月島慕情:自身の体験も踏まえた名手の短編集

おかげさまで4周年

 皆様のおかげをもちまして、当ブログは昨日開設4周年を迎え、5年目に突入しました。昨日言えよという話ですが、うっかり忘れていました。昨年はサブジャンルランキングは一桁代だと喜んでいましたが、今や「1位は日常」になってしまいました。……ふざけて言っていたのに本当になっちまうとは。

 筑波嶺をよろしく

 毎日更新していれば1800本以上の記事があるはずですが、実際には1300本余り。ま、世の中いろいろありますから。初期の頃はイトイ新聞みたいにほぼ毎日更新を心がけていたのですが…心は変わるものだ。今後も何かあったらサボるという路線でゆるーく行きたいと思いますので、生暖かい目で見ていただければと思います。

月島慕情単行本

 本日は浅田次郎の「月島慕情」を紹介しましょう。単行本は2007年3月に文藝春秋社から出版され、文庫版は2009年11月に文春文庫から出版されました。2001年から2007年までに発表した7つの短編で構成されています。例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

月島慕情文庫版 

 恋する男に身請けされることが決まった吉原の女が、真実を知って選んだ道とは…。表題作ほか、ワンマン社長とガード下の靴磨きの老人の生き様を描いた傑作「シューシャインボーイ」など、市井に生きる人々の優しさ、矜持を描いた珠玉の短篇集。著者自身が創作秘話を語った貴重な「自作解説」も収録。 

吉原遊郭 

 浅田次郎については既に語っているので、ちゃっちゃと各短編の紹介に行ってみましょう。まずは表題作「月島慕情」。大正時代の吉原の物語です。明治末の大火で焼けた吉原は、大正時代に石造りで半ば西洋化した奇妙な吉原に生まれ変わったそうですが、関東大震災で再び灰燼と化したそうです。その短い間の物語です。群馬から吉原の女郎屋に売られたミノ。器量の良くない子は製糸工場の女工に売られ、器量の良い子は高値で吉原行きという寒村出身で、最初は美味しいものを食べられ、綺麗は着物を着て絹の布団で寝られると喜んでいましたが…

花魁 

 生駒太夫として女郎や看板女郎となったミノですが、借金は減らないままに30を越えてしまいました。借金が減らないのは、太夫としての格式の維持に大金が必要で、全部自腹で払わなければならないからですが、売れっ子女郎は吉原で勤めている色んな職業の人々の生計も担っていることになりますね。大金払っている客は貢いでいる気になっていても、肝心の女郎には大して入っていないという。

今の月島 

 身請けの話もありましたが、ハプニングなどで流れ、30過ぎたらもうダメだろうと思っていたら、将来有望株の渡世人から身請け話が出ました。ミノも好きだったので、この年になって両想いが成就とは、と狂喜するミノ。相手の男、時次郎は月島に住んでいました。身請けの日を今か今かと待ちわびるミノは、あるひ茶目っ気を出して月島の時次郎の家を訪ねることにしますが…

知らぬが仏

 「知らぬが仏」という諺がありますが、まさにこれ。知らないままなら幸せになれたはずでしたが、誰かを不幸するという犠牲を踏み台に幸せになるのだということを知ってしまったミノ。ミノは浅田作品には良く登場する矜恃を持った女性なので、知ってしまったからにはそのままにはできませんでした。そういうミノの哀しさと美しさが描かれた作品ということになるんでしょうが、個人的には時次郎って男としてどうなの?と思ってしまいます。粋でいなせではありますが、無理して見栄を張っているわけで。ミノが所帯を持っても幸せになれたかどうか。

 「供物」。親の反対を押し切って結婚したらとんだDV夫でした。10年我慢したものの、包丁を振り回す酒乱夫に遂に逃げ出した初江。その後実直な夫と再婚し、娘も息子も生まれて平穏な生活を送って20年。前夫の訃報が届きます。

DV夫 

 ぜひ骨を拾って欲しいという遺族の希望が伝えられ、年末にしぶしぶ向かう初江。20年前に逃げ出してきたルートを逆に辿って前夫の住まいに向かいますが…

 女の記憶は上書き保存、男の記憶は名前を付けて保存なんて言いますが、自己責任とはいえどうしようもない夫のせいで青春を棒に振った初江さんに同情しきりでしたが、終盤意外な事実が。それまで忘れているとはどういうことだオイ。でもまあ恨まれなかっただけましですかね。酒乱夫もその後は心を入れ替えたみたいだし。「子別れ」という落語だと改心した夫と再びよりを戻すのですが、世の中うまくいかないものです。

