怪笑小説:東野圭吾は非ミステリー小説も傑作です

怪笑小説
 
 今日は朝から雨で、止んだら冬のような寒さ。ホワイトデーだというのに季節を逆行かよという日でした。まあこういう日を何度もくぐり抜けて春っている季節は訪れるのでしょうけど。

 いろいろありますが今日の記事行ってみましょう。本日は東野圭吾の「怪笑小説」です。

単行本

 東野圭吾というとミステリーという印象が強いのですが、この短編集は筒井康隆か清水義範かという風情の「非ミステリー」の作品ばかりが9編が収録されています。

 例によって文庫裏表紙の内容紹介です。

 年金暮らしの老女が芸能人の“おっかけ”にハマり、乏しい財産を使い果たしていく「おつかけバアさん」、“タヌキには超能力がある、UFOの正体は文福茶釜である”という説に命を賭ける男の「超たぬき理論」、周りの人間たちが人間以外の動物に見えてしまう中学生の悲劇「動物家族」…etc.ちょっとブラックで、怖くて、なんともおかしい人間たち!多彩な味つけの傑作短篇集。

 ただ全部がユーモア小説かといういとそういう訳ではなく、パロディないしパスティーシュではあっても笑えない作品も入っています。本作が特徴的なのは、巻末に解説があるのは当然として、作者自身のあとがきがかなりの分量入っていることで、各作品について執筆の動機や契機となった体験談を綴っています。

POP.jpg

 鬱積電車:満員電車においてそれぞれが他の乗客に鬱憤を抱えています。そんな中、新開発の「自白ガス」を持って乗り込んだ研究員が、降りた後にボンベのバルブが緩んでガスが流出していたことに気付きますが…という話。その後どうなったのかは描かれていませんが、それ以前の各乗客の心の中の鬱憤が詳細に描かれているので、修羅場は必至でしょう。ただし、矛先が向き合っていない場合が大半(例えばAはBに怒っているが、BはCに不満を持っているといった感じで)なので、皆が自分の言いたいことを怒鳴り散らしているだけで、論争や喧嘩にはならないかも知れませんね。

 おっかけバアさん:杉平健太郎という杉良太郎と松平健が合体したような“オバサマのアイドル”にはまってしまったバアさんの話。なけなしの金をつぎ込んでおしゃれをし、アクセサリーも毎回替えねばと、お金がないので一つのアクセサリーをイヤリングだ、ペンダントだ、ブローチだと地金を使い回したりして。とうとう栄養失調で倒れたところで“健サマ”の車にひかれてしまいます。アイドルにはまるっていうことには老若男女に差はないってことでしょうか。コンサートって怖いなあ(笑)。

 一徹おやじ:待望の息子が生まれ完全に「星一徹」と化してしまったおやじの話。これは文句なく面白いですが、ドラフト候補にまでなった息子はおやじの意向通りに生きてましたが、最後の最後に自分の意志を示します。息子・勇馬(この名前も…)が生まれるまで代役をさせられていた娘の視点から描かれた作品ですが、失踪した勇馬の書き置きを見せる瞬間を想像して、ぞくぞくするという気持ち、よく分かります。

 逆転同窓会:同窓会というのはクラスメイトが集まって、当時の担任を呼んだりするものですが、これはある時期の学年を担当した教師達が引退後に集まっているという話。その期の学生だけ優秀な人材が揃っていて強い印象を与えたと言うことですが、当時の学生を呼んでみようと言うことになったことで引退教師達の思惑とはずいぶんとずれていってしまいます。東野圭吾は教師が嫌いだということで、教師達を揶揄する話になっています。私は東野圭吾ほど教師運がなかったわけではないので教師アレルギーはないですが、体育教師だけは「ヤナヤロー」が多かったなとは思います。ただあの連中方々って、他の教師とはそもそもの立ち位置がちょっと違うような気がしますね。

 超たぬき理論:UFO は「超能力たぬき」が化けた文福茶釜だという奇想天外な考えに取り憑かれた空山一平が、「宇宙人の乗り物説」を唱える大矢真(ヤオイさん的な雰囲気があります)とテレビで議論するという話。「たぬき理論」は抱腹絶倒ですが、返す刀でオカルトを叩き切っているのが痛快です。私も幼少期からオカルトは大好きでずいぶんとはまったんですが、その結果極めてスケプティックになりました。その理由は、オカルティストの主張の胡散臭さに嫌でも気付くからなんですね。グラハム・ハンコックなんてデニケンのパクリじゃないか!東野圭吾もあとがきで言っていますが、誰もが納得する科学的データを一度として出してこないんですよ、あの人達は。

 無人島大相撲中継:豪華客船で火災が発生して乗員乗客は無人島に避難します。命の危険はありませんが、救助がなかなか来ないので暇をもてあました人々は、乗り合わせた大相撲マニアは昔の取り組みを全て覚えているので、彼に大昔の取り組みを実況してもらうことになります。その内に取り組みに賭けるようになって賭博が横行するのですが、賭けるのはビスケットだったり(笑)。八百長を持ちかける主人公に大相撲マニアは…というお話。筒井康隆風のドタバタ感が強い作品です。

 しかばね台分譲住宅:値下げ傾向を憂慮する分譲住宅地に変死体が。これ以上のイメージダウンは御免だという住民達は、値上げ傾向のあるライバル(?)住宅地に死体を持って行きますが、向こうは向こうで死体をこちらに置いていったりして。後に何十年も続く伝統のスポーツ行事になってしまうところが大笑いです。これも筒井風ですね。

 あるジーサンに線香を:判る人はタイトルだけでピンと来るでしょうが、まさしく「アルジャーノンに花束を」のパロディです。「アルジャーノンに花束を」は短編と、それをベースにした長編があって、私は長編しか読んでいないのですが、人によっては短編の方がいいと言いますね。本作も短編なので短編アルジャーノンをベースにしたのでしょう。パロディですが、やっぱりアルジャーノン的切なさがありますね。笑うと言うより面白い作品です。「アルジャーノンに花束を」は名作なのでこちらもぜひ読んで頂きたいです。

 動物家族:他人が動物に見えてしまう中学生の話。自分自身は爬虫類とも両生類ともつかない妙な動物に見えていますが、家族に冷遇され、不良に絡まれ、友達もいない彼が、最後の最後に鬱憤を爆発させますが、その姿は……。これもブラックですが、笑う話ではありません。姉を含めた女子学生が皆猫に見える彼ですが、祖母はキツネ、母はスピッツ、父の愛人らしい女性は蛇に見えるところが興味深いですね。

韓国語版

そういえば韓国語に訳されたものもあるのですが、この表紙は「動物家族」でしょうね。

 「笑小説」はシリーズ化しており、他に「黒笑小説」「毒笑小説」「歪笑小説」があります。セットで図書館に置いて欲しいものです。

旧版の表紙
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ユースフ

Author:ユースフ
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
カテゴリ
リンク
ブロとも一覧

秒速5センチメートル・・・桜花抄の軌跡を追ってみた

心理兵器:秒速5センチメートル
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
FC2カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
日記
54位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
会社員・OL
9位
アクセスランキングを見る>>
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

最新トラックバック
検索フォーム
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