瑠璃の雫:少女ハードボイルド小説

瑠璃の雫
 
 ボストンの爆発、やっぱりテロだそうですね。無差別は怖いなあ。そりゃ狙われたらもっと怖いけど、最低女子供は対象から外しましょうよ。

 今日は暖か…というか暑かったですね。4月からこれじゃ夏が思いやられますよ。早くスーパークールビズを。そして最近拍手も途絶えて…おねだりして押して貰うというのも趣旨が違うのでしょうが、でも拍手が欲しいよ~。

 さて本日は、伊岡瞬の「瑠璃の雫」です。伊岡瞬の本は初めて読みました。

 伊岡瞬は1960年生まれで東京都武蔵野市出身。日本大学法学部卒。2005年に「約束」で横溝正史ミステリ大賞受賞し、「いつか、虹の向こうへ」と改題して角川書店から刊行して作家デビューしました。「瑠璃の雫」は三作目で、「7月のクリスマスカード」という題で2008年6月に角川書店から刊行され、2011年7月に角川文庫入りした際に、「瑠璃の雫」に改題されました。

 私は文庫版で読んだのですが、原題の「7月のクリスマスカード」は、ラスト付近で確かに実登場してくるのですが、長編にもかかわらず、それ以前では「?」となるタイトルなので、「瑠璃の雫」の方がいいかなと思います。

 例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

角川の宣伝

 母と弟の2人で暮らす小学6年生の杉原美緒。母はアルコールに依存し、親類に引き取られた美緒は心を閉ざしていく。そんな折、元検事の永瀬丈太郎という初老の男と出会う。美緒は永瀬の人柄に心を開いていくが、彼はひとり娘を誘拐されており、大きな心の傷を抱えていた。数年後、美緒は事件を調べ始め、余りにも哀しい真実を知る―。家族とは何か。赦しとは何か。今最も注目を受ける気鋭が贈る、感涙のミステリ巨編。

 本書は三部構成となっていて、第一部は美緒が12歳の時の物語です。内容紹介のとおり、父は美緒達を捨てて離婚して別の家庭を持ち、母はアル中。知恵遅れ気味?な弟・充は厄介者と、美緒の周辺は八方塞がりな状態です。怒りを感じたときや絶望を感じたときなど、美緒は右手の人差し指を噛む癖があるのですが、皮膚を食いちぎって縫わなければならないこともあります。「おはなしゆびさん」という童謡で歌われているとおり、人差し指は「お母さん指」とも呼ばれ、母の象徴でしょう。美緒が人差し指を噛む時は、もっぱら母親に関する事柄が原因となっています。

おはなしゆびさん

 名探偵ポアロがしばしば言及するように、過去に起きた事件は長い影を引きます。美緒には充の下に穣という弟がいたのですが、3年前、まだ乳児だった時に死んでしまいます。そして殺したのは当時5歳だった充だというのですが…。この事件は美緒の家庭崩壊に直結しており、父が去り、母がアル中になり、弟の性格が奇妙に歪んでいるのはこの事件の影響といえます。

 美緒にとって唯一の救いは、母の従姉妹である薫が近所に住んでいたことでしょう。美緒にとっては五親等ということで、近い親戚とも言い難いところですが、非常に親切な人です。母がアル中で入院する中、薫の知り合いの永瀬丈太郎と知り合うことになった美緒は、彼と親しくなる中で、彼の抱える“闇”を知ることになります。

 第二部は永瀬丈太郎の物語で、30年前の娘・瑠璃の誘拐事件と当時の状況が描かれています。やがて永瀬は真実を知ることになるのですが、その内容は読者に知らされることはなく、第三部まで引っ張られます。

 第三部では19歳になった美緒が再び主人公となり、永瀬にまつわる真実を追究する中で、穣の死亡事件についての真実にも行き当たるようになります。

 美緒と永瀬、二人に影を落とす過去の事件の真相は何か、というのが本書のキモなのですが、特別な名探偵はおらず、美緒も特段推理力がある訳でもないのですが、極めてハードボイルドな展開をします。

瑠璃の雫POP

 まず美緒は孤立無援であり、また援助を拒む頑なな心を持った女の子です。要するに可愛くない女の子ということになるかも知れません。中学生の不良達に集団で暴行(但し婦女暴行にあらず)されても、助けを求めようとしません。母や弟を殺したいと度々思い、一部ラストではいっそ自分が死にたいとさえ思ったりします。でも、父が消える前日にくれた赤い毛糸の手袋をずっと持っていたり、父の新居をこっそり訪ねてみたりと、そこはそれ、少女らしいところもあるのですが。

 そして美緒の保護者格となる遠縁の薫ですが、実は永瀬の娘・瑠璃とは幼稚園時代に友だちで、瑠璃が連れ去られるところを目撃していたのでした。しかし幼稚園児の証言は証拠としては採用されず、容疑者は起訴に持ち込めませんでした。そして薫は、瑠璃が連れ去られるのを見送ってしまったことをずっと後悔していたのでした。幼稚園児の薫を責めることなど誰にもできないですが、ただ一人、薫自身が自分を責めているのです。

 永瀬によれば、美緒は瑠璃そっくりなんだそうです。永瀬は美緒に娘の面影を見て、美緒は永瀬に父、というか父性の面影を見るかのような関係で、二人はゆっくりと親交を暖めていきます。

 事件の真実を追及するというストーリー展開のほか、もう一つのテーマは「どうすれば許すことができるのか」ということだろうと思います。深い恨み、今となってはどうしようもない感情を、どうすれば解消することができるのか。確かに憎悪し続けるということは大変な労力なので、許してやった方が楽になるということもあるでしょう。しかし、意識して憎み続けようとするのとは違う、決して消えない憎しみというのもあるでしょう。そういった憎悪は、別に故意にかき立てることをしなくてもずっと心の中で燃え続けるのではないか。そういう憎しみの炎はどうやって消せばいいのか、という。復讐できればいいのでしょうが、復讐する相手が既にいなかったり、復讐することで無関係な人々を不幸にするという場合もあります。
 
 ただし、構成上仕方ないのかも知れませんが、読んでいて気になったのは、物語をラストまで引っ張るためなのでしょうが、手の内を晒さないというか、読者を故意に誤解させようとするかの描写があることです。第一部ラストで美緒は窮地に陥り、その際に重要人物が巻き込まれるのですが、まるでその人物が死んでしまったかのように年月が過ぎて美緒は19歳になります。確かに死んだなんて一言も言われていないのですが、第三部にも登場してこないし、読者は死んでしまったものと誤解しても仕方がない気がします。

 第三部終盤で突如その人物が登場することで、場面の緊迫感が一層増す効果があり、読者をびっくりさせることにも成功しているとは言えるのですが、それが判明するまでの感、私の中には「美緒にはもう人を糾弾する資格はないのではないか」とか「自分のことは棚に上げて真相究明かよ」といった気持ちが消えませんでした。こういう描写はあざとい、と言うのは、作者の掌で転がされているということなのでしょうかね。ただ、本作の場合は上手く騙されたなあという感想を持つには至りませんでした。

 美緒自身にとっては、それまで頑なに拒絶していた「忘れる」という選択肢を検討できるようになっただけ良かったということになりますが、事件自体は救いはなく、重苦しく立ちこめたままです。またそれとは別に、「クズの子はやっぱりクズ」というほかないような展開もあり、なまじ温情をかけてむしろそれが仇になるというのは本当にやるせないです。だからハードボイルドなのかなあ。

7月のクリスマスカード

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