たそがれゆく未来 巨匠たちの想像力[文明崩壊]:灰色の近未来を描くアンソロジー

雨の紅葉

 11月の雨。暗くて薄ら寒くて、ただでさえ寂しい晩秋の雰囲気をひときわ強く醸し出しています。もう一日黄昏時みたいな。好きなんですよね、こういう寂しさ。

たそがれゆく未来 

 本日はちくま文庫の「たそがれゆく未来: 巨匠たちの想像力[文明崩壊] 」を紹介しましょう。14人の作家・マンガ家の短編を集めた灰色の近未来を描くアンソロジーです。

ディストピアその2 

 執筆時期は1857年から2012年までと幅広いですが、60年代~70年代のものが多く収録されています。高度経済成長で薔薇色の未来が夢見られる反面、大国の核実験とか公害などにより、SF作家達はむしろ灰色の未来を多く描いていました。今回は文庫版裏表紙にもAmazonにも内容紹介がないので、こちらで簡単に紹介していきます。

高木彬光 

 高木彬光「火の雨ぞ降る」(1953年)。核実験の乱発により、高レベル放射性廃棄物や「死の灰」に多量に含まれるストロンチウム90を大量に含んだ雨が降るようになってしまい、滅亡を待つばかりになった地球。この雨を直接肌に受けると水ぶくれのような火傷を負い、放射線障害でたちまち死んでしまうということから「火の雨」と呼ばれています。ある金持ちが私財を傾け、地下に大規模なシェルターを作り、選ばれた若い男女に未来を託そうとします。絶対の秘密を条件に選ばれた主人公は、恋人を残して行くか否かで煩悶しますが…

連合艦隊ついに勝つ 

 高木彬光はもっぱら推理作家として知られますが、大ブームを巻き起こした五島勉の「ノストラダムスの大予言」への反論書である「ノストラダムス 大予言の秘密」や、架空戦記の走りとも言えるSF小説「連合艦隊ついに勝つ」といった異色の作品も発表しています。

光瀬龍 

 光瀬龍「辺境5320年」(1963年)。連作短編の「宇宙年代記」シリーズの一作で、最も未来を描いた作品です。本書中、唯一読んだことのあった作品。おそらくさらに未来であろう「シティ0年」を除いては全て西暦なので、54世紀ということになります。宇宙に進出した人類は、サイボーグ化などで過酷な環境に適応しようとしますが、結局は太陽系を超えて繁栄することはできなかったようです。

辺境5320年 

 地球を中心とする地球連邦と、太陽系外縁の辺境に作られた人工天体群から成る都市連合が経済的に激しく対立します。連邦内の都市連合の資産凍結という強硬策に出た地球連邦は、戦争を覚悟しますが、都市連合の返事は意外にも…。エネルギーを不要とする形態の変化は、ファイブスター物語13巻に登場した「精神体の無機体(カイゼリン・クオーツ)」にも似ていますが、なにしろ昔の作品なので今となってはややショボイです。むしろよく市民が同意したものだと思います。

樹下太郎 

 樹下太郎「夜に別れを告げる夜」(1961年)。太陽の反対側に人工太陽を打ち上げて夜を消してしまうという話。何のメリットがあるのか、温暖化でえらいことにならないかとツッコミどころはいろいろありますが、話は夜無き世界をどうするかという話と最後の夜がスラップスティックに描かれています。電灯の代わりに、点灯すると暗くなる暗黒灯の登場は必然でしょうが、なぜ夜をなくそうという話になったのかは謎。アシモフの名作「夜来たる」の向こうを張ったのか。ちなみにこの人の作品は全く読んだことがありませんでした。

小松左京 

 小松左京「カマガサキ2013年」(1963年)。もう過ぎてしまいましたが、50年後の近未来を描写した作品です。徹底した合理化によりロボットまでルンペン化する時代。物乞いも自動ドア付きの土管に住んでいたりして。沢山の廃品を利用すれば様々な電化製品を手に入れられますが、肝心のお金や食料が手に入らず飢えに苦しみますが、そんな彼らの前に、なんと500年先の未来からやってきた物乞いが登場します。彼のアイディアで一攫千金に成功するも、パッと使って元の木阿弥になる乞食達。そんなだからそうなったのね……

松本零士 

 松本零士「おいどんの地球」(1972年)。貧乏下宿の四畳半部屋の住人を扱った「大四畳半シリーズ」の一つである「男おいどん」の最終回外伝。

男おいどん 

 遥か未来の話で、大山昇太の子孫である大山降太が登場。でもほぼクローン状態です。下宿館のバーサンもバーサンの子孫だけどやはり瓜二つ。メーテル顔のヒロイン達からは浅野さんが登場。公害でにっちもさっちもいかなくなった地球を捨てて人類は宇宙船で脱出しますが、なぜか取り残される大山降太(笑)。昭和な下宿と未来的な宇宙船の対比がシュールです。

眉村卓 

 眉村卓「自殺卵」(2012年)。つい最近の作品で、そのせいか古くささが全くなくて洗練された作品ですが、SFというより怪談に近いかも。卵型で中に針がついている「自殺卵」は、即座に死ねる自殺アイテムです。いつの間にか置かれ、自殺を促す手紙もやってきます。宇宙の意思なんだそうですが、途中からは死体も消滅するヴァージョン2が登場。どんどん減っていく人口。なのになんとか維持されるインフラ。何者がやっているのかという謎はさておき、年金生活者の主人公や周囲の老人達は淡々と生き続けていきます。適当に人口が減ったのなら、あながち灰色の未来ではないのかも知れなかったりして。

