旅する胃袋:食を楽しめればどこでも楽園

言うまいと思えど今日のアツゥイかな

 言うまいと思えど今日の「アツゥイ!!」かな それにしても暑いですね。土曜日が暑かろうが寒かろうが雨が降ろうが雪が降ろうがウォーキングには行くのですが、暑さのダメージはことのほかです。今までは水をがぶ飲みしてから歩きに出て、中間地点あたりの自販機で水かスポーツドリンクを買うのですが、先週辺りはもう往路でバテ気味になったので、初めての試みとして最初からペットボトルを持って出てみました。

いろはす 塩とレモン 

 経口補水液にしようと思ったけどスーパーになかったので、「いろはす 塩レモン」を買ってみたのですが、なかなかよかったですね。最初から給水しながら歩くと、いつもよりバテなかったような気がします。 
 
旅する胃袋 

 本日は篠藤ゆりの「旅する胃袋」です。篠藤ゆりの作品は初めて読みましたので、例によって作者紹介からです。

篠藤ゆり 

 篠藤ゆりは1957年生まれで福岡県出身。国際基督教大学(ICU)卒業後、コピーライターとして広告代理店に勤務しましたが、5年後に退社。その後、世界各地を旅する生活を経て、1991年「ガンジーの空」で海燕新人文学賞を受賞しました。

海燕 

 海燕新人文学賞は、福武書店(現ベネッセコーポレーション)が発刊していた文芸雑誌「海燕」の新人文学賞で、1982年から1996年まで続きました。「海燕」は埋もれている才能の発掘に力をいれていた文芸雑誌でしたが、文芸雑誌全体の不振のなかで部数を減らし、末期には実売部数よりも新人賞の応募者数のほうが多いとさえ揶揄されるほどの不振に陥り、廃刊となりました。

吉本ばななのキッチン 

 海燕新人文学賞の受賞者には、私が知っているところでは、吉本ばなな(「キッチン」で1987年受賞)、小川洋子(「揚羽蝶が壊れるとき」で1988年受賞)、角田光代(「幸福な遊戯」で1990年受賞)らがいます。

単行本版旅する胃袋 

 以後、おもに旅と食のエッセイを雑誌等で執筆しています。「旅する胃袋」は2002年7月に単行本がアートンから刊行され、2012年7月5日に文庫版が幻冬舎文庫から刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

漢口 

 標高4000メートルの寺でバター茶に癒され、香港で禁断の食材を味わい、砂漠で人生最高のトマトエッグスープに出会う――。食に対してずば抜けた好奇心を持つ著者が、強靭 な胃袋を通して世界に触れた11の風味豊かな旅。「美味しいっ」と言う旅人に、土地の人はこんなにもあたたかな顔を見せてくれる。世界の美味が楽しめるレシピ付き。

パキスタン フンザ 

 紀行文学は気軽なのでいろいろ読んできましたが、食事に焦点を当て、さらに美味しい物ばかり食べているのは本作が白眉ではないでしょうか。まずい食事遭遇編なら「洗面器でヤギごはん」(石田ゆうすけ)なんて作品もありますが。

タイのアカ族 

 1979年、まだ大学生時代にタイ経由でインドに旅をしたのを皮切りに、2000年までに中国、パキスタン、タイ、香港、ブラジル、ミャンマー、モロッコを旅し、各地でおいしいものを食べまくっています。

サンパウロ 

 世界各国、どこに行ってもその地の民族の文化や歴史に根ざした料理があるのは当然ですが、旅行者がそれを美味しいと感じるかどうかはまた別問題です。ゲテモノにしか見えないものもありますし、当初は美味しく食べられても、次第に味に飽きたり、香辛料や油に辟易し始めたりするということはよくあることです。

インド レー 

 篠藤ゆりは、冒頭に“人並みはずれて丈夫な胃腸と、どんな過酷な旅にも耐えられる頑強な肉体を私に与えてくれた両親に、感謝の気持ちを込めて”と書いていますが、この人は世界のどこに行っても食あたりに合わず、美味しい美味しいと現地の食べ物を食べまくっています。

アトラス山脈 

 日本人だって、外国人が日本の食べ物を美味しい美味しいと食べているのを見れば悪い気はしないですが、それは外国人だってそう。異郷から来た日本人が日常食べているものを美味しい美味しいと称賛して貪り食い、そればかりかレシピを教わりたいと言ってくれば、よほど偏屈者でもない限り好意的に接してくるというものです。

なじむ 実になじむぞ 

 インドにはまった中谷美紀は、南インドでココナッツオイルにどうしてもなじめず苦労していましたが、篠藤ゆりにはそういう問題は全くなし。イスラム圏なのに酒を入手したり、ヘロインシンジケートの村に長逗留したり、どこへ行っても食や環境になじんでいきます。この適応力…もやは旅人になるために生まれてきたかのようです。

香港夜景 

 タイ料理やインド料理は、今となっては日本でも案外手軽に本格的なものを食べられるようになっていますが、篠藤ゆりが初めて海外旅行に行こうとした頃はまだまだそういう店はあまりありませんでした。でもそんな中にあってもインドやタイで暮らすなら、辛い料理に耐えられないとダメだとトライしまくったという冒頭の話が笑えますが、そういう意識の高さ(褒めてます)が、後年世界のどこに行っても当地の料理を愛し、それゆえに現地人に愛されるという好循環を作り上げることに寄与したのではないかと思います。

ラジャスタン 

 私の場合、篠藤ゆりのように辺境には行ったことは無く、まあまあメジャーな場所ばかり攻めていますが(この人も行っていないであろう超マイナーなエリアに行ったこともあることはありましたが)、まあまあ現地の食べ物には適応できていましたね。でもそれは短期間だったからかなあとも思います。

エーヤワディー川 

 紀行文を読むと旅はいいなあ、また行きたいなあと思ったりもしますが、しかし個人的大航海時代(海外旅行時代)はもう終わったなあという思いもあります。昔はあれほどワクワクした海外旅行が、今や面倒くさいなあという気持ちの方が先行するようになってしまい。国内旅行は面倒がないので、そっちの方が良くなったというのは、やはり年を取ったからなんでしょうかね。元気な人は年を取っても海外に出かけてますが。

砂漠の夜 
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春期限定いちごタルト事件:“小市民”たらんと願う“狐”と“狼”

逃げ水出てくる

 オイオイオイ!これだけアツゥイ!!でまだ梅雨が明けてないの?てゆ~か~暑くなるほ早すぎるんですけど~。なんか口調がギャルというかオネエみたいになってますが、みんな暑さが悪いんじゃ。

RWBY アウト 

 それはそうと、夏季アニメ「RWBY Volume 1-3: The Beginning」は1話切りです。今季は視聴打ち切りがなければいいなあと思っていたんですが、カッとなって打ち切った。今も後悔していない。アメリカ製アニメで吹き替え声優陣は豪華なんですが…。声優はキャラに命を吹き込む存在。そういう認識は今も変わりませんが、アニメである以上絵もまた重要なんだということを再認識しました。見続ければ慣れるのかも知れないですが、アメリカンスタイルな会話もちょっと。

賭ケグルイ イン 

 代わって「賭ケグルイ」を追加。「RWBY」ははやみん枠でしたので、やはりはやみん主演の「賭ケグルイ」を見れば枠は埋まるということで。キャラの顔芸の凄さもさることながら、はやみんの狂気を滲ませた演技が実にいいですね。こういうはやみんを見たかった。ところで「シグルイ」とタイトルが似ているけど、関係あるんでしょうか。「ぬふぅ」「なまくらと申したか」「ごゆるりと」「む~ざんむざん」…なんか当てはまりそうで怖い(笑)。

春期限定いちごタルト事件 

 本日は米澤穂信の「春期限定いちごタルト事件」を紹介します。テレビアニメ「氷菓」を見てたせいか初めてとは思えないのですが、実は米澤穂信の作品は初めて読みました。よって例によって作者紹介から。

米沢穂信 

 米澤穂信は1978年生まれで岐阜県出身。物心ついた頃から漠然と作家を志望していたそうで、中学生のころから小説を書き始めました。金沢大学文学部の2年時から、ウェブサイトでネット小説サイト「汎夢殿」(はんむでん)を運営し、作品を発表し始めました。当初は各種エンターテイメント作品を書いていましたが、「六の宮の姫君」などの北村薫のミステリー作品に衝撃を受けたことから、ミステリーへの傾斜していきました

六の宮の姫君 

 大学卒業後、岐阜県高山市で書店員をしながら執筆を続け、2001年に「氷菓」で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞してプロ作家デビューしました。当初は「氷菓」をはじめとする「〈古典部〉シリーズ」や、「春期限定いちごタルト事件」をはじめとする「〈小市民〉シリーズ」といったラノベテイストの青春ミステリと呼ばれるジャンルにおいて、「日常の謎」を扱った作品を主に発表していました。

小説版氷菓 

 その後、2010年発表のファンタジーテイストを取り入れた本格推理小説「折れた竜骨」で日本推理作家協会賞を受賞し、2014年には短篇集「満願」で第27回山本周五郎賞を受賞しました。直木賞候補には2度なっていますが、まだ受賞は果たしていません。

折れた竜骨 

 「〈古典部〉シリーズ」は、2012年に「氷菓」というタイトルで京都アニメーション制作により2クールにわたってアニメ化され、人気を博しました。これによって米澤穂信の名は私などアニメファンにも知れ渡るようになりました。「氷菓」はぜひ続きも見たいんでよろしくお願いします。

満願 

 「春期限定いちごタルト事件」は、2004年12月24日に創元推理文庫から刊行されました。先述のとおり「〈小市民〉シリーズ」の第一弾です。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

アニメ版氷菓 

 小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。 

 高校合格

 そこそこの難関公立校である船戸高校に合格した小鳩常悟朗と小佐内ゆき。中学で知り合った二人はよく一緒にいますが、恋人同士という訳ではなく、共に小市民たらんとして相互互恵関係を結んでいます。

小市民 

 小鳩常悟朗は頭の回転が良くて問題事を推理したがる性格でしたが、中学時代にそのせいで苦い経験をし、もうしゃしゃり出ずに静かに暮らしたいと願うようになりました。小佐内ゆきは、恨みに対して執念深く復讐するという厄介なタイプだったようで、詳細は不明ながらやはり中学時代にそれを封印することを決意して小市民たらんと願うようになりました。そんな二人が小市民生活のために互いを利用し合い、庇い合うつもりでしたが、平凡かつ平和な高校生活を求めながらも日常の中で発生する事件の謎についつい挑んでしまう様子が描かれています。

狐と狼 

 本作は5編の短編(+プロローグとエピローグ)からなる連作短編で、高校合格直後から中間試験終了後まで、すなわち一年生の一学期半ばまでの出来事が綴られています。終始語り手は小鳩常悟朗で、小佐内ゆきの内心についてはブラックボックス状態となっています。

