サイレント・ブラッド:惜しくも夭折した作家の山岳ホラーミステリー

12月28日
 
 こんばんは。年末寒波というやつでしょうか、寒いですね。大雪のところもあるみたいで、また帰省ラッシュもたけなわということで、皆さんのご無事をお祈りします。

サイレントブラッド

 本日は北林一光の「サイレント・ブラッド」です。北林一光の本は初めて読みました。

 北林一光は本名早崎一光。1961年9月30日生まれで長野県出身です。1987年より映画宣伝会社のプロデューサーとなり、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」の立ち上げ等に参加し、1998年に退社後、長野県で作家として執筆活動に入りました。2000年に「瞑れる山」で第7回日本ホラー小説大賞最終候補、2005年に「幻の山」で第12回松本清張賞最終候補となり、今後の活躍が期待されましたが、2006年に惜しくも逝去しました。享年45歳でした。

ファントムピークス

 北林一光の死後、「幻の山」は「ファントム・ピークス」と改題されて2010年12月に角川文庫から文庫版が刊行され、「サイレント・ブラッド」も2011年8月に角川文庫から文庫版が刊行されています。さらに2013年2月には「シャッター・マウンテン」が刊行されており、作者の遺稿はこの山岳小説三部作ということになりそうです。

シャッター・マウンテン

 例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 失踪した父の車が、長野県大町市で見つかった。その発見現場で息子の一成は深雪という地元女性と出会う。ある理由で一緒に父親の足取りを追う2人だったが、何者かにより妨害される。父にはこの地に秘密があったのだ。手がかりは「タケル」という名前と「カクネ里」という地名のみ。果たして、父は何者だったのか?早世後刊行された、大ヒットデビュー作『ファントム・ピークス』の著者が遺した、珠玉のサスペンス・ミステリ。

サイレントブラッド広告

 大学生・沢村一成は失踪して半年経つ健一の行方を捜しています。浮気じゃないのか?しかし母・史子によればそれは絶対にないという。鹿島槍ヶ岳の麓、大谷原登山口で父の車が発見されたことから、山に登ったのではないかと推測しますが、そもそも山とは全然縁がない人だったという。ではなぜここに車があるのか。

 霊感のあるオババから「タケルを迎えに行ってくれ」と頼まれた民宿の娘・深雪が一成と接触したことから、二人の健一探しが始まります。何者かが破棄する「捜し人」のビラ。やはりここには何か秘密があるのか?肝心のオババは病状が悪化して話を聞ける状態ではありません。大町市で、そして東京で、一成の素人探偵が始まります。

カクネ里

 「カクネ里」というのは鹿島槍ヶ岳の北東斜面にある、平家の落人が隠れた里であるという伝説のある場所です。隠れ里が転じてカクネ里と呼ぶようになったとか。ベテラン登山者以外行くことが困難とされている秘境で、最近ではほとんど訪れる登山者もいないそうです。

 一時的に回復したオババから聞かされた話は、それまでの一成の常識を覆す異様なものでした。父のことを全く判っていなかったことに愕然とします。オニマサと呼ばれた祖父・正之助から始まる戦後の物語は、決してそれほど昔のことではないのですが、都会者の生活とは懸絶したものでした。山に生き、岳流(タケル)と呼ばれていた健一は、いかにして都会で普通の人として暮らすに至ったのか、またなにゆえに再び山に向かったのか?「岳流」の名前に動揺を隠せない地元の有力者は、何を知っているのか?答えを探してカクネ里に向かう一成と深雪が見たものは……

カクネ里の位置

 この作品、山岳小説の色彩が濃厚な上、サスペンスとミステリーに満ちているのですが、実は怪異が明確に存在しています。つまりトリック抜きの超常現象が起きるのです。オババの能力というものがそもそも尋常ではありませんし、死者の霊が取り憑く知恵遅れの「トンチ」(釣りや山歩きの達人)、カクネ里で女の幽霊を見た大学教授一行などオカルト色が濃厚です。

 途中で「トンチ」に取り憑くのがカクネ里の幽霊であることが判明し、その素性も判るのですが、なぜ幽霊が健一の捜索を妨害するのかが謎です。これたストーリーの展開で判明するのかと思ったら、全くの解明されませんでした。幽霊的にはぜひカクネ里に来て貰って真相を知らしめたいのではないでしょうか。妨害する意図が不明です。

北アルプス(飛騨山脈)

 祖父正之助が殺人者であったことを知ってめげる一成。警察OBの証言によればその事実は動かないといいます。刑務所に入った正之助と引き離された健一は東京で暮らすことになりましたが、7年後に正之助が出所した際、正之助も健一もなぜか大町市に戻っていたのです。このとき一体何が起きたのか?

 伝奇というにはせいぜい4~50年程度の過去に遡るだけなので、関係者は相当生きており、一成と深雪も真相を知ることになるのですが、過去の事件の「犯人」に捕らえられた二人は、冥土の土産とばかりに「犯人」から全ての真相を聞かされるのですが、その後いかにして二人は助かるのかという部分があまりにもオカルト過ぎてちょっとがっかりしました。怪異がそれほどのことができるのなら、さっさとやればいいのにと思ってしまいます。少なくとも何の罪もない一成や深雪を脅かしたり傷つけたりしている暇があったら「犯人」達を脅かすことに専念しておけと思います。

黒部ダム

 なお、怪異が無念の死を遂げたことを恨みに思っているであろうことは明らかなのですが、余には恨みを残して死んだ人は数多あるでしょうに、怪異となれるかどうかはどの辺で別れるのでしょうか。生前から霊感のような超能力を持っていないと怪異にもなれないのかな?だとすると怪異になるにも血統が必要なんでしょうか。恨みの深さによって、ということなら判りやすいのですが、素質がないと怪異にもなれないというのはちょっと切ないですね。

 サスペンス、ミステリー、そして山岳小説の要素を併せ持ちながら、最後は一気にホラーで締める。今後さらに良い作品が描けそうなんですが、作者が亡くなっているのが惜しまれます。
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