人工皮膚はこの研究所で開発されたものです。まさにイースター・エッグの如く、髪はカオス理論に基づきまだらに染め、派手な色の白衣を着込み、多くのキーホルダーを付けているという容姿でしたが、バロットに嫌われたことから後に服装、髪型は改めました。
ボイルド

 敵であるディムズデイル・ボイルドは元エリート軍人で、戦争の激化により覚醒剤中毒となり味方を誤爆するという過去を持っています。その後宇宙戦略研究所で人工的に擬似重力を発生させる能力と、睡眠をまったく必要としない体を得ました。その後ウフコックと組んでいましたが、ある事件の解決方法を巡ってイースター、ウフコックと反目し、現在はオクトーバー社の下で委任事件の捜査に当たっています。今回の事件ではシェルに雇われバロットの抹殺を目論む。極めて巨大なリボルバー(64口径)を使用し、ターミネーターのようにタフで恐るべき殺人機械として、幾度となくバロットを窮地に追い込みます。

 物語はバロットの再生とその後の事件調査の過程で発生するガン・アクションとカジノにおける各種ゲームでの戦いが中心となっています。カジノで戦い?いや、その必然性はちゃんと描かれていますし、ポーカー、ルーレット、ブラックジャックと渡り歩くバロットと凄腕ディーラー達との戦いは、「ジョジョの奇妙な冒険」で時折描かれた「知能戦」を彷彿とさせる面白さです。正直、ブラックジャックがこんなにエキサイティングなゲームだとは思いも寄りませんでした。でも私はカジノはやめときます。才能なさそうだし。ウフコックがそばにいてくれれば別ですが。
マルドゥック・スクランブル圧縮

 アクションシーンも見所で、ボイルドとの死闘はもとより、バロット暗殺を命じられた、誘拐を生業とする臓器フェティシスト集団(畜産業者)との戦いも凄まじいです。

 バロットはこれらの戦いで、ウフコックを濫用する(殺戮を楽しむがごとく過剰に行う)という、かつてボイルドが犯したのと同じ過ちを犯してしまいますが、その結果ウフコックの身に起きたことを目の当たりにしたり、"楽園"での奇妙な人々やイルカとの出会い、さらにはカジノのディーラー達との戦いを通じて大きく成長していきます。悲惨な過去を引きずるバロットですが、少女が前向きに生きていこうとするのを見るのはいい感じです。女の子はそうじゃなきゃ。
マルドゥック・スクランブル燃焼

 一方、濫用によりウフコックを失ったボイルドは、同じ過ちを犯しながらウフコックがバロットの下を離れないことに嫉妬のような感情を持ち、再びウフコックを手に入れることに執着します。

 2010年から劇場アニメとして公開されているようで、今年9月に第3作が公開予定です。知らなかったなー。これは今後ぜひ見てみねば。バロットは林原めぐみが演じているようですが、彼女は声帯を失っているのですがどのように演じているのか注目されます。流行とか時代の先端とか全く関係なく、図書館で文庫を漁っている私が言っても説得力ないですけどね。
マルドゥック・スクランブル排気


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No title

これ、出版当初に購入したのですがどうも肌に合わず、1巻の半分も読まずに放置してました。

沖方の出現したあたりは、ハヤカワも新人発掘に熱心な時期だったらしく、本当にさまざまな新人の作品が出版されてました。アクションSFアニメの影響を多大に受けたようなプロットの物が多く、ついて行けない自分が老けたように感じたものです。

それから10年。早い。

・・・うう、当時綺羅星のごとく現れた作家のほとんどが消えていなくなっているという。(泣
伊藤計画なんて、本当にこの世から消えていなくなってしまうし。合掌。(この人も天才でした)

ハヤカワからSFでコンスタントに出版できる作家もずいぶん数を減らしてしまいましたね。

Re: No title

こんばんは、いらっしゃい。

惜しいです。そっからですよ、おもしろくなるのは。

21世紀になって、すっかりSFから遠くに離れてしまったなあという感がします。新顔全然知らないし。冲方丁もようやく最近知ったという体たらくです。まあそれだけ違うジャンルも知ったと言うことで悪いばかりではないとは思うんですけどね。

SFマニア…は、昔からそんな域には達していなかったからおこがましいですけど、SFファンも怪しい昨今です。「自称SFファン」か「SFファン(笑)」位で許して下さい。
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