赤いポシェット 

 「羊の着ぐるみ」は女子生徒のポシェットを探す話。探偵はやめたんじゃないのかとツッコミたくなりますが、小鳩の小学校時代の同級生で、高校でまた一緒になった堂島健吾に頼まれたのでした。堂島は小生意気に事件に嘴を挟みまくっていた小鳩を知っており、嫌な奴だと思いながらもその推理力を認めていましたが、高校で再会した小鳩については、腹に一物を抱えて性質が悪くなったと否定的に見ています。小鳩の方は小市民でいたいだけなんですが、全く小市民とはかけ離れていた過去を知られているのは彼にとって困ったことですね。小鳩と小佐内ゆきは一緒に探していた男子生徒の奇妙な行動からあっさり真相を見抜きますが、小市民らしくそれは伏せておきました。

いちごタルト 

 「For your eyes only」は新聞部に入った堂島がもってきた奇妙な話でした。美術部の卒業生が2年前に書いた絵の謎を解くというものですが、絵のタイトルを聞いたらそれがなんなのかあっさり判明してしまいます。ただ、推理した結果が中学時代同様、感謝される形ではなかったことから、やはり小市民で行こうと決意を新たにするという。その傍らで、小佐内ゆきは、あまり偏差値が高くないらしい水上高校のサカガミという不良性とに、春期限定いちごタルトを籠に入れたままの自転車を盗まれてしまいます。

小佐内ゆきの自転車 

 「おいしいココアの作り方」は美術部の謎を解いた例と言うことで堂島の家に招かれた小鳩と小佐内ゆきが美味しいココアをご馳走になる話。それだけでは全然謎ではありませんが、堂島の姉・千里が乾いたままのシンクを見て、三つのカップだけでどうやってココアを作ったのか首を捻っているのを見て、その謎を解くことになります。堂島の作り方は、ココアの粉を少量のホットミルクで溶いてペースト状にしてから新たにホットミルクを注ぐことで粉っぽさを解消するというもので、カップの他にホットミルクの容器が必要なのですが…。謎が解けると非常にしょうもなかった(笑)。そもそも堂島は謎を仕掛けているわけでもなかったし。

バンホーテンココア 

 「はらふくるるわざ」。中間試験中、最後の科目「理科Ⅰ」のテスト中、小佐内ゆきのクラスでは突如栄養ドリンクの瓶が落下して割れるというハプニングがありました。そのせいで回答をど忘れしたとお冠のゆきは、暗に小鳩に謎を推理するよう迫りますが、小鳩は推理しつつも、それは小市民としての生き方に反するとしてわざとすっとぼけます。約束違反になるのではっきり推理を依頼できないゆきはケーキバイキングでウサをはらします。確かに言いたいことを言えないのははらふくるるわざですね。

ケーキバイキング 

 「孤狼の心」は、「For your eyes only」でサカガミに盗まれたゆきの自転車を発見する話ですが、なんとぞんざいに扱われた上に車に轢かれて無残な様に。何にも悪いことをしていないのにと怒り心頭のゆきは、過去の「狼」だった頃の自分に戻って復讐を企図します。なんとか止めようとする小鳩でしたが…。ちっちゃくて人見知りでおどおどした小動物系の女の子…のように見えるゆきでしたが、それは小市民たらんとして作られた仮初めの姿だったんですね。小鳩に言わせれば自分が狐ならゆきは狼なんだとか。おっかないなあゆき。そしてどうして狼をやめようと思ったのか知りたいですね。推理物としては一番本格的で、復讐を果たしつつ謎も解いて社会正義も守るという言うことなしの結果なのですが、結果やはり小市民たらんと改めて誓う小鳩とゆき。

やる気のかけらもない折木奉太郎 

 「氷菓」の主人公で探偵役の折木奉太郎も「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」をモットーとする省エネ主義者で、やる気をみせないキャラでしたが、彼もそうなるにあたっては過去に何かあったんでしょうね。アニメでは描かれていなかったけど。

氷平線:愛しの北海道の“暗黒面”

七夕といえば天の川

 昨日は七夕で、例年梅雨の真っ最中で天気が良くないのですが、今年はわりと良かったような。願うならば、九州の豪雨を半分なりと引き受けたいところなんですが。

氷平線 

 本日は桜木紫乃の「氷平線」を紹介しましょう。桜木紫乃の作品は今回初めて読みましたので、令によって著者紹介からです。

桜木紫乃 

 桜木紫乃は1965年4月19日生まれで北海道釧路市出身。現在は札幌市に隣接する江別市に在住です。中学生の頃に文学に目覚め、高校卒業後に裁判所でタイピストをしていましたが24歳で結婚退職し、専業主婦になりました。2児出産後に小説を書き始め、2002年に本書収録の「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞しました。

ラブレス 

 水平線ならぬ「氷平線」は2007年の短編集で、単行本デビュー作でもあります。2013年に「ラブレス」で第19回島清恋愛文学賞、そして「ホテルローヤル」で第149回直木三十五賞を受賞しました。ちなみにホテルローヤルは父の開業したラブホテルの名前だそうです。

ホテルローヤル 

 ゴールデンボンバーだそうで、直木賞受賞の記者会見ではメンバーの鬼龍院翔が愛用しているタミヤロゴ入りTシャツを着用したそうで、後にラジオ「鬼龍院翔のオールナイトニッポン」で鬼龍院翔と初対面も果たしたそうです。

鬼龍院翔と桜木紫乃 

 作品のほとんどが北海道、特に釧路市近辺を舞台としているということで、直木賞受賞を機に2013年9月25日、釧路市観光大使に任命されています。「新官能派」のキャッチコピーでデビューした、性愛文学の代表的な作家ですが、描写は過激ではなく、人間の本能的な行為としての悲哀に満ちた描き方をしています。

単行本氷平線 

 「氷平線」は2007年11月に文藝春秋から刊行され、2012年4月10日に文春文庫から文庫版が刊行されました。「雪虫が」が2002年の作品なのに単行本が5年も後になって刊行されているのは、文庫版解説によると寡作だった訳ではなく、書いても書いても雑誌に掲載されないという不遇の時代があったからだそうです。本書では冒頭の「雪虫」と「海に帰る」以外は描き下ろしとなっています。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

氷平線の彼方 

 真っ白に海が凍るオホーツク沿岸の町で、静かに再会した男と女の凄冽な愛を描いた表題作、酪農の地を継ぐ者たちの悲しみと希望を牧草匂う交歓の裏に映し出した、オール讀物新人賞受賞作「雪虫」ほか、珠玉の全六編を収録。北の大地に生きる人々の哀歓を圧倒的な迫力で描き出した、著者渾身のデビュー作品集。

札幌大通公園周辺 

 北海道といえば私も2年ほど暮らしまして、すっかり北海道ラブで、札幌ロスに今も尚苦しんでいるところなんですが、桜木紫乃の描いた北海道は、私が見てきたライトサイドとは全く異なるダークサイドです。まあ札幌の集合住宅に短期間住んだリーマン風情には判らない深層を、北海道が秘めているのは当然でしょう。

十勝平野 

 「雪虫」。日高山脈の東の十勝平野の牧場から札幌に出てきて不動産会社を始めた達郎は、高校のクラスメイトだった四季子と深い仲になっていましたが、弟の死により実家を継ぐために四季子が十勝に戻って結婚し、その二年後、達郎もバブルが弾けた影響で破産し、すごすごと実家に戻ったのでした。婿を迎えて人妻となり子供を産んだ四季子ですが、戻ってきた達郎とはまた関係が再会され、要するに不倫関係を続けていましたが、いつまでも結婚しない達郎に業を煮やしたパパンは、女衒と契約してフィリピンからじゃぱゆきさんを迎えます。

根室明治公園のサイロ 

 まるで中学生のようなマリーはろくに日本語も話せず、コミュニケーション不全のままの達郎は再び四季子との不倫関係を再開しますが…。そもそも勝手に嫁取りを進めるなとはねつければいいようなものですが、尾羽打ち枯らしてすごすごと実家に戻った達郎にでかい態度が取れるはずも無く。しかし平成の世になっても女衒とかいるんですね。300万円で買われたマリーが可哀想ですが、まあなんとか関係が深まりそうな希望が生まれたところで終了します。それにしても入り婿とはいえ、四季子の夫がよく黙っているなあと思います。そのうち包丁持ってやって来そう。エッチ描写もありますが、牧草の匂うに満ちていて、不倫なのに官能的というより健康的です。

釧路の霧 

 「霧繭」。釧路の和裁師真紀は、38歳にして師匠である千代野の後継者となります。病に倒れた千代野は、最後の弟子であるやよいを真紀に託します。自分がそうして貰ったように、やよいを一人前にしなければと思う真紀ですが、感情表現が下手同士でぎくしゃくしがちな日々。真紀は釧路の呉服屋「かのこ屋」専属となりましたが、実はかのこ屋の顧客部長山本と関係を持っています。しかし山本はかのこ屋の女将ともつきあっていた過去があり、なおも切れていない様子。仕事と恋と、どっちを選ぶのか?

和裁士 

 仕事をする女性は素敵だなあと思います。特に一流の腕を持っていて充分に自活できる人であればなおさら。あなたに男なんていりませんよと言ってしまっては失礼になるでしょうか。でも和裁にひたむきな真紀は本書で一番素敵に見えます。

牧草を刈る 

 「夏の稜線」。東京から十勝平野の牧場農業実習にやってきた京子は、そのまま牧場に嫁ぎましたが、楽しく過ごしたのは最初の一年だけ。あとは姑のタキやそのいいなりの夫に悩まされる日々を送っています。テンプレな嫁姑問題ではありますが、東京から来た京子は近隣の集落の人々ともうまく打ち解けられていません。いつも「東京者は…」という目で見られ、プライバシーもなにもない生活です。

牧場はのどかだが 

 最初の子が女児だったこともあり、男を産め産めという農家特有の攻撃を受け続ける京子。しかしある日ふと気付きます。東京には実家があることを。本作では京子だけが生粋の北海道人ではない主人公ですが、娘と逃げるのも無理はないかなあと思います。別に北海道の姑がタキみたいなのばかりではないのでしょうけど、一見広大で清々しさすら感じる牧場生活も、一皮剥けばいろいろあるんですねえ。イメージだけで憧れるとえらい目に遭うかも。

釧路市 

 「海に帰る」。師匠の後を継いで釧路で理髪店を始めた圭介。出だしは「霧繭」の真紀みたいですが、圭介はまだ25歳。趣味はコーヒーを入れることと商売物の剃刀や鋏を研ぐことという、極めてエコノミーな若者です。独立開業後、初めての客は水商売の絹子でした。圭介の腕と若さに惹かれたか、頻繁にやってくる絹子と圭介はすぐにわりない仲になりますが…

理容師 

 圭介は若いだけに7歳も年上の絹子の身体に溺れていき、絹子が来ない夜は悶々とするようになっていきますが、絹子も「夜の女」としての生活があり、さらにはどうやら夫がいるようでもあります。美しい年上の女性に翻弄されるというのはある意味男の一つの夢ではありますが…一言だけ言わせて貰えばなぜ避妊しないのだ圭介(笑)。なおラブホテルを開業する前、桜木紫乃の実家は理容室だったそうです。だから理容室の描写はお手の物なのか。

女性歯科医 

 「水の棺」。釧路の歯科医院に勤める良子は35歳。30歳の時に院長の西出にスカウトされ、あれよあれよという間に抱かれて愛人のような関係に。同僚というか部下の形の衛生士達は良子のことをすっかり院長の情婦だと思っています。5年経っても結婚という動きもないまま、閉塞状態の良子は、オホーツクの町で歯医者を募集していることを知り、これまでの関係を清算しようとこれに応募して独立していきます。

冬の摩周湖 

 西出医院は保健のきかない高額治療をしきりに勧める歯医者でしたが、オホーツクでは可能な限り保険診療に努める良子。その良心的な姿勢のせいで人気も上々、患者も良く来て魚介類を差し入れられたりします。そんなある日、連絡もなくやって来た西出は、不健康に痩せていましたが、関係を再燃させることもなく去って行きました。直後、西出が脳梗塞で倒れたという知らせが。高額診療が攻撃され、悪評から火の車になった西出医院は廃業を余儀なくされますが、良子は西出を伴ってオホーツクに向かいます。歯科医院経営にギラギラしていた西出ですが、元愛人にして部下だった女性に養われることをよしとするんでしょうかね?