今日泊亜蘭 

 今日泊亜蘭「地球は赤かった」(1973年)。環境破壊が嵩じた地球を何とかしようと、木星や土星の衛星にまで探索の手を伸ばしたところ、土星から来たらしい奇怪な植物が繁茂し始めました。赤く、凄まじく増殖し、酸素を消費して二酸化炭素を排出するという「アカギ」で人類は滅亡寸前となりますが…灰色というより絶望の未来ですが、「アカギ」の天敵が偶然に見つかるあたりは一筋の希望が。

矢野徹 

 矢野徹「耳鳴山由来」(1958年)。未来ではなく昔話ですが、星からやってきたという不思議な人が集落に現れます。科学的知識を持ったその人は、文明の進歩と幸福は別ものだと主張しますが…。神話ってこういうエピソードが元になっているのかねと思わせる作品です。灰色だったのは彼の住んでいた別の星だったようですが、後を追うかのように地球も…

筒井康隆 

 筒井康隆「下の世界」(1963年)。筒井康隆なのにエログロナンセンスが全くない作品。精神労働者と肉体労働者が完全分離し、隔離された世界で、「下の世界」の肉体階級が「上の世界」に行くには、精神階級の娯楽としての競技大会に優勝しなければなりません。最右翼とみられたトオルは、図らずも精神階級の女性と邂逅しますが…。極端な格差が長年続いた結果、禁断の恋愛すら不可能になってしまったという究極の格差社会です。

水木しげる 

 水木しげる「宇宙虫」(1965年)。アメリカの月着陸で月から地球にやってきた宇宙虫。アメリカのお菓子にくっついて主人公の少年の元にもやってきました。川の小さな中州に捨てたところ、勝手に文明を花開かせ、ビルを作ったり艦隊を建造したり、しまいには小さな核実験までやってしまいます。ロケット作って月に帰った宇宙虫。後には廃墟だけが残りました。

河野典生 

 河野典生「機関車、草原に」(1967年)。各国の核装備の果てに核施設で事故が発生し、南極の氷が溶けて東京が水没した近未来。生き残った多くの人々は内陸に移動しましたが、新しい時代に馴染めなかった逃亡者がなおも東京に残っています。破壊命令が出た東京を、彼らは蒸気機関車をレストアして脱出しようとしますが…。ミサイル降る中、疾走するSLという幻想的なラストが印象的です。

安部公房 

 安部公房「鉛の卵」(1957年)。ノーベル文学賞の有力候補とも目された大作家です。幻想的な作品を多数執筆していますが、中でもSF色が強い作品です。コールドスリープで1987年から2087年までの百年間を過ごすはずが、何と80万年後の世界で目覚めることになった主人公。あまりにも奇怪な姿の植物的な未来人におののきます。会話はできるもののどうにもちぐはぐで、一緒にやっていけず、植物人から「どれい族」と呼ばれる人々と接触しようとしますが…。主人公を古代人と呼ぶ植物人が、実は…というどんでん返しがあります。

倉橋由美子 

 倉橋由美子「合成美女」(1961年)。人間そっくりの合成人間(アンドロイド)を持つことがステータスとなった近未来で、最新型の美女メイドを購入した主人公夫婦。妻はメイドを可愛がりますが、生理があるなどあまりにも人間らしいメイドに、徐々に疑惑の目を向けていく妻。最後の惨劇で実は驚くべき展開となっていきます。「イブの時間」を彷彿とさせる物語です。

楳図かずお 

 楳図かずお「Rojin」(1985年)。人間が20歳までしか生きられなくなった世界で、初めて70歳の老人に出会った5歳のまなぶ。例の楳図恐怖漫画と同じタッチなので、まなぶを始め登場人物も周囲の風景もなにもかもが不気味で怖いです。なぜ20歳までしか生きられないのかとか、謎だらけですが、パイロットになりたいのにもうすぐ20歳になって死ぬ父の後を継いで鰻職人にならなければならないまなぶは、鰻をさばくことがどうにも大嫌いだという。「ぼくも……ロウジンと呼ばれたい!!」というまなぶの最後の叫びは心に残りますが、寿命が20歳までしかないなら、他の動物(例えばネコ)みたいにもっと早熟にならんといかんのじゃなかろうか?晴れてパイロットになっても寿命のせいで3か月しか飛べないというのが実にシュールです。まなぶにはタバコよりも違うクスリが必要なんじゃ…

ディストピアその1 

 私のお気に入りは「自殺卵」と「合成美女」。「自殺卵」は最近の作品だからか、他の作品より洗練されいる感があります。完全消滅する自殺卵バージョン2な、もし手元にあったら使ってしまうかも。「合成美女」は古い作品ですが、完成度が高いです。3500万円で最新型の合成美女が買えるそうなので、新築の家とかマンションに近いものかも知れません。「ファイブスター物語」のファティマみたいなものでしょうか。

ディストピアその3 
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