暴走する正義 巨匠たちの想像力[管理社会]:SF短編アンソロジーの第三弾

冬の北方領土

 ロシアのプーチン大統領が来日しましたが、前評判とは裏腹にかなりショボい結果だと思ったのは私だけでしょうか。11月中旬までは北方領土返還、最低でも歯舞・色丹の2島返還という話が盛り上がっていましたが、日本の対ロシア経済協力計画に関する露側の統括役を務めていたウリュカエフ経済発展相が収賄容疑で逮捕されてからは完全に風向きが変わってしまいました。ロシア人は個人で付き合うといい人だけど組織となると…という話を聞きますが、一筋縄ではいかない相手ですね。というか、国際社会では一筋縄でいく相手の方が少数派なのかも知れませんね。

暴走する正義 
 
 本日は筑摩書房のSF短編アンソロジーの第三弾「暴走する正義 巨匠たちの想像力[管理社会]」を紹介しましょう。2016年2月9日刊行で、単行本なのに1000円を超えるというある意味桁違いの文庫です。戦時体制、文明崩壊ときて管理社会をテーマにしています。

電波の押し売り 

 筒井康隆「公共伏魔殿」(1967年)。空耳で「犬あっち行け」と聞こえる某公共放送を痛烈に茶化した、いかにも筒井テイストのドタバタ劇。作品発表から50年近く経過していますが本質が変わっていないように見えるのが恐ろしいです。受信料徴収をめぐる対立から物語が進んでいきますが、受信料を徴収する公共放送というのは、イギリスのBBCに倣ったシステムなんでしょうけど、新聞報道では(誰も頼んでないのに勝手に)インターネットにも進出して、そっちからも金を取ろうとしているとか。スクランブルをかけるとか、料金を払った人だけ見られるようにすればいいのに。

 星新一「処刑」(1959年)。裁判や判決が完全自動化され、まさしく鋼鉄の正義が執行されるようになった未来。この時代、人を殺したら火星に流刑になります。かつては植民もなされましたが、今や資源を取り尽くしてゴーストタウンがあるばかり。水気のない星に放り出された受刑者には銀色の球が一つ与えられます。ボタンを押すと水が出るのですが、ある確率で超小型核爆弾が爆発して受刑者を跡形もなく消し飛ばすことになります。いつ爆発するのかは全く不明で、受刑者は常に死の恐怖と渇きの狹間で苦悩することになります。星新一にしてはかなりハードで救いのない作品。

戦争はなかった 

 小松左京「戦争はなかった」(1968年)。日本SF御三家そろい踏みですね。旧制中学の同期会に出席する途中で壁を頭にぶつけてしまった主人公。酔った勢いで軍歌を歌いますが、同級生はみんなきょとん顔。それどころか戦争があったことを誰も知らないと言います。悪酔いによる悪夢かと思いきや、二日酔いの翌日も事態は変わらず、それどころか世の中の誰も戦争があったことを否定します。書店に行っても戦記物は日露戦争までしかありませんが、近世の歴史を見ると「2.26事件」以後がさっぱり要領を得ず理解できないようになっています。フィリップ・K・ディックの超有名人が一夜にして誰も知らない無名の人物になるという「流れよ我が涙、と警官は言った」を彷彿とさせますが、本作の方が先に発表されています。

こどもの国 

 水木しげる「こどもの国」(1965年)。本書唯一の漫画作品。戦国時代、うち捨てられた子供達が人気のない山奥で自分達の国を作りますが…まるでどこかの国の政治を風刺した作品となっています。それなりに順調に食料増産に励んでいたところ、ねずみ男が演じる「フランスのコシマキデザイナー」カルダンという胡散臭い人物がやってきます。私利私欲に走りがちな大統領ニキビとその腰巾着である書記のゴマ、そして正義派の平民三太が、カルダンに翻弄されるがままにクーデターを起こしたり革命を起こしたり、国を半分に分けたり狸の軍勢を引き入れたりと大騒ぎ。多分全部当時の日本政治の風刺なんでしょうけど、トリックスターのカルダンがいいように遊んでいるようにしか見えません。こいつさえ押さえておけばなんとかなりそう。

ヤドカリ一家

 安部公房「闖入者-手記とエピローグ-」(1951年)。アパートに一人暮らしのしがない若きサラリーマンの部屋に突如やってきた総勢9人の大家族。たちまち彼の部屋に居座り、多数決を振りかざして若きリーマンを奴隷状態にします。追い払おうにも腕っ節も大家族の方が上。給料は搾取され、恋人は寝取られ、さんざんな目に遭いますが、大家も警察も知らん顔。弁護士に相談しますが、なんとこの弁護士も13人家族に寄生されて青息吐息でした。

 不気味な侵略者

 藤子不二雄Ⓐのホラーマンガ「魔太郎が来る!!」に「不気味な侵略者」という回があって、酔っ払った魔太郎のパパが連れてきた見ず知らずのおっさんが、ずうずうしく居座るばかりか家族を呼び寄せるという話ですが、まさにこの作品とそっくりです。魔太郎は魔族なので、「うらみ念法 まねきネコ」でおっさんをおびき寄せ、「うらみ念法 肩がわり」で金持ちそうな酔っ払いに押しつけるという手で回避しましたが、全然制裁になってねえ(笑)。金持ちそうなおっさんも別に悪いことをしている訳でもないのに。

