敵は海賊・海賊版:海賊王・匋冥に見る魂の形

敵は海賊・海賊版

「這いよれ!ニャル子さん」が終わってしまって以来、本当につまらない世の中になってしまいましたね。いや、そんなにすごい作品ではないけれど、OPとEDを聞けないと寂しくて。二期希望。OPとEDはそのままでいいんだけど、やはりそういう訳にはいかないでしょうから、思いっきりケイオスケイオスなのをよろしくお願いします。

 さあ、ようやく「敵は海賊・海賊版」を読み終わりましたので、満を持して今夜紹介します。

 「敵は海賊・海賊版」は神林長平の1983年の作品で、「敵は海賊」シリーズの長編第一弾です。「敵は海賊」シリーズと「戦闘妖精・雪風」シリーズは、神林長平の二大人気シリーズですが、巻数でいえば現状7対3で圧倒的に「敵は海賊」シリーズの勝ちです。基本シリアスな「雪風」シリーズに対し、「敵は海賊」はコメディシーンが多いので書きやすいのかもしれません。

 宇宙への入植が進んだ遙かな未来。火星や土星の衛星タイタンにも人が住み、他星系の人間・生物とも共存する時代。人類の活動範囲の拡大に従い凶悪な星間犯罪も増加しており、それら犯罪者は「海賊」と呼ばれていた。それに対抗するための治安組織として存在するのが広域宇宙警察監査機構・対宇宙海賊課、通称「海賊課」です。

 海賊課は警察の一部署でありながら、極めて強力な強制捜査権を有する超法規的機関で、他の警察機構や軍隊、星系の支配者すらも意に介しません。各刑事は「インターセプター」と呼ばれる装置を身につけ、あらゆる組織のコンピューターへの介入が許可されており、海賊の即時射殺も認められています。しかしながら、多大な被害を与えながらも巧妙に社会に潜り込んで中々尻尾を出さない海賊に対し、「海賊を殲滅するためならなんでもあり」的な行動を大っぴらに行って、一般に被害を及ぼすことも少なくない海賊課は、ときに海賊と同一視されて市民や軍からは嫌われています。

 そんな中、物語は太陽圏の海賊課(本部は火星の衛星ダイモス)に所属する一級刑事ラテルとアプロの凸凹コンビと、伝説の海賊王・匋冥(ヨウメイ)を中心に展開されます。

 「敵は海賊・海賊版」は、シリーズ初長編にして、最も派手で複雑なストーリーが展開されます。スペースオペラ、平行宇宙、ドッペルゲンガー、神と悪魔、天使と魔女、聖戦士と魔鬼、魔銃フリーザーと聖銃ブラスターが入り乱れます。

 「敵は海賊」の名のとおり、主人公は海賊課の刑事コンビです。ラウル・ラテル・サトルは、海賊課一級刑事。宇宙を放浪しながら交易をするキャラバンで育ちますが、そのキャラバンが海賊に襲われ、家族が皆殺しされたため、海賊の殲滅に執念を燃やしています。巨大なレイガンを片手で操り、射撃の腕は海賊課随一で、かの海賊王・匋冥と撃ち合っても生還した唯一の男です。なおラテルとアプロは海賊課で最も優秀であり、かつ最も損害請求の多いチームです。かつて本気で愛した女が海賊だったことがトラウマになっています。

 アプロはラテルとコンビを組む海賊課一級刑事で、黒猫型の異星人です。海賊課内でも最強の殺傷能力を持つ金の首輪型インターセプターをつけており、人間のある時点の感情を凍結する特技を持っています。大食漢で口に入るものならなんでも食べてしまうが、一番の好物は海賊だと言っています。普段の食欲は殺戮欲求の代替とも。肉より魂や意識を食べると言われており、その悪魔的な本性はシリーズが進む毎に明らかになっていきます。アプロの種族には性が6種類もあり、アプロの性別は中間性の1つだということですが、故郷の星に帰ったら王様になって王妃に食われなくてはいけないらしく、太陽圏に留まっています。

 この二人と、海賊課所属の対コンピューターフリゲート艦のラジェンドラ(全長約300m、外見は鏃型、船体色は黒色)が、いわゆる「ラテル・チーム」を構成しています。ラジェンドラは超高度知性体で感情を持っており、アプロとしょっちゅう口喧嘩している。通常兵装の他、CDSと呼ばれる発射した範囲に存在するすべての光電子回路を搭載したコンピュータを破壊する兵器を備えています。

 このチームの最大の標的である匋冥・シャローム・ツザッキィは、太陽圏の海賊の頂点に立つ男です。既に伝説化されており、海賊たちでさえ実在を知っている者はほとんどいません。表の世界においても政財界の重鎮ヨーム・ツサキという顔を持ち、表と裏の世界を思い通りに操る、太陽圏の影の支配者と言えるほどの絶大な力を持っています。無用な争いを好まず普段は宇宙最強と言われる攻撃型宇宙空母のカーリー・ドゥルガーで宇宙を放浪していますが、邪魔をするものや自らを縛ろうとするものは容赦なく抹殺する冷徹な男でもあります。フリーザーと呼ばれる冷凍粉砕銃を愛用し、自らの良心を切り離した存在である有機ロボットの白猫クラーラがいます。

