もぐら 讐:もはや「トンデモ本」の領域へ

秋雨と彼岸花

 雨こそ大量に降りましたが、筑波嶺方面では台風16号の被害は大したことありませんでした。天気はカラっとはしませんが、ずいぶん涼しくなりました。暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったものですね。

もぐら 讐 

 本日は矢月秀作の「もぐら 讐」です。当ブログ2014年2月4日の記事(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-636.html)で取り上げた「もぐら」の二作目に当たります。わりと最近借りた本(2年半前だけど)だというのに、それを忘れて「もぐら」と「もぐら 讐」の両方を借りてきて、「もぐら」を三分の二くらい読んでから「あ、読んだことある!」気づいたのはどこのどいつだい?私だよ!!(古い)

もぐら 

 「もぐら」は、警察小説の一形態ではあるんですが、退職刑事影野竜司がケイオスケイオスな新宿歌舞伎町でトラブルシューターを営んでヤクザやらチーマーやらを懲らしめているという話でした。新宿というか日本全土を掌握しようとする凶悪な新組織が登場してきて、単身壊滅させるという大活躍は和製スタローンというかシュワルツェネッガーというか。既に前の記事でも指摘していますが、警察組織についての知識はほんとボロボロながら、アウトローのバイオレンスシーンは迫力満点だったので、刑事くずれのバイオレンスアクションとしては結構面白かったのですが、今回は流石に…。


 「もぐら 讐」は、1998年12月に中央公論社のC★NOVELSから新書版が刊行され、2012年に6月に大幅改稿した上で文庫版が刊行されました。例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 警部補の惨殺事件が発生。警視庁は特別捜査本部を設置し、組対の垣崎、楢山らが捜査に乗り出す。一方刑事局長の瀬田は、殺人罪で服役中の影野竜司に極秘の任務を依頼する。やがて動き出す謎の教団アレース―新宿、そして竜司がいる刑務所を爆破し、警視総監に聖戦が布告される…。超法規的、過激な男たちが暴れ回るシリーズ第二弾。

 前回は裏社会完全制圧を目論む新型ギャング団(凶暴な半グレ?)が登場しましたが、今回は過激なテロを展開するカルト宗教団体が登場します。毎回とんでもない連中が狙ってくる日本はまるで巨大ロボットアニメのようですね。

 徒手空拳ながら無茶苦茶な強さを見せた影野竜司ですが、前巻の活躍の結果、逮捕・起訴され、下関北刑務所に服役しています。前回から既に2年が経過しています。酒もタバコもなく、規則正しい生活を送っているせいか、以前よりも精悍さを増している風情です。懲役15年だそうです。悪人ばかりが相手とはいえ、大量殺人をやったにしては軽い刑罰です。

 しかし、「アレース」という謎の教団の有馬という大男が、腐敗警官や街のチンピラを殺害して自首してきます。確信犯の有馬は、影野のいる下関北刑務所に送られますが、そこには既にアレースの信徒が何人も服役していたのでした。

 警察の捜査では「アレース」には全く手が届かず、有馬の背後に何らかの組織があるという程度にした把握できていませんでした。有馬が影野がいる刑務所に送られたことをもっけの幸いとして、瀬田刑事局長が影野に秘密任務を依頼します。しかし、刑務所長の保身や怠慢などで影野の情報は届かず、大規模に爆発物を使用したテロ事件が相次いで発生してしまいます。影野も独房ごと爆破され、大怪我を負うことになりますが…

 いやいやいや~。前作は警察のおかしさに目をつぶれば、バイオレンスアクションとしてはなかなか読ませる作品だったんですが、今回は影野が服役中のせいでバイオレンスアクションがほとんどありません。有馬の凶行とか、爆弾テロなどが見せ場なのかもしれませんが…刑務所内でプラスティック爆弾を仕込まれたサンドイッチを投げまくるという場面、ビジュアルを想像すると相当にシュールです。いや、シュールすぎます。ギャグ小説ですか?

