格闘する者に○:大人気作家の才気溢れる処女作

格闘する者に○
 
 昨日は9時間寝まして、朝はだいぶよくなったので出勤したのですが、夕方くらいになるとまたマツコ・デラックスが背中に這いよってきました。ヤツは夕方になるとやってくるんでしょうか?でも昨日よりは大分いいです。

 本日は三浦しをんの「格闘する者に○」です。「○」は「まる」と読みます。

映画化された「まほろ駅前多田便利軒」

 「格闘する者に○」は三浦しをんの処女小説です。三浦しをんといえば「まほろ駅前多田便利軒」で今2006年に直木賞を受賞し、「舟を編む」は2012年の本屋大賞に選ばれるなど、今や一番の売れっ子作家といってもいいでしょう。「まほろ駅前多田便利軒」は2011年に映画化されており、「舟を編む」は昨年の年間ベストセラーランキング(トーハンによる)の第5位で、小説としては昨年一番売れた本のようです。

舟を編む

 そんな今一番注目すべき作家なのに、読んだのは今回が初といううかつさ。まあこれがユースフクオリティーなのですが、人気作家の処女作から読めたというのはある意味幸運なのかも知れません。三浦しをんは1976年生まれでまだ36歳。直木賞を受賞した当時29歳で、20代での受賞は4人目という少なさだとか。ちなみに20代で受賞した作家はみんな女性ですね。小説家としても女性のほうが早熟なのかしらん。

三浦しをん

 「格闘するものに○」は、2000年に出版されています。ということは三浦しをんが24歳の時の作品であり、大学(おお後輩!)卒業が1999年ということなので、卒業直後の作でということになりますね。

 文庫本裏表紙の内容紹介は

 これからどうやって生きていこう?マイペースに過ごす女子大生可南子にしのびよる苛酷な就職戦線。漫画大好き→漫画雑誌の編集者になれたら…。いざ、活動を始めてみると思いもよらぬ世間の荒波が次々と襲いかかってくる。連戦連敗、いまだ内定ゼロ。呑気な友人たち、ワケありの家族、年の離れた書道家との恋。格闘する青春の日々を妄想力全開で描く、才気あふれる小説デビュー作。

となっています。どうやら三浦しをんが大学4年生の時に体験した就職活動がベースになっているようです。主人公の藤崎可南子は文学部の中でも就職に弱そうな文学部、その中でも最もつぶしのきかなそうな演劇を専修しており、友人の砂子(♀)も二木(♂)も出版社を狙っているとはいえ、就職活動には全然熱が入っていません。

 ちょっと変わったタイトルについては、就職氷河期に職を求めて悪戦苦闘する姿が「格闘する者」なのかと思っていたのですが、途中であっけなくネタは判明しました。試験を受けに行ったK談社の社員が受験する際の注意を読み上げた時に「該当するものに○」の記載を「カクトウするものにマル」と読んだのです。ここで可南子はいやしくも出版社の社員がこんな字を誤読するとはと呆れかえるのですが、基本的に本書はK談社(誰がどう読んでも講談社でしょう)に厳しい描写が続きますです。

 おそらく就職活動の際の実体験なのでしょうが、面接官の態度も極めて不愉快で、「もう二度とここへは来られないと思いますし、来ないと思います。」と人事のおじさんに八つ当たりしてしまうほどです。本書で試験を受けに行っているのは、「妙な映画」を作っている宗教がかった社長がいる丸川書店(どう考えても角川書店ですねえ)と、集A社(もう伏せ字にもなっていませんが、集英社ですね)とK談社なのですが、K談社の印象は最悪なものとなっています。三浦しをん自身がそういう気持ちを持っているのなら、当然講談社からは本は出ていないのだろうなと思ってちょっと調べてみたら、確かにこれまでの著書は全て講談社以外から出版されているようです。

 ちなみに同じく俎上に上げられている角川書店と集英社からは著書が出版されています。「丸川羅王蔵(ラオゾウ)」という無茶な名前でネタにされている角川春樹はコカイン密輸事件(逮捕→実刑判決)により社長を退任しており、現角川書店としては別に構わないということなのでしょうか。また集英社をモデルにした集A社については、K談社とは対照的に面接試験の状況が好意的に描かれているので、最初からおとがめなしなのでしょう。「バクマン。」での週刊少年ジャンプの編集部といい、集英社は作家や漫画家にとって好感が持たれる会社なのでしょうかね(まあ「バクマン。」については連載してて悪口は書けないでしょうが)。