岩見沢駅 

 「氷平線」。海は通常水平線が見えるわけですが、冬のオホーツク海は流氷が押し寄せるので、水平成ではなく氷平線が見えるのです。貧しい上に人望がない飲んだくれの漁師の息子だった誠一郎は、独学で東大に合格し、卒業後は財務省勤務に。無論キャリア官僚でしょう。数年後、岩見沢の税務署長となった誠一郎は、故郷に錦を飾るわけですが、彼には高校生時代、関係を持った友江という年上を女性がいました。友江は中学生時代に祖父に引き取られてやって来ましたが、そのまま客を取らされるようになり、ずっと売春をやっていると噂をされていました。

さいはての凍土 

 その噂は真実でしたが、再び友江と関係を持った誠一郎は、友江を伴って岩見沢に帰ります。友江と結婚しようと考える誠一郎ですが、愚かな父親は息子が税務署長なのを悪用して脱税指南するとか行って詐欺行為を行っていることが判明。このままでは誠一郎の将来が危ういというところで、姿を消す友江。そして故郷では実家が焼失して遺体が二つ出たという知らせが。うーん、せっかく努力をして出世したのだからここまで悲しい話にしなくてもという気になるのですが…どうも北海道はハッピーエンドよりバッドエンドが似合ってしまうような。一番救いのない話になっています。

釧路ロイヤルイン 

 なお直木賞受賞作「ホテルローヤル」で思い出しましたが、私は釧路に行くたびに泊まっていたのは駅前の「釧路ロイヤルイン」。もちろんラブホテルではなくビジネスホテルですが、とにかく朝食が豪華でした。ついついお腹いっぱいになるまで食べてしまうのでした。

釧路ロイヤルインの朝食 

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう:女性版「大江戸神仙伝」

福岡で豪雨

 7月に入ったばかりだというのにもう台風の洗礼。空梅雨気味だったところに一気に雨が降りましたが、何事もほどほどというのがいいんですけどね。今日になっても豪雨の福岡や大分では大雨特別警報が出ています。はげしかれとはいのらぬもの。

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう

 本日は山本巧次の「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」を紹介しましょう。山本巧次の作品は初めて読みましたので、例によって作者紹介から。

 第13回このミス大賞

 山本巧次は1960年生まれで和歌山県出身。中央大学法学部出身で、鉄道会社に勤務。2014年、宝島社の第13回「このミステリーがすごい!」大賞に応募した「八丁堀ミストレス」が最終候補作に残り、大賞は逃したものの、編集部が「賞をとれなくても作品にしたい」という原稿に与える「隠し玉」という宝島社賞(編集部推薦賞)に選ばれました。

チーム・バチスタの栄光 

 「このミステリーがすごい!」大賞は、2002年に宝島社、NEC、メモリーテックの3社が創設したノベルス・コンテストで、大賞に1200万円が、優秀賞に200万円が贈呈されるという金額ではかなり高額な新人文学賞です。「エンターテイメントを第一義の目的とした広義のミステリー」を大賞としており、私が読んだ作品としては海棠尊「チーム・バチスタの栄光」(第4回大賞)、七尾与史「死亡フラグが立ちました」(第8回隠し玉)があります。また「組織犯罪対策課 八神瑛子」シリーズを読んだ深町秋生も「果てしなき渇き」で第3回大賞を受賞しています。なお第13回の大賞は降田天の「女王はかえらない」でした。

死亡フラグが立ちました! 

 「八丁堀ミストレス」は加筆修正後、2015年8月20日に「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」と改題して宝島社文庫より刊行されました。選考委員からは面白さを前選考委員から評価されながらも、話の展開がシリーズ化にふさわしいから、隠し玉として売れ線を狙った方がよいと判断され、“全会一致で隠し玉に決定された”たということですが…別にシリーズ化にふさわしくったって大賞貰ってもいいんじゃないですかね?

女王はかえらない 

 ただしシリーズ化にふさわしいという選考委員の評価は間違いではなく、既に「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」シリーズは「両国橋の御落胤」「千両富くじ根津の夢」と既に3作が刊行されています。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

薬種問屋 

 江戸の両国橋近くに住むおゆうは、老舗の薬種問屋から殺された息子の汚名をそそいでほしいと依頼を受け、同心の伝三郎とともに調査に乗り出す…が彼女の正体はアラサー元OL・関口優佳。家の扉をくぐって江戸と現代で二重生活を送っていたのだ―。優佳は現代科学を駆使し謎を解いていくが、いかにして江戸の人間に真実を伝えるのか…。ふたつの時代を行き来しながら事件の真相に迫る! 

化政文化その1

 ミステリー好きで、そのせか友人達からは女子力が低いと評されてきた関口優佳は、祖母の死に際して秘密を打ち明けられます。何と馬喰町にある祖母の家は、およそ200年前の江戸に繋がっているというのです。祖母はちょくちょく江戸に出かけていたそうです。ぱっとしないOLにも倦んでいた優佳は祖母の家を相続し、OL生活に別れを告げて東京と江戸の二重生活に入ります。

 化政期の文化人

 江戸ではちょうど文政年間。1818~30年というところです。その前の文化年間(1804~18)と合わせて文化文政時代と呼ばれます。江戸を中心に町人文化が発展(化政文化)し、一般に現代に知られる江戸期の町人文化の全盛期にあたります。

大江戸神仙伝 

 私が好きな石川英輔の「大江戸神仙伝」シリーズも、文政5年にタイムスリップする男の話でした。この時代が選ばれるというのも、寛政の改革(1787年)と天保の改革(1841年)の狹間にあって町人文化の最盛期であり、現代に通じる江戸時代のイメージがこの頃に確立したからだろうと思われます。ペリーの来航(1853年)以降は幕末となって騒がしくなりますが、ロシアのレザノフが来たりフェートン号事件が起きたり、無二念打払令が出されたりしているものの、化政期は全般的に平和な時代だったと思われます。第11代将軍家斉が隠居後も大御所として実権を握り、幕府自体は構造疲労が本格化していますが、まだまだ権威は充分でした。

定廻り同心 

 江戸の方から見ると、ちょっと前まで年配の女性が住んでいた気がする仕舞屋に若い女が住みだしたけど、顔が似ているから娘なんだろうという認識で、謎の女には違いないのですが特に悪さをするでも騒ぐでもないので放任されているという。このあたり、「大江戸神仙伝」の受け売りによると江戸は人別帳(宗門人別帳)がかなりしっかりしているはずなので、身請け人がいないと色々厳しいんじゃないかという気もしますが…。

銭形平次は岡っ引き 

 で江戸で「おゆう」になった優佳、元来ミステリー好きなもので八丁堀の定廻り同心・鵜飼伝三郎の捜査に首を突っ込み、なんやかやと役に立ったことで知遇を得ています。今回は鵜飼伝三郎の方から紹介されたということで、薬種問屋藤屋が殺された息子・久之助の汚名をそそいで欲しいと依頼してきました。

南町奉行所跡 

 ちょうどその頃、江戸では薬効がほとんどない偽薬が安く出回っており、南町奉行所の見立てでは久之助が家の薬を横流ししていたのではないかということになっていました。鵜飼伝三郎はこの見立てに反対でしたが、何しろ上司の見立てなのであからさまに反対できず、おゆうに調べさせようという魂胆でした。

ピル 

 いいように使われておかんむりのおゆうですが、実は男前で妻を亡くしている伝三郎には惹かれていて、いつ男女の関係になってもいいと思っていたりしています。避妊のため予めピルも飲んでいる用意周到さ。ということで伝三郎を助け、同時にポイントも稼ごうと捜査に加わります。

両国橋 

 で、このおゆう、完全に江戸暮らしをしている訳ではなく、折々東京にも戻って優佳になっています。東京には高校時代の同級生で理系の分析オタク宇田川がいて、優佳は江戸時代から持ち帰った様々な証拠物件を宇田川に分析・鑑定させて(しかも只で)、その結果を聞いています。現代科学で事件の詳細をつかんでいく訳ですが、それをそのまま江戸の人間に伝えても理解して貰えません。ではどうやって伝三郎達同心や岡っ引き達に捜査の方向性を示唆していくかが、おゆうの腕の見せ所ということにもなります。

スタンガン 

 宇田川をこき使う(ただし宇田川も面白い素材を持ち込んでくる優佳を心待ちにしている模様)一方、おゆうも現代の物品をこっそり持ち込んで捜査に役立てています。スタンガン、双眼鏡、盗聴器、ルミノール試薬…もちろん見つからないように注意を払わなければなりませんし、「床下に潜り込んだ」とか「ちょっとした手妻(手品)だ」とやや苦しい言い訳もするので、くのいちばりに身体を張った捜査をしているのかと伝三郎を不安にさせたりもしています。

ルミノール試薬 

 当初は久之助殺害犯の究明でしたが、容疑者と思われるならず者達が一気に毒殺されたり、事件は二転三転していきます。その結果、事件の全貌は某藩や幕閣中枢にも及びそうな気配が出てきます。事件の解決を目指す傍ら、伝三郎の誘惑にも余念が無いおゆう。江戸では周囲から22、3歳とみられていますが、実際はアラサー。しかも結構性欲が強いらしく、張り込みしながら自慰をしかける始末(おいおい)。なので伝三郎を押し倒しかねない勢いなのですが、いつもいいところで邪魔が入ったり伝三郎が気を変えてしまいます。

懐中電灯 

 実は伝三郎にも秘密があって、なんとこの人も時間遡行者で、実は終戦時に見習い士官だったのが、なぜか江戸時代にタイムスリップしていたという。「大江戸神仙伝」でも現代と江戸時代を意識的に往復することができる転時能力者が他にもいましたっけ。でもおゆうの場合は祖母の自宅がタイムトンネル状態なので、誰でもそこを通れば江戸と東京を自由に行き来出来てしまいます。留守中に誰から迷い込んだりしないものか。

盗聴器 

 「大江戸神仙伝」シリーズを書いた石川英輔は、リアルな江戸社会の描写のために江戸時代を研究し、それが嵩じて江戸時代の生活事情を研究したノンフィクションも刊行するまでになり、堂々たる江戸文化研究者になっていますが、本作の作者の時代考証とかはかなりいい加減です。ま、ラノベと思えば許せますけど。

