西の魔女が死んだ:繊細な少女の成長を叙情的に描いた名作

西の魔女が死んだ
 
 ようやく来ました花の金曜日(もう死語ですか?)。ここんところ読書量が増える増える。というか、読んだ本を片っ端からブログにアップするようになっただけのような気もしますが。いやいや、紹介するに値する作品に巡り会っているということでしょう。

 ということで、本日は梨木香歩の「西の魔女が死んだ」です。これは言い作品ですよ。

 梨木香歩は小説家の他、児童文学作家、絵本作家でもありあす。英国留学の経験があり、児童文学者に師事しています。現代の競争社会から外れた所にあるものを描きたいという思いから、一番である「金」ではない「銀」を度々作中に登場させているそうです。そういえば、「西の魔女が死んだ」でも銀龍草が出てきました。

 銀龍草

 本作は1994年に刊行され、日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、第44回小学館文学賞受賞を受賞しており、2008年には実写映画化されています。

 例によってAmazonさんの内容紹介カモン。

 「西の魔女」とは、中学生の少女・まいの祖母のこと。学校へ行けないまいは、田舎の祖母のところで生活することに。まいは、祖母の家系が魔女の血筋だと聞く。祖母のいう魔女とは、代々草木についての知識を受け継ぎ、物事の先を見通す不思議な能力を持つ人だと知る。まいは自分も魔女になりたいと願い、「魔女修行」を始める。この「魔女修行」とは、意志の力を強くし、何事も自分で決めること。そのための第一歩は規則正しい生活をするといった地味なものだった。野苺を摘んでジャムをつくったり、ハーブで草木の虫を除いたりと、身近な自然を感じながらの心地よい生活が始まる。次第にまいの心は癒されていく。魔女はいう。「自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」そしてまいは、この「西の魔女」から決定的なメッセージをうけとるのだった……

映画版ポスター

 中学校で女子のグループ作りに疲れたまいちゃんは、ぼっちとなってしまいます。それだけでなく、クラスの女子グループの友好関係構築のためのスケープゴートとされたことで、学校に行けなくなってしまったのでした。田舎のおばあちゃん(イギリス人)は暖かく迎えてくれ、これまでと全く違う田舎暮らしはまいちゃんの疲弊した心を癒やしてくれるのです。

 魔女について尋ねたまいちゃんは、おばあちゃんのおばあちゃんが不思議な力を持っていたこと(結婚前におじいちゃんのおじいちゃんを救っています) 、おばあちゃんとおばあちゃんの妹は魔女修行を受けたこと(おばあちゃんの妹は素質が高くて魔女となっているそうです)、自分も魔女になれるかも知れないことを教えて貰います。上に書いてあるように魔女修行は夏休みの生活習慣維持みたいに地味ですが、自分がそれを継続することが容易ではないことはまいちゃんも自覚しています。

映画版チラシ1

 おばあちゃんとの生活は楽しそうです。早寝早起き、電化製品を使用しない洗濯、ジャム作り、裏庭のサンクチュアリ、鶏卵取り、ミントティーでの野菜への水やりなどなど。しかし、全てが癒やしに満ちている訳ではありません。初対面でとても嫌な経験をした向かいに住むゲンジは、まいちゃんの穏やかな生活をかき乱す具象化した“不安”そのもののようです。鶏は動物の襲撃を受けて全滅し、まいちゃんは「犯人」がゲンジの飼い犬ではないかという確信を抱くのですが…

 町に住んでいたのが、父親が死んだのを契機に戻ってきたようです。どうやら離婚したようで一人暮らしをしています。エロ本を捨てたり、おばあちゃんを「外人」と呼んだり、神聖なまいちゃんのサンクチュアリのある裏庭をかすめ取ろうとしたり、ことごとくまいちゃんの心をかき乱すようなことをします。

おばあちゃんとまいちゃん

 中学一年生ということで、まいちゃんはとても潔癖な女の子なのでしょう。我々から見れば、幸せ薄く田舎で逼塞しているおっさんなんだから多少のことは大目に見て上げなよと言いたいところですが、もうちょっと大人にならないと無理でしょうね。また、そういう時期を過ごすことも、大人の階段を登っていくワンステップとも言えるでしょう。しかし、ゲンジのことを契機にまいちゃんは暴言を吐いてしまい、おばあちゃんに頬を叩かれてしまうのです。そして和解できないままにまいちゃんはおばあちゃん
の家を去り、遠い東の都会に引っ越してしまいます。

