われはロボット:SFの古典的名作を再読

われはロボット(決定版)
 
 朝は冷え込みましたが、昼以降は結構暖かかったですね。銀杏も色づいてきて、関東平野部もこれから紅葉シーズンに突入という感じです。さて本日は、先日読んだ「われはロボット[決定版]」です。

 え、まだ読んだことなかったの?と言われてしまいそうですが、もちろん読んだことはあります。当時は「わたしはロボット」というタイトルだった気がします。しかし、読んだのはもうずいぶん昔の話で、下手をすると小学生時代。第二話「堂々めぐり」の水星でのスピーディのエピソードは覚えていましたが、その他は初めてのように面白く読めました。というより全然おぼえていませんでした。始まっているのかな、認知症…

 本書は短編集で、ロボット心理学者スーザン・キャルヴィン博士へのインタビューがブリッジとなってつながっています。キャルヴィン博士は1982年生まれの75才ということなので、2077年の話ということになりますね。その未来の時代から、様々なロボットのエピソードが綴られていきます。本書は1940年から50年にかけて執筆されていますが、本書内では1982年という年は「USロボット&機械人間株式会社」(略称USロボット社)が創業された年として知られており、1996年には子守ロボットが登場していることになっているので、ロボット工学的には現実よりずっと進んでいるようです。

 原題の「アイ、ロボット(I、Robot)」で映画も制作されています。こちらは原典はこの「われはロボット」なのですが、オリジナルの脚本が使用されていて、そのシナリオを監督が本作のエピソードの一つのように映画化しようと練り直して作成されたそうです。ですから、映画のようなエピソードは本作にはありません。

映画のアイ、ロボット

 有名なロボット三原則は、冒頭に掲げられています。

第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。(A robot may not harm a human being, or, through inaction, allow a human being to come to harm.)

第二条:ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。(A robot must obey the orders given to it by the human beings, except where such orders would conflict with the First Law.)

第三条:ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。(A robot must protect its own existence, as long as such protection does not conflict the First or Second Law.)

 これは「ロボット工学ハンドブック」(第56版、2058年)に掲載されているというもので、実は本書の初期のエピソードではこの三原則をまだ考案していなかったようです。アシモフが第一話「ロビイ」と第三話「われ思う、ゆえに……」を書き上げたとき、本人は三原則をまったく意識してはいなかったそうですが、SF作家にしてSF雑誌編集者のジョン・W・キャンベル Jr.(映画「遊星からの物体X」の原作となった「影が行く」で有名ですね)が読んだところ、キャンベルはロボットが一定の規範の下に行動していることを洞察・指摘し、三ヵ条にまとめたということです。これを基にキャンベルとアシモフの議論して考案したのがこのロボット三原則だそうです。

 この三原則のおかげで人間より優れたロボットは人間に絶対服従するということになっていますが、実際は本書が描くように、ロボットたちはしばしば異様な行動を取り、キャルヴィン博士やUSロボット社の新型ロボット実地テスト担当員のドノヴァン&パウエルのコンビが振り回されることになります。一見三原則に反する様な行為を行うロボットが登場し、その謎をキャルヴィン博士やドノヴァン&パウエル達が解明していくというミステリー仕立ての作品が多く、これが後に、SFミステリーの傑作として名高いロボットものの長編「鋼鉄都市」に繋がっています。そういえば、鋼鉄都市もずいぶん昔に読んだのでもう大半忘れちゃいました。いずれ機会があれば読み直したいものです。

 エピソードの中には、自分が人間よりも優れているが故に、人間の被造物であることを信じないロボット(第三話「われ思う、ゆえに…」)や、人間の心を読むロボット(第五話「うそつき」)などが登場するほか、終盤の第八話「証拠」と第九話「災厄のとき」では人間と区別が付かず、世界の統監となったロボットも登場します。ロボットが支配する世界なんていると、「ターミネーター」の描く未来世界みたいにディストピアの典型と思われがちですが、本書ではむしろ人間が支配するよりずっと良い世界として描かれています。そもそも世界の運営は既に高性能コンピューターである「マシン」が立案・指示しており、これに従うのは最も合理的だと認識されているので、世界大統領(本書では世界統監と呼ばれてますが)が人間だろうがロボットだろうがどちらでもいいような気がします。