日本橋 

 いいように便利使いしていたはずの宇田川には江戸時代に行っていることがばれ、伝三郎には自分のように未来から来た女なのではないかと疑惑を持たれているおゆうですが、自分が何かをすることで歴史を変えてしまうのではないかと恐れていたところ、宇田川にお前が江戸に行って色々した結果が現代に繋がっているのではないかと言われ、俄然やる気になってきています。というところでシリーズ化するんですね。江戸の伝三郎、東京の宇田川とそれぞれの時代でラブロマンスを展開ということでもいいんじゃないかと思いますが…それじゃあますます「大江戸神仙伝」だ。

深川万年橋 

 ところでおゆう=優佳、仕事を辞めてどうやって生活しているんでしょうか。祖母の家を継承しても金目のものはなかったろうに。今回謝礼として80両からゲットしたので江戸での暮らしは心配ないですが、東京にも持っていって換金するんでしょうかね。

小判ざくざく 

万能鑑定士Qの事件簿Ⅱ:「力士シール」に隠された驚愕の真相とは

七月ですなあ

 7月に入ってしまいました。2017年という年が既に半分消え去ってしまったという現実に驚くばかりです。なんという時の流れの速さよ。

万能鑑定士Qの事件簿Ⅱ 

 本日は水曜日の記事の続編、松岡圭祐の「万能鑑定士Qの事件簿Ⅱ」を紹介します。一つの物語の前後編ということになり、日本の襲った真贋鑑定不能な偽札によるハイパーインフレ事件が解決します。

 前編「万能鑑定士Qの事件簿Ⅰ」はヒロイン凜田莉子が「万能鑑定士Q」の看板を掲げるまでと、週刊角川の編集者小笠原悠斗が持ち込んだ「力士シール」の鑑定、そしてひょんなことから嗅ぎ付けた犯罪計画の未然阻止と、それが日本をジンバブエ化してしまうハイパーインフレを引き起こしたということころまで描かれていました。

ハイパーインフレ発生 

 本書では持ち前のロジカルシンキングを発揮した偽札の製造元が沖縄にあると睨んだ莉子が、有り金を叩いて沖縄行きの飛行機に乗り、家族の協力も得て真相究明に乗り出します。片や東京で独自に探索に動いていた小笠原悠斗はストーカー容疑で拘束(笑)。一方、莉子の知人で早稲田大学理工学部准教授の氷室拓真は、当選しているはずなのに銀行で門前払いされた宝くじの鑑定を莉子から受けようとしていた女性と出会います。これが真相究明の決め手になるとは誰も気付かなかったでしょう。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 『週刊角川』記者・小笠原は途方に暮れていた。わずか2日で、コンビニの弁当は数千円から数万円に、JRのひと区間は九千円以上になり、いくら金があっても足りないのだ。従来のあらゆる鑑定をクリアした偽札が現れ、ハイパーインフレに陥ってしまった日本。だが、まだ万能鑑定士・凜田莉子の鑑定がある! パーフェクトな偽札の謎を暴き、未曾有の危機から国家を救うことができるのか!? 書き下ろし「Qシリーズ」第2弾!

知の宝庫莉子 

 突如として出現した精巧な偽札により、金融市場で完全に信用を失った日本は一気にハイパーインフレに陥ります。当初は莉子が不法侵入を未然に防いだせいかとも思われましたが、結果的には全く関係ありませんでした。

竹富島 

 莉子の鑑定や氷室の科学的分析を以てしても真贋の見分けがつかない偽札。その鍵は沖縄にあると睨んだ莉子は苦労の末実家のある波照間島に戻りました。地元の知人が竹富島に怪しい男がいるという情報をもたらし、莉子は駐在さんと共に向かいます。 

八重山諸島地図 

 竹富島は石垣島のすぐ傍ですが、波照間島からはやや遠いですね。通常ならどうということはない距離ですが、なにしろハイパーインフレにより漁船のガソリン代も馬鹿にならなくなっています。伝手を求めてなんとかガソリンを入手して向かった先には怪しい男と印刷機が。おっかなびっくりで腰が引けながらも勇気を振り絞って向かって行く莉子が可愛いです。「さすが美由紀様です!」と言いたくなる「千里眼シリーズ」の万能ヒーロー岬美由紀よりも、私は凜田莉子のファンです。正直岬美由紀にはYOU、西村寿行流ハードロマンの餌食になっちまえYO!とか思ってしまうのですが、莉子には無事でいて欲しいし、なにか手伝ってあげたいという気になります。
西表島 

 結局は全くの空振りでしたが、今度は西表島に不審な兄弟がいたという話を聞きつけ、西表島に向かう莉子。こっちで調べた謝花兄弟は、なんと力士シールの制作者らしいことが判明しますが、やはり偽札作りとは関係ないようです。ロジカルシンキングを駆使しながら外しまくる莉子がドジ可愛くていいですね。

アンニュイ莉子ちゃん 

 何の収穫もなく東京に戻った莉子は、小笠原の釈放(この人も空振りしまくっていた)に一役買って事務所に戻ったところで氷室に出会います。そして当選しているのに銀行が受け付けてくれない宝くじの話を聞き、一挙に真相に辿り着くことになります。

 「力士シール」は偽札と無関係ではなく、「力士シール」で実証したことを偽札で実行したという流れになっています。それでは何者が何のために犯行を行ったのかということですが、真実は莉子にとって非常に苦いものとなりました。

山ほど力士シール 

 莉子や氷室を以てしても真贋の区別がつかなかったのも当然。実は偽札は偽札ではなかったのでした。もちろん偽札に見えるようなトリックはありましたが、そこに気付いて集中的に調べないと判明しないものでした。そしてハイパーインフレは実際のところ、枯れ尾花に驚いて自ら尻餅をついたようなものだったのでした。真相が判って急速に収束することでしょう。

 犯人にも犯人なりに動機というか理由はあったのですが、それが引き起こした混乱を考えるととても正当化はできないでしょうね。「Qシリーズ」は「人が死なないミステリ」を標榜しているし、実際莉子が死体に遭遇することもないのですが、この混乱ではヒャッハーになった暴徒によって殺傷事件とかも起きてそうですし、ハイパーインフレによって診療を受けたり薬を買ったりすることが出来なかった人も多数いたと思われます。見えていないところでどれだけの人が迷惑を被ったか…

ジンバブエの位置 

 なおハイパーインフレというえばジンバブエという印象があり、本書でもジンバブエ化という表現が使われています。ジンバブエでのハイパーインフレは2000年に発生。ムガベ大統領が内戦状態になったコンゴに派兵したことで経済や医療、教育などが悪化したのに対し、大統領が批判を避ける目的で白人農場を強制収用したことで、白人地主が持っていた農業技術が失われ、第二次大戦後で世界最悪となるジンバブエ・ドルのハイパーインフレが発生しました。

ジンバブエの恐怖 

 1980年に導入されたジンバブエ・ドルは、当初はアメリカ・ドルより価値が高いものでしたが、ムガベ政権の経済政策の失政から急速に通貨価値が無くなりました。新ドルを発行したりデノミを実行したりしましたがハイパーインフレは収束せず、2008年にはなんと5000億%という破天荒なハイパーインフレが発生しました。牛乳500mlで600億ジンバブエ・ドルとかパン1斤に3000億ジンバブエ・ドルなどということになり、これに対応して超高額紙幣が次々に刷られ、最終的には100兆ドルまで登場しました。

ジンバブエの100兆ドル札 

 ジンバブエ政府は2009年にジンバブエ・ドルを実質的に放棄し、2015年に公式に廃止しました。現在国内では、米ドルや南アフリカの通貨ランドなどを含めた多通貨システムを採用し、超インフレは改善しているそうですが…

5億ディナール 

 かつて私が住んでいたユーゴスラビア社会主義連邦共和国も、構成国が次々と分離独立して国連から経済制裁を受けた1990~1994年頃にハイパーインフレーションが発生しました。私が住んでいた頃はまだ落ち着いていましたが、午前と午後で桁が違ったとかいう昔話は良く聞きました。そのため国民は自国通貨を信用せず、外貨(米ドルとか独マルク)を好む姿勢は長く続いていました。私も家賃は米ドル、メイド(といっても限りなくお婆さんに近いおばさん)への報酬は独マルクで払っていました。

水商売の意味もわからず 

 現在は最強通貨と言われる円ですが、自国通貨が信用できなるなんて日が来なけりゃいいですね…。それはともかく、凜田莉子はいいですね。利他的なキャラは松岡圭祐に多いですが、美人だから黙ってると神秘的ではあっても、実際は心が純粋で天真爛漫で。沖縄時代のお馬鹿キャラは、まるで「アルジャーノンに花束」の手術前のチャーリィみたい(いやそこまでではないけど)ですが、莉子の場合は自分に適した勉強法を見いだしたことと、あとは努力の賜物なので元に戻ることはありません。

上京を誓う莉子 

万能鑑定士Qの事件簿Ⅰ:素敵ヒロイン凜田莉子登場

雨を見つめる黒猫

 いかにも梅雨らしい一日でした。鬱陶しいですが、こういう日も一年の間には必要なんでしょう。7月に入る土曜日あたりから暑くなりそうですね。今年の夏は厳しい予感が…

万能鑑定士Qの事件簿Ⅰ

 本日はここのところよく読む松岡圭祐の「万能鑑定士Qの事件簿Ⅰ」を紹介しましょう。松岡圭祐は人気シリーズ物が多いですが、「Qシリーズ」は2010年から始まった比較的新しいシリーズで、「催眠」や「千里眼」でくどいほど言及されていた催眠に関する話は一切登場しません。

 「Qシリーズ」は第一部「万能鑑定士Qの事件簿」(全12巻)、第二部「万能鑑定士Qの推理劇」(全4巻)、短篇集「万能鑑定士Qの短編集」(既刊2巻)が刊行されています。「Qシリーズ」は「千里眼シリーズ」とともに松岡圭祐の双璧シリーズと思われます。

凜田莉子 

 キャッチフレーズは「面白くて知恵がつく 人の死なないミステリ」で、その通りシリーズを通し一件も殺人事件がなく、物語中では自然死も描かれません。私立探偵や刑事でないフリーランスの職業の、若く美人だが天然系の女性が広範な知識を武器に、少々頼りない男性助手と共に「人の死なないミステリ」を解決していきつつ、恋模様も描かれるというライトミステリ・シリーズで、三上延の「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズや西尾維新の「掟上今日子の備忘録」シリーズ等の先駆けとも言われています。

 実は「万能鑑定士Qの事件簿Ⅰ」は、シリーズのプロローグであり、さあこれからが大変だというところで終わっており、事件の結末は次巻「万能鑑定士Qの事件簿Ⅱ」に持ち越されているのですが、これまで読んでいるとブログ記事に間に合わないので、一応一冊は読んだと言うことで強行紹介してしまいます。

貼られている力士シール

 「万能鑑定士Qの事件簿Ⅰ」は2010年4月25日に角川文庫書き下ろしで刊行されました。その後の刊行は極めてハイペースで、第一部「万能鑑定士Qの事件簿」全12巻が2011年10月までに連続刊行されています。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

波照間島
 
 東京23区を侵食していく不気味な“力士シール”。誰が、何のために貼ったのか? 謎を追う若き週刊誌記者・小笠原は、猫のように鋭く魅惑的な瞳を持つ美女と出会う。凜田莉子、23歳──瞬時に万物の真価・真贋・真相を見破る「万能鑑定士」だ。信じられないほどの天然キャラで劣等生だった莉子は、いつどこで広範な専門知識と観察眼を身につけたのか。稀代の頭脳派ヒロインが日本を変える!書き下ろしシリーズ第1弾!!