 北海道の駐屯地

 「雪鰻」。北海道の師団長閣下が士官学校の同期生と飲みに行きます。なぜか深夜に一人で駐屯地に戻ってくる師団長。慌てて当直将校が迎えに行くと、酔った師団長は一人分の鰻丼を持っていて、当直将校にしきりに喰えといいます。師団長は鰻は嫌いなのかと訊くと大好物だという。食べない訳を尋ねたところ…

鰻丼 

 昭和40年代中盤で、自衛隊のエライ人達は旧軍出身、防衛大学出身者はまだ佐官になりはじめたばかりという時代で、師団長が戦時中に体験したエピソードが語られます。自衛隊、というか軍隊は必要悪でしょうが、戦争はないにこしたことはないなあというお話です。

テレサ・テンの愛人 

 「インセクト」。やはり安保闘争華やかなりし頃のお話。せっかく田舎から東京に出てきたというのに大学はロックアウトでバイトばかりしている主人公。アパートの隣には美人母娘が越してきましたが、愛人が通ってくるたびに一人外に出される女の子に同情して面倒を見てしまいます。

大学紛争 

 美人のママンとねんごろになって…という風には行かないのが浅田作品。女の子(小一ですが)の成長を待つという光源氏作戦もありなんでしょうけど。主人公のちょっと青臭い正義感は嫌いじゃないですが、北海道出身の彼が珍し虫だと飼い始めるのがDAIGO風に言えばGKBR。GですとG!!もうね、それだけで私は生理的に無理です。ぜひ火星に行って欲しい。

火星のG 
 「冬の星座」。40歳の美しい独身女医さんの物語。親代わりだった大叔母(祖母の妹)のお通夜に行くことになりました。92歳の大往生でしたが、彼女の死後にあきらかになる彼女の生き様。

冬の星座 

 深夜のお通夜の席に次々とやってくる変わり種の弔問客。色んな人に勇気を与え、慕われていた彼女は、女医さんの人生も照らしていたのでした。無名でもこういう風に生きられたらいいなと思えるお話です。

 「めぐりあい」。遺伝性の病気で失明した女性は、50歳になって雪深い温泉宿で按摩をしています。ある日呼ばれて行った部屋にいた男は…というお話。まだ目が見えていた頃、彼女には将来を誓った恋人がいましたが、代々医者の家の彼の家族に引き裂かれてしまいました。

女性鍼灸師 

 由緒のある家というのも大変ですなあと、全く由緒のない家柄の私はハナホジーで思ったりもする訳ですが、盲目の女性は医者の妻になってはいかんのでしょうかね?とマジで尋ねたくなる話です。まあヒロインが納得しているならいいのでしょうが。

地獄の南方戦線

 「シューシャインボーイ」。経営が怪しくなった銀行でリストラのため同僚の肩たたきをしまくった主人公は、けじめとして自分も辞職します。優良企業のワンマン社長の専属運転手となった彼は、社長が場違いな場所で老人に靴磨きをして貰っているのを目撃します。

終戦直後のおっちゃんと社長 

 戦災で記憶をなくした孤児と靴磨きのおっちゃんの歩んできた戦後の物語。おっちゃんを楽させたいがためにがむしゃらに働き、超ホワイト企業を一代で築いた社長。同居の誘いに決して肯かずにいずこともなく去ってしまうおっちゃん。明らかにされていませんが、彼にもおそらく戦争中に地獄の体験があった模様です。

ドラマ化されたシューシャインボーイ 

 おっちゃんの最後の手紙が泣かせます。なお本作は、2010年3月24日に西田敏行主演で「テレビ東京開局45周年ドラマスペシャル シューシャインボーイ」として放送されました。ソウルドラマアワード2010グランプリ、第65回文化庁芸術祭優秀賞を受賞しています。

競馬馬 

 なお作中に社長の持ち馬でメインレースで勝利した「シューシャインボーイ」という名前の馬が登場しますが、日本で最初に競走馬登録された馬には「カナ9文字以内」の制限があるので実際にこの名前を付けることはできないでしょう。
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