 そして例によって政府関係組織の描き方が酷い。影野の上司だった瀬田は2年経っても相変わらず警視庁の刑事局長をやっています。だから刑事局長がいるのは警察庁で、警視庁にいるのは刑事部長だっつーのに。でも本文中、一箇所だけ警察庁刑事局長と誤植されている部分があって、警察組織的にはそれで正しいのですが、それなら特別捜査本部の指揮は取れんがな(笑)。それにしても人事異動って言葉を作者は知っているのでしょうか。

 あと司法関係の知識があまりにも不足しています。なんと裁判官が服役する刑務所を指定するということになっています。裁判所は司法機関で、刑務所は行政機関である法務省矯正局の管轄下にあります。懲役何年といった判決は裁判所が行いますが、服役先まで決めるという話は聞いたことがありません。

 そして瀬田刑事局長が下関北刑務所長に頼んで影野に秘密任務を課すという。だから瀬田は警視庁刑事局長(本当は刑事部長)、刑務所長は法務省矯正局だから、勝手にそういう依頼ができる筋合いはないでしょうに。

西部警察 

 あと特別捜査本部が立ち上がるのはいいとして、トップが刑事局長(しつこいけど本当は刑事部長)でいいんでしょうか。政治団体か宗教団体らしいと目星がついた段階で、公安部とか組織犯罪対策部とかが入ってこないと不自然なのではないでしょうか。元警視庁警部だった濱嘉之の作品を読んでいるせいで、どうしてもこういう組織を描く際のおかしさが気になってしまいます。「西部警察」を見ているようなものと思えばいいのかな

 一方、凶悪テロを敢行する宗教団体「アレース」ですが、実は大司教とその妹の2人が首魁で、しかもテロの目的は復讐でした。いや、この二人は実際酷い目に遭っているので復讐したいという気持ちは判らないではないのですが、実際に凶悪事件を引き起こしているのは有馬以下配下の信徒達です。で、彼らがどうしてためらわず凶行をなしているのかと言えば、マインドコントロールされているからなんですが、そのやり方が赤いランプの点滅(笑)。催眠効果とかくらいならともかく、それくらいでISILもびっくりな凶行ができるものでしょうか。

 本来宗教テロリストは、自ら信じるべき大義とか信念を持ってテロを行うのだと思うのですが、大司教達にそういうカリスマ性があるのかと言えば作中ほとんど感じられません。他の多くのカルト教団でもそうだろうという話で、それはそうかも知れませんが、妙な団体・集団は沢山あるかも知れませんが、極端なテロ行為に出たのは、日本ではオ○ム真○教があるばかりです。

 そもそも「アレース」、大量の爆発物や銃器を有するなど、豊富な資金を持っているようなのですが、その資金源が一切不明です。信徒ならほぼただ働きさせることも可能でしょうが、何をするにもゼニは必要なんですが、何で稼いでいるんでしょうかこの団体。

スケバン刑事シリーズ 

 「復讐するは我にあり」な兄妹の気持ちは判らないではないのですが、それにしてはターゲット以外の被害者が多すぎます。というか、ターゲットは10人にも満たないのに、その何十倍もの人々を殺傷しまくっています。そんな復讐があるか。あと不気味な存在感を発揮し続ける有馬ですが、影野と死闘を展開するのかと思いきや、終盤にあっさり死んでしまいます。そこは物足りませんねえ。

ワイルド7 

 この兄妹のメインターゲットは警視総監で、この人が20年前に警視庁捜査一課長だった頃に業績を上げるために無実の人をでっち上げで逮捕しまくっていたその犠牲者が兄妹の父だっという話なんですが、警察は確かに容疑者を逮捕するけど、起訴するのは警察とは全く別の組織である検察庁であり、無茶苦茶な逮捕をしても起訴できなければ釈放するしかなく、「業績」にはならないんじゃ。さらに判決はまた別の組織の裁判所な訳で。本書では捜査一課長時代の警視総監が、裁判官や刑務官を巻き込んでやりたい放題やっているのですが、そういう展開は初めて見ました。警視総監となっている今ならともかくねえ…

特攻野郎Aチーム 

 兄妹の背後には、彼らを使嗾する黒幕がいて、これがまた意外な人物だった訳ですが、読後に思うのは「これじゃ日本の司法・警察・矯正機構はあまりにも無茶苦茶でございますがな」ということです。ここまで腐敗している世界なのだとしたら、外国なら「007」「特攻野郎Aチーム」とか「冒険野郎マクガイバ-」、日本でも「「スケバン刑事」とか「ワイルド7」といった超法規的人物・集団が登場してもおかしくないですね。もういっそ、仮面ライダーとかスーパー戦隊シリーズの出番のような気がします。