波照間島周辺図
 
 ヒロインは凜田莉子。出身地は波照間島。九州から遥か南西にある沖縄県ですが、沖縄本島からさらに南西にある石垣島を中心とする八重山諸島の一島で、人口は490人。有人島として日本最南端の島であるとともに、民間人が日常的に訪問できる日本最南端の地でもあります。沖縄本島よりも台湾の方がずっと近いという。

波照間島地図 

 上京して5年、23歳にして万能鑑定士という凄まじい肩書きを持ち、警察や大学などにも知己を持つ凜田莉子は、相方となる「週刊角川」編集部の小笠原悠斗と出会いました。緩いウェーブのロングヘア、猫のように大きく円らな瞳を持ち、モデルのように長い手足を持つ掛け値なしの美人である莉子は、悠斗の目の前で他の依頼人による絵画の真贋鑑定を一発で、かつぐうの音もでないほど論理的に行ってその実力を見せつけます。莉子の事をよほどの大学を出た天才的慧眼の持ち主と思う悠斗ですが、ところがぎっちょんちょん。

 JK時代の莉子その2

 石垣島の高校に通っていた莉子さん、もちろん美少女JKではありましたが、体育や音楽・美術を除いてオール1という万年最下位の凄まじい劣等生だったのでした。美貌とは裏腹に天真爛漫で明るく素直で、担任の先生も卒業を含めてその行く末を心から心配しているという状態でしたが、本人はあっけらかんとコネも伝手もないままに上京すると言います。

JK時代の莉子その1 

 実は慢性的な水不足に悩む故郷の波照間島の生活環境をなんとかしたいという高邁な夢を持っており、純粋かつ真摯な莉子の姿勢に打たれた先生は、おそらく莉子の高校卒業に多大な貢献をなしたと思われ、晴れて莉子は18歳にして上京することができました。中野の三畳一間のボロアパートという、「SHIROBAKO」の新人アニメーター安原絵麻以下の住環境に甘んじながら(まさに掃き溜めに鶴)就職活動を行いますが、なにしろ一般常識も知識のないため大難航することになります。

絵麻ちゃんのアパート 
 
 上京後一ヶ月で、家賃すらままならないほど困窮することになった莉子は、不要品を売ろうとリサイクルショップを訪れます。そこの社長瀬戸内陸は、かつて牧師になって孤児院をやろうと思った人物ですが、そのためにまず財をなそうとリサイクルショップを始めたものの、人助けに追われて経営も火の車という人物でした。が、莉子にとってはまさに神様。困窮する莉子の話を聞いて援助してくれたばかりでなく、莉子に合った勉強法を伝授してくれたのでした。

瀬戸内陸 

 実は莉子、非常に感性豊かで音楽や絵画・小説にのめり込むと他の事を全て忘れて感動するタイプでした。そういう人が勉強のために淡々とクールに教科書を読むというのがそもそも間違っていたということで、まずは感性にフィットしやすい歴史や国語から攻略し、以後理数系などでも勉強法を伝授されたことで、「賢く」なることに成功します。というか莉子は本来とても賢い子だったのですが、彼女に相応しい勉強法を教えて貰えていなかったのですね。

凜田莉子と小笠原悠斗 

 あらゆる商品カタログを高速で読み込み、しかも忘れないという特異な才能を発揮しだした莉子はリサイクルショップで働き始め、鑑定士に必要な知識を身に付けていきますが、莉子が20歳になった頃、いよいよリサイクルショップの経営が危うくなり、瀬戸内は独立を勧めます。

 そして飯田橋の神田川沿いにある雑居ビル1階に、「万能鑑定士Q」の店を構える莉子。「万能鑑定士Q」の名称は瀬戸内が付けたもので、「Q」はクイーンを意味するそうですが、そのネーミングセンスは天然の莉子さえドン引くかせ、以後「Q」の意味を聞かれる度にとぼけるようになっています。なお莉子は特別な資格を持っているわけではなく、「鑑定士」はあくまで屋号ですが、絵画、骨董、宝石、ブランドは勿論、漫画や映画など広いジャンルの事柄について即座に鑑定するだけの知識、能力を有しているほか、高度な論理的思考(ロジカル・シンキング)法を駆使します。

 小笠原悠斗

 で、そうした莉子が「万能鑑定士Q」を開業するまでの過去が描かれつつ、現在小笠原悠斗が持ち込んでいる鑑定ネタが入っていきます。悠斗は編集長から最近あちこちに貼られている謎の「力士シール」の謎を追うことを命じられており、その鑑定を莉子に依頼しようとしていたのでした。

カオスチャイルドの力士シール 

 「力士シール」とな!?それは冬季アニメ「CHAOS;CHILD」に登場した不気味なアレか!「CHAOS;CHILD」では猟奇的な事件(ニュージェネレーションの狂気の再来)の現場付近に多数の力士シールが貼られているのが確認されていました。この「力士シール」、私はてっきり「CHAOS;CHILD」のオリジナル設定だと思っていたのですが…なんと実在していたのでした。

傷だらけの力士シール

 「力士シール」は、2008年頃から東京都内の壁や電柱、ガードレールなどの至るところに大量に貼られ始めたという、謎のシールで、力士の顔を二つ繋げたようなデザインをしていることから「力士シール」と呼ばれるようになりました。シールの枚数が数百枚と大量に見つかっていますが、シールの制作者が誰なのか、貼っている目的が何なのかが一切不明なことなどから、インターネット上では様々な憶測が飛び交ったそうです。き、気付かなかった…このリハクの目をもってしても(いやリハクだからだ)。

このリハクの目をもってしても(いやリハクだからだ) 

 サイズやデザインは複数のバリエーションがあり、ネットでは「海外の犯罪グループによる、薬物取引の目印説」「カルト組織による、何らかの暗号・記号説」「カラーギャングによる、縄張り争い説」などの憶測がなされていたそうです。いやあ知らなかったなあ。
 
 作中での「力士シール」は、莉子の鑑定により二種類のバリエーションがあること、描き手が異なることが判明しましたが、知り合いの早稲田大学准教授に依頼した科学的分析によると、前後関係はなく同時に描かれたもので、しかもスタンプを押すように瞬時に描かれたものであることが明らかになります。

ヒャッハーさん達 

 さあそしてどうなると注目される「力士シール」の顛末ですが、実はそれどころではない事態が勃発します。莉子と悠斗が出会って数日後、日本を未曾有のハイパーインフレが襲い、町はヒャッハーな暴徒が暴れている始末。かつての日本の姿はもうどこにもありません。どうやらそれは、莉子が察知して警察に知らせた不法侵入事件を関係があるようなのですが、その概要については明らかにされていません。しかし混乱の中、莉子は故郷である波照間島に帰ろうとしています。単なる郷愁ではなく、彼女なりの思惑があるようなのですが…以下続巻となっています。

マンガ版万能鑑定士Qの事件簿 

 「千里眼シリーズ」の岬美由紀がスーパーウーマン過ぎて「さすおに」的な気分になってちょっと辟易しましたが、凜田莉子はいいですね。スゴイ美女ですけど、感受性が強くて涙もろいし、JK時代の天真爛漫さを持ち続けています。特別タフでもないので、ヒャッハーな環境に置いておいては危ないのですが、何しろシリーズが「人が死なないミステリ」なので、雌奴隷にされたりといった西村寿行的展開はないでしょう。莉子ちゃんには「そのままの君でいて」と思ってしまいます。

空を見上げる古い歌を口ずさむ:ゲスモノ、マレビト、タガイモノ

藤井某のマネ

 将棋で歴代最多タイの28連勝中で時の人となっている藤井聡太四段の顔真似をした物真似タレントのツイッターが炎上して当該ツイートを削除するという騒ぎがありました。確かに顔真似は似ていましたが、バカにしたり貶めようとした印象はなかったので、削除までしなくても…とは思いますが、その一方で、芸人ならツイッターではなくテレビとか舞台で芸の一環として見せればいいのになあとも思います。ともあれ、あまり住みにくい世の中にならないといいのですが。

単行本 空を見上げる古い歌を口ずさむ 

 本日は小路幸也の「空を見上げる古い歌を口ずさむ」を紹介します。小路幸也の作品を読んだのは初めてですので、例によって著者紹介から。

小路幸也 

 小路幸也(しょうじ ゆきや)は1961年4月17日生まれで北海道旭川市出身。学生時代はミュージシャンを夢見ましたが、24歳の時に広告制作会社に就職しました。30歳の誕生日に「職業として」の作家を志し、ゲームシナリオの執筆や専門学校のゲームシナリオ科講師を務めながら小説の執筆を続け、2002年11月、本作で第29回メフィスト賞を受賞し作家デビューしました。

メフィスト誌 

 メフィスト賞は、講談社が発行する文芸雑誌「メフィスト」から生まれた、未発表小説を対象とした公募文学新人賞です。対象となるジャンルは、ミステリー、ファンタジー、SF、伝奇などを含めたエンタテインメント作品で、明確な応募期間は設けられておらず、「メフィスト」誌編集者が直接作品を読んだ上で選考を行うなどの特徴を持っています。

メフィスト賞とは 

 当初から賞金はありませんが、受賞作品はそのまま出版につながるため、印税が賞金代わりとなるほか、受賞に至らなくても編集者の興味を惹いた作品があれば応募者とコンタクトを取り、それが講談社からのデビューに繋がることもあるということで、ほぼ「持ち込み」を制度化したような賞といえるでしょう。

すべてがFになる クビキリサイクル

 基本「面白ければ何でもあり」で、まるで漫画雑誌みたいですが、受賞作家のジャンルは本格的ミステリ、純文学的作品、ライトノベル的作品など多岐にわたっています。受賞作家には、先日読んだ「群衆リドル Yの悲劇'93」の古野まほろ(2007年受賞。受賞作は「天帝のはしたなき果実」)、アニメで見た「すべてがFになる」の森博嗣(1996年受賞)、やはりアニメで見た「〈物語〉シリーズ」や「刀語」の西尾維新(2002年受賞。受賞作は「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」)、「殺人鬼フジコの衝動」など“イヤミス”の女王・真梨幸子(2005年受賞。受賞作は「孤虫症」)などがいます。

孤虫症 天帝のはしたなき果実

 小路幸也は青春小説・家族小説からミステリー・SFまで多彩なエンターテインメント作品を次々と発表しています。代表作はシリーズ化された「東京バンドワゴン」で、2013年10月から12月にかけて「東京バンドワゴン〜下町大家族物語」のタイトルで日本テレビ系でテレビドラマ化されました。

東京バンドワゴン
 
 また「東京公園」は、2011年に映画化され、第64回ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)審査員特別賞を受賞し、第85回キネマ旬報ベスト・テンにて第7位に選ばれました。

東京公演 

 現在は北海道江別市在住で、本、音楽、映画、スポーツをこよなく愛し、スポーツでは特にサッカー好きで、地元のコンサドーレ札幌を応援しているそうです。また、70年代のTVドラマやバラエティー番組に強い郷愁を抱いており、作品にもその影響を見ることができます。

文庫版 空を見上げる古い歌を口ずさむ 

 「空を見上げる古い歌を口ずさむ」は“pulp-town fiction”シリーズの第一作で、2003年4月に講談社から単行本が刊行され、2007年5月に講談社文庫から文庫版が刊行されました。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 みんなの顔が<のっぺらぼう>に見える――。息子がそう言ったとき、僕は20年前に姿を消した兄に連絡を取った。家族みんなで暮らした懐かしいパルプ町。桜咲く<サクラバ>や六角交番、タンカス山など、あの町で起こった不思議な事件の真相を兄が語り始める。懐かしさがこみ上げるメフィスト賞受賞作!

