「自殺-生き残りの証言」:自殺衝動は心の病なのか?

自殺 生き残りの証言
 
 今日も暖かでした。これくらいの気温の夜は気持ちがいいですね。夜桜なんかを見てそぞろ歩きたい気分でした。今年の冬は寒かったから桜の開花も遅いかと思っていましたが、案外早まるかもしれませんね。

 さて、話は変わって本日の記事です。今日は矢貫隆の「自殺-生き残りの証言」です。今回は画像が特にないので文字ばかりで恐縮です。こういう本を読んだからと言って自殺を考えているとかいう訳ではありませんので念のため。

 文庫裏表紙の内容紹介は次のとおりです。

 「こんなに切ったのに何で死ねないんですか…」「お腹を刺した時点で狂っていた私は死んだんです」自殺を図って死ねなかった未遂者たちに、運びこまれた救命救急医療センターで取材した異色のルポルタージュ。なぜ人は自殺を企てるのか、本当に死ぬつもりだったのか。自殺未遂者の肉声を基にその心理を解きあかす。

 著者の矢貫隆は、1951年生まれのノンフィクション作家で、1977年に龍谷大学を卒業後、長距離トラックやタクシーの運転手など多くの職業を経て作家活動に入りました。交通問題、救急医療問題などの硬派なジャーナリズムから、盲導犬や登山など親しみやすい話題にも取り組んでおり、著書には本書のほか、「クイールを育てた訓練士」「いのちの夢―難病の子どもたちが願ったこと」「救えたはずの生命(いのち)―救命救急センターの10000時間」「奈美ちゃんの赤い靴―車椅子の少女が街に出た!」などがあります。

矢貫隆

 本書は1980年代末から90年代前半にかけて救命救急医療センターに運び込まれた自殺者へのインタビューを主軸にした異色のルポルタージュです。年間3万人とも言われる日本の自殺者からみれば、20人への取材はまさに氷山の一角であり、彼らが言っていることが自殺者全般に言えるのかどうかはわかりませんが、本書によって明らかになっている自殺の特徴の一部は

① 鬱病は自殺に直結しやすい危険な病。だが鬱病が直れば自殺衝動も消える

② 自殺を図ってもなかなか死ねない。反対に事故などでは人はあっけなく死ぬことがある

③ 一度自殺を図って死ねなかった人は二度と自殺しないというのは嘘。繰り返し自殺を図るケースも多い。

④ 自殺を図った段階で「自殺したい」という思いも消えるのか、その後は冷静。死ぬつもりない狂言自殺の場合は、狂言自殺の目的(恋人が駆けつけるなど)が果たせない場合は激情状態が続く

⑤ 摂食障害(拒食症・過食症)は鬱病以上に危険な精神疾患。

⑥ 自殺をしやすいタイプ、しにくいタイプというものは存在せず、誰しも自殺を図るおそれがある

⑦ 「自殺しなければ」という衝動に囚われると、自殺方法にも特定の方法にこだわるようになり、より確実な方法などを考えることがなくなるし、そういう状態を変だとも思わなくなる

などでしょうか。自殺を図った直後は、エンドルフィンなどの脳内麻薬が出ているせいか、包丁で腹を刺すなどしてもあまり苦しまないようですが、救急車で運ばれて救命救急医療センターに到着する頃には麻薬が切れて、地獄の苦しみを味わうことになるようです。薬物自殺の場合、胃洗浄が行われるのですが、ようするにチューブから水を大量に入れては吐かせるという作業を繰り返すので、想像するだけで苦しそうです。その苦しさは、自殺未遂者に「こんなに苦しいなら自殺なんかするんじゃなかった」と言わしめるほどです。

 著者は、自殺とは無縁な人々に理解して欲しいこととして、自殺者は「死にたくて自殺するわけではない」のだと断言しています。例えば仕事が嫌で自殺する人に対して、第三者は「そんなに嫌なら仕事を辞めれば?」と思います。確かにそれが正解なのですが、自殺を図る人は「とにかく死んで逃れたい」「楽になるには死ぬしかない」という強迫観念に囚われてしまいます。そして自殺以外の選択肢がなくなって、自殺せざるを得ない状況に精神的に追い込まれていくのだというのです。オカルト的に言えば、悪魔とか死神といった魔物が取り憑いて心を操っているかのようです。自殺者の心は一時的にせよひどく病んでおり、もし心が見えるのならば手術の必要な臓器のような状態になっている。そして同時に外部からの救いを期待できないほどの孤独感を背負っている、と作者は言います。

 一方、自殺を頭に浮かべている人には「自殺なんてするとロクなことにならないよ」と言っています。本書で描かれている治療の苦しさの他、金銭的な負担も馬鹿にはなりません。そして、残された人々には“身近な人に自殺されてしまった”という非常に辛い気持ちをもたらしてしまいます。これは後々まで長く尾を引きそうですね。自殺者は「自分の命は自分のもの」と思っており、自殺も権利の一環だと考えるかも知れませんが、他者の心も確実に傷つけるのだということにも関心を払う必要があるでしょう。そして、他者を傷つける権利など誰にもないのだということにも。

 作中最初の登場人物である太田亜希子は、7年間の間に6度も本気の自殺を図り(彼女は常にガチです)、とうとう最後の自殺で死に至ってしまいます。作者は彼女に何度もインタビューしており、個人的に親しくなっていたのですが、摂食障害という恐るべき悪魔に苛まれ続けた彼女は、ついに救われることなく逝ってしまいます。作者はあとがきで、彼女の死を受け入れられないと率直に心境を吐露しています。親しい人に死なれた人はいつまでも辛い気持ちを持ち続ける……このことはぜひ我々全てが肝に銘じておかなければならないことだと思います。最も自殺衝動に取り憑かれた人は、もはやそういうことに気を配る余裕など失っているのでしょうが。

 しかし自殺者が救命救急医療センターに運び込また状況というのは背筋が寒くなるほどの惨状なので、作者もよくそんな場面を見続けたなと思う反面、日夜治療に当たっている医者や看護師には本当に頭が下がります。医者達が「そんなに死にたいのなら死なせてやったほうがいいのでは」と思うようになるのも当然だなあと思いますが、それでも彼らは全力で命を救おうとするんですね。事故などに遭遇したら仕方ないですが、個人的には彼らの手を煩わさないようにしたいなあと感じました。
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