メシアの処方箋:古代のメッセージに基づいてメシアを作ってみたら…

メシアの処方箋
 
 そういえば昨日は七夕でしたね。七夕に梅雨明けしているってやっぱり早いですよね。七夕って情緒のあるいい行事だと思いますが、こう暑いと「小暑」の方に目が行ってしまうような。十分暑いのにこれからなんですか、「大暑」は(汗)。 

 各地で軒並み35度を超えた今日、所によっては38度なんて破天荒な気温を記録していたり。いつから日本は熱帯になったんでしょうか。ゲリラ豪雨とか竜巻とか、穏やかな気候はどこへ行ってしまったものか。こういう時に人は何者か人知を超える存在にすがりたくなったりするのでしょうか。

 というところで今日の本題の。本日は機本伸司の「メシアの処方箋」です。機本伸司の作品は初めて読みました。

メシアの処方箋単行本

 機本(きもと)伸司は1956年生。兵庫県宝塚市出身のSF作家、映画監督です。本名は木本伸司。1979年に甲南大学理学部応用物理学科を卒業後、出版社に編集者として勤務しました。1990年に映像制作会社に移籍し、1993年よりフリーランスのPR映画のディレクターとなっています。2002年に「神様のパズル」で第3回小松左京賞受賞して作家デビューしています。

 小松左京賞は、角川春樹事務所が主催していた新人文学賞で、選考委員を小松左京が務めていました。SF小説を対象とし、受賞者には正賞として名入り金時計、副賞として100万円が与えられました。2000年に開始されましたが、2009年の第10回で休止となってしまいました。

神様のパズルDVD

 「神様のパズル」は三池崇史の監督で映画化され、2008年6月に公開されています。ところで、機本伸司の画像を探したんですが、全然出てきません。角川春樹とか三池崇史とかがヒットしてくる始末です。

 「メシアの処方箋」は「神様のパズル」に続く二作目で、2004年に角川春樹事務所から刊行されており、2007年5月にハルキ文庫から文庫版が刊行されています。

 例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 ヒマラヤで氷河湖が決壊した。下流のダム湖に浮かび上がったのは、なんと古代の「方舟」だった。こんな高地になぜ文明の跡が?いぶかる調査隊をさらに驚愕させたのは内部から発見された大量の木簡。それらにはみな、不思議な蓮華模様が刻まれており、文字とも絵とも判然としなかったが、なんらかのメッセージを伝えているのは確かだった―。一体、何者が、何を伝えようというのか?第3回小松左京賞受賞作『神様のパズル』に続く、傑作長編SF、待望の文庫化。

 ヒマラヤ山脈に出現した巨大な木造の船は「ノアの方舟」なのか?なぜこんな高地に船が?と様々な疑問が浮上する中、船内の遺物が注目されました。厳重に保存された木棺が多数発見され、中身はミイラ化副葬品かと思われたところ、何と蓮の花の模様が描かれた木簡ばかりが大量に出てきたのです。これは何を意味しているのか?

 2030年頃の近未来が舞台です。翻訳機が開発されていたり、30年前から遺伝子をいじった子どもが生まれていたり、現実世界よりやや進んでる世界のようです。主人公は若手会社員で、インド赴任を命じられ、現地で氷河湖の決壊対策工事にあたっていたところにもろに氷河湖決壊に遭遇してしまいます。濁流に投げ出された彼がしがみついたのが、方舟らしい古代の木造船だったというところから物語が始まります。

 方舟が積んでいたのは結局の所大半が蓮華模様の木簡で、それを収容していたのも木棺ではなく木櫃ということになりますが、模様のパターンが少ないことから、数字に変換してインターネットで賞金問題として出題して答えを公募するあたりが斬新です。というかインターネット大活躍なのが「時代」なんでしょうね。

 蓮華模様がどうやら遺伝情報であることが判明したことにより、太古に地球を訪れた知的存在(本編ではデザイナーと呼ばれています)のメッセージに違いないということになり、実際に作りだしてみようということになります。タイトルの「メシアの処方箋」とはまさしく蓮華模様の木簡のことであり、それに従って遺伝子操作を行ってメシアを誕生させようという大胆な実験の経過が描かれています。