 旭川市中心部

 凌一・美佳夫婦の一人息子彰は、小学5年生になった春のある日、急に人の顔がのっぺらぼうに見えると言い出します。すわ病院かというところで凌一は20年会っていない兄・恭一の言葉を思い出します。恭一は姿を消す直前、「いつか、お前の回りで、誰かが<のっぺらぼう>を見るようになったら呼んで欲しい」と言ったのでした。

 電話するや否やすぐにやってきた恭一は、自分も人がのっぺらぼうに見えるのだと言い、28年前の出来事、すなわち人がのっぺらぼうに見えだした頃の話を語り始めます。本書の大半は、恭一の昔話で出来ているので、事実上の主人公は恭一ですね。

旭川市パルプ町

 恭一と凌一、そしてその家族が住んでいたのはパルプ町と呼ばれる製紙工場を中心とする町でした。実際旭川市にはパルプ町という町があり、日本製紙の工場があります。本書においては大半が製紙工場職員の社宅か系列会社の職員の住舎で構成されており、床屋や銭湯は無料だったとされています。おそらく職員とその家族への福利厚生の一環だったのでしょう。

 恭一は謎の高熱で数日寝込んだ後、人の顔がのっぺらぼうに見えるようになってしまいました。知っている人なら声を聞けば誰だかわかり、写真のような画像がのっぺらぼうの顔に張り付くので識別可能ですが、知らない人はのっぺらぼうのままです。これは一体どうしたことかと思い悩みながら秘密にしていた恭一ですが、旭川市のデパートに行った時、群衆の中にはちらほらとのっぺらぼうではない人もいることを知ります。向こうも恭一のことがわかるようで、そのうちの一人のデパガは、「こちら側にようこそ」と囁きます。

日本製紙の工場 

 そうしてパルプ町では次々と奇怪な事件が発生するようになります。自殺する警官、失踪する友人、心臓麻痺で死ぬ大人達。恭一を見張っているらしいのっぺらぼうの白シャツの男(誰だか判らない)、顔は見えるけど誰だか判らない中学生くらいの少年。やがて恭一は自分が何者なのか、そして顔が見える人達が何者なのかを知ることになり、それが家族の元を去る転機をももたらすことになります。

 恭一と凌一は6歳差で、当時はわずか5歳。恭一の抱えた苦悩を知るには幼すぎ、ほとんどが初めて聞く話でした。内容紹介では“懐かしさがこみ上げる”と言っていますが、個人的にはあんまり。なにしろ旭川だし、年代も私よりだいぶ上なせいかも知れません。

旭橋 

 ちなみに人がのっぺらぼうに見えるようになった恭一が見た、ちゃんと顔がある人の一部は、ゲスモノ、マレビト、タガイモノとされます。ゲスモノは「解す者」、マレビトは「稀人」、タガイモノは「違い者」で、作中のある人物によるプロレスでの例えによると、「解す者」は日本人レスラー(つまり善玉:ベビーフェイス)、「違い者」は外人レスラー(つまり悪役:ヒール)、「稀人」はレフェリーなんだそうです。今ではそういう構図は崩壊していますが、70年代頃までは一部を除き日本人は善玉、外人は悪玉でしたね。無論外国に行けば日本人が悪玉になるんでしょうが。

 恭一は「稀人」で、強力な「違い者」を「解す者」が倒すためには「稀人」の協力が必要なんだそうです。それじゃあレフェリーを抱き込んでいるみたいですが、「違い者」の凶器や反則をしっかりチェックすれば自ずと「解す者」が勝つということでしょうか。

BI砲 

 恭一によればおそらく先祖に「稀人」の血が流れていたのだろうということで、弟の凌一にはその気配がなく安心していたが、その息子の彰に発現したということで、今後は近くに住んで教えられることは教えるということになります。これまで遠ざかっていたことについては、恭一としてはちゃんとした理由があり、本当に正しいかどうかはともかく切ないというか悲しいというか。

 なお、恭一から顔が見えるのは「解す者」と「違い者」ばかりではないようで、それ以外のタイプもいるようです。一時行方不明になっていた(「違い者」に拉致されていた)恭一の友人の「ヤスッパ」も、救出後には顔が見えるようになっており、それまでとは違い何かに変わっていましたが、「解す者」でも「違い者」でもないようです。顔が見える人は、恭一に好意的(例えばデパガ)な人もいれば、敵意や悪意を持つ者もいますが、そういう人には近づかないようにすれば向こうも何もしないのだとか。まあプロレスに例えれば、善玉や悪玉という分類以外に、格闘技色の強いU系とかショー的要素の強いお笑い系や怪奇系、さらにデスマッチ系など様々なレスラーがいますから、デパガの言う「こちら側」にもいろんなタイプがいるんでしょう。

ブッチャーとタイガージェット・シン 

 どちらかというと物事ははっきりさせたい方ですが、よくわからないまま終わってしまう朦朧法も嫌いではありません。なおのっぺらぼうに見えるかどうかはともかく、「顔を見てもその表情の識別が出来ず、誰の顔か解らず、もって個人の識別が出来なくなる症状」を相貌失認といいます。頭部損傷や脳腫瘍・血管障害などの脳障害が後天的に相貌失認を誘発する要因となるそうですが、親しい知人の顔が突然認識できなくなるという、典型的な症状は古代ギリシャ時代から確認されています。実は先天的に相貌失認を発症するケースもあり、その確率は2%程度と推定されるそうです。……結構多いですね。ただ、人間の個体識別は顔の認識だけでなく声や着衣、体格、振る舞いなど様々な情報を総合して行われているので、顔の認識に障害があっても他の機能で代償し、日常生活に支障をきたしていないため、相貌失認を自覚していない人が相当に存在するのだと考えられるそうです。実は私達も…

相貌失認の例 

千里眼 完全版:“女流ジャック・バウアー”岬美由紀八面六臂の大活劇

夏至なんですが

 昨日は全国的に夏至だった訳ですが、関東地方は大雨&強風でミニ台風といった感じでした。一番昼が長い日が曇天というのは宿命のようなものですが、せめて梅雨らしくシトシト降って欲しいものです。そういえば昨日は北陸と東北で梅雨入りが発表されましたが…まだ入ってなかったんかい(笑)。

千里眼 完全版 

 本日は松岡圭祐の「千里眼 完全版」を紹介します。千里眼シリーズは、デビュー作「催眠」から始まる催眠シリーズに続くもので、旧版「千里眼」は1999年6月に小学館から刊行されました。旧版は小学館文庫から全12巻が刊行され、一旦完結しましたが、角川文庫で再発売する際、初期作には内容に大きく手を加えて「完全版」と銘打ち、クラシックシリーズとして一部作品は新作と入れ替えて刷新しました。さらに角川文庫からはクラシックシリーズの続編の新シリーズも刊行されています。

旧版千里眼 

 千里眼シリーズは、元航空自衛官2尉でイーグルドライバー(F15のパイロット)だった経歴を持ち、今は臨床心理士となっている岬美由紀を主人公としたミステリー・エンターテインメントで、今までに累計600万部以上を売り上げる人気シリーズですが、手にしたのはこれが初めてでした。りゅ、流行を追わない漢なもので(汗)。

映画版千里眼 

 「千里眼 完全版」は2008年11月1日に角川文庫から刊行されました。旧版から10年近い歳月が流れているということで、「催眠」同様、アップデートが行われており、旧版で描かれていた「目の動きで心理を読む」という技術は科学的根拠がないとして否定しているほか、世間の“催眠術”なるものへの偏見を様々な形で否定しています。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

東京湾観音 

 房総半島の先にそびえる巨大な観音像を参拝に訪れた少女。突然倒れたその子のポケットから転げ落ちたのは、度重なるテロ行為で日本を震撼させていたあるカルト教団の教典だった…。すべてはここから始まった!元航空自衛隊の戦闘機パイロットにして、現在戦う臨床心理士岬美由紀の活躍を描く、千里眼シリーズの原点が、大幅な改稿で生まれ変わり、クラシックシリーズとして刊行開始!待望の完全版!

ジャック・バウアー 

 「催眠」シリーズに比べ、ミステリー色よりもアクション・エンターテイメント色が強い作品で、ヒロイン岬美由紀が「24」シリーズのジャック・バウアーも仰天の不死身の活躍を見せます。解説者は本作をリアリティーが高いと評していますが、むしろリアリティーを度外視して面白さを優先したように思えるのですが。

F15J.jpg 

 防衛大学校を首席卒業し、航空自衛隊に入隊して女性自衛官として初のF-15Jパイロット、イーグルドライバーとなった岬美由紀は、被災地救援や不審船追尾で命令逸脱があったことで査問にかけられましたが、上層部は優秀かつスターである美由紀の免職を好まず、代わりに上官を失職させて決着を図ろうとしましたが、美由紀はこれに反発して自衛隊を辞め、被災地で出会った「千里眼」の異名を持つ臨床心理士兼脳外科医の友里佐知子に惹かれ、臨床心理士になりました。

GSX-R1100.jpg 

 友里が院長を務める東京晴海医科大付属病院で臨床心理士として勤務を始めた美由紀ですが、折りしも日本では社会不安が増大しています。恒星天球教を名乗る謎のカルト教団が日本全国各地で爆破テロを連発させ、その実態が皆目見当も付かないという状態が続いています。

イージス艦 

 恒星天球教のテロは、在日米軍のイージス艦をジャックして高速対地ミサイルを総理官邸に向けて発射態勢にするまでに至ります。犯人は制圧したものの、目標はパスワードでロックされています。日本政府は「千里眼」である友里に一抹の望みをかけ、犯人からパスワードを読み取ることを依頼します。美由紀は友里と共に横須賀に向かい、心理学的手法を駆使してパスワードを割り出してすんでのところで発射命令をキャンセルしましたが、犯人は米兵から拳銃を奪って自殺してしまいます。

アストンマーティンDB9 

 恒星天球教は失敗も折り込み済みだったらしく、5日の猶予を与えて日本政府に“全面降伏”を要求します。美由紀の示唆もあり、警察はようやく恒星天球教の幹部一人を割り出しますが、潜伏先に踏み込んだ時、信者十数人と共に自爆してしまいます。教祖阿吽拿(アウンナ)以下、勢力も全貌も不明のままの恒星天球教。そして催眠では犯罪や自殺はできないとの美由紀の主張とは裏腹に凶悪犯罪は自決を厭わない信者達。一体どんなからくりがあるのか。