 「おばあちゃんはわたしにいつも自分で決めろって言うけれど、わたし、何だかいつもおばあちゃんの思う方向にうまく誘導されているような気がする」

おばあちゃんの家
 
 この作中のまいちゃんの言葉は、案外正鵠を射ている気がします。なにしろおばあちゃんは魔女ですからね。ここで言う「魔女」は、「悪魔と契約を結んで得た力をもって災いをなす存在」という概念の魔女(黒魔女)ではなく、害悪をもたらす妖術には関わらない白魔女でしょう。白魔女は、現代のイギリスにも存在するようですが、イギリスで「器用な人」、フランスで「占い師兼病気治し」などと呼ばれていました。キリスト教会はいい顔をしなかったようですが、 民衆は白魔女の占いやを治療行為を信頼していたようです。

 しかしまいちゃんには大きな影響を与え、魔女になることを志す契機となったおばあちゃんですが、娘であるお母さんは、おばあちゃんとは全く違う生き方をしています。結婚しても子どもが生まれても仕事を続け、家事が大の苦手で、おばあちゃんとは正反対です。そしておばあちゃんも娘の生き方を自分の好みに合わせることはできなかったのでした。ですが、どうやらまいちゃんは後継者にすることに成功したようです。この家系の魔女は隔世遺伝的なのかもしれませんね。おばあちゃんのおばあちゃんから、おばあちゃんとその妹て、そしてまいちゃんへというように。

 おばあちゃんと和解できなかったまいちゃんは、2年後におばんちゃんの死という悲しい再会をすることになります。生き方は違ってもお母さんもおばあちゃんを深く愛していたことは、その慟哭から知れます。おばあちゃんはかつて「おばあちゃんが死んだらまいに知らせてあげますよ」と約束していました。そして、まいちゃんは、汚れたガラスにおばあちゃんからのメッセージを発見するのでした。

映画版チラシ2

 おばあちゃんの降り注ぐ光のような愛を実感したまいちゃんは、生前にお別れする時に言えなかった言葉を叫びます。

 「おばあちゃん、大好き」

 そしてその時、まいちゃんがそういうと必ず応えてくれたおばあちゃんの声をまいちゃんは確かに聴いたのでした。

 「アイ・ノウ」

 なお、文庫版には、その後のまいちゃんの物語「渡りの一日」も併録されています。転校したまいちゃんは友達もできてきちんと学校に通っていますが、魔女修行も怠っていません。この短編では、いつも自分の立てたプランを必ず実現するまいちゃんの計画を狂わせてみようというちょっと意地悪な友達の行動(悪意はないですが)が描かれていますが、結局の所その日にやろうとしていたことは全て実現しているのでした。まいちゃんの魔女化(「まどか☆マギカ」とは違いますよ)の進行具合は順調のようです。いずれ孫娘に魔女修行を施すことになるのでしょう。

文庫版西の魔女が死んだ

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No title

この作品、映画で見ました。
とても繊細で純粋で良いお話だったと思います。
続編というか、その後の話が有ったんですね。
これは読まなくては。。。

Re: No title

こんにちは。

映画版を見たんですね。私も見たいです。ゲンジ役は木村祐一だったそうですが、やっぱりキモく演じていましたか?

原作はあまり長くないので、続編込みでもすぐ読み終わりますよ。ぜひ女の子達に読んで欲しいですね。

No title

はじめまして。
「秒速5センチメートル」つながりでこのブログにやって来ました。

「西の魔女が死んだ」ですが、
以前この作品を読んで、非常に感動したのを覚えています。
「映画も見よう!」と思い、早6年…
内容もすっかり忘却の彼方へ…

復習も兼ねて、今度こそ見ようと思います!

Re: No title

 初めまして。こんばんは、いらっしゃい。

 「秒速5センチメートル」からいらっしゃったんですか。ググってもなかなかヒットしないこんな僻地にようこそ。「秒速」ももちろん良いのですが、女の子の話もいいですね。あ、「コスモナウト」は女の子の話でしょうかね。

 最近特に心に残った本は、この「西の魔女が死んだ」と重松清の「きみの友だち」です。どちらも映画化されているあたり、「いいなあ」と思ったのは私だけではないのだとうれしくなりましたが、評判とか映画化をとんと知らずに過ごしてきたことが我ながら情けない話です。

 元々「秒速」と「魔法少女まどか☆マギカ」を語りたくて始めたこのブログですが、続けているうちに妙な方向に進んでいるような気がします。それでも良ければまた遊びに来て下さい。
 
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