恐怖のヤドカリ一家
 

 それはさておき、しがない若いリーマンには魔太郎のような力がある訳もなく…こちらは悲劇的な結末を迎えます。

カンタン刑 

 式貴士「カンタン刑」(1977年)。これは懐かしい!式貴士、昔はずいぶんと読んだものです。昔のSFというのは不意にエッチな場面がでてきて驚きつつ喜んだりしたものですが、式貴士の作品の官能描写はことのとか濃厚でした。

蘭光生の作品 

 それもそのはず、蘭光生という別の名義で官能小説を書いていたのです。ジャンルによって様々な筆名を使い分けていて、式貴士でSF、間 羊太郎で推理小説評論や子供向きの生活雑学やクイズ本、蘭光生で官能小説、小早川博で雑学、ウラヌス星風で占星術と、多くの分野で活躍していました。蘭光生は団鬼六、千草忠夫と共に「官能御三家」と評されていたそうで、そりゃあ描写が濃厚になるのもむべなるかな。

 ただし「カンタン刑」には官能描写は一切無く、凶悪な連続殺人鬼に下された死刑よりもおそろしい「カンタン刑」の様子が描写されます。内容は…非常に気持ち悪いので詳しく書きませんが、「肝胆を寒からしめる」から「カンタン刑」と説明されますが、実は「邯鄲の夢」に由来していて、客観的にはたった一時間程度の刑罰なのに、当人には極めて長い間苦しみ、すっかり容貌も変わってしまいます。ラスト1分で発狂させるので何があったのか語ることも出来ないという徹底ぶり。でもこれ、凶悪犯に導入したらいいのにと思ってしまうのは私だけ?

半村良 

 半村良「錯覚屋繁盛記」(1974年)。全く冴えない青年がなぜか持った特殊能力。それは妄想のままに相手を錯覚させるという一種の超能力でした。友人とコンビを組んで「錯覚屋」を始め、錯覚を利用して釣り銭を多く貰ったり、銀行からお金を貰ってきたりしているうちに、JCIAの目を付けるところとなり、日本政府のため(というかJCIAのため)に働き始めるのですが、腐敗した政府の打倒の片棒まで担がされていきます。世のため人のために働く錯覚屋。しかし、最後の最後に、大きな錯覚に気づくのですが、時既に遅し…。こちらも「闖入者-手記とエピローグ-」同様バッドエンドですが、さほど悲劇的ではないのは途中でそれなりにリア充人生を送っているからでしょうか。

諸君革命だ 

 山野浩一「革命狂詩曲」(1973年)。大国の狹間に生まれた無国家の地「フリーランド」。ただしそのままではすぐに併呑されてしまうので、近隣国家の侵略に対抗しつつ、周辺を“解放”するためのゲリラ戦が続いています。主人公の女性はフリーランド提唱者の娘で、欧州でフリーランドのために戦うために育てられ、大人になってフリーランドの隣国に向かいます。そこで軍の有力者と結婚し、様々な情報をフリーランドに向けて流していましたが、どうしても一目フリーランドを見たくて向かった先にあったものは…。結局のところフリーランドは信奉者それぞれの心の投影で、誰かのフリーランドが実現すると、それは他のフリーランドではありえないという。終わり無く革命の連鎖が虚しいです。

合本版宇宙年代記 

 光瀬龍「市(シティ)2220年」(1969年)。「宇宙年代記」の一編で、光瀬龍の作品によく登場する火星の東キャナル市(藤沢周平の海坂藩みたいですな)が舞台となっています。宇宙に進出して火星その他の惑星・衛星を開拓していった人類。しかしその過程で悲惨な事故が相次いで発生し、多くの人が犠牲になりました。かろうじて生き残った人はサイボーグとなりましたが、「宇宙功労者」という呼び名とは裏腹に東キャナル市で厄介者的な扱いを受けています。そんな中、地球で第二次統合戦争が勃発します。全アフリカ連合とアジア同盟の対立により、地球からの助成金がなくなって窮地に追い込まれる東キャナル市ほかの植民都市。宇宙を隔ててこちら側でも地球の対立の余波を受けて戦闘が始まります。そんな中、サイボーグ達のリーダー格は、将来のサイボーグ達の権利確保のために、自己犠牲的行動を呼びかけますが…。実は宇宙年代記は西暦1942年から5320年までを扱っているのですが、中でも2180年から2291年までの100年ちょっとの間に8編もの短編が書かれており、この時代の激動ぶりと第二次統合戦争の激しさを感じさせます。

宇宙救助隊2180年 

 ただ、「暴走する正義」というテーマであれば、「シティ0年」の方が良かったのではないかとも思ってしまいます。「宇宙年代記」最初の作品ですが、西暦ではなく、「辺境5320年」よりさらに未来の話に思えるのですが、遥かなる宇宙に旅だった人類の結末がこれか、という無常感に包まれる傑作だと思います。

墓碑銘2007年 
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