神の手:あり余る才能は人生に不幸を呼ぶのか?

神の手 集英社文庫版
 

 ブログ復活宣言の能書きは既に書きましたので、早速今日の記事を。本日は望月諒子の「神の手」です。望月諒子の作品は初めて読みました。

望月諒子

 望月諒子は1959年生で愛媛県出身の推理作家です。現在は兵庫県神戸市に在住です。銀行勤務を経て、学習塾を経営していましたが、2001年に林雅子名義で「神の手」を電子出版で刊行しデビューしました。これが異例のヒットとなり、集英社文庫から書籍として刊行されることとなり、2010年、ゴッホの絵画「医師ガシェの肖像」を題材にした美術ミステリー「大絵画展」で第14回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しています。

 集英社の内容紹介です。

 森村誠一氏絶賛!! 大型新人デビュー作!「破壊的な才能の登場に瞠目するばかりである」(森村誠一氏)。電子出版で圧倒的支持を受けた大型新人のデビュー作を文庫化。失踪した作家志望の女性をめぐる不可解な事件の数々とは。

 次いで文庫本裏表紙の内容紹介です。

 文芸誌編集長・三村は、高岡真紀と名乗る女性から投稿原稿を受け取る。その原稿は、突然姿を消したある作家志望の女性が、かつて彼に見せた作品と全く同じであった。「盗作か?」謎を探るため、高岡真紀に面会した三村の前に、驚くべき事実が…。電子出版で大ヒット、話題を呼んだ大型新人のデビュー作・待望の文庫化。

 先日読んだ東野圭吾の「歪笑小説」も“小説家の業”というものをユーモアに包みながら描いていましたが、「神の手」は“小説家の業”を真正面からシリアスに追究した物語だと言えましょう。

 主人公はフリージャーナリストの木部美智子で、以後「木部美智子シリーズ」として第二弾「殺人者」、第三弾「呪い人形」が執筆されているようですが、「神の手」は第一弾ということになります。しかし冒頭木部美智子は登場せず、主人公格で描かれているのは文芸誌「新文芸」の編集長三村幸造です。

 編集長として多忙な毎日を送る三村に、神戸の内科医・広瀬という医師が連絡を取ってきます。自分の患者である高岡真紀と言う女性が突如小説を書き始め、あなたに送ると言い始めた。どういうことなのかさっぱり判らないが、小説が素人離れしているので確認をしたい、と。その小説のタイトルが「緑の猿」と聞いて三村は驚愕します。それは3年前に姿を消した作家志望の来生恭子という女性の作品と同じタイトルだったからです。

 そして実際に三村を訪ねてきた高岡真紀が見せた「緑色の猿」という小説の原稿は、まさしく来生恭子の作品でした。そして見ず知らずの女性である高岡真紀が来生恭子の癖やセリフを再現してみせるのに驚愕する三村。これは一体どういうことなのか?

高岡早紀

 節子それ高岡真紀と違う、高岡早紀や!

若い頃の高岡早紀

 序盤は謎が謎を呼ぶサスペンス風で、高岡真紀とは一体何者なのかが最大の謎となるわけですが、途中から行方不明となり、彼女の自宅も謎めいた痕跡ばかりを残しており、三村を混乱させるばかりです。もっとも三村を中心に据えながらも彼の全てが明らかになっている訳ではなく、彼は彼で隠し事を抱えているようです。そして広瀬医師も不可思議な行動・表情を…

 3年前の児童失踪事件を調査していた木部美智子が絡んでくることで大きく状況は進展していきます。というか、木部美智子は高岡真紀と旧知の人物だったのですね。彼女が新人新聞記者時代に同期だった高岡真紀は派手で我慢が足りず、実直な仕事のできない人物でした。小説なんかとても書けそうにない人物がなぜ…。そして「憑依」と医師らしからぬ推測を強調する広瀬。なぜ広瀬は来生恭子の小説に執着するのか?

 物語の推移とは別に、「神の手」では本当の小説家というのはいかなるものなのかということが描かれています。ここで言う「本当の小説家」というのは来生恭子のことなのですが、絶世の美貌を持ち、あらゆる男を魅了して止まなかった彼女は、実はそんなことにはあまり興味がなく、自分自身の心の中に飼っている小説家という名の怪物に支配され、自分自身の精神を侵食されながら憑かれたように小説を書き綴り、書きまくったあげくに破滅の道をひた走った来生恭子。

神の手 集英社文庫 新表紙
 
 彼女の小説家になりたいという切実な想いには、有名になりたいとか賞賛されたいとか金持ちになりたいといった意識は極めて希薄で、書き上げた小説には一切頓着せず、すぐに次の小説の執筆に移ってしまうのです。それが故に、ベテラン編集者である三村がその才能を認めながら、7年かけても一冊も出版されることがなかったのですが、むしろ来生恭子にとっては書いた小説が出版されることは悲願でもなんでもなく、書き綴り、それを誰かが読んでくれるというだけで十分だったようにも思えます。

 そんなまさに「純粋小説家」だった来生恭子は、しかしあまりにも現実社会から乖離が進んで行くことになります。そのあげくの惨劇とは…

 タイトルである「神の手」とは、まさに純粋小説家だった来生恭子に宿っていた稀有の才能のことですが、破天荒な才能は人を破滅に導き、幸せにはしないのかと思わせます。小説を書いて人生を満喫している(ように見える)作家達は、本当の小説家ではないと言っているかのようです。確かに破滅系の芸術家っていますが、そういう人でなければ真の芸術を生むことはできないとまで言ってしまっては過言でしょうが、そういう自分自身の才能を制御できずに自分が才能に喰われてしまうことって、ある種の人には起こりえることなのかも知れません。

 終盤、火曜サスペンスでいえば断崖絶壁の上で犯人の告白を聞くようなシーンがあるのですが、あれって言うほどに何も起きないのがちょっと拍子抜けです。そういう作品ではないのは承知していますが、じゃあなぜ“断崖絶壁”に行くのかと。

クー・ファン・シーマ王子

 来生恭子は尋常ならざる美貌と才能とを二つして併せ持ったが故に破滅したのでしょうか?そして男達もそれによって運命を狂わされていったのか。もし来生恭子がどちらか一方だけの人だったならば悲劇は起きなかったのでしょうか。この点、騎士とダイバーの二つの力を併せ持ったが故に殺人狂になった“バイア”ことクー・ファン・シーマ王子みたいですね(FSSを知らない人、正直すまんかった)。しかしそんな過ぎた才能を持ったアンバランスな危うい姿がまた魅力的でそそるんでしょうね。
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