最後の記憶:現代も「白い巨塔」は健在?これも永遠の命なのか

台風接近
 
 またもや台風が近づいています。しかも二つも。ワルプルギスの夜、来すぎですよ。普通は台風シーズン終わってませんか?それはさておき、本日は一仕事終えたので宴席に出ており遅くなりました。既に日付は変わっていますが、頑張って更新します。

 本日は望月諒子の「最後の記憶」です。

最後の記憶

 「最後の記憶」は2008年に「ハイパープラジア 脳内寄生者」として徳間書店から刊行され、2011年8月に改題されて徳間文庫から刊行されています。

 ハイパープラジア(hyperplasia)とは過剰な細胞分裂によって起こる組織の肥大のことで、、外来の刺激に対する正常細胞の応答として細胞増殖が起こることよって、組織の体積が増加することです。

 細胞分裂が亢進して組織が増殖し、通常よりも細胞の数が多くなった状態ですが、腫瘍とは異なり、細胞の形態も細胞の並び具合の規則性も、正常組織と同様です。テニスやゴルフの習い始めに、ラケットやクラブが当たる手の位置にできるたこは過形成の一つの例です。

 例によってAmazonの内容紹介です。

 患者の秋山をCTスキャンで診察した結果、脳底部に腫瘍影が認められた。脳外科医の俺は彼を自分の大学病院に入院させた――事件の発端だった。手術前日、執刀医が俺であることを確認した秋山は突然言った。「眼鏡を、かけられたほうがいいかと、思うのです」…何を言っているのか不明なままに、手術当日になった。頭部切開の最中、ふとしたはずみで秋山の髄液が目に飛び込んできた。俺の脳裏におかしな映像が映るようになったのはそれからだった…。

 患者の脳腫瘍と思われたものは、悪性でも良性でもなく、そもそも腫瘍ではありませんでした。まさに過形成で作られた脳の一部といっていいものでした。武蔵野医科大学病院脳神経外科に務める脳外科医の沢村貴志は、患者の秋山に警告されていたにもかかわらず、自ら飛び込んできたかのような髄液を目に入れてしまい、「感染」してしまいます。そして連綿と続いてきたであろう寄生された人々の記憶を取り込んでいきます。

 寄生体の正体は不明で、いつからどうやって人間に寄生するようになったのかは定かではありません。しかし、宿主の記憶や能力を取り込み、次の宿主に伝えるということをしていて、あたかも歴代の宿主達が脳内に寄生しているかのような状態になります。そのため沢村は、苦手だった英語の論文をすらすらと執筆できるようになり、ドイツ語が読めるようになり、突然ヘビースモーカーになったり、ウイスキー党だったのが日本酒や焼酎を愛飲するようになるなど、かつての宿主の能力や趣味嗜好を反映していくようになります。

 ところで、腫瘍に見えた脳内の過形成部位こそは、過去の宿主達の「巣」であり、新たな宿主の能力が高いと、彼らは活発に活動するので急速に大きくなるのでした。腫瘍では亡くても脳を圧迫して腫瘍同様に死に至らしめるものであり、また摘出した後は、なぜか脳が急速に萎縮してやはり死に至ることになります。つまり、「感染」は死を意味するのです。

 宿主を殺してしまう寄生というのは自分自身を生存の危機にさらすので、非常に好ましいことではありません。沢村が「寄生者」と対話したところ、200年前のドイツ人がいるようなので、少なくとも200年前から寄生が始まっているのですが、当時は脳外科手術などあったかどうか。髄液でなくても血液などの体液でも感染するようなのですが、傷でもなければ単に皮膚についた位では感染しないので、チャンスはそう多いとは言えません。

 前患者の秋山は「寄生者」達にとってあまり興味深い人物ではなかったらしく、過形成は緩慢で、感染から30年以上経て命の危機に至りましたが、沢村はわずか一年で死に至ることになってしまいます。感染を防ぐための彼の「遺言」は後輩医師にきちんと守って貰えるのかどうかもわからないまま、彼は死にます。そして「寄生者」も全く不明なままです。

 本書で面白いのは、むしろ医師としての沢村の武蔵野医科大学病院という白い巨塔における立場でしょう。教授-准教授-講師-助教というヒエラルキーや大名行列のような教授回診など、まさに一昔前の話ではないかと思っていたものが現存しているのですね。

 沢村は講師で、主任教授の愛弟子を自認していますが、手術が苦手な主任教授が外部から招聘した准教授との関係が良くありません。准教授は手術の手腕は天才的ですが、人間的にはあまり評判のよろしくない人物ですが、二年後に主任教授が引退すれば教授就任は間違いないと囁かれており、そうなると沢村の病院での立場は非常に危うくなります。

 沢村は寄生者の能力で准教授の死を予知しますが、警告せずに座視します。もちろん警告しても無駄だったかも知れませんが、その後主任教授から准教授は人望がないので教授にするつもりはなかったなどと聞かされ、沢村は激しく後悔するのでした。しかしこの部分、本当はそんなに簡単な話じゃないのではと思ってしまいます。主任教授は自分が呼び込んだ准教授を昇格させるつもりで、沢村切り捨てはやむなしと思っていたけど、准教授の急死で沢村を准教授に引き上げることになったので「前から君だと思っていた」的なことを言ってフォローしているのではないかと。主任教授はそれくらいタヌキでないと勤まらない気がしますし、むしろ沢村は40過ぎてあまりにも純真なような。

 脳内寄生者と共存する方向性を見いだすとか、別方向のストーリーも考えられる中、あっさりと沢村の死で物語が終わってしまう点が寂しいです。寄生者の本体が、宇宙からやってきた未知の異星体だった…なんてことになるとクトゥルー風味も出るんですが。

ハイパープラジア 脳内寄生者

 
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