 国際的プロジェクトか、少なくとも国家的プロジェクトとなるはずの壮大な話ですが、本編では主人公と数人の仲間だけでこれおを行おうとします。国際的巨大利益集団・資本経済連合(FOCE)に隠蔽されるからという理由付けられていますが、グループで実行するには数々の難問が立ちはだかります。

 主人公達は数々の機略でメシア誕生に向けて奔走するのですが、FOCEも蓮華模様の謎に気付き、主人公達が先んじて実験を行っていることを嗅ぎ付け、様々な妨害手段を取ってきます。

 誕生したメシアはいかなる存在なのか?メシアを通じてデザイナーが語ろうとすることは何なのか?救済とはいかなるものか?といった数々の謎は、本書のネタばれになってしまうので一読していただいた方がいいでしょう。SF好きでしたらかなり楽しめる内容になっています。

 ただ、難点としては登場人物の掘り下げが足りないというかほとんどないことでしょうか。主人公は何と一度も名前が出てきませんし、どういう生い立ちなのかもはっきりしません。ただ状況に流され、他者に言われるがままに動いているだけのような。

 リーダー格となるロータスという人物が登場するのですが、この人物もよく分かりません。方舟出現のニュースを知り主人公に接触してきたこの人物は、国立敷島考古学研究所の職員の外園実という名前と身分は明らかになっているのですが、一介の考古学者とは思えない頭脳と実行力と冷酷非情な判断力を持っていて、やや違和感を感じます。

 「チーム・バチスタの栄光」に登場した厚生労働省大臣官房秘書課付技官の白鳥圭輔に似た雰囲気がありますが、彼が何故にメシア誕生にそこまで情熱を傾けるのかがよくわからないのです。生命倫理とかの問題でひるむメンバーに対し「知りたくないのか」と強く問いかけることでプロジェクトを強引に前進させていくのですが、なぜ彼はそんなにメシア誕生に拘るのか、また他のメンバーはなぜ唯々諾々と彼に従うのか(後に一人裏切りますが、プロジェクトに影響は与えていません)。

 そうしたことは、偏に登場人物の“人となり”がほとんど描写されていないことから浮上してくる疑問なのですが、メシアがいるのなら見てみたいという知的好奇心だけでここまで驀進する連中というのもある意味恐ろしいです。何しろ本当にメシアなのかどうか作ってみないとわからない上に、試験管ベビーという訳にはいかず、代理母的な女性に生んで貰わなければなりませんし。

 生命倫理は神の領域で人間が触れてはいけないという主張があるようです。しかし、主人公達はほとんどそれに頓着せずに背徳的ともいえる計画を進めていきます。人それぞれと言ってしまえばそれまでですが、チンパンジーによる動物実験にことごとく失敗しているのに時間がないからという理由で人間での実験に踏み切るあたりは強引そのものです。ロータスのそのモチベーションが説明されれば感情移入できたのかも知れませんが、現状ではストーリーの面白さと登場人物の魅力がアンバランスであることが非常に残念です。   

ノアの方舟

 作者へのインタビューでは、本来はチンパンジーでの実験段階で生まれた“羽根の生えたサル”が大暴れするシークエンスなんかもあっそうなのですが、長くなりすぎることから全てカットしてしまったそうです。

アララト山

 ところで旧約聖書に登場するノアの方舟については、大洪水の引いた後に、トルコ東端のアララト山に漂着したと記されていますが、実際にアララト山に漂着したのではないかと見られる報告が古代からいくつもなされています。

舟型地形
 
 衛星写真でも確かに船の形をした地形が確認できます。ただ、アララト山の山腹の海抜1870m付近という説と、山頂付近の海抜4000メートル付近という説があって、ノアの方舟が実在するとしてもどちらが正しいのか判然としません。実は二隻あったとか(笑)。

別の船型地形

 世界が沈むほどの大洪水など、聖書の記述そのものを全て信頼する気にはなれませんが、旧約聖書の伝承の元となったエピソード(局地的な洪水など)があった可能性は充分あると思います。ノアの洪水は、聖書研究者などの見解では、西暦前2370年(紀元前3000年ころとも)に起こったとされていますが、5000年前として、ノアのその家族からたったの5000年でこれほどのバリエーションの人種が生まれるとはとてもとても…。でも「方舟」が実在するとして、いかなるものなのかは学術的に非常に興味のあるところです。

地上から見た船型地形
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