星宿海への道:残された人々が思いを馳せるある男の過去。ミニ書評2本付き

星宿海への道
 
 今日は紹介しない書評を2つほど。本題はその後です。

 東野圭吾「浪速少年探偵団」

浪花少年探偵団

 東野圭吾だから即決で借りました。解説は宮部みゆき。なんだこの豪華さは…たまげたなあ。1990~92年頃の短編集です。NHKとTBSでテレビドラマ化されたりして、結構人気なシリーズらしいのですが、主人公の女教師・竹内しのぶがどうも好きになれず。

浪花少年探偵団POP

 美人という設定なんですが、全然美人に感じません。こてこての大阪弁だから…という訳ではなく、大阪弁でも美人さが思い浮かぶようなキャラはいるはずなんですが、しのぶセンセは私には無理でした。どうしても大阪弁のサザエさんとしか…。また少年探偵団というほどクソガキども教え子達が活躍しません。事件の発端とかにはなるんですけど、解決の役には立っていません。さすがの東野圭吾も若書きだなあと感じた次第。上から目線ですいません。

 乃南アサ「鍵」

鍵

 こちらも1992年出版で比較的若書きの部類です。耳の聞こえない女子高生麻里子の遭遇した奇妙な事件と、両親を相次いで亡くした姉と兄の物語です。こちらも登場人物に今ひとつ魅力が感じられず…。特に兄がダメダメ過ぎます。1~2歳年上くらいならともかく、8つも年上でこれはないでしょう。

 それと、中盤で犯人が判ってしまいました。あまりにも乱暴な手口で、これじゃすぐに警察に捕まってしまうのではないかと思います。麻里子の冒険という趣旨だとしても今ひとつぱっとしませんし。

 それでは本番(?)です。本日は宮本輝「星宿海への道」です。

 宮本輝の作品を読むのは、「約束の冬」以来なので3年ぶりくらいです。図書館にある宮本輝の文庫本はあらかた読み尽くしたようで、久々に新蔵書を借りることができました。

宮本輝

 宮本輝はいまさら説明する必要もない国民作家でしょう。1947年生まれで兵庫県神戸市出身。1977年に「泥の河」で作家としてデビューし、

 1977年:第13回太宰治賞(「泥の河」)
 1978年:第78回芥川賞(「螢川」)
 1987年:第21回吉川英治文学賞(「優駿」)
 2004年:第54回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門(「約束の冬」)
 2010年:第13回司馬遼太郎賞(「骸骨ビルの庭」)
 2010年:紫綬褒章

 と受賞を重ねており、映画化・ドラマ化作品も多数で、いずれ文化勲章も間違いないのではないかと思います。

単行本

 星宿海への道は2003年1月に幻冬舎単行本が刊行され、2005年に幻冬舎文庫から文庫版が刊行されています。「約束の冬」が2003年5月の刊行なので、ほぼ同時期に出版された作品ということになります。

 例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 中国旅行中にタクラマカン砂漠近郊の村から、自転車に乗ったまま忽然と姿を消した瀬戸雅人。彼の帰りを待つ千春と幼子のせつ。血のつながりのない弟・紀代志がその足跡を辿るうちに明らかになる兄の人生--。少年期からの憧れ、黄河源流にある「星宿海」とは?雅人が抱えていた戦後から現代に至る壮絶な人間模様を、抒情豊かに貫く感動巨編。

 宮本輝作品を読むといつも思うのは、格調の高さです。いわゆる濡れ場や暴力シーンがないわけではないのですが、文体のせいかあまり目立たないというか。「星宿海への道」でも、錐で目をつぶすとか、想像するとかなりグロいシーンがあるのですが、非常にさらっとあっさり描写されるので、あまり記憶に残らないんですよね。

避暑地の猫

 かつて壇蜜さん(お元気ですか?)と話したときに、宮本輝の「避暑地の猫」が話題になり、彼女は「これまで読んだ中で一番エロい小説」と言っていました。そこに気付くなんて流石ですね。
 
 もちろん官能小説ではないので、描写は水のようにさらっとしているんですが、よくよく場面を想像すると確かに相当エロいのです。宮本輝の作品は、想像力を働かせて読むと、結構エログロバイオレンスに満ちているのですが、清流のようにさらさらと流れていく文体故に、しつこく後を引かないようです。

星宿海

 「星宿海への道」でも、幼少期の雅人の出自は壮絶で、当時の暮らしぶりを想像するとかなり滅入ってしまうほどなのですが、さらさらとお茶漬けをかき込むように、読み進めるには苦労はありません。