ベレッタM92 

 事件解決の契機は、美由紀がカウンセラーを担当する幼女の行動でした。なぜか早朝東京湾観音に向かう彼女が後催眠にかかっていることに気付いた美由紀は、事件の鍵が東京湾観音にあると睨み、張り込みますが…

C4爆薬 

 物語は美由紀の行動の他、官邸の官房長官、美由紀のかつての上司である航空総隊司令官らの行動を交互に織り交ぜて進んでいきます。美由紀の相棒は、美由紀こそ恒星天球教と関わりがあるのではないかと疑っている警視庁捜査一課の蒲生警部補。最初はいがみ合っていた二人がやがて協力関係になるという展開は、その後恋仲に…と言いたいところですが、スーパーレディ美由紀の相手におっさんは務まらないのでした。

東京湾観音の後ろ側 

 あまりにも意外な恒星天球教教祖阿吽拿の正体もさることながら、終盤のアクションの連続はスゴイですね。東京湾観音に仕掛けられたジャミング装置により、羽田空港に向かう航空機がミサイルと誤認され、パトリオットPAC3による迎撃準備が行われる中、なんとか装置を止めようとする美由紀と、立ちふさがる凶暴な信者のバトル。その後F15での激しい空中戦、そして銃撃によりコクピットが破壊されてパイロットが死亡した航空機に乗り移り、なんとか空港に着陸させる…

早一ヶ月か 

 これが数時間の間に連続して発生しています。イベントと度に負傷する美由紀ですが、なぜか超人敵ミッションをこなしまくっていきます。個人的には「男塾」みたいにそれぞれのイベントの間に一ヶ月位は欲しいところだと思いますが。「早いモノじゃのう…○○からもう一ヶ月か…」的なのがないと、途中でダメージの大きさにノックアウトされていそうです。いくら元自衛隊員でも強すぎる。

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 催眠では犯罪や自殺は起こさせられないにも関わらず、なぜかそれを行っている信者という矛盾。実はそれを解決していたのは、いわゆるロボトミー手術でした。側頭部に穴をあけ、前頭葉を脳のその他の部分から切り離し、催眠のほか薬品も使って完全な操り人形にしていたという。

ロボトミー手術 

 ロボトミーという言葉から人を「ロボット (robot)」 のようにしてしまうという誤解がありますが、ロボトミー(lobotomy)は、肺や脳などで臓器を構成する大きな単位である「葉(lobe)」を一塊に切除することを意味する外科分野の術語です。前頭葉は、現在の行動によって生じる未来における結果の認知や、より良い行動の選択、許容され難い社会的応答の無効化と抑圧、物事の類似点や相違点の判断に関する能力や課題に基づかない長期記憶の保持といった役割も担っているほか、社会的に好ましい規範に適合するように情動を調整する機能を持っているとされ、ロボトミー手術は精神疾患を抱える患者の苦悩を軽減することに成功した場合もありましたが、副作用として感情、意思、人格の鈍化といった深刻な副作用も見られ、手術の危険性もあいまって、現在では精神医学的な療法としてはほぼ姿を消していますが、まさかカルト教団の信者作りに利用するとは。

こめかみからのロボトミー 

 オウム真理教をモデルとしたらしい恒星天球教、そして航空機を使ったテロも9.11以後は現実のものとなってしまいました。そういった意味では恐ろしいカルト教団が凶悪なテロを引き起こすと言う事態は決して夢物語とは言えないのですが、本作では美由紀以外があまりにも無能なのと、美由紀があまりにも超人なのでリアリティを感じるかといえばちょっと…。ラノベだったら丁度良かったんじゃないかと思いますが。

羽田空港

 リアリティに疑問を感じる部分その1:イージス艦に侵入した犯人を捕らえたのはいいとして、腕を前にして手錠を掛け、さらに抜きやすい状態で拳銃を持った兵士がそばをうろうろしている。銃社会のアメリカでは、警察も容疑者拘束の際には後ろ手にしているようですが、軍はしないのか。

パトリオットPAC3 

 その2:単独行動する警視庁捜査一課警部補。そしてそれをとがめる参事官。上司といえば上司だけど、警部補(主任)との間には係長(警部)とか管理官(警視)といった連中がいるはず。なぜに警視正の参事官から直接命令されたり叱られたりしているんだ。

ロボトミーカード 

 その3:ロボトミー手術を受けて教団の操り人形と化しているのに、誰にも疑問を持たれずに日常生活を送っている信者達。さすがに以前とは違うとか周囲に思われないのでしょうか。中にはカウンセラーをやっている信者まで。

DVD 千里眼 キネシクス・アイ 

 旧版の方を原作に、映画「千里眼」が2000年6月10日に公開されていますが、脚本を松岡圭祐が担当したにも関わらず、実際には使用されず、作者としては忸怩たる内容だったようです。その後監督・脚本・編集を松岡圭祐が務めた「千里眼 キネシクス・アイ」が制作されました。元は千里眼シリーズ10周年記念として同名タイトルの小説単行本にDVDを封入して期間限定発売されたものでしたが、2009年9月12日、SBS静岡放送でCGリニューアル版が放送されました。

アウトサイダー 組織犯罪対策課 八神瑛子Ⅲ:「八神瑛子」シリーズ完結編

早見沙織のふり~すたいる♪

 先週の「早見沙織のふり~すたいる♪」を聞いていたら、はやみんが最近ビタミンBを摂っているので喉の粘膜の調子がいいと言っていました。それを聞いて奇遇だなあと思ったのは、私も最近ビタミンBの摂取を始めてたから。私は声優ではないので喉ではなく、口角炎対策でした。

口角炎 

 春先から口角炎ができまして、オロナインを塗って対抗していたんですが、なかなか治りませんでした。そもそもオロナインが効くのかという抜本的問題もありますが、外傷にはオロナインと子供の頃からマインドコントロールされているもんで。プラシーボ効果かも知れませんが一応治ったんですが、最近再発しまして。

ビタミンB群 

 またオロナインで泥沼というのも馬鹿馬鹿しいので、そもそもどうして口角炎になるのかを調べたら(ネットは偉大ですね)、ビタミンB2とB6が欠乏すると口角炎が起きやすくなるという情報が。食事から摂取するのが王道だろうとは思うのですが、普段の食事で足らないというのなら、この際サプリに頼っても良かろうと手に取ったのが。アサヒのDear-NaturaのビタミンB群。ビタミンBには、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンB12、葉酸の八種類があるのでビタミンB群と呼ばれていますが、お互い助け合いながら働くのでビタミンB群は全部一緒に摂るのが望ましいらしいです。おかげで飲み始めたらあっという間に口角炎が治りましたが、30日分あるので全部摂るぞ。

アウトサイダー 

 本日は深町秋生の「アウトサイダー 組織犯罪対策課 八神瑛子Ⅲ」を紹介しましょう。八神瑛子シリーズは、当ブログでは第1弾「アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子」を2013年6月17日(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-404.html)、第2弾「アウトクラッシュ 組織犯罪対策課 八神瑛子Ⅱ」を2016年4月20日(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-1287.html)に紹介しており、4年掛けて堂々完結です。作品の方は2011~2013年の2年間で完結していますが、紹介記事が倍かかってしまっているという謎仕様。

 本作は2013年6月30日に幻冬舎文庫から書き下ろしで刊行されています。刊行後ほぼ4年かかってようやく読めるとは。図書館頼みだとこんなもんでしょうかね。みんなビンボがいけないんじゃ。ぼやきはさており、例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

八神瑛子三部作 

 自殺とされた夫の死の真相に迫る警視庁上野署の八神。警察による証拠改ざんの疑いが増す中、執念で摑んだ手がかりは、新宿署の五條の存在だった。権威と暴力で闇社会を支配する五條に、八神は命を賭した闘いを仕掛ける。硝煙の彼方に追い求めた真実は見えるのか? 美しくも危険すぎる女刑事が疾走する警察小説シリーズ、壮絶なクライマックスへ。

 警視庁上野署組織犯罪対策課に勤務する警部補八神瑛子は、過去に雑誌記者だった夫を亡くし、そのショックで娘を流産しています。その原因が、夫が追っていた暴力団印旛会系高杉組会長芦尾の死と関係があると睨む八神ですが、捜査一課は自殺との判断を変えませんでした。そのため、警察組織にありながら警察組織を恨む八神は、敏腕マル暴刑事という評価の裏で、警官達に低利で金を貸して協力者に仕立て、外部でも情報提供者を多数抱えています。その全ては夫の死亡事件を殺人と断定し、その犯人や黒幕を暴くことにあり、合法非合法を問わず、あらゆる手段を駆使していきます。

深町秋生 

 上司である上野署長の富永は、八神を腐敗警官とみなして危険視し、こちらも八神の部下や元刑事を使って八神の動向を監視しています。第1作では強くて美しい八神のスーパーウーマンぶりが目立ちましたが、2作3作と続くうちに敵も強力になって、やられるシーンが多くなっていきます。今回は特に拉致や死の危険にさらされることに。

 八神瑛子は未亡人ですが、もの凄い美人という設定で、2014年8月9日にフジテレビ系で放映された「アウトバーン マル暴の女刑事・八神瑛子」(第1作が原作)では米倉涼子が演じていました。個人的イメージでは、中谷美紀とか木村佳乃あたりの方が合っている気もするのですが。

テレビドラマ版では米倉涼子が演じていた

 八神の危険を伴う探索行の傍ら、署長の富永と八神の対立という構図もあるのですが、本作では最後の最後に遂に共闘という形になります。富永も警察の腐敗を憎む心が強く、それが故に不良警官として八神を危険視して忌み嫌っていたのですが、八神が追っている敵がどうやら警察内部に存在するということを知って助けることになるのですが、やっぱり八神の美貌あってのことのような気がするのは私だけでしょうか。

 それだけ美貌なら拉致→レイプという危険もありそうなもので、実際ちょっと危険な状況になったりもするのですが、最後まで操(?)は守られました。どんなに強い女でも平然と性奴隷に堕とす西村寿行だったら大変な目に遭っているところで、それはそれで好物なんですが、まあ仮にやっちまうと、西村寿行のエピゴーネンだと言われるでしょうしね。西村版八神瑛子は妄想するだけに留めましょう。「男根様」とか「男様」とか口走っちゃう八神や、ワンパンで倒せるようなチンピラに陵辱されまくる八神…うーむ、ハードロマン。

峠に棲む鬼上下巻 

 内容紹介にあるとおり、実行犯は新宿署の五條。そのバックには元警視庁警備部長で現在は警察共済組合理事の殿山がいました。彼らが高杉組を使って財テク&マネーロンダリングを行っていたのを逆手に取って脅そうとした高杉組長は、五條に返り討ちにされて自殺に見せかけて殺され、事件を追っていた八神の夫もやはり同じく自殺を装って殺されていたのでした。