 その一方で、ロボットの普及に反対する人々もおり、根本主義者と呼ばれています。彼らは「人間同盟」という組織を結成して様々な手段でロボット排除を画策しています。第六話「迷子のロボット」では、特殊な用途のために第一条を改編してしまったロボットが登場し、地球に運ぶロボットの中に紛れてしまって見つからないという事件が描かれています。もしそんなロボットが地球にあることが見つかったら根本主義者の格好の餌食になるけれど、全てのロボットを廃棄することは大損害すぎてとても出来ないということで、キャルヴィン博士があの手この手を考えます。しかし、その時代にはロボットが高性能になりすぎていてなかなか見つけ出すことができません。第一条には人間の危機を看過することで危害を及ぼしてはならない旨記されているので、ロボットは人間を救うためには自身の破壊を顧みずに行動しなければなりませんが、それでも人間が救えない状況であれば、「壊れ損」になるのでそもそも人間を救うためのアクションを取らなかったり。

 三原則は、第一条>第二条>第三条の順に強くなっていますが、第三条が強調される(お前は高価なんだとか壊れては大変だなど)一方、第二条が比較的弱い(命令が厳重ではないなど)場合、第二条と第三条が釣り合ってロボットが堂々めぐりをしてしますこともあります(第二話「堂々めぐり」)。この三原則がロボットにどのように解釈されているのかを探ることで謎が解明されるというエピソードが多いので、アシモフのロボットシリーズはSFミステリーと呼ばれています。アシモフはロボット三原則の設定当初から、これが完全なものだとは考えていないで、本格的にロボットが人間世界に登場するためには、もっとしっかりした原則を構築してロボットに実装しなければならないでしょう。

 そもそも三原則はロボットが従うにはあまりに抽象的なきらいがあります。有限の情報処理能力しかないロボットには、現実に起こりうる問題全てに対処することはできません。「フレーム問題」といいますが、ロボットは、どんな行動が人間に危害を加える可能性があるかを判断するために周囲の状況とその帰結をすべて予測しなくてはならいないところ、そのためには人工知能の搭載すべき知識ベースと思考の範囲が際限なく大きくなってしまいます。もし無限の情報処理能力があるとすればもはや「神」の如き存在ということになります。

 例えば、あるロボットが火災に巻き込まれた人間を発見した場合、「自分は引火性の燃料を使用している」「火災現場は高温」「高温下では引火性燃料は爆発することがある」「付近で爆発が起きると人間は負傷することがある」という知識をもとに、自分は直接助けに行かず応援を呼ぶ、という判断を下す必要があります。また複数の人間が巻き込まれている場合、誰を優先的に救助するのかという難問も待っています。

イヴの時間

 「イヴの時間」に登場するサミィのような人間そっくりなロボット(アンドロイドとかガイノイドと呼ぶべきでしょうか)が現実に出現するのは当面先(というより私が生きているうちにはお目にかかれないと思います)のことでしょうから、あまり心配することはないかも知れません。むしろ無人攻撃機とか今は人間が操縦しているけど、そのうち完全自動で「敵」である人間を殺傷するようになるかも知れません。こうした兵器はロボット三原則、特に第一条を完全に無視した存在といえるでしょう。

 なお、1985年に発表された「ロボットと帝国」では、三原則の第一条に優先される第零法則が登場します。これは「ロボットは人類に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人類に危害を及ぼしてはならない」というもので、第一条の「人間」を「人類」に置き換えたものです。これにより第一条は「第零法則に反する場合はこの限りではない」という内容が補則されています。ある人物が人類全体に危害を及ぼすような陰謀を計画しており、それを止めるには彼を殺傷せざるを得ないという場合、ロボットは第一条に反して危害を加えることが可能になります。

旧版の「われはロボット」
 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

われはロボット、懐かしいです。(って、内容ほとんど覚えていません(笑))
ロボット三原則といえば、イブの時間。。。と思ったら紹介されていました。
流石です。(続きが気になるんですが、いつになることやら。。。)
ロボット三原則は、色々なSFのテーマにされていますね。
われはロボット、私も読み返そうかな。。。?

Re: No title

 こんばんは、いらっしゃい。おかき届きました?

 名作SFは、「われはロボット」に限らず、ずいぶん昔に呼んでいるので、再読したら感動を新たにしそうです。本作も面白かったですよ。初めて読むみたいに(笑)。

 「イヴの時間」は新作出して欲しいですね。第6話「イヴの絆」のテックスは、本作第1話のロビィを彷彿とさせます。
プロフィール

ユースフ

Author:ユースフ
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
カテゴリ
リンク
ブロとも一覧

秒速5センチメートル・・・桜花抄の軌跡を追ってみた

心理兵器:秒速5センチメートル
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
FC2カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
日記
40位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
会社員・OL
6位
アクセスランキングを見る>>
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

最新トラックバック
検索フォーム
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