 物語の主人公は雅人ですが、当人はタクラマカン砂漠付近で失踪して最後まで登場してこず、血の繋がらない弟・紀代志と、未婚のまま雅人の娘を産んだ千春の物語が交互に展開されていきます。

星宿海2

 紀代志編は、雅人の出自に迫っていくもので、その過程で雅人の人となり、過去の記憶、そして母の出自などが明らかになっていきます。「異族」という言葉に執着し、「星宿海」にこだわり続けた雅人の思いはいかなるものであったのか。そしてせっかく中国に旅立ちながら、星宿海ではなくタクラマカン砂漠付近で消息を絶ったのか。

 千春編は、子供を抱えた千春の生活が描かれていますが、貧乏に困窮している訳ではなく、母は温泉宿を経営しており、その連れ合いの義父は事業家で裕福なのですが、不倫をして結核で病床に伏した父に離婚を迫ったという経緯から、千春はなるべく距離を置こうとしています。雅人との出会いや親しくなる経緯、そして娘に母の名前をつけることを強く願った理由は。

星宿海3

 古代中国では、「河は崑崙に出ず」といって、黄河は崑崙山に発すると考えられて来ましたが、その一方で、黄河は天上から流れ下る、という考えもありました。13世紀(元代)に黄河源流域の探索が行われ、「泉が百あまりわき出ている。泉があれば水たまりもある。(中略)高い山に登って眺めてみたところ、水たまりは燦然として、さながら星をちりばめたようである。そのためホドン・ノールと名付けられている」との報告がもたらされました。ホドンとは「星宿」、ノールは湖の意味で、合わせて星宿海です。この命名は、見た目が星々に似ている、ということの他に、黄河が天に通じている、という伝説の影響もあるようです。

 終盤、雅人は漂海民の血を引いているのではないかという話が登場してきます。漂海民とは、船を住居とし、一定の海域で漁業などに従事しながら生活する人々のことで、日本でもかつて「家船」(えぶね)と呼ばれる漂海民が、長崎県西彼杵郡や瀬戸内海の各地に分布していたようです。仕事で時代錯誤的なゼンマイのおもちゃを売って各地を回っていた雅人は、一つ所に定住のできない性格でしたが、とうとう中国奥地で失踪してしまったのも、その血のなせる業だったものか……。

星宿海の地図

 「家船」については、Wikipediaが

 家船(えぶね)とは、近世から近代の日本に存在した一群の漂流漁民の総称である。

 古代海部の系統をひく水軍の末裔とも言われているが、詳細は不明である。数艘から数十艘にて集団を形成(「~家船」と称する)して、本拠地を中心として周辺海域を移動しながら一年を送り、潜水や鉾を使った漁で魚介類や鮑などを採集する漁業を営なみ、1週間から10日おきに近くの港で物々交換に近い交易をしていた。家船が三津の朝市で漁獲品を水揚げする姿は戦後もしばらくは見られていた。

 別府温泉では、持ち舟で寝泊まりしながら浜脇温泉や別府温泉に通う湯治の習慣が古くから見られ、戦後しばらくまでは続いていた。春には波止場に係留される舟は100艘近くにのぼり、湯治舟とよばれて季語にもなるほどの別府の春の風物詩となっていた。

 家船の根拠地は、西九州及び瀬戸内海沿岸に存在した。西九州では西彼杵半島と五島列島に多くが根拠を持ち、女性は抜歯の風習があったとされている。

 幕藩体制の成立以後、家船に対する把握も行われ、藩からの公認と引き換えに鮑などの上納や海上警備などを行った。明治維新以後、納税の義務化、徴兵制や義務教育の徹底の方針から政府が規制をしていった。昭和40年頃には陸上への定住を余儀なくされて消滅したと言われている。

 と説明しています。「サンカ(山窩)」といい、漂白の民というのはロマンを呼び起こしますね。

星宿海POP

 失踪から2年が経過し、紀代志も千春も雅人が死んでいるであろうと思っていましたが、この「家船」の血をひいているのではないかという説により、世界を巡り巡っていつかは戻ってくるのではないかという希望を取り戻します。そして千春は瀬戸内海の島で温泉宿の建設を計画するのですが、夜の瀬戸内海の島々が星宿海のように見えるというシーンは、これはぜひ一度行ってみたいと思わせるものでした。
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