冒険野郎マクガイバー 

 ラスト、懲役がまだ13年残っているはずの影野、今回の事件解決の功績によりいきなり仮釈放となって引き続き瀬田を手伝うそうです。だからそういう取り計らいが出来るのは誰だ(笑)。いっそ瀬田が総理大臣ならまだ理解できるんですけどね。全7作だそうですが、私はここまででギブアップです。「トンデモ本」の領域かも。
 
トンデモ本の世界 
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他山の石。

マクガイバー、いいですね!
(個人的にはブッカー少佐とイメージがダブる。)

私も公務員のハシクレなので、この手の作品中の組織解釈の誤りは非常に気になりますね。あるある。

学校を舞台にした作品なんかだと、「私立学校に教育委員会が介入」とかがよくあるミスだったり。
(教育委員会は公立学校だけを管轄。私学は知事部局の持ち分だったり。)
生徒指導の先生が退学・停学を命じていたり。
(・・・校長の権限です・・・)
組織外の人間にはなかなか気付かれないミスもありますな。

吉村昭とか、小説一本書くにも膨大な取材をして裏を取ったと聞きますが・・・お手軽に思いつきだけで筆を進める人も多々、いるのでしょうな。

でも三権分立していない江戸時代だったら、奉行の腹次第で捜査・裁判・刑罰すべてをコントロールできたわけですから、この紹介作品のようなことも可能だったかも。
矢月氏、時代小説書けば良いのに・・・
(まあ、書いたら書いたでまたべつのトンデモが出てくる恐れはありますが・・・)

Re: 他山の石。

 望郷士さんこんにちは、いらっしゃい。いつもありがとうございます。

> マクガイバー、いいですね!
> (個人的にはブッカー少佐とイメージがダブる。)

 昔のアメリカンドラマはなかなかインパクトがありました。他にも「600万ドルの男」とか「バイオニック・ジェミー」なんかもありましたっけ。実にどうでもいい話ですが、アリスソフトの地域制圧シミュレーションゲーム(一言で言えばエロがどうでもよくなるエロゲー)「大番長」には凱場マックというキャラが出てきました。

> 私も公務員のハシクレなので、この手の作品中の組織解釈の誤りは非常に気になりますね。あるある。
>
> 学校を舞台にした作品なんかだと、「私立学校に教育委員会が介入」とかがよくあるミスだったり。
> (教育委員会は公立学校だけを管轄。私学は知事部局の持ち分だったり。)
> 生徒指導の先生が退学・停学を命じていたり。
> (・・・校長の権限です・・・)
> 組織外の人間にはなかなか気付かれないミスもありますな。
>
> 吉村昭とか、小説一本書くにも膨大な取材をして裏を取ったと聞きますが・・・お手軽に思いつきだけで筆を進める人も多々、いるのでしょうな。

 そうなんですよ。経験者じゃないと書けないという話になったら推理小説なんかかけないので、未経験だからダメだと言っているのではなく、それならそれでもっともらしい嘘をつかなければならず、そのためには勉強したり経験者から話を聞いたりといった努力が必要なんだと思います。レポートがWikipedia丸写しじゃダメだなんて話を聞きますが(そりゃあそうです)、Wikipediaすら見ていない感じなんですよね、この作者は。初刊行時はともかく、文庫化の際に大幅加筆したというのにこれじゃあ…

> でも三権分立していない江戸時代だったら、奉行の腹次第で捜査・裁判・刑罰すべてをコントロールできたわけですから、この紹介作品のようなことも可能だったかも。
> 矢月氏、時代小説書けば良いのに・・・
> (まあ、書いたら書いたでまたべつのトンデモが出てくる恐れはありますが・・・)

 それこそWikipediaの「町奉行」のコピペですが、“時代劇ではお白洲のその場で町奉行が死罪や遠島を容疑者に言い渡しているが、実際には町奉行だけの権限で言い渡せるのは中追放までで、重追放(田畑・家屋敷・家財没収の上、武蔵、山城などの十五か国及び東海道筋、木曽路筋への立ち入り禁止)以上の重い刑罰は老中に上申せねばならず(実際には町奉行は奥右筆の吟味方に調書を提出し、奥右筆が公事方御定書や過去の判例を元に判決案を作成する)、老中、さらには将軍の最終決裁を経なければ刑が確定しなかった”そうなので、それほど町奉行無双という訳ではなかったようです。そして激務なので「遊び人の金さん」は絶対無理です。暴れん坊将軍も無理ですけど。
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