トカレフ 

 第二作目のメキシコ人の殺し屋“グラニソ”も強力な敵でしたが、五條も強い。身体的能力も極めて高い上に躊躇無く殺人を実行し、防弾ベストなどで防御もバッチリです。五條に言わせれば、理由はどうあれ警察内外に多くの手下を作っている八神は自分と同類なんだそうで、ショットガンを向けながら「組まないか」と持ちかけたりします。道下君なら「ウホッ!いい刑事」とホイホイ付いていってしまったことでしょうが…残念!八神は女だった(笑)。

組まないか 

 一応大団円ということになるのでしょうが、五條は自殺、殿山も自殺してしまい、もっといたはずのグループの全容はできていません。なおも捜査にあたって実はさらにビッグな黒幕がいたという話にもなりそうですが、物語はここで終わっています。いがみ合っていた富永署長と八神が和解できたということで、今後は共闘もスムーズに進みそうですが、実は富永署長、ツンデレなだけで実は最初から八神が好きだったんじゃないかという疑惑も。男女を問わずモテモテでいいなあ八神。仮に警察を追われても中国マフィアの劉英麗がクラブのホステスとして(ゆくゆくはパートナーとして)すぐに雇ってくれるという。

ショットガン 

 破天荒刑事を描くにしても、本作は矢月秀作の「もぐら」シリーズよりはよほどリアリティがありますが、それでも同僚刑事の拳銃を不発に細工するなど、そんなこと簡単にできないだろうというシーンはあります。そもそも「警察官等けん銃使用及び取扱い規範」なんかを見ると、刑事は拳銃なんてそんなにいつも持ち歩いていないようですし、管理は徹底されているので他人の拳銃に細工するなんてとてもとても。公務じゃないから拳銃を持たず、それでやられてしまうという方がリアルなのかも知れません。ま、嘘は嘘でも上手に嘘をついている分こちらの方がいいですな。

ドラマ版アウトバーン 

禁断の魔術:ガリレオシリーズの最終作?

野際陽子逝去

 女優の野際陽子が13日に亡くなっていたことが本日判明しました。数々のドラマに出演してきたベテラン大女優ですが、なんと81歳にもなっていたんですね。個人的にインパクトがあったのは「ガラスの仮面」の月影先生。

原作から抜け出てきたかのよう 

 今から20年前の1997年のことで、ヒロイン北島マヤは安達祐実が演じていましたが、他のキャスティングはともかく、月影先生(月影千草)の半端ない再現率には驚愕したものです。月影先生は何かというとマヤの演技に「おそろしい子……」というのですが、本当におそろしい(素晴らしい)のはあなたでした。ご冥福を心からお祈り致します。
 
禁断の魔術 文庫版 

 では本題ですが、本日は東野圭吾の「禁断の魔術」を紹介します。2015年6月10日に描き下ろしで文春文庫から刊行されました。流行を追わない(追えない)私としては最新刊の部類ですね。

 「禁断の魔術」は、もともと2012年10月15日に文藝春秋から刊行された連作短編「禁断の魔術 ガリレオ8」に収録された最終話「猛射つ(うつ)」を大幅に加筆・改稿したものです。残りの三編(「透視す(みとおす)」「曲球る(まがる)」「念波る(おくる)」は2015年3月10日発売の文春文庫「虚像の道化師」に収録されています。

禁断の魔術 単行本 

 ガリレオシリーズは1996年10月に第一作「燃える」を皮切りに長編3作、短編集5作が刊行された訳ですが、「猛射つ(うつ)」を長編化した本作が4作目の長編にしてシリーズ最終作になる可能性があります。東野圭吾は本書の公式HPで“この物語では、湯川に試練を与えようと思いました。私の頭に浮かんだのは、「もし自分のせいで殺人犯になりそうな人間がいたら、湯川はどんなふうに苦しみ、どうやって責任を取るだろう」というアイデアでした。(中略)クライマックスで湯川がとる行動には、きっと多くの方が驚かれることだろうと思います。”と言っていますが、湯川の行動はまさに最終回的というか、一歩間違えれば本当に最終回にせざるを得ないものでした。

 また“ガリレオのことは当分考えたくありません。”とも言っており、最後かどうかはともかく、当面は書かないような雰囲気です。まあその間、加賀恭一郎シリーズをやってくれれば個人的にはそれはそれで結構なんですけどね。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

禁断の魔術 コシマキ

 高校の物理研究会で湯川の後輩にあたる古芝伸吾は、育ての親だった姉が亡くなって帝都大を中退し町工場で働いていた。ある日、フリーライターが殺された。彼は代議士の大賀を追っており、また大賀の担当の新聞記者が伸吾の姉だったことが判明する。伸吾が失踪し、湯川は伸吾のある“企み”に気づくが…。シリーズ最高傑作

 進学校である統和高校の物理研究会は部員ゼロの危機に陥っていました。最後の部員古芝伸吾は、支援要請を快く引き受けた湯川の指導により、あっと驚くパフォーマンスで新入生から部員を獲得することに成功し、部活消滅の危機を乗り越えます。

公式HPの煽り文 

 一年後、古芝は帝都大学に入学し、湯川に挨拶に来ました。湯川も古芝を飲み込みの良い後輩として目を掛けており、二人の交流はこれからもっと本格化するのか思われましたが…。小芝の両親は既に亡く、新聞記者をしている姉が保護者となっていましたが、なんと小芝の帝都大入学直後に急死してしまったのです。

 小芝は帝都大を中退し、足立区梅島(自慢じゃないですが、西新井に長く住んだ私には土地勘がありますよ)の金属加工の町工場で働き始めます。保護者が誰もいなくなった以上仕方ないじゃないかと思われますが、実は姉の尽力で結構な奨学金を得ており、勉学を続ければ続けられたのです。それでも中退を選んだ意味は…

子宮外妊娠 

 小芝の姉・秋穂の死因は子宮外妊娠による卵管破裂でのショック死。つまり殺人事件とかではなかったのですが、政治記者だった秋穂は担当であった大物代議士大賀仁策と深い仲だったことが判明。その日もホテルで密会していたはずなのですが、秋穂の異変をフロントに知らせるわけでもなく、救急車を呼ぶでもなく放置して逃げ出した模様。小芝の狙いは姉の復讐なのか。

 一方、大賀の地元・光原市では、大賀のお声掛かりで「スーパー・テクノポリス計画」が推進中。環境破壊などになり地元では反対運動が起こっていますが、そんな中、反対派の有力メンバーで大賀仁策のスキャンダルを追っていたフリーライターの長岡が殺害されるという事件が発生します。現場に残されたメモリーの映像は、不思議な爆発シーンでした。

学園都市 

 これは小芝が高校時代にパフォーマンスで行った「レールガン」の実験と同じものなのではないか。また屋形船の窓が突然破壊されて火災が発生したり、倉庫の壁に孔が空いたり、オートバイのガソリンタンクが突然火を吹いたりという怪事件も頻発。小芝は復讐のためレールガンで大賀を狙っているのか?

 今回湯川は最初から警察には非協力的です。ギリギリ嘘は言わないまでも、知っていることを積極的に語ったりはしません。そもそも直木賞受賞作「容疑者Xの献身」以降、湯川は警察に批判的になっており、正義感が強く真相究明に全力を注ぐ内海薫という女性刑事が登場したおかげでなんとか繋ぎ止めている状況でしたが、今回は愛弟子が容疑者ということになっているのでなおさらなのでしょう。

悪代官的悪徳代議士 

 今回「へぇ~」と思ったのは、普通の作家なら“絶対悪”として描いてもおかしくない大賀サイドの状況についても触れている点でしょう。秋穂も深い仲になるにあたってはそれなりの接触があった訳で、まあ男女の関係というものは、肉親、つまり弟であっても計り知れない部分があるということでしょう。が、大賀には弁解する機会も意思もないわけで、小芝が復讐に突っ走っても仕方がないとも言えます。

 そして最後の最後。大賀を射程に捉えたレールガンのコントロールを奪った湯川は、小芝に「もし撃てというのなら私が撃つ」と言い放ちます。遠距離射撃なので当たるかどうかはわかりませんが、当たれば殺人、当たらなくても殺人未遂は免れないところ。そして湯川を守る構えの薫。ここは旧友草薙も拳銃を引き抜いて欲しかった。薫も湯川も射殺するも、湯川のレールガンも大賀を殺害するなんてバッドエンドもありの展開はゾクゾクします。

フレミングの左手の法則 

 ところで復讐というか犯行に使われるレールガンですが、フレミングの左手の法則により、電磁誘導を利用して物体を加速して打ち出す装置です。原理的には古くから知られており、SFやゲームなどに幅広く登場しています。太平洋戦争中には日本でも研究されていたようです。

ウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮 

 大好きな馬鹿ゲー「ウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮」でも登場しました。画像の細長いのがレールガンです。ただ、発射シーンなどが他の超兵器(レーザー、荷電粒子砲、光子魚雷、波動砲などなど)に比べて地味で、威力のほどがよくわからなかったので、私はあまり使いませんでしたが。

ウォーシップガンナー2のレールガン 

 レールガンのメリットとしては次のようなものがあります。
① 初速・射程を調整可能(弾体をどれだけの速度で打ち出すかは掛ける電力次第)
② 長射程(米海軍の艦載レールガンの計画射程は300~500km以上)
③ 超高速の発射速度(理論上は光速まで。実際は現状で秒速8キロ程度。戦車砲で秒速2キロ弱なので4倍以上の速度)

レールガンの原理 

 デメリットとしては以下のようなものが。
① 大電力が必要
② 異常な発熱(加速が桁違いのため。冷却できるまで次弾発射不能)
③ レールが消耗(定期的に要交換。まあ通常の砲身も要交換ですが、頻度はもっと高い)

現実のレールガン 

 米海軍は近い未来に本気でレールガンを艦載仕様で実用化しようとしているとみられ、もし実用化が可能になると、既存のミサイルシステムに比べ大幅に安価に、対空防御や弾道ミサイル、巡航ミサイルからの防衛が可能になると見られます。最新鋭のズムウォルト級ミサイル駆逐艦にレールガンを装備すれば、大規模な空母打撃群が必要なくなったりして。

映画の中のレールガン 

 よーし日本も負けずに…と言いたいところですが、平成27年度概算要求で「艦載電磁加速砲の基礎技術に関する研究」を記載している段階で、米国とは比較にならない段階のような。アニメ世界では「超電磁砲(レールガン)」の通り名を持つ御坂美琴がいるんですけどねえ。この人をクローンで量産すれば…って原作でやってましたね(噛ませ犬でしたが)。

一番役に立ちそうなレールガン 

 あとレールガンを直訳して「列車砲」としないこと。これならドイツが昔使いましたけど、ドーラのようにどんなに大きくても通常の火砲ですから。なお、ロマン砲(絶大な威力や効果が期待されるものの、事前準備が非現実的だったり使用した際のデメリットがあまりにも大きなもの)といわれる根拠の一つとして、第二次大戦後に列車砲を調査した連合軍の「技術的には驚異的だが、戦術的には失敗策だ」「列車砲に注がれた資金、資材、技術者、兵員を爆撃機の開発に回していれば大きな脅威になったが、列車砲に回されたおかげで連合軍には有利に働いた」という評価があります。

列車砲ドーラ 
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