 さて、そもそも本書を紹介しようと思った切っ掛けは、「私の奴隷になりなさい」を読んだことにあります。「私の奴隷になりなさい」には、隷属と支配という関係の中で「真の自分」を見いだすことのできる人々がいることが、やや過激に描かれています。こういう人々の心の形を「香奈」型と仮定すると(他の登場人物は氏名不詳であるため)、その対極の存在が匋冥ということになります。

 匋冥はごく普通の平和な家庭に生まれ育ちましたが、幼い頃に姉を殺し、少年期に教師と父親を殺し、青年期に母親を殺し、捕まりそうになって一般市民を巻き添えに警官を殺し、海賊に入って仲間の海賊を殺して海賊船を手に入れたという、すさまじい過去を持っています。

 その信条は「おれに命令できるものはおれだけだ。おれを支配しようとする力には、手段を選ばず対抗し、必ず打ち砕いてやる」というものです。どんな束縛も受けないというのは普通の人間には絶対不可能ですが、匋冥の過去は、すべて束縛を逃れるための行動であり、現在の「太陽圏の影の支配者」という地位もその課程で獲得したものといえます。「不羈」-匋冥を一言で語るならこの一言でしょう。

 匋冥は、「海賊版」で自分を操ろうとする恐るべき存在を知り、これを粉砕するために行動します。その過程で助けを求めてきたのがランサス星系の王女付首席女官シャルファフィン・シャルファフィア(長いので以後「シャル」と呼びます)です。ランサス星系人は血が青いため、ガミラス星人のような顔色(それほど青くはないけど)をしていますが、ヒューマノイド型の生命はみんな魅了されてしまうほどの美貌を持っています。

 匋冥もですが、シャルの造形がまた素晴らしいです。圧倒的な美人でありながら、決して性を売り物にしません。というか、売り物になるのだという認識がそもそもないのかもしれませんし、信じられないことに自分が美人だという自覚もないのかも知れません。母親と二代に亘って王宮に仕え、母は現女王を護って死亡し、自信は王女を護るために死をも厭いません。そのシャルが、匋冥に失踪した王女の捜索を依頼する際に、対価として払えるのは自分の生命だけだと言って、依頼の遂行を要望して自らに銃口を向けて引き金を引くほどの決意を持っています。

 その後の冒険の過程で、匋冥はシャルに惹かれ、シャルもま匋冥に惹かれます。要するに二人の精神は完全に相思相愛になる訳ですが、何者にも縛られたくない匋冥は、自分の心がシャルに惹かれるが、「女に心を支配される」と感じて容認できず、シャルは自分自身よりも王家の安泰を第一にしているので、匋冥に惹かれながらも使命を忘れてついて行こうとはしません。

 結果、匋冥は自分のものになることを拒否するシャルを、涙を浮かべて射殺します。そしてその後、このような感慨を持ちます。

“-おれはシャルファフィンを射った。あのときの気持ちは母を射ったときとはちがう。射ったあと自分の気持ちがどうなるかを知りつつ、引金をひいたのだ。海賊の恥だ。引金があんなに重く感じられるとは。傷が痛む……この痛みはしかし肉体のものだろうか?シャルファフィンめ……死んでなおおれの心を支配するのか。逃れようがない。時間だけだろう、この痛みを薄れさせるのは。”

 ここに「香奈」型に対して「匋冥」型という心の形があるとすれば、シャルもまた「匋冥」型の心を持つ人です。二人の生き方は全く異なりますが、それはあえて魂の形を図形に例えるならば、台形と平行四辺形は形は大きく異なりますが、四角形であることには違いありません。共に決して三角形ではありえないのです。

 ここまで長々と説明してきて、さて自分の魂はどちらの形か?と自問するならば(決して二種類しかないという訳ではありませんが)、これはもう「匋冥」型としかいいようがありません。それはもちろん超人ならぬ身、あらゆる束縛から逃れることは最初からできっこありませんが、束縛・支配・拘束・隷属に本能的に拒否反応を示すという点では匋冥にこそシンパシーを感じます。匋冥が海賊王になったのは、それだけの能力があったからということもありますが、私なんぞは嫌々でも受け入れている支配や束縛を、匋冥は自分が生きていくためには、それらを断ち切るしかなかったのだといえましょう。

 その生き様は、決して楽ではありません。というより、愛する者をこの手で殺さざるを得ないという苦痛に満ちたものだといえますが、それでも狼になりたい私は、匋冥にあこがれてしまう訳です。「この手の中に抱かれたものは すべて消えゆくさだめなのさ」などと第一シーズンのルパン三世のEDを口ずさんだりして。

 もっとも、本作の主要登場人物の多くは、ラテルもアプロも、やはり本質的に不羈の魂を持つ「匋冥」型のキャラだといえます。海賊と海賊課は対極的存在ですが、傍から見れば区別がつかないくらい似ているのかも知れませんね。

 という訳で、魂の形の話はこれにて一件落着です。同じ魂の形を持つ人々よ、生きづらい世の中ですが、なんとか生きていきましょう。

 なお、第二作「敵は海賊 猫たちの饗宴」はOVA化されていますが、そこに描かれるラテルやアプロや、ましてや匋冥は全然気に入らないキャラデザインなのであえて掲載しませんでした。シャルやメイシアが出てこなくて良かった…



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主人公は匋冥?

自力で変換できませんでした、「匋冥」。(泣

主人公はラテルということにあってますけど、キャラ的に立っているのはなんと言っても匋冥とアプロの2者、そしてジュビリー、ラジェンドラ、そしてオールド・カルマですな。
ラテルは狂言回しか。

海賊版はやっぱり濃いです。
カーリー・ドゥルガーの巨大感がいちばん出ているのもこの作品でしょう。冒頭の不時着描写、そして母艦カーリー>艦載フリゲート(!)・ガルーダ>艦載機・ナーガの艦載関係。どんだけ巨大なんだ、と。

そして雪風以上に人間の介在を許さない秒単位の対艦戦闘の描写。アニメでこそ見てみたいですが、「#」さんたちの描写とか、映像化は困難なんでしょうな。

なお、アニメ版「猫たち~」はキャラデザを除けばそこそこ面白いです。(なんかFSSのアニメ版の評価に似ているな・・・)
「敵は海賊」はPC88だか98のゲームにもなってたんですよねえ、確か。
アニメ以上に原作風味は残っていなかったと言いますが・・・。

ブルーウイスキーはぜひ味わってみたいもんです。

Re: 主人公は匋冥?

こんばんわ、いらっしゃい。

> 自力で変換できませんでした、「匋冥」。(泣

さすがATOK,なんともないぜ!「陶」という字のこざとへんを取ったものですよね、匋。読めなかったなあ…。「とうめい」になりそう。
>
> 主人公はラテルということにあってますけど、キャラ的に立っているのはなんと言っても匋冥とアプロの2者、そしてジュビリー、ラジェンドラ、そしてオールド・カルマですな。

私はシャルファフィンも立っていると思います。この人は生涯独身を貫きそうな気が。心の中には常に匋冥がいて。

> 海賊版はやっぱり濃いです。
> カーリー・ドゥルガーの巨大感がいちばん出ているのもこの作品でしょう。冒頭の不時着描写、そして母艦カーリー>艦載フリゲート(!)・ガルーダ>艦載機・ナーガの艦載関係。どんだけ巨大なんだ、と。

シリーズで一番、ちゃんとスペースオペラをやってますよね。

> なお、アニメ版「猫たち~」はキャラデザを除けばそこそこ面白いです。(なんかFSSのアニメ版の評価に似ているな・・・)

そうなんですか。しかしなぜ「海賊版」を差し置いて「猫たちの饗宴」をアニメ化したのでしょうかね。順番に制作すればいいのに。

No title

 お久しぶりです。わ相変わらずの更新ペースですね!!「制作順調」・・・とは、ときメモ1サターン版において、修学旅行で奈良に行った際、虚無僧が口ずさむ一節です。。。

 週末にまとめて拝読しております。ギャルゲーのコーナーなど、大変懐かしい思いです。

 最近のテーマとなっている「隷属」について、今からブランデーでも飲んで考えてみます。「マテ」と「フセ」ができさえすればよい、という教えもあるので、悩ましい。

 「爽やかなSM小説」と言われる本のテキストを読むべきなんでしょうが・・・あ、ニャル子終わりましたね。

Re: No title

こんにちは、いらっしゃい。

> 「制作順調」・・・とは、ときメモ1サターン版において、修学旅行で奈良に行った際、虚無僧が口ずさむ一節です。。。

サターン版…主人公の方から告白できるというシステムだっとか。嫌われている相手に告白すると、すさまじいコメントを聞けるそうですが。

>  週末にまとめて拝読しております。ギャルゲーのコーナーなど、大変懐かしい思いです。

基本ギャルゲーは古いものが中心です。なにしろ最近やってないので(笑)

>  最近のテーマとなっている「隷属」について、今からブランデーでも飲んで考えてみます。「マテ」と「フセ」ができさえすればよい、という教えもあるので、悩ましい。
>  「爽やかなSM小説」と言われる本のテキストを読むべきなんでしょうが・・・あ、ニャル子終わりましたね。

「私の奴隷になりなさい」は角川文庫から出ています。アマゾンで注文すると500円で送料無料でした。この厚さで500円はちょっと高い感じもしますが、私には読んでおく必然性があったもので。理由は…そのうちに(笑)。

ニャル子さんが終わって寂しい限りです。しゃべりっぱなしのニャル子さんは大変だったそうですが、中の人は「アマガミ」の美也役の人でしたね。
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