単行本

 さて、処女作にしてはやたら達者な文章を書いていますが、内容にはかなり無茶な詰め込み方をしたなあという感じもします。シンプルに就職活動を描いただけでも良かったの思うのですが、小説である以上は実体験だけではいかんと考えたのか、主人公可南子の境遇は極めて普通ではありません。

 彼女はおそらく代々政治家となっている地元の名家「藤崎」の出身で、跡取り娘だった母が亡くなっているので、事実上名家の血統は彼女にしか流れていません。現在有力政治家となっている父は祖父の元秘書で入り婿であり、後妻の義母との間に異母弟がいますが、彼には「藤崎」の血は流れていないのです。父の後継者をどうするかという「親族・後援者会議」が中盤で描かれていますが、就職活動とは全くかけ離れた話題で、そんな「お嬢様」なら無理に就職しなくても夏目漱石作品によく登場する「高等遊民」として遊んで暮らせるんじゃないかと思ってしまいます。いいなあ、なってみたいなあ「高等遊民」。もっとも晴れてなれたとしても「高等」に値するかどうかはわかりませんが、ただの遊民でもいいっす。

 さらに、可南子は70歳位の「おじいちゃん」の書道家と交際しています。そのせいか書きぶり話しぶりに古風な感じがあるということになっていますが、これもまた普通の女子大生とはやたら様相を異にしています。その交際ぶりは詳細が描かれていないのですが、可南子の脚を舐めたり抱きしめたりペディキュアを塗ってからしゃぶったりするということなので、肉体関係があっても不思議ではないですね。

 こういう可南子の普通ではない部分って、必要だったのかなあと私は思うのですが。普通の女子大生が、就職活動において体験する様々な出来事やそれに関する感想を書いて貰っても十分面白かったと思います。まあ作者・三浦しをんの好きな行為は「妄想」らしいので、実体験ベースだけでは創作としてつまらないと思ったのかも知れませんが。冒頭登場する「象を選ぶ姫君」の話は、集A社の試験の際に可南子が書いた創作ですが、てっきり可南子の母有美子が婿選びする際の心境を描いたものかと思っていました。

 登場する三人の就職活動は結局どうなったのでしょうか。途中で作品が終わっているのでわかりませんが、二木は大学院に進むことを考えているので、進学が有力ですね。砂子は途中ですっかり投げ出していますが、美人でモテモテらしいので、有望そうな男とを見つけてあっさり永久就職の道を選ぶのかもしれません。主人公可南子ですが、さらに就職のために中小の出版社にも当たろうとしていますが、彼女の就職理由は好きな漫画に関わりたいというくらいなので、先に述べたような身の上なので、無理に就職せずに適当にアルバイトを続けて小金を稼いで古本屋を漁っていれば十分幸せな気がします。家計を支えるとか口を糊するという必然性がないって羨ましいなあ。

 もっとも幸せって極めて主観的なものですから、家庭環境が裕福そうな可南子が自身を幸福と思うかどうかはわかりません。スラムに生まれ暮らしても幸せだと思う人もいれば、何不自由ない暮らしをしている人が不幸だと感じていることもあるでしょう。

 ウィリアム・ブレイクの詩を思い出しますね。もちろんそんな高尚な詩人の作品を直接読んだことは無く、アガサ・クリスティの作品に取り上げられていたのを読んだばかりですが。

ウィリアム・ブレイク

 Every Night and every Morn
 Some to Misery are born.
 Every Morn and every Night
 Some are born to Sweet Delight,
 Some are born to Sweet Delight,
 Some are born to Endless Night

 夜ごと朝ごと
 みじめに生れつく者あり
 朝ごと夜ごと
 幸せとよろこびに生れつく者あり
 幸せとよろこびに生れつく者あり
 終りなき夜に生れつく者あり

 「終わりなき夜に生まれつく」……これが作品の邦題にもなっていますが、自分もそうなんじゃないかなんて思ってしまいます。クリスティは怖い作品書きますね。「終わりなき夜に生まれつく」とか「春にして君を離れ」といったクリスティの本当に怖い話はいずれ機会を見て取り上